冬休み
王都の魔法学校は冬休みに入った。新しい学期がはじまるまで魔法学校はしばらく眠りにつくのだ。
今期最後の授業が終わり、学校内を軽く見回ったら自由に帰宅していいことになっている。わたしは特に部活にも入ってないので、自分の持ち物を全部片付け終わり帰るところだ。
「レイ、あんたは冬休み何か予定あるの?もし予定なかったら箒の練習みてほしいんだけど……」
うしろからクラスメイトのサラが声をかけてきた。
「あ~、ごめん。この冬休みはずっとお母さんと一緒に旅行なんだよね。しかも北方地方に。久しぶりに休暇とれたとかなんとかで。いつまでかかるかわからないから帰ってきたら連絡するのでいい?」
「マヤさんとこの時期に北方地方?そりゃ大変だわ。うーんそっかー、期末の箒の評価悪かったから教えて欲しかったんだけど……しょうがないか。わかった、楽しんできてね!」
「うん、ありがと」
サラは手を振って去っていった。
わたしも帰途につく。
お母さんから連絡があったのは数日前だった。久しぶりに長く休みが取れるという話は結構前から聞いていた。本来なら家でのんびり親子水入らずで過ごすはずだったのだ。しかし急遽お母さんの昔の友人に頼まれたとかで北方に家庭教師の代わりをやる事になったらしい。急な予定の変更はいつものことだ。だけどそれを別に嫌だと思わないのはお母さんの予定変更は大抵いい方に転ぶのを、わたしは体感的に知ってるからかもしれない。つまり今まで面白かった思い出しかないのだ。
「さて準備準備っと」
めちゃくちゃ寒いから一番暖かい格好で来なさい、とお母さんからの伝言にあった。わたしはいつだったかに作ったまま、一度も袖を通していなかった冬季高高度飛行用のロングジャケットをクローゼットの奥からひっぱり出してきた。室内ですこし羽織ってみたけど、暑くてすぐに脱いだ。
とりあえず明日の朝一で北に向かう輸送船に乗って北の街まで移動する。そこからは公共の移動手段がないので自前の箒で向かうしかない。食料と水を調達した後、箒で野営しながら二日くらい飛べば目的地に到着だ。箒に二つの大きなサイドバッグをサドルの後ろに振り分けて掛け、さらに少し小ぶりなバッグを前側にも掛けた。食料が入ってない現時点でもかなり重く、箒に跨って飛ばない限りは移動させることもできない。なんにもない雪原で凍えるのはごめんだ。とりあえず家にある暖かくなりそうなものは全て持った。冬にキャンプしたことがないのでこれで大丈夫なのかどうかもわからないのだが……。うん、不安しかない。
「片道三日か~」
地図を片手にベッドにひっくり返る。お母さんから伝えられた集合場所はこの国のほぼ北限にあたった。今まで一人で行ったことのあるどの場所より遠い。しかも冬に北限にいくなんて。
お母さん大丈夫かなぁ。迷ったりしてそう。
話を聞いた限りだとお母さんが家庭教師をやる生徒さんはわたしより一歳年下だそうだ。どんな子だろう?仲良くやれるとは思うけど……ちょっと心配。
今から気にしてもしょうがない。そんなことより明日の心配しないと。
旅の前はいつもわくわくそわそわする。でも今回は特に落ち着かない。たぶんわたしにとって大きなものになる。なんかそんな気がするのだ。
「こんにちは~」
誰か来たみたいだ。玄関のドアを開けると何度か会ったことのあるお母さんの同僚の人がいた。
「やあ、久しぶり。君のお母さんに君を北限の地に連れてってくれって頼まれたんだけど……聞いてる?」
それは聞いてない。首を横に振る。
「なんだかそんな気はしてたよ。明日ちょうど人員輸送の定期便があるんだ。君たち、この冬は北の尖塔群の方まで行くんだろ?直接、尖塔群まで送ってあげることはできないんだけど、箒で飛べばすぐのところまでで降ろしてあげることはできるから」
「ありがとうございます!ちょっと遠いし、冬のキャンプ初めてだったから不安だったんです!」
玄関の端っこの方にある積み上げてある荷物を見たら自分でも苦笑いがこぼれた。この荷物じゃもう旅行じゃなくて夜逃げだ。
「えぇ、キャンプしながら行く気だったの?……どおりですごい荷物だ。もっと早く伝えに来ればよかったね。お母さんからは特別に持っていく荷物は防寒具だけでいいと聞いてるよ。冬のキャンプはまた次の機会に経験者とやってもらうことにして、今回は我々が送ってくね」
「はいよろしくお願いします!」
わたしは頭を下げた。
「じゃあ明日ね」
おじさんは眉尻をさげてニコニコしながら去っていった。
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