無職の英雄がゲームを作ったら -SSS級ダンジョン『魔王城』攻略のパーティに入り込んでしまった底辺ヒーラーの話-

あずま悠紀

第1話

ジャンル:異世界ファンタジー

タグ:異世界転生.主人公最強.剣と魔法.戦記.美少女.ライトノベル.ハイファンタジー.バトル

タイトル:無職の英雄がゲームを作ったら -SSS級ダンジョン『魔王城』攻略のパーティに入り込んでしまった底辺ヒーラーの話-

第0章

世界最強の職業、それ即ち──。

第01話

「お前の力はこんなもんじゃない筈だ! その本性を俺にぶつけてこい!」

【名無し】は、この世の理不尽に屈服していた。

いや──、 そう思っていたのは彼だけでは無かった。

彼は自分自身の弱さに失望し。

ただただ呆然と立ち尽くしていたのだ。そんな彼に──。

手を差し伸べてくれる存在がいた事に気が付けなかったのだ。

その存在はこう言った。

『──君も僕と同じか? でも、諦めるなよ?』

【勇者候補】という、選ばれて然るべき者達。彼等との違いをまざまざと思い知らされながら。しかし。

彼の心は折れずに、前を向いて歩み続けていた。そんな彼に転機が訪れる事になる。

『君は僕に似ている』

『君ならばきっと、僕の背中を追い越せるだろう。僕と共に戦って欲しい』

彼は自分と似ていると語る存在と出会い、彼と行動を共にする事で、少しずつ自分の心に光を取り戻していった。そして彼はついに【英雄】の称号を得る事となる。そして──。

『君はもっと自分に自信を持って良いんだ。君が望むのなら──僕は君の為なら何だって出来るから』

【勇者候補】の一人が彼に語り掛ける言葉には確かな熱があった。

それは彼が【勇者候補】である事を恥じていたからであるのか、それとも──。

真実は分からない。

しかし確かに。その声音からは熱い想いが込められていたように思えた。

【英雄】の青年が語った事は本当だったのだろうか? はたまた嘘偽りであったのかもしれない。

真実は闇の中でしかない。それでも、【勇者候補】の言葉に動かされて前を向き続けた結果。彼は再び立ち上がる切っ掛けを手に入れたのだ。そうして【魔王】と戦う資格を手に入れて──、遂に──、


「お、お前ら!? 一体どうやってここに──?」

突如として部屋の中に現れた【勇者候補】達の姿を見た魔王様の第一声がこれだった。

魔王様としては予想外も良いところな状況に違いない。魔王城の守りの要でもある【悪魔神官】の張っていた強力な防御結界を突破する方法など存在しない筈なのだから。それを容易く突破されてしまっていれば驚くのも無理のない話だろう。

だがしかし、そんな疑問に対する回答は簡単なものだったりする。そもそも──だ。

魔王軍のトップとも言える四天王の一人にして『七属性使い』の異名を持つ『炎鬼姫』が率先して侵入経路の探索を行ってくれたおかげで。

侵入する為の穴を見つけ出す事が出来たという理由が存在する。

そしてその穴から入り込む事に成功すれば、後はもう楽勝な訳であって、そんな風に説明を受けてしまえば流石の魔王様にもその答えが理解できるというものだろう。理解できてしまえるからこそ、逆に驚いてしまうという事もあるわけだけどね。

しかし、だからと言ってこの場の状況が全く好転しないという事実もまた揺るがないものである事に違いはない。

寧ろ魔王様の混乱に乗じて攻撃の機会を得られる可能性があるというだけで十分にメリットのある展開ではあるのだろうけれど、問題はそれが成功した場合の話という事で、現状においてはそんなリスクを冒す余裕なんてものはこれっぽっちも無いのは明白だろうな。

それにしても──、

『さあ! 僕と君であの悪の塊を打ち砕いてやる!』

このタイミングでの【英雄】の発言はちょっとだけ反則過ぎるんじゃない? っていう気分にさせられちゃうよね。でもまぁそういうのも含めて彼の魅力の一つなんだと思うんだけど、それはそれとして── 【聖騎士】

勇者を守る最強の存在、その一人にして聖女の幼馴染、そして彼女の兄貴分でもある彼は──

「魔王は僕が守る!」と叫んで、まるでヒーローのように飛び出していってしまう。

いや、別に彼が守らなくても良いんだけどね。どうやら彼は【魔王】の事を完全に敵と認識しているみたいだ。

そんな彼に少し遅れて他の仲間も戦闘に参加する事になったようだが、これはつまりはそうする事で【悪魔神官】への時間稼ぎを行っているという意味合いが強いんじゃないかと思う。実際、彼の行動はそんな意味を含んでいるんだろうし。

そして【悪魔神官】の動きを止めてくれた彼らの働きのお陰で僕はようやく魔法を唱える事ができるという訳である。

そう──僕の詠唱は既に完了しているのだ。今すぐにでもこの場で放つ事ができる状態だ。だから迷わず唱える事にした。

僕の得意な風魔法の中級魔法を。

「『疾風斬撃波』!」

【聖女】の攻撃魔法ほどではないにせよ、僕の魔法にも風の力を利用した刃を飛ばして相手を攻撃する効果がある。

その効果を発動させるには、相手が攻撃を繰り出す直前にこちらから先制攻撃を仕掛ける必要があるのだが。

──ドッスゥウウーーンン!!!! 僕の繰り出した一撃は【魔王】が手にしていた杖に命中したようだった。

その結果──杖が真っ二つに切断されてしまった。いや、それだけじゃないぞ?

何と──【悪魔神官】の姿までも消え失せてしまっていたのだ。

まさか僕の攻撃を受けてしまった事で【魔王】の力まで消滅してしまったのかと思い、一瞬ヒヤリとしたものだが、それは違った。

『き、汚ねぇえなぁ。いきなりぶっ放して来やがってよぉおおお』

突然僕の真横からそんな怒声が上がったのだ。しかも聞き覚えがあるような声音でもあったし。

しかし、どうしてなのか僕自身に心当たりは全くなかった。だからこそ確認したんだが、やはり心当りなんて無かったんだよな。そして僕は改めて視線を移動させてみるとそこには信じられない人物が佇んでいたんだ。何しろ──、

『──俺だよ、【英雄候補】の少年君♪』

そんな風に語り掛けてきたのが。僕がよく知っている人物であり、【勇者候補】の一人にして【聖剣】を持つ英雄。そんな彼が何故か──。

──【勇者候補】の姿に戻ってしまったというか。

【英雄】の姿をしていなかったというのかな。そういえば、つい先程も似たような光景を見かけたばかりだし。

ただその時には既に【魔王】との戦いが開始されていた訳なので、そこまで気が回らなかったんだけど、何とも奇妙な出来事が起こっているように感じられた。しかし。今の僕にとってはそれは些末なことであるように思えるのだ。

だって、目の前に立つ人物──【英雄】は、僕が【英雄】である事を羨ましく思ってしまった相手なのだから。

そんな彼と戦う事になるとは夢想すらしなかっただけに衝撃は大きかったけど、それでも戦う事を拒否するつもりはなかったんだ。

そして【勇者候補】から【英雄候補】に昇格したというか、降格されたというのか微妙な立場ではあるものの。

それでも彼が僕の為に本気で力を貸してくれようとしている気持ちには感謝の念が湧くというものだ。

それに──何よりも彼は僕にとっての憧れの人なんだ。

──だから戦おう! 全力を出して彼に勝利を掴んでみせる。その為ならば僕はどんな犠牲を払ってでも成し遂げて見せるから。僕はそう心に誓うと、即座に魔法を発動させる事にする。そう、これが【英雄】の称号を得て、新たなステージに辿り着いた事で手に入れた僕の魔法だ。僕は右手を掲げると同時にこう言い放った。

『我求めるは光り輝く希望の道なり──』

──すると不思議な事が起こった。僕の掲げた手の上に光り輝く一筋の矢が出現すると、そのまま勢い良く発射されるのである。

この攻撃は──僕の光属性魔法の究極系と言えるだろう。その力は光属性以外の全ての魔法を打ち消しながら敵に襲いかかるという凄まじいもので、更にはこの光る矢に当たったモンスターはその肉体を分解させて消滅してしまうという恐ろしい技だったりするのだけど、今回はそれを魔王様に向けて使う事にしてみたんだ。

勿論──威力はかなり押さえ目でだけれどもね。でも、流石に魔王様にこんな技をぶつけたりしたら即死するんじゃないだろうかと思ったんだけども、意外にもそれは回避されてしまったようだ。

まぁそれもそうかもしれない。何故なら僕の繰り出そうとしている技の弱点を知っている存在がいたからだ。

その人は僕の師匠であり、同時に勇者の仲間でもある【魔導王】と呼ばれる人物なんだけど、実は彼女は光の女神に仕える大神官という立場にある女性だったりするので、そういった事に関しては色々と詳しかったりするんだよね。

それに彼女からは以前に聞いた話によると──光の女神と闇の女神の間で戦争が起こり、その際に用いられた秘術が光属性の攻撃を打ち消す能力だそうだ。そんな話を聞いたからこそ僕は魔王に対して光属性の攻撃を繰り出さなかったわけである。

『な、何ぃいい!? お、おい。こ、これって、あの、噂の勇者が使ったとされる伝説級の攻撃じゃないか。い、いったい何処からこんなのを入手して来やがったんだよ?』

【英雄】は、僕が使用した攻撃の正体を知って慌てふためいていた。そりゃ、確かにそうなのかもしれないが。

──そもそも伝説の勇者が使っていたという【勇者候補】専用攻撃【ホーリーライト】は光属性以外の全ての魔法を撃ち消してしまう攻撃のようで、この【勇者候補】専用攻撃こそが光の神の加護を受けている証ともされているのだ。

だからこの攻撃を防ぐ為には【闇神】の力を顕現させている状態の【魔王】なら、この攻撃だけは防ぐ事が出来ると事前に聞いてはいた。そして僕自身はその情報を全く知らなかった。

つまり、その辺の情報は【聖女】からの又聞きみたいなものだったんだけど、この攻撃を実際に体験してみて、なるほどと納得させられてしまった。しかし、魔王の様子が気になったので振り返ってみると──魔王の姿は消えていなかったのだ。

それは即ち──。

「ど、どうやら、その程度の力じゃ、僕の攻撃を相殺できないようだね。だ、だから君も──もっと強くなってくれないと、そ、そうじゃないと僕は絶対に君なんかには勝てない!」

そんな風に叫ぶのだった。これは【英雄】に対する宣言でもあり、自分自身に言い聞かせるような思いも込められていた。

『な、何だとぉお。お、お前こそまだまだ弱ぇ癖に調子に乗ってんじゃねぇええ!』

【英雄】の叫びが僕の胸に突き刺さる。彼の言う通りなのかもしれないけれど。

──それでも、今は負けない! この勝負は、僕に【英雄】の称号を得る機会を与えてくれた魔王様に恩返しをする為のものなんだ。

だからこそ、何が何でも【英雄】には勝っておきたいと思うのだ。

そして、その願いは叶えられる事になった。僕と魔王様の間に【悪魔神官】が割り込んで来たのだ。

その動きは明らかに僕の邪魔をしてきていますと告げているようなもので。そして、その隙を突いて──【聖剣】が魔王城の中に突入してきたのだ。いや、【聖剣】がと言うべきかな。そうして【聖剣】を手にした【勇者】は【悪魔神官】に斬りかかっていく。そして──

『──【聖なる剣撃】』

彼がそう唱えると、剣先が眩い閃光を放つ。

そう、【悪魔神官】は今まさに彼の攻撃を受けてしまっており、その肉体に深い傷を負ってしまっているのだ。

どうも僕にばかり意識が向いてしまっていたせいか【英雄】は【悪魔神官】の動きを止めていたらしい。

【英雄】としては僕の事を援護したかったんだろうけど、【英雄】一人だけの力で倒せる程、甘い相手じゃないのもまた事実だと思っているし、そんな訳だから僕としても助かったというのが正直な気持ちではある。

ただ問題は【悪魔神官】をどうやって倒すかという話であって。僕はそう考えていたんだが、

「私に任せなさい!」

突如として現れた少女によって【聖剣】を奪われてしまう事になる。

この場に現れて【聖剣】を奪ったのが誰かなんて事は一目瞭然で、僕達は皆揃って同じ顔をしているのだから間違いないだろう。そんな彼女は──魔王軍の幹部であり四天王の一人で『七属性使い』の異名を持つ炎鬼姫だったりする。

──つまり魔王城の結界を抜けた際に侵入者を排除する目的で配置されていた筈の四天王の二人。

それが何故か、こうして仲間になっているという訳である。

ちなみにもう一人が『七属性使い』である氷竜人の少女である事も判明しているのだが。

しかし、それ故に炎鬼姫が【英雄】を庇うような動きを見せた事に驚いているようでもあったのだ。

しかし。【聖剣】が手に入ってしまう事自体は喜ばしい限りだし、それに、このまま【英雄】の相手を炎鬼姫が引き受けてくれるなら有り難い話でもあったんだ。だって、僕が相手する【英雄】が弱くはないとはいえ、僕だってまだ弱い方だから。僕が【英雄】とまともに戦えていたならそれで良いけど、そうでない場合には僕自身が足を引っ張る結果になる可能性も十分に考えられるので。

だからこそ僕にとって炎鬼姫の登場は本当に有難く思えるというか、願ったり叶ったりな展開である。

僕はそう思うと、【聖剣】を手にすると【聖剣】の能力を使用してみた。

『我求めるは──』

すると再び手の上に光が灯る。しかし、今回は先程とは少し違う部分があるようで、その光が矢の形状を成していないというか。何か丸い塊のような形状に見えている。そんな光球を前に、魔王様は慌てるようにして口を開く。

『ま、まさか──それは【光輝玉】か?』

「へっ? はぁあ!?」

僕の口から間抜けな声が漏れ出す。何故ならその正体が光の女神の力を借りている大神官の必殺技──【ホーリーボール】という魔法そのもののようだからね。それも、その効果は──僕に力を貸してくれている女神と同じ名前が付いているのだし。

流石に驚いたというか何というのか。

ただ。【聖女】が言っていた事を思い出せば【ホーリーボール】が光の神々の力を行使する技であるという説明を受けていた事を考えると、光の神から授かっている光の女神の力を使った僕だから【ホーリーライト】という攻撃を使う事が出来たというのも理解できる話なので、そういう意味では何となく感慨深いものを覚えてしまったりする。

僕は【英雄】の一撃を受けた。しかし僕の攻撃は【英雄】に通用せず。

逆に【英雄】の攻撃は僕の体に届き──致命傷を与えた。

そう──。『僕の攻撃は、効かなかったのに、ね』

そう言葉を漏らすと同時に【英雄】が僕に向かって攻撃を放ち、僕はそれを受け止める形になったんだけど。

そこでふとした疑問が生じて。その答えはすぐに解ったんだけど。

『な、何でだ。何でオレの【光矢の嵐(ホーリーレイン)】がこんなに簡単に止められちまうんだよ!? お前の防御能力はどうなっているんだよ!? おいおいおいおい、こいつって本当に人間なのかよ!?

も、もうこうなったら【英雄】の力を開放するしか──』

そんな言葉を残しながらも、次の瞬間にはその体が黒い粒子へと変化を始めていたのだ。

それは僕の目から見ると、まるで光の神様の消滅シーンを見ているかのようであった。

光の神は光の女神と闇の女神の戦いに巻き込まれ、その結果消滅してしまう事になってしまっているのだけれども、目の前で起きた光景もそれと似通った状況のように思えてならなかった。だから【聖女】は、僕に光属性の攻撃を使用する事を躊躇わせるように言ったのだ。

もし僕が光の女神に祝福された存在であるならば。

闇属性の技である【ダークブロウ】は通じない可能性が高いだろうから、そう考えると僕の光属性の攻撃が魔王様にダメージを与えられない理由もなんとなく察する事が出来たのだ。

僕は【英雄】の攻撃を受ける事になった。しかし僕の攻撃は──。

『おいおいおい、こりゃいったいどういうことだよ。どうして【魔王】の力がここまで弱ってやがるんだよ!?

こりゃもう──お前の事を甘く見て油断している場合じゃねぇようだな』

僕の攻撃が通用しなかったのが【英雄】にとっても予想外の出来事だったというか。

そんな反応を示すのだけど、そのせいで僕の心に動揺が生まれてしまい、思わず後退してしまう事になる。

すると──その隙を突いて、炎鬼姫に攻撃を仕掛けられる。どうやら【聖剣】を手にした【勇者】に意識が集中していた僕を仕留める事は難しくないと踏んだのかもしれない。それは【聖剣】に込められている【英雄】の力を利用しての事だと思う。

【英雄】は魔王軍の幹部として僕に襲いかかってきた事もある。

だからこそ僕は【聖剣】が【英雄】を引き寄せてしまったと判断をしたんだけど、炎鬼姫が言うには【聖剣】は持ち主を選ぶ代物で【英雄】は選ばれるどころか、そもそも【英雄】に【聖剣】を持たせる事自体が不可能だったらしいのだ。

だからこそ【聖剣】は今、僕の手の中にある訳で。そんな経緯もある為か、どうも炎鬼姫の言動からは僕に対する敵対心のようなものは見受けられず。それ故か、彼女は【聖剣】を使って戦う事をあっさりと辞めて、素手での格闘戦を挑んできたのである。

炎鬼姫の拳による攻撃は重く、僕は防ぐのがやっとの状況に追い込まれていく。

僕は炎鬼姫の攻撃を捌くのが精一杯であり、【聖剣】を扱う暇もない程であった。

ただ。そのお陰か、僕の方からも攻めにいく余裕はなく、結果的に炎鬼姫を一方的に追い込む展開になってしまった。

そのお陰で炎鬼姫を圧倒できる程の実力を身に着けられた事は確かなんだが、しかし同時に僕の心の内には【聖剣】を手にしたままで、その力を振るいたいという思いがあったのもまた事実だった。その気持ちが無意識に動きに現れていたんだろう。

結果として、炎鬼姫の渾身の右ストレートを受けて、そのまま殴り飛ばされてしまう事になった。そう── ──『魔王城』の外まで。

『うわぁあああ!』

その叫び声を上げたのは僕ではなく炎鬼姫の方だった。どうやら【聖剣】の特殊能力によって、魔王城の外に強制転移させられたようである。そうして僕も、その衝撃に堪えきれずに、その場から吹き飛ばされたのだが。

地面に打ち付けられ、ゴロンゴロンと転がっていくと──そこに炎鬼姫が僕を追いかける形で飛び出してくるのが見えた。

そして【英雄】と炎鬼姫が激突し、激しく交戦を始めてしまった。その様子を視界に入れつつ、僕が【英雄】の相手を任せていた少女の方に視線を向けると、彼女は【悪魔神官】と戦っていたのだが、こちらの方が決着は早かったようだ。

というのも少女が手にしていたのが短刀であり、【悪魔神官】が振るっていた長槍と比べれば圧倒的に小回りが利く。

そんな事も合わさった結果、炎鬼姫との戦いに夢中になっていた炎鬼姫は【悪魔の盾】の守りを失い、そこへ短刀の一撃を浴びせられて戦闘不能となったからである。

そうなると少女の相手を務めるのが残った魔王軍の大幹部である氷鬼姫である訳だが、しかし、この場に現れた【聖女】の話では【魔王】が【光輝玉】を扱えるという話だった事を思い出してしまう。

しかもそれが炎鬼姫を退かせた理由でもあったのだ。炎鬼姫はその光輝玉が弱点なのだから。その【光輝玉】を操る事が可能だという【聖杖】の持ち主である僕に勝てる筈がないというのが彼女の言い分だそうだ。

しかし。僕だって、そう簡単にはやられないと思う。少なくとも先程のような情けない姿を晒さないだけの力を身につけてきたつもりである。

そう思うと同時に、僕に向かって【聖斧】を振り下ろしたのが見えたので、僕はその攻撃を受け止めようとするのだが──やはり【聖斧】の一撃は非常に重く、僕の体は後方へ弾き飛ばれ、更に地面へと倒れ込んでしまう事に。

すると追撃を行うべく駆け出した【英雄】の姿が見える。しかし──

『そこまでにして頂けませんか? これ以上の戦闘を続けると本当に危険ですよ?』

そこで響いて来た【女神の声】の主こそ──。

魔王城にやって来て、僕の相手をしてくれていた魔王軍の四人の幹部のうちの一人──つまりは僕が最も苦戦をしていた【悪魔神官】であったのだ。彼は【聖鎧】と呼ばれる防御能力を宿した甲冑を装備している為、【聖剣】で斬りつけるだけでは有効なダメージを与える事が出来ず、どうしても手間取ってしまった相手でもある。

だからこそ【聖斧】という攻撃能力に特化している武器を装備した炎鬼姫とは相性が悪すぎた。

そのせいで【英雄】の足を止めさせるまでに至らず。結局は僕のところに【英雄】が辿り着かれてしまう結果となったのだから。

しかし──。【聖女神】が姿を見せて、僕を守ってくれるような動きを見せてくれた事で【英雄】は僕の事を諦めて去っていったのである。

僕にトドメを刺すのは後回しにしようと決めたのだろうか?

そんな事を【聖女】が口にしていたが、それはきっと魔王軍の幹部たちが勢揃いしているこの状況下にあっては僕を殺す事は難しいと判断した為だと思う。まあ実際問題として僕は死んでいるも同然というか。

既に肉体的には死んでしまっているんだけどね。そう──今の僕に残されているのは魂のみ。それも【光の女神】に祝福されて転生を果たす以前のものなんだけど。

僕に憑依する形となっている光の女神が僕を守るように動く理由を考えてみると──光の女神は魔王軍に加担するつもりでいるようだし、魔王軍と【勇者】一行との戦いの邪魔をする為なんだろうなと考える。

光の女神にとって【聖女神】は天敵とも呼べる存在であるようだし。だからこそ、【光の女神】は【聖剣】の所持者である僕の身を案じて守護霊のように傍に付き添っているのだと思われる。ただ、僕の意識が消える前に、僕の体に何やら魔法を行使していたのも見えていたので、僕の体に何らかの処置を施して、またすぐに目を覚ます状態に戻れるよう、そういう意図もあるんだろうなと考えさせられる。

「【聖女】、ありがとうございます」

僕は魔王軍の【聖剣】の使い手たちによる戦闘に巻き込まれてしまった。だから魔王軍の四天王のひとりが、魔王様を【光輝玉】で封じようと行動を起こした際に【光輝玉】の輝きが消えた事から察する事も出来たのだ。

それはつまり魔王様に何かあったんじゃないか──と。

だから僕も魔王軍の大幹部である四人に攻撃を仕掛けていったのだが、【光輝玉】が光を失った事と、【光輝玉】を操っていた魔王軍の重鎮である【悪魔神官】が突然姿を現した事により、魔王軍は混乱に陥ってしまった。その為、戦いどころではなくなってしまい、その結果として【聖剣】を所持していた【英雄】は撤退を余儀なくされる事になる。

【悪魔神官】の乱入は計算外だったようで。

だからこそ魔王軍を追い詰めるのに一役買うどころか──むしろ追い詰められるような状況にまで陥りかけたものの、結果的に僕を助けてみせた事になる訳だけど。それはつまり魔王軍が僕に【聖剣】を使う隙を与えなかった事を意味する訳だし。

【聖剣】の力を引き出すのは【英雄】でも、それを扱いきるのは僕の技量次第となる。

【聖女神】に愛されている僕は他の者たちより少しだけ【聖剣】の力を扱う上で有利だと感じられるから、そのアドバンテージを活かし、僕が上手く扱う必要があったんだけど、しかし僕自身、【聖剣】を扱えるようになって、そう時間が経っていなかった事もあるせいか。今回の場合はどうすれば良いのか分からない場面が多々見受けられてしまった。

ただ、そんな中で魔王軍の幹部たちは僕を助ける形で動いてくれたので。だからこそ【聖剣】の力を使いこなすのに時間を要さずに済んだと言える。

魔王城の内部に居る魔王軍の関係者たちにしてみれば、ここで【英雄】と僕の戦いを中断させて時間稼ぎに徹するのが正解だったかもしれない。しかし。それはあくまで彼らの判断に委ねられる訳で。彼らが僕に手を出さなければそれで済む話だった訳である。

ただ彼らは僕に手を出してしまったが為に【英雄】の標的となってしまい。それが原因で命を落としてしまう。

そんな光景を見てしまうと、なんだかもの凄く居た堪れない気持ちになってしまうけど。

それでも彼らには僕の為に戦う覚悟を決めてもらいたかったという思いはある訳で。それが例え自分の為であったとしてもだ。

ただ。その【英雄】が姿を消した以上、僕を援護する立場の者はもうおらず、【悪魔神官】との一騎討ちに持ち込まれた形となってしまう。そうなれば当然、【聖斧】の攻撃に翻弄され、何度も弾き飛ばされてしまい。その都度地面に倒れ伏していく。

ただ。そうなっても、どうにか立ち上がろうと試みてはいるんだけれど、しかし体が思うように動かないんだよね。それに意識も途切れかけているのが現状で。

「そろそろ諦めて下さいませんか? 貴女をこのまま放置しておくのは不味いと思うのですよ。私にとっては、ですが」

──そう言う【悪魔神官】の言葉の意味を理解しながら。

そう。今や僕の中には【光輝玉】がある。魔王軍の大幹部の一人である彼から見れば、僕の中に宿っている存在こそが脅威だったんだろう。僕の中で息づく魔王様の存在と。僕自身の魂と肉体が融合を果たしていて。それが魔王軍にとっての脅威になり得ると──【聖杖】の持ち主である彼の考えなのだ。

確かにその懸念を抱く気持ちは分かるし。だからこそ、彼は僕の動きを完全に封じ込めたいと思っているのだろうし。

とはいえ──

「僕は、負けない! 絶対に!」

──僕は最後の力を振り絞るように叫び声を上げ、地面から【聖斧】の刃を引き抜いた【英雄】に向かって駆け出すのだった。

魔王城にやって来た【英雄】のパーティの一員。

その実力は他の【勇者候補】と比べて抜きん出たものであったらしく。その実力の高さは誰もが認めていたそうだ。その力を認めざるを得なかったというのが本音だろうが。しかし──。

『くっ!?』

『この程度か!』

魔王軍の大幹部であり、四人いるうちの四番目である【悪魔神官】と対峙しているのが、この【勇者候補】の少女である。【英雄】の足止めをしてくれていた筈の彼女は【悪魔神官】の圧倒的な強さに歯が立たず。一方的に蹂躙されてしまっているのが実情。

少女が手にしていた【光輝剣】で斬りつけるものの、しかし相手はそれを簡単に防ぎ切ってしまうのだ。そして繰り出される【聖斧】の一撃で吹き飛ばされた。

しかし──【聖女】によって回復を受けた少女はすぐに立ち上がる事に成功し、果敢にも挑んでいったのだが、やはり結果は変わらないままだった。

少女が身に付けている装備品の数々は、少女を魔王軍の大幹部に対抗できるだけの力を持つ【英雄】へと押し上げた【聖斧】の一撃を防ぐ程の防御力を有している訳ではない。その装備では──いや。どんな防具を装備していようとも、【英雄】が振り下ろす斧を受け止めるには不十分である事は否めない。だから少女は、どうにか受け止めようとするも、その威力に弾かれ、無残に弾き飛ばれる事になってしまったのだ。

しかし──。それは致し方の無い事でしかないのかもしれない。

何しろ相手はこの世で唯一、四柱の魔王と呼ばれる者達の眷属である【悪魔神官】なのだ。【聖女】に【光女神】。この二人はまだしも。

【聖斧】を手にしている四番目の大幹部は。その四人の中では最強に位置する存在である。

そんな相手に対し、他の三人の魔王の配下の【聖斧】持ちの大幹部と比べると劣るが、その能力は決して低くはなく。他の魔王の部下たちと比べれば上位に属する実力者でもあったりするのだが──そんな【聖斧】を自在に振るって戦う【悪魔神官】に、たった一人で勝てるだけの力を有せる者なんて、果たしてどれ程存在しているだろうか? しかも少女の場合は、魔王軍の幹部の一人を相手にしている最中に他の幹部の加勢が入ったのだ。それも一人や二人ではない。四人が一斉に襲いかかってきたのだから──。

少女に対処できる事の方がおかしいのだ。

そんな絶望的とも言える状況を打破した【聖斧】使いの【英雄】は【英雄】である。そうでなければ、いくら魔王軍に狙われる【聖剣】の使い手だからと言っても。この場に訪れるまでに辿り着く事も出来なかったに違いないのだから。

だが、しかし──。

そんな少女もついに限界を迎えたようだ。

大ダメージを受け、もはや立つのも難しい状態になってしまっているのが傍目から見ていてもよく分かった。

そんな少女に、魔王軍の大幹部は──。

【聖斧】の狙いを定め、トドメを刺すべく、少女の方に歩み寄る。

それに対して少女も── 魔王の眷属の四天王相手に一矢報いたのだ。これ以上は無理だ。既に体中ボロボロの状態で、それでも最後まで諦める事だけはしなかった彼女も十分に賞賛に値するのは間違いないだろう。

「もう十分だよ。後は僕に任せて」

そう告げて。僕は魔王軍の大幹部の前に立ち塞がると、彼女を背にして、その【聖斧】による一撃を、【光盾】を発動させた状態の僕の両手を使ってしっかりと掴み取る。

僕の両腕が【聖剣】の刃の部分に吸い込まれるように一体化していく。

魔王軍の幹部である【悪魔神官】の攻撃を防いだ僕の様子を確認してから、魔王軍の四人の幹部はそれぞれその場から撤退していく。【英雄】の青年のパーティメンバーである少女もまた、僕の言葉を受けて撤退していったんだけど。それは彼女の判断によるもので。

【英雄】の仲間たちの援護が無くなってもなお。

僕と【悪魔神官】の戦いは続いていたのだった。

「貴女をここで見逃せば──いずれまた邪魔な存在となるかもしれないという懸念があったからなのですが。ただ、もう良いでしょう。ここで始末しておいた方が貴女の為なのかもしれませんね」

僕との戦いを続ける事に対して、そう口にすると。【悪魔神官】は手にしている【聖斧】を振りかぶった。僕を両断するつもりなんだろうけど、その攻撃が僕の【聖剣】の刀身に触れる寸前、【悪魔神官】の【聖剣】の輝きが失われたのを確認すると、そのまま僕は【悪魔神官】の攻撃を押し留めるべく、全力を注ぎ込む。僕の【聖剣】が放つ【聖斧】とのぶつかり合いは激しいものだったんだけど。やがて押し切られてしまった僕の身体は弾き飛ばされてしまう。

しかし僕は地面を転がるようにしながら体勢を立て直すと──。

「──今だ! 頼む!」

【悪魔神官】に向けて駆け出した僕は【悪魔神官】との距離を埋めると共に、仲間達に呼び掛けたんだ。その声に応じるかのように。僕は── 魔王様と魂と肉体が融合を果たした事で、本来ならば扱えなかった筈の聖属性魔法を操る事ができるようになっていた。

だからこそ──魔王様の力に頼り切る形になっていた僕には【魔導士】のような真似は不可能だったが。その力を僕の為に使う事ぐらいなら可能なんだ。僕が呼びかけるまでもなく──【勇者】の【加護】で、仲間の力を底上げして、その力で戦う彼等だからこそ──。僕の言葉を切っ掛けとして発動してくれたようだった。

それは──【聖水】と呼ばれる魔法の薬で。魔王軍にとっては猛毒のそれ。

ただ。僕にその効果が及んでいないように。魔王軍の【悪魔神官】にも効果を及ぼすものではなかったようだが。

その液体を浴びた事で。

動きを止めた【悪魔神官】。

その隙を突いて、【勇者】たちが畳み掛ける形で戦いを優勢に進めていき。

「終わりです! これで決めます!」

最後に【聖剣】を【聖槍】に変化させると、【勇者】が【悪魔神官】の首筋を切り裂き、決着を付ける。

そして【勇者】が勝利宣言を行うと同時に、周囲の景色が歪み始め、次第に薄れていく──。

──僕たちは元の【王都】に戻るのだった。

*********

「──うっ!」

【魔王城】で意識を取り戻す。どうやら魔王様の寝室にあるベッドの上で寝かされていたみたいだけど。

起き上がると魔王様と【魔王妃】、それに他の仲間達が揃って僕の方を見ている事に気付き、僕は慌ててその場に膝を突き頭を下げた。

「ご心配をおかけしてしまいましたか? 皆様」

「いえ。それよりもお体の方は大丈夫ですか?」

「はい。どうにか」

魔王様からの言葉に応えた直後、魔王様に抱き付かれる格好となった。

僕としてはいきなりだったからびっくりするだけで、特に嫌とかじゃない。むしろ、こうして抱きしめてもらえるのは嬉しかったりする。

だから素直に受け止めていたんだけど。

──そこでふと思う。どうして【悪魔神官】との戦いが終わったのにも関わらず、この場に留まっているのか、その理由に気付く。

僕を抱き締めながら。

「魔王さまぁ。私の方にも構ってくださいませぇ。魔王さまに必要とされているのは私の方も同じなんですからぁ」

──なんて。【魔王妃】の甘えるような声が響き渡る。それで思い出した。

そういえばこの場に、【悪魔神官】との戦いを手助けしてもらった魔王軍に所属する四人の女性のうちの一人である【悪魔神官】はもう居なかったのだ。魔王軍と魔王陛下に仇名す存在である四人の大幹部である【悪魔神官】を倒す事には成功しているので、【悪魔神官】はその役割を終えたと判断されたのだろうか? とはいえ、彼女は元々、他の魔王軍の大幹部達と比べれば実力が劣っている事もあり。

その力では【悪魔神官】としての役目を果たす事が難しいと判断し、魔王軍の幹部の序列は下がっているのが実情なのだけれど。それでも四天王の末席を担ってはいるので、魔王軍に籍を残し続けていたのだが──。【悪魔神官】が【聖斧】を持つ四番目の大幹部である事を考えると、彼女の存在自体は、やはり重要度が下がっていたようだ。

しかしそれでも彼女がここに残れているというのは、魔王軍の大幹部の中で、一番弱いと言われているのは彼女である事が影響しているのかもしれない。そんな彼女の力は四天王の中でも最弱だと囁かれているし。

そんな風に考えながら魔王様に抱擁されている間に。

他の面々は【魔道具】の点検を行った。

僕も自分の【魔導】が上手く使えるようになった事で、【魔導士】や【魔剣使い】、それに魔王軍所属の女性たちが持っている魔導具が扱えるようになって。それらの使い方が分かるようになっている。【英雄】の【加護】は【聖剣】と【聖斧】の力を僕に分け与えてくれていて、他の能力も同様に、僕も魔王軍の四人と同じように、それらを扱えたりするようになっていたのだから。

そうして確認した限りでは、魔王軍の大幹部である彼女達が持つ全ての武器や防具は【英雄】の能力の影響下にあるようで、本来の威力以上の能力を発揮する事が出来るようになっている事が判明したのだ。

ただその反面、魔王様から借りて、装備している【黒鎧の戦乙女】シリーズについてはそれができないようだった。この【黒騎士の戦衣】についてもそうだ。しかし、この二つについては元々の性能が優れてもいるから、別に困ったりはしていないんだけどね。

そんな訳もあって、僕たちは準備を完了させるのだった。

そして魔王軍が所有している【転移装置】を使用して。僕たち六人は【王都】の外へと向かう事に。その道中。【勇者】と魔王様、【魔王妃】の三人が何か会話をしていたようだったんだけど。その詳しい内容を知る事はできなかった。ただ何となく、【聖斧】と【聖槍】の話のように思えたけど、詳しくは後で聞いてみる事にしよう。

ちなみに【魔導士】は、魔王軍の大幹部の一人であり。四天王の一人である事を証明する称号も与えられていたんだけど。今回の作戦において、彼女には別の役割が与えられる事となっていた。その為に同行を頼んだんだけど。その際は、とても嬉しそうな表情を見せてくれたんだよね。魔王軍が保有していた【転移符】を使い、魔王軍の拠点の一つへと僕達は移動すると。その拠点にて【悪魔神官】が姿を現す。

「魔王軍は貴方達に負けた事を正式に認めましたわ」

僕たちの目の前に現れたのが魔王軍の【悪魔神官】である事は既に周知の事であるのに加え、【聖斧】と【聖槍】を所持している事から、その正体が魔王軍に所属していた四人の大幹部の内の一人であるという事もすぐに知れ渡ったんだけど。【魔王妃】の時とは違い、魔王様の傍には誰も護衛がいなかったのも大きいだろう。

その事に気付いた魔王軍の幹部は──。

「お父様は、貴方が私を殺すつもりではと警戒されていましてね。なので──私がここに留まるように命じられたのですよ」

魔王様にそう説明するのだった。

まあでも、それはそれで良かったんだけどね。正直、僕もちょっと不安を感じていたところがあったから。だってほら、僕って【魔王】の称号を得てからは魔王様に【聖剣】を渡したりしていたけど、それ以外じゃあまり役に立っていなかったと思うんだ。ただ、その分は、魔王軍の皆さんが補ってくれた感じかな。

魔王軍と【悪魔神官】との戦いが始まる──。

【聖剣】と【聖斧】を操りながら魔王軍の幹部を相手どる【悪魔神官】。

流石に、僕が魔王様の補佐をして戦った時のような圧倒的な力の差というものは無く、徐々に追い詰めていくような戦い方になっていたので、このままいけるかと思われたが──しかし、そこで【悪魔神官】の様子が急変すると、そのまま意識を失ってしまうのだった。「【悪魔神官】!?」

その異変を見逃さず。僕が魔王様と共に、魔王軍の大幹部の一名を無力化させる事に成功する。

だが。その【悪魔神官】を庇うようにして、魔王軍に所属する女性の姿──【魔女】が現れ。

そのまま【魔王】と戦闘を繰り広げる事になる。

僕が手を貸した事で、どうにか、【魔王】の攻撃を防ぐ事が出来たんだけど──そこに他の大幹部たちも姿を見せたので、僕は【悪魔神官】が倒れ伏している場所まで後退する事にして。そして仲間達が【聖魔器】の力を用いて大幹部たちを圧倒し始める。

そんな中──。僕は、気を失ったまま地面に横たわる【悪魔神官】の傍に行き。回復の魔法を施そうとする。が。魔王軍から離反している彼女は既に死んでいて。

蘇生を試みようとしたんだけど。

──失敗してしまうのだった。

そこで魔王様が声を掛けてきたのだけど。

【悪魔神官】は僕の知り合いで、魔王軍での役職が近い事もあり親しくしており、この子なら大丈夫だろうと、そう判断してしまっていたらしい。

「この子をお願いできますか?」

魔王様は僕の方を見て、そんな言葉を紡ぐと。魔王軍の方へと戻って行ってしまうので。

「はい」

僕はその願いを受け入れると、彼女の亡骸を抱える。そしてその遺体を仲間達が居る方向とは別の方向に運び出した。


***

【悪魔神官】の遺体は僕が回収した。

魔王軍には【転移装置】を使ってもらい。僕たちは、彼女の遺体と一緒に王都へと戻る事に。

ただその際に。僕の力では、彼女を埋葬する場所を用意するのが難しいと判断し。魔王軍に所属する四人の女性たちが住んでいる家の近くにある小さな共同墓地に安置させてもらう事にしたのだが。

──僕がその事を伝えた途端に、その場に居た四人の女性たちが凄く動揺し始めたのだ。

その理由についてはよく分からないが、ともかく僕たちはその場から離れる事にする。

【勇者】に確認したところ。彼女たちにとって、【悪魔神官】は魔王軍に所属している以上、上司に当たるわけで。しかも四天王の一角を任されている実力者である事から、それなりに尊敬できる人物であるという認識が、部下の女性陣の中には存在しているらしく。そんな人物が死んでいた、なんていう状況を受け入れたくない、という思いが強いのかもしれない。

だからといって、僕には、彼女たちが何故そんな反応を示したのかなんて分かるはずもない。だから特に気にせずに行動を続ける事にした。そんな僕の方へ。魔王様の方も近づいてくるので──。

「どうやらこの子は【悪魔神官】ではなかったみたいです」

僕はその事を報告。

「そのようだな」

僕の言葉を聞いた魔王様がそう口にした瞬間、その隣にいた【魔王】もそう口を開いたので。恐らく二人の間で何か話がされていたんだろうけど。それも後々に聞けばいいかと思い直した。今はそれよりも大事な事があるから。

とりあえず僕は【転移】を行う為に【転移符】を取り出すと。それを地面に置いた上で、魔力を流し込む。そうして視界が暗転した次の瞬間、僕は先程【悪魔神官】と【聖斧】と【聖槍】を持った四人の女性の住む家の近くに到着する。そしてその場所に到着した僕と魔王軍の幹部たちだったが、すぐに彼女達の家が目に入り、そちらに向かう事になった。というのも──。彼女達の中に四人目の大幹部がいるからだ。大幹部は四天王の末席を担っている事もあって、序列は低くても魔王軍に所属していた期間は長く、僕と関わりがあったりしたので顔馴染みの面々ばかりなのだが。その中にいる一人の少女が四人目の大幹部だという話を聞いているから。まずは彼女に話を聞こう、となったのである。ちなみにその大幹部とは魔王様の娘でもある少女なのだが。そんな事情もあり、今回の騒動は魔王軍で起きたものでもあったし、魔王軍の四人の中で、最も位が高いのは彼女になるのである。だから四人の中で唯一の大幹部である彼女を訪ねる事にしたのだ。ちなみに他の三人は【魔女】に殺された為、ここに残っているのは彼女だけだった。【聖斧】を所持している事からも魔王軍に関係しているのは明白であるし。彼女が【悪魔神官】である可能性は高い。そう思ったのもある。

魔王軍が保有する【転移符】を使用して僕達は四人が生活している家の玄関の前に移動する。そこから中に入ると、家の中にあるリビングにて椅子に腰掛ける一人の少女を発見した。魔王軍に所属する大幹部のうちの一人である事は一目瞭然だった。何しろその髪は銀色をしているし、何より身につけている衣服──黒い鎧姿だったから。ただ──。

(この感じは【魔道具】だね)

この感覚には覚えがあるんだよ。だから僕としては直ぐにそれが分かったんだけど。僕がその事を告げると。魔王様も、それに同意するように首を縦に振る。【勇者】も同様に。

「やはりその魔導具の感じが、その子からも出ているな」

そして僕たちと同じ考えに至ったようでそう言うと、そのまま魔王様と【勇者】はその大幹部に声をかけるのだった。すると──。

「私に何かご用ですか?」

そう答えながらこちらを見つめてくるのは。まだあどけなさを残した美少女であった。年齢で言えば十四、五才くらいかな?

「私は、この子──リスタの事を保護しようと考えているんだが」

魔王様は彼女にそう伝えると、【転移符】を差し出すので。その意図はすぐに伝わって──。僕は、【悪魔神官】の遺体が納められた袋を取りだす。それを見た【悪魔神官】が所属していた【魔王軍】の一員である銀の少女──【魔女】は一瞬表情を変えるが、すぐに表情を改めた。

「これは──【悪魔神官】様!?」

そう声を上げるのと同時に、その遺体が魔王軍の大幹部の一人だと知ると、すぐに【魔女】は頭を下げて礼の姿勢をとる。

そんな様子を確認した魔王様が僕たちの方を見ると。

「そういう事なので。貴方達は王城へと向かって欲しい」

「はっ!」

僕は【魔女】に対して一礼をしてから、そう告げると。僕は仲間と共に、【魔女】から魔王軍の拠点へと【転移符】を使用し移動を行った。


***

魔王軍は魔王様に率いられる存在なので。拠点には幹部の【魔道姫】と、そして魔王様のお世話をしてくれている大幹部である【聖剣】を所持する金髪の美女──聖女と呼ばれている人物だけがいた。魔王軍の組織図的には四天王が上座にいる形になっているので、聖女が聖剣を管理下に置いていても何ら問題ない。

そんな二人は、突然現れた僕たちに驚きながらも、すぐに対応をしてくれる。聖女の方は僕の力を知っているので、そこまで驚いていなかったけど、それでも、【悪魔神官】を埋葬したいという話をすれば受け入れてくれるので、その旨を【悪魔神官】の仲間達に説明して貰う事に。

それから【魔女】が、僕のところまで来ると──。

「【悪魔神官】殿の御遺体について──ありがとうございます」

僕に向かって、深く頭を垂れてからそう口にするのだった。


***

魔王軍が、僕と仲間の人達を迎えてくれた。

そこには聖騎士の鎧を身につけた金髪碧眼の女性が立っていて、その女性に【魔道具】を渡した後。

「お母さまに御連絡を取らせていただきました。すぐに来れるそうですので、もう少しだけ、ここで待っていていただけますか?」

彼女は丁寧な口調で、僕らを迎え入れてくれたのだけど。そこでふと思う。

(聖女さんよりも若いよな?)

見た目が幼いというか。どうみても年下なんだけど、でも、この人も四天王なんだよね。四天王には【勇者】のように、若くして凄い才能を持っている人もいるから侮れないんだけど。この人の場合。そういった凄さが分からないから、どうなんだろう。ただ魔王軍の中でも上位に位置する実力者なのは間違いないだろうから、そんな疑問を抱いてしまう。

ただそんな事を口に出せるはずもなく。とりあえず待っている間、僕は魔王様と話をする事にした。魔王様は【聖剣】を所持していない事から【悪魔神官】の傍にいた事が伺えるのだが──。それはつまりこの魔王軍のトップが今この場に現れようとしている事に他ならないわけで。そんな相手に気軽に声を掛けるのは少し躊躇われたのだが。魔王様の方が僕のところにやってきてくれて声を掛けてきた。

「さっきは助かった。本当に」

感謝の意を伝えてきた魔王様だったが──僕の傍にいた仲間の一人が。

「いいえ。あの程度は何でもありません」

謙遜した発言をするので、僕もその会話に参加。

「そうですね。魔王軍にも【聖杖】使いの女の子がいるんですが。彼女との修行の一環で【転移符】を使用した際に、僕が魔力を送り込んであげているんですよ。その時の彼女と比べれば、あれなんて、全然ですよ」

すると魔王様が笑みを見せる。

「ははは。そんな事を言うのか、君は。しかしそうなのかもしれんな。【聖剣】は【英雄】の力に引き寄せられてしまうので、私や娘は【転移符】が使えず困っていたからな」

そう言ったところで魔王様は僕の仲間たちに視線を向ける。

「どうやら【魔女】も君達の事は知っているみたいだな」

「は、はい。一応面識はありまして」

僕は魔王様の発言を受けてそう返事をするけど。

「私は、直接会っているわけじゃないですけど。聖女から話は聞かされております」

【魔女】がそう答えると、魔王様も満足したように、

「では挨拶はまた改めてだ。これからは【悪魔神官】の事も含めよろしく頼む」

「分かりました。こちらこそよろしくお願いします」

【魔女】の言葉にそう答えた僕。魔王軍の【転移符】を利用して、その場を離れると僕たちは王都へと向かうのだった。

僕達が魔王軍と別れた後。僕たちはすぐに【聖槍】の件を報告する為に王国へと向かったんだ。


***

そして王国に到着した僕達は直ぐに王城に足を運ぶ事になった。そしてその道中でのことだ。

(何だこれ? 随分と騒がれているんだな)

街の中の様子を目の当たりにしてそんな事を考える僕だったが。それも仕方のない事なのかもしれないとも思う。だって街中に掲げられている国旗に書かれている文字に目がいくからだ。そこにはこう書かれていたのだ──『勇者様、聖槍発見!』とか、『【魔剣士】と【魔王】様が魔王軍を撃退!』、『【聖剣】様はどこ?』など。

何だこれは。僕は思わずそう呟くしかなかった。

そもそも僕は【勇者】であって、別に魔王軍と戦う為にやってきたんじゃなくて。あくまで魔王を倒すのに力を貸すだけっていう契約だったはずなのに。それがいつの間にか国を守る存在として捉えられてしまっているのはどういうことなのか。確かに【転移符】を使って移動する際、王国の兵たちが戦の準備を行っている光景は見かけたが、まさかその流れがこれ程のものになっているとは思っても見なかったんだけれども。それにしても【悪魔神官】は何をしていたんだろう? 【悪魔神官】は魔王軍のナンバーツーでもあって。本来ならば国の危機の際には真っ先に動いても良いはずの立場にあった筈なのに。それだというのにもかかわらず彼は僕たちを待ち受けるだけで、しかも部下たちを動かそうとはしていなかったからね。何か事情があるんだとは思っていたんだが、まさかこの騒ぎを引き起こしていた犯人が彼だとは思えないし。

「これはいったい何があったのでしょうか?」

聖女の問いかけに魔王様も首を横に振ったのだった。

「流石に私もこの騒ぎの原因までは分からぬが」

「何か悪い予感はするんだよな」

「そうね。この国の王族が関わっている可能性が高いと見て良いんじゃないかしら」

魔王様の言葉に対して勇者と魔女がそう意見を述べると。

「魔王軍に【勇者】が現れましたし、次はこちらを狙っている可能性もあるわよね」

そう口を挟むのは、この国の王女でもある聖女様である。ただ彼女がそう口にすると同時に、聖女さんの方に顔を向けた一人の少女──【魔女】の姿があり、

「あら。【魔女】はこちらに来ていたの?」

聖女様は彼女に気付くと、そんな言葉を掛ける。それに対して魔女は「はい。こちらで聖女のお手伝いをしてまいりました」と、丁寧なお辞儀を見せながら聖女さんに声をかけるのだけど。そんな二人の様子からして、どうやら二人共面識はあるようだ。そんなやり取りをしていると。僕達のもとに一人の人物が近寄ってきたので、その事に気付いてそちらに目を向ける。するとそこにいたのは──国王様である。その人物の後ろに従う形で数人の兵士もいるので、彼等の様子を見つめていると、その兵士の中には僕のよく知る【勇者】の少年もいた。

(あれって確か──聖女と一緒に行動しているっていう、【賢者】の少年か。どうして彼がこんなところに)

そう疑問を抱いていると。僕の表情を見て取ったらしい【聖剣】が。

「お知り合いのようですが?」

「まあな。前に会った事があるから。といっても向こうが俺を覚えているかは怪しいところだが」

【聖剣】の言葉に、【勇者】がそんな言葉を口にしたので、僕は「そうなのかい」と尋ねてみると、

「【魔剣】をこの国に運び込む際の護衛を担当したんだが、その際に少し話をさせて貰っただけだ。だからお互い印象には残っているはずだが、それでも【聖剣】の事を話したり、この国で何が起きていたかを語れるほど親しくなったわけでもない」

(なるほど。そんな出来事があったのか)

【勇者】は魔王軍の大幹部を倒せる力を持ってはいるが、まだそこまでレベルが高くはない為、その辺りの実力がまだまだ低い。そんな状況で僕や聖剣の手助けが欲しいと思って、声を掛けてきたと聞いてはいたが、【勇者】の方から【魔剣士】と【魔女】に協力を求めていたなんていうのは初めて聞く情報だったりする。

(でも──その話はちょっとおかしいな。【聖槍】が発見された事で魔王軍の動きを察知出来たからこそ僕達はすぐに王城までやってきた訳だし、魔王軍の気配を感じた段階で僕が聖剣の元に駆け付けた事も当然予想していたはず。つまり【聖剣】と魔女は僕が【聖槍】を回収してきたタイミングを知っていることになる。そして【魔剣】もまた魔王軍の関係者。なら何故【魔剣】はその情報を漏らさない?)

【魔剣士】は確かに【聖槍】の回収に動いてはいたけど。それを他の人に知らせていないというのは妙な感じがするんだけども。そんな事を考えていた僕は、

「【勇者】殿はどうするおつもりですか?」

そう質問すると、彼は「うむ。どうするかと言えばだな。このままだと拙いなというのが正直な感想だ。既に勇者の仲間として認められている私と魔女、そして【聖剣】の三名は、間違いなく今回の事件に巻き込まれていく事になる」と答えてくれた。

(この三人は確定か。【聖剣】については──この国の王家がどう動くのかにもよるけれど。この騒動の発端になった可能性もありそうだし。それに、もしかしたら聖女のお父さんにも影響が出てくるかもしれないからな)

そんな懸念を抱く。ただ──魔王軍も、聖槍が見つかるという予想外の展開が起きているからか。今のところこちらに動きを見せている様子がないので安心といえば安心だったのだが。聖女は、魔王軍が何をしようとしているのか、現時点では何も分かっていないと言っていたので、今後どんな事態に陥るのかは不明なんだけれども。

ただ、これだけの騒動が起こっているんだ。魔王軍の方はこちらが動いている事に気付いていると考えてもいいだろう。そう考えていると。

「あのっ!」

聖女は僕に向かって話しかけてくる。彼女は僕の傍にいた聖女たちの姿を見て驚いたような顔をしていたが。聖女の傍にいたもう一人の仲間は聖女とは違って、【魔王】の傍にいたあの小さな女の子であり、その仲間が声をかけて来た事が、僕達の注目が集まる要因となっていた。

そんな彼女の口から出てきた台詞は──「【聖槍】を返して欲しいんです」というものだったのだ。そしてその理由を問いただしたのだが。聖槍の返還を望む理由はやはり聖剣の剣と対となる聖剣の所持者である聖女の力が目当てなのだとか。

しかし。それとは別に【勇者】に対して好意を抱いており、それ故、魔王を倒す為に協力すると約束をしたと口にしたのだった。

その話を受けて僕は思わず【魔女】に目を向けたんだけど。

彼女も知らなかったようで首を横に振るばかり。そこでふと疑問に思うのは魔王軍の幹部は一体どこに消えてしまっているのか? だ。もしかするとこの騒ぎに紛れて何処かに潜んでいるかもしれないと思った僕は、周囲に目を向けてみたけど、それらしき人物は確認出来ない。そうこうしている内に──聖女様が、僕達に提案をしてくるのだった。

***

「とりあえず今は、一度ここから離れましょう」

そう提案したのは、聖女様である。

そして聖女さんが僕たちの案内をすると言い出すと、その場に残っていた王様たちが慌て出したのである。それは僕たちの正体に気づいたというよりは、聖女様が何をするのか分からないからこっちに任せてくれないかと言ってくれたからだ。

そして。そうして僕たちが聖女さんに連れられて訪れた先は聖女の住む家でもあった。

「まずは私と話をしませんか」と誘われたので僕たちは大人しく着いて行くことにする。何せ今はまだ【勇者】のパーティの一員として認識されているみたいだから。変に警戒心を与えてしまえば後々面倒な事になってしまう可能性がある。ただでさえ聖女様には【悪魔神官】について伝えないといけない事があるし。何よりも魔王軍と戦おうとしている聖女に、僕は聞きたいことが沢山あるんだ。

そんな事を考えながら歩いていると、一軒の家の前にたどり着くと、そこには──。

『聖女』と書かれた札が貼られているのが見えたのである。聖女様のご実家ってこんなところにあったんだね。初めて見た。

「それでは私は少しだけ失礼します」

聖女様は家の中に入って行くと。しばらくして戻って来ると、そこには見慣れない人物の姿があり。聖女様と一緒にいるその少女は、聖女様のお友達なのか?

「こちら、私のクラスメイトの『アリスちゃん』です。そして──こちらが【魔女】のマギアルさんと【魔剣】の【勇者】様です」

聖女様がそう説明を行うと、その人物の視線が僕たちに向く。

「この二人が──噂に名高い【勇者】とその一行か」

そんな事を言う。どうやら【聖槍】を持ち帰った時の情報が漏れているらしく。僕らの名前と特徴は既に把握されてしまっているようだ。ちなみに僕は【勇者】とは初対面である事を告げ、挨拶を行ったのだが、何故か【魔女】と【魔剣】はお互いに自己紹介をし合い始めていたのだった。しかも。聖女さんのクラスの中で一番の有名人だというその子の名前は【アリス】さんで、なんと聖女さんと同じで勇者パーティーのメンバーらしい。それでその勇者様はどうしているかというと、先程の場所に残ったままのようである。聖剣は聖剣でも聖剣の勇者と聖槍の聖女と、聖女同士で盛り上がっているようだ。そして、僕達もそれぞれ名乗り合う事になった。

すると、僕達がここに来られた理由が分かったというのか、聖女さんが【勇者】の方を見て口を開く。

どうやら【聖槍】を【魔剣士】が盗み出して、それを持ち逃げして行ったのが原因らしいのだ。そしてその事で【勇者】と聖女は仲が悪くなっていると。そう説明する聖女さんの言葉を聞き。

(えっと。確か魔王様の【聖剣】の力を、聖女の力で増幅させる事で【聖槍】の攻撃力を上昇させ、その上で魔王にぶつけようと考えていたんだったか)

確か【勇者】が聖女と一緒にいた理由はそんな内容だったはずだ。だけど聖女と【魔剣】が仲良くしていたようには見えないのだけど。

(あれ? もしかして聖女と【魔剣】の【勇者】って、付き合ってたりするのかな?)

聖剣の勇者は勇者の中でも最強と謳われている程の人物で、その能力は非常に高く、聖女の力が無くても充分過ぎるくらいに強いんだ。そして聖女の力は聖剣の剣と【魔剣】によって底上げされて、本来の勇者が使えるはずもないような大技を放つ事が出来る。聖女はその力で【勇者】を強化し、更に聖槍の勇者も力を合わせれば魔王軍にだって対抗できるかもしれないと言われていたんだけど。

そう考えると聖女の彼氏である【魔剣士】は勇者でありながら聖女の彼氏と。聖女が恋人の職業の恩恵を受けるなんていう話は聞かないので、きっと彼は相当な実力者なのだろうなと。

(まあ、【聖槍】を手に入れた事で、【魔王】を倒せるだけの力を身に着ける事に成功したわけだから、当然と言えば当然の話か)

そんなことを考えていると。【聖槍】の件に関してはこちらの方に問題がないわけではないからと、聖女さんから【聖槍】を僕が回収したという情報を魔王側に流していない事を打ち明けてくれる。そして今回の事件の発端となったのは、魔王軍がこちらの動きに気がついていて、僕に気が付いた上で【聖槍】を奪う為に仕掛けて来た可能性が高いのだとも口にしていた。

そんな話を耳にし。もしかして僕の【英雄】としての力が目当てなのではないかと口にする【勇者】。

すると、【勇者】と聖女が僕たちに向かって頭を下げて、お願いをする。

今回の一件に関して【魔王】と手を組むつもりで、【魔剣】には聖剣の勇者と聖女のカップルだと伝え。協力を取り付けてきたと言うのであった。

【勇者】と【聖槍】の聖女が、魔王軍の幹部の一人でもある【魔剣】に協力を取り付けたと口にすると──。

「その魔王軍との共闘というのはどういう話なのだ?」

そう尋ねるのが【勇者】だった。その言葉を受けた二人は、お互いの近況を語り合うと共に【魔剣士】についての情報を共有したようで──その後の事は、僕が聖女から話を聞いた限りではあるのだが。

そもそもの切っ掛けは魔王軍と手を組んで、王都にあるダンジョンに出現するという【聖剣】の奪取を狙いに動いていたというのが、僕が知っている話なのである。

ただその目的を果たしてからも聖女と【魔剣】の関係は険悪なままだったと聞いていたので、この二人の話がどこまで真実なのか分からない部分もあるんだ。

ただそんな聖女が、この国にいる聖女のお父さんに会いに行き、魔王軍についての事情を伝えると、既にその魔王軍の【魔剣】が、魔王の【聖剣】を奪った張本人である【魔剣】と繋がっているという話まで聞いて、僕が思っていた以上の展開になっていたのを知らされたのだ。

その事を知った【勇者】が、僕に質問をするのだが。

その答えとしては──聖剣が二振り存在する理由は魔王を倒すためなんだとか。そしてその聖剣を扱える者は、【英雄勇者】と呼ばれる勇者と、もう一人は【聖女】しかいない。

【勇者】の方は聖剣を扱う素質を持っており、本来なら勇者に選ばれるはずだったのだという話を聞いて、なるほどと思う反面。【聖女】はそうではないのだと、改めて思い知らされてしまう。そう考えると──あの子にも魔王を倒すような強い意志があったとしたらと考えるも。僕はどうしても信じられない。

(それにしてもよくよく考えてみたら。今までは魔王軍の連中も【魔剣】の存在を知らない感じだったけど。今は向こうも聖女様たちの情報を把握していて。僕たちがここにいる事も把握されているんだろうね)

僕はそこまで考えを巡らせていた時だ。この場にいたもう一人の仲間であり、元【悪魔神官】であるマギアルに視線を向けるも。彼女は首を横に振っただけで何も分からないようだったので仕方が無い。そこでふと思いつく。この家の中に誰かいないのかと? そう考えたところで、扉が開かれて家の主である聖女さんが出て来るなり「そろそろ行きましょう」という言葉を発しながら皆を促す。僕達は顔を見合わせるも。聖女様の指示に従う事にしたのである。

それからはまた馬車を使っての移動になったので──移動している間も会話に花が咲く。そこで僕が、【魔剣】はどうなったのだろうと聖女さんに訊ねると。

魔王城から持ち去った時点で所有権が移る仕組みなので、今現在手元にはないのだと答えてくれた。

そんなやり取りを行う間に目的地へと到着。

到着した場所は──『王立図書館』。

【魔剣】が置いてあったとされる場所にやって来たのである。ただその『王立図書館』の中に入ると── そこは一面本だらけの場所で、壁一面には書棚が設置されているだけではなく、階段状になっていて上に上がる事ができる。まるで学校の図書室のような場所だったのだけど。そんな空間の中には大量の本があり。しかもそれらの本を分類して置いたのか。ジャンル別に分けられており。そしてそこには【魔導司書】と書かれた名札がぶら下がっているので──僕は、この場所が本当に【魔剣】が封印されていた『大魔神殿』があると言われる場所と同じ場所なのかと、少しばかり疑い始めてしまっていた。というのも、目の前に広がっていた光景が余りに普通の場所と変わらないのだ。だから僕は少し不安になってしまう。

「ここで間違いはないですよ。何せここには、今も私の父やお祖父様たちが集めた本が沢山あるのですから」

「え? そうなんですか? じゃあここが、その『大魔神様』のおわす御座所なんですね!」

「いえ。違います」

聖女さんは即答したのだけど。

(いや。違うの!? だってこんな普通っぽい場所なのに?)

僕がそう思って周囲を確認するのだが。やっぱり何かが違う気がしないでもないんだよなぁと。そんな事を考えていたその時。僕達の後ろに控えている三人の女性達の姿が目に入る。どうやら聖女さんの言葉に疑問を抱いているようだが、聖女さんはそんな三人の疑問をスルーしてしまうかのように僕達に説明を始めてくれている。

(まあ確かにここは、『聖女』である彼女が言う通りに特別なところなんだけどさ)

とは言っても。それを証明するものがないと納得がいかない。例えば聖女である彼女の父である現国王も、この場に来て同じ事を言ったら信用してもらえるのかといった問題が。それは兎も角としてだ──

「【魔剣】は私がここに持ち込んだものではありませんよ?」

僕の内心を察してくれたかのような発言をしてくれる聖女さんに、僕がありがとうと伝えるも、そうすると今度は他の面々が騒ぎ出すので。結局の所は僕一人では対応がし切れそうになかったのだ。そうして暫くは彼女達が大人しくするまでの間は放置しておく。(いやまあ僕自身も気になってたのもあったし)

僕が【魔剣】について、この場に存在する可能性について考えていた事は口にしていなかったのだけど。聖女である少女も、僕のその反応から僕の考えを予想できたのであろうな。

「では、私の持っているスキルをお見せしますので、それを確かめて下さい。それできっと分かりますよ」

そう告げた聖女さんは。僕に対して自分の【固有技能】を見せてくれると言うのだった。その行動の意味が僕には理解できなかったのだけど、それでも僕は彼女にお願いをする。そして聖女さんの【技能】を見てみると──

(あれ、これって確か【聖女】専用の【技能】の一つだよな?)

【固有技能】

《聖なる加護》:聖女の力を身に宿すことができる能力。

これは──間違いなく聖女が持つ【能力】の1つだと僕は確信する。そして僕にだけ見せるようにという配慮が有難いと感じていたのだけど。そんな僕の考えとは別に、その事実を口に出したのは【勇者】の方で。彼は、自分が手にしていた【勇者の聖剣】をその手に出現させる。

聖女である彼女はその言葉を受けても気にした素振りすら見せず、僕たちにも聖剣を出すように指示を出して来たので、僕たちも聖剣を取り出したのである。

聖女が僕の聖剣を見るなり。やはりと口にすると。その聖剣に施された紋様について語り始めるのだ。

聖女が僕の手にしている聖剣を見ながら口にする言葉を聞く限り、その言葉が正しいとすれば、聖女の聖剣も聖女以外の者でも使用できるという事になる訳で。

「【聖女】だけが扱う事を許された力ではなく。【聖女】以外にも扱えないわけではないのですね。【魔剣】は恐らく【魔剣使い】であるあなたに【固有能力】を付与できる【固有技能】を持っていたのでしょう」

聖女の説明を聞いた僕たちの間に流れる空気は──困惑であった。聖剣を扱える者は【勇者】だけだと思っていたからだ。だからこそ聖剣を手に入れた後。勇者となった【勇者】は、聖剣を手にしてからは【聖女】以外が使う事を頑なに反対したんだ。それは僕も一緒だと思う。それがどうしてなのかは分からないけど。

しかし【魔剣使い】は──つまり【魔剣士】も【勇者】と同様に、聖女の力と【聖剣】がセットになると考えていた。そして魔王を倒した暁には【勇者】と結ばれる。そういった未来も【勇者】は想定しており。そのために頑張って来たという部分もあると聞く。

だから僕はこの【聖女】である少女に確認したい事が幾つかあった。そして僕は意を決して聖女に尋ねる。魔王の【聖剣】を手にしたのは誰かと。その答えによって、僕の中での優先順位が決まると分かっていながら。すると──

「その問いに対しては──」

その問いかけに対する答えを聞いて。僕が抱いた感想を正直に話すと。

──なんだこの子、可愛くないな! そう思ったんだよね。

ただそんな僕の考えとは真逆の意見を述べる人物もいて。その人は【聖槍】だったりする。

その人が語るに「勇者様を愚弄するつもりですか」という言葉。その言葉の裏に隠された意味が僕には全く分からなかったので、とりあえず聖女と会話を続けていく。そんな時だ──突然背後から聖剣の気配を感じた僕は振り返ると。そこには僕の手に握られていたはずの【聖剣】がそこにあり。

僕は聖剣が独り歩きをしていた事を知り驚くも、その理由を考えるも全く思いつかない。そんな時だった。聖女からこんな提案がなされたのは。それは、魔王を倒すためには、今の戦力では到底足りないのだと。

だから魔王の【魔剣】の力が必要だと。そして魔王を倒すための準備期間に、まずはこの国に存在するダンジョンを一つクリアする事でレベルを上げようではないかと、そう提案されたのである。

その提案には、皆も納得するところはあったのだろう。それに魔王軍も今現在、魔王が倒されてもおかしくないだけの力が既に集まっているはずなのだ。だから時間はあまりないのだと告げる聖女さん。

僕たちが【聖剣】を取り戻すためにここまでやって来た理由と、魔王軍が本格的に動き出してしまう前に準備を進めるべきという彼女の意見を聞き、僕は決断する。

その提案を受け入れると。僕たちは、魔王討伐の足掛かりを掴む為に。ダンジョンを攻略する事にしたのである。

僕達はダンジョンに潜るための拠点を確保するため、王都にある『冒険者ギルド』に向かう。そこで僕たちが受けようとしたのは【D級クエスト】。

その内容は、最近この国の近くにある【遺跡】と呼ばれる場所で魔物の大量発生が確認されているらしく。それの解決と、原因究明を行うといったものだった。なので── 僕達は今──『大迷宮』と呼ばれる『王立図書館』の地下に広がるダンジョンへとやって来ている。ここも当然の如く【魔窟士】の技能により転移が可能であり。その利便性から、ここに拠点を築く事になったのだけど。

ここを探索していくうちに僕は気付いた事がある。この『大魔迷宮』と呼ばれているこの場所には『大魔神殿』が存在しているはずだと。だけど──この場所には見当たらない。それなのに【大魔迷宮】という名称が付いているのだ。

(ここって『大魔神殿』がある場所とは違う場所なんじゃ?)

そう考えるも僕は直ぐに首を左右に振って否定する。

ここだって『大魔神殿』の攻略時に何度も足を運んでいる場所だ。なのにここが『大魔神殿』が存在する場所に思える理由は単純で。『大魔神殿』が存在したと思われる場所に【魔剣】が置かれていた場所と非常に酷似していたからである。だから僕としては【大魔神殿】が存在していても何ら不思議ではないと思えてしまうんだよなぁ。そんな事を考えて、ふと思い出したのは──以前聖女さんに聞いた内容である。

(そう言えば【魔剣士】と【魔剣士使い】はお互いに助け合う事が出来る関係である。その事は【聖女】にも伝えておきますね)この言葉の意味が分かった瞬間。僕の背筋に冷たいものが走る感覚に襲われたのだ。

(それってまさか)

【魔剣使い】も僕同様に【固有技能】が与えられていたのだろうか。そうなってくると話は別である。僕と同じ状況にあったとしたら。もしかすると──いや、間違いないと思うんだけど、彼は自分の意志で【魔剣】を僕に託したのではないのかと。

そしてそんな風に考え込んでいると。目の前で戦闘を行っていた仲間達から怒声が上がる。慌てて視線を向けた先に見える光景は──僕の仲間たちに【勇者】を加えたパーティメンバーが、大量のアンデッドに囲まれているというもので。僕は急いで駆け寄ったのだ。

(うーん。確かに【勇者】の【スキル】でアンデッドに効果的なダメージを与えられてるみたいだけど。やっぱり【聖剣使い】が二人居るって、反則だよなぁ)

まあ、今はそう言った考えよりも優先すべき事が有るかと思い直すと。僕達も戦いに加わるべく行動に移るのであった。

僕が【悪魔神官】に対して放った一撃は、見事彼の腹部を捉えていたようで、【聖女】である少女が口元に手を当てながら「やった?」などと小声で口にした事からも分かる通り。どうやら倒すことが出来たらしいと実感すると共に、僕の胸の中には言い表せないような安堵が広がっていたんだ。

その攻撃の際に発生した光は、僕を祝福してくれているかのように、まるで天上から降り注いでいるかのような暖かさを感じさせてくれていて。

「ふう」

僕は自分の頬を流れる汗を手で拭いながら、ゆっくりと息を吐き出すと──その手をジッと見つめる。

自分の身体の中に何か特別な力のようなものが流れ込んで来るのが感じられるんだよね。それは多分【固有技能】が発動した際に起こる現象の一つだと思う。今までは漠然と【魔剣召喚】の力を身に宿す度に、なんとも言えない高揚感を感じていたんだけど。今日はそれとは別に自分の中に流れ込んだ力の存在をハッキリと感じ取っていたのである。

ただその力については──正直よく分からないというのが大半を占めていていたのは確かで。僕の【技能】に【魔剣召喚】という【固有能力】が備わり。その【魔剣使い】という職業に就けた事で。初めて僕の手に【魔剣】が出現した。

その事には素直に喜んだものの。僕が得たその【固有能力】が、具体的にどういうモノであるかについては全く分からないという状態に陥っていたのだ。だから、今回の一件を経て改めて思うのが──僕は【魔王】という存在と相対した時、本当に戦えるのかどうかという事。その事に関しては未だに答えが出ていなかった。

しかし──その事を【英雄】の【固有技能】を使って確かめていたとしても。結局、【魔王】と対峙したら僕は怖気付いて逃げていたのかもしれないけど。

「あの時は聖女様のお陰ですね」

「聖剣に施された加護は伊達ではありませんから」

僕の独り言のような言葉を拾い上げてくれたのは【聖女】で。彼女は【固有技能】【癒しの聖杖】によって、【治癒魔法】の威力を増幅させるだけでなく。怪我をした際の治療に関しても劇的な効果をもたらすと聞いていた。

だからこそ僕は彼女に向かってお礼を告げると。彼女が【魔剣】を【固有技能】を用いて呼び出してくれたので──。僕は、その【魔剣】の力によって窮地を脱したのである。しかし──僕の胸に芽生えたのは、【魔剣】という存在に対する恐怖心であった。

何故なら、僕の心に植え付けられたその感情は、聖女さんの一言が原因だと言えるからだ。

──【聖剣】に備わっているのは、あくまで傷の回復のみです。

そう言われた瞬間、僕の心臓がドクンと跳ね上がる音が聞こえてきて。同時に背中には嫌な汗が吹き出し始めた。その事を誤魔化すかの如く僕は「大丈夫。【魔王】を倒せるくらいには鍛えてきたんだから」と言葉を口にする。するとそんな僕の気持ちを察してくれたのだろう──。

「そうそう、私達がしっかりサポートしてあげるから」

と、【聖斧】が励ましの言葉をかけてくれる。その言葉に僕は小さく「ありがとう」とだけ返すと。再び顔を上げて、今一度眼前の光景を視界に映していく。

「この階も特に何もないみたいだね」

僕が周囲を見渡し、この階層の様子を確認すると。聖女様は【魔剣】の【鑑定】を行った後、僕に対してこんな言葉を伝えてくる。

それは──『無職の英雄』が【魔剣使い】のジョブに就いている以上、これから訪れる場所では【魔剣】が出現する事はないはずなので。今ここで手に入れておくべきだという提案で。そんな彼女に促され。

この『大迷宮』と呼ばれるダンジョンでは【魔剣】を回収できる場所があるのだという説明を受けた僕は、彼女の指示に従う形でその場所に向かったのである。ただその際。僕たちが通った道には、多くのアンデッドが出現し、それを仲間達に退治してもらいながら進まないといけなかったわけで。その為かなり時間がかかってしまったのだ。それでも何とか目的地に到着する。

そこは少し広めの部屋になっていて、天井からは青白い炎に包まれている骨の腕が生えている不思議な空間だった。そしてそこには──【D級クエスト】を受ける前に目にしていた物とは色違いだけど。確かに見覚えのある【魔剣】が置かれている事に気付くと。

【魔剣士】が持つ特殊な武器として、やはりこれは【魔剣士】専用なのだなと考えさせられていた。そこで聖女さんに言われるがまま──僕がそれに触れると。一瞬だけ全身が白く発光していき、僕の目の前にウィンドウが表示されたのだ。するとそこには──。

【D級ダンジョンをクリアした報酬として。魔剣の欠片が一つ送られてきました】

と言う文字が記されていて。僕の身体の中には、魔剣の力が取り込まれていくのを感じる。その感覚から僕は【魔剣】を手にしたことで──僕が【固有能力】を得るのと同じように【魔剣使い】にも新たな固有能力が与えられるのだという事実を知ったのであった。

「それでどうするんですか? まさかいらないとか言うんじゃないですよね?」

僕の隣まで歩み寄ってきた彼女が僕の顔を覗き込みつつそう問いかけて来た。僕はそんな聖女さんの視線から逃げるように、その視線から逸らしてしまうと。僕は彼女の質問にこう答えたのである。

僕の脳裏には──先程確認した魔剣に関する説明の一文。それが思い浮かんでいたのだ。【魔剣】には大きく分けて二つの種類が存在するのだと書かれていた。

一つ目は通常の武具が【魔剣】に変化したものであり。二つ目の【魔剣】は通常の武具が魔物やアンデッドに変化するもので。【聖剣】の場合は後者になるそうだ。

そして今回手に入れた【魔剣士】専用の【魔剣】は後者のようで。しかも【Dランク】に分類されるものであるようだけど、僕に与えられたものは【Eランク】に設定されているらしく。それに加えて、どうやら僕が与えられた魔剣は、僕に力を貸してくれる魔剣ではないようである。つまり僕に与えられるのはあくまで一時的な補助に過ぎないのであって、僕の戦力が増大するわけではないのだ。

(魔剣が手元にある間は強くなることができるかもしれないけど、なくなった途端弱くなるなんて。僕って結構ダメなのかも)

僕の中で【固有能力】が【魔剣召喚】である時点で、他の仲間に比べて弱いのではないかという懸念が生まれ始めていたのである。そんな僕に聖女様がこんな言葉を紡ぐ。

それは──。僕に魔剣を与え、僕の能力を強化してくれる魔人族。【魔王】は間違いなく存在している。そして、今の君よりも圧倒的に強い存在である。と。その言葉で僕の頭の中に、一人の人物が思い出されたのである。僕よりも圧倒的強者であろうその人物は──僕と同じ【魔王】という【種族】を持つ存在であり、この【大迷宮】を支配する魔人の国。

そう、僕たちはその魔人に【大迷宮】に囚われてしまっているのである。

その魔人は【固有技能】を使って様々な能力を使いこなしていると聞いている。もしかすると僕が手にしたこの【D級魔剣】もそいつが生み出したものなのだろうか? いや──もしかすると僕を罠にかけるためにわざと僕たちに情報を流している可能性すらも考えられる。僕がそう考えると、聖女様に尋ねていた。もしかして僕たちをここに誘き寄せる為だけにあんな情報を与えたのではないか? 僕がそんな考えを持っている事を彼女は悟ったのか。聖女様は首を横に振ると、口を開いたのであった。

「私も最初はそう考えていました。魔人を倒せば──いえ、魔王に勝てれば【固有技能】を得られるかもしれないと、でも。今はもうそんな事は考えられません。貴方の持っている力はそれだけ強力なのですから。私は【固有技能】を授かった時に知り得なかった事を。既に貴方は体験してしまっている。その【魔剣】だって──本当は、私の力じゃ絶対に呼び出せない代物のはずです」

僕の【魔剣召喚】で召喚された魔剣の力は、確かに強力だった。だからこそ【魔剣】は特別な存在で。本来なら、聖女さんの力を借りて呼び出したものじゃない。だから──僕は聖女さんにこう口にしたのである。

聖女さんの力を借りる事が出来なくても。僕は自分の力で魔剣の力を引き出す事ができたんだ。それに僕は──。このダンジョンを攻略するという目的がある。ならばこそ──僕はこの力を振るおう。僕はそう宣言して、【魔剣】を自分のものにしようとしたのであった。

僕は【魔剣】の柄を握る。すると──その【D級ダンジョン】を踏破した際に、【魔王】から受け取ったメッセージウィンドウと全く同じものが僕の眼前に現れたのである。

「なるほどね、これがその【D級ダンジョン】を制覇したら貰えるご褒美なんだ」

僕の独り言のような言葉に聖女様はコクリと小さく頭を縦に動かした。

「えぇ。これで貴男は魔剣士として一人前の実力を手に入れたことになります」

そう告げられた僕だったが、僕自身は未だに自分がそこまで成長したとは思えない。だからこそ、僕にこのダンジョンでの経験を活かして、強くなれと言うようなニュアンスで伝えてきた聖女様の言葉に──少しだけ心を痛めてしまったのである。

僕は、このダンジョンに出現する魔人が一体どういう存在だったのか、そしてどんな【技能】を有しているのか分からない。だけど、もしその魔人と出会えた時。僕一人で戦う事になったとしても──負けるつもりはなかったのだ。しかし聖女さんはその事について、僕が思っている以上に危惧していたようである。僕が聖女さんの心配そうな表情から、その気持ちを読み取ろうとしたその時だった。突如、【悪魔神官】が動き出し、僕はその対応に追われる事になったのだ。

何故なら、【悪魔神官】の狙いがどうやら聖女さんである事が分かったからである。僕はその事を瞬時に察知した聖女さんに向かって「ここは任せて!」と言葉をかける。そして同時に僕は【魔剣】を構えると、僕に襲い掛かってくる【魔戦士】と【魔拳士】の攻撃を受け止めつつ──聖女さんから距離を取らせないように立ち回ったのだ。

僕の背後からは【悪魔】達が放つ魔術の光が放たれていた。

「おのれ! 余を舐めるな!!」

そんな言葉を口にした【D級魔王】。

しかしそんな彼の身体には傷は見当たらないので。おそらくは【魔剣】で防いだのだろうと推測できた。だが僕はそこで違和感を覚えた。僕の視界から消え去ってしまったのだ。【魔剣】の力で、僕からその身を隠せるはずがないと思ったからだろう。

(【固有能力】の消失?)

そんな事を思いながら僕は周囲の様子を探り続ける。

そんな僕の耳に聞こえてくるのは。【悪魔神官】が何かを唱えようとしている声と。そんな彼に攻撃を加えようとする【聖騎士】達の声だけだった。

僕の視線の先に、先程姿を消した筈の【D級魔王】の姿がある事を確認した僕は、すぐさま行動に移った。そして僕の予想通り、【魔剣】によって僕の目には見えないようにされていただけで、僕の視界には、まだしっかりとその姿が映し出されている。そして僕は再び、【魔剣】の能力を解放するべく意識を傾けたのである。

聖女さんには悪いとは思うけれど。それでも──僕が聖女さんを守ってあげる事ができる時間は少ないのだ。僕が聖女さんと別れるまでには──どうしてもこのダンジョンを突破できない可能性があるのだ。

僕の【固有能力】が、今現在、どれだけの聖女さんの役に立てるようになっているのか、それを見極めなければならないから。

──【魔剣】から発せられる魔力が増大していき。僕はその【魔剣】を強く握り締めると──。【聖剣】から溢れ出す光よりも更に濃い白色の輝きを放つ光球を生み出していった。そして僕の脳裏に【魔剣使い】が持つ【技能】である魔剣解放に関する説明文が表示されたのを確認してから、僕は再び叫ぶように口を開く。

すると今度は、僕の右手から現れた魔方陣から一振りの刃渡り五十センチ程の短剣が現れたのであった。

その短剣を手にした瞬間──僕の脳内に流れ込んできた【聖剣術Lv1】に関する情報の数々。

──【魔剣召喚】と【聖剣召喚】は別々だけど、互いにリンクしていて──その能力が共有できる? そんな説明が僕の頭の中に流れ込み、僕はこの【魔剣】に秘められている能力の一端を理解するに至ったのである。それはつまり【魔剣】を手中に収まった僕に魔剣が与えてくれる【固有技能】が自動的に発動されるようになっていたのだ。そして【魔剣召喚】を発動する時には、先程手にしたばかりの【D級魔剣】に蓄えられていた魔力と能力の一部を【魔剣召喚】に使用するというわけで。つまり、僕の力に余裕が生まれるという仕組みになっているのであった。

そして──。僕の周囲に光の渦が発生し、そこから七つの【魔剣】が出現し始めた。【魔剣】が召喚された際に、その場に残していく魔剣の数が最大十である事から考えると──これはかなり凄まじい事である。しかし僕の【魔剣】の本領はこれから発揮されるようであった。

僕の脳裏に新たに表示された説明文から考えるに、どうやら【魔剣】にはそれぞれの【固有技能】が存在していて、僕の持つ【固有技能】【魔剣召喚】は魔剣召喚に必要になる魔力を全て肩代わりしてくれるようである。だからこそ僕はこのタイミングで【固有技能】を使用する事で──僕の【魔剣召喚】に必要な力の大半を魔剣の召喚に当てられるという事になるのである。しかも僕の魔剣の能力は魔剣の力を引き出しやすくするという効果も持っていて、その能力を僕はすぐに把握する事ができた。

ただ残念なのは──【固有技能】が、魔剣の能力を引き上げてくれるという効果がある一方で、僕の体力と精神力を大きく消耗してしまうという部分にあるのだろう。

そして【D級魔剣】を手中に収めてからの僕の戦い方は一変していた。

僕が振るう魔剣が、【D級ダンジョン】で得た魔剣であると気づいたからなのか、魔人族達が【悪魔神官】の事を庇おうと、魔剣を使って攻撃を仕掛けて来たのである。

僕はその攻撃をいなしながら【魔剣】の一撃を喰らわせると。【魔剣】に内包されている力が【魔剣】に吸収されていくのが分かった。すると僕の手元に新しい魔剣が新たに姿を現す。それを繰り返しているうちに、僕はようやく気付いたのである。僕の【固有技能】である【魔剣使い】の力は、僕がこのダンジョンに出現する全ての魔剣に認められる必要があったのだという事を。そしてそれがこの魔剣の試練なのだと言う事を。

僕はその魔剣を【D級魔剣】と同じように扱っていたのだが。僕のその行動を見守っていた聖女さんに、そんな風に思われても仕方がなかったのだと思われる。

なぜなら【悪魔神官】の援護を受けつつも──【勇者候補】達が魔剣を振り下ろし、魔人の拳や蹴りが放たれるのを必死に受け止めて、なんとかその連撃から耐え続けていたからだ。そんな中、僕は魔人達から【聖剣】を強奪し、【D級魔剣】を奪い取る作業を続けていた。すると、いつの間にか魔人が僕に向かって話しかけてきたのだ。それは今までとは違う雰囲気を持つ口調だった。まるでこのダンジョンを支配する魔人と、そう変わらないくらいの強さを持っていたからこそ感じ取れた違和感のようなものである。しかしそんな事にも気がつかないほど、僕が追い詰められていたという事に他ならないのかもしれない。

「我が名は、【D級ダンジョン】の支配者【魔王】だ。お前の名は?」

「僕はユウト、君は魔人なんだよね? でも何で人間の言葉を話せるのさ!?」

「フッ、我は魔人では無い、魔に心を売ったが、誇り高き魔族の血は今もなお流れているのだからな」

僕の言葉を受けて【魔王】はニヤリと笑うのであったが。

僕は魔人を倒さないとこのダンジョンを脱出する事は出来ないのだと【聖剣】での攻撃を続ける【聖騎士】に語り掛けながら、僕はこの場から立ち去るために行動を起こすのである。しかし僕の動きは、魔人が僕に対して放った攻撃により阻止されてしまった。その威力は高くないものだったのだけど。その隙を突いて【聖剣士】が【固有技能】【聖剣術】を使用したようで、【聖剣】から眩く輝く刃が放たれたのが見えた。だが僕はその【聖剣士】と【聖騎士】の二人が、聖女さんの傍から離れてしまった事をチャンスだと考えたのだ。そして【魔剣召喚】の能力を使用して魔人が持っていた二本の魔剣の内一本を奪うと。それを【聖剣士】に向けて投げつけるのである。すると──その剣が聖剣の刃に触れようとした瞬間、その刀身から発せられる光に触れた瞬間に、魔剣はその力を失いただの剣に戻ってしまったのだ。

そしてその光景を見た聖女さんの顔色が一気に悪くなったように見えたのは、僕が聖剣の輝きの美しさに見惚れてしまっていたせいだと思う。そんなこんなしている内に聖女さんの近くにまで迫っていた魔人──【魔王】は、【魔剣】による強力な突きを放ってきたので、僕はその魔剣の攻撃を受け止めたのである。そんな僕に聖剣が振り下ろされるが。魔剣を【固有技能】の魔剣使いの【技能】を発動させて、その聖剣を受け流してやったのだ。

すると、魔人はそんな僕の行動に目を剥いたのだ。そしてそんな彼の隙だらけになった腹部に、僕の魔剣は吸い込まれるように放たれたのである。すると僕の手の中にある【D級魔剣】の力は失われ、魔人から魔剣を奪った事で【固有技能】の魔剣使いの力が再び使えるようになった事を知ったのである。だが、その瞬間に、僕の【聖剣】は魔人に奪われ、魔剣の切っ先が僕の身体へと向けられたのだ。それは一瞬の出来事だった。そして魔人の剣に貫かれた僕はその場で崩れ落ちていったのである。

そんな僕の姿を見て魔人は、僕を見つめると口を開いた。

それはこの【D級ダンジョン】を支配していた【魔王】に相応しい、堂々たる声色で、彼はこう告げるのであった。

──この【D級ダンジョン】を攻略できたならば──お前に【魔王の証】を与えてやってもいい。それを手中に収めた後、我が元へ来るが良い。

僕の視界の中で【魔王】の輪郭が揺らぎ始める。おそらく転移を発動したからだろう。しかし【聖剣】の光が僕から消えると、魔剣から溢れ出る闇色の魔力が聖剣に集まり始め、魔剣は消え去り。聖剣から光の魔力と魔力が絡み合ったかのような、不思議な力が放出されて、魔人が居た場所を中心に、光の柱が形成されていた。そして魔人の代わりに姿を現したのは、先程【勇者候補】達と対峙していた魔人だったのである。

僕はすぐに立ち上がり、聖剣の魔力を【魔剣召喚】で吸収しようと試みるも。聖剣から放出される光に、魔剣の放つ光は完全に飲み込まれてしまうのであった。どうやら僕の【固有技能】では魔剣の能力を引き上げる事ができても──その能力自体を封じるような力は有していないようであった。そんな聖剣を僕は呆然と見据えていたが、やがて聖女さんの声が聞こえてきて──僕の視線が彼女に向く。

どうやら僕の力の全てを使って、魔人を消滅させるつもりらしい。僕はすぐに彼女の元へ駆け寄ろうとするも、聖剣の発する力に押し戻されてしまうのであった。そんな中──僕の目の前に現れたのは【勇者候補】の少年と少女の二人であった。

彼らは【勇者候補】という称号を与えられた少年少女で。僕の知り合いである二人でもあったのだ。そんな彼らの口から【勇者】という言葉が出て来て。僕の頭の中は真っ白になってしまったのである。しかしそんな混乱する頭の中とは裏腹に──僕の身体は勝手に動いていて。魔剣召喚を使って【魔剣】を呼び出すと同時に、【D級魔剣】を握り締めていたのである。

僕の手元に魔剣が現れると、魔人が手にしていた魔剣から魔力が噴出し始めた。その現象を見て僕は全てを理解するに至る。そして【聖女】の言葉を思い出していたのである。そう──僕の【固有技能】である【魔剣使い】には、魔人の持っている魔剣の力を引き出す力もあるのだという事に。だからこそ僕は魔剣を握る事で、その力を発現させる事にしたのだ。すると、僕の意思に応じて魔剣から魔人の持つ魔剣と同じ力を引き出せるようになった事を理解したのだ。しかしそれとは別に、聖剣が放つ強烈な輝きによって押し潰されてしまいそうになる。そんな状況下で、僕の【固有技能】が、この【固有技能】【魔剣使い】が発動する事となった。それにより僕の脳裏に文字が表示されたのであるが。

【D級魔剣】──使用者が【D級魔剣】を手にする事で使用可能になる魔剣。

効果:【攻撃力+10】

説明文を読んでみると魔剣の名前が、今手中に有る魔剣が【D級魔剣】であるという事が判明したのである。ただ僕はそんな事を確認するよりも先に、【魔剣召喚】と【魔剣使い】の能力で、僕の周囲に七つの【魔剣】を出現させた。すると、【聖剣】が生み出している力と、魔剣が発している魔力が混じり合うと、凄まじい衝撃が発生すると共に、僕の【固有技能】の魔剣使いの能力の効果を上昇させている【D級魔剣】が砕け散ってしまったのである。その事に動揺してしまう僕だったが、それでも聖剣から溢れる光の波動を受け止める為に、僕の魔剣に込められた力を振り絞った。

その結果──僕は聖剣の波動を受け止める事に成功したのだけど。しかし魔剣が破壊された影響で、その波動の全てを受け止められなかったのであろうか。僕が吹き飛ばされてしまったのである。しかし僕は何とか空中に留まると、地面に降り立った。しかし聖剣が放った【ホーリーブレス】は僕だけでなく【聖剣】本体の【聖剣】からも放射されていて。僕の周囲にあった【D級魔剣】が破壊されるだけではなく。周囲の魔人達も消し飛ばしてしまったのだ。そしてそれはこの【D級ダンジョン】の支配者である魔人も例外ではなく、魔人は聖剣の力に耐えきれず消滅したのである。そして──聖剣から放たれる【聖気】の影響が消えた時には、僕と聖剣の【主】である【聖剣】の持ち主だけがその場に立っていたのであった。

「聖女様。私達の負けです」

そう言って膝を付く【魔王】の姿を見て、僕も慌てて【魔王】の前に立つのであった。そして僕は魔人の魔剣を奪っているので【魔王】と敵対する事無く、聖剣を返して欲しいと交渉しようとしたのである。しかし、【魔王】は聖剣を渡す事は出来ないと言い、僕が聖剣を手に入れた時の事を話せと詰め寄ってきたので、聖女さんの言葉を思い返しながら語って聞かせた。すると、僕の話を聞いた【魔王】は、僕に取引を持ちかけてきたのである。

その取引の内容は魔剣の【所有権】がこちらに移る事であり、【聖剣】の方はこのまま聖女の手に握られている方が良いと判断したのだ。そしてこの場を治めて欲しいと言う事だったので、僕は承諾し──聖女さんの傍に移動すると、彼女に聖剣を返す事とした。すると、僕から【聖剣】を受け取った聖女さんは【聖気】を使い魔族達が消え去ったこの場所一帯を修復してしまったのである。そしてその作業が終わると聖女さんは聖剣を腰に差したのだ。その一連の流れを僕は呆然と眺めていたが、【聖女】はそんな僕に笑顔を見せる。それは今までに見た彼女のどんな顔とも違うとても優しげなものであった。そして僕に向かって語り掛けてくる。その口調はとても優しいものなのだが。僕の心にその言葉が深く刻み込まれたのである。それは、 ──あなたのおかげでこの【D級ダンジョン】は救われました。ありがとうございます。これからは【D級】ではなく、他のダンジョンと同じように、難易度を下げなければいけませんね。

聖剣を取り戻した【聖騎士】と【勇者候補】の少年と少女は【魔王】の元へ向かうのである。

その後姿を見送りつつ、僕は【D級魔剣】を回収するのだった。すると、その【D級魔剣】が【D級魔剣】から【魔剣】へとランクアップしたので──【固有技能】を確認してみると、新たなる力を得ていた。それは、 ──『剣聖』

僕はこの【D級魔剣】を手にした時──聖女さんとの模擬戦で魔人との戦いの時にも、僕の頭の中でそんな単語を見た記憶が在る。おそらく聖女さんとの戦闘を通して、魔人と聖女さんが持っていた【固有技能】が僕に付与されたようだ。そして──この力のおかげもあって【D級ダンジョン】が攻略できたと僕は思うのであった。ちなみにだが、この力を得てからは、【聖剣】から感じていた圧力がかなり軽減されていたりもしたのだ。なので僕はその力を得たおかげで【聖剣】を扱いやすいようになっていたと思う。まあそんなこんながあって。

「勇者よ、我が配下となる事を許す」

そんな魔王の言葉を貰う事になり、こうして【D級魔王】の僕に【魔王】という称号が追加されたのである。

【勇者候補】達は、【魔王】が居る謁見の間に入ると、それぞれ武器を構えたのだが──僕の方を向いて何かを呟き始めると、僕が手にしている【魔剣召喚】に、彼らの視線が集中している事に気づいたのである。すると、彼らが僕の方を向き、微笑を浮かべると、聖女さんの方は苦笑しつつ、聖女が持つ聖杖を掲げる。そしてこう宣言するのであった。

「皆さん──彼はもう大丈夫ですよ」

僕が魔人を倒せたので、僕に対する脅威は無いだろうと考えたらしいのだ。その言葉で【勇者】の称号を与えられた少年少女たちは構えを解いたのであった。そんな中、聖女さんが僕に近づいてきて──その手を伸ばし僕の手を掴むと、僕の耳元でそっと囁くのであった。

──あなたには期待しています。どうか私の願いを聞き届けて下さいね。

そう言って僕から離れていく聖女の姿は【勇者】の少女に視線を移していたのだ。だから僕はこの時、自分の役目はここで終わったのだろうと感じるのであった。そう思い至ってしまうと、聖剣を手にしてからの事が次々と思い出されていくのであった。それは【勇者】の少年と少女との出会いであったり、【勇者候補】である少年や少女達との出会いであったのだ。そして──僕はそんな彼らの未来を案じていたのである。そんな彼らの為にも頑張らなきゃと思いながらも──僕の胸の中には一抹の寂しさがあった。なぜなら、そんな気持ちを抱く自分が居たからだ。その理由もなんとなく分かってはいたが。でも── 聖女が聖剣を【魔王】の手から受け取ると、彼女はそのまま、僕の元に近づき手渡してきたのである。

その行動を見て、【魔王】が僕に対して何かを告げようとしたが、それを制するようにして聖女は言うのであった。

──この魔剣があなたの物になった事で【D級ダンジョン】が攻略出来たんです。その事は間違いありません。だからこそこれは正当な報酬だと思って欲しいのです。

僕はそう言われてしまうと、断る理由が無く、聖剣を受け取る事とする。そして、僕の傍にやって来た【聖剣】が僕に言ったのだ。

──おぬしの力を認めよう。よくぞ聖剣に選ばれし者として【勇者】と共に戦ってくれた。感謝しておるぞ。

僕と【聖剣】の会話を聞いていた【聖剣】の持ち主の少年が目を輝かせ、僕を見てきた。どうも【聖剣】の事が知りたかったみたいで。そして僕は【聖剣】について色々と教えるのであった。その話は、今度こそ、平和な時間が訪れるまでの一時の休息の時間であり、僕が望んでいた楽しいひとときであったのかもしれない。しかし──僕にはまだやるべき事があるのである。

僕と聖女さんと聖女が持つ【固有技能】の確認を行う事になった。そこで分かったのが── 【勇者候補】の聖剣の能力は、僕の持つ【光剣】とほとんど同じ能力であり。聖女の持つ【固有技能】も【治癒】である事から、【固有技能】に関してはほぼ一緒と言っても良い。しかし──僕の場合とは違い【魔剣】の【魔剣召喚】をする事が出来なかったのだけど。それは【魔剣】自体が聖女さんの手元に残っているからであると思われる。聖女さんは僕に聖剣を返した後にその事に気づいて、そのせいで【聖剣】の力が使えないのではないかと不安を感じていたようだ。ただその事については、魔王の配下の魔人である魔人に【D級魔剣】を奪われて奪われた際に、奪われる前に魔人から取り戻していた魔剣を使って、その【魔剣】から力を引き出していたので、心配はいらないと説明したのだ。しかしそんな僕の説明を聞いても納得出来ないのか、不安そうな表情をしていたのだ。そしてそんな彼女に向かって聖女がこう言い出した。

「では聖女様は私と一緒に特訓ですね」

「そうですね」

「あの。ちょっと、私の意見も聞いてください」

聖女さんの言葉を聞いた僕は焦ってそう叫んだのであった。そして僕は魔王の方へ振り向くと、聖女の事はお願いしますと頼んだのだ。そして聖剣を持つ少女が僕に声をかけてくる。

「ねえ。君の名前は何?」

少女は少し緊張気味に僕の名前を訪ねてくるのである。僕は自分の名を名乗る事にするのであったが。僕の事を見ている【勇者候補】の少女の目が、どこか僕を疑っているような目になっている事に気付き、その事に気付いてしまったのだ。なので僕は思わず苦笑してしまう。その笑みが【勇者候補】である【少女】の目に入ったのか。彼女は不思議そうな顔をしたのであった。

その後、僕は【D級魔剣】を持って聖女さんと、【聖女】と魔王と【魔王軍幹部】達を魔人の【迷宮】へと送ってから一人になると、僕も【D級魔剣】に宿る【魔剣】の【固有技能】を開放すると、その場を立ち去るのであった。そして【英雄】の少年と合流して今後の相談をしようと思ったのだ。だがその時──僕の耳に悲鳴が聞こえたのである。

【魔王城】から出てみると、そこでは巨大な竜と戦う【聖騎士】の称号を持った少年と少女が居た。彼らは必死に戦いながら逃げ惑う人々を守ろうとしているようである。僕はそんな彼らの元へ駆けつけると、一緒に戦う事になるのだった。そんな僕が目にした【魔人】は僕に襲いかかってくる。しかし、その【魔人】は【聖剣】の特殊能力を使った僕の攻撃の前に消滅したのである。それから僕が見た光景とは──この【D級ダンジョン】を攻略した後に訪れた平穏の光景だったのだ。その事に安心感を覚えながらも──目の前で戦っていた少年少女達に話しかける事にした。すると、

「貴方のお陰で助かりました」

そんな声がかけられ、僕に礼を言ってきたのは、【聖騎士】の称号を持っている少年だったのだ。その隣に居た少女は【英雄】の力を持つ少女であった。だから、その二人の姿を見て、この二人こそが──これから【勇者】となる少年少女なんだろうと理解したのである。僕はこの二人なら任せられると感じて、【D級ダンジョン】攻略の報酬をこの二人に渡そうと決めて【魔王】の宝物庫へと向かう。そこで【D級魔剣】の【D級魔剣】と【D級魔槍】を回収し、そして【勇者候補】の二人が使う為の武器を探し始めるのであった。そうして探し求めていると【魔斧】の武器を発見するので僕はそれを回収しておく。その時に、その宝箱の中にあった金貨に手を伸ばしたのだが── 僕はそんな行動が悪かったのか、この部屋に【転移門】が出現してしまい。そこから出現した人物を見て驚愕する事になったのであった。

僕の前に現れたのは、僕に倒されたはずの【魔王】の姿だったのだ。

「どうしてここに!?」

そんな疑問の言葉が口から出ると、そんな僕を見ていた【魔王】の配下らしき魔人が、僕の手にしている武器と、手にした武器の違いを僕に問いかけたのだ。確かに【魔剣召喚】と【魔斧召喚】という違いはあるけど。それがどうしたというのだろうか? 【魔王】の配下らしい【悪魔神官】は僕が答えに困った様子を見ると、その言葉を口にした。

──なるほど。【魔剣】の所有者となられたのですね。それで【聖剣】を所持している訳ですか。【魔王】様、彼はもう大丈夫でしょう。後は私共が引き継ぎます故、どうぞ【魔王の間】へとお戻りください。そして魔王の座を継ぐ者への準備をお願いいたします。

僕を魔王の後継者として育てると、【魔人】達は僕に告げてきたのである。それはどういう事なのかと、僕は混乱する頭の中で考え、しかし考えるまでもなく、この人達が何を言っているのか解ってしまった。つまり──【魔王】と僕の戦いの後に、この世界に再び危機が訪れると予想されたのだろう。

【聖剣】を手にした僕に倒されて、この世界に生きる全ての者が僕を認めてくれるだろうと考えていた【魔王】は僕を倒す事が出来ず、だからといって自分の後継者になるだろう僕を殺す事も出来なくて。それで仕方が無く、自分の命を差し出して──その力を【聖剣】に譲渡しようとしたに違いない。

だからその前に僕は魔王を倒しておきたかったんだけど──その前に【聖剣】を手に入れて、しかも僕以外の誰にも【聖剣】が扱えないという状況にしてしまいたかったのである。でもまさか、そんな僕が【聖剣】を手に入れるだけではなく、それを使いこなす事が出来るようになっているなんて、きっと想像もしていなかったと思う。だからこそ──このタイミングでの魔王の登場なのだと思えた。

それにしても──この【D級ダンジョン】を攻略する為に頑張っていたら、今度はこの【魔王】と【魔人】達が僕を狙ってくるだなんて。なんなんだこの状況は! ──僕に一体何が起こっているっていうんだよ。なんなんだよ。

──これは。

僕がそう考えていると、突然、頭の中が熱くなった。そして今までの記憶が流れ込んで来るのである。その記憶の中に出てきた【魔剣召喚】と【魔斧召喚】と【聖剣】の能力を見て、僕はこれが何を意味しているのかを理解した。僕は【魔王】と戦わなくてはならないと、そして、その魔王が【聖剣】を使って、僕に戦いを挑んできているという事にだ。しかしそんな魔王に対してどう対応すれば良いのかと考えるが──何も浮かばなかったのだ。そうすると──

「──貴様に勝ち目はないと知るが良い!」

そう言い放つと、魔王が僕に向かって攻撃を繰り出してくる。しかしその一撃を受け止めると、僕は【魔王】に言ったのだ。

「【聖剣】を使えば良かったじゃないか」

「──何を言う! 我には、【聖剣】は使えんのだ!」

「えっ?」

その事を聞き僕は驚くと同時に納得したのだ。この魔王ならば、確かにそれは使えなくなるのだと。だって光の女神は光の神と戦い消滅してしまっているのである。光の女神を信奉していた【勇者候補】は居なくなったので、当然その加護も得られなくなってしまっているのだ。

そうなれば──魔王が光の女神の力が使える筈がない。だから光魔法を使う事が出来ない魔王の配下の魔人達と魔王では戦力が違うのだと思ったのであった。

だけどそうなってくると【魔剣】を使わないと、まともに相手にならないんじゃないかと考えた時、【魔斧】の能力を開放する事を思いつく。そうして僕は、自分の持っている魔斧を握り締めると魔王に向かって斬りかかったのであった。しかしそんな僕に対し、魔王は何かの魔法を使用したらしく、僕の視界から消え失せてしまうのである。

そういえば── 【聖斧】に宿る【魔斧】は『空間移動』の能力を持つ魔斧であった。その能力を発動させて僕に攻撃を仕掛けようとした魔王は、その発動する前にその姿を消す事になる。僕は魔斧の力を借りて、その場から飛び退くと魔王に切りかかろうとした。するとそんな僕の行動を予測されていたのか。いつの間にか、目の前に【聖剣】を構えて待ち構えている【魔人】が現れるのであった。だがその【魔人】も──僕の持つ【D級魔剣】から放たれた魔力刃により切り裂かれるのである。すると【聖剣】を持った魔王がその【聖剣】の特殊能力を開放させ、光の波動を放ってきた。

【魔斧】に宿る【魔剣】はその特殊スキルの発動と共に衝撃波を発生させて、その魔王の放つ光波を防ぐ。そしてその【聖剣】の威力に驚きながら僕は、次の攻撃へと移ろうとするのだが──その時、僕は自分の身に纏っている服が変化している事に気が付いたのだ。いや──正確に言えば【聖衣】と呼ぶべきものになっていたのである。【D級魔剣】は、【魔剣】の特殊技能である特殊能力を使用する際に、【D級魔剣】に秘められている【魔斧】の特殊効果の【聖衣】へと変わるのだ。この変化の時は──僕の身体に光が降り注ぐ事になるので僕は恥ずかしくなる。なのでその事を考えないようにしつつ──再び【魔剣】の特殊技能である特殊能力を使用して──【聖剣】を持つ魔王の懐に一瞬にして入り込むと、その【聖剣】ごと【魔王】の腕を切り裂いたのである。

「ぐああぁあぁ──ッ!!」

断末魔の声を上げて、魔王がその場から吹き飛ばされると地面を転がって倒れるのだった。そして僕は地面に落ちていた、先程回収したばかりの【魔剣】を魔王に向かって投げつけたのである。すると【魔剣】が【魔斧】と同じ特殊技能の発動によって、魔王が手にしている【聖剣】を奪い取った。そして魔王は立ち上がると、【聖剣】を自分の胸に当てたのだ。

そんな魔王に対して僕は、【D級魔剣】に【魔斧】の特殊能力の【D級魔剣召喚】で呼び出した【D級魔剣】を投げつけると──魔王の腹部を貫いて地面に縫い止めたのであった。

僕は魔王に対して言う。

「まだ、やるのかい? 今なら君を殺すのが簡単そうだけれど」

「クッ! 貴様は一体、何なんだ!? 何故、この世界に来て【勇者】の素質を手に入れたというのに、それを簡単に使いこなしてしまうのだ。こんな馬鹿げた話が有るわけがないだろうが! そんなに【聖剣】と相性が良いのは何故なんだ!?」

「それは僕にもよく解らないよ。でも、そういうものじゃないのかな。僕は元々、こっちの世界の人間だしね」

「異世界の人間だというのは解っていたが、その言い方はまるで元の世界に戻っていたかのような口ぶりだな。そうではないのだぞ? この世界の人間の中に、たまに現れる【勇者候補】はこちら側の世界の住民なのだぞ。なのに──どうして貴様だけが、そんなに違うというのだ。そんな事は、あってはならぬのだ。この世界で【勇者】になるのは──【魔王】の僕でなければ駄目なのだ。だからお前が魔王になった瞬間、僕の役目が終わり──この世界は救われるというのに! なのに、なぜ僕が負けねばならんのか──!」

そう言って【魔王】は自分の持つ【聖剣】を僕に投げつけてきたのである。それはそのまま【魔斧】の特殊能力の『空間収納』に収まった。そして【魔王】は悔しそうにしながらも言ったのである。

「これで【魔王】は居なくなるが、また別の【魔王】が誕生する。それを繰り返して行けば、いずれは僕が【魔王】に戻れるかもしれない──」

その言葉で僕は悟ったのだ。どうやら魔王は自分が【勇者】の資質を持ってこの世界に転生してしまった為に、本来の世界での自分の居場所を失ってしまったと悩んでいるようだ。そして自分の立場を利用してこの世界を救おうとしているらしいのだ。それを考えると僕は悲しくなってきた。でも【魔王】には魔王としての義務があると思うのだ。だから僕は──魔王に向かって、こう言ったのである。

「僕を殺してもいいけど、【魔王】として君臨してくれないと意味がないんだよね。だって──魔王がいなくなれば【魔王】は復活できないからさ。でも、僕を殺した後じゃ、【魔王】にはなってくれないんでしょ?」

「当然だろう。僕はあくまでもこの世界の為を思って行動しているのだ。それを否定するような輩など認める訳にはいかないのだ!」

「そうなると、魔王は【魔王】になる事を諦めるしかないんじゃないかな?」

僕がそう告げると、魔王は黙ってしまった。

それどころか項垂れて力無く座り込んでしまうのである。

【魔王】にとって【魔王】は特別な存在であるみたいだ。それはこの世界を救う為には絶対に必要な役割であると、心の奥底で理解してしまっていたに違いないのだ。そしてその事が彼を悩ませていたのである。しかし魔王は、その使命を全うする為に、今までの自分を変える事が出来なかったのであろう。

そう。魔王も本当は気付いているのだ。

自分は【勇者】ではなく【魔王】にしかなれないのだという事を。しかしそれでも【魔王】の責務を果たす為に頑張ったのだ。その結果──彼はこの【魔王】の力を持つに相応しい姿へと変貌を遂げたのである。そう考えれば、魔王は今まで自分のしてきた事は決して無駄ではなかったのだと思う事が出来るようになった筈である。

だって、その証拠が目の前にいる僕であるからだ。

「魔王。僕も今まで色々な経験をさせてもらったんだよ。本当に感謝している。だから、僕の為にも諦めてくれるかな」

僕がそう話すと、【魔王】は何も答えなかった。

僕は続けて言う。

「僕は、魔王にはなれないし。なるつもりもないんだよ。僕はただの冒険者でいいと思っている。それで──いつか僕の故郷に帰れたらいいなと思っているくらいだよ。魔王はこの世界に居るべきなんだ。僕と一緒に元の世界に帰れるようにしてあげるからさ。そうしたら一緒に暮らそう。だから──今は僕に譲ってくれると助かるんだけど」その言葉を魔王が聞いてくれたかどうかは分からない。だけど、それから少し時間が経つと──【魔王】はその姿を消したのであった。そして【聖剣】と【聖鎧】がその場に残された。僕はそれを拾い上げると──僕の中に存在する魔王様に確認してみる。

『あの、これって──使っても良いんですかね?』

『ん? 別に良いんじゃねぇか? 俺の力を欲して使うのは構わねえぜ。まぁ、俺はそんなもんよりも。こっちの方がいいんだけどよ。その【聖剣】に【聖剣】の能力を付与する方が楽そうだしよ。【聖斧】に【魔剣】ときたなら。その次も決まってるじゃねぇか。俺様が持ってる能力の中でも一番使い勝手が良いからよ。そっちを使うのは当たり前だろ』

僕の中に存在している【聖剣】と【聖斧】の二つは──僕の中で息づいている存在が所持している武器であった。なので僕の持つ魔道具である【D級魔剣】は、僕が所持していても能力を発揮できるが、その能力を他の人が使用しようとする場合は──その能力が使える相手から奪う必要があったのだ。

「というわけで。魔王様の許可が出たから、この魔剣を使わせてもらうね。あー、ちなみに。魔剣に付与された特殊技能を使用すると──使用者にも影響が有るから、あまり多用はしない方が良いかも。それと──」僕は【聖剣】と【聖剣】に【聖斧】の特殊技能を付与しながら、最後に付け加えた。「魔王が使用していた【魔剣】に宿っている特殊能力の発動は、【D級魔剣】の所有者は発動できないようになっているみたいなんだ。魔剣の特殊効果を発動させるのは構わないけれど──特殊技能を使用できるのは魔剣の特殊能力だけなんだ」僕は【聖剣】と【聖斧】を『空間収納』に収めてから言う。「それなら、この魔剣は君に任せようかな。君なら上手く扱えると思うしね」そう言うと、魔剣の持ち主だった【魔王】が使っていた魔剣が光り輝いて──一本の大剣の姿へと変化していった。

それを確認すると、僕はその場を立ち去ったのである。

そして僕たちは地上を目指して進み始めたのだった。

ただ【魔王】との戦いによって体力を消耗していた僕は、少し休む為に洞窟の壁に背中を付けて座る事にした。すると【炎鬼姫】は僕に近付いてきて言う。

「我が、回復してしんぜよう」

僕は苦笑しながら彼女に答える。

「いや、そこまで酷くないんだ。それよりも──【勇者候補】を一人、取り逃がしちゃったなぁ」

僕が呟いた途端に【英雄】が反応した。

「それなら心配はありませんよ」「え?」僕は彼の言葉に疑問符を投げ掛けたのだが【勇者】に質問する前に彼が口を開いたのである。

「先ほど、その男が【聖剣】を手にしていましたので──恐らく魔王様を倒したのでしょう」

「魔王を殺した!?」

「そうですよ。【魔王】を倒す為には、勇者は倒されなければなりません。それが、この世界の法則ですからね。それに魔王を討伐した後に魔王の力を手に入れて勇者になれるのも──この世界の常識ではないですか」

【勇者候補】がこの世界に来て【魔王】になるなんて話は前代未聞だろうが──実際に【勇者】になっている時点で前例が一つ存在するのだ。つまり──そういう事なのだろう。

でもこれでこの世界の【勇者】の件に関しては片が付いた事になるのかな。後は【聖剣】の行方だ。魔王の手に渡ると面倒だしね。僕たちが回収したい所なんだけど。それについても僕は考えていた事があるのだ。だから【炎鬼姫】と【聖勇者】には、これから【E級魔剣】を使って魔王城に攻め入るから手伝って欲しいと伝えた。もちろん僕自身も同行すると告げる。すると彼らは快く引き受けてくれたのである。これで【魔王】との決戦前に準備は完了だ。

僕たち三人は──いよいよ最後の戦いに向かう事にしたのである。

◆ 僕が『無能者』にされてしまった日は、僕が産まれて十五年目の日の前日であった。

それは丁度僕の誕生日であり、僕が『勇者』になる可能性に目覚めて、そして僕が【魔王】になる未来が無くなった日でもあった。その日僕は、僕自身の運命を変えてしまう出来事を経験する。

「貴方の名前は今、この時を持って終わりました」

僕は突然現れた女神様の前でそう言われて、唖然としてしまったのだ。その女神様は銀色の長い髪をしており、青い目をしていた。見た目の年齢で言えば十代の後半に見える。とても美しい女性であったが──彼女の纏う雰囲気は冷たく感じられた。そして僕は思ったのである。

彼女は女神なんかじゃない。もしかしたら僕を騙しに来いるんじゃないかな、って。

だけど僕の目の前にいる女神様は、まるで僕の考えを読み取ったように言う。

「私にそんな能力はございませんよ。私は──神族と呼ばれる種族の一人、そう。分かりやすく申し上げれば。私が──女神です。さぁ、『魔王』を倒してください」

その言葉を僕に向かって告げると、その自称する通りに──僕の頭に優しく手を置いたのである。それで僕の頭の中が真っ白になった。そして僕の頭の中に流れ込んでくる情報。

「ちょっ! 何だよこれ!!」僕は慌てて叫んだ。

そう。僕の頭の中に、見た事も無いような知識が入ってきたのである。

そのおかげで僕は分かったのだ。

この女性は──本当にこの世界の神なんだなって。それを証明するかのように僕が今までに体験してきた様々な事について語ってくれたのだから。だから僕は、その話を聞いていくにつれて信じざるを得なくなってしまったのである。僕は自分の身に起こっていた現象が『勇者』として選ばれていた為に起こった出来事だという事を知らされたのである。そして──自分が選ばれた『勇者』であるという事を自覚したのだった。

それから僕は『魔王軍幹部』である【闇魔女】の『ダークアイドローブ』、『聖魔王軍幹部の悪魔神官のザハーク』、『悪徳貴族令嬢のミリーエル=フリージス』を倒し、そして魔王と戦う事になったのである。魔王と初めて戦った時は──正直なところ恐怖を感じたのを覚えている。

しかし僕には魔王を倒す以外に道はないのだ。

だから必死になって戦う。

僕の持つ【D級魔剣】には、相手の特殊能力を吸収するという力があり、僕は【D級魔剣】を使用して魔王の持つ能力を吸収していったのだ。それで──遂にその時が訪れた。魔王が持つ特殊能力を全て吸収できたのである。その代償に僕は意識を失い、そのまま死んでしまいそうになったが──【D級魔剣】の能力により一命を取り留める事になった。そしてその能力が発揮されて──僕の身体の中に入り込んできたのである。

『俺の名は【聖魔剣エクスキャリバー】ってんだ』僕の頭の中で声が聞こえてくる。どうやら【聖魔剣】の声のようだ。僕は彼に確認するように聞く。

『君は僕の持っている武器なんだよね?』

『おうよ! まぁ今は俺を使う奴もいないしよぉ、暇つぶしで人間を眺めていたらお前を見つけたってわけだ』彼はそう言った。

その口調からは、その事実に対する悲しみは伝わってこなかった。ただの暇つぶし程度に考えているようである。だけど【聖魔剣】は僕を所有者だと認めてくれたみたいだ。

それから僕は、魔王にとどめを刺すために──僕自身が使える全ての特殊技能を使用し、そしてその攻撃に魔王は倒された。そう。僕はついに、本当の意味でこの世界を救うことに成功したのだ。

ただ僕は知らなかった。僕の持つ特殊能力に──魔王の力まで吸収していたということを。その結果、僕の持つ特殊能力の中に新たな能力が増えていたのである。その能力が【D級魔眼】という能力で、僕の持つ【魔剣】が所持していた特殊能力だった。僕の場合は【D級魔剣】が魔眼に変化したのだ。

そして魔王は倒したので【聖剣】も【聖斧】も必要なくなると思ったのだが、何故か僕の頭の中で声が聞こえる。それも僕に話しかけるように──僕の名前を呼ぶ。それが、魔剣から魔斧に魔斧から魔剣へと【変化】したのだった。しかも僕が使っていた武器の能力も引き継がれて──。そのお陰もあって、【魔王】に奪われた【聖斧】と【聖剣】は魔王と共に消滅してしまい。そして魔剣だけは、魔族の元から奪い返しておいたのである。

魔剣は──僕の手に残っていたので。

こうして魔王は倒された。しかし僕の戦いはまだ終わらない。

魔王を討伐したからといって、世界の危機が無くなるわけではないからだ。

魔王を討伐する事によって魔物を召喚できる者は消滅したが、魔物を操っている黒幕がいる以上──そいつらをどうにかしない限り安心できないのだ。

なので僕は──これから旅を始める事になる。

その目的は二つあった。まず一つは、世界を旅して、この世界の歪みを直す事。その方法も僕は分かっている。それは──この世界に存在するダンジョンの全てを攻略することだ。僕はそのために旅をするのである。

そして二つ目は──僕は、この世界の神様である『女神様』と、その眷属である『女神騎士』たちに会う必要があった。この世界の『魔王』を打倒した時に僕は、彼女たちから【祝福】を受けていて、それによって僕の称号欄に変化があったから、会いに行った方がいいと思っての行動なのだ。称号が変化したのは──『魔王』を倒した時の報酬のようなものだった。【魔王】が僕に与えた恩恵で得たものだね。そのせいで僕には新たに手に入れたスキルが四つほど存在する。【聖弓】とか【聖鞭】とかの武器系スキルに加えて、この世界の人達が使う回復魔法みたいなものも習得できてしまったのだから。この【聖杖】が僕のステータスを確認してくれて知った事なんだけどね。

◆ 僕は、魔王城を進むとすぐに見つけた女神たちに話しかける事にした。そうしないと話が進まないしね。それに僕は【E級勇者候補】だから、魔王を倒す以外の選択肢が残されていないのだ。だからこそ僕が倒して、その役目を全うしなければならないと思う。そう思い、僕は彼らに近付いたのである。

すると、最初に僕に話しかけてきたのは、【光の女神】のリリアンナさんだった。彼女は長い金髪に、金色の目をしている美人のお姉さんだったのだ。

僕が【聖剣】を持っているのを確認した途端に彼女は言う。

「ようやく、この世界の勇者が現れたようですね。【聖剣】を手にしている貴方は──一体何者ですか?」

僕が何と答えるべきか悩んでいると、【闇女神】のルミア様と、【地女神】のライラさんがそれぞれ僕の方に近づいてきて言った。そして僕の顔を見て、二人共驚いたような顔をしたのだ。そして二人は口々に、その容姿は『勇者』のものに似ていると告げる。そして僕の方も彼女達の外見に驚いたのであった。【聖女】に【光勇者】であるアリッサ。

僕は彼女達の名前を聞いていたが──どうやら彼女達は本物の勇者であるらしく、僕に勇者の力を貸してくれることになったのである。だから【勇者の試練】に挑む資格を得た。そう説明してくれたのだ。

「その話は分かりましたが、それで──あなた方は何故、この城にいるのでしょうか? 勇者であれば既に魔王と戦っている筈ですが」僕はそう問いかけた。

「その答えは──」【闇女神】である彼女が話そうとする前に、僕は言った。「僕の目的は──勇者になることじゃないです。僕は魔王を倒す為にここに来ました」そう。これが僕の目的。だから僕にとっては──彼女達が味方になるかどうかは関係ない。僕と一緒にいようといまいと問題は無いのだ。そう言う意味で、僕の言葉が予想外だったのか、三人はとても驚いていた。特に【聖女神】のアルフィーさんの表情には驚きが浮かんでいたように思う。ただ、僕としては、この世界を救いたいと思っているだけだ。それだけの話なのである。

【聖魔剣士】であるアスタの【聖剣】を手に入れられた事で、僕は【聖女】に認められたらしい。それで僕の能力値は大幅に上昇した。そしてそのおかげもあり、魔王との戦いで僕は無事に勝利を掴む事が出来たのであった。それから──この世界に出現した七体の魔王の最後の一人であった【悪鬼】を倒して僕は【聖剣】を取り戻した。そして僕の仲間である四人の女性のうちの一人でもある【魔剣姫】が【魔眼】に変わってくれたのだ。それで僕は新たな特殊能力が使えるようになった。それがこの世界の神である女神様からの贈り物だと言われている【聖魔眼】という特殊能力である。その能力は、僕が見ているものに干渉することができるというもののようだ。

例えば、僕は今まさに、【聖斧】から【魔斧】に変わった【悪魔王ザハーク】の姿を見つめているわけだけど、そうすることによって──ザハークを一時的にだが操ることだってできるみたいだった。ただ、その効果を発動するには相手の同意が必要になる。そして僕は──ザハークと約束をすることにした。その内容は、この【魔斧】を使って、僕の代わりに戦ってくれというものである。そしてその願いは叶えられることになった。だからザハークは僕に代わって【魔斧】の特殊能力を使う事になったのだ。その結果、僕はこの世界の魔王を倒すことに成功をしたのだった。

しかし問題は解決していない。僕は世界を旅して、この世界を救うという仕事が残っていて。それをする為には【勇者の試練】に挑まなければならないという事情もあった。僕は──【聖剣】を手に入れたことでその力が扱えるようになっていたのだ。つまり【聖魔眼】の力を借りて魔王を倒した時に手に入れた新たな特殊能力を使う事ができるようになっていたのである。それは──【D級聖剣使い】という新たな職業だった。僕はそれを使い、【聖剣】を【聖剣D】にすることで──聖女リリアーヌの加護を得ることができた。

それにより僕の能力が大幅に上昇したのである。

そして、【魔斧】に魔眼が変化した時も同じような現象が起きていた。僕の身体は、僕の身体では無くなっていたので、どういった経緯でそうなったのか、正確には分からなかったが。魔剣であるはずの【魔斧】は【魔斧】ではなく【魔剣聖】に変化したのだった。これはどういう意味かというと──魔斧である【魔斧】は【聖魔斧】になったってことだね。だから僕の身体は【聖剣聖】になっているはずなんだよ。ちなみに──僕を召喚した【勇者候補】の女性は、その事実を受け入れられなかったのだろうか、気絶をしてしまった。そのせいで僕の力の一部が彼女の中に入ってしまい、彼女の精神が崩壊をし始めたんだ。このままでは危険な状態になると思った僕は、急いでその場を離れたのだった。

それから、この世界で魔王を倒す為に与えられた力を有効活用しながら、旅を続けた僕は──魔王が復活するまでの時間で、世界を救う旅を終えたのである。それは──この世界の神様の『女神様』がこの世界に【転移符】を置いてくれたからできた事なんだよね。そうじゃなかったらこんな短期間で旅を終わらせる事は不可能だったはずだよ。でも、そんな事が可能になったのは【魔眼】に進化した魔剣のお陰でもあるのは間違いないかな。

とにかく、こうして僕の物語は幕を閉じることになる。

この世界に転生をしてから約十五年間にも及ぶ戦いが終わった瞬間なのである。

そしてこの日から──僕の新しい物語が始まるのだ。

僕の名前はユウト。【D級聖剣使い】で年齢は二十二歳、独身の男性だよ。

実は──僕は異世界から召喚された人間で。元々は、日本の学生をやっていたのだけれど。気がついた時には【勇者候補】になっていたのである。だから元の世界には帰ることができなかったし、それに帰りたいとも思わなかったのが本当のところだったりもしたんだけどね。それでも元いた世界が恋しいとか、家族に会いたいとか思っても、無理なのは分かってるのに考えてしまう自分がいて、情けなくて仕方がなかった。だからせめてこの世界の人々を助ける事に生きがいを見つけようと思っていたのだ。そうする事が自分にとって一番良い選択だと考えて、今までずっと必死に頑張ってきた。そして僕はようやく勇者としての役目を果たすことができるようになり──ようやくこの国で平和に暮らして行けるようになる筈だった。そう思っていたのだが──魔王軍が復活し始めて、しかも復活したのは、魔王の魂に肉体を与えてしまった【悪魔王】が魔王として蘇った事が原因であり。そして、その【悪鬼】を僕たち【勇者】の力で倒すことに成功した。

これで僕の仕事は全て終わった──はずだったのに、何故か、僕はこの世界に召喚されてしまったのだ。

◆ 僕はこの世界の住人ではないので、自分の力でこの世界にやって来ることはできない。ただ──この世界の神様の『女神様』から特別な贈り物が送られてきて。それによってこの世界に【聖剣】が届けられたので。僕は聖女リリアーナから貰った加護の力を使うことができるようになったのである。

この世界の勇者には聖女の加護が授けられていて──僕が授かった【聖女神の加護】には──【聖女神】のリリアナさんが、その能力を分けてくれたのだ。僕が得た能力は、回復魔法のレベルが上昇するというものだった。なので、魔王軍との戦いが終わった後には怪我をしている人を治していたのである。ただ僕は、その力を使えば勇者の使命を果たし終えた後は普通に生きて行く事もできるのではないかと思い始めていた。

しかし魔王が復活をするのを止める事ができなかったのは誤算だったが。魔王を倒すと【聖剣】が【魔剣】に変化してしまって。魔王が倒されると共に【聖剣】が元の聖剣に戻るという事を、その時になって僕は知ったのだ。

そして──僕は【魔剣聖】となったのである。

魔剣は、魔の剣と書くのだそうだ。そして【魔剣聖】というのは、その魔の剣の力を操る事ができる職業なのである。そして魔剣を扱うには──相応の強さが必要だと言われ。実際に使ってみると──その言葉の意味が分かる。この魔剣【魔剣聖】の能力が使えるようになると、【D級聖剣士】や【D級聖槍使い】などと言った、元の世界での称号の効果が発動するようになっているようで、僕はその称号を持つ事で【B級聖剣士】という新たな職業を得た。そして更に──【魔斧】を【魔斧】に戻すことで、新たな能力を使用できるようになる。

この能力は──魔王が復活するまでの間、この世界にいる魔王軍を殲滅すれば、再び、魔王が復活するまでこの世界は平穏を保つ事になると言われているのだ。

僕はそう信じていたので、魔王軍と戦っている最中だった。

その時に魔王が復活してしまった。そして【魔剣聖】となった僕は、この世界の神様である【聖女】と契約を交わし、彼女達と一緒に【魔剣聖】となって戦う事を決めたのだった。そうすると魔王と戦う為の力を手に入れられると言われたからだ。しかし──僕は、結局、この世界を救った英雄の一人として【聖女】リリアーヌに認められて、その能力の一部を受け継げるように【魔眼】を手に入れることになった。ただ、それだけだと僕は魔王に勝てないだろうと思ったので──この世界に来てすぐに知り合った四人の女性に、魔王と互角以上に戦う事ができる力を、僕が貰えるだけ貰い受ける約束をしていたのである。そのおかげで僕の能力はかなり向上することになった。そしてその約束を果たした結果──僕の新たな能力が使用可能になる。その結果がこれだ。僕は【D級聖剣使い】から【聖魔剣士】になった。これは【聖魔眼】が進化した【魔眼】によって得られる新たな特殊能力を使うことができるというものだ。

この新たな特殊能力の能力は──僕が見たことのある場所に、瞬時に移動することができるというものである。

それを使って僕はこの国の王都にやってきたのだった。そして、そこで僕の【魔剣聖】という新たな肩書きを、この国の王に認めさせる為に、国王の目の前で剣を振るって見せたのである。この国の王は【D級聖剣使い】である僕のことを知っていたようだが、僕が【魔剣聖】になったという事は知らされていなかったのだろう。それもあって僕の事を認めてくれるような反応を示していた。それでこの場で【聖剣聖】であるリリアーナ王女も交えて話し合ったのだけど、その時に僕達はお互いに相手の秘密を知っているということを確認し合い。その力の片鱗を見せると王様達がかなり驚いた顔をしていて、その表情が面白くて、ちょっとだけ楽しんでしまった。

そして──そのお礼としてこの国から旅立つことを許されることになった。だから僕はこうしてこの国に別れを告げるためにやって来たのである。

それから──僕はリリアーナ王女と一緒に旅をする事になり。彼女が仲間に加わってくれることになったのだが、それは──彼女の希望でもあったから受け入れることにした。というか断る理由は特になかったからなのだけどね。

こうして──僕の新しい冒険が幕を開けた。

まずはリリアーナ王女の目的の為にも【魔の森】へ向かう事にする。

【聖魔剣士】となった今の僕なら、どんなモンスターでも怖くない──と思う。

そうして、リリアナ様との旅が今始まるのだった。

この世界での新たな目的を得て動き出した僕の新たな物語は、ここから始まったのである。

この国を出て、しばらく歩いた後、【魔森】へと辿り着くと、そこにあったのは大きな洞窟で、その中には大量のモンスターが存在しているようだった。

ただ僕は、この場所のことは、この世界の人達よりも知っている。なぜなら僕は【魔斧聖】だからね。

だから【聖魔眼】に映し出す光景を頼りに【魔森】の中に進んでいくと、やがて僕たちは【悪魔将軍】と出会うことになる。彼はこの【悪魔将領】を治める魔王の幹部の一人なんだけど。この【悪魔城】の周辺に存在している、全ての悪魔族の統括者である、いわばこの世界で一番強いと言われる男である。そんな彼に出会ってしまった僕は、そのまま戦いを挑む事になってしまうのだが。その実力はやはり強く。この国で戦った魔王軍幹部とは格が違う強さを持っていたのである。そんな相手に僕たちは戦いを挑み続けることになるのだが──結果は、残念ながら惨敗だった。僕はなんとか最後まで戦い抜いたものの、リリアーナ姫やこの【聖女】の力を持つ女性には、僕が戦いに集中しなければいけなくなったのが大きな理由だと思うが。僕は敗北を喫することに。ただ相手もそれなりに手傷を負いながらも撤退していってくれたのが唯一の救いだったかな。それでも僕はかなりのダメージを負っていたし、【聖女神】のリリアーナも、僕を回復させようと頑張ってくれたので、その気持ちが嬉しかったのである。その後、この世界に存在する回復薬を全て試し、【聖女】の力の使い方を覚えてからは、どうにか僕も元気を取り戻すことができ、この場から離れることにした。そうしてこの世界に来たばかりの頃の場所まで戻ってきた僕たちが見たものは──

「えっと、リリアナ様。あの村は何なんでしょうか?」

そこには一つの小さな村に辿り着いた。しかも、その村は何故か廃墟と化していたのだ。ただ不思議なのは──そこに存在していた筈の住人が誰一人として残っていなかった事だった。

「分からないわ。こんな村の話は今まで聞いたことがないもの」

確かにそうだった。この辺りには人の住む街は存在しないのは間違いないことだし。

それにしても一体どうなっているのだろうか? 僕が疑問を感じているとその答えを告げたのはリリアーナ様で、

「ねえレイ、あれをみて!」

彼女が指差した方向を見てみれば── 僕は思わず目を見開く。その先に存在していた巨大な建物の中から光が放たれたように見えたからだ。それもただ光っただけではなくて──何かの力のようなものを感じたからである。僕は急いで駆け出してその場所へ向かおうとしたけれど。しかし僕の足を止めてしまった存在がその場に残っていた。そう、その建物から現れた存在である。

そいつは【D級魔竜】だった。

しかも【魔獣】ではなくて魔物に分類されている。この世界の人にとっては脅威となっている魔竜であるのだ。だが、僕にとってこの程度の敵に遅れを取るわけにはいかないのである。というより、今はそんな余裕がない。

そうして、僕は【魔斧聖】の力で斧を生み出し、そしてその斧を振りかざして魔竜に向かって攻撃を仕掛けるのだった。そうすると【魔斧聖】の特殊能力の一つである攻撃強化の効果により攻撃力が上昇して。僕はその一撃で魔竜王を倒せたのだ。

この魔竜はレベルもそれほど高くはなかったようである。しかし僕は【聖魔斧】を入手したことによって大幅にパワーアップしてしまっていたのだ。そのため魔竜の放つ魔力による攻撃に対して防御力が低くなってしまったらしく、僕はこの攻撃を受け止めきれず、結構痛かった。

だけど、僕はダメージを受けてもすぐに回復魔法を発動することで回復する事ができる。この【聖魔斧】のおかげで得た特殊能力である『癒しの加護』の能力によって。この能力は回復系の効果に特化していて、僕が持つ能力の中で一番の回復量を誇っている。なので僕には致命傷を負って戦闘不能になるという事態はありえないのである。ただ今回は相手が弱かったのでそこまで深刻なダメージではないけど、それでも油断はできないので注意しながら、魔竜王の死体を回収すれば──そこでリリアーナ様の叫び声が耳に入ってきた。そちらに意識を向けると、何やら大きな穴を発見したようで、そこから出てきたのは【D級魔導騎士】の集団だった。

彼らの姿を見た時、僕の脳裏に思い浮かぶものがあったので、確認してみたのだが、それは間違いなく魔王軍の連中だった。この世界では勇者と魔王の戦争が終わった後、人間側の方が優勢となり魔王軍は弱体化していったのだ。そうして今では魔族の支配領域は狭まっていて、ほとんど存在しないといっても過言ではなかった。

それ故に僕は魔王軍の存在などすっかり忘れていたので、ここにいる彼らが、かつて魔王の配下にいた魔族であると知った時は──驚いたものである。だって魔族がこの【魔森】に生息していたなんて初めてのことだったからだ。僕は魔王の配下の者達に事情を聞いてみることにする。ただ──彼らは既に戦意を失っていたようだったので安心したが。

そこでリリアーナ様の呼びかけに応えて姿を現した四人の女性たちがいた。その彼女たちに僕は見覚えがあったので声を掛けてみると。やはりこの四人の女性達も魔王の関係者だったようだ。ただ、その四人は【魔剣聖】となった僕の姿を見ても何も言わなかったのだけど。きっと、その力がどれほどのものかを理解しているからだと思う。そういえば──この【聖女】の女性がこの国で、この魔剣聖の力を使った僕の姿を、遠くから眺めていたことを思い出す。だから、彼女は【聖女】として僕の正体に気づいているに違いないと思った。

それから僕が彼女たちと一緒に、この場所で生活することにしたのは、ここに住んでいたはずの人達の行方を調べていたからだ。でもそれはリリアーナ様と二人で調査をしていただけで、他の【聖女】達は興味が無いみたいで、僕のことを助けてくれなかったので放置することに決めた。ただ── 僕が【魔眼】を使うと、なぜか彼女達は慌てて逃げていってしまって、その理由が分からず。だから僕に懐いてくれた猫型モンスターのネコミを連れてきてもらうと──その途端。みんなは大人しくなってくれる。それでこの猫のことも受け入れてくれたようなので、これで良かったと思うことにしたのである。そうして僕がこの【魔城都市ラヴァルナシア】で暮らすようになってから一カ月近くが過ぎた。その間、リリアーナ様にも手伝ってもらってこの【魔剣聖】としての力を振るいながらも、この世界で生きていくために必要な知識や技術を身につけていき。僕とリリアーナ様は順調に生活していくことができてきた。

そしてこの日。僕はリリアナ様と一緒に【悪魔神官】がいるとされる【悪魔の洞窟】の攻略に乗り出した。目的は魔王の幹部の一人である【悪魔神官】を倒すことである。彼は僕と同じD級クラスの魔王軍の幹部の一人だ。しかもその力は魔王軍の中でも上位に位置すると言われている。

その実力については【聖魔剣】の使い手であるリリアーナ様よりも上の可能性がある。それだけ【悪魔】という種族の持つ特性をフル活用した戦法を得意とする相手だからね。それに──この世界にはまだ【悪魔将軍】が残っているし。そう簡単には終わらないと思っていたのである。それに、この世界の魔王も未だに存命しているという情報もあるし。この国を襲ったように突然襲ってくる可能性もゼロではないのだからね。

ちなみに僕達が【悪魔神殿】に乗り込んだ時には、そこには【C級悪魔将】の姿しかなかったのだが、僕はその彼に襲いかかり倒すことに成功すると、そこでリリアナ様は、あることに気がつく。

そうして僕とリリアナ様は協力して【悪魔将軍】を倒した後。彼が所持していた宝箱を発見し。それを開封したところ、中にはこの【聖剣】が入っていたのだった。

【魔斧聖】となった僕は、斧の扱いに長けていて。さらに、僕が斧を作り出すことができる能力は、【聖魔】と名がついている通りで、回復系統の力が備わっていたので、この【聖斧】の能力を十全に引き出せるようになっていたのだ。

だからこそ【聖斧】の特殊効果である回復の力を使って戦うことで僕は戦い続けることが可能になったのだ。そして、この【聖斧】にはもう一つの特殊能力があって、それが武器としての切れ味を増加させるというものなのだ。この【聖斧】を手に入れたことによって、僕の戦闘能力は飛躍的に向上することに成功している。そのおかげもあり、魔竜王を相手にしても余裕をもって対処することができ、その結果僕は魔竜王の体を破壊することに成功した。

ただその瞬間だったのだ。僕が魔竜王の肉体を破壊した時に発生した爆発に巻き込まれた僕の目の前で魔竜王が突如、巨大な肉片に変化してしまうという、不可解な現象が起こったのだ。

「なっ! なんじゃそりゃぁ!」

僕は完全に油断しており、魔竜王が倒されたと思って気が緩んでしまっていたこともあり、この予想外の事態に思わず声を張り上げてしまった。ただその直後、僕の視界に飛び込んできたのは──

「これは──もしかして【呪印】? 」

そう【魔斧聖】の力は回復系統の力で。僕は回復に特化した聖魔属性の戦士なのだけど、魔竜王の体を消滅させるほどのダメージを与えたために【魔斧聖】が勝手に反応してしまったらしく。【聖魔斧】の能力によって発動させた回復の力を魔竜王の体に浸透させてしまうことになったのだ。しかもこの魔竜王の体内に宿っていた呪いの力が活性化して、魔竜そのものを侵食してしまったようである。その結果、僕は──

「えっと、どうしましょう?」

僕の口から思わず漏れた言葉が虚空へと消えていった。

魔竜王を倒して、無事に元の状態に戻った【魔剣聖】を腰に下げて──僕は魔の森と呼ばれる場所にある魔族の街を歩いていく。その街並みはかつて訪れた【英雄】の国の首都に少し似ていたけれど、規模が小さいということもあってかそれほど大きく感じられなかったのだ。

魔族は人間とは比べ物にならないぐらい長寿だし。

それに寿命を迎える前であっても、魔竜のように強い力を有している魔物は、【魔王軍】に所属する者以外は長生きをしない。そういった理由から【魔森】に住む魔族の平均年齢は若い人が多いそうだ。そのためなのか【魔獣人族】も人間の【獣人族】に比べると年齢がかなり若くて、その見た目も可愛らしいものばかりで正直驚いたものだった。

【魔森】に生息する魔族のほとんどは女性で構成されていて。そして男性は数が少ない。それというのも男性には魔力を扱うことができないらしく、魔法を使えなかったり魔力自体を持たなくても、女性は生まれつき魔法を使う才能があるし、魔法適性が高いので──必然的に魔法を使うのは女性が多くなる。

また、魔竜も【D級魔竜】以上の魔竜は例外なく魔力を扱えるし、【C級魔竜】の竜は、そもそも魔力を操るだけの能力を持ち。【A級魔竜】の竜ともなれば、魔法を行使することもできる。だから魔族には男性の数が極端に少ないんだ。だけど魔竜に勝てる程の力を持つ男は、魔竜以上に貴重な存在になるし、そんな男が一人でもいるなら、それはもう大事件になってしまうだろう。

まあ、【D級魔竜】の竜を討伐できる男が存在するかどうかも怪しいものだ。僕だって魔竜王と戦うまでは【D級魔導騎士】程度の戦闘力しかなかった。だけど魔竜王と戦ってからは──僕の実力も相当上がっている。この短期間で僕の身体能力は、この世界に来た当初と比べて倍以上に強化されているし、何よりも【魔聖剣】を手に入れてからは──更に強くなった。だからこそ魔竜王との戦いに勝利することが出来た訳で。

まあ、魔剣と一体化したことで、【聖魔斧】という【聖魔剣】と同等の能力を持つ魔剣を生み出すことができるようになったからこそ、【聖魔】の名を冠した二振りの剣を使う事が可能になったんだけど。そうそう魔剣を手に入れることなんか出来ないので、【聖魔】の名がついていようとなかろうと、魔剣は貴重なのだ。まあ【聖魔】の名前が付いているのだから──普通は魔族が持つのに相応しい魔剣である可能性が高い。だから僕は魔王の配下にこの魔剣を与えることに決めた。ただ──問題は【悪魔】である。魔剣を手にした悪魔達が魔族領を支配するようになっては問題だし。そうならない為にも僕は、この【魔剣聖】の力で彼らを鍛えることにしてみたのだ。もちろんこの【聖魔斧】で、である。

「さてと、この【聖魔剣】を使えばどんな魔族であろうと、人間と変わらないくらいの力を得る事が出来るからね」

それに僕だってこの魔剣の力を100%引き出しているわけではない。まだまだ伸び代は残っていると思うし、もっと強力な攻撃が出来るようになるはずだから。魔剣の使い手となるのはこの魔の森に住んでいる魔族の中から選ぶ事にしようと思っている。だって魔族達は、みんな可愛い女の子ばっかりだから、変なことを考える人が現われないとも限らない。だから僕の目が黒い内はそんなことを許さない。それに【聖魔の魔剣】の力は回復系統の力だけじゃないからね。他にも色々と使い方があるし。それに、僕のこの姿を見ただけで──魔族は恐れ戦く。その効果は抜群だ。

魔竜王を倒す前からそうだったのだけど、この姿で歩くと、なぜかみんなが怯えてくれるので、僕のストレス発散の道具にさせて貰っている。でも魔竜王が使っていたスキルもそのまま受け継いでいるので──

『魔王の波動』とか言う、ちょっと厨二っぽいネーミングセンスをしているけど。僕としては【聖魔の魔剣】の力を試すのにも丁度いい。ちなみにこの『魔王の波動』は僕に対して攻撃を仕掛けてくる者に対して発動することができるようだ。この『魔王の波動』の発動条件としては──僕に対する敵対行為が挙げられていたのだ。この『魔王の波動』の威力は、魔剣を媒体とする分、【聖魔剣】よりも低いような気がする。それでも十分すぎる攻撃力を秘めているのは確かなのだけど。

それに魔剣が折れた場合の予備として、【聖魔剣】も使えるし。そういえば魔竜王を倒したときに入手したこの魔剣なのだけど。なんとその能力は凄まじいものだった。僕が【悪魔】の魂を魔剣に取り込むと、この魔剣はその魂を吸収することができる。そして魂を吸収して成長したこの魔剣は──僕の意志に連動した行動を取ってくれる。例えば僕と繋がっている状態ならば──僕が命令をすれば【悪魔】を使役することも可能なのだ。この事実を知ったとき僕は驚いたものだ。

そして【聖剣】の時とは違って、僕と魔剣は意識を共有しており。この状態の時は、僕はこの【聖魔の魔剣】の能力をフルに使う事ができる。そして【聖魔】の名を冠する【聖剣】の能力を発動させることが可能になっているのだ。だからこそ【聖魔剣】は回復系の能力が使えるし、魔剣の能力で様々な特殊効果を発生させる事も可能なのである。そして今手にしている魔剣の能力なんだけど──この【魔聖の魔剣】の特殊能力の一つなんだけど。これは魔竜王と戦った時に判明したのだけれど、魔竜王は【D級魔竜王】の竜であったらしく、僕は魔竜王を倒した際に、【B級魔竜王】へと進化を遂げた。つまり【C級魔竜】から、一気に【D級魔竜王】へランクアップしたのである。その事で僕はこの特殊能力が使えるようになり、僕の戦闘能力が大幅に強化されたのだ。そのお陰もあって、魔竜王を倒した時に獲得したこの魔剣を僕は自分の意志で使用することが出来るようになったのだ。

「それにしても、この魔剣の力は反則的だよ。こんなものを持っていたら普通の人間が束になっても敵わないし。僕も本気で戦う必要があるなぁ」

そう呟きながらも、僕は魔王様の居所を探るために、森の中を突き進んでいくのだった。

魔王の配下の者共は、魔竜王によって滅ぼされてしまい。生き残りは僅かばかりの者だけだったのだ。この魔の森を支配できる程の強者がいなくなったことで、【魔の森】と呼ばれる場所が、【聖魔の森】と呼ばれるようになっていた。これはこの森に生息していた多くの【魔獣人族】も、魔族に従属する立場になり、魔王に従う者が大半を占めていたため。【聖魔の森】と呼ばれることになった。

しかし生き残った【魔森人族】の中に、人間や獣人族と交わって子を為していた者が多く存在し。彼等が魔族の街を築くようになると【魔森人族】が【森人族】と呼ぶようになっていったのだ。

ただ森人族の外見には【聖獣人族】のように獣のような耳などは無く。代わりに角を持つ者は多かったが。森人族が暮らす森には【魔獣人族】は生息していないことから。魔の森は人間族の領土ではなく、魔の森で暮らす魔族の領地となった。

しかし魔の森には、強力な魔物が数多く生息していることもあり。そこに住むことを望む者は殆どいないという。それ故にこの【聖魔の森】に住む【魔森人達】の数は極端に少なかった。そしてこの魔の森のどこかに【英雄】の国があった。その場所にかつてあった国の首都は跡形もなく消滅してしまってはいたが、その跡地からは、この魔の森に住む者達の集落と同じような集落が幾つも見つかっている。そしてその集落の近くには必ず魔剣が落ちていたという。その事から【英雄の国】の首都を消し去った原因の究明の為に調査隊が編成されたのだが。調査の結果、そこにあった首都の跡地に残されていた痕跡から──そこには一人の少年の姿があり。それが全ての謎を解き明かすきっかけとなったのだという。

その少年とは【勇者】の事であり。魔剣を携えたその勇者こそ、魔王をも倒したとされる伝説の存在である【魔王殺し】であった事が分かったのだ。【魔王】の討伐に成功した【聖女】のパーティは解散され、各々は元の職業に戻ったという。

そして── 魔王軍の残党狩りを行う役目を担った、魔竜王に倒された四天王の一人である炎鬼姫は、【魔森人族】の長の住む家の前に立っていた。それは魔王軍の幹部達の中で、魔王様に直接会いたいという連絡を受けたからだった。それは魔王軍の中でも、一部の幹部だけが知っている暗号のようなものだったが。この家の前に来た時点で彼女はそれを思い出していた。

魔竜王との戦いで受けたダメージが大きく。彼女の部下たちは、皆瀕死の重傷を負っていたため。治療に専念させていたが。彼女だけは動けるまで回復していたので、こうしてここに来たのだ。そうしなければ他の魔族達に示しがつかないからである。

彼女が家を訪れた理由は、もちろん魔王様に呼び出されたからなのだが。

「我をこの家に呼び出したのは誰だ? 我がこの【聖魔の森】に来たからと言って襲ってくるような命知らずはいないはず」

彼女は【聖魔剣】を扱える存在だが、この聖魔の森では、その強さの割に弱い魔剣しか使えない事を知っていたので。魔剣を使うのは控えているし。そもそも、聖剣を扱う事は出来なくなっているのだから。だから、この魔剣は、今は【聖魔斧】と名前を変えている。

【聖魔剣】は、聖女の扱う聖属性と魔剣の放つ聖属性の二つの性質を持った魔剣であるが。今の彼女にはそれを操るだけの力がないからだ。

そんな彼女が魔剣の類を手にしていると知られれば。間違いなく狙われることになる。だから聖剣以外の武器は全て捨てて来た。

「おぉ、良く来たな。まあ入れ」

「はっ、御方様の命であればこの身、如何様な事にも」

「まあそんなに硬くならなくても良いぞ」

魔王はそういうと椅子に座って足を組む。

そう──【聖魔剣】は、今は何もない机の上に置かれており。その上に【聖魔の魔剣】が乗っている。【魔魔剣】の魔の字も無いが、それは見た目の問題だけであり。実際に魔竜王を倒した際に得た魔剣を【聖魔剣】と名付け。そしてこの剣を媒体にして作り出した聖剣を、そのまま魔剣として扱っている。

「それで魔王様。何用でしょうか?」

「いやぁ、お前さんには随分と苦労を掛けさせちまったなと思ってな。魔剣は使えねえ。だからといって俺の魔力を直接注ぎ込んでやるわけにもいかねぇし。そこでこの【聖魔剣】の出番よ」

魔王が取り出したのは【聖魔剣】である。【魔魔剣】の柄は、剣身の部分と違って装飾が施されている。そして剣身を包み込むようなデザインの鞘も付属しており。そして鍔の中央には宝石が填め込まれていた。その【聖魔剣】の鞘に収まっている状態の剣の刃を【聖魔の魔剣】の刀身に押し付けると──【聖魔の魔剣】が一瞬だけ輝き、すぐに元の状態に戻る。

魔王は満足げに微笑みながら言葉を続けた。

この聖剣と魔剣は持ち主を入れ替える事が出来るのだ。ただしその能力は限定的なもので、聖剣の方が能力的には高いものの、魔剣の攻撃力を上乗せする程度が限界であり。魔剣本来の特殊能力までは引き出せないし、更には【聖剣】の特殊効果も発揮させることが出来ない。

その事に気が付いていた【魔聖の魔剣】の使い手の魔森人族の幹部は顔を歪めると──。

「な、なにをおっしゃいますか!? 魔王様のご恩情に感謝いたします。これで私はようやく、魔剣に頼らない生活ができるというモノです」

魔王はその幹部の態度に笑みをこぼしながら。その手に握っていた【聖魔剣】を差し出すと。その使い手となるべき者へ手渡すのだった。その者の表情を見て──魔王はその者の名前を呼ぶのだった。

「ふははははははははは、そういえばお前に名前を言ってなかったな。お前の名前はなんというのだ?」

魔王は魔剣を手にした少女へ問いかけた。

魔の森を支配する魔森人の長の娘である彼女は──。

魔王に名を名乗った後に【魔王】へと忠誠の証を示す為に膝を突き頭を下げるのだった。そして──魔王は彼女の首へと【聖魔剣】を掛けたのであった。

その剣は彼女の肌に触れても血を流すことはなく。傷つけることが無いことは一目で分かるほど美しい剣であったが。しかし、その剣から感じられる力は、ただ剣を持っているだけでは感じ取れないくらい強いものである。

魔王がこの魔剣を手渡した相手は二人目になるが。その剣の力を引き出すことが出来る者は限られてくるが。その剣の力を引き出せるのならば──それはこの世界の頂点に位置する能力を得ることになるだろうし。この世界で最強の戦士になれる素質を秘めた者だけだと言える。

ただこの世界の人間は愚かしい程に強くて脆くもある。だからこそ魔王の庇護下に無い者などこの世にいないのだ。

魔王が与えたのは『不死』の能力。

魔王は配下の者に与える加護は、魔剣を与えるというやり方ではなく、【英雄】の持つ技能の一つでもある、『死からの蘇生』をその者に授ける事にしていた。つまりこの者が魔王の部下となり、魔王軍の一員として行動できる理由こそがそれだ。

魔剣の能力は限定的とはいえど。それを遥かに凌駕するほどの性能を持つ【聖魔剣】の力を最大限まで引き出し、しかも、この世界に存在する魔獣人族の中で。最強と呼ばれる存在と同等の力を持つ事ができるようになるのだ。それ故に、魔王は彼女を【聖魔の剣士】と呼ぶようになったのだった。

****

「あのぉ~、すみません」

声を掛けられるが、無視する。

ここは僕の城なのだ。誰にも文句など言わせないし、この城の中に入ったら誰も出て行く事は出来ないようになっているのだ。だから侵入してきた者達がどんな人物であっても。例え【英雄】であろうが。僕を倒すのは絶対に不可能なのだ。だってこの城の周囲には強力な結界魔法が施されており。この中にいる間は僕は絶対無敵の存在なのだから。だから、僕を倒しにきた者達は、皆一様に驚きのあまり立ち尽くしていたのだった。そしてそんな彼らに向かって。この城に無断で入ってきて無事に済むと思ったのか? などと、脅すと──彼等は我先にと逃げ出そうとしたが。その時にはもう既に遅い。この城を守護する者は全員僕と同じ力を有しているし。そしてその力は僕の方が上のはずなのだから。それ故に逃げ出す前に皆捕まえてしまったのだが。その者達に、何故ここにやって来たのか? とか。何が目的でここまでやってきたんだ? などの、疑問を投げ掛けていくと。彼等は観念して、その口を開いたのである。

どうやら彼等は、仲間同士殺し合う為だけに集められたらしい。その証拠は彼等の首輪であり。この【聖魔の森】を統べる【魔王】とその配下は、【勇者】を打倒するために作られた組織であり。その【勇者】がこの国にやって来ているのだという。そして魔王様の命令によって【聖剣】を手に入れた【勇者】を殺しに来たのだというが。この森にいる魔族は【勇者】に負けるような弱者ばかりで。【勇者】の強さに対抗出来る存在はいないらしく。この【聖魔の森】には【魔王妃】、それに魔竜王しかいないため、魔王軍でも最弱の戦力しか残っていないのだという。だから、魔王軍にとっての脅威は魔竜王様と、その妻でいらっしゃる【魔聖】の魔族達だけであり。その彼女達でさえ。今の魔竜王様に敵うような存在ではないのだと言うので。魔竜王様を【魔王妃】と【魔森王】に任せ、この場は【聖魔の森】の支配者として、僕自らが出向いて魔竜王様を助けに向かう事にしたという。

そう、魔王軍の上層部がそう決めたのだと。そう聞かされ。魔王軍の中でも、四天王と呼ばれる魔族達の長達の中で一番若いこの青年は悔しげに唇を噛むのだった。


* * *

その日。僕はその報告を聞いて怒り狂ったのは言うまでもない。

だが── 魔王軍は【聖魔の森】での戦いを、魔王軍の幹部である魔王妃、魔森王の二人の女と、そしてこの国最強の存在である魔竜王が居るために有利に進み。魔竜王様と、【魔王妃】、そしてもう一人の幹部は【魔森王国】の奪還に成功はしたものの。魔竜王様も大怪我を負わされた上に。部下も大勢殺されてしまったという。そして魔竜王様が【魔森王国】を奪われてしまった事が、魔竜人達に伝わってしまうと、彼も怒り心頭に発してしまったのだ。

「貴様らがこの国の事を考えずに魔王妃と魔森王に戦わせたせいで、我が国の貴重な【聖剣】が魔竜王と魔王の手に落ちる事態になったのではないか!? そもそもお前らは何をしている!! お前らの無能な行いのせいで【聖魔剣】が失われるという事になったのだろう!?」

そんな魔竜王の言い分に──その言葉を聞いた幹部の一人の魔人は、歯ぎしりをするのだった。

「まあまあ、そうカリカリしないの。【魔王妃】は【聖剣】を手にし。魔竜人を倒したという情報は得てるんだから」

そう言って宥めるように声を発したのは──【魔魔森人】と呼ばれる種族の魔人だった。

魔王軍に幹部を任命するに当たって魔王様が行った儀式が。魔人の能力を向上させる効果を持っており。そしてその時に魔人としての特性が発現すると、この様な角が生えて来るという。

そしてその能力には【魔王】の力の一部を受け継げるというモノであり。魔王様が作り出した【聖剣】の能力を最大限に引き出したり、魔王様の加護を受けて、魔王軍の幹部達は能力が大幅にアップするというモノなのだが。その代償として【魔王妃】が持っている【聖剣】の能力を扱えるのが一人に限定されるというモノだった。だから魔王は【聖魔剣】を手に入れる為にも【魔王妃】を殺す必要が出てきてしまっている。

魔王軍の目的は魔竜王の殺害。【聖魔の森】を支配し、支配圏を広げる。そのついでに【聖剣】も回収するつもりだったのだ。その目論見が失敗し、魔竜王と魔森王以外の魔王軍の幹部は皆殺されてしまったのだった。

【聖魔の森】は魔王軍の領地ではあるものの、魔森人が支配する領域は魔王の領土よりも広いし。この魔境の大地の支配領域が、【聖剣】が保管されている魔境の地と隣接していたこともあり。魔竜王は魔王妃に奪われた【聖剣】を取り戻そうと魔王妃と【魔聖の森人】達が向かった魔森へと足を踏み入れて。魔聖の森人の長の娘である【魔森人】の少女と戦闘になり──。

魔竜王妃はその魔人の力の前に破れてしまい。魔森王が持っていたはずの【聖剣】は魔王の手元へと渡ってしまったのだという。そして魔王がこの国に進軍を開始した事で、その侵攻を食い止めるために、この国に残された魔人達は魔王軍と争う為に魔王城に攻め込もうとしていたが。その事を察知した魔王が魔族達に魔王城を守護する任務を与えた。だからこの魔人達の相手は本来であれば、魔王城を守っているこの魔王軍がやる仕事だったはずなのだが。「くそ、あのクソジジイ。【聖魔の森】の件もそうだが。【聖魔の森】を守護している魔竜王が【聖剣】を手にした今。俺の力を使って魔王を始末すればそれで済む話だったのだろうが」

【聖剣】の力が使えるのは魔王妃のみであって、そしてその能力は魔王様に匹敵するものでもあるという。しかし魔王はそんな能力を持っていたとしても。所詮は魔人である魔王では人間を超えることはできないのだと言っていたし。

それ故に【聖魔剣】は魔王妃にしか使えないのだし。魔王は魔竜人には勝てないのだから。魔王を倒す事が出来る可能性があるとすれば魔竜王しかいないと魔王に言っていたのは、その通りだと言える。だが魔王はそれを理解しておきながら、あえてこの【聖魔の森】を攻める事を選択した。それは魔竜王は魔族の王である以上は魔獣人族の中でも最強の一角を占めているのだから、それを【聖魔の森】の魔獣人達だけで相手をするのなら、いくら強くても魔族である限り魔王の加護を受ける魔人に敗北する事は無いのだと判断したからだと思われる。そして実際にそれは成功したのだから、魔王は間違ってはいなかったのかもしれないが。その事実が逆に魔王軍を窮地に追い込んでしまう事になるのは、もはや時間の問題と言えた。

************

***

僕は【英雄】であり、そして勇者の使命を全うするため。【聖魔の剣】を手に取り魔王を打倒す必要があるのだと思っているのだが。

僕には魔王の配下を倒すための方法なんてものは知らないし。

そして、魔竜人とかいうのを倒す方法すら分からないのだ。だから【聖魔の森】にいる魔竜人を討伐するための人材が必要だと思った。だからこそ魔竜王の息子であり。そして次期魔王になるべき立場でありながら魔王に反旗を翻した魔竜王の息子の配下を探し出し、僕の下へ引き連れてきて貰おうと思い──魔人を連れてこさせ。そして【聖魔の森林】にある僕が作った迷宮に閉じ込め、その試練を突破出来たら魔人を解放するという条件で。この【聖魔の森】を僕から解放させることにしたのだった。


* * *

魔人がその迷宮を突破し、僕に会えるようになったのを確認すると。早速僕は彼に色々と質問をして、彼が知り得る情報を一刻でも早く教えて欲しいと懇願し、その情報を得ることに成功すると、その情報は驚くべきもので、この国にとって最悪の内容だったのだが。

その情報を魔人に伝えた上で。僕は彼に【魔王妃】と魔竜王、そして魔森王の三人を暗殺するように頼み込んだのである。それが出来ないならば。せめて魔王軍の幹部を数人でも倒す事ができれば。それだけでこの国の戦力を大幅に削れるのだと言い含めると。魔人は【聖魔の森】の魔人達の長の一人娘の魔族である、魔森人の少女と共に魔王城を目指すと言ってくれたのだった。そして──魔王軍の中でも一番若い青年は魔王城に潜り込むことに成功したのだった。

その青年が僕に情報を伝えた時点で。魔王妃の居場所も把握しており、魔王妃の居場所が分かっているなら話は早い。その情報を聞き出してくれたお礼も兼ねて僕は彼を魔竜人との戦いに送り込むことにし。彼は見事にその試練を突破したのだった。

そして僕は彼を解放し、僕は彼にこう言ったのだ。

「僕の仲間になれ!」と。


***


***

魔王軍は魔王様と【魔聖剣】を失い。魔王城の結界を維持する力も無くなってしまっており。魔王の加護を受けて強化された幹部達ですら魔竜王に勝てず殺されてしまったというのだから。魔竜王の実力がどれほどのものか、僕は嫌でも思い知らされることになったのだ。だから魔王妃がこの【聖魔の森】に来るまでに魔王を倒してしまいたかったのだ。そうしなければ、魔王妃は確実に【聖魔の森】に侵攻してくるのだから。そうなっては手遅れな状況に陥る可能性だってあるのだ。そんな事にはならなかったとしても、最悪な展開になりかねなくなる。そんなのはもう二度とゴメンだった。

そんな時──【聖剣】が安置されていた【聖魔の洞窟】が破壊されてしまい、【聖魔の宝玉】が失われるという事態が発生したと報告が入ったのはその直後の事だった。【聖剣】を操りし魔剣が消えたとの報告を受けて、その情報に驚いたのは言うまでもない事だと思う。そしてその報告がもたらされた瞬間に僕は魔王に謁見を申し出る。その願いは即座に叶えられたのだった。

「魔王様、どうかお願いします! 魔王妃の抹殺に協力してください!!」

その申し出をすると魔王は──

「いや、それについては私が魔竜人の方に頼むから」

魔王は、そう口にすると──その言葉を聞いていたのか──。

【魔魔森人】の長の長の娘、魔森人の女性が──魔王の前に現れた。そして魔王様に対して口を開いた。その女性は、とても美しく──どこか気品が感じられる。

魔竜王の加護を受け、その力を受け継ぐ事ができる魔人は、角が生えているというのだけど。その女性の場合は、まるでエルフのような外見をしていて。背中に羽が生えていた。しかも魔竜王の眷属でもある証なのか。頭上に光の輪っかが浮かんでいて。魔森人の女性は光輝いていたのだった。そんな彼女が魔王様に話しかけた。

「父上は魔王様に【魔聖剣】を渡して【魔王軍】の戦力を増強させようと考えたようでございますが。それは不可能です。既に魔王妃様はこの国にやって来ておりますのよ? 【魔森の魔王城】の結界は破壊され、私どもの力も弱体化している状態で魔竜王に対抗する術はないのですわね」

「まあ、確かに【魔森】は我々よりも広いし。その領域を支配するのに手間取っている魔森王に任せっきりにしてはいたが。まさか魔森王が魔竜王に殺されてしまうとは。魔森王が殺されてしまった事で魔竜王の加護を受けている魔人達は動揺しているようだが、それは魔王妃にも言えることだろうし」魔王は【魔森人】の彼女の話をそう分析する。そして、続けて、

「【魔森】の領域を支配下に置くためにはそれなりの時間を要するのだろうし。【聖魔の森】への侵攻が遅れる事になればいいのだろうけど、その辺りはどうなんだい?」

魔王は魔森人に質問をする。それに彼女は──

「私の方からは正確な事は言えないのでありますが。魔森王が殺された事で、魔王妃がこの国に進軍する準備を進めていると聞いていますので。その侵攻がいつ行われるかは分かりませんが、早ければ今日中に攻め込まれてしまうのではないでしょうか? 私は魔王城を守る任務を与えられていますので、その防衛のために動かせてもらえないのですけれど。他の者達は恐らくは魔竜王と対峙する準備を進めているのではと思われますの。【聖魔の森】の魔人族の皆さんも、魔王妃を討伐しようと動き出しているようですし。このまま放置しておくのはまずいかと思いますので」

【魔森人】の女性は魔王にそう伝えた。

そして、その後──。僕は魔人を解放したことを報告し。僕に協力して欲しい旨を願い出たのである。


***


***

魔人を解放したことで僕は【聖剣】が封印されている『大魔神殿』があると言われる【魔の森】へと向かうことにしたのだが。その道中は【魔聖剣】を手にしていた僕にとっては全く問題にならなかった。だから僕一人で【魔の森】に向かう事になったのである。

僕はその途中で魔竜人の青年と出くわしたのだが、魔人を連れてこられなかった理由を説明してくれたのだが。それは予想以上に酷い話だったので、僕はその青年の肩に手を置き、「君、僕の仲間になれ!」と口にしたのである。青年は、僕に協力することを承諾してくれ。

僕と青年と二人で魔王城に辿り着くと。魔人が魔竜人の若者と一緒に【聖魔の森】に入り込んでくれているという話を聞いたので。まずはそれを確かめることにした。そして魔王に謁見を求めたのである。

魔王は、魔竜王の事を知っていた。魔王妃が来るまでの時間を稼ぎたかったらしいのだが。僕は魔王に、【聖魔の森】に【聖剣】の封印がある場所を知っていると言ったのだ。

僕がその情報を持っていることに魔王も驚く。魔王城から封印を解くことができないなら【聖剣】を持ってくればいいと思ったのだ。しかし【聖魔の森】の結界のせいで、この国の【魔聖剣】を扱える者は魔王しかいないので魔王に持ってきてもらうしかないのだ。だから、魔王をこの場から動かすわけにはいかない。

そして魔竜王と【魔聖剣】を僕が所持すれば。魔竜人と魔人。魔森人の力を合わせれば魔王を倒すことができると説得をしたのだ。僕はこの世界に来て、魔王と魔人によって【聖剣】を奪われたままになっているんだから。その仇討ちを果たす必要があるとも思ったんだ。

そんな時──僕達の元に一人の少女が姿を現したのだった。

少女の年齢は十代前半ぐらいだろうか。背の高さは140cmくらい。腰まで届くような艶やかな銀髪に透き通るような白い肌。そして吸い込まれるような黒い瞳の。

そして──美しい少女だった。まるでおとぎ話の世界の妖精のようである。

僕はその姿を見ただけで思わず息を飲んでしまう。こんなにも綺麗な少女は生まれて初めて見たからだ。この世に存在する美という概念が全てそこに集まっているのではないかと思ってしまう程である。そして少女はその少女の美しさに見惚れてしまっていると、

「あれ? 貴方が魔聖王様ですかぁ? 初めまして。魔森王の娘のマリアンナと言いますぅ~。魔王様にお呼ばれしてこの国に来たんですが、魔王様はいらっしゃらないのですかねぇ?」

そんな事を少女が言ってくる。

魔王の娘だって!? そんな存在がこの【聖魔の森】にいたなんて知らなかったぞ!! そんなの想定外過ぎる! でも── ──もしかすると、魔王の居場所を聞き出せるかも? そう思い。僕は彼女にその旨を伝えてみたところ。あっさりと魔王がいる場所を教えてくれる。そして僕は魔王が待つという部屋に向かってみると。

そこで──僕は信じられない光景を目の当たりにしてしまうのだった。

その光景とは、魔王の胸から、剣のような物が出てきているのだ。それもただ剣が突き刺さっているだけというわけではない。剣の先端が、魔人の身体を貫いているのだ。そして剣の根元は魔王の腕の中にあり。そこから魔王の心臓めがけて伸びているのが見える。その魔人は魔竜王に戦いを挑んでいた青年の姿に酷似しており。魔王軍の長の長の魔森人の娘である魔人の少女に殺されてしまった、魔森人の姿をそのまま引き継いだ魔人だったのだ。

つまり──魔竜王の配下。その一人に間違いなかった。

しかも──その魔人の手の上には【魔聖剣】と思われる剣が存在している。

それを確認した瞬間──僕は魔人に駆け寄っていた。その剣は──魔人の手の中にある。それがどういう意味を持つのか分からない。だが、今、魔王の胸に剣が生えているという事実を目の前にして僕は動くしかなかったのだった。僕は魔人が持つ【魔聖剣】を奪い取り、魔王の身体からその剣を引き抜くことに成功する。その途端に、魔王が苦しみ出す。そしてその顔色が徐々に悪くなっていき。ついには口から吐血を始めてしまったのだった。

それを見て僕は思う。このまま魔王を放置してはいけない。そう思ったのだ。だからこそ【光輝玉】を使ってでも治療をしようと心に決めた。僕は魔王に呼びかけた。そして魔王は── ──意識を失いそうになりながらも必死に耐えているようで、魔王は、自分の命よりも【聖魔の森】にいる魔竜王の方を優先したのであった。そして、魔人は魔王に対して攻撃を行うが、僕は咄嵯にそれを止めようとする。そのせいで僕は魔王の攻撃を受けて吹き飛ばされてしまい。その衝撃で【光輝玉】を取り落としてしまうのだった。その事を受けて魔人は更に追撃を仕掛ける。しかし──魔王はそれを止めたのである。

魔王は魔人に対して何かしらの命令を下したようだったが、それには【聖魔の森】にいる魔竜王の事が関係しているようだが。詳しい内容は聞こえなかった。魔竜王は【魔聖剣】が安置されている場所にいると言っていた気がする。それを魔人が知っているという事も分かった。そして、魔人が僕の落とした【光輝玉】の事を目ざとく見つけると、それを拾い上げようと動いたのだが、その時に僕は再び【聖魔球】を取り出して、【光魔法】を放とうとしたのだった。だけど──その時に僕が【聖魔球】を手にしたタイミングを逃さなかったのだろう。魔人は再び攻撃を仕掛けてきた。その結果、僕はまたしても【聖魔の森】へ繋がる扉を破壊されて。魔人と共に魔竜王が待ち構えている【魔聖剣】の所へと移動させられることになるのである。僕は【魔森の魔王城】の近くで魔竜王と対峙した事があるが。その時とは比べ物にならないほどのプレッシャーを感じた。魔王よりも強いというのは嘘ではなかったのだと改めて実感する事になる。しかし──僕は、僕の背後には守るべき者達がいた。だから、絶対に退かない。退くつもりはない。

僕は魔人を睨む。魔人の少女もまた、僕を鋭く見つめているようだった。

しかし魔人はそんな視線には怯まない。むしろ余裕そうな顔をしている。僕なんかには勝てると思っているのかもしれないが。僕の後ろに守るものがあると知っていても── それでも── 魔人の手は僕の持つ【聖魔球】に伸びる。僕はその手を払いのけるようにしてその攻撃を防ごうとする。しかしその隙に、魔人の少女が、その手にしている【魔聖剣】を振るったのである。

「くっ!」

僕はその一撃を辛うじて受け流すことに成功したが。体勢を崩してしまい、僕は地面を転がることになる。僕は急いで立ち上がり。反撃を行おうとするのだが。その間にも、魔人から【魔聖剣】での斬撃が次々と襲い掛かってきたのだ。僕が魔人の【聖魔剣】による連撃を防御し続けていると、魔王が僕の側にやってきて援護しようとしてくれているようだった。僕は魔王と呼吸を合わせる事にした。魔王との連携によって僕達は魔人の少女を押し込んでいく。

そしてついに僕は魔人の持つ【魔聖剣】を吹き飛ばすことに成功して。その反動によって、少女の手から離れていく。その好機を逃すことなく、魔王は即座に、少女の懐に入り込み、拳を放ったのである。

そして魔人の腹の部分に拳を打ち込んだ。それによって、少女は地面に崩れ落ちることになったのである。魔王の見事な体術による攻撃に僕は感心しながらも、魔竜王がいるという【聖魔の森】に向かうべく行動を起こしたのだった。


***


***

僕達三人は遂に目的の場所──魔竜王のいるであろう場所に到着することができたのだが。そこにいた人物達を目にすると。僕は言葉を失ったのである。そこに立っていたのは二人。片方の人物は間違いなく、【光聖剣】を持つ【聖剣】の所有者であり。この国の国王である勇者。それともう一人──【闇黒剣】を持ち魔王軍の一人でもあった少女。その二人の前に僕は対峙することになったのだった。

「魔王! どうしてこんな事を!」

「私は【聖魔の森】を守る者──。魔王としてこの場に来たのだから、当然だ」

そう言って魔王は笑みを浮かべた。それは魔王らしい笑みと言えるものだった。

「魔人よ。私達の邪魔をするのであれば貴女も敵です。殺します」

【聖剣】を持った方の女性が魔人を見据えながらそんなことを口にしていた。すると魔王も口を開く。

「魔王たるこの私が命じる──【悪魔神官】! あの小娘と魔人を殺しなさい!!」

「はっ!」

そして、魔王の命令によって【聖魔の森】の管理者の長でもある少女の操り人形になった少女が僕達に襲いかかってきたのである。しかし僕には──そんな命令をしてくるような魔王の考えが理解できなかったのだ。

確かに──魔王はこの国に害を及ぼしてきた人物であるのは確かである。しかし、それでも魔王がこの国を滅ぼそうとまではしていないはずだと僕は思っている。この国が今のままの状態で維持できれば、それで構わないと、そう思っているはずなのだ。なのに──何故? その疑問は尽きなかったのだけれど。しかし考えている時間は与えられなかったのである。

僕は咄嵯に【魔森剣】を構え。そして【光聖剣】から【魔森剣】に装備を変えていたのだった。これは僕の戦闘時の基本姿勢で、どんな状況にも臨機応変に対応できるようにするための練習を幼い頃から繰り返してきたからである。【聖魔剣】の使い手の少女も、【光聖剣】から【魔森剣】に【魔聖剣】を替えたみたいだった。すると魔人もまた、自分の武器を変える。そして魔王はそんな様子を楽しそうに見守っており。その魔王の表情を見た瞬間──僕はある事を確信した。

それは──魔王の本心についてだった。

その魔王の顔を見て僕は思うのだ。この顔は──何かを楽しみにしている顔であると。魔王にとって──この事態を望んでいたのではないだろうか? そして、この状況を利用して──何かを仕掛けようとしている。そんな予感がしたのだ。だがその企みは、果たして、どのようなものであるのか? 魔王の真意は、未だに読み取ることができなかったのである。

「──いきます!」

魔王に対して警戒しながら少女は動き出す。そして【魔森剣】を振り上げたのだった。

僕はそれに合わせる形で剣を振るう。剣と剣がぶつかり合う金属音が響くが。少女の力に押し込まれることはなかったのである。

それを確認した僕は更に剣に力を込めた。すると、少女は僕の攻撃を受け流して後方へ飛んで距離を取ったのだった。そして【聖魔森剣】を構えた。その構えから僕は──少女が次の攻撃に移る気だと察知したのである。

僕は咄嵯に身を引いたのだが、少女の動きの方が速く。剣技──【聖剣一刀】と呼ばれる技を繰り出す。【光聖剣】から繰り出される光輝く一閃が僕の胸元に迫ったのである。ただでさえ凄まじい剣戟であったのにも関わらず。そこから更なる加速が加えられる。僕は【魔森剣】に【光魔法】を発動させて対抗するが。その瞬間、【聖魔の森の魔王城】での戦いで魔人が使った攻撃と同じものを僕は体験したのである。魔人と同じように、【聖魔球】で攻撃を防御したはずだったのだけど。【聖魔球】が粉々に打ち砕かれたのである。それを受けて、僕は【聖魔球】を持っていた手を負傷することになり。思わず声を上げたのだった。

痛みのせいで集中力が乱れてしまうと僕は思い、すぐに意識を切り替える。【魔聖剣】の攻撃を受けるのではなく。僕は受け流す方向に変えることにしたのである。【魔聖剣】は光を放つ剣ではあるが。【光聖剣】とは違い光は発さない。そして【聖魔の森】に存在している木々が生い茂っているおかげで、その剣先も、あまりこちらには届かなかった。

しかしそれでも──剣の軌道を完全に変える事ができたわけじゃないのである。少女が繰り出した【聖剣二連】は【魔聖剣】の刃部分ではなく。峰の部分を叩きつけるように振るったのだった。その衝撃に僕は身体を後方に吹き飛ばされて、地面に叩きつけられる事になったのである。

僕は何とか起き上がろうとするが。その時には既に魔人が僕に接近してきていて、攻撃を仕掛けてきたのだった。その一撃をなんとか受け止める事に成功するが、体勢が悪いためにそのまま押し込まれてしまった。

「──魔王様のためにもここで死ね!」

そんな魔人の言葉を聞きながら僕は反撃に出る。魔人の【聖魔剣】による連続攻撃をどうにか捌きつつ。僕は魔人の隙を見つける。そのタイミングで僕は剣を滑らせるようにして【魔聖剣】を逸らし──魔人の剣と交差する形で僕は攻撃を繰り出す。その一撃は魔人の腹部を捉えて──その魔人の腹の部分に剣を突き刺した。その状態で、僕はすぐに後ろへと下がると、【聖魔剣】による斬撃が僕に向かって放たれたが。

それを紙一重のところで避けることができたのである。

僕はすぐに剣を引き抜いて魔人から一旦距離を取る事にした。魔人の少女は傷口に手を当てていて、どうやら僕の剣をくらったダメージで手がしびれているようだ。そんな状態になっていたが。僕は追撃を行なおうとする。しかしその僕の剣が少女に到達する前に── 魔人の少女の前に魔人が立ち塞がってきたのだった。その魔人の瞳に宿っていた感情。それは怒りだったのだ。その表情を見て僕は思ったのである。魔人はやはり魔人らしく──仲間を大切にする気持ちが強いんだと。

僕はそんな考えを抱いたのである。

「邪魔をするんじゃねえ!」そんな怒号が魔人少女の口から飛び出してきた。それに対して僕は魔人と魔人少女の間に割って入り。【魔森剣】による一撃を放った。

それにより魔人の【聖魔剣】とぶつかり合い。火花を散らす事になる。そして互いに後退することになると、今度は、魔人の少女は僕と剣を交えた。そして剣をぶつけ合っている間に僕は魔人の方を見やる。

魔王と勇者が戦っており、その様子を見て魔王に付き従う二人の魔人達は傍観に徹しているようだったが。僕は違う行動をすることにした。魔王と少女との戦いの隙間を縫うようにして──もう一人の魔人の方に近付いて行ったのである。そして【聖魔剣】を魔人に振るおうとしたが──その寸前に背後にいた存在によって阻止されたのだった。

魔人の女性はその拳を僕に向けて振りかざしたのだ。

「チッ! 俺達の魔王様に歯向かうとは。貴様はいったい何者だ?」

僕はそんな問いかけを無視して、【聖魔剣】の刃で魔人の女性の拳を防いだ。その魔人の女性は魔人であるせいか──腕力も強く。僕の【聖魔剣】の刃では耐え切れなかった。その衝撃によって僕の手から離れてしまいそうになるのを、僕は堪えるのだが。そこで魔王の方の戦いも決着がついたようで、地面に膝をついていた魔王の側に二人の魔人がいた。

そうして魔人の一人がその手に持っていた槍で魔王の肩を貫く。

「──グッ」

魔王は苦痛の声を上げるものの。致命傷には至っていない。魔王のそんな様子を確認しながらも、もう一人の魔人がその手に握っている剣を振り上げ魔王に向かって斬りかかる。そして【魔聖剣】に魔力を流し込んで、強烈な突きを放つと、魔王はそれをかわした。そして距離を置くように後ろに飛んだのだ。その魔王を逃がすまいと、もう一体の魔人が魔王を追う。

「──魔王! お前の命はこの私が貰い受ける!!」

そんな言葉を叫び。魔王を追い込むと、魔王は魔人少女の攻撃を避けるだけで精一杯の様子であり。それを確認した魔人少女は更に魔王に剣を振ろうとしていたが。その前に僕は魔人少女に体当たりをした。それによって魔人少女は吹き飛ぶ。そんな彼女を受け止めた時に聞こえて来た言葉は──

「この小娘が!! 私の邪魔をしやがったのよ!」

そう叫ぶように言った。それを聞いて僕は、やはり──と思うと同時に、その魔人に対しても哀れみを感じたのである。何故なら、目の前にいるその魔人の少女の眼差しを見て。そして、彼女が魔人で魔人であるが故に感じてしまっている感情があるのだろうと理解できてしまったからだ。

それは、魔王を救いたいという願い。そして魔人として魔王を倒さなければならないという相反する思いを抱えているのだということを、理解できたからである。そんな彼女の心の葛藤を感じ取った僕は── 僕は【魔森剣】を構え、その切っ先を魔人少女に向けた。その動きに対して魔人少女も魔剣を構え。

僕と魔人少女が激突した。しかし──僕の実力が、魔人少女よりも上のためなのか、その攻撃をいなすと──そのまま、剣を振るう。魔人少女は何とか回避しようと身体を動かすが。それを許さない。そして僕は魔人少女に対して【魔聖剣】による攻撃を行ったのである。その攻撃を魔人少女は受けてしまう。

だが──それだけで済まなかった。その僕の攻撃を受け止めた魔人少女が【聖魔剣】に力を籠めるのがわかったのだった。そして僕は、魔人の力に押されるようにして、地面へと押し込まれた。そこにもう一人の魔人が追い打ちをかけるように攻撃を仕掛けてきたのである。しかし──僕はそれに構うことなく魔人の少女への攻撃を行なった。すると、僕の【魔聖剣】が魔人の少女に突き刺さる。

僕はそれを確認して、その魔人の女性から離れるのだが。その直後──僕の身体に、強い衝撃を受けたのである。それが攻撃によるものだということはすぐに察する事ができた。

僕は視線をそちらに向けると、【魔聖剣】を構えた魔人の女性がそこにはいたのである。

どうやら、その女性も僕の【魔聖剣】による攻撃を受けたはずなのに、平然としている。そればかりか僕の方を冷たい目で見つめて口を開く。

「──私は、貴様を殺すために生まれてきた。ここで殺せねば。私に未来はない。覚悟するがいい!」

魔人の女性はそんな風に叫んだのだった。

その女性は【魔聖剣】を手に持ちながら構える。そんな彼女に、もう一人の女性が駆け寄り声をかけた。その二人の名前は──ルキフェと、リザリアといった。

魔王の側近の一人である彼女達二人は、その魔剣使いの女性を止めようとした。だが、魔人の少女は。その二人の静止を跳ね除ける。それだけではなく、僕に対する攻撃を止めるつもりはないようだった。

魔人の少女は【聖魔剣】による連続攻撃を僕に仕掛けてくる。

その連続攻撃を捌く事ができなければ、間違いなく、僕の身体は魔人の剣の餌食になってしまうだろう。

だから僕は、必死でその攻撃に対応するべく、その攻撃の軌道に剣を合わせる事に意識を向けたのである。そして攻撃を受けながら反撃する。ただ、魔人の少女の方が僕より遥かに上回っていて、どうしても僕が押し込まれて体勢を崩される。そのタイミングで魔人の少女の攻撃を僕はどうにか防いだ。しかし次の瞬間、別の角度から魔人の剣が僕の身体に迫るのがわかり──僕は剣で防ごうとするも──その剣ごと吹き飛ばされたのである。

どうにかその一撃を防ぐことができたのだが。吹き飛ばされた勢いで僕は背中を木の幹に打ち付けてしまったのだった。その衝撃により息を詰まらせる僕。

それでもなんとか立ち上がろうとしたが。既に僕の前に【聖魔剣】を持った少女が迫っており。僕は剣を構える間もなく、その魔剣による一撃を受けることになる。その結果、その魔人の剣を受け止める事はできず──【聖魔剣】の刀身部分を弾き飛ばされてしまったのだ。

魔人の少女は剣を手放すことはしなかった。

僕は咄嵯の判断にて【聖剣】を発動させたのである。その剣に光が集まり始め──僕は【聖女剣】の力を解放し、それを魔人の少女に向けて放つと、その光の力が、剣撃と共に放たれ、そして少女を飲み込んだのだった。その少女が立っていた場所には何も残らなかった。

そんな状況に、魔人の女性ともう一人の少女が、呆気に取られているような顔を見せる中、僕は【魔聖剣】を回収しようとするが。

「させない」

魔人の女性がそう言って攻撃を仕掛けてきたのである。

僕はそれをかわしつつ、【魔聖剣】の回収を諦めて、戦闘を続行することにする。

【聖剣】と【魔剣】では性能が違う。その【魔剣】が破壊されたとしても、その核となった宝玉は残るのである。それは回収すればまた武器として使えるため。それを回収するまで諦めてはいけないと、僕はそう思っていた。そんなわけで【魔聖剣】と、それを手にした【英雄】と戦わなければならない僕は──まずはその【英雄剣】を破壊しようと【魔森剣】を振って剣を叩きつけようと考えた。

「──無駄だ」

その一言を口にしながら【聖剣】と【魔剣】が激突した。そして僕が振るっていた剣の一撃を【聖剣】は容易く受け流すと、逆にその剣の腹を僕に叩きつけたのである。僕は【魔聖剣】でそれを受け止めるものの、あまりに強いその剣の攻撃に、【魔聖剣】に纏わせていた魔力が消え去り、剣としての機能を失ってしまうのがわかった。そのせいで僕の手元から離れた剣は地面へと落ちていくのだが──。そこで、僕は魔人の女性が剣を突き出してきているのが見えた。それを避けようとしたが間に合わないと判断し、僕は腕を前に出して、魔人の女性がその腕に向かって剣を突き刺して来たのを腕を貫通させる形になりながらも、受け止めたのだった。

僕は腕に激痛を感じながらも、【魔女神の剣舞】を即座に使用する。すると、その剣の刃が輝き始めたのがわかる。それは僕の腕を貫通しているその魔人の女性の剣をも輝かせていた。そして僕は腕を引き抜くようにし、その剣を振るったのである。その僕の動作を予測できなかったのか、魔人の女性は、そのまま斬られてしまう──はずだったのだけど、魔人の女性は僕に突き刺した剣をそのままにし、僕の腕を掴むようにして動きを封じていたのだ。

それにより【魔森剣】の光が収まり、魔人の女性が剣を振るってきたのを僕はどうにか防ぐ事が出来た。

ただ──僕の方の動きは完全に止められてしまい。

僕はそのまま地面に組み伏せられ、動けなくなる。

「この状態で貴様に出来ることと言えば、せいぜい私達を道連れに自爆でもすることだけだ。そんな貴様の命に意味はない。ここで死ね」

「まぁ待て、その少年は魔王を殺せと言っている。つまり我々の敵となる可能性があるということだ。ならその命は取っておかねばなるまいよ」

魔人の女性の言葉を遮るようにそう言い、もう一体の魔人の女性が近づいてくる。僕はそれに警戒していた。

そしてそのもう一人の女性は──魔剣を持っていたのである。

そんな魔人女性の姿を見て僕は嫌な予感がしてしまった。

その魔人女性が持っていた魔剣が、僕のよく知っているものである事に気付いてしまったからだ。

そう。それは【聖魔剣】であったのである。しかもその魔人女性はそれを手にしていて、その切っ先を僕に向けたのだった。

「【聖魔剣】が二振りか。それは流石に初めての経験だよ。さて、どうしたものかな」

「ふん。お前のような人間風情には、【聖魔剣】を持つこの私に勝てる可能性など万に一つもないわ。さあ大人しく──」魔人の少女は僕を押さえつけ、その魔剣で僕を殺そうとする。僕はそんな少女の【聖魔剣】の一撃を受け止めたのである。すると、その少女の魔剣が光り始め──そして、僕の【聖魔剣】に異変が生じたのだった。

【魔聖剣】と【聖魔剣】は対になる関係であり、それ故に互いの力は相殺されあうという関係にあるのである。その二つの剣の力を打ち消し合う事で、魔剣を破壊できる。だからこそ、その魔剣を破壊するのは僕の【魔聖剣】が最適なのだが──その剣が僕の手の中から消滅した。それと同時に魔剣の威力が僕に伝わってくるのがわかり──【聖魔剣】が消失したのを理解したのだった。

それを見て魔人の女性は笑う。

そして、僕の首に魔剣の刃を近づける。僕は、もう【魔聖剣】の発動が不可能だという事を知った僕は。それでもまだ【聖剣】による身体強化が可能だと思ったのである。僕はどうにかその剣を手で掴み取り、それを自分の身体に引き寄せると同時に身体を起こす。するとその剣が僕の肩に食い込み──そこから血が流れるが。そのお陰でどうにか僕は立ち上がる事に成功した。しかし魔人の女性も僕に攻撃を仕掛けて来ていて。どうにかそれを捌くも、完全に防ぎ切る事は出来ずに。その一撃を受け、吹き飛ばされてしまった。

僕は【聖剣】をすぐに使おうとしてみるものの──その魔剣は光を放つ事がなかったのである。どうやら魔剣を破壊されてしまったからか、魔剣による強化の効力は失われてしまったようである。そんな僕に対してもう一人の女性が襲い掛かってくる。僕はその攻撃を避けようとしたが──。

僕が魔人の少女の魔剣を受けたせいでその身体がうまく動かない。そして、僕の身体にその剣が突き立てられた。そして、もう一人の女性が、僕の腹部を踏みつける。

それで僕は再び動けなくなってしまったのである。

僕が何も出来ない事を確認すると、その二人はその場を離れていったのだった。

そんな時だった。魔人の女性の片割れ、僕に魔剣を突き立ててきた彼女が僕に近づき声をかけて来たのである。彼女はその僕の目の前に【魔聖剣】を差し出してきた。

「これをやるから助けてくれと、そういう事かい?」

僕はそう言って、【魔聖剣】を手に取ったのである。

『ありがとう』

そんな事を言って、【魔聖剣】が笑っているのが感じ取れたが、それを見ているとなんとも複雑な気分になってしまう僕。ただ、これでなんとか命は繋がったと思う。

とりあえず【英雄】として覚醒していない状態で、どうにかなったのは本当に良かったと思ってしまうのだが──ただ、僕はこの状況でこれからどうやって魔王城の中に侵入しようかを悩んでしまっていた。

「あれ? なんか急に現れたんだけど!?」と── 突然そんな少女の声が上がったので。

その少女の方へ顔を向けると──そこには一人の勇者の少女がいたのである。

その瞬間──魔人の二人が僕への攻撃を開始した。

魔人の女性が魔剣を僕に向けて振ってきていたので、それをかわすも。もう一人の女性の剣撃が直撃してしまう。それによって僕は、吹き飛ばされ──地面に叩きつけられた。

そこに勇者である少女が魔人の女性と斬り合いをしていた。僕はその少女に向かって魔剣を放り投げようとする。

「おい! お前!」僕は大声で叫ぶと、「邪魔をするならお前をまず殺すぞ」とその少女は言って、そのまま戦闘を続けていたのである。僕はそれを見ると【魔聖剣】を使い、【魔聖剣】に命令を出す。その光は僕を包み込むようにして僕を守ってくれた。そうして僕の手元に再び戻ってきた魔剣を構えると。魔剣を両手に持ち、魔人の女性にその剣を振り下ろした。

魔人は剣技に長けているわけではないが、その身体能力の高さを活かして魔剣を使って攻撃してきているのが分かったので、その攻撃を上手く捌き、僕はその魔人の女性に攻撃を仕掛け続けると、その魔人の女性も魔剣での受け流しで反撃をしようとしてくる。だが僕はその攻撃を防ぎきり──相手の魔剣を破壊しようと考えていたのである。

魔人が魔剣で僕の攻撃を受け止めた時に僕は魔剣に衝撃を与えていた。それは魔剣を破壊させるためのものだったが──それが見事に決まった。

僕の一撃を受けて魔剣に亀裂が入った。僕はそれを見る。魔剣のその刀身にはヒビが入り今にも壊れてしまいそうな様子であったのだ。

「ちっ」

魔人の女性は、僕の剣を受け止めるのをやめ、その身を後ろに引かせる。

僕は追撃を行う為、魔剣を横一閃したのだが──それを後ろに飛び退き避けようとしたのだ。だけど僕はその魔人女性に追いすがると魔剣を振るった。そして──魔剣は魔人の女性の持つ魔剣にぶつかり、そのまま破壊する事になる。僕は魔剣を失い丸腰になった魔人の女性に向かってそのまま突っ込んで行く。魔人の女性はそれを避けようとはせず──。

そして僕は魔剣を振り下ろそうとしたが、その時だった。

僕が魔人の女性を攻撃するのが見えたからか、先程、僕を攻撃していた魔人の女性が僕の方に襲いかかってきたのである。それはまるで魔人の男性のような素早い動きだった。僕もその魔剣をかわし切れず──僕はその魔人の女性が振るってきた剣で腹部を貫かれてしまう。それにより、僕の意識は徐々に薄れて行ってしまう。

僕はそんな状態の中でも──僕の剣をどうにか受け止めようとしていた少女の姿を確認し──その手に持っていた魔剣を投げ渡してしまっていた。そして僕は──その場に崩れ落ちるように倒れ伏したのだった。

「えっ?」という、勇者である少女の声が聞こえる中、その僕の耳には──魔王軍に所属する女性達や、【魔女】や【女神】といった面々の悲鳴や叫び、それに怒号などが聞こえて来たのである。それらの音が段々と遠ざかって行くのがわかった。そんな中、僕は完全に意識を失ったのだった。

それからしばらくの時間が経つ。目を覚ました僕は自分が寝かされていた場所を見回すが、その場所に見覚えがなかった為に、少しだけ戸惑ってしまった。

そんな僕に声をかけてくれる存在がいる。僕に話しかけてきた人物は【女神】様であった。

『あ、起きてくれたんだね。ちょっと聞きたい事があるんだけどいいかな?』と、言う彼女に対して僕は警戒心を抱きながらもその言葉に応じる事にしたのである。そうして彼女は言った。【聖魔剣】の居場所を知らないかと聞いてきたのである。僕は正直、それを知らなかった。僕は彼女にそのことを伝えて、その【聖魔剣】がどうして必要になっているのかを聞いた。すると彼女は【聖魔剣】の力が必要な事態が起きたのだという。その力があれば、光の女神の力を借りる事ができるらしいのだと、そんな事を教えてもらったのだった。

その話を聞いて僕は、この魔剣に秘められた能力の恐るべき事を知ったのである。この剣は魔王の武器であり、光と闇の両方の特性を持っている。だからこそ、闇に属する力を増幅させる事が出来たり、光の力を吸収できたりするのだけれども、【聖魔剣】の能力はその更に上を行っているようであり──。なんと光の神であるルクスを蘇らせる事が、この魔剣の力で出来ると言うのである。

つまりは魔剣をその鞘として使い、光の神の力を利用するという事なのだが──。

「そ、それって大丈夫なの?」

「ん? 何がだい?」

【聖女】は不思議そうな顔をしている。

どうやら彼女は僕が何を言っているのか分からないようで──その質問に答えてはくれなかったのである。だから僕はそれ以上は聞くまいと思い、彼女の言葉を素直に信じる事にして、【聖魔剣】の力を利用しない手はないという事だけは理解する事ができた。

ただ、それでは、どうやってその剣を探せば良いのかと頭を悩ませている僕。そもそもどこに存在しているかも分からない。もしかしたらもう既にどこかへ封印されてしまった後かもしれないのである。そう思うと不安が過る。すると【聖魔剣】は言った。

『安心してよ、君の傍に【魔聖剣】がある事は間違いない』と── そんな事を言うものだから──

「ちょ、それどういう意味だよ!?」

『その魔剣に宿っている精霊はね、僕と契約してくれてるんだよ。その【聖魔剣】と【聖魔剣】を共鳴させてあげればきっとその力が使えるはずなんだ』

「いや、まぁ、その話はなんとなくは分かったんだけどさ、そもそもその肝心の場所はどこなんですか?」

僕のその疑問に対し──その魔剣が答えるより先に。【魔剣】の気配が周囲に集まっている事が分かり、その次の瞬間には魔剣が勝手に僕の元へ飛んできたのである。僕はそれを慌てて掴むと、それをまじまじと見つめる事になってしまったのだった。僕が困惑しながら、その魔剣を握っていた時だった。

僕の視界が急に切り替わってしまったのである。

気付けばそこは見知らぬ場所で。僕の周囲は薄暗い森に囲まれていて。

僕は何故かその森の中で一人ぽつんと佇んでいた。そして僕の視線の先で巨大な岩が地面に落ち、大きな砂煙が上がっていった。その岩がなんなのか、その時にはまだ僕は気が付いていなかった。ただ、そこに魔人の女性が姿を現したのだ。魔人の女性は何かから逃げているような様子で。そして──その先にあった大木の後ろに隠れると息を整えていたのである。

そんな魔人の女性の様子を眺めていた僕はふと自分の手の平を見て、握っている剣の感触を確かめるように見回してみていた。僕の身体と一体化してしまっているかのように思えるその剣からは不思議な力を感じとっていたのである。その僕の手に持っている魔剣の事を見ていると。僕と魔人の女性の目線が合ってしまったのである。その魔人の女性が突然こちらに近づきながら声をかけてきたのだ。

「そこで何をしている?」と──それに対して、僕の方はというとその問いに対してなんて返事をしたらいいのか迷ってしまい──結局何も言えなかったのだが。するとその魔人の女性は続けてこう言って来た。君もあの化け物を見ただろう、あいつらに捕まるとまず間違いなく殺される──私と一緒に来ても損はないはずだと。その魔人の女性の必死の訴えは──まるで僕の事を心配しているかのような言い方に聞こえた為に、つい僕の心は揺らいでしまう。そう思ってしまった自分に嫌になりながらも。

その女性の提案を受け入れる事にした。

その女性は【魔女】と呼ばれていたが。その名前から察せられる通りの見た目をした魔人の女性。黒髪で長身。肌の色が褐色で。整った綺麗な顔つきをしている。だけど目元が険しくて。とても怖く感じられ──。美人というよりも、美しいという表現の方が似合っているように思われる女性だった。そんな彼女についていき──その女性と共に行動を開始する事になったわけだが。一体彼女は、ここで何をしていたのか。僕はそんな事を考えつつも──先程の魔物から逃げた時の様子を見て僕は思っていたのである。もしかすると──彼女もこのダンジョンを攻略しにきていた冒険者なのでは無いかと。そんな僕の考えが正しいかどうかを確認する術はなかった。

「お前の名は?」とその【魔人】である魔人の女性は僕の名を訪ねてきた。

僕は──それにすぐに答えられなかった。だってそれは本名じゃなくて──【魔剣】によってつけられた名前なのだし、僕の名前も──僕自身も、それを名乗って良いものか判断がつかなかったからである。

だから「今は──【魔王】だと名乗っておこうかな」と答えたのだった。

僕は今現在──【魔聖剣】を所持している。そして僕のその手の中に【魔聖剣】は存在しているのだ。それは本来なら有り得ないはずの事。僕がそれを自覚した時には、その僕の目の前には一人の少女の姿があり、それは先程まで僕が助けようと──仲間達の為に戦おうとした存在。そして僕に助けを求めていたはずの【魔女】と呼ばれる少女であった。彼女は僕に対して感謝の気持ちを述べてくれたが──。

その表情は明らかに先程と変わってしまっていて、それは恐怖や怯えを感じさせるもので──その様子から僕の目の前に現れたのは偶然ではないと僕は感じ取ってしまう。

「ど、どうして【魔聖剣】を扱えるのかって、その疑問はあるんだろうけれど、そんなことはどうでもいいじゃない。貴方の目的は、私と同じ。そうだろ? ならば共に行動をしないか?」

そんな事を言い出す彼女に僕は戸惑い、少し躊躇うようにしていたが──【聖女】の事もあり、彼女の提案を受ける事にした。そうする事でこの窮地を脱する事が出来るのではないかと。僕が了承の旨を伝えると、彼女は笑みを浮かべた。

「よし、決まりだ。とりあえずは自己紹介をしておこうか、私は──そうだな、【魔王候補】としてここにいる、そう言えば、わかるかな? 君は【聖女】とかいう名前の人間を知っているかい?」

彼女の口から出てきたその言葉を聞き、僕は驚いたのである。何故ならばその名は、僕達が【魔剣】を探そうとしている存在の名だったからだ。そして僕がその質問に肯定するように首を縦に振ると──

「なるほどね、やはり【聖女】とは協力関係にあって正解のようだ。【魔女】が【聖女】と敵対しているというのも本当のようね」

「いや、その、僕は、そういうんじゃなくって、えっと、その──成り行き上そうなったというか」などと、そんな事を伝えてみる僕であったが。どうやら僕の言っている事を理解してくれているとは思えないような態度を見せられてしまう。すると僕の視界はまた別の場所に移動してしまう。そうして、今度は【魔女】の女性と共に──森の中で遭遇していたのである。

その魔人は巨大な斧を振り回す大男であり、それの攻撃を、彼女は【魔人化】して受け止めた。

「ちっ!」という女性の舌打ちの音だけが聞こえて来たのだが。その攻撃を押し返したのは僕の方ではなく、魔人の方で。

僕達は二人して森の奥へと移動を開始した。

そうすると僕の耳には、複数の何者かが追いかけてきている音が聞こえた。僕がその音に気付くのと時を同じくして──僕を追いかけてきていたその集団は姿をあらわしたのである。

彼らは全員、全身を布で覆われて、顔を隠しているのだが。その動きをみて、どうやら暗殺者であるようだった。僕を仕留めようとしていたようで、僕はその攻撃を受ける事になってしまったのである。僕にその攻撃を繰り出したのは──【魔剣士】の男性と、その相棒であると思われる猫のような耳を持った小柄な【獣使い】の少女だった。二人はそのまま僕の前に立ち塞がり【魔人】の女性と戦いを始めようとしたわけである。そんな二人の背後から忍び寄ってきたのは──【暗殺者】の男。僕はそれに気付き──咄嵯に身を翻すも間に合わず。

その男の短剣が、僕の腕に突き刺さる。しかし、その痛みに耐えながらも──僕は【聖剣】で相手の身体を切りつけたのだった。

その僕の攻撃で男は倒れたのだけれども。僕の受けた傷はそれほど酷くはなく。僕自身は戦闘を継続する事ができる状態ではあったが──僕の身体の事を気にしてくれたのだろうか。僕の前に立っている二人の女性は撤退を選択し、僕と【魔人】である女性がその場に残されたのである。そして彼女は言う。お前は逃げなくていいのかと。確かに僕の腕からは大量の血が流れ出してしまっていたが、これくらいならば大丈夫だろうと。

僕がそう告げると──。その【魔女】の魔人の女性はその言葉を信用してくれると、共にこの場所から離れてくれる事になった。そして僕が【魔王城】に転移してきた場所は──何故か【悪魔神官】が作り出した魔族の住処であるあの神殿内。僕はそこで倒れ込むように眠っていたらしい。

そして僕は夢を見た──いや、これは夢というよりも過去を振り返っているだけなんだと思う。僕に【魔王】になるきっかけを与えてくれた存在。【魔王】は僕が【勇者】だと知っていながらも、それでも優しく接してくれていて。僕にはそれが本当に有り難かったんだ。僕には妹がいて、僕は彼女を庇う為に飛び込んだんだけど──

「もう、兄さんは無茶し過ぎだよ」とそんな優しい声が僕の元に聞こえてくる。僕が目覚めた事に最初に気が付いてくれて、僕に向かって微笑んでくれたんだ。そして──

「【勇者】の力を受け継いだ【聖女】よ、我が娘よ。お前がこれからどのような道を選ぶとしても。それは私の願う所でもあるのだぞ。私はな、私の娘、私の息子となる者達の可能性を見てみたいのだ。お前がその可能性の一つとなればそれでよいのだ」とそう言いながら、彼は僕に手を差し出してくれた。

僕はそんな彼の手をしっかりと握りしめて、「ありがとう、父様」と言ってから、その手から伝わってくる温もりに涙したのだった。

そんな過去の光景が蘇ってきていたのだ。

その光景はまるで僕の記憶をそのまま映像として見ているかのようであるのだが。僕の目に映っているその光景は僕自身の視点から映し出されたもので。そこには僕の知っている人物の顔は一人も存在していなかったのである。その場面は唐突に終わりを迎えると── 僕は、僕を【魔王】に導いてくれた恩人である【魔王】と【聖女】の間に産まれた息子に【魔聖剣】を渡し、この世界から旅立たせる事になる。

そうしないと僕も、妻である女性も死を迎えてしまったので、致し方ない行動であったのかもしれないが。

「君も一緒に行こうよ、父さんが待ってるよ」とその子は僕を誘い、それに僕は答えられなかったのである。僕はその時既に、【魔人】である彼女と行動を共にしていたのだから。そして僕は、その子供を見送る為にその場に残った妻と二人で会話をかわすと、僕は妻を抱き寄せて口付けをした。すると妻は泣き崩れ、その手の中で僕の【魔聖剣】が砕け散ってしまった。

「ごめんね、私も貴方と一緒に行けたらよかったのだけれど。私は、貴方の事を愛しています。ですから貴方が生きていく事を望んでしまうのです」とそう伝えてくれた彼女に対して僕は。「わかっています、私は幸せだった」と答え── そうして、僕は【魔王】となったのである。その僕の意識は現実へと戻って来る。そうすると僕の周りには再び敵が姿を現し始めていた。それは先程、【悪魔神官】と戦うために駆け出して行かなかった他の仲間達で。僕の目には【魔剣】を手にしているのは三人の魔人達と──【聖女】の姿があったのである。そして彼女は僕に言う。「どうしてここに?」と、その問い掛けに対して僕はすぐに答える事ができなかったが。彼女が僕の答えを待つ間、【聖剣】を手にした一人の【魔女】の女性がその手にしている剣を振るい【悪魔騎士】の一人を討ち取ると。その彼女の前に別の一体が飛び出してきて【聖剣】と刃をぶつけ合う。そして彼女は言うのだ。「どうして邪魔をするんですか、【聖女】」と。それに対して彼女は、【魔女】のその質問に対して、何も語ろうとはせず──代わりに僕の【聖剣】に向けて話しかけて来た。

「貴方はこの【聖剣】を、【英雄】に渡そうとしているのですね?」

「ああ、そうだ。私達は【魔剣】を集めているんだ。だがそれは私達が手に入れる事ではなく、誰かの為に必要とされているからなんだがな」と僕が口にすると、【聖女】は少し考えてから。僕に【聖剣】を渡す事に了承する姿勢を見せたのである。僕はその彼女にお礼を伝えると。その【聖女】は──

「貴方の事は信じたいと思いますが、私達の味方ではないんですよね? であれば【聖女】は貴方の【聖剣】は受け取れません。ただ、私達が探しているのはこの世界の【聖剣】なのですよ。貴方は今、【魔王】なのでしょうか? 【魔剣】の気配を感じるのです。この【聖剣】を貴方に預けてもいいとは思いますが、【聖剣】の所有者になれるのは一人のみなので、どちらにしても、今は渡すわけにはいきません。それにこの先にいるのでしょう、もう一人の【魔王】は──【魔聖剣】を持っているのは──」と。そんな事を話していた。

すると【魔女】がそれに応えるように「【魔聖剣】を持つ者がいるというのか?」と言うも、【聖剣】はそれを否定してみせたんだ。

──その言葉の通りだ! 【魔女】の言葉に応えた【聖剣】の声を聞いた僕は、【魔女】の持っている【魔剣】を奪い取ろうとするも。しかしそれよりも早くその魔人が動いてしまい。僕はその攻撃を防ぐ事に精一杯になってしまう。その間に他の仲間達は【悪魔騎士】を倒してしまうのだが。

──このままでは、やられるだけだ! どうにかしないと! そう考えていたのだが、僕にはその方法を思いつくことはできなかったのである。そして僕の目の前で【魔女】は言う。

【魔剣】が欲しいのなら、俺と決闘しろ、と。そうすると【魔女】は──【魔人化】を行ったのである。そうやって現れたその姿は──人に近い形状で、頭からは山羊のような捻じ曲がった角を生やしていて。そして瞳の色は真っ赤に染まっていたのだ。

【魔人】──。僕も聞いた事がある名前で、その存在を耳にした事はあるのだ。人族や、獣人族などよりも遥か昔からこの世界に存在していたと言われる存在。人族はその魔人族を恐れているという話も耳にしていたが、僕はそんな彼らの存在を実際に目の当たりにする事になったのである。【魔王】となってからは、僕は【魔剣】に宿っている【悪魔神官】から、彼らがこの世界に現れてからは人間たちとの交流を避けている事も聞かされていた。しかし【聖女】は僕に告げるのだ。彼らは基本的に、人間の敵じゃないんだ、って。そう言って【聖女】はその【魔人】の女に視線を向けた。

僕はその二人の話を黙って聞いていて、僕も、そして僕と行動を共にする者達にも。この戦いに参加していいのかどうかの判断を仰ぐべく問いかけてみたのだが。皆、僕の判断に従うと。そう返事をしてくれたんだ。

僕としては。【魔剣】の持ち主になる権利は僕にしかないと思っているから。

僕の答えに満足してくれた【魔女】は──。

──勝負だ、と言ってから攻撃を仕掛けてくる。僕はそれに対して──剣を交えるも、僕の力では【魔剣】を扱う【悪魔神官】を倒せなかったのだ。つまり今の僕はこの【魔聖剣】の本来の力を引き出すには、まだまだ力不足だったという事になる。だからといって【魔剣】に力を開放するように頼むのは難しいし。どうしたものかと考えていると──その【魔女】は── ──その武器、私が奪っても構わないか、と言ってきたのだ。僕はそれに対して、それが可能であるのならば問題ない、と答える。すると【魔剣】は言うのだ。

──貴様が本当に私の主にふさわしい存在だというのであれば、それは可能である、と。僕が【聖剣】の所有者となる為には必要な事だと。そしてその【魔女】に対して、【聖剣】が、お前と手合わせする事を望むのであれば可能だろうとそう伝える。

僕は、そうして【魔人】の女と戦いを繰り広げる事になったのだ。その戦いの中で僕は、【聖剣】の力を解放する。そして、僕は女の攻撃を受けるとそのまま倒れ込み、意識を失ってしまったのである。そして気が付くと──僕の手の中には砕け散ってしまったはずの、あの時の形のままの【魔聖剣】が存在したのであった。

そして【聖剣】の新たな持ち主として僕が選ばれた事によって。僕はその使い手を、その【魔人】に選ばなければいけなくなる。

【聖女】は── ──私でお願いしますと、そう伝えてくれたのである。僕はそれに「ありがとう」とそう伝えてから、彼女から【聖剣】を受け取ると。【聖女】の体から光が漏れ出した。その光を僕は抱きしめるようにして抑える。僕達の目的はあくまでも、【魔剣】の捜索と。それから【魔人】と接触をして、【聖剣】を渡し、【魔剣】を集める協力を得る。そして僕たちは──【魔王】をこの世から消すつもりなのだ。

僕は【聖女】から受け取ったその剣に、自らの血を与え。その契約を果たすために剣の名を叫ぶ。すると【聖剣】は自らにその名を告げるよう訴えかけてきたのであった。僕はその要求に応じると。僕自身の魂と剣をリンクさせながら【聖剣】がその真なる姿を現して行ったのである。

「我の名は『聖魔』、【聖剣】である!」と声を上げるその姿を見て、【魔女】は驚いていた。そうして【聖魔】を手にすると僕は彼女に言ったのだった。

──僕は、あなたに負けた、その借りは必ず返させて貰う、と。彼女はそれにこう返す。

──楽しみに待っているよ、と。僕は彼女のその答えに笑顔で答えて見せる。そして彼女は僕達に背を向けると歩き出す。

僕は【聖剣】に魔力を送ると、僕の中に【聖剣】の情報が流れ込んで来た。そうして【魔剣】の居場所を確認する事が出来た僕は──そこに【魔剣】があると確信したのである。

──この先に【魔剣】はある、と、僕が確信を持ってそういう風に【聖魔】に告げると、僕の周りにいる仲間達も同意してくれる。しかし僕には【魔女】に一つだけ伝えておかなければいけない事が、あった。それは──【魔女】の使っていた魔人の能力である【変身】は、【魔王】が扱う事が出来るようになるスキルである、と、その事を僕は【魔女】に伝えたのである。そして僕の仲間になった者たちが僕の元から離れ、僕の目的に協力したいとそう言ってくれた。

僕達の目指す先は魔王城の最上階。魔王城には転移陣があり、そこから行く事ができるらしいので僕達はそこを目指して歩いていたのだが。しかし魔王軍の兵士たちに阻まれてしまう。

そして僕達の前に一人の騎士が姿を表した。そいつこそが──【聖女】の恋人でもある【勇者】であり。彼が僕の元に近づいてくると、僕の手に握られた聖魔を見て驚きを見せると共に──

「聖魔!?」と叫んでみせたんだ。そうやって驚い表情を浮かべていた【勇者】だったが直ぐに険しい顔をみせると同時に僕へと向かって襲いかかってくる。だが僕にとっては雑魚でしかなかったのだ。僕はそんな彼に対して剣を向けようとするも彼は僕の横を駆け抜けて【聖剣】を奪う為に向かって来てしまったのである。僕がその剣を避けるように横に跳ぶと。僕の傍にいたもう一人の男が剣を振るって、【勇者】を攻撃した。

【魔人】である【魔女】との戦闘を終えて戻ってきた仲間たちと合流して、魔王城を登って行った。そうして辿り着いた場所にあったのは巨大な門。その扉の前で僕は魔王軍から受けた襲撃について皆に告げる。すると聖女は言う。この扉の向こうにある部屋には、魔王と幹部達が待ち構えている、と。

「【聖剣】の力を解放できる僕でも、魔王には、絶対に勝てるという自信はない。それに魔王には部下である魔王軍の幹部達がいる。それに魔王の配下の魔人達もだ。だから皆の協力が必要不可欠だ」

僕は自分の正直な気持ちを伝えたのである。僕一人だけではこの扉を開ける事は出来ないからだ。

「【魔剣】を手に入れる為だ。俺の力が必要ならいくらでも貸すぜ」

そう口にした男の名前は、【魔剣士】──聖剣の担い手。そして僕は彼の持つ【聖剣】を、【魔剣】の所持者として選ぶ必要があった。その為にもまずは彼と勝負をする事になるだろう。

「【魔剣】は僕が必ず見つける。皆が戦っている間は、僕が【魔剣】を探し続けるよ。だけど【魔女】から聞いた話によれば。あいつはこの城の最上階に【魔剣】を持っているみたいだね。僕はこれからそこに行こうと思っている。そして【魔剣】を見つけ次第、すぐにここに戻ってくる。それでいいかな?」

僕は【魔剣】を手に入れれば、それを皆に伝えると決めていたのだ。すると──僕がこれからすべき事を口にすると、それに一人の女性が声を上げたのである。その女性は僕の仲間である【僧侶】の女の子だ。

その彼女が僕に問いかけてきた。

私はあなたの仲間になりたいと、そんな願いを口にしたのであった。そして彼女は──僕の旅に同行したいのだとそう言い切ったのだ。僕はその彼女からの問い掛けに少し考え込む。何故なら──彼女はこの国になくてはならない人材の一人だからである。そんな彼女の力を僕の為に使わせるのは気が引けたのだ。

だから僕は、彼女にそう告げたのだ。すると彼女は──私の身を守る盾は私が守るからと。そんな意味深な言葉を返して来る。しかし僕も簡単にその提案を承諾するつもりはなかった。そして、暫く話し合いをしていると。僕の前に姿を現した【魔人】がいたのである。その【魔人】の女性は──

「お前、その力を使いこなす覚悟あるか?【聖剣】の本来の力、引き出せるようになったのか?」と、僕に訊ねて来たのである。その【魔人】の言葉を聞いた皆は驚きを見せていて。それはそうだよね。だって【魔女】の使った能力を知っている僕だから、そうやって驚く事も理解できたけれど。他の者にとっては全く何の話だか分からない状況だもん。だけど僕は、今は詳しい話をする時間が惜しかったのもあって、取り敢えず彼女の問いに対する答えだけを告げようとしたんだけど。

「俺はあんたに協力するよ」

そんな風に告げる女性が現れたのだ。それは僕に【聖女】を託してくれた女性──【聖女】のパートナーでもある【英雄】。【英雄】がそう言ってくれた事で──この国の王の娘でもあり、【聖剣】を扱える唯一の存在である【聖女】と、そして【魔剣】を持つ【魔人】の女が同行してくれて、更には、この国最高の力を持つ聖剣使いである【勇者】が僕に協力してくれる事になって。これでようやく準備が整った訳である。

そうして僕達は再び歩み始める。目の前に存在する巨大門に── ──────

「あーっはははははは!お前達ごとき、俺様の力だけで十分に対処できるんだよ!」と、大笑いし、僕達をバカにしている様子の男の名は、【魔王】と呼ばれる、その人物なのだ。僕はその姿を見て、こいつが本当に、僕にこの世界の平和を諦めろと言って来たあの【魔王】なのだろうかと疑問に思うほどの姿なのだが。だが──間違いなくこいつも、【魔人】と同じ様に人族を裏切る様な発言をしている。そうやって僕を挑発しながら戦いを始めようとしてくるのだが──。その戦いは、一瞬で決着がつく事になったのである。

【魔人】の男が僕を襲って来たのだが、僕は【聖魔】の力で作り出した剣を使って戦う。そして僕と魔人との戦いでは魔剣に込められている魔力が圧倒的に違うので。戦いはすぐに終わるはずだった。僕はその一撃を、【魔人】に放ち、彼を斬りつけたのである。

しかし彼は、それを受けると、ニヤリと笑う。

すると──僕の体に異変が生じた。そう、僕は奴の魔力をその身に受けてしまったのである。僕の意識はそこで途絶えた。しかし僕の体が地面に倒れ込もうとすると。僕はその誰かに支えられたのである。僕はその支えてくれた者の方に視線を向ける。そこには心配そうな表情を浮かべている、【魔女】の姿があったのだった。

どうやら僕は気を失ってしまっていたようだ。しかし、それも僅かな間のようで、今の状況を確認しようと思い体を動かそうとした。すると──

「まだ動いてはダメだよ」

僕の視界には──何故か僕の体を抱きしめている【魔女】がいたのだ。彼女の柔らかい体の感触を感じて──僕の心臓はドキドキと大きな鼓動を始める。どうして彼女はこんな事をしているんだろうか、と、そう思って彼女の表情を確認すると。【魔女】の目元には涙が浮かんでいて。僕は驚いてしまった。そして彼女は──僕の頭を胸に抱えるようにして抱いてきたのだ。僕は慌てて離れようとしたが、そんな僕に対して【魔女】は優しく囁く。僕の耳元に唇を持ってくるように近付いて──僕に語りかけてくる。

僕の心の中には──様々な感情が入り乱れていて、混乱していたのだ。そうして僕は動けなくなっていたのだが。そんな僕の元に一人の人物が姿を見せたのである。

その人物は僕の傍に来ると──【魔女】に対して、僕の頭を抱くように腕を差し出す。

すると【魔女】は「私じゃなくて──彼に抱きついてあげた方がいいんじゃないかしら」と言う。

「うん、そうする」そう返事をした少女の声は、僕も良く知る声だったんだ。僕がその事に驚いたような声を上げる前に、【魔王】から攻撃を受けた筈の僕の体は──何故か、痛みもなく、無傷の状態で、僕達の近くに現れたのである。僕は、僕の身体を庇う様にして、僕と【魔女】の事を護ってくれていたのであろう、僕の仲間の方へと顔を向けた。そして僕は、その仲間たちを見て、驚きの声を上げそうになったのだ。何故ならそこに立っていた仲間の中にいたのが──【勇者】であり。そして僕の仲間たちをも助けてくれたと思われるのが、先程【魔王】が僕に向かって攻撃を仕掛けるのを止めようとしていた女性の【魔人】であったからだ。そしてその【魔女】のパートナーでもある【英雄】は僕に向かって手を伸ばすと──僕に向かって【回復魔法】を唱えてくれて、それで僕は何とか一命を取り留める事が出来た。

そうして僕は皆に対して礼を告げると。【魔王】に対して攻撃を行なっていく事にした。僕がそんな【魔王】に対して【聖魔】の攻撃を放った。その瞬間──僕の手元から聖剣が消えると、次の瞬間には僕の右手が【聖魔】を握っており。そのまま僕は──【魔王】の首を斬り落としたのである。

僕には【魔王】の生首を手にする事など出来ていない。そうやって【魔王】を倒した後──僕の足元に魔王の首が落ちて来たのだ。僕達がその事に驚ているとその背後から──

「ふふん、やっぱりあたしの出番はなさそうねぇ。【英雄】が間に合ってよかった」と、僕達の所に現れた女性がそんな言葉を紡いだのである。僕はその【魔女】に目を見張る。何故ならその女性こそ──【魔人】であったからである。そして僕は【魔女】と、その【魔女】と共に行動をしている【魔人】の女性を見る。そして──【魔人】の少女が僕の方を指差すと──。

「そっちにいる子──あたしも欲しいかも。それにその子も」

僕は、そんな発言に驚くしかないのだけれど。

僕はこの世界に生きる者達を救う為に戦っていた。そして──僕はこの世界の真実を知りたいと思っていたのだ。しかし僕の前に姿を現したのは、僕の味方ではなかった。僕達の世界では当たり前のように存在していた『人権』という言葉を僕が忘れてしまっていると──。

「この世界から──君たちを排除してしまえばいい」と、そう言うのである。

「何を馬鹿な事言っているのよ。あなたはこの国の為に尽力してきたんじゃないの?」と、一人の女の子が言うと、 その人は笑顔を見せる。

すると女の子は顔を真っ赤にして俯き。「ばかじゃないの」なんて言葉を呟いている。

そんなやり取りが行われている間も。

「お前の力は凄まじいな。この俺様の一撃を受け流した上でカウンターまで決め込んで来るとは。しかし──もう遅いんだよ。全ては終わっている」

そんな【魔人】の男は余裕の笑みを見せながら、僕達に話しかけて来たのだ。そしてその男の瞳からは血が流れ出していて、明らかに普通の状態ではない事が分かるのだ。そしてその男の言葉に反応を示したのは【聖女】と【魔女】の二人だ。彼女達は僕よりもその言葉に反応したように見えた。しかし【魔人】の男は彼女達二人の様子を無視して話を続けたのである。

「さて──まずお前は死ぬ。次にお前達の仲間もな。最後に、貴女にも死んで貰いますね」

その言葉に僕は驚くしかできなかった。僕と、この場に一緒にやって来た皆の命が奪われようとしている。それだけはどうにか回避しなければ、そう思ったのだが。しかし【魔人】の男の瞳が僕に向けられた途端。その視線だけで僕の動きを縛ってしまう。僕は動けなくなる。そうしている内に──

「それでは皆様お待ちかねの終焉を。この世界での楽しい思い出は楽しめましたか?」と、その【魔人】の男は、まるでこの場に居る人達が知り合いだったかのような発言をするのだが。僕はその発言に怒りがこみ上げて来て、何とかその気持ちを抑えると、 僕は【魔人】の男の方に向き直った。

そして僕は剣を構えると、【魔人】の男に対して斬りかかって行くのだが──僕の振るった剣は簡単に【魔人】の男の剣に弾かれてしまう。そうして僕達は激しい剣戟を繰り広げて行く。その攻防は僕の力が完全に封じられているという事もあり、一方的な状況になりつつあった。そして僕は徐々に押されて行って、最後にはその剣を飛ばされてしまった。

「どうですか?私の実力を少しはご理解頂けたかと思います」と、【魔人】の男が僕に告げる。しかし、

「まだまだこれくらいでしょ」と、そんな【魔女】の言葉が返って来たのである。その言葉が聞こえて【魔人】の男が視線を向けると。彼女は僕に微笑むのだ。そして僕は【魔女】に手を引かれて、その場から離れると、彼女が僕に回復魔法を掛けてくれる。僕はまだ動こうとするが、体が上手く動かずに。そのせいもあってその場に膝をつく形になる。すると──

「それじゃ、始めましょうか」と、僕の傍に来てくれた【魔女】がそう口にすると、彼女の体が輝きを放ち始めたのである。その光はどんどん大きくなり。僕の目の前がその輝きに覆われていくと、僕の周りは暗闇に染まっていく。

そうして、気が付いたら、僕は知らない部屋の中で眠っていたのだった。そう、そこは僕の知らない場所であるのに。

何故か僕はその場所に懐かしいと感じているのだ。

そして僕は起き上がると部屋の中を確認して、 僕はどうしてこんな所に寝ていたのかを思い出そうとして、頭を抱えてしまった。すると僕が起き上がった気配に気付いたようで。扉が開いて、僕が顔を向けると、そこには僕が良く知る人物の顔があって、僕に優しく微笑んでくれる。そう、その相手こそが、僕の大切な人であり。そうやって微笑んでくれた彼女の事を僕は抱きしめた。

僕は彼女を力いっぱい抱きしめると。彼女は僕にこう言ってくれたのだ。

「おかえり、私だけの旦那様」と──。

そして彼女は、そんな優しい言葉を僕に掛けてくれた。そうして彼女は優しく僕の頭を撫でてくれて。その心地良さに、僕は甘え続ける事になるのだが。それは僕が望んだ時間であり。僕の求めてやまなかった、彼女との時間でもあったのだ。そう──僕はこの時、彼女に、本当の意味での幸せを感じたのだ。そうして僕と彼女が暫くそうやっていると、そんな部屋に【魔王】の【英雄】とその仲間たちが現れたのである。

「良かった。無事だったんだ」

【英雄】の彼がそう口を開くと。他のみんなも、僕達に声をかけてくれたのである。そのみんなの優しさに触れて、僕はまた泣きそうになってしまった。ただ【魔女】だけは──その光景を目にすると──何故か悲しげな表情をしてしまうのだ。そんな【魔女】の様子が気になった僕は、声を掛けようとするが、それを遮るかのように【魔人】の女が声を上げたのである。

彼女は【魔女】と会話を始め。【魔王城】で起こった事を説明を始めたのである。そこで【魔女】が語った内容には驚くべき事実があった。それは、魔王軍が、僕達の世界を崩壊させるべく行動を開始していて。今現在も【英雄】のパーティのメンバーの生き残りが戦ってくれているが。

劣勢に立たされており、その状況を覆す事は厳しいという現実であった。そして、その話を僕達にしてくれた【魔女】も、その戦況を変えるために【転移装置】を利用して、こちらの世界に戻って来たのだという。その【魔女】の説明を聞いていると。僕の胸の中にあった疑問が浮かんできて──僕は【魔女】と【魔人】の男女を見つめる。すると僕の視線に気づいた【魔女】が僕の方を見ると──「どうかしたの?」

そう聞いてきたのであった。だから僕は──「あちらの世界の【魔王】とその配下の【魔人】の二人はどうなったんですか?」と、そう聞くと。その答えが意外なものだった。【魔女】と【魔人】の二人が僕の方に歩み寄ってくると── 僕は【魔人】の男の手に抱かれて。その手は僕から離れない。僕の身体は動かない。【魔女】は僕に微笑みかけるだけで何も語らないし。その【魔女】と【魔人】が一緒のタイミングで動き出して、僕に向かって何かを語りかけようとしてくれているようだ。だが僕の耳には入ってこなくて。

そんな状態の僕は意識を失ってしまったのである。

**

「ねえ、貴方、目を覚ましてちょうだい」と、そう言いながら僕の体を揺すっている女性がいた。

僕はぼんやりとした視界を元に戻すと、そこにいるのは僕の良く知っている人で。その人が、僕の額に手を乗せてきて。僕に回復魔法を掛けてきてくれる。

「大丈夫ですか?気分はどうです?」

そう心配してくれる女性は、僕が今まで一緒にいた女性と瓜二つだけれど。雰囲気も口調も、そして僕に向ける目線が違うからこそ。その違いは顕著に表れる。その女性と僕の関係を一言で表すのならば──【聖女】その人であった。

僕の体を抱きかかえるようにして、彼女は僕を介抱してくれた。しかし、僕は【悪魔神官】との戦いで傷を負ってしまい。体力の限界が訪れてしまっていたらしく、僕はその場に崩れ落ちそうになる。

しかし──僕の倒れかけた身体を女性が受け止めてくれた。その女性のお陰で僕は倒れる事がなくなり。その女性が僕を支えるような形で、その場に留まる事が出来た。その女性の背中越しに、僕は彼女達を見る。すると──【魔人】の少女と目が合うと。僕は少女に対して「君は?」と尋ねるのだが、少女はその問いかけに答えず。

ただ黙って僕の事を見て微笑むだけなのだ。その笑みはどこか悲しみに溢れた笑顔で、僕に向けて向けられているはずのその笑みに。僕の心はざわついてしまうのだ。その少女の笑顔に僕は既視感を覚えている。そして僕はその少女を知っている気がしてならない。でも、それが誰なのか思い出せないのだ。僕は【魔女】に尋ねてみたのだが、彼女もその事に心当たりはないようである。僕が彼女の名前を口にして呼んでみても。彼女は「分からない」と口にするばかりで。どうにも歯痒い思いばかりが残ってしまうのだ。そんな事を考えている間に、僕は自分の力で立ち上がり、一人で歩き出したのだが。その途中で── 僕は【魔女】と、【聖女】に手を握られ。そうする事によって、どうにか歩く事が出来ていたのである。

そうして歩いていると、【魔人】の男が僕の前に現れて。その男は「まだ終わっていない」と言うのだ。しかし【魔女】は、「終わりですよ。【英雄】達の力であの魔王を倒すしか──」

「いいえ、もう終わらしている頃かと」と、その男の発言に別の男が反応を示したのである。その男の姿を見て、僕はその人物が、僕を【魔王】のところにまで運んでくれた【魔人】の男だと気付くと。思わず彼に声を掛けてしまったのだ。

するとその男は僕の方に視線を向けると。僕の方を見ながら微笑んだ。その彼の態度に僕は戸惑ってしまったのだが。彼は、僕の腕を取ると──

「行きましょう。【勇者】様」と言ってくる。その言葉で僕はこの場に【魔王】の気配を感じるのだが。その言葉通りであれば。

僕とこの人は──この場に居る全員と一緒に移動をしているらしい。しかもその目的地がどこにあるのか、それは誰も分からないようであった。ただ僕達は歩いて行くしかない。その道中、僕の横には先程【魔人】が言っていた【英雄】の姿があったのだ。【魔人】の言葉通りに。この世界は【魔王】が既に倒してしまっているようで。

そんな時、【魔女】の【英雄】の男が「君達が居てくれて助かったよ」と僕達に言ってくれた。そして「それにしても【英雄】として恥ずかしくないよう、もっと頑張らないと」と、自分に言い聞かせるように口にしたのである。その【英雄】の言葉を【魔人】の男女は微笑ましく見ているが、僕は何故かその光景に寂しさを感じてしまうのだ。まるで【英雄】とその仲間たちとの間に距離があるように感じてしまったから。

そんな事を思っていると、いつの間にか【魔女】が僕の隣にやって来て。【魔女】の顔を僕は見上げていると。そんな僕の事を彼女は愛おしそうに見つめてきていた。だから僕は少し不安になる。僕と彼女は、今現在恋人同士の関係なんだけど。彼女はこんな僕を受け入れてもらえるのだろうかと。だから彼女の事を恐る恐る見上げるが、彼女はただ優しく笑ってくれたのである。その顔を見ると安心してしまって。僕の顔が熱くなる。ただ僕を見てくれている彼女が僕にとって大切な存在であるのも事実で。

だからこそ彼女の為に頑張っていこうと思ったのだが。それでも──

「貴方は無理しすぎです。貴方一人が抱え込む必要などないのです。皆が協力してやればいいのではないでしょうか?私達のように──貴方の事を待っている人が沢山いるのに」

僕は彼女にそんな事を言われてしまった。確かに【魔王】の気配が感じられる以上、今の僕が単独で行動していて良い訳がない。

だから僕は彼女に、

「うん。分かったよ」と返事をする。すると【魔女】が僕の手を握る力が強くなり、その手の温もりを感じた事で僕は幸せな気持ちになってしまっていた。その手は僕よりも一回りも小さく、華奢な手であるにも拘らず力強く感じる手でもあったので、その手に包まれると安心してしまう。僕はそんな彼女の存在が気になっていたので、どうしてもその事を尋ねずにはいられなかった。そう──「貴女のご家族が気にならないんですか?」という僕の問い掛けに、彼女は一瞬驚いたような表情を浮かべるが。直ぐに元の表情に戻ってしまい。

「今は貴方の方が大切。そうでしょう?」と。

僕が何か言う前に。彼女はその言葉と共に、その手で僕を抱き寄せてくれた。僕はその行為が嬉しくなってしまって──。そのせいもあって、その瞬間は魔王の事を忘れることが出来ていた。ただ忘れることが出来ない事もあったのだ。それは【英雄】が【魔人】の女に向かって。

「君も一緒に行こうよ。【聖女】さんとなら上手く付き合っていけそうだからね」と言っているのを聞いたからである。すると【魔人】の女は【魔女】と視線を合わせると。二人揃って、その提案を丁重に断ってくれたのだ。

そしてその後、その三人のやり取りを見ていた【聖女】と【魔女】が互いに目を合わせて。二人で笑みを交わすと、そのまま【魔人】の男の手を引いて、二人の仲の良さを見せつけてくれる。そんな風にしているうちに僕が目を閉じている時間が増えていった。そのお陰か──意識を取り戻していく中で、段々と意識を失っていた時間が短くなっていき、最後には、完全に意識を失う事もなくなったのであった。

*

* * *

目を覚ました僕は、僕の事を覗き込んでいる人達と目が合う。そこには僕を介抱してくれた、あの女性もいたのだ。僕はその人の手を握っていた。僕を支えていてくれた、その手の持ち主に向かって。「ありがとうございます」と、その言葉を口にする。するとその女性は僕の手を振り解こうとしなかった。

「大丈夫ですか?」その声を聞いて、僕はハッとする。この女性の声に聞き覚えがあったのだ。そう、僕に回復魔法を掛けてくれた時に聞こえてきた優しい声で。その女性の顔を見ると、その女性が僕の記憶の中に該当する人物と重なったのだ。僕はその名前を呼んだのだが。

その女性は不思議そうな顔を見せるだけで、僕の名前には反応してくれない。それどころか、彼女は僕の頬に触れてきて。僕が意識を失っている間に受けたダメージの回復を始めてくれて、僕は回復魔法を掛けて貰った事で傷口も塞がっていっているのだが。彼女はその治療の手を休めることなく。僕に話し掛けてくる。「まだ、動けないのは当然だけど、体力が戻ったら、また戦いに行くつもりでしょう?無茶をしないの!私の話を聞きなさい!!」と、彼女は僕の耳元で言うのだ。その叱り方は、いつも僕が母さんにされていた叱り方と同じだった為、その女性が僕の母親なんだと実感出来た。その証拠に彼女は涙ぐんでくれていて。

──ああ、やっぱり母さんだ──そう思った時には──僕は母さんの事を抱きしめてしまっていたのだけれど。でも仕方がなかったんだと思う。だって今までの母さんの行動を思い返すと、この場では泣けないって我慢をしていたみたいだし、それを僕は分かっていたから。だから僕の前で泣いてくれた事は凄く嬉しいと思ってしまったからこそ、思わず抱き締めた訳だが。

でも流石にそれはやり過ぎたらしくて、「えっ」とか、「はうっ」等と言う声を上げながら赤面していく母親に対して。僕は慌てて腕を解くのだが、母はもう泣いていなかったのだが、その代わりと言っては何なのだが、顔を赤くしたまま俯いて黙ってしまう。その姿もやはり見慣れたもので。懐かしさを感じるのだ。

「あ、ごめん」と僕は謝罪の言葉を口にしたのだが。母親は「いいわよ」と言う。そして彼女は自分の手を、僕の背中へと回してきたのである。僕は突然の事に驚いて、つい「何するの!」と大きな声で叫んでしまうのだが。その僕の態度に驚いたのか。母親の手が僕の身体から離れてしまう。

そして──そんな時、【聖女】の女性が、「ちょっと、貴方はもう少し周りを見ないと駄目よ」と言うと、僕と母親が密着していたその位置に割り込んで来たのだ。そうして僕は彼女と、僕の目の前に立っている母の事を同時に視界に入れる事になった。

「え、えっと、どういう事?」と僕は状況の変化に戸惑っていると、その女性は僕と、僕の横に居る女性の方を見るのだが。

その女性は──【魔女】と呼ばれる女性のようだが──その人は微笑むばかりで。

そういえば僕とこの女性も似たような名前を持っていたなと思い出し、そこでようやく僕もこの世界に存在している【英雄】達の中の一人なのだろうと気付いたのだ。ただ──僕はそんな事を思っていられた時間は短かった。

その【魔女】が僕に向かって。

「私がこの【魔王】を退治して来たんですよ。どうやら貴方達のお陰で助かりました」と言った事で。僕は驚きながらも、僕と一緒に【魔王】を倒したはずの他の英雄達はどこに行ったのだろうと考えてしまう。そんな僕の考えを遮るようにして【聖女】の女性が僕達に声を掛ける。

「私達も貴方達のお陰で無事助かる事が出来た。ありがとう」

「うん。皆が無事でよかった。ただこれからどうしようかな。僕、何も出来てないし」僕は自分がここに居るべき存在ではないと思っているので。

だから僕なんかの為に命を投げ出そうとしてくれていた、僕に良くしてくれる四人の仲間達に感謝の念を伝えようと。彼女達に声を掛ける為に立ち上がりたいのであるが。そんな僕に。

「貴方は十分に私達を救ってくれているよ。だから無理をしなくても良い」

【魔女】の言葉が耳に届いた瞬間、僕の中で記憶が甦ってきた。僕が【魔王】を倒しに行ってきた事を。そしてその途中で出会った、もう一人の僕の存在を思い出したのである。そう、あの僕は僕の中に宿っていた存在であって、今の僕とは別の存在であったはずなのに。

その瞬間──僕の意識は再び失われていったのである。

目を覚ますと。そこは自宅のリビングであった。

僕の顔を心配そうに見つめてくれていたのは【聖女】の姿で──【聖女】の女性は僕の額に手を当てると。「貴方が無理しなくて良いよ。私達が貴方に頼んでしまったせいもあるけど。貴方は一人で【魔王】と戦っているんだよ。私達と貴方では強さに差があり過ぎるの。それに魔王を退治するのは、私達に任せてくれればそれで良いから」と優しい笑顔を見せてくれた。

「うん。分かったよ」僕はそんな【聖女】さんを見て安心してしまい、再び眠りに落ちるのだが。

その後、僕は再び目を開けることになる。

それは【悪魔神官】と名乗る少女が僕の家を訪れてきて、そして彼女も僕の家に滞在する事となったからである。その事を嬉しく思う気持ちはあるのだが、それと同時に疑問も生まれてくるのだ。何故彼女が僕の家の前までやって来れたのか──その理由が分からないからである。

ただ、その件に関して、彼女の方から説明が為されたのだ。その言葉によると、【悪魔の盾の指輪】を身に付ける事により【転移符の杖】と同様の効果を発揮する事が出来、その結果、彼女は僕の家から数キロ離れた場所から僕に気づかれることなく、ここまで辿り着くことが出来たのだと言うのだ。ただ、彼女は僕の家に入る際、少し躊躇する素振りを見せていた。恐らくは【魔王】に操られている僕の仲間達と、【聖女】の仲間である僕との間に何かしらの関係が生まれていないか確認していたのだと思われるが。彼女は僕と【聖女】の姿を見て。僕から感じ取れる波動は以前と比べて大きく変わっているのを感じたらしいのだ。そして【聖女】も、彼女と同じように僕の変化を感じ取っているようである。しかし彼女はその事実を確認する事はせずに。

「貴方は貴方のままなようね」

「貴方は相変わらずだよね」と僕に話し掛けてくれたのだ。僕はそのお陰もあって、僕自身が変わらなければいけないと思えたのだが。【聖女】と【魔女】の二人を眺めるうちに、ある違和感を覚えるようになる。その違和感の原因が何なのかを考えてみるのだ。そしてその原因に気付いた僕は。その正体を確かめるように【魔女】の方に近寄って、彼女の匂いを嗅いでみることにした。

【魔女】は僕にそんなことをされるとは思っていなかったのか、かなり焦っているように見えたのだが。僕は構わずに彼女の香りを確認してみると。そこには僕が知る【魔女】とは違った甘い芳香が混ざっている事に気が付いて。僕はその事で彼女に訊いてみたかった事がある。

「ねえ、君は本当に君なんだよね」

僕がそう問いかけると、彼女は不思議そうな表情を見せたのだが。僕が【魔女】から感じた香りが、僕がかつて一緒に行動を共にするようになった頃の彼女から発せられていたものと一緒だったので。だから僕は、僕の中にある疑問が解けていってしまっているのだ。その僕の質問に対して。【魔女】はその言葉で答えてくれた。

「ええ。そうよ」と。


* * *


* * *


* * *

その後。僕が目覚めた事を聞きつけて【勇者】の三人が駆け付けて来て。

それからしばらくして僕が寝かされていた部屋に一人の少年が現れる。僕はその男の子を見ただけで、彼こそがもう一人の【英雄】なのではないかと予想したのだが。どうも違うようだという事も理解したのである。僕の前に現れたのは僕よりもずっと小さな少年だったのだ。見た目が幼いだけの可能性もあるが。彼が僕に声を掛けてきて、僕の手を握ると──。僕はまた僕の中に意識を手放してしまう事になるのだが。僕の身体の中に入っているもう一人の【英雄】が目を覚まして。そして彼に挨拶をしてきてくれる。僕はまだ眠ったままの状態で。彼の声を聞いてはいたのだけれど。

僕は僕に意識を移している間に、僕の身体に残されていた体力を回復させる為、僕の体力の回復速度を上げる補助魔法を使用してくれていたので、僕はそのおかげで直ぐに目を覚ます事になり、そこで僕はもう一人の【魔王軍四天王】と会話を交わし始める。その時に【魔女】の事を思い出して。

僕の中で僕の記憶に残っていた、もう一つの人格と【魔女】との共通点が気になったのだが。その事を口にすると【魔女】に怒られてしまう。その怒り方は母さんと似ていた為、つい懐かしい気分になってしまった僕は。母さんと話す時のように【魔女】に話し掛けると、やはり僕に怒ったようで、「私はもう【英雄】じゃなくなったんだから、子供扱いしないでよ!」と言うと、頬を赤く染める。でもその姿もまた、懐かしくて。

僕にはどうしてだか。

この世界に来て以来。【魔王】と呼ばれる僕と共に戦ってくれる人達が現れて。

僕は僕の中に【魔王】と呼ばれる僕の意識が入り込んで来るまでは。僕は自分の事を普通の人間であると認識していた。

だから【聖剣】を使いこなし、そればかりか僕の中の僕ではない僕──【勇者候補】と呼ばれた僕が【勇者】として覚醒するまでは、僕は普通の人間であり続けていたと思う。

ただ、僕はその普通という言葉がどれだけ恵まれたものかを知らなかったのだろう。【英雄】と呼ばれる存在は僕の中に入って来た【魔王】が言う通り──、普通の人間がどう足掻いても手にすることのできない力をその身体に宿しているものなのだ。だからこそ、僕はその【聖剣】の使い手が僕の元に訪れた事に驚愕して、恐怖を覚えたのだが。

それでも僕は僕の中に存在しているもう一人の【魔王】を消し去らなければと思っていたのだ。そうでなければ僕と、僕の中に存在しているもう一人の【魔王】、この二人の存在によって苦しむ人達を生み出し続けてしまうと思ったからなんだけど。その事について【魔王】と話し合ってみて、お互いに納得できる答えを見つけ出したのである。それは──僕達が二人とも、それぞれの役目を全うしようという考えで一致したのである。

僕達の目的は同じであったはずなのに──お互いの目的の為にも相手を殺さなければならないと考えていたのだけど。

僕達は相手の事を全く理解できていなかったのだ。そもそもの話だが、相手を理解する努力もしていないのに相手に殺されようとしている状況というのは、それはとても危険な状態だったのだと今ではよく分かるのである。しかし今、ようやく僕は僕自身と話し合いができる状態になっていた。僕は僕の中に存在するもう一つの意識に向かって話しかける。

(これからどうしたい?)と。

そしてもう一人の僕の反応を待つのだが、中々返事がない。ただ暫く待つうちにもう一人の僕はようやく話せるくらいに回復し、僕に言葉を投げかけてくる。

「とりあえずさ、僕が君の体を使う事で、僕が本来の君の力を取り戻すことが出来る。そして僕が【勇者】の体に潜り込めば。僕は【聖剣】を手に入れられる。それは間違いのないことだよね」と。その問いに対する僕の答えは。

「ああ。そうだね」

「それで君は【魔王】を倒しに行くんだよね」

「うん。それが僕の使命だからね」

「そして【魔王】を倒した後に君がやりたいこと。それは何だい?」

その問いかけに。僕は考えるのだ。今まで【魔王】に言われたから、それをする。僕はその為だけに生きていると自分でもそう思い込んでいたから。そう──あの【聖女】の言葉が無ければ、きっと僕は死ぬまでそれに囚われていたかもしれない。ただ今の僕はそんな僕ではなく、僕の本当の気持ちを伝える事が出来るようになったのだ。そう──僕自身の意志をもって。

「僕のやるべきことは、僕にとって大事な仲間達の役に立つ事だと思うよ」と僕は言った。「僕がやる事はそれだけだと思っている」

僕のその発言に。彼は「そっか」と呟くと、続けて「それじゃあ僕はどうすれば良いのかな? 僕にも役割があるよね。そしてそれは君の目的を叶えるために必要なことでもあるんだよ」と口にした。

それは──もう一人の僕の言葉は僕に衝撃を与える。確かにもう一人の僕にやって欲しい事、やって欲しくない事はあったのだ。僕はもう一人の僕から受けた助言から、【魔王】を消す為に必要な道具を手に入れる為の準備をする為にも──僕は僕にして欲しい事をお願いすることに決め、もう一人の僕の提案を受け入れたのだ。

もう一人の僕の提案した内容とは──【魔女】が持っている杖がどうしても必要だということなので。僕はもう一人の僕の指示に従って彼女の所に行ってみる。そう言えば、この【魔女】の姿を見れる人間は限られていると聞いていたけど、彼女はどうやって僕の家までやって来たのだろうかと思い、僕は彼女に訊いてみるのだが、彼女曰く「転移符の杖を使った」という事である。

そんな彼女の言葉を信じなかった訳でもないが、僕の目の前にいる彼女の姿を改めて見てみると、僕達がよく知っている魔女と同じような姿ではあるものの、彼女は【聖魔女】と呼ばれている存在である。その魔女が持っていた【悪魔の盾の指輪】は、彼女が所持する【転移符の杖】と同等の効力を発揮していたのであろうかと不思議に思うのだ。ただ彼女はそんな僕を見て笑みを浮かべると「私だって昔とは違うわ」と言ったのだ。そしてその彼女が見せてくれたものは、僕の知らない【悪魔の盾の指輪】。

その効果により、僕はもう一人の【魔王】の記憶を知ることになるのだが。その【魔王】は、この世界に召喚されて以来、【勇者】の使命を果たす為にずっと頑張っていたのだという事が伝わってきた。

僕の中にももう一人の僕の記憶が刻まれていくのが分かり。僕はそんなもう一人の僕の事をより理解しようと試みるのだ。

そして【魔王】が【聖剣】の使い手と相対した瞬間に【魔王】に異変が生じ、その【魔王】の中に入り込んでいるはずの僕の意識は【魔王】の中から追い出されて──僕の身体の中に戻ることになった。その時に【魔王】が僕に向けて「またね」と声をかけたのだが。僕はその声を聞くなり僕の中に戻ってきたのだが。その後直ぐに僕が目を覚ましたことで、僕の中にもう一人の僕がいる間に起こった出来事を全て把握できたのである。

ただ、僕の中にはもう一人の僕の記憶が存在しているものの、もう一人の僕の行動によって生じた結果だけは僕には知り得ないものである為、その事実をどう受け止めれば良いのか迷ってしまう部分もある。もう一人の僕は一体何をするつもりなのだろうかと考えてしまうのだった。


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *

【英雄】と呼ばれる三人の男女の内、【聖勇者】の肉体と魂を融合させる事に成功した。それによって【英雄】が一人増える事になるが、【勇者】として目覚めた彼等ならば──いずれ私の目的を達成する事が可能な筈だ。

ただ私はその前に一つだけ、確かめておきたいことがあったので、私はその者達の元へと向かう事に決めたのだ。それは【聖剣】を扱う事のできる者が現れた場合に行う儀式の事である。

私はその者に語りかけるのだ。「貴方は何のために剣を握るのですか?」と。その問いかけを受けた者が、自らの信念を貫けるような強さを持っているかどうかを確認する為の儀式なのだが。どうやらその者はその問いに戸惑ったようで、「僕は、誰かを守るために戦うつもりだよ」と言葉を返してきた。しかしそれは私の求めている回答ではなかったので。私は「貴方がその言葉を口にするなら。何故【勇者】に選ばれたのです? 貴方はそのように答えているにもかかわらず、その身に【英雄】と称えられるほどの力を身に付ける事が出来たのでしょう」と言うと。「僕は、この世界を守るんだ」とその青年──【勇者】は力強く答える。

私はその姿に微笑みながら、「それじゃあ私は【聖魔剣士】をこの手で倒す事にしようかしらね。あの【魔帝】をこの世から消せるチャンスを逃す訳にはいかないものね。それに私が【聖魔剣士】と【悪魔神官】を倒したら。貴女の役目を果たしても良いかもしれないわよ。だって【悪魔神官】も【魔将軍】の称号を手に入れたんですものね」

「えっ、それって本当!?」

【聖魔王】の言葉を聞いた少女は、歓喜のあまり涙が零れ落ちるのを止められず、その頬に幾筋も伝っていく。その涙を見た少女の師匠である【剣聖】は「落ち着きなさい」と【聖魔王】に告げるが、その表情は【剣神】と【賢者】と同様に笑顔を見せていたのである。

しかし、【剣聖】は少女の頭を優しく撫でた後。

【聖魔王】に向かって言うのだ。

「【勇者】が【英雄】となり得る器の持ち主かどうかは分かったけれど、本当に【勇者】が覚醒できるとは限らないのではないかしら」と。

するとその言葉に反応したのは【聖魔王】であった。

「いいえ、大丈夫よ。【魔王】が復活する時は、その者の力が急激に高まる時だからね。そして、あの時の【魔王】も、この世界に召喚されたばかりの頃は【聖騎士】でしかなかったはず。でも今はこうして、【聖剣】を持つ者としての役目を果たしてくれている。【魔王】と対をなす存在──それが、この国にいる【聖女】という存在であり、その二人が揃う時こそが、この世界を破滅に導こうとする存在を倒すことができる鍵となるの」

その言葉を聞いて、【聖女】と呼ばれた少女は自分の胸に手を当てると「私もいつか、お兄様と同じように、【聖魔剣士】を討つために、強くなって見せるわ」と決意を語るのであった。

──それはまるで。自分の中のもう一人の自分に語りかけているかのように、僕の目からは映り込んでいたのである。


* * *


* * *


* * *

僕と僕の中に存在するもう一人が話をしていた時に、突如として僕の中に記憶が流れ込んできたのだが。

僕の中に入り込んだもう一人の僕が、僕に話しかけてくる。「君の仲間達が、僕の存在を知ったみたいだよ」と。

僕はもう一人の僕の口から放たれた言葉に対して、驚きを禁じ得なかったのだ。というのも──今、僕は仲間達に僕の中に入り込んでいるもう一人の僕のことを話すか迷っていたからだ。だがそんな迷いなど気にせず。僕の中に入っているもう一人の僕が「君の記憶を共有しているのだから分かると思うけど。君と僕の身体は元々一つだからね。だから君の記憶は全部僕にも伝わるんだよ」と語るのだ。

その言葉で思い出した事がある。僕達は元は一人の人間。だからこそ互いの思考も分かり、意思疎通も可能なのだと──そして僕がそんな事を考えていた時に。仲間の一人の子供である【英雄】の少女から声をかけられたので僕は彼女の顔を見つめ返す。

【聖剣】に認められた【英雄】である彼女は、まだ若い年齢でありながら、既に【剣王】に匹敵するほどの強さを秘めていた。彼女はその実力に見合うだけの知識と知恵を持っており。またその見た目通りとても明るく人当たりが良い。彼女は僕が一人でいる事が多かった事もあってよく話し掛けてくれるのだ。

そんな彼女は【聖勇者】が僕であることを知っている唯一の人物であり。僕の事を気遣ってくれるのだが。僕はそんな彼女の言葉に心を痛めるのだ。僕は彼女を騙してしまっているからである。

僕の中にはもう一人の僕がいる。しかし、僕は自分が【勇者】だなんて思っていなければ自覚してもいない。僕はただ、この世界の平和の為に戦っているだけだと思っているし、この力を使って多くの人の役に立ちたいと願ってきたのだ。

そんな僕にとって。彼女が僕のことをどう思おうと関係ないのだ。

そして──彼女がその僕の思いに応える為にも僕は僕自身の使命を果たす為の行動に出るのだった。


***

私はこの世界で最強の存在であるはずの四体の一人を倒さなければならなかったので。彼等を討伐する為に必要な道具を手に入れる為に【魔王】の居城を訪れているのだが。この城の警備は手薄で、私は難なく玉座の間まで到達することができた。

この扉を開ければそこに【魔王】が待ち構えていることだろう。

そんなことを考えつつ。私はゆっくりと扉を開けると、そこには見慣れない服装に身を包んだ女性が、この国の王と対面しているのが見える。そんな二人の元に、二人の男女が駆け寄るが、そんな二人の姿を見るなり【聖魔王】が叫ぶ。

「お前たち二人は、そこで待機していなさい」

【聖魔女】の声を聞き届けるなり。二人の男女は大人しく指示に従うことにしたようである。ただその視線が【聖魔王】と王に注がれ続けている。そんな様子を目の当たりにした【魔王】の男は【魔王】の女に声をかけると。「おい、【魔王】! その男をこちらによこせ」と口にする。

その瞬間に【魔王】は動きを見せる。手にしていた錫杖のような武器を振り回すと【魔王】の男が纏っていたローブは裂け、その切れ端が【魔王】の女の目の前を舞う。ただ、その時──男の右手にはいつの間にか、鞘に収められたままの一振りの剣が現れていたのだ。そしてその【魔王】が見せた攻撃はそれだけではない。一瞬にして姿を消したと思ったら【聖魔女】の眼前に現れる。

しかし次の瞬間にその攻撃を阻むものがあった。【聖魔女】は自らの魔法障壁を展開することで、その攻撃を凌ぎ切ったのだ。

そして【魔王】と【聖魔王】が激しい攻防を繰り広げるが、その決着がつく前に。私の邪魔をするように【英雄】である女の子が姿を現して「待って下さい。【聖勇者】があなた方の敵ではありません。彼の話を最後まで聞いて欲しいのです」と言ってきた。

私はその言葉を聞いた途端に「どうしてそう言い切れるのよ?」と聞き返したのだ。

すると【勇者】は「彼が私の師匠なんです」と答えてくれた。

私はそれを信じることができなかったが、私は彼女達の師匠と会わせてもらう事にしたのである。


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *

僕は【聖魔剣士】と【聖魔剣】を手に取り、彼女と向き合っていた。

【聖魔王】に攻撃を仕掛けようとしたところで、突然に僕の前に姿を見せたのは【勇者】を名乗る【聖魔剣士】だったのだ。その姿を見て「なんで、ここにいるんだ!?」と言う言葉と共に。「どうして貴方がここにいるのか説明して欲しい」と言ったのだ。すると【聖魔王】と戦おうとしていた女性は、僕の方へ近づいてくると「貴方のお姉さん──私の妹分と貴方の関係性を教えて頂けると嬉しいのだけど」と言う。

しかし【聖魔剣士】は【聖魔王】が放ったと思われる魔法の一撃を受けてしまい吹き飛ばされてしまう。その光景を目の当たりにした僕は【聖魔剣】を構え、【聖魔剣士】を守れるように動き出そうとするが。【聖魔剣士】はそんな僕の動きを制止させる。

彼女は微笑みながら言うのだ。

その微笑みには何か意味が込められているようで、まるでこうなることが予想できていたと言わんばかりな態度を取っていたように思う。だからこそ【聖魔王】も彼女に攻撃する事を躊躇っていたように見えていたが。それでも僕は【聖魔剣士】の言葉に従って、その場に留まることにする。

そして僕に向かって話しかけてきたのは【聖魔王】だった。

その言葉は「妹が世話になっているようだけれど、一体どんな手を使ったのかしらね。貴女にそれができるほどの力があるとは思えないんだけど」と。

確かにそれはもっともなことであり。今の僕は彼女の力を半分程しか発揮できない状態だ。だがそんな事を言うわけにもいかないので、どうにか誤魔化そうと試みることにした。

その方法を思いついてしまったから、実行に移したのだ。「それは私にも分からないけれど。でも私にも彼──今は【聖勇者】と呼ばれている人物との繋がりがあってね。私と彼は同じ目的を持って行動しているの。それで私がこうしてここに来たのは、彼に協力して貰う為に他ならないわ」

すると、僕の中で【聖魔王】の思考を感じ取った僕は言うのだ。「僕と君は同じ存在なんだから、考えてることぐらいは理解できるんだよ。君は、本当はこんな争いをせずに、自分の中に存在する力の解放を果たしたいと考えているんだよね」

その言葉を耳にした僕は驚くが、すぐに「それじゃあ協力してくれるかしら」という【聖魔王】の言葉を受けて。「僕にその力が扱えるならね」と答えたのだ。

その会話を聞いていた他の面々の反応も様々で。特に【英雄】の少女と僕の師匠だという女性からは困惑しているような気配を感じた。そんな状況の中、僕と【聖魔王】との間で契約がなされることになった。それは互いの同意によってのみ成される契約。その内容は僕がこの場にいる全員に対しての敵対行動を取らないというもの。それは僕にこの【聖魔王】の力の半分──三分の一が封じられることに繋がってしまうのだが。そんな僕の懸念を見透かすようにして【聖魔王】が語る。

「大丈夫よ。私の力で、貴方を護る結界を作り出すわ」

そう言うと【聖魔王】の全身が光に包まれていき、次第にその光は小さくなっていくと、光が消えるとそこに【聖魔王】の姿があったのだ。そして【魔王】が口を開いた。

「この姿だと、少しだけ魔力を消耗しちゃったのよね。それにしてもよく、この姿になることを許可してくれましたね」と。そんな風に語りかけてきたので、僕も【魔王】の姿になった事で、ようやく落ち着きを取り戻す。僕が僕自身の力で自分の姿を変えたわけではないから、やはり僕自身は落ち着かなかった。しかし目の前に僕にそっくりな顔つきをした、自分と同じ容姿の女性が存在する。だからこそ僕は彼女の事を信じようと思う気持ちにさせてくれたのだった。


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *

【魔王軍】の大幹部である四人は。

この国の王に話があると言って、城にやってきたらしいのだが、そんな時に僕の仲間達が城に姿を現したのである。僕の仲間たち──【英雄】である少女、【剣聖】の少年。そして【賢神】の老人。そんな三人はこの国の王と知り合いらしく、【聖魔王】や【聖斧】、【聖槍】の姿を見ると驚きつつも声をかけてくる。その言葉に対して僕が反応しようとすると。僕の姿を見かけて、こちらに駆け寄ってきた【聖勇者】に、僕は思わず抱きしめられる。「よかった。間に合ったみたいですね」という言葉を口にしながら。

【聖勇者】は【魔王】の【勇者】に抱きつくと、彼女は「ちょ、ちょっと。どういうつもりなのかしら」と言う。

すると【勇者】は僕に視線を送り、そして「この方が、お姉ちゃんですよ」と告げたのだ。僕はそんな事実を聞かされると動揺するしかなく、「そっか。そういうことか」と言うと「どうしました?」と不思議そうな表情を見せる。

「ごめんなさい。実は私はあなたとは血のつながりはないのだけれど」

「はい? はぁーーーっ!!!!!!??」

「私はあなたのお父様の娘なのよ」

すると僕の目の前に現れた女性は続けてこう口にする。その口調は穏やかで、落ち着いた雰囲気を放っていたのだが。何故か僕は彼女が嘘をつけない相手のように感じたのだ。

僕はこの場で何が行われているのか理解するのに時間がかかった為。しばらく放心状態になってしまうのだが、その最中にある事を思い出したのである。それは以前【魔王】が言っていた言葉。僕と【魔王】は血縁関係があり、僕の中に存在している魂は【魔王】のものであるのだから──そう言った内容の言葉だ。そしてこの女性が口にした内容は、まさに【魔王】が僕に伝えてくれた言葉に酷似しており、その事が僕の意識を呼び戻す。

そんな僕の態度に違和感を覚えたのか、その女性は【聖勇者】の耳元で囁くように「私のことを説明していなかったの?」と問いかける。

それに対して【勇者】は「えっと、うん」と答える。すると、その【聖魔王】が口にする。「とりあえず場所を変えませんか?」と。そう告げる彼女の言葉に従い、僕たちは移動することにしたのであった。そして【聖魔剣士】の提案により、【魔王】の関係者だけで集まる事になった。


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *

私達【聖魔剣士】と私の妹の三人。それから、私の師匠の【賢者】に【剣聖】と【聖勇者】と【聖剣】の六人で。玉座の間へ移動する事にする。そこで改めて、お互いの紹介を行うことになったのである。ちなみに、私は今の状態では名前以外の情報が読み取れなかった。なので私の【技能】を使ってみたのだけど、それも不発に終わる。つまり【固有能力】によるものではないのだと考えられるが、それはともかくとして。私はまず自己紹介をする。

そして師匠の妹である【勇者】に私の正体と、今までの経緯を説明し、【魔王】である彼の力を封じて貰った事を伝えた。私の言葉を聞き終えた【聖魔王】に質問される。「どうして、わざわざそのような面倒な手段をとったのかしら」という疑問を抱かれたので、正直に理由を答えていく。すると師匠も納得してくれて「それは、良い判断だったね」と肯定してくれたのだ。そんな話をしていくと「あの【聖勇者】とかいうことは」と言い出したのだ。

すると師匠はその言葉に対して、首を横に振って言うのだった。

「いや、彼は【勇者】だ。ただのな」と。その言葉で、彼女は全てを察していたようで「そうだったんですね」と。その後、師匠は私達に言うのだ。

「まあ詳しい話はあとにしましょう。とにかく私達は【魔王】の味方だということを理解しておいて欲しい。【魔王】の目的は貴方達の目的と一致しています。その目的を達成させる為には私達の力が必要なんです。どうか力を貸してもらえないでしょうか」と。

すると、そんな言葉を待っていたのか【剣聖】の少年は「当たり前じゃないですか」と言う。そんな様子を見て【魔王】の彼が微笑んでいたのだけど。

すると師匠は、その光景を見て微笑みながら。「それでは本題に移りたいのだが。君達はこの国に伝わる【伝説の武器】を集めようとしているんだよね」と語りかける。師匠の言葉を受けた私は「はい。ですが【聖斧】と【聖弓】の二人がいない状態ですから」と告げる。

そんな私の言葉を聞いた師匠と【聖魔王】は何かに思い当たったようで。

師匠は口を開く。「君達の目的は、この世界に封印されている七つの大罪──それに関連した力を手に入れようとしているんじゃないのか?」と。

私には分からない話だったが。しかし他の面々の表情からして、それが真実であることを理解した。だからこそ私も言うのだ。「はい、そうですよ」と。そう言うと、今度は師匠の傍にいた小さな少女が口を開いた。「私もそれに関しては同意見だ。そもそも、この【魔王軍】には【聖斧】や【聖弓】のような力の持ち主はいない。だから、協力できるのなら是非協力したい」と。

すると【聖魔王】は口を開き「【聖剣】。【聖杖】。この二名はどう考えているのかしら」と尋ねる。そんな風に聞かれた【聖剣】は「俺はあんたの言葉に従うだけだ」と即答する。その答えを受けて、【聖魔王】は【聖剣】に向けて語る。「あなたは自分の意志でここに来たわけね」と。【聖魔王】の言葉を聞いていた私は思ったのだ。確かに【聖槍】や【聖斧】と違って、彼女には自我があるのだと。そんな彼女の発言に対して【聖剣】は答える。

そして、師匠は言葉を口にした。

師匠は【魔王】が残した【遺産】について話し始めたのだった。


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *

俺──いや。

僕と、【聖魔王】と名乗る女性──今は女性の姿となっているが──と。

そして【聖勇者】を名乗る女性の三人が、僕達が泊まっていた宿屋へと戻ってきてすぐに【勇者】の彼と一緒にお店を出て行ってしまうと、残された僕達の間に会話はなくなった。そんな雰囲気を察しているのだろうか、僕にそっくりの見た目をした彼女から「ごめんなさい」という言葉を口にされ、僕の頭の中では様々な思考が飛び交っていた。その感情の中で僕の心を占めていたものと言えば困惑である。

しかしそんな僕の心情は置いておくとしても。僕は気になっていたことを聞いてみる事にする。

「えっと、一つ聞きたかった事があるんだけど。あなたは──」

そう口にした僕は。【聖剣】と呼ばれる存在を見据えた。

そして彼女は僕からの視線を受けるなり。こちらに顔を向けてくる。

彼女の顔は僕の顔と瓜二つと言っても過言ではないほど似ている。

だからなのか、彼女が自分の顔を見ても何も感じないという事が理解できない。

ただそれでも目の前に存在する人物からは確かな生命の息吹が感じられた。

その事を不思議に思っていると、目の前に僕のステータスが表示されている画面が表示されたのだ。それは僕自身の目を通して、僕自身に表示させているわけではなく。目の前の女性の目の前にも表示されていたのである。その事で、僕が抱いていた違和感の正体を知る事ができたのだった。つまり目の前に映しだされた情報を読み取ることができたからである。そして同時に僕はこの世界の人間ではなかったのだと、目の前の女性の言葉で気付かされる事になる。その言葉はこう告げられるのだ。

「初めまして。私の名前は『アセリア』。そして貴方が持っている【魔剣士】の力の元となっているのは私なのです」というものだ。そんな風に告げられて、ようやく僕は納得することができたのである。彼女の言葉を聞くまで。この世界には存在しないはずの僕の名前が表示されていることや、『勇者』の称号を持っていることがおかしいと僕は考えていたのだが。そういう事ならば全ての謎は解けたのである。そしてこの女性は自分が何者なのかを語る。「私のことは気軽にアリスと呼んでください」と口にする彼女を前にしながら。僕が「じゃあ、僕の事はシンジと呼び捨ててください」と言うと。彼女は嬉しそうな笑みを見せてくれる。それから彼女は言うのだ。僕のお腹に手を当てながら「私の中のあなたの存在を認識させて」という言葉を添えて。

すると僕は【聖剣】の少女と触れ合うことで感じ取ってきたような力を、体の内側で感じる事ができるようになるのだけれど。それを意識すると途端に体の中にあった力が抜けていき。それと同時に視界の端っこに存在していた『魔力枯渇症』のアイコンが消えていったように思う。その現象を確認するためにもう一度【聖剣】に触れてみると、やはり僕の身体の中に感じていた力は失われてしまっていたのだった。そんな状況の中。僕の脳裏に浮かんできたのは『勇者システム──勇者の資格を持つものだけが扱う事の出来るシステム』と【魔帝】の口にした言葉だった。そして僕の中にある知識は一つの結論を導き出す。僕と、僕の肉体を共有している女性は【聖剣】であるという事実と、この世界において存在しているはずのなかった僕の存在がここに存在しているという事に対してだ。だから僕と彼女の魂の結びつきによって勇者のシステムが作動しているのではないかと。

僕がそんな仮説を思いついた頃、目の前にいる女性はこんなことを言い始めた。

「これでもう安心です。私は、いえ、私たち姉妹は、勇者システムの【機能】の一つによって、本来であれば私が勇者として存在するはずだったのですが、その【資格】は、私の体内にいる妹が持っていまして」と。それから、その少女と僕の繋がりが断たれてしまうとその【機能】が失われる事や、それによって発生する不具合なども話してくれたのだが。それは今の時点では分からないということであった。

その話を聞いた上で、僕は【魔女】さんと魔王城へと向かう事になった。

その時に、仲間達と共にダンジョン攻略を行った時の事を少しだけ話しておくことにする。その話をした後に、僕がダンジョン探索の際に得た情報などを魔王軍の面々に伝えながら進んでいく。

そしてダンジョン内部の様子を確認していくうちに、ふとした疑問を抱くことになる。この空間の仕組みが分からなくなってしまったのだ。まるで迷宮のように入り組んでいる道もあれば一本の道になっているところもあり。分かれ道を間違えれば二度と戻ってこられないのだろうと思う。そんなことを考えながら歩いていたら【魔王】の彼女が突然「そろそろ到着すると思います」と言ったので。そのまま歩いていると大きな扉が現れた。

「さあ、ここからは慎重に行動しなければいけませんよ」という【魔王】の声を聴きながら。魔王城の大広間に入る。

そこには魔王の配下が待ち構えていて。僕達の前に立ちふさがるのだけど。僕達が部屋に入ると同時に動き出していた。

そして【悪魔神官】の姿が見えなくなると。

僕の目にも映っていない何かに向かって攻撃を仕掛けようとした【魔王】だったのだけど。

その直後、魔王の胸の辺りに光が集まっていくのを見た僕は慌てて口を開いた。その口から出た声を聞いた時、自分自身も驚いてしまった。なぜなら声を出したつもりだったのだが。その声はとても小さな音となって空気中に霧散してしまうのだ。

僕は自分の口を動かしたつもりでも声を出す事が出来ず。

そんな不思議な出来事を体感している最中でも戦闘が続けらていく。そんな中。

僕が体験したことのない感覚が全身を襲って。そして目の前の風景が一瞬のうちに切り替わって。次の瞬間には僕の目に魔王城の玉座の間の様子が映し出されて──

* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *

*

「──【聖杖】」と【魔王】が言葉を口にしたのを聞いた僕は咄嵯の行動に出たのだ。

「──【結界術師】!」と【魔王】が口にしたのを聞いた僕は【魔王】の手を引いて【聖杖】の攻撃から守る。そんな行動を取りつつ。僕は【聖魔王】が持っていたスキルがなんなのだろうかと考えると、すぐに答えは出る。【聖剣】が持つ攻撃能力の強化効果や、相手の能力を一時的に下げるような特殊効果を付与したりする力のことを思い出すと。魔王軍に所属している【魔族】達の能力は魔王の能力に依存するのではないかと考えたのだ。

そんな考察をする暇があるのかと言われると微妙ではあるが。今の状況を考える限り魔王軍の構成員を相手にして戦わなければならない以上、【聖杖】による攻撃を受けてしまえば一撃で勝負が決まりかねない状況にあると考えざるを得なかったのだ。だからこそ目の前にいる敵を倒す事に集中しなければと思っていた僕なのだけれど──そんな考えをしている僕を見て驚いた表情を見せる人物がいて──「あら?どうして私の攻撃を受け止めただけで済んだんですか?」なんて言ってくる【聖魔王】が相手だ。彼女は続けて言葉を発すると【聖剣使い】と視線を合わせてくる。そして僕はそんな二人に挟まれる形で立っているわけで──。僕が戸惑っていると、【聖魔王】の方から話しかけてくる。「──私には、貴女の考えが手に取るように分かります」と言い出して。僕の頭の中を覗かれているような感覚を味わいながらも僕は魔王軍との会話を続けて行くことになった。そして魔王軍が、この世界の常識や、この世界に起こっている異変について詳しく知っているらしいことを聞かされると。

魔王は、僕の質問に対し丁寧に答えてくれたのだった。

僕の【聖剣】の力は、僕の【魔王】が持っている力に宿っているもので間違いないようだ。そして魔王の傍にいたあの幼い見た目の【聖斧】は、僕の持つ【固有技能】【魔剣召喚】の力を使いこなせていない僕に気付いていたらしく、彼女からの提案もあって、この世界に現存する最強の存在である僕と戦う事になったのだと言う。その結果、僕は彼女に敗北を喫する事になる。しかしそれはあくまでも【固有技能】と【称号】が使えたならの話である。だからといって僕と魔王の間に交わされた【盟約】──『お互いに危害を加えることができないようにする』というものが存在する。それに、僕と彼女の間にはまだ繋がりが残っている。そう思っていた僕は【聖魔王】の言葉を聞いて驚きを隠せない。【聖剣】と勇者が、お互いが近くにいなくても存在を感じる事ができるのと同じように、勇者と勇者もまた同じ事が出来るのだという事だ。

それに加えて、目の前の魔王はこうも口にする。「この世界の理から外れた者同士でしか成立しないのかもしれないわね」と言ってきたのだ。その言葉を聞き、僕の目つきは変わっていく──そんな変化を感じ取ったであろう魔王の彼女が僕に向かって手を伸ばしてきた。すると僕の頭の中にはこんな文字が表示されたのだ。

『聖勇者』という称号を得たことにより習得可能な技があります。

それは──。

「『聖なる鎖縛』」という魔法で、これは聖属系統の特殊技能のようで。僕の肉体を包み込むように光の帯がまとわりついて来る。

それはまるで肉体に巻き付くように拘束し。僕は【聖魔王】の言葉の意味を知ることになる。それは僕自身が持っている特殊な力の事を言われているのだ。

それは僕の意思では制御しきれないもので。僕自身も知らない力が、勝手に動き出す。そんな経験をした事のある人は数少ないはずだけど。

僕の視界は暗転した。それから意識を取り戻すまでの間。何があったのかはよく覚えていなかったのだけれど。【聖魔王】の言葉が本当であるのならば、この【勇者】と【聖剣】の間には特殊な繋がりが存在していて。その力で勇者は【勇者】が使えるようになる特別な【特技】を覚えることが出来るらしいのだ。

「それが私と【聖剣】の繋がりを利用して、貴方の中に存在しているはずの【勇者】の力を引っ張り出そうとした結果よ」

僕の心を見透かすかのように言葉を放つ【聖魔王】は続ける。

勇者と【聖剣】の繋がりを利用した『強制覚醒』が僕の身に起きていたと【聖魔王】が教えてくれるのだった。

【聖魔王】は僕に対してこんな話をしてきた。

勇者は【勇者システム】が起動する事により『勇者システム』に組み込まれるシステムの一部に干渉することが出来るのだと口にする。それは【魔王システム】と呼ばれるものであり。『聖勇者』は【聖魔王】の肉体を使って発動させた勇者システムを解除できるのだということ。つまり、僕に『聖剣』を託し、勇者としての役目を全うさせるためには僕を勇者にしなければならないのだけど。【聖魔王】と繋がっている【聖剣】には【聖魔王】の勇者としての使命を果たさせたくないという思いが残っていて。だからこそ、【聖剣】と勇者が接触すれば、この【勇者】の魂は消滅する運命にあり。勇者システムの機能が失われてしまう可能性があるということ。その説明を受けた上で僕は口を開いた。

僕は目の前にいる人物に向かって言葉をぶつけるように言ったのだ。

「私は、貴方を救ってみせます」

その言葉で、僕の心の中で眠っていた記憶が呼び覚ましされ始める。

この【聖魔王】は【勇者】であり、本来の世界では僕の妹として転生しているはずだった少女だという事を思い出したのだ。僕はこの世界において【魔王】という称号を得る事で魔王となった。そんな経緯もあって僕は自分の【聖剣】に願った。自分の事を、妹を救う為だけに存在していてもいいのだと言ってくれた僕の【魔王】と出会わせて欲しい──。そして願いが叶う事によって、妹の居場所が分かり。

その事実によって僕は──この世界にやって来た。妹を救い、幸せにする為に── 僕はこの異世界にやって来てから【魔王】を殺めることで自分が強くなる事に固執していたのだ。そして強くなった。そんな僕の前に現れたのがこの世界で最強の存在である【聖魔王】だった。

そして【魔王】が僕に見せてくれているのは、本来あるべき世界の姿だ。この異世界に来るまでは僕がいた場所だと言える。そんな場所で暮らしている人々の姿がそこにはあった。そしてその人たちの表情を見て僕は悟ることが出来た。今見ている映像こそ僕の本当の生まれ故郷なのだという事に。

僕は自分の頬に涙が流れる感覚を覚えながらも目の前の映像から目が離せなくなっていた。

そこに映し出される人々はみんな笑顔を見せていた。そんな姿を見ていた僕は胸が締め付けられるような思いになる。何故なら今の僕の表情を目にしている人物がいて。彼女はそんな表情を浮かべながら僕に話しかけて来た。「私のことを愛してくれるんですか?」と問いかけられても。僕の気持ちは既に決まっているのだ。僕にはこの人の力になりたいと思った。そして僕自身、彼女の言葉を聞いた後、自然とその言葉が漏れてしまっていたのだ。

「えぇ、私が貴方を護ってみせる」

僕達はお互いに惹かれあうようにして近づいていくと──。

僕の身体は光り輝いていくのだけど。

その光に包まれていく中、【聖魔王】が微笑む姿が見えていた。そしてその光の中から聞こえてくる言葉がある。

──【聖剣】と【聖槍】を【悪魔神官】から奪ってください。そして貴方の力で【魔王】の力を開放して、私と一緒に【勇者】になってください──。

その声が僕の耳に届くと、そこで僕は目を覚ましたのだった。

僕は目の前に広がっている光景が夢なのか現実なのだろうかと考えながらも周囲を確認する。そこは魔王城の広間のようなところで。

「お目覚めになりましたね」

僕に向けて言葉を向けて来るのが【聖魔王】だった。どうやら、まだ僕は夢の続きの中に入っているようだ。そんな感覚に陥っている僕は、目の前にいる【聖魔王】が着ているドレスを見て「似合っているね」なんて言ってみる。

僕の言葉を聞いた目の前の女性は少し照れたような表情になると、「ありがとうございます。でも──私の事を【聖魔王】なんて呼ばずに名前で呼んでほしいです。それに私の方だって──さんと呼んでもいいですか?」なんて言ってくる。僕はその女性を見てから、改めて名を名乗ると彼女の事も名前で呼ぶことにする。そんな時、僕の傍にいた【魔王】はこんな提案を口にした。

「さぁて、そろそろ勇者様も準備が出来ていることでしょうし。これから【勇者】を【魔王】の力を持つ存在から解き放つとしましょうか。そして【聖勇者】として覚醒してもらうのが、一番ですね」

そんな言葉を聞いている最中にも【聖魔王】は行動を開始しようとするのだった。

そんな彼女を僕は止めようと考えるのだが。僕は、彼女に対して、そんな考えを抱くことすら許されなかったのだ。

僕の意思とは関係なく、僕の手が勝手に動いて【聖剣】を握ると。その【聖剣】を振り上げるのである。そうする事で、僕は【聖剣】の切っ先を地面に向けて──突き刺すのであった。

僕の視線の先には【魔王】がおり。その隣にはもう一人の【魔王】と思える人がいる。その二人の容姿はとてもよく似ているのだけど。片方は金髪であり。もう一方の人は銀髪である事から区別が付く。

そんな二人がこちらを見つめていて、僕が二人の間に振り下ろした【聖剣】を見届けた後。彼女たち二人は僕と【聖魔王】の目の前に姿を現したのだ。【魔王】の称号を持つ者は皆、特殊な能力を持つ。目の前に現れた二人も例外ではない。だからこの二人は他の【魔王】と比べても、特別な存在と言えるだろう。そんな事を思ってみていた僕の元に銀色の髪を揺らしながら歩いてきたのは【魔王】。

彼女は【魔王】でありながら僕と【聖魔王】との間に生まれた子供でもある。僕と彼女が夫婦となり、【聖魔王】との間に子供が生まれていれば、その子が次の世代における最強となるはずだったのかもしれないけど。僕は自分の子供を【魔王】にしたくはなかった。そんな僕と、僕の事を愛してくれた女性は二人で協力して【聖魔王】になった。そして【聖魔王】という特殊な職業に就いている。【聖剣】の所持者になれる特殊な技能を持っているのだ。

ただ、僕が持っている技能はそれだけではないようなのだ。

それは先程体験した出来事。僕の魂と【聖剣】を無理やり繋ぎ合わせた結果、僕の中に眠っているはずの『勇者システム』の一部が【聖魔王】の力により起動し、【聖魔王】と繋がっている。その結果、僕は特殊な能力を使用できるようになっていたのである。

目の前に立っている二人の魔王を見比べてみれば違いがよく分かる。

「貴方は本当に可愛い娘ね」

そう言った【魔王】の【聖魔王】の目の前にいる女の子。その子は【聖魔王】とよく似た顔をしていて、同じ銀色の髪の毛をしている。しかし顔つきには幼さが残っていた。僕は、目の前に映る景色に、どこか既視感を感じながら、その人物の瞳を見つめると。そこには僕と同じ青い色をした瞳があって、僕と彼女は似ているのだなと思ってしまう。そんな風に感じられた。

そんな【聖魔王】が娘の事を見据えながら言葉を発する。

「貴女は私たちの娘よ」

その言葉を受けて少女の表情が曇った。

「そんなはずはない! 私は【聖魔王】の子供だもの!」

そんな言葉を聞いた僕の口から自然に溢れた声が、僕自身の耳へと届いてきた。

──君を【聖剣】から助けだしたいと思っている── 僕は自分自身の言葉を不思議に思いつつ、この場から逃げようと試みるが。それは叶わず、結局のところはその場にとどまるしか無かったのだ。すると、その言葉を耳にした【魔王】の少女は「やっぱり貴方はあの時の声の主だったんだね」と言うのだけど。どういう意味なのだろうか。

僕の心に響く不思議な言葉を聞きながら疑問を浮かべていると。僕達の周囲に変化が訪れた。僕の目には黒いローブを身に纏っている人物たちの姿があったのだ。

その人達は僕達を囲むようにして姿を現すと。目の前にいる魔王親子に恭しく一礼をしたのである。その光景を見た僕の頭に、この人たちは何者なんだろうとの想いが浮かんでくるのだけど。そんな中で一人の女性が前に出ると【魔王】に向けて言葉を発した。

「我が主。【勇者】がお目覚めになられました。ご報告致します」

「えぇ、知っているわ。もうその報告を受けた後なのだから」

目の前にいる女性の報告に、そう答える【魔王】。

そして彼女は「それよりも」と言葉を続けると僕の方を向いた。

「──【勇者】さん。私のお願いを聞いていただけますか?」

そんな事を言われても僕は、この状況について理解できない状態であり。

「一体、なにが起きたというんですか? 僕には訳が分かりません」

僕が戸惑いを覚えて声を出すと。【魔王】は僕に向かって言うのだった。

「貴方の身体に【聖魔王】の力が宿っています。それを解放するために、私が協力をすると言っているんですよ」

「貴方の協力というのはいったいなにを指しているのか分からない。僕に説明をしてもらえないかな」

僕はそう口にしながらも頭の中で状況を必死に整理しようと努力してみたのだ。

僕の心は今だかつて無いほどの動揺を見せている。この目の前の女性の言葉が信じられなかったからだ。目の前にいる【魔王】は僕の事を愛してくれていて、そして僕は【聖魔王】の力を自分の意思で封印して、【聖魔使い】になっている。その【聖魔王】は、自分の子供達であるこの目の前にいる少女の事を大切に思っていて。この子の力を解放する為に協力すると言っていた。つまり、目の前に現れている女性の言葉をそのまま受け止めるならば──。目の前にいる女性は僕の娘である【聖魔王】の力を僕から引き出すために協力してくれるということになってしまうんだけど。

その話を聞いてみると、どうにも嘘とは思えないし。でも信じたくもないという思いも僕の中にあって、正直な所は複雑な気分になってしまっていた。

【聖魔王】は僕のことを好きだとハッキリと言ってくれた。

そして【聖剣】の勇者としての力と、彼女の父親が持つ特殊技能を授けてくれた恩もある。

僕は【聖剣】の力を引き出そうとしても引き出せなかったことで、僕は自分が【勇者】ではなくなってしまったのではないかと恐れた時期もあったのだ。だけど、それは僕の早合点だった。

僕の中に眠っていた力は、【聖魔王】のものだったのだ。

そう考えると、今の僕は【聖魔王】の力を持っていることになる。

目の前で【魔王】と会話している僕自身を見る限り。外見的には特に変わっている様子はないのだけど。

そんな僕の思考を知ってかしらずか。僕の目の前にいる女性は口を開くと。こんな事を言ってきた。

「──私に協力して欲しい事は、私の血を引いている貴女のその【聖剣】を使って、【聖剣】を【聖剣】から解き放つ事で──私の願いを叶えて欲しいの。その為に必要な事を、貴女にしてもらいたい」

「どうしてですか?」

僕は目の前に立つ【魔王】に対して問いかけてみる。彼女は【聖魔王】と同じような表情をしながら僕を見てくるのだった。そして、そんな表情を浮かべた彼女が発した言葉を聞いて。僕の表情も変わる。そんな彼女の言葉を僕は否定しようとしたのであるが。僕の意思とは裏腹に僕の口から出たのは僕の言葉ではなく、別の誰かの口調であり、僕の感情が言葉となって流れ出してくるのだった。そんな僕の口から出る言葉を聞いて、僕は驚いてしまうのだった。

「──【魔王】が何を考えているか知らないが、【勇者】を解放してくれるというなら願ってもないことだ」

僕はそんな言葉を吐いていた。

そして僕の目の前にいた銀色の髪を揺らす女性の手を掴むと、そのまま僕は走り出し始めたのである。

そんな僕を見て銀髪の女性は慌てる素振りを見せたが。そんな事にはお構いなしに。僕はその女性の手を握り締めたまま走り出した。そうする事によって、僕と銀髪の女性の視界には黒いフード付きのローブを纏った集団が見えてきたのだ。その者達に背を向ける形で僕達は走っていく。

そんな僕達に気が付いた銀髪の女性は、何かを言いたげな表情を見せるのだけど。そんな彼女の唇の動きに僕の目は自然と向かっていた。

そんな僕の目線に気付いたのであろう。その視線から逃れるように俯くと銀髪の女性は小さな声で言葉を漏らしたのである。

「ありがとう」

彼女はそう呟くのであった。

僕が【魔王】を連れて、街の中を移動し始めると。僕の脳裏に声が聞こえてくる。

──私は君を守るよ── それは優しい男性の言葉で。僕に向けられたものではないと分かるのだが。僕はその男性を知っている気がするのだ。僕はそんな事を思う。ただ僕は、その人を知らないはずなのだ。だって、彼は── 僕と彼の出会いは──。彼がまだ僕が幼い子供の頃の出来事で、僕にとっては夢だったんじゃないかと思うくらいに印象に残っている事なのだから。僕は幼い頃の彼に会ったことがあるのだ。だから僕は彼を良く知っているのかもしれない。でもその記憶を探ろうとすると頭に痛みが走る。そして、その事を考えるたびに、僕は彼に対する懐かしい気持ちにさせられるのだ。

ただその懐かしい思い出を思い出すことができない。

僕はその事に不安を抱く。すると、その僕の心情を察したかのように、目の前の女性が僕の腕にしがみついてきたのだ。

「【魔王】として、貴方に一つ教えておきましょう」

その声色は真剣なものになっていたのである。だから、その言葉を聞き逃さないように、僕はその【魔王】を見据えていた。

「──【勇者】を【魔王】が倒した時に得られる経験値やスキルレベルなどについては知っていますね」

彼女は僕にそんな事を言ってくる。僕は「それは【魔王】と【勇者】の戦いに関係しているんですか」と尋ねてみると、その【魔王】は首肯をして見せたのだ。

「【魔王】を倒した時のボーナスはそれだけではありません。【勇者】が得た【英雄】の能力についても得る事ができます」

「【英雄】の能力は──」

「はい。それは【魔王】にとって非常に魅力的なものでしょう」

「どういうことでしょうか?」

「それは【勇者】である【聖魔王】も同じ事です。いえ、むしろその逆で、【聖魔王】の方が魅力的に感じるのではないでしょうか」

【魔王】の言葉は意味が分からないものであったけど。その表情から僕はその言葉が冗談でも何でもなく。本気で言っている言葉のように感じられたのだ。僕はそれを受けて、目の前にいる【魔王】の顔をジッと見詰めると、彼女の瞳には涙の雫のようなものが見えるのだった。僕は彼女の言葉に違和感を覚えると共にその表情に魅せられると、その頬に手を当ててしまったのだ。

そうやって彼女の顔を間近で見つめる事で、僕の中で何かが沸き上がってくるのを感じ取る。僕はそんな不思議な気分を味わいながらも【魔王】に尋ねた。

「【聖魔王】である僕を好きになってくれたんですよね。そして僕は【魔王】になってしまったんですよね。僕はこれからどうなるんでしょうか? どうして僕は【魔王】なんかになっちゃたんですか」

僕の質問に対して彼女は答える。「ごめんなさい」と──。

その謝罪の言葉はなんだろうかと不思議に思っているとその答えはすぐに判明する事になる。僕の身体が光を放ち始めると同時に僕の身体が浮き上がり始めたのである。僕の目に見える光景は地面が徐々に離れていき。まるで空を飛んでいるような状態になっていた。

僕はそんな僕の目の前に突然、銀色の甲冑を身に纏う金髪の男性が現れると──僕の身体は地面に勢いよく叩きつけられてしまい。意識が飛びそうになってしまう。僕はそこで目の前の男性は【勇者】であり、先程までの【魔王】の話しは真実であり。僕も彼女も【勇者】の力を封印した状態であり、今はそれが解除されてしまっているという事を知るのだった。

僕は意識を集中させていくと。僕の中にある力を解放してみるのである。僕の身体からは銀色の光が溢れ出してきて、僕の心は穏やかになり、それと同時に、目の前にいる金髪の青年の姿に変化が現れていることにも気づく。僕はそんな彼と視線が合った。そして、その彼の姿をみて僕は驚愕してしまったのだ。なぜなら、僕の前に現れた【勇者】が、僕の愛している少女に瓜二つなのである。いや、正確に言うと愛している少女にそっくりだというだけで、その少女は目の前にいる男性とは違って、その少女は女の子なので似ていても仕方が無いのだ。

そして僕の目の前にいるその男性は、【勇者】である少女とはまったく別人だと分かった上で言うならば。目の前に現れたこの男性が僕の愛している少女の母親であるという事に気が付くのであった。僕は驚きながら「もしかして──君は──【魔王】なのかい?」と口にする。

「はいその通りです。私が貴方の愛していた【聖魔王】の母であり【聖魔王】なのです」

僕の前に立っている女性の声色を聞いて、その容姿も僕が知っている少女と全く同じものであり。そしてその女性は僕が愛している女性と同じ名前を名乗っていたのだ。

「【聖魔王】は僕のことを【勇者】と呼んでいたのだけど。君の本当の名前はなんていうんだ?」

「私のことは──【真魔王】と呼んで下さい」

【魔王】は僕が【聖魔王】と読んでいた女性の名前を口にした。僕は【聖魔王】の名前が【真魔王】であることにも驚くのだけど。その【魔王】は僕の目の前で姿を変えたのだ。そうして姿を現したのは銀色の長い髪を持つ綺麗な若い女性だった。

そんな【魔王】の姿をみた僕は「えっ!? 【魔魔王】さんって、【聖魔王】と姿が変わらないじゃないですか!」と叫んでしまう。そんな僕の言葉を耳にした銀髪の女性は微笑むと、僕の手を掴んでくるのだった。

「いいえ違いますよ。私の名前は──」

僕は【魔王】の名前を耳にして驚いてしまう。そしてその【魔王】に抱き締められてしまったのだ。そんな状況に陥ってしまって、どうして良いのか分からないまま、僕の頭の中が混乱していくのが分かるのであった。そして、そんな【魔王】の口から、僕はとんでもない台詞を聞かされてしまうのである。

「貴方は私の夫となっていただきたいのです」

そんな突拍子も無い発言が、【魔王】である女性から飛び出すと、僕達は街の広場に移動していたのだった。そう、僕達が移動したのは一瞬にしてだった。そして、僕達は、その広場で人々の注目をあびる事になったのだ。僕が困惑しながらも周囲の様子を伺うと、街の人達が何事かと思い、集まって来ていて。僕達の事を注視してくるのが分かってしまう。

すると銀髪の女性は自分の手を僕の手に絡ませて「行きましょう」と言ってきて、僕は彼女に引っ張られるように歩き始めてしまうのである。すると今度は僕達に向かって声をかける存在がいた。僕は声をかけられたのでそちらの方へ視線を移すと、そこにいたのは何やら豪華な衣服に身を包んでいる老人の男性であったのだ。しかも、その男性に僕は見覚えがあった。

僕が「【貴族王】さん」と言うと。その【魔王】は僕の耳元に顔を寄せてくると小声で囁いてくる。

「貴方が私と結ばれてくれれば、私が【貴族派】の貴族の王となることができます」

【貴族王】と呼ばれた人物の狙いについて、僕は直ぐに察することができた。【魔王】が【勇者】を倒す事で得られる能力の一つに──貴族の王になる──といったものがあって。それこそが、僕と【魔王】が結ばれる理由だと思ったからだ。僕は自分の娘でもある【勇者】が【魔王】として、僕の事を求めてきている事に、嬉しさと戸惑いを覚えながらも。僕は「それは駄目です」とだけ口にする。そんな僕の言葉を聞いた【魔王】は、悲しげな表情を見せて、僕から離れようとするのだが。その【魔王】の事を僕は離さなかった。だって、今ここで彼女を手放したらいけないと、直感的に思ったからである。すると僕の隣にいた【魔王】が、突然【悪魔神官】と入れ替わったのであった。【聖魔王】の時と同じように【悪魔将軍】に僕の心と記憶を読み取らせていたのである。すると【悪魔神官】が僕にこんな事を伝えてきた。

「旦那様。【魔王】を娶るという事はすなわち、貴方が魔王となり【勇者】と戦う道を選んだ──そう受け取って宜しいのでしょうか」

僕はそんな事を言われても困ってしまうのだ。だからといって「僕は魔王にはならないからね」と、そんな事を口走ってしまったのは、完全に僕の失言であり、僕は後悔してしまう事になる。しかし僕のそんな言葉は、何故か目の前にいる女性にとっては嬉しかったらしい。彼女は笑顔を浮かべて「魔王になってくれないのですね。でもそれでも構わないわ」と言い放つと僕の腕を両手で抱きしめて、そのまま強引に連れ去って行くのである。

僕は「ちょ、ちょっと、どこに連れて行くの?」というと。その女性は僕に顔を近づけてきて。こう答えた。

「貴方のお部屋ですよ。これからは貴方が魔王になったので──二人で一緒に暮らしていきましょう」

僕はそれを聞いて焦った。何せその女性が僕を愛おしく想ってくれているのは一目瞭然なんだけど。【魔王】と結ばれたという事が、僕の愛する少女との関係性を大きく変えてしまいそうだったからだ。僕は必死に「待ってください」と、それだけ言ってその場から逃げ出していった。そうして僕と銀髪の女性は街の人混みの中へと消えていこうとすると、僕達の前には【勇者】である少女が立ち塞がってきたのである。その少女を見て僕は、その表情をみて「えっと。もしかして君が僕の恋人によく似た【聖魔王】なのかい?」と話しかけてみた。

そう問いかけると目の前の少女は「えぇそうよ。そして貴方の未来の奥さんよ。さぁこっちにいらっしゃい」と僕に呼びかけてくる。

僕は「えっ? どういうこと?」と思ってしまうと──「どうもこうもありません」と言ってきたのは銀髪の女性で、【魔王】である彼女の身体からは銀色のオーラのようなものが滲み出てきて、彼女の瞳が赤色に変化していくのが分かったのだ。その瞳の色は、【勇者】であった【魔王】の物と同じであり。彼女の変化を見た僕は驚きながらも彼女の手を掴んで、その場から逃げ出そうとする。

だけどそんな僕に銀髪の女性が言うのだ。「あら? 逃げるのですか。でも無駄ですよ。私がこうして【聖魔王】の力を使っている限りは──私は【聖魔王】の能力を使えるんです」と。そう告げられて、その言葉の通りなのか、先程まで僕を捕まえようとしてきた目の前の女性は、急に逃げようとした僕の腕を掴み取ると僕の動きを止めたのだった。その光景を目の前にして「なんだよこれ!なんなんだこの人は!」と叫ぶと。

「これが私の本来の姿──【聖魔王】の能力なのです」

目の前にいる女性からは、確かに【真魔王】と名乗っていた女性の面影を感じられた。しかし、その女性の身体から溢れ出てくる力は【魔王級】のものだった。

そしてその力は明らかに強すぎるものだ。

そしてこの力の強さが意味するもの。

それは間違いなく目の前にいる女性の正体が【聖魔王】だという証明にもなるわけで。

そして僕は、僕の愛している少女に似た容姿を持つ銀髪の女性に対して、何もできず。されるがままに連れ去られてしまう。そんな時、ふと思うことがあったのだ。

僕は愛している女の子の事を思い出して、愛している彼女の元へ戻ろうと心に決めたのである。

だけどそんな決意をしたところで、今の僕の力では、この状況から逃れることは出来ないだろうと理解する。ならば僕は今こそ自分の中の力を覚醒させるのだ。

「僕が貴方達から解放されるには──」

「解放するですって? 何を言っているのかしらこの子は。貴方は私と一緒に暮らす運命しかないのよ」

「そうだぞ少年。諦めて我々に愛されればいい。きっと幸せにする」

僕の前に【聖魔王】の姿で現れている女性と【悪魔神官】の二人に話しかけられてしまって僕は、僕の心の中を覗き見てきた女性に向かって、僕なりの意見を口にすることにしたのだ。

「君は【聖魔王】ではないよね?」と僕がそう尋ねるとその銀髪の女性は僕の顔を見つめてから口を開いた。

「私の名は【闇魔女】だ」とそう答えたのである。その【聖魔剣士】の本当の名前は、『ザハーク』だと名乗った。僕はその名前を耳にしたとき、「もしかすると君は、僕の知っている【聖魔王】である彼女とは知り合いだったりするかい?」と聞いてみると。その銀髪の女性──いや、黒髪に戻った銀髪の女性が答えてくれた。

「【真魔王】とは昔からの友人でね。【魔剣】に封印された【真魔王】を解放する為にやってきたんだ」

そんなことを口にされて僕は「やっぱりそうだったんだね」と言うと同時に──【魔剣召喚】を使い、漆黒の刃を持った【魔刀ムラマサ(無)】を取り出す。そんな僕の行動を目にした銀髪の彼女が「ほう」と言う声を上げる。僕は続けて【空間収納鞄】から一本の古ぼけた短杖を取り出して右手に持ち、それを地面に立てる。

そして僕が手にしていた古びた魔法の短杖が光を放ち始めた。その輝きは次第に強くなっていき──僕は心の中で【魔法創造】を発動するのであった。

【悪魔王】は、僕の目の前に現れた銀髪の女性を見て何かを悟ったような表情をして僕に伝えてくる。

「お前まさか──その銀髪の女は『悪魔神』の使いじゃねえだろうな?」

その問いかけに僕は、銀髪の女性の表情を見ると銀髪の女性はその言葉に反応を示す。すると【悪魔神官】が「やはりそうか」と言ってきて。僕に向かって言ってくる。

「旦那様。【聖魔王】が復活してしまったのでしょう」

その言葉に銀髪の女性が僕の前に姿を現したことの意味を理解していく。僕は目の前で起きている出来事を何とか受け入れて。僕は、【真魔王】の【スキル】の中に眠っていたであろう一つの力を呼び起こす事にした。【真魔王】の力が目覚めて、僕は僕の中にあった【真魔王】の記憶を思い出すことができたから。僕は今ならそれが可能だと思えたのだ。

「【悪魔の王】が司る権能を顕現せよ──【契約召喚】!!」

僕はその【契約召喚】を起動させた。

すると僕の身体から、眩しい程の光の粒のような物が噴き出して。その光が形作っていく。そして僕の前に現れたのは【真なる勇者】の称号と【聖剣エクスカリバー】を携えた【魔王】だったのだ。僕の姿を目にして驚いた表情を見せているその女性に、僕はこう呼びかけた。

「お待たせしました。僕が【魔王】のマスターです」と。そうして僕が、僕の事を求めてくれている【聖魔王】に微笑みかけると。【聖魔王】が僕に尋ねてくる。

「貴方の名前は?」

「【大賢者】と、皆は呼んでいます」

僕のその言葉を耳に入れた彼女は一瞬だけ目を大きく開いたのだが。直ぐに表情を切り替えると僕に対して自己紹介を始める。その彼女の表情の変化に【聖悪魔神官】と、【貴族王】の二人が驚いている様子を見せていたのだが。

「私も改めて名乗らせてもらいますね」

そう口にすると僕の前に立っている彼女は【聖魔王】であるその証である【聖魔王の仮面】を脱いで素顔を見せてきた。そうして彼女は僕の目の前に姿を見せて。僕の瞳に映っている女性を視界に入れてから──「貴方は?」という疑問の声を発したのだ。すると僕の隣にいた【真魔王】である【魔王】が答える。

「私が、私の大切な人である──【真魔王】だよ」

僕はそんな会話を聞いて。僕は、【魔王】が、僕の事を大切な人と語ってくれていることがとても嬉しく感じてしまった。そのせいで少し頬が緩んでしまう。そして僕はそんな僕の事を見ていた銀髪の女性の表情を見て。僕は、銀髪の女性が自分の事を見ていることを理解したのだ。その僕の事を見ている銀髪の女性に、僕は声を掛けることにした。その女性は僕の事が気になるようで、先程までとは違って、銀髪の女性の纏う雰囲気は柔らかなものになっていた。だから僕は安心して彼女に言うことにした。

「【魔王】が僕の大切な存在なのは分かってもらえると思います。だけど僕にとって──【聖魔王】である貴女もまた、掛け替えのない存在であるんです」

そう言うと銀髪の女性の目が細められて僕に問いかけてくる。

「どうして?──」

彼女の口からは、そんな疑問の言葉が漏れてきて。

そして銀髪の女性は、僕の顔を見てこう呟く。

「私を愛せるはずがないわ」と。

僕は、そんなことを言う銀髪の女性に対して「大丈夫ですよ」と言ってから【聖魔王】の女性に対して僕は語り始めるのであった。

銀髪の女性は僕の事を見て「なぜ? どうして?」と繰り返して呟いているのである。そんな銀髪の女性に対して僕は優しい口調で言う。「だって、僕は君の事が好きだから」

その言葉で僕は自分の胸の中にある想いを伝えたのだ。その言葉を聞いた銀髪の女性が僕の瞳に視線を合わせてから、その美しい唇を動かす。

「貴方が? 私を愛してくれるの?」

「はい。もちろんです」

「貴方に迷惑を掛けたくない」

銀髪の女性のそんな言葉を受けて僕は銀髪の女性の手を取って「迷惑なんかじゃないですよ」と伝えると、僕の言葉に反応した銀髪の女性の身体から、黒いオーラのようなものが出て来る。

そしてその銀色だった髪の毛は黒色に変化し。その瞳は紫色に変化する。

僕はその姿を目にしながら。目の前にいるのが僕の愛している少女と同じ容姿を持つ女性の姿ではなくなっていることに気づいたのだ。そう──僕が銀髪の女性に愛していると告げる前に、【真魔王】の姿に戻ってしまった。銀髪の女性は自分の姿が変わっていくその光景を黙って見つめていた。僕は銀髪の女性に向かって。

「貴女は──」

と言葉を言いかけた所で。僕の口が銀髪の女性の手によって抑えられてしまう。

そんな時だったのだ。銀髪の少女に抱きしめられているはずのリリスが突然動き出したかと思うと──僕たちの目の前に現れる。そして僕の事を睨むようにして見てきたのだ。

そんな時、僕が今いるこの場所が急に揺れ始めて、【D級ダンジョンをクリアしたことで、クリア特典として、ダンジョンコアが送られてきました】とアナウンスが脳内に響き渡る。僕はそんな音声を聞きながら。目の前に現れた、銀髪の女の子を見据えてから。銀髪の女の子が、僕たちがいるその場所に転移してきたのかなと考える。でもその女の子から放たれているのは──殺意に似た気配を感じて。僕たちが対峙する中──僕の目の前に現れたその銀髪の女の子は、僕に話しかけてきた。

「ねえ。君がマスター?」

銀髪の女の子は僕に向かってそう問いかけてきたのだ。僕はそんな質問に「そうだけど」と答えると銀髪の女の子は続けて。

「私の事を覚えていない?」

銀髪の綺麗な顔つきをしているその女の子がそう聞いてきた。だけど僕は目の前にいるその少女に見覚えはない。僕がその事を伝えると銀髪の美少女は僕の手を握って来た。そして「忘れちゃったの?」と寂しそうな声でそう告げてくると、僕の手に握っていた力を徐々に込めていき。

その力が強まってくる。僕は、痛みを感じたので思わず銀髪の女の子の腕を振り払うように振り払った。

「ごめんなさい」

「え?」

僕はその銀髪の女の子に謝罪の気持ちを込めてそう言った。そんな僕の様子に銀髪の美少女は驚いていて。僕の行動に違和感を覚えたのか、銀髪の女の子から伝わって来た僕の手のひらに残っていた魔力が感じられなくなった。そんな銀髪の美少女を他所に僕は銀髪の美女が言っていた言葉を思いだす。「この世界で、貴方に好意を寄せてない人なんているのですか?」というその台詞を思い出して。僕は銀髪の美人が、目の前の銀髪の美女だと確信したのだ。僕にはその記憶がある。そして目の前にいる女性との記憶を──思い出したのであった。

僕は目の前に現れた銀髪の銀髪の銀髪の美人さんを見て思う。僕はその銀髪の女性を見て──銀髪の女性の本名を知らないのに、目の前に現れた女性の事を何故か『アリス』と呼ぶのであった。

『聖魔大戦』の時の『聖魔王』である【聖魔王】である彼女と同じ姿の銀髪の彼女は、僕の事を悲しそうに眺めていて。僕が『聖魔王』の事を忘れてしまっていると勘違いしたのか。銀髪の彼女は僕に向かって。

「私が誰なのか分からないんだね?」と確認するように僕にそう言ってきたので僕は銀髪の彼女に返事をする。

「はい」と。その僕の答えを聞いて銀髪の彼女が僕の方へと歩み寄ってきて。僕の頬に手を添えてきて、優しく僕に触れて来る。そして僕の頬に当てていた手に力が入ると──僕の頬に衝撃が走る。僕はそんな行動をした銀髪の女性の顔を見て──銀髪の女性は僕を真っ直ぐと見詰めてこう口にしたのだ。

「貴方が他の女性を愛する事は許されない」──と。

その銀髪の女性が放つその雰囲気は明らかに異質だったのだ。

僕の脳裏には『聖魔王の加護』で与えられた称号と、【真魔王】が持っている固有技能である技能の事が過ぎるのだが。銀髪の女性が、自分の名前を口にしたので僕は彼女の事を見てから口を開いた。そうすると僕の口からこんな言葉が出てきた。「君は、アリエス──なのか?」

僕はその言葉を口にすると、銀髪の女性は僕の言葉を聞いた後に、僕の顔を覗き込んできてくる。その表情からは嬉しさの色が見て取れた。僕はその銀髪の女性に、僕に微笑みかけてきてくれた銀髪の女性が、僕の知っている、あの【聖魔王】だという事に気づくと僕は「【聖魔王】様、貴女にお願いがあります」そう言葉を漏らす。すると僕の言葉を耳にして「何? 貴方の望みなら何でも言ってみて」と優しい声音で【聖魔王】のその人はそう口にして。

僕に何かして欲しいことがあるのならば何でも聞くからと口にしてくる。

そんな風に【聖魔王】の人が言うものだから。僕が「僕と一緒に来てくれませんか?」と伝えると、【聖魔王】である銀髪の女性は少し考え込んでいる様子を見せてから──「それはできないわ」と返答する。「どうして?」と僕が尋ねると銀髪の女性が「貴方に迷惑をかけたくないから」と言う。そんな彼女の言葉を聞いて僕は少し悲しい気持ちになってしまった。だから僕は「迷惑とかじゃなくて、貴方に側にいて欲しいんですよ」と言うと、【真魔剣エクスカリバーII】である剣から、突然言葉が響いてきたのだ。

(主。私はその申し出を受けるべきだと思います)と。

僕と銀髪の女性は同時に【悪魔神官】を見る。すると銀髪の女性が僕に問いかけてくる。

「その剣は──」と。

僕はその言葉を聞いた時に、目の前の銀髪の女性が【魔剣士】ではなく【聖魔王】である事に気づいたのだ。だけど銀髪の【聖魔王】であるはずの女性は僕に「その剣は【聖剣】?それとも──【魔剣】かしら?」と聞いてきた。

「えっと。僕にその区別はできないです」

僕の言葉に銀髪の【聖魔王】の女性が【聖魔王】が使う魔法の一つを発動させる。その魔法の名は──〈聖浄眼〉と言って。【聖魔王】が【聖魔王】であることを知っている者を強制的に服従させることができる能力らしい。

その能力を使用した銀髪の美女は「やっぱり貴方は──」と言ってくると。僕の目の前に突然、画面のようなものが現れる。そしてその画面に文字が表示される。その文章を読み取ると──。

その画面に表示されている文字列が、頭の中に直接流れ込んできたような感覚に陥る。その文言を僕は読み上げることにした。

『この世界の住人に偽装するために貴方を欺いていた事を許してください。私の願いはこの世界を救ってくれる救世主を探し出し。私の夫となる人にする事です。ですから私は今この時をもって貴方にこの身を捧げたいと思っています』──と。その文言を聞いた僕はすぐに理解する。これはゲームのような世界の話であり、僕の事を気に入ってくれているヒロインの1人で。僕のことを好きになりすぎるあまりに。主人公に対する愛が深くなりすぎて、主人公の幸せを考えて自ら身を引くことでハッピーエンドになる。そういうシナリオが組み込まれているのだ。僕はこの展開をよく知っているし体験した事がある。そしてこの銀髪の女性が僕に好意を持ってくれているということも分かった。でも、僕がこの銀髪の女性を受け入れると──。

そんな事をしたら、僕は魔王を倒すことができなくなり。魔王が倒された後の世界で人類を滅ぼそうとする『邪神王サタン』が動き出すのだ。

『真魔王の呪い(仮死状態になる)』は発動してしまうだろう。そうすると僕は『真勇者』の資格を失い、普通の人間になってしまう。そうなると『勇者召喚システム』が機能を失ってしまい、僕が元の世界に帰ることができなくなってしまうのだ。僕はそんなことを考えると目の前にいる銀髪の女性に言葉を投げかけた。そうすると銀髪の女性は僕の言葉に驚いてから──その目を赤く充血させ涙を流し始めた。そして銀髪の女性が僕に向かって言ってくる。「そんなの関係ない。私は貴方を心から愛している。この世界で、私に好意を抱いてくれる男性は貴方だけなんだもの。だから──」と銀髪の【聖魔王】はそう言葉にしてきたのだ。その言葉は、僕が目の前の【聖魔王】の人に対して、銀髪の女性の好意を受け入れても受け入れなくてもどちらにしてもバッドエンディングに突入せざるを得ないということが。僕の頭の中で確定的になった瞬間だったのだ。だけど僕が銀髪の女性を抱きしめてあげると──「私の事を受け止めてくれる?」とそんな事を聞いてきたのである。僕は「僕が君を受け止めるから」そう銀髪の女性に伝えると──僕の意識が遠くなるのを感じる。

『おい! 俺様を忘れんな!』

銀髪の美女の声が聞こえてくるのだが。その声は銀髪の女性に届いている気配はなく、そして僕は、そのまま、その空間から消えたのであった。

**

***

僕はゆっくりと目を開ける。どうやら気を失っていたようで。辺りを見回すとそこは見慣れない部屋の中だった。そんな僕の行動を見てか「お疲れ様でございます」と声が僕の耳に飛び込んで来た。僕はその言葉を聞いて後ろを振り返る。

そこには金髪の長い髪を靡かせて僕に微笑みかけている、白いローブを着た綺麗な女性の顔があった。その美しい女性の微笑んだ顔を見ていると、先ほどまでいたはずのあの異世界に転移させられる前の部屋で銀髪の女性と会話していた光景を思い出す。僕はそんな僕の様子を見ていた女性が口を開く。

「この部屋でお休みになっていました」と。

そんな女性に僕は尋ねることにした。ここは何処なのかと。そう尋ねると。女性の方は僕に説明してくれる。

ここは僕達が暮らしていたあの地球の現代日本ではないらしく。僕のいる世界とは別の世界で、【聖魔大戦】の戦場跡であるこの場所に【聖魔王】である銀髪の女性が、この世界を救う救世主を探すために設置した神殿なのだと言う事を女性から説明される。その女性が僕の方を真剣に見つめてからこう伝えてきた。「これから【聖魔王】である彼女に会う事になるでしょう。貴方が彼女の力を借りなければ、この世界には【真魔王】が現れてしまうことになります」

僕にそれだけを伝えると女性が姿を消してしまったので。僕は仕方なく、銀髪の女性と待ち合わせをする為の場所で、彼女を待っていたのである。

それから少しすると銀髪の女性が、その身に纏っていた白銀に輝く鎧を解除した状態で現れると。銀髪の美人の彼女が僕を見てから、僕の方に向かって歩み寄り、僕に向かって手を伸ばして来て、僕の体をギュッと強く抱き締めてきてから「貴方が──」と口を開いた後、僕の頬に自分の唇を寄せてキスをしてから僕にこう言葉を伝えて来たのである。

「やっと見つけた。ずっと貴方に会いたかった」と──。

その言葉を聞いた僕の脳裏には『真魔王の加護』によって得られたスキルである技能である【魅了】の効果だと直ぐに気づくことができたのだが。【真魔剣エクスカリバーII】の音声案内は、銀髪の女性の行動を止めずに、僕はただその様子を黙ってみることしかできなかったのだ。

「あははははっ。もう我慢できません!」と。

その女性が僕を見て笑うと僕の目の前から姿を消す。その途端、その銀髪の女性は僕の背後に回り込んでいて、僕の体を強く押してくる。僕はそれに抵抗できずに地面に倒れると、僕が倒れたのを見たその女性は、僕の身体を上から踏みつけて、まるで獲物を捕食するかのように、両手両足でしっかりと僕のことを押さえ込むと──僕に顔を近づけて口づけをしてきたのである。僕はそれを黙って受け入れたのだ。

そしてその銀髪の女性が僕の口から口移しに何かを流し込もうとしてくる。

僕はそれを拒否することもできたはずなのに──それを受け入れたのだ。その女性が、僕の体の上に乗りながら僕に何かを流し込み終えるまで、銀髪のその女性が満足するまで──。

*****

「はぁはぁはぁ。ごちそうさまでした」

銀髪の美女は僕に流し込んだ何かを堪能した後。そう口にすると、今度は、銀髪の女性は自らの服を脱ぎ始めると。僕の目の前で銀色のドレスアーマーを自ら外し始めて。その下から露出度の高い服装が現れると、銀髪の美女はその服も脱いでしまうと、肌着だけの状態になってしまったのだ。そして、僕に向かって銀髪の美女が言葉をかけてくる。

「これで私達の繋がりが強くなった。さあ貴方も私と同じように、この【真魔剣エクスカリバーII】の力を使って変身して見せてください」

銀髪の美女の言葉を受けて僕は立ち上がる。その女性は僕をじっと見詰めるので僕は彼女に視線を向ける。そして僕はその銀髪の女性が言った通りに── 【魔剣召喚】を発動する為に言葉を紡ぐ。その言葉と同時に僕の【聖魔剣】が【魔剣創造】を発動し。その【聖魔の杖】が変形を始める。その【聖魔の杖】は二振りの大きめな両刃の片手斧に変化していったのだ。その僕の姿をみた銀髪の美女は「すごいです。その姿こそ、真の貴方の姿です」と言ってくると、彼女はその手に握っていた二本の細身の片刃直刀型の大ぶりの両刃戦鎚武器に魔力を纏わせると。

その銀髪の女性は、僕を襲ってくる。

僕と銀髪の女性の戦いが始まる── *****

「ふぅー。なんとか倒せた」

「流石に強かったです」

そう僕に向かって言葉をかけてきた銀髪の女性に僕も同じ気持ちだったと伝えると──「私達二人で協力すれば絶対に勝てると思ったので」と言いながら、僕の方に近づいてきたので、僕が「ところで──僕はどうしてこんな所に倒れているのでしょうか?」そう聞くと、銀髪の女性は僕の顔を見て、その口を開いてくれる。

「私の名前はリディア。聖魔王としてこの世界を守護する者。この世界を邪悪の手より守る者。貴方のお名前をうかがってもよろしいですか?」

そう銀髪の女性──リディヤに聞かれたので、僕の方から名乗ることにした。

「僕の名前ですか? 名前は、山田太郎といいます」

僕がそう答えるとリディーが僕の名前を呼び捨てにして──

「太郎さんですね。私の事は気軽にリリーと呼んでくださいね。それで、貴方が太郎さんだと言う証拠になるものを見せてもらっても良いですか」

そう言って僕の事をじっと見る銀髪の美女──いや、リリーさんの頼みを僕は断ることができずに。

僕がポケットの中からスマホを取り出すと、リリーは、そのスマホを覗き込んできてから「これはいったい何なのですか?」とそう尋ねてくる。

「これかい? スマートフォンと言って──」と僕は説明しようと言葉を発した瞬間、僕はそのスマートフォンの中に表示されている時刻表示を見て驚くことになった。その時間は既に夜の8時を超えていて、日付が既に変わっていて日曜日になっていることに僕は気がついたのだ。僕はこの世界に来てからは、時間が経っていないと思っていたのだが、実際は1週間以上経過していて。現実世界では、1日が過ぎ去っている事に僕は驚いたのだ。

そして僕の顔色の変化に気が付いたのだろう、リリアは心配そうな表情をして僕にこう言葉をかける。

「どうかしたのですか?」

「実は僕がいた世界ではすでに一年以上が経過したみたいなんだ。だからこの世界での時間経過が違う事について考えていなかったんだよ」

僕がそんな事を言うと。リリーが「それは問題ないでしょう。貴方のいた世界の一日と、こちらの世界の1日の時間は同じなのですから」と答えてくれる。そして僕の事を見ながら言葉を続けていく。

「それにしても貴方は、本当に面白い格好をしているのですね。そんな格好をした人は、今まで見た事がありません。でもそれが貴方らしいという気もしてきました。それでどうですか、私がお仕えしている主であるあの人。その人と会ってはくれませんか。貴方とあの人を二人きりにしてあげましょう。その前に着替えてからあの人の所に行ってみなさい。きっと良い事が起きると思いますよ。貴方は運がいいから」

僕達は今度会う時はもっと強くなって会いに来るから! またいつか会おう!! と約束してから僕は【転送魔法】を使用しようと思ってから思い出してしまう。【勇者】と【英雄】の称号を手に入れた僕は、新たな【技能】を手に入れることができた。

僕はそれを【鑑定】の能力をつかって確認していく。するとその中に気になったものが一つあったのである。

────── 【超高速思考】:脳内で加速された思考速度と、並列演算を可能とする 【神眼】;あらゆるものを看破する。ただしその全てを知悉できるわけではない 【魔剣召喚】;異世界から呼び出された【聖魔剣】を、任意の場所に呼び寄せることができる ────── この二つが僕の手に入った能力である。【聖魔】の加護で【魔聖剣エクスカリバー】と【聖魔剣エクスカリバーII】を召喚することが出来たけど。それじゃあ【聖魔】である僕は他の【真魔王】の加護を受けられるのだろうかと。

その事を僕は疑問に思いながら、リリィに聞いてみる。

すると彼女は答えてくれた。

「それはできません。なぜなら私はこの世界に散らばった四人の魔王の力を受け継ぐ者なのです。それに貴方はまだ覚醒していない。貴方が真魔王に目覚めるまでは、貴方にその加護は与えられないのです。ただ、それでも──」

彼女は言葉を続ける。

僕は黙って彼女の話を聞くことにする。

**

***

貴方が魔王の力を受け継いだその時、再び私達と出会えることでしょう。

そう彼女は言うと僕に向かって手を伸べて、僕に向かって言葉をかけてくる。

「今はゆっくりと休んでから、貴方のいた世界に帰るとよいでしょう。貴方が望むならば。私と貴女で協力して送り返してあげますから」

僕は、ありがとうと伝えながら。彼女と握手を交わして── 【真魔王の聖域】の効果で僕が転移してきた地点に戻った後。僕はリディアさんとリリーさんの二人と別れる。僕はその日の夜に自宅に帰って、その次の日に学校に出勤したのであった。

僕が会社に勤める様になって、既に半年が経過していた。その間に色々なことがあった。僕が高校を卒業した時にも、僕はこの世界にやって来てしまったわけなのだけれど。

そして、僕達が異世界で過ごした期間と合わせて、約二年間があっという間に経過してしまったことになる。

まぁその二年間は、学校の教師として働きながらも── 冒険者としての活動を行っていたのだ。しかもそれは僕とアテナさんだけでは無いのだ。僕以外にも二人の女性が共に活動していたのだ。その三人の名前は──。

──【真勇者】のセツカこと雪音ちゃん。【英雄王】こと桜華ことサクラさん。そして──【真勇者姫】の天宮アリスことアリスだ。

僕達三人組はその実力で言えば、もう既に一流と言っても過言では無く。S級やSS級の討伐対象を相手にしても無傷で勝利出来るレベルに到達していて。今ではSSS級のモンスターも倒せるくらいになっていたのだ。

そして──僕が【勇者の聖剣】を手にした後に僕達は、その称号の力を使って、魔王の眷属を倒しながら、この世界の各地を巡り歩いていた。僕達は【魔導の極地】と言われる魔族領の奥地に向かうと──そこで【魔神】を名乗る人物と出会った。

それから、その人物が魔王と名乗っている事実を知ったので、僕は【真魔王】としての権能を発動させたら、僕が呼び出した【魔剣】が変形していき、聖剣に変化していった。

その変化を目の当たりにしていた魔族の少女──魔王軍十二将星筆頭であり魔帝の異名を持つ少女であるアリシアと名乗った女性とその配下数名。

その彼女達と一緒に行動する事になったんだけど。僕は魔の森と呼ばれる場所で、魔王軍と戦闘になり、その際にアリシアと戦った結果敗北してしまう。だけどその後、僕の前に現れた【勇者】であるはずのリリィが、なぜか魔族の味方をしてくれた事から。彼女は僕の仲間として同行してくれることになったのだ。

彼女は──リディヤと言う名前で僕と同じ様に【真魔王】という種族に属する者らしく。

僕に「これから一緒に頑張っていきましょうね!」と言ってくれたのだ。僕に優しく声をかけてくれた彼女が僕の仲間となってから数日後の事。

僕の目の前には、魔王軍の十二名の少女達が立ち塞がっていた。

彼女たちは僕を見て、「私達の事を救い出して下さいましたリディーさまの恩人である太郎さま」と言い出すと僕に対して感謝の言葉を投げかけてきた。

その言葉を僕は、信じたくはなかった。だって、僕にとっては見ず知らずの存在だったし。そんな人たちに感謝されて嬉しくなってしまう気持ちがある一方。僕は複雑な心境だったのである。

「ねぇ太郎君。どうするの? はっ! これはチャンスじゃない!? 今ならあの子たちを手に入れられるかもしれないわよ!!」とそんな事を言い出した、リディヤは目を輝かせていたのだ。

「ちょっと待ってください!!何を考えているんですか? いくら僕が強くなったからって。相手は魔族の少女たちですよ。それなのに何でそんなに乗り気なんですか」

僕がその事を指摘すると──「何言っているの!! あんなに可愛い女の子たちが、あなたの為に集まってきたのよ。ここはハーレムを作る為の場所でしょう? だから、ここでハーレムを作っちゃいなさい」とそう言ったのだった。

「ちょっと、何勝手に変なこと決めているんですか!! 確かにそう言う願望がないと言えば嘘になるかもしれませんけど。僕はもっと誠実なお付き合いをしていきたいんですよ。それに僕はまだ誰ともお付き合していないんです。ですからいきなり結婚だなんて言われても困りますからね。とりあえずこの子たちを元居たところに戻してあげてもいいんじゃないですか?」

そんな風に言葉を口にしていた僕に。リディヤは僕に向かって微笑みかけると「えっと、ごめんね、そういうつもりはないの。実は私たちのお願いがあってここに呼んだの」そう言って来たのである。

僕は不思議に思って問いかけてみた。「それでいったい僕たちにどんな用事があったのですか?」と聞くと。

「それは、この国の未来に関わる事だから、まずは魔王城まで一緒に来ていただけないでしょうか?」とそんなことを言われたので僕は魔王城を目指そうと移動を始めた。するとその途中で、魔人の軍団と遭遇したので僕は、聖魔の力で彼らを駆逐すると、彼らは逃げ去って行くので。僕と仲間たちは先を急ぐのである。

*

* * *


***

魔王城に辿り着いた僕は、【聖魔の聖域】を発動させ。魔族と魔獣の類を弱体化させた後。魔族領に侵入していった。すると魔王軍の四天王と名乗る者達が現れて、僕の前に立ち塞がってきたのだ。

僕は【魔導の真槍術式】を使い──【真魔道神眼】による解析によってその【技能】の構造を暴き。【技能】を発動して見せたら。僕の前に姿を現した五体の【魔王軍】の少女達は驚きの声を上げ。

その【技能】の効果が切れると。

僕は魔王軍の四人と戦って勝利を収めた後。

彼女たちに仲間になって貰えないか提案をしたんだよね。そうしたら彼女達四人は涙を流しながら喜んでくれて── こうして僕の前に新たに七名の魔王軍の幹部が増えたんだけど。そのうちの四人はリリィの配下としてこの国に残ってくれるらしいから問題ないとのことだったからそのまま放置して──残る三人の女性のうち、二人がこの場に残る事を選んでくれていたので。二人を仲間の元に連れていくことにした。残りの二人はリディヤさんと一緒に行動をすることになったんだけど──。

残った二人の内の片方が僕の事を気に入ってしまったようで。僕の事を婿殿と呼んできて、ずっと僕にべったりになってしまったんだよ。まぁ別にそれは良いとして、もう一人残っているからそっちに目を向けると。そこには、金髪の髪を持つ少女が僕の方に近づいてくると「私は、リリアナって言うのよ、よろしく頼むわね、お姉ちゃん。うふ、これで貴方にくっつける相手が一人増えたわ。私も嬉しいし貴方もきっと幸せだと思うの。私は貴方の味方なんだし、これから貴方の事はお兄様って呼ばせてもらうことにするわ。それに貴方も私をお嫁さんにしてくれないかしら」と言われて、抱きつかれたのだ。

その事に僕は困惑しながら。「どうしてこんなことに」と呟いたのだが。

その声に反応したのはリディアさんだけだったのである。そしてそのリディアさんも苦笑いをするだけで。僕はどうすればいいのか途方に暮れるしかない。そんな中── 僕は、魔族領に侵入を果たした後に──魔王城に到着したわけなんだけど。そこで、魔人の四天王と魔王の配下の十二名と。そして魔族領の王女と名乗る人物と出会い──その魔王軍の幹部である十二名の中に魔族の王であるアリシアがいることが判明し、アリシアに僕は【聖剣】で戦いを挑むことになる。

*

* * *

***魔王城の謁見の間で──魔王の玉座の前で僕達は睨み合いを続けることになる。魔王の眷属であり魔帝を名乗るアリシアに、僕は剣を向けたのだけど──。僕が【聖剣】を構えたその時──突然僕の視界から消えたアリシアが、僕の背後に現れたのだ。そしてアリシアは「太郎様、私達魔族を救っていただいた恩義がございますので、このアリシアが魔王の座を差し上げます」とそう言って来たのである。

そのアリシアの言葉を聞いて、僕は呆然と立ち尽くしてしまう。そして、魔族の十二名も僕を崇め奉ってくるのである。

その後に、魔王の十二将の一人のリリシアが、「あらら、やっぱり魔王の座も奪われたのですね、私の時と同じ様に、私にも魔王になって頂ければ良かったんですが、でも安心して下さい、私がお父様に掛け合って、貴方の地位は保証致しますから」と口にする。その言葉を聞いた僕以外のみんながリリシに襲い掛からなかったのは奇跡的だったと思う。なぜなら魔王の威圧感が凄まじかったからだ。

「ねぇリリィさん。これはどういう事なんですか?」と。僕は疑問に思った事を尋ねると──。

「あ~、その話は長くなるし、とりあえず魔王の部屋に行かない? その方が色々都合が良さそうだし。そのあとで説明するからさ」

とリリィがそう言った。僕は仕方なく彼女の言う事に従う事にした。そのあとで、リディヤや、リリシアを含めた六人とアリシアを連れて移動する事になる。魔王が住まう部屋に向かうまでの間、アリシアは僕の腕に自身の身体を絡めて来たので──僕が「魔王の椅子って何?」と尋ねてみると。「太郎さまが魔王になられたらその席に着けていただければそれで良いです。他の魔族の者達が納得するかは分かりませんが、私と太郎さまが一緒に魔王になれば文句も出なくなるでしょう」とそう言ったのだ。そんな会話をしていたせいなのか──魔王の間にたどり着いた時に、リディアさんが「そういえば、リリィ。貴女、いつから【聖魔王】になったの? 【聖魔王】になれる存在なんて、そうそう居ないはずでしょうに。というかリリィ。今の姿の方が似合っているのは確かだけれど、その格好はどう見ても勇者のそれじゃないでしょう」とそんな事を口走るのであった。その発言に、僕達は唖然として、固まってしまったのは言うまでもない。

僕は【魔王軍】の十二名と一緒にこの国を守る為。そして魔人領に居る【真魔王】であるリディヤを助ける為、魔王城に訪れていたのである。その途中で魔王軍と十二の将軍との決戦になり。僕は彼女たちを返り討ちにすると、魔王の玉座の前に辿り着き──今に至る。

魔王は僕を見据えながら微笑むと。「魔王になって貰えるなら、それに越したことはないが。まずは君の意思を尊重したい。魔王の座を望むか? 望むのであれば、君には魔王の位を与える。しかし──君の仲間達に関しては別だろう。君の仲間は我が庇護下に置く事を認めて欲しい。もちろん君に危害は加えさせない。それが君の望みなのだろ?」と。そう口にしたのである。

「はい、僕の仲間を護ってもらえるのなら。僕の命をかけてもいいと思っています」

「では、そうしよう、それで君を【聖魔】から【真魔王】に昇格させる儀式を行うが。構わないかね? この世界に存在する全ての神々がそれを認めるかどうかまでは分からないが。この国の最高神と、全神界の神とに確認をとってみるとしよう。それとこの国の住人全員に【神託】を下しても良いかな?」

「【真魔王】の位を授ける為にですか?」

「ああ、そのつもりだ。そうしなければ君は魔王の位に就けないのだからな。そして【真魔王】になった後は、私の権限でいつでもこの国に来れるようにさせよう。だから──その儀式を行って欲しい」

僕としては断る理由もなかった。なので、その儀式を受け入れる事にした。すると僕の頭に響いて来る。声があったのだ。

『リリィちゃんを幸せにしてあげて』

そんな言葉が響き渡ると。僕の頭の中から声が完全に消え去り。僕は改めてリディヤの方を見る。彼女は微笑むと──

「うん、いいよ。リリアナ姉さまとも仲直りしたいしね」と。そんな事を言ったのだ。リリシアとアリシアの二人が嬉しそうな表情になると。僕は二人に案内される形で【聖魔王】の間へ赴く事になったのだった。


* * *


* * *


* * *


* * *

***【魔王城】にて。魔王がリリシアと【真魔王】の僕を伴って向かった先は【聖魔王】の間で──僕はその部屋の中央に立つことになった。その瞬間──僕は光に包まれた。僕は、何かの力を得たような感覚を覚えると共に【真魔王】の証を手に入れたのだと確信した。僕は魔王に【真魔王】として認められたようだ。

その事でリリシアとリリシアが「おめでとう、これで貴方はこの国の英雄よ」と。

そんな事を言われたのだが。その言葉を聞いて僕は首を傾げる事しか出来ない。魔王は僕に対して「魔王の座を譲る準備が出来たら、すぐに知らせてくれ、それまでは【魔王軍】の指揮権を預けるからな。それとリリシア、アリシア、二人ともお前達がこの【聖魔の聖域】の守護者としてこの場に残る事を許可しよう」と言い。リディヤ達三人に「二人を頼んだぞ」と告げてから。

僕の方を見て「【聖魔の祝福】を発動してくれ、リリアナ達を仲間にするときは必要なかっただろうが、今度は違う。私の力を分けておこう」と言うと、僕に近づき抱きしめてきたのだ。僕はその行為を受け入れた。そして魔王が僕から離れると、僕は【聖魔の祝福】を使う。その途端に僕の中に何かが入り込んでくる。そして僕に語りかけてきたのだ。それは【聖魔王】の能力だった。そして僕に話しかけて来たその力は──魔王と融合しろと言ってきたのである。

僕はそれを拒否することが出来ずに受け入れると。僕の視界は白く染まったのである。


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *

******

***

白い空間に僕達は居た。そしてそこには【真なる魔王】であるリリティアが立っていたのである。僕は彼女に向かって「どうしてリリティアがいるんですか? そしてここはどこですか?」と尋ねる。リリティアはその質問に答える。「私がここにいるのは、この【魔王の祝福】を授けた際に、私の力の一部と貴方の精神体が混じり合ったからですね。それとここは精神の世界です」

「どういう事でしょうか」

「この世界に【真なる魔王】の力を刻み込むと──精神と魂が混ざり合う事があるのです。その結果が私です」

「じゃあ──リリアナさんやリリーさん達は?」

「その二人は、既にその現象が起こっていたみたいですよ。そのおかげでリリアナと仲良く出来ていたんじゃないですかね。リリアナも私と似たような状態になっているでしょうけど」

「え?でもリディヤやリン先生は、僕の中に入って来ていませんが」

「その人達は元々が【真なる勇者】なのよね? その資格を持っていたんでしょう? だとしたら、魔王の力を身に宿せると思うわ」

「そういうものなんですね」

「それで──貴方に渡した私の能力だけど。使いこなす事が出来るのなら、私の願いを一つ叶えて欲しいの」

「何を願うつもりです?」

「私の大切な娘を助けて貰いたいの」

「助けて欲しい子って? どんな存在なんです? その人は今何処に居るんですか?」

「その子が、どこに存在しているのか、正確な位置まではわからないけれど。その子の名前はリリィよ」

僕はリリシアが言ったリリィという少女が魔王の玉座にいた時に口にした名前と一緒であることに気付いた。その事は彼女に確認すると。彼女はその通りだと言ったのだ。

そのあとに彼女が口にしたのは、この世界の成り立ちについてだった。リリシアはこの世界とは別の世界の存在だったらしく。リリィをその世界で産み出した。そして彼女を成長させる過程でその力が封印されてしまい。この世界にやってきたらしい。その際に、僕達のいた世界と繋がった穴が出現し。僕達がいた世界を覗いていたのだという。その時に僕のことを気に入ったので。こちらの世界に呼び寄せようとしたのだとか。しかしその時の僕は既に魔王になっており。リリシアの力でもその望みをかなえることが出来なかったのだ。そうして長い年月が流れた時に僕と出逢い。魔王にすることでリリシアの想いを実現させようとしたのだとか。

しかしリリシアは、僕に【聖魔王】になる可能性を見いだし。【聖魔の祝福】を与えたのだそうだ。そうしないと、魔王と融合した後に僕が死んでいたから、だそうである。しかし僕と魔王が同化する際に、魔王の記憶が流れ込んだのだ。それによりリリシアはリリィを助ける為。リリィの本体と思しき存在の場所を突き止めた。その場所とは、リリシアが元々暮らしていた世界にある、神殿と呼ばれる建造物の中だそうな。そこは神々を祀る為の場所で。彼女はそこに囚われているのだという。僕はリリシアに確認を取ると、彼女は「その場所に私を導いて下さい。リリィを救う手助けをして貰えるなら、私が持つ全ての知識と力を貴方に託します」そう答えたのである。僕はその言葉を聞き届けると。リリディアのお願いを聞く事を決めたのであった。


***

僕は白い光の塊となって移動をしていた。ただ移動するだけなので退屈なのだが。僕がその光景を目視すると、どうにも様子がおかしいのが見て取れたのである。

僕はそれを目にした後。すぐに行動を開始した。僕が見た光景は──僕の妹である、ティナの姿だったからだ。ただ僕の妹には似てもにつかぬ外見をした女の子。その容姿が幼女である。

そしてそんな状況にも関わらず。僕には、この子の姿が誰かに似ていると感じてしまったのである。しかし、それが誰なのか思い浮かばなかった。僕はそんな事を考えているうちに目的地へ到達したのである。僕はこの子に近付く事にする。

そうしていると。僕に気がついてくれたようである。彼女は警戒を解いてくれて。僕が声をかけようとしたら、彼女の瞳から大粒の涙が零れ落ちた。そして僕に飛びついて来たので僕はその小さな身体を抱きかかえた。そして僕は頭を撫でながら「泣かないで」と言う。その声に反応してくれたのか。その子は泣き止むと。僕の方を見て笑顔を浮かべて「ありがとうございます」と言うのであった。その様子に安堵しながら、僕はこの子を連れて【魔王城】へ戻ることにしようとしたのだ。そうすればこの子が何者かわかると思ったからである。しかし僕はある事に気がつく。この場所が僕の記憶の中にある【魔竜王の遺跡】内部ではない事を理解し。この場所から戻る方法が分からない。それに──目の前の少女が一体何者なのかも不明である。なので僕は、とりあえずこの子を落ち着かせる事に決めたのだった。

僕はまず【魔竜人】になったティナをベッドの上に横になるように言った。そして【神眼鑑定】を発動したのだ。

すると表示された名前は──【ティオ=ユーディット】と出たのである。それを見て僕は驚いたのだが。すぐに僕は自分の【魔眼】を発動させてしまう。

そして僕が見たのは【種族固有能力】の項に記載されていた文字である。その内容は『種族固有スキル 《魔素還元》』というものが存在していた。

その説明はこう書かれていた。

《この能力により──倒した敵(生物)から魔力を吸収する。ただし吸収できるのは、倒してから一定時間が経過した相手のみに限る》 という内容で。これはつまり。目の前にいるこの幼女が、僕が戦ったあの【魔竜王】を倒したという事を意味していたのである。僕はその事実を確認してから、僕が知っている事を伝えた。

すると、彼女は「そうなんですか。でも私はどうやって、お兄ちゃんに会いに来たんだろう?」と不思議がったのである。僕はその疑問を解消する為に【魔素解析】を使用してみると。彼女の魂から魔結晶を分離させて、この世界に来る前に肉体に戻すと。その時に精神が混濁した状態になるようだ。

ただその方法だと、精神体から実体化させるのに数日の時間が必要になるようなのである。僕は、彼女に向かって、その事を告げた。

それから暫く話をしたのだが。

僕は彼女がこの世界に来てからの話を聞き。僕はその話を聞いた後、リリシアが言っていた神殿とは何の事かを尋ねようと質問すると。彼女は僕の予想していた通りの言葉を告げたのである。そして僕は「君がここに居る理由は分かった。じゃあ君の本来の世界に戻る方法を探さないとね」と告げてから。彼女に質問をしたのだ。

「ところで。リリィっていう子と会ったことってあるかな? 多分、僕の妹のはずだと思うんだけど」と聞くと。彼女は首を横に振った。その事で僕はとても残念な気持ちになり。「そっか」とだけしか答える事が出来なかったのである。

ただ僕の方は、この世界に存在するはずのリリィの存在を知って安心できた。そしてリリシアの言葉を信じるのであれば。この子は間違いなく──リリィのはずだからだ。

そして僕はそのリリィと思われる女の子の、これからについて考える事にしたのであった。

この世界にリリィがいる。

僕には、その事だけが救いのように思えて仕方がなかったのである。


***

【魔剣】に【聖槍】。この二つの武器を所有しているだけで【魔王】の力を手に入れた事になるらしく。僕の【聖魔王】の力が覚醒してしまったらしいのだ。

この力を使うためには魔王と一体化する必要が有る。ただリリシアの説明では──【真なる魔王】になるには幾つかの条件があり。魔王と融合しなければいけないらしい。なのでこの力は僕が完全に使いこなせるまでは、封印しておく事になった。そして僕とリリィは一緒に、その力を扱う訓練を始めたのである。

僕とリリィの訓練を見ていたリリシアは、「流石は私の選んだ男ですね。魔王として覚醒させた途端。【聖魔王】の力を使いこなしています。これなら問題なさそうですね」そう言って微笑んでくれたのであった。その言葉に少し違和感を感じたが、僕達は気にせずリリィの指導に集中させる事にしたのだ。

そして数時間程が経過して。リリシアはリリアナとリンを呼び出し──【真聖魔王】である僕と【聖魔王】となったリリィと融合した上で、【魔王】として目覚めるように指示を出したのである。

「え?でもその状態だとリリィ様は魔王に変身出来ませんよね?」

「その辺りも心配無いわ。今はまだ無理でもリリィに時間があれば、きっと使えるようになるわよ」

「どういう事です?」

「この世界は、この世界に暮らす存在の成長に合わせて世界自体が変化していくから。その流れに任せていれば良いわ」

その言葉で僕達を見守っていた神様であるリリシアとリリシアの娘であるリリアナは納得したらしく。リリシアの指示に従って【魔王城】の中庭に移動したのであった。


***

**

***

**

***


***

**

***

**

***


***

**

***

**

***


***

◆ 俺が目を開くと。何故か真っ白の部屋にいて戸惑う。

そして俺は、目の前に佇む女性を見た瞬間に理解したのである。この人が、俺に何かを教えてくれる女神だと──。

そんな事を考えた直後だった。俺の前に立っていた女性が光り輝き始める。その光景を目に収めていると、その光が収束していっているのが目に見えて分かるのであった。そうしていると今度は、その光が女性の頭上から降り注ぎ。彼女の身体の中に入り込んでいったのだ。その光景に驚いていたのだが。次の光景に俺は驚きを通り越して呆然としてしまうのである。それは、さっきまで居なかったはずの男性が一人その場にいたからである。そうして現れた男性と女性はお互いの姿を見てから微笑みあうと、そのまま抱き合ったのである。そうしてから男性は「やぁ、久しぶりだね。リリス。僕を覚えているかい? そして君は、その身に一体何を背負ってきたんだ? 」そう言い放ったのであった。その言葉を聞いた女性は泣きながら「はい。覚えております。お待ちしておりました勇者よ。また会えるこの時を待っておりました」と言うのである。その言葉を受けた勇者と呼ばれた人物は、とても優しい顔で彼女を抱きしめながら。「遅くなってすまない」と言った。しかし俺の方は混乱するばかりで。一体この状況はどうなっているのか分からなくなっていた。しかしそれでも俺は、目の前で抱擁を交わす男女の姿を目にしながら、その会話を聞くのである。

「本当に、本当に長かった。貴方のいない時がこれほど長く感じた事はないのです。それに、私の娘を救っていただき。心より感謝を申し上げます。ありがとうございます。それに、私が託せたのも貴方に託した娘だけだった」

「そうか、あの子が君に渡したのだね。そしてその子の事を君も愛してくれたのだろう? その事もありがとう」

「いえ、こちらこそ。貴方と娘の二人には返しきれない程の恩が有り。それどころか、私の身勝手なお願いで、この世界に再び顕現させて貰えただけでも。私には感謝の念が絶えないほどなのですよ」

「それなら、その気持ちだけで十分だよ。僕はこうしてもう一度この世界で生きていける事が嬉しいのだから」

「そうですか。そう思ってくれるなら、私はこれ以上何も言う事などありません。どうかこれからのこの世界の事宜しくお願いします」

そこで俺は、目の前の女性が誰か気付いたのである。

(あれ? この人は確か)と思った矢先に、俺の考えが伝わってしまったようで。その女性は、目の前の勇姿の男性に告げたのだ。

「彼は貴方の子孫であり。私にとっても大切な方なの。だからこそ彼にはこの先をしっかりと見届けて欲しかったの。その彼の為に──貴方の力を貸して欲しいの」

「勿論だよ。君の頼みとあらば──必ずこの手で叶えて見せる」

その二人の様子を見ていて。この二人は誰だろうと、考えた。すると──。「僕はね。君のお父さんでもある。リリスに頼まれたら絶対に断らないって決めてるんだよ」と言って。俺に向かって微笑んでくる。

それから暫く話をした後で、この世界が滅びに向かって進んでいる事や。この世界を救い、全ての魔族を絶滅させてこの世界から魔獣達を排除しなければ、この世界に未来は無いという事が告げられたのである。その話を聞いた後で俺は「その事は分かったが。それでどうしてリリシアが消えなくちゃいけないんだ?」と尋ねると。目の前にいる男性が苦笑いを浮かべて「その話は今はしない方がいいと思うんだけど。どうしても話を聞きたいっていうのなら仕方がないけど」と言い出したのだ。

その男性の態度を見てからリリシアが「リリアナ!リン!」と呼んだのである。すると、いつの間にかリリシアの側にリリシアとリリアナともう一人の女性がいた。その三人を見てから俺は、自分の中に眠る【魔王】の力を呼び起こそうと意識したのだ。その行動を取ると【聖魔人】と【真聖魔王】の力が統合されていき。【聖魔王】と【魔王】に分離したような感覚に陥ったのである。

するとリリシアと、もう一人の女性は、その姿を変化させる。

そうすると、俺の中の【魔王】の力の一部が体から抜け出た気がした。そして、【魔王】と【聖魔王】が融合したような状態になった。

「これが融合なのか?」

「はい、そのようですね。この世界では【聖魔王】は、その【聖魔王剣】を使う為には、他の力との融合が必要なの。そうしないとその力は解放出来ないわ」

「そうか、そういうことなんだな」

そう口にして、この場に集まった五人を眺めている。

リリシアと【魔王】になったリリィ、それにリリアナさんに、そしてその隣にはリリアナさんの母親だというリンと名乗る女性が立っていた。

そんな皆を見つめていると。

リリシアは、「今の状態だと【魔王】と融合しただけだから。【魔剣王】の力しか使えないんだけど。いずれは完全に魔人と一体化出来る日が来るはずよ」と言った後に。

「貴方は魔竜人と一体化していたから、もう魔人として目覚めても大丈夫よ。だから後は、リリィとの【魔王】の力の扱い方を学んでね」

リリシアは微笑みながらも、真剣に言うのだった。

*

* * *

*

* * *

魔竜王と呼ばれる人物と相対する事になってしまった僕達は。魔人の女の子から魔剣を奪い取るべく動き出す。

僕達は魔剣を手に持ち。魔竜王に向けて攻撃を仕掛ける。しかしそれは魔竜王に当たることはなかったのである。なぜなら──そこにいたはずの僕達の相手であったはずの魔人は忽然と姿を消していたのだった。

そして僕達が戸惑っている中。リリィの身体が突然発光し始めたのである。その事に僕達は戸惑ったのだが。光り輝く彼女の周りに黒い影が集まりだしてきた。そうしていると光が収束していき。リリィの姿が変貌していったのだ。

そうして彼女は黒髪に真紅の目をした美少女に変身したのである。それだけではなく、今まで着ていた装備も全て変化してしまっていた。それは漆黒のドレスのような物へと変わってしまったのだ。ただそのデザインは、胸の谷間が強調されるように出来ており。背中も大きく開いていてとても艶やかなデザインになっていた。更には腰の部分も大胆にも露出していて──その肌は雪のように白く美し過ぎるのである。

そのリリィの変化が終わった瞬間。僕は無意識のうちに、彼女の元へと向かっていくと抱きしめてキスをした。彼女の変化に驚いたが。それよりも彼女の美しい姿に見惚れて。衝動的にそうしてしまった。するとリリィも僕の行為に応えてくれる。

「マスター様、私の事綺麗だって言ってくれます? こんな服まで用意してくれて」と上目遣いの瞳を潤ませながら聞いてきたので──「凄く似合ってる。リリィはどんな格好でも似合うけどね」と言うと「良かった。ありがとうございます」と微笑む。それから、お互いを貪る様に激しく求めあう。舌を絡ませたままで何度も唇を重ねて唾液を交換し合い、お互いに抱きしめあい、そのまま押し倒すように倒れ込む。

「ねぇ。私、我慢できないんです。もっと貴方をください。私の全てを受け止めてください」と言うとそのまま僕の上に跨がって座るような体勢になる。

その時に彼女が纏っていた布のようなものも外れてしまい。完全に生まれたままの姿をさらけ出してしまう。

「うぅん」と言ってリリシアの方を向いた彼女の顔が少し恥ずかしそうな顔になり「見ちゃダメです。見ないって約束したの忘れたわけじゃないでしょう? 私だって見られたくない所があるんですよ」と言うと。僕が何かを言う前に僕を押し倒してくると、その勢いで、僕の股間に顔を埋めて、口を使って僕の物を扱いてきたのである。

「あふぁっ」と言う吐息を漏らすのを聞いているうちに段々と興奮が増してきて──僕はその行為を邪魔しないようにしてあげることにした。するとリリィの方は、「んーっ」と声を上げながら一生懸命に頑張ってくれている。しかし暫く経つと疲れてしまったのか、途中で止まってしまうので、今度は、お礼を言わなければと思い──「リリィのおかげで元気になれた。気持ち良くて、すごく幸せな気分だよ。ありがとう」と言いながら、優しく撫でてから──ゆっくりと上下に動かしていくと「あああっ。やめ、だめぇ」という切なげな声が返ってくるが、構わず続けながら「もう少し頑張れるよね」と言うと。「は、はい。頑張ります」と言ってくれ、また再開してくれる。僕はその言葉に励まされつつ。彼女を満足させる為に頑張る事にする。

そうしていると、徐々にだが、リリィの顔がとろけたようになってきて、僕の方に寄りかかってきてくれる。

「リリィ、そろそろいいかな? 」

「はい、私も欲しいと思っていました」と答えると、そのままリリシアの方へ視線を向けた。

「リリィ、貴女はもう魔人族じゃ無いわ。これからはその魔族としての力を使えるようになったの。魔剣を使いなさい。そして、魔族として生きるか。人として死ぬかを決めなさい」と言い。それからリリシアの持っている剣を渡してくると、僕から離れてリリシアの元へ行ってしまったのである。その事を受けてからリリィは「私の為にここまでしていただいて。私には勿体なさすぎる程の優しさです。ありがとうございます」と言い、リリシアの事をぎゅっと強く抱き締めた後。

その剣を受け取ると──その剣からは力が溢れ出してきたのであった。

それから魔竜王との戦いが始まるが、僕はリリシアの力によって【魔王】となった。その力で僕は、目の前で繰り広げられる魔竜王の戦いを観察することができた。魔竜王の攻撃を簡単に避けるリリィを見てから、【聖魔王】になった時のリリィの事を思い出してみたのだ。

確かに今のリリィも強いのは確かだ。だけど僕の予想では、リリィの方が数倍強かったので、この世界が滅ぼされるまでに、どれだけ強くなっているのか楽しみになった。そして、この世界が滅びるのは避けたいのは間違いないが、もしそれが防げないようであれば仕方が無いと思っている自分がいた。そう思えた自分に驚くと共に、この世界での出来事は、僕にとっても良い思い出になると期待できるような気がしたのである。

この世界に召喚された時と今では状況が大きく変わっているが、【勇者】の称号は消えなかったし。その力はまだ使えたのである。それに今は、【魔剣王】という称号を手に入れたからか、今までよりも格段に強くなっているような気がした。

「これで、ようやく本気を出せるわ」

その呟きと同時に魔剣を構えると。

魔竜王に向かって突撃していったのである。すると魔竜王も同じように攻撃を開始しようと魔剣を構えたのだ。そのタイミングを見計らって魔剣と魔剣をぶつけ合ったのである。その結果は── 魔竜王の攻撃が吹き飛ばされる形になって終わりを告げた。それを見た僕は──魔竜王の動きに合わせて攻撃を仕掛けるのであった。

そして魔竜王の身体に次々と傷が刻まれていったのである。その様子を見た僕は、自分の中のリリィが楽しそうにしているのを感じ取り──「まだ余裕あるみたいだし。そろそろ決着つけちゃおうか」と囁いた後に、僕自身も【魔王】の能力を発動させ、【聖魔王】の姿に変化すると──僕とリリィの融合技を使う事にしたのである。

そして僕は、【魔王】の力と【聖魔王】の能力を融合して一つのスキルを創り上げた。その瞬間にリリィは、僕の中で眠っている【神龍眼】を解放し、更に融合技を使用すると魔竜王にとどめの一撃を放ったのだ。その合体攻撃の前に、魔竜王は耐えられなかったようでその場に倒れ込んでしまった。そして【魔剣王】と【魔剣王】の力の二つを持った存在が誕生したのだ。その姿はまるで魔竜人族の始祖と言われる、あの有名な魔人の姿をしていた。

「やった! 」と言って喜ぶとリリィも一緒に喜んでくれた。その光景を見ていた他の仲間達も嬉しそうにしていたのである。そして魔竜王の死体はいつの間にか姿を消していた。僕達の倒した魔物もいつの間にかいなくなっていた。その事から僕達が今いる場所には結界でも貼られていて、この世界の魔物が入れないようになっているのではないかと考えた。それから僕達はリリシアに呼ばれて彼女がいる元へと向かう。そこにいた彼女は人間に戻っており、僕の前に立つと話し始める。

「私は──元いた世界でもこちらの世界でも存在していました。それは、私がこの世界を創ったのですから当然です。ただそれは遥か昔の話で──私には時間がありませんでした。その為、私の意思を継ぎ、私の子供達をこの世界に住まわせました。そして私の子供たちが成長していって。ある程度成長した時に私の記憶の一部を託したのでございます。しかし──それも長く続きませんでし。私の子供達も私同様に死んでしまいました。だから私と同じ力を持つ者が現れるのを待っていたのでございます」と言いながら涙を流すと、「どうかお願いします。私の娘達に会ってください」と言ってきたのである。その事に驚きはしたが。

彼女に対して断る理由はないので引き受ける事にしたのだった。

ただ彼女の話を聞く限りだと僕だけが特別なわけではないらしい。リリィも彼女と同様に別の平行世界で生きていた事があって──彼女もまた別の平行世界で死んでいた事が分かるのである。

その事から考えると、僕はリリィに出会う為だけに生まれて、生きて来たのだろうと思うと、運命のような物を感じる事ができてしまう。その事は僕にとっては嬉しい事でもあった。なぜなら僕は彼女の事が好きになっていたからだ。そんな彼女に出会えて本当に良かった。

その後で、僕のパーティはリリシアに連れられて移動する事になった。

そこには既に沢山の人がいて──その中には僕が会ったことのある人たちが大勢存在していた。どうやらリリシアは皆に僕が来ることを連絡してくれていたようだ。

「みんな紹介するね。彼は──僕の旦那様になるんだよ。名前はセイジ様」

その言葉に驚いたのか、その場は一気に騒がしくなってしまい。リリシアはその光景を見ながら笑みを浮かべていた。しかし、暫くして落ち着きを取り戻したのか、改めて僕の方を見て自己紹介を始めてきた。その流れに乗っかるようにして僕も名乗り始めた。その後は、それぞれが好きなように会話を始めると盛り上がっていた。その事で分かったのは、僕と同じような能力を持っていたり、同じ世界から来た者たちばかりだったという事である。

その事に喜びつつも。その事をリリシアに伝えると、彼女は、

「だから言ったでしょ? 大丈夫だって」と、僕の事を抱きしめてくれた。僕はそんな彼女の温もりを堪能しながら幸せに浸っていたのである。そのせいか彼女の匂いを自然と吸い込んでいたのだが、その時にリリィが少し怒った顔をしながら話しかけてくる。そしてその事によって、彼女が僕の行動の意味を察してしまったのか──顔を真っ赤にしながらも怒ってきた。しかし、それでもリリィに嫌われるような事は無かったのでほっとしたのだ。そして僕とリリィはそのまま仲良くなったのである。リリィの機嫌が直るまでは、少し大変だったが、それでも彼女と楽しく過ごしていた。それから数日の間、リリィとは毎日の様に愛を育んでいき。ついに一線を越えたのだ。

リリシアに報告に行くと、「そろそろ頃合いだと思っていたよ」と言いながら、リリシアから祝福される事になる。

その数日後にリリシアは、

「今日から暫くお休みするね」と言って姿を消すと。その日以降に、全くリリシアに合えなくなってしまったのである。僕はその事実を悲しんだが、それよりも問題なのが。僕の中にいるもう一人の存在の事をすっかり忘れてしまっていたのだ。

リリィの方はしっかりと覚えていたのであるが、僕自身が【魔剣王】として覚醒した時に得た知識の中にリリィの事を思い出せなかったのである。その事も僕の中ではショックだった。しかしそんな僕を責めることもなくリリィが僕に微笑んでくれて──そして「私はいつまでも貴方の側にいますから安心してください」と言ってくれた。そんなリリィの言葉を聞いた僕は心から安堵した。リリィとこれからも一緒なのだと分かって。それだけは間違いない未来であり、確信できるものだった。

それから数日間の間は、今まで以上に二人っきりで過ごすことになると──僕達はお互いにお互いの事だけを想うようになり。他の事は全てどうでもよくなってしまっていった。そうして、リリィが妊娠している事を知るのである。

そして僕はリリィに、僕達の子供が産まれた暁には──二人でその子の名前を付けようと話したのである。そしてその約束を果たすべく僕はリリィのお腹にいる子供の事をずっと待ち続けていたのだ。

そして遂にその瞬間が訪れる──。その事を喜んだ僕達は子供の名前を付ける日がやって来るのである。リリィが僕をぎゅっと強く抱き締めると──「もういいよね?」と言う。その事に同意すると──リリィは僕から離れて行く。そして彼女は、自分の身体が光輝き──その光は徐々に消えていく。その事に不安を覚えて見守っていると。やがて完全に光が消えた後で。

「私、この世界に転生してきたんだ」

そう言いながら、リリィは自分のおなかを触った。その姿はどこか嬉しそうにも見えていた。

「どうして、その姿に──」

リリィのその姿を見た僕の声には動揺が含まれていた。何故なら、今のリリィの姿は、先程までの綺麗な姿ではなく、リリィそのものではなくなってしまっていたのだ。そして、僕の中で眠ってるはずのリリィが目覚め──目の前のリリィが、僕に話しかけてくる。

「ごめんなさい。でもどうしても会いたかったの。この子の為だけじゃなくて。私は、この世界に来たら貴女に逢えるんじゃないかって思ったの」

その言葉に──「そう言えば君は、この世界の人ではなかった。それに──この子は君の子供なんだよね。だから君がその体に入っているというわけか。納得は出来た。そして理解は出来ていないけれど。それを確かめる為にも一つ聞いて良いかな?」そう言うとその言葉をリリシアは、優しい表情をして聞き返してくるのであった。

「うん、なんでも質問してね。私が答えられる範囲でなら答えてあげるから」

「ありがとう、リリィ。それで早速だけど──その体は、君のものなのかな?」

その問いに、リリィは僕の問いかけの真意をすぐに理解して、「うん。この身体は私の肉体を複製したものではあるけど。ちゃんと機能して動いているみたいだから」と答えてくれる。

「それはどういう事なんだろう? さっきまでの姿はリリィそのものであったのだから。リリィと違うところは見当たらかった」

そう僕が話すと、リリィは少し考え込んだ後に──「これは、私なりに考えてみたんだけど」と前置きをした後に話し始める。

「多分、私をその体の器にした存在は【神剣聖】という存在だと思うの」とリリィは話し始めたのだ。その事に僕自身も驚いてしまう。なぜなら【神魔剣聖】というのは──リリィの前世の魂の集合体のようなものであって。それが僕達と敵対関係にあるのだと聞いていたからだ。だからその事に驚きつつ。僕の中で眠りについた筈なのに、僕の中で眠っていたリリィがこうして外に出てこれた事の方が気になっていた。

その事を僕が伝えると──リリィは困った顔をした後で話を続ける。

「確かにそうなのかもしれないね。でも──この世界の神様がね。何か理由があるのは確かで──それは私の力を使ってでも、やらないといけない事があるからだと思うんだよ。だからこそ私はここに呼ばれた。それは私がやらなきゃいけない事だったんだ。ただその理由は分からない。けれど私も──今はまだその真実を聞けるような状態じゃないから。その事は少し待っててね」と僕に対して笑顔を見せる。そんなリリィの顔を見ると、何故か少し胸がドキドキしてしまうのである。そんな自分に困惑しつつも、「わかったよ。今度その件について話をしてくれるのであれば。僕は待つことにする」と言いながら微笑み返す。

「私としても、その件に関しては知りたい気持ちもあるし。今はその情報を得るために、私も動けるようになるのを待つしかないと思う。だからセイジのお願いを聞かせて欲しいの。もちろん、無理なお願いをされた時は断ってくれても構わない」とリリィも微笑み返してくれたのである。

その後で、僕の方からもお願いする事にしたのだ。

僕の中にある【D級魔剣使い】の能力の事を──。そして僕達が旅に出なければいけないという事を話したのである。その事をリリィに伝えると、リリィはすぐに理解してくれて。僕と一緒に行動することを誓ってくれたのだ。そして僕にキスをするのである。その事を受け入れた僕もまたリリィとキスをしたのだった。そうしてお互いが離れないように抱きしめあった。

リリシアの方からは──リリィをよろしくね。と言ってきたが、僕はそれをしっかりと了承した。その後は、リリィにリリシアを会わせることにした。その際に僕は、リリシアが実は魔王の配下の一人だったと説明する。そして僕が勇者として召喚されたことと、リリィと出会い、そして結ばれていることを。全て包み隠さずにリリシアに伝えたのだ。

その事を伝えた上で──僕は改めてリリィをリリシアに紹介する。そして、リリシアがリリィに対して、「改めて、はじめまして、リリシアです」と言いながら、挨拶をしていると。

「えっ? え? 嘘だ。え? なんでこんなところに?」と混乱しているリリィがそこにいた。僕はそのリリィに、落ち着いてから説明をするように促す。すると、その事でようやく冷静を取り戻したのか。僕に向き合うと──リリィが真剣な顔で話を切り出してくる。

その顔を見て僕も同じ様に真剣な態度でリリィと向かい合う。

リリィは一度深呼吸をしてから話し出した。その声には、先程の動揺した様子が見られなかったのである。それから少しして、僕はリリィの話を聞くことになった。

「私はこの世界で生まれたわけではないから。その事を説明する必要があるわね」

リリシアが、僕に向かって確認を取るように問いかけてきた。僕は静かに首を縦に振ると、

「その前に、まずは貴方の名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」

その質問に僕は少し戸惑ってしまった。しかし僕は自分が何者なのかを思い出す事にする。そして僕は自分の名前を思い出したのである。

その事実を確認した僕は、少しの間を置いてから口を開いたのである。その時に──「セイジ=アサクラと申します」と名乗ったのだが──どうにも慣れないせいで違和感を覚えてしまうが、どうにか自分の名前を言えたのだ。

「ありがとうございます。それで貴方はこの国の住人ではない。そのことは間違いありませんか?」と聞かれる。その事に「はい」と答えた後で──。この世界で僕が何をしていたか? ということを思い出したのであった。その事を確認する為に、もう一度自分の名前が言えるかどうかを確認しようとしたのだ。そして僕は、再び「貴方の名前は、セ──」と、そこまでは上手く言ったのであるが、そこから先が言えないでいると──「大丈夫ですよ。もう言わなくても結構です。それに、私の事を信用してくだされば良いだけですから」と言ってくれる。その言葉で僕は大きく安心したのであった。そして「はい。分かりました」と言って僕はその事を認めた。

「それでお聞きします。貴方は何者でしたか?」

その質問に対して、僕は答えた。

僕は── この国の王子で、【聖女】リリアーナの兄であり、次期国王でもあることを告げると──。

リリィが驚いていたが。それでも信じてくれたようだ。

そうしてお互いに名乗りあったところで──。僕はリリィがこの世界に来た時の出来事を話し始めた。

そしてそれを聞き終えるとリリシアは、しばらく黙ったままでいた。そんな彼女にリリィが「ごめんなさい。私はこの世界にとって余計な存在なんだと思います。本来ならいないはずの存在なので。この世界に迷惑をかけないためにも私は、ここを離れた方が良いと私は思いました。ただ、このまま何も言わずに姿を消すことも考えたのですが。それはやっぱり私にとっては心残りになりそうでした。だから私は──リリィに私の力を全て譲り渡す為に──リリィの中に入ったんです」

そう話した後で再び、僕の方を向いてくると──リリィは「私の中に居たのは、私であって私じゃなかった。私の中にはもう一人の私の意識が存在していて、私の記憶を受け継いでいたの」そう言うとリリィが話し始める。

そして僕とリリィがこの世界に来る前の記憶を共有する事になる。

その事に戸惑いながらも、僕達は全てを受け入れる事に決めた。

そして二人はお互いに、この世界に来た時の事を話し始めるのであった。

その事に──。リリィは、どうしてこの世界の人間でもないのに、この世界に来れたんだろう? と思っていたのである。でも──それはすぐに分かることになるのだった。

「それで私はね、魔王の配下の一人である【闇魔将 リリシア】って言うんだ。でも私の中のもう一人の私はね、この世界に生まれたんだけど。でもこの世界に産まれたばかりの時には、その事に気付かなくて。ずっと森の中にいたんだよ。でも、ある時に気付いたの。その事にね──私はこの世界の敵なんだってことに。私は、魔族の中で特別な存在なんだって分かったんだよ。でもそれが何故なのかは、まだその時は分からなくて。でもそれからは、その事を知って。私は魔の森の中で暮らしていたの。私は魔獣や、動物を狩りながら生きていく生活をしてね。そんなある日の事──。私の前に突然人が現れたの。それが──君のお姉さんなんだ。そう君のお兄さんの婚約者になる人だったんだよ」と話を続ける。その事を僕達は、黙って聞いているしかなかったのだ。そして僕は気付いた。この話がリリィの出生の理由を知るために必要なものであると言う事に。そしてその事を、僕は静かに待つのである。そしてその事に気付いてくれたリリィもまた僕の事を待っていたのだった。

僕達の間に静かな沈黙が流れる中──彼女は話を続ける。

「その人はね、私の事を優しく撫でてくれてね。この世界の事も、その人が教えてくれた。そう私はね。その人の事が気になってしまってね。一緒に旅をしてみたいなと思ったんだよ。でもその事を伝えようとする前にその人にね。私は魔の森の外に行かないと駄目だって言われてね。私は素直に従ったの。それから、その人と旅をするようになってね。そうしていく内に。私の中の何かが変わり始めてね。その何かは私を包み込んでくれていたの。私を守ってくれる優しい存在が私の中にあるのを感じたの。私は──その正体を知りたかったのだけど。それは出来なくなってしまったの」

そこで言葉を一旦切ったリリィ。僕はその続きの言葉を待ってみたのだけれど。それ以上、彼女が言葉を発することはなかったのである。ただ、リリィの話は終わった訳ではないようなので、その事に僕は何も言えなかった。

「それから私とその人で旅を続けていたある日。その人の家族と出くわしたの。その人は私のお母様とお父様に、自分の恋人だと言っていたの。お父様はその話を鵜呑みにしたの。そしてその人もお父様が気に入ったようで。そして、お母様はその事を気にしなかったの」

ここで、その話をリリィが僕に伝える理由を僕は考える。おそらくこの話をしたのは、僕に対してなのだろうが。僕の方から話を振らない限り、話を進めることはないと悟る。その為、僕から話をふるべきなのだと──そう思ったのだ。

僕はリリィに質問をした。

その事で、僕はあることを確信したのであった。リリィの話が本当であるとすれば──リリィと魔竜王との間にも関係があるのだろうと。しかしリリィは、魔竜王とは全く関係のない存在である。

だからこそリリィの話が、どこまで本当のものなのだろうか? と思ってしまった。しかし今の話で一つだけハッキリした事があるのだ。その事で僕は一つの決断を下したのだ。

「僕はね、その人をお義兄さ──いえお姉さまとして認めますよ」

と、僕は言い直す。そして僕はこうも考えていた。もしも本当に──リリアーナと血が繋がっているのだとしたら、やはりそれは許されない事だと思う。しかし、その事に関しては後でゆっくりと考えればいいことだと、僕は割り切る事にしたのである。そして──僕はリリアーナの方を見ると──彼女もまた僕の事を見ていて──僕達の視線が重なると。どちらからともなくお互いに微笑みあうと。そのまま抱き合ったのだった。その事に──僕は胸が熱くなるのを感じていたのであった。

そうして僕とリリィは、お互いに確かめ合いたいと、そう思って見つめ合っていると──僕達の間には妙な緊張感が生まれてしまっていた。そしてリリィは、恥ずかしそうな表情を見せる。そんな彼女の頬が赤くなっていることを確認すると。僕は我慢できずに、リリィの顔を両手で挟むようにして、こちらに引き寄せると、リリィは目を閉じて受け入れたようであった。

そうしてリリアーナはリリィと口づけを交わすと──その瞬間。

リリィの中に存在していた、魔人族の力が抜けていったように感じる。

そう感じた僕は、自分の予想が正しいのではないかと思うようになる。そして、僕がリリィの顔から、手を離そうとしたところで、逆にリリィから引き寄せられてしまい、リリィにされるがままになってしまう。そして僕はリリィとキスを続けたのだった。そうしてリリィは満足してくれたのか、ようやく僕から顔を話してくれた。

そうしてお互いの息が整ったところで、僕は気になっていた事を聞く事にする。

その事に──「ねえリリィ──。貴方は自分の中に魔人がいたことをどう思っていたの?」そう聞いた僕だったが──正直言えば聞くべきではなかったと、そう思ってしまったのだ。

その質問は──リリィに、自分がどう思っているか。その事を言わせてしまうようなものだったからである。その事は、僕自身も分かっている事でもあったのだ。僕はこの世界にやって来てから今までの出来事を思い浮かべていたのであった。そして僕は──自分の感情を誤魔化すことなくリリィに話すことにしたのであった。

「リリィ。僕にとっての貴方は特別な存在です。でもね。それだけじゃなくてね。貴方と一緒に過ごす時間はとても楽しい時間でした。だから──」僕は言葉を続けようとしたが──リリィは、首を横に振ると「もういいの」と、一言だけで済ませてしまう。そんなリリィの態度は僕に対して失礼ではないのか? と僕は思わずにはいられなかったが。それでも──リリィにだけは隠し事をしたくなかった僕は、その事を伝える事にしたのである。すると彼女は嬉しそうにしているように見えたので──良かったと思った。でもリリィがどうして僕の考えていることが分かったのか、それが疑問ではあったのだけれど。そしてそのことについて聞いてみると──。リリィも僕と同じような経験をしているので、相手の考えてる事はなんとなく分かるらしい。それこそお互いに信頼している仲でなければ、難しいとは思うのだけれど。ただ、この世界で僕が一番信用できる存在であり、そして僕が安心できるのは、リリィだけである。

だから僕はリリィを信じている。それはリリィも同じ事であってくれたのかもしれない、だからこそ僕の想いを汲んでくれたのではないかと、そう思ったのである。そしてリリィは僕との会話の中でリリィ自身について話し始める。そう── 魔人であるリリィは魔竜王と全く関係ないと言うわけではないと分かった。つまりは魔竜王と何かしら関わりがあったのだろう。そう僕は思いながら聞いていたのだ。

そしてリリィと僕は魔王とリリィの関係については、これ以上聞いても良いのかどうか分からなかったので、何も言わずに、お互いに気持ちを整理することにしたのであった。

そうしてしばらくの間。僕達の間に沈黙が流れる中──僕達は互いの顔を見つめ合っては、気まずそうに笑ったりしていたのである。その事が何とも言えないくらい幸せで、僕はついニヤけてしまったり、リリィと目を合わせていると、何故か恥ずかしくなり、慌てて視線を逸らすといったことを何度も繰り返していたのであった。そう── リリィは魔人であり、魔竜人と呼ばれる魔族だった。しかも彼女は魔人の中の一人、その一人である【魔魔将】なのだ。そして魔竜王の婚約者にして娘だったのである。だからこそ、魔竜王の娘であるリリィがこの世界に居たことは、魔竜王と関係がないはずはない。だからこそ、僕はリリィにその事を尋ねたのである。でもその事を聞いたのを少し後悔したのもまた事実だ。そうしなければ──こんなにも幸せな時間を過ごせていなかったかも知れないからだ。

その事は確かに悲しい出来事ではあったが、その悲しみは時間が癒してくれるのだと思う。

それに今はこうして二人一緒にいられるのだ。ならば今だけでもリリィと共に過ごしていけるならそれで良いではないかと、そんな風に思えるようになった。

それはリリィが僕に対して話してくれた事で──僕も自分なりに考えた結果だったのだ。リリィが魔人なのは間違いなく──。しかし魔竜王の娘でもあるわけである。それはすなわち、魔王と関係があると言っても、間違いないだろうと思った。そして、この世界のどこかにいると思われる魔王についても、もしかしたら知っている可能性もあると考えたのだ。しかしそれを尋ねることで、リリィを傷つけたくはないので──。僕はそれ以上聞かない事にしたのである。そして──リリアーナが話し始めた事で僕は確信を得たのだった。

リリアーヌの言葉から僕は、魔人がどのような存在であるのかを知ったのである。そもそも僕は【勇者】や【賢者】などの存在からして理解できなかったのだが。それでもその言葉を聞くうちに僕は少しずつではあるが、リリアーナが言っていたことが、理解できるようになってきた。それはリリアーナという存在自体が特殊な存在だと言える。そう考えると、リリアーナ以外の人達がどう言った力を持っているかというのを知りたいところであった。特に【聖女】の力については──僕はまだ知らないことが多い。だから僕はもっと知る必要があると、強く思うようになっていた。しかしその為にどうすればいいのだろうか? そう思った時に、僕達の元にリリィが現れたのだ。そうしてリリィは、この世界に突然やって来たことを説明した上で、その経緯を説明してくれたのである。僕はそこで初めて──この世界がどんなものなのかを知ることができたのであった。

僕はその話を聞いたときに驚きを隠せなかった。その事で僕は改めてリリアーナと出会って良かったと思った。そしてリリィも魔人として生きているので、魔竜王との関係があるのも当然だろうと。そう考えれば、僕達がこれからも仲良く生きていくためにも、魔人との関係はしっかりと築いておく必要があるのだと思ったのである。しかし、リリィの話によると。リリィがこちらの世界に転移してきた理由は、おそらく僕と同じように神に選ばれたからだという。そしてリリィはその話をしてくれた。そしてその理由までは教えてくれなかったのだ。そして、リリアナの方を見て、話して良いのかを確認する。

リリアーナがコクリと首を縦に降り──僕に向かって、その話を始める。

そうして僕とリリアーナは、お互いにリリアーナが何故ここにいるかを話し合った。そう── 僕とリリアーナは同じ理由でここに来たらしいのだ。しかしそれは、僕も驚いた事だが、その事よりも、僕の場合はリリィのお母さん、つまり魔竜王が僕のお父さんに当たると知って──衝撃を受けたのであった。

「えっ! 魔竜王って、お義父さんだったんですか!?」

そう僕は驚いてしまう。まさか自分の父親の相手が、この国を攻めてきた魔竜王とは夢にも思わなかったからである。

そして僕とリリアーナが同じ目的で召喚された事も知ったのであった。しかし僕は、そのことに対して、疑問を感じてならなかった。なぜなら──リリアナは【魔王】であるリリアナが、自分の父親が魔王であることに納得がいかなかったからこそ。僕達と一緒に行動してくれていたはずだ。そう考えていたので、僕はそのことを確かめたのであった。すると── そう。私は、私がなぜ父上の子供として生を受けて、魔王の娘として生まれたのは分からないと。でも──私は、私の意思で母上を助けに行きたかったので──父上から許可は貰っているとリリアーナは言う。だから僕は、リリィの言っている事に、矛盾はないと、そう思って──その話はそこで終わってしまったのだった。

そうしてリリアーネとリリィとの会話を終えた僕は、この場から離れようと考えていたが。

僕の心の中に疑問が生じたのであった。その疑問は──僕の父親である魔竜王の実力と、魔竜王の妻の力量が釣り合っていないと、僕はそう思うようになったのだ。リリィが魔竜王の力を受け継いでいるのだと、そう思うと。魔竜王の強さとは、どれほどのものか? そんなことを考えていたのである。

そんな事を考えていた僕は、二人の会話の中で、リリィが自分の意思をはっきりと伝えてくると。僕に告げる。そんなリリィを僕は可愛いと思ってしまい、頭を撫でてしまったのである。

「もうっ!」そう言ってリリィが、僕から離れて、少し離れた場所に行ってしまい。僕の目の前に魔竜人の女性が現れた。それは先程から、僕のことを見つめていた魔獣人の女性のようで。僕はその事について尋ねた。そうすると──彼女は自分の名前が『リュディア』と言い。僕達に名前を教えてくれる。それから彼女は自分がこの場所にいる理由について話し始める。

彼女の名前は、リューザといい、リリィの姉である。彼女はリリィと違って。魔竜王から強い影響を受けているのが、すぐに見て取れる容姿をしている。見た目の年齢的に言えば、20代半ばといったところだろうか? そう思いながらも僕は、リリィとの違いについて尋ねようとした時。彼女は、魔人ではなく。元人間の冒険者だったそうだ。そんな彼女について色々と聞いてみると。彼女は昔は冒険者で【英雄】でもあったらしい。しかしある日を境に【魔剣士】へとジョブチェンジしたようだ。

そして彼女はリリィとは違い、魔竜王の影響を大きく受けているわけではないらしいが。リリィのことが心配でここまでやってきたのだという。そう聞いて僕は、リリィと彼女が姉妹だったことを思い出したのである。

その事から、リリィの身に危険が及んだのではと。リリィが危険な状態に陥っていると思い、急いできたのであろうと思ったのだ。そしてそんな彼女をリリィが受け入れている様子で。僕は一安心していた。ただその事は良かったとは思うが、その事で少し気になる事が出てきたのである。

リリィが姉と慕う魔人は──リリィの父親と母親が違うのではないかと。そう思ったのだ。そう思う理由があって、僕が魔竜人にそのことを尋ねると。彼女はそれについて肯定していた。やはりそうなのかと、僕は思っていた。

僕はその話を聞いて、少し複雑な気分になり、そんな僕にリリィとリリィの姉の二人は──優しい眼差しを向けてきていることに僕は気づいていたが。それでも僕にはまだわからないことが多くあった。そうしてしばらく時間が経過した後。リリィと魔人の女性の三人は、この場で休憩を取ると僕とリリアーナに伝える。リリィの表情は──とても穏やかで優しげなものになっていて。その顔を見た僕は、このリリィも魔竜王の子供であることを実感した。

僕は魔竜王の子供達を眺めながら。このリリィと魔竜人達に会えて良かったと思っていた。そしてこの世界の真実を知れただけでも。この世界に召喚されて良かったと。改めてそう思えるような気がした。

そして魔竜人達が僕に近づいてきて──僕達の目の前に立つ。

僕は少しドキドキしながらも。緊張した面持ちをしていたと思うのだが。そんな僕の肩を叩く人物がいたのだ。それはリュカであり。僕達を見渡して何かを決めたかのように微笑んでいた。それは何故か? そんなことを思う前に僕は、その答えを口にすることが出来たのだ。

「僕達が、ここにいる意味──それはあなた方がこの国の未来を担う存在である。だからこそ我々はここにいます。そして、今この時より貴方方は、我々の仲間となるのでしょう。その事を我々から提案させてください。まずはこの城にいる全ての人を呼びます」そう言い放ったリュカイは、皆に聞こえるように大きな声で叫ぶ。

そう言った直後。城内から兵士達や使用人が集まってきていて。あっという間に城のホールには。大勢の人が詰め掛けてきたのである。

僕は驚きすぎて、言葉が出なくなっていた。そして、その集まった人々に対して、リュシアと名乗る男性が話を始める。その男性の声を聞き、耳を傾けている人々の反応は──驚く者や興味深そうな者等。それぞれであった。そして話の内容は──これから自分達が暮らすことになる屋敷の場所についての話だったのだ。しかしそれは、魔王妃様が滞在するための場所でもあり。同時に魔竜王とその妻の為の屋敷であるという事だそうだ。しかしそれだけの説明だけでは納得できない者もいるだろう。そう思ったのか? リュシーアはそのことについて、詳しい説明をすると言い出したのだ。そうしてから──この城に集まっていた者達に対し、改めて挨拶をしたリュシアは──説明を開始する。その説明は魔王妃の生い立ちについてであった。そうしてリュシーアの口から、魔王妃は人間であることや、魔竜王との出会いなどを説明してくれたのである。

それから──この場にいた者達が納得したかどうかを確認すると。魔人の女性に視線を送り──

「では魔妃殿をこちらへ」そう言ったリュシイは魔族の女性の方を見て──手を差し出すと魔族の女性は魔竜王に視線を向けた後に。ゆっくりと歩みを進め始める。そうして、魔族の女性を連れてくるのと同時に、リュシアーリュも移動を開始していた。その後ろ姿からは自信に満ち溢れている様子が伺えるのだった。

魔竜王とその魔族の女性と共に、リリィの姉と思わしき女性がこの部屋の中に入ってきた。僕はその様子を見守っていたが。この部屋に入ってくるなり、リュシアは部屋の中にあった玉座のような椅子の上に腰掛ける。そうして僕達がいる方向に向き合うと──魔竜王の魔人を紹介してくれると言うのだ。そう言われて僕とリリアーナの二人と魔人の女性と魔獣人の女性が立ち上がり。僕達はリュカの方に向かい歩き出そうとすると、それを遮るように──魔竜王が口を開く。

「私から自己紹介しよう」そう言って僕達の前に立った彼は、一度呼吸を整えると。落ち着いた声色で自己紹介をしてくれたのである。

僕は彼の事を知っているが。そうでなければ彼が魔王であると知らない者は信じられない程の威厳を醸し出していて。その佇まいは王と呼ぶにふさわしい雰囲気を出していたのだ。そんな彼──魔王を目の前にして僕は緊張せずにはいられなかった。そう思っている僕の目の前に── そう口にしながら。僕の前に立っていた魔人は、突然光に包まれて姿が変わり始めた。その光が晴れるとそこには、僕の父親である魔王の顔が現れて── 僕の目の前に現れたのは──僕が知っている魔王ではなく。

その魔王の姿は──【聖魔】だった時の父親の姿そのものになっていたのである。僕はそんな光景を目の当たりにし、何が起こったのかわからずに混乱していたが、僕の後ろから──魔王の娘であるリュシィが、目の前の魔人の女性に向かって話しかけていたのだった。そうリュカとリュシィの二人の親子が──この場に揃ったのだ。僕はそんな二人の様子を観察していた。しかしそんな中──

「父上。お帰りなさいませ」そう口にしたのは、魔王の娘の──魔竜王の娘で魔竜人の少女。そう言ってリリアーネは頭を下げていたのである。そのリリアーネの行動を見て──僕の身体が動き始め、気がついたら僕も頭を下げていたのだった。

そんなリリアーネに続いて、僕の後ろにいるリリアーナとリュディアとリュシュナも頭を下げる。僕は目の前の魔王に頭を下げる事が出来たのである。僕は自分の父親に会えたことに──とても嬉しくなっていた。そうして僕は心の中で──

「パパ。やっと会うことが出来たね。僕は君に会いたくても、会いに来れなかったんだ。それが今こうして、僕はここにいるよ。僕はようやく本当のお父さんに会う事ができたんだ」と、僕はそう思いながら涙が込み上げていたのである。

そんな感動に浸っていた僕は。そんな僕のことを見つめてくる視線に気づいていた。そう、その人物は魔人である女性のほうから向けられていたのだ。そんな魔人の女性を見つめていると目が合った──彼女は微笑んでいて、そんな彼女のことを見ていた僕にも、笑みが浮かび、笑顔になるのを感じていたのである。そんな僕の様子に気がついたのだろうか? リュカさんと魔人の女性が僕に声をかける── それから、リシアとクロリアとアリシアの三人も挨拶を交わしているようで──そんなリシア達に気づかれてしまったようだ。リシア達に気づいたリリアーナは僕達の元へ駆け寄りながら──「おかえり!」と言って。僕とリリアーナが三人の元にたどり着くと、僕はリリアーナに、抱きついてこられたのだった。そうしていると──魔人の少女が僕達に近づいてきた。

僕がその事を疑問に思う前に、リュシアナが僕達の目の前にやってきて、魔竜人の女性と魔獣人の女性の二人が、この国に来てくれたことを、僕に報告してくる。僕はそれを受けて感謝の言葉を伝えた。そうしていると魔竜王がリュシーアと話しを始めてしまう。その話を聞きながらも僕はリュシアナのことが気になり、リュシーアの方に目をやった。リュシーアが魔族の女性と魔人と会話をしているのを見てから、リュカは僕と目を合わせると話を続けた。そしてリュカの口から告げられる言葉──それは僕を驚愕させるものであった。そしてリュカから語られる話は続く。

それはリリィのことを想ってのことだったが── 僕はその話を聞いた上で──魔王を説得することにしたのだ。そうしないとリリアーナの命の危険もあると思い至ったからだ。僕の提案に対して魔王は、少し考えた後、承諾してくれてリリィを助けるために協力するといってくれて。その言葉を受けた僕は、リリィと話をするために彼女を探す事にしたのである。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆リュシアは魔王との話し合いをした後、この城の最上階に存在する庭園に来ていた。この城の庭はとても美しく整えられていて。城の者たちに自慢したいほどの美しさを誇っているが、今はリュシア以外にその姿はなかった。その理由はこの城にはリュシーアと、リュシアと、そして魔竜人の魔族が一名だけ存在しているだけだったのだ。そうしてリュシアは一人で考える──これからの事を。リュシアがリュカやリュシアと一緒にいると決めた理由は、リュシア達の一族を救いたいという気持ちもあった。だがそれは理由の一部に過ぎず、全てではない。一番の目的はこの世界を魔族の手にする為だ。そしてリュカ達を利用しようとしていた。だからこそ、魔竜王に【魔竜王】と【魔王】の称号を渡したのであるから。その称号を持つ者が世界を手に入れようとすれば──他の勇者の反発を招くことだろうと考えたからである。だからこそ、リュカ達を利用することを考えているのだが。それはあくまでもリュシーヤにとっての利であって。リュシアンが本当に望んでいたものではないと。だからこそリュシィナは考えていた。自分がやろうとしていることにリュシアは賛同してくれるのかと。そんな不安から──リュシアは、どうしても確認しておきたいことがあったのだ。そうしてリュシアは自分の妹に語りかける。「リュシア。リュシアは私の願いに協力してくれる?」

リュシアからの質問に対し── リュシアはリュシィのことを見た後に、リュシィは少し考えて答えた。その答えは── リュシアの考えが間違いでないとしたら、それは魔族にとっても良いことである。だから──協力するとリュシアは答える。

そうリュシィに言われたことで。リュシィが自分と同じ考えだと知ったリュシアの胸には──安心感が広がり。リュシィが協力することを喜んでくれるなら、私としても嬉しい。そして──私は、私の妹である、あなたの力になることを誓おう。

そんなことを考えていたリュシアは──リュシアの言葉を聞いた後。リュシアはリュシィを抱きしめると。

リュシアはリュシーアとリュシアとリュディアとリュリの四姉妹と家族になれるように頑張ってきたのだ。そしてその気持ちは今なお変わっていない。

それからしばらくして──リュシアは部屋に戻ると、リリアーナからリュシアが部屋に居ないと聞いた。それからしばらくしてからリュティアから──「リュシちゃん! 大変だ!」と、慌ててリュシアの元に向かっていったリュシは──そこで魔王妃の来訪を知るのだった。

僕は魔竜王の娘のリリアーなを連れて魔王妃と魔族の女性たちが居るという部屋に向かい、そこに行くと──部屋の中にいたのはリリアーナのお姉さんと魔獣人の女性。それと僕とリュシーアの父親であり魔王である魔人。その魔人は、リリィの父親である魔人よりも遥かに若く見えた。僕はリリィの父である魔人がどんな人物なのか知らなかったが。魔王を目の前にした時とはまた違う感情を抱いていたのだった。その感覚は懐かしさからくるものだった。そう、僕は目の前にいる若い男の姿を見ると、心の底から安堵しているのだ。僕にとっては父親と同じような存在である魔竜王とリリアーナの姉の姿を見て僕は、ようやく父親の元に戻って来たのだと実感することができたのだ。そんな僕は自然と笑みを浮かべていたようで、僕の笑顔を見て驚いた様子を見せる三人。魔人は魔竜王の娘の方を見て──

「娘が世話になっている。ありがとう。それに俺の娘にも良くしてくれたようで、礼を言う。俺は、魔王の『ライル=ディムド』。君はリュシ=エルフォーレルで間違いないか?」

その言葉を向けられた僕は緊張しながら返事をする──そう僕の名前は『リシルダ』ではなく、僕自身が『魔森剣の継承者である証』に付けた名前が『リュシ』なのだ。僕は、この世界で僕自身の名前で呼ばれた事がなかったため、最初は戸惑ってしまったが。この世界の魔族の王を名乗る存在に名前を知られている事の不思議さを実感しつつ。そうです。僕はあなたの娘さんの、リリアーナお姉さんの友人としてここにいますと口にしたのであった。そう口にした後で僕は、僕の名前を知っていたことにお礼を伝える。そのお礼の言葉を受けた魔王は、気にしなくていいと口にしていた。

それから僕はリリアーナの姉である魔王妃に向かって話しかける。

僕の言葉を受けて魔王妃はすぐにリリシアを自分の後ろに隠してしまうと──「貴様がリリアーナに何か吹き込んだのではないか? もしそうならば容赦しない」と言い放つのだった。そう言って、魔竜王の娘である魔獣人の魔妃。そして魔人の魔王妃に警戒されているようだったが、リュカはその状況に困惑しつつも。まずはリュシュナと話をすることにしてみる。そうして僕は二人の間に割り込み、魔獣人の女性が持っている槍を手に取ると、それを振るうと風圧が起こり魔獣人の女性を吹き飛ばす。そうして地面に倒れる魔獣人の女性の側に近づき、僕は彼女の怪我を確認する。その際に、僕に触れられた瞬間。僕の身体を光が包む。僕は、彼女が受けた傷を全て治療してから声をかけた──「君たちは僕が守る。だから、心配いらないから。とりあえず今はゆっくり休んでほしい。あとでリュシーアとリリアーナとも話し合って決めないといけないけど。でも、もう僕達は友達だしね。だから今はゆっくり眠っていてね」

僕に声を掛けられてもまだ起きない彼女には【聖癒術】を使ってあげる。

それから、僕は二人の方を振り向くと、「今の彼女達の様子を見たら──僕達が戦う相手じゃ無いよね? そうだよね?」と口にして。それからリュカのほうを向いて、僕はリリアーナの事について説明を始めた。そうして話が終わるとリュカは「なるほどな、だが油断はするんじゃねぇぞ。この女が寝ている時に襲ってくるかもしれねえしよ」そう言って、魔王が僕とリュカの事を興味深そうに見ていたが、特に会話には入ってこなかったのであった。そうして──

「それでは、私はこの者達の相手をしてきますわ。魔竜王殿。宜しいですか?」と──リリィのお母さんが言うと──

「ああ、好きにするといい。どうせこの国の者は全員──処分することになるのだろうから。俺は──お前たちを止めるつもりもない」と魔王は言い放ち。

その言葉を受けて、魔王妃のリュシアナは微笑んだ。そしてリュシアは魔族を引き連れて僕達に襲いかかってきた。僕はリリアーナを守るように動くと、魔王も同じように動いてくれていた。それから、僕は魔王にリリアーナのことを任せて、リシアと一緒にリリアーナの母親とリリアーナの従姉に当たるリュリと戦うことにした。そんな僕はリュリに問いかけることにした。「あの魔族は、あなたの味方なの?」と。そう尋ねるとリュリは「あの方が私の味方なはずがないのですが。でも──私に優しくしてくれることはあります。それに、あの方はとても強いんですよ。それに私とそっくりの顔つきをしているんです。まるで、本当の母上のように感じることもありました。私と、リュカ様のお母様が生きていればこんな感じになるのかしらと思っていましたの。それが、まさか本当に親子になるとは思いませんでしたが」そんな言葉を口にした後に。リリィの母である魔王妃のリュシアと魔獣人のリュシア。それと、リリリアーヌの母であり魔王のリュシアを睨んでいたのであった。そんな彼女たちを見ながら僕と魔王は戦い始める事にするのだった。僕は魔王と協力して戦おうとしたけれど──僕の予想を遥かに超えた実力の持ち主である魔竜王とその娘のリュシア達によって窮地に立たされていたのだった。

そして魔王妃が【呪剣】という技を使い始めた途端。その技の影響で僕の動きは極端に鈍り始め。リュシーアの様子がおかしいことに気づく。リュシーアの身に何かが起きたのか確認しようと試みるも、そんな暇を与えてくれずに、魔王妃は次々と攻撃を仕掛けてくるのだった。それから──僕の元に駆けつけてくれたリリィの父親が助けに入ってくれたことで──僕は、魔竜王の娘たちと打ち勝つことができたのだが。その光景を見た魔王は呆然としていた。その姿を見て魔王の目の前にいる魔竜人が──魔王に向けて言ったのだ。「魔王陛下、申し訳ありませんが、我々魔族の命のために。あなた方のお力を──お貸しください」その言葉を聞いた魔王は。魔王である自分が魔族の命を救うために行動を起こすとは思って居なかったので、かなり動揺していたが。それでも彼は答えた。魔王妃やリリィの母親に、リリィと同じ容姿を持つリリアーナの事を託すと。魔竜王は娘を守るために行動することを決意する。そして魔王は自らの力で生み出した闇に包まれると──その場から姿を消してしまったのだった。

それから魔族たちが暴れまわってから少しすると、リリィが目を覚まして。僕に向かって「ごめんなさい。また私だけ何もできなかった。私は弱いままの、リュシーアの妹のリュリアのままだ。このままだと私は──妹を守れない」と口にすると、リュシアに肩を掴まれてから頭を撫でられる。それからリュシアがリュリアに言うのだった。

リリアーナから話は聞いていたのだけど、リュリアがそこまで強くなっている事は思わなかった。リリアーナと互角の戦いをして、それから私に一撃を入れるくらいは成長してくれている。それは素直に嬉しい。

それに、魔王妃リュシアのことも話には聞いていたのだけれど。実際に会うまでは半信半疑なところがあった。だからこうして対面できてよかった。リュシアからリュシーアがこの世界に存在するという情報を得られたからこそ、こうして探し当てることができた。そうしてリュシーアがこの世界に存在している事が分かって良かったと思っている。ただ。リュシアから話を聞く限りでは、私が知るより数倍は強くなりそうなのだけれど。

リリィはリュシアの言っていることを理解できないような表情をしていた。それから僕はリリィに「リュシアの言った事の意味がよく分からないんだけど」と口にしてから、魔王城の中を案内してもらった。そこで僕は魔人と出会う。そういえば、リリィの父親も魔人だったな。そんな事を考えながら僕は魔人と会話を交わすことになるのだった。

僕はリリィと魔王と一緒にリリィの父であり、リュシの父親でもある魔人──ライル=ディムドに会った。魔王妃リュシアは魔王を一目見て魔王だと見抜いたが。僕はライル=ディムドを見て違和感を覚えるのであった。魔王ライル=ディムドとリリィの父親。

その二人は外見が全く似ていなかったのである。そうして僕は疑問に思った事をそのまま魔王に伝える。その質問を受けたライルは「魔王妃よ。俺の娘がお前の子供ではないからと言って俺の子供達に手を出そうとしたら許さんからな」と口にして魔王の妻である魔王妃に牽制を入れたのであった。その発言を受けた魔王妃リュシアナは、一瞬驚いた顔を浮かべたが── すぐに平静を装い──魔王の言葉を軽く流したのであった。

それから僕は魔族の王であるライラ様を紹介される事になる。その女性は──リュシアに似た雰囲気を持っていたが。僕が出会ったリリリアーヌの姉であるリリアーナに似ているとも思える女性だった。僕はそんな彼女の様子に困惑しながらも、僕はリリィのお父さんが魔人であることに驚いてしまう。

それから僕が魔王妃様と挨拶を済ませた後に、僕と魔王が魔王妃の事を魔王と呼んだら──魔王様と呼ばれてしまい。魔王と魔王妃の二人から同時に注意されてしまう。それだけでなく。リュシュナの事も同じように注意する。僕は二人の事を何と呼べばいいのか戸惑っていると──魔王は「俺はリュシュナと呼んでくれればいい」そう言ってから僕をじっと見つめてくる。そんな魔王の様子を見たリュシアが魔王に対して口を開くのであった。

リュシアが魔王に対して文句を言い出したのだが、それを魔王は受け流し。僕との距離を近づけてきて──僕を手招きすると僕の耳元で小声で呟いたのであった。

『お前にだけは話しておきたいことがある。この世界で起きるかもしれない出来事をな』

僕だけにしか聞こえないその声。僕の頭に魔王の声が流れ込んでくると、それと同時に脳内に直接情報が入ってきた感覚に襲われた。そしてその情報を受け取った僕はその内容を理解するために時間を要することになってしまったのだ。

それから僕は魔王に言われて、魔王の館へと招かれたのだが。その際に僕の隣にいるリュシアを見張っていたはずのリリィは、魔王が僕と一緒に行くという事に、なぜか反対する事はなかった。僕はリュシアンにリリアーナと魔族についての説明を受けると、それから魔王が言う。

「リリィ。これからリュカと二人で話がしたいんだ。少しの間席を外すか──それとも部屋に戻ってもいいぞ」魔王はそう言うとリュシアの方に視線を向けたが、リュシアは魔王を睨みつけてからリリアーヌの手を引いて、そのまま立ち去ってしまうのだった。それを見た僕は魔王に向かって、この場に残るのかと尋ねてみると──

「ああ、そうだな。リュカには知っておいてもらいたい事もあるから、お前にここに残ってもらっても構わん。だが──俺の話を聞いて、リリィの傍を離れないというならだが」そんな魔王の言葉を僕は受け入れて、リュシアのいる方へと向かうのだった。

魔王はそんな僕の様子を目で追いながらも、特に何も口にすることは無く。僕はリリィ達を追いかけるような形で魔王の館から出ていくと、リュリアは僕達の姿を見て不思議そうな表情を浮かべていたのだった。そして、リリィに連れられたリリアーナの従姉に当たるリュリアも一緒についてきていたのだ。

そうして僕と魔王は魔王城の中にある魔王専用の書斎で話し合いをする事になったのである。僕はその書斎の中に足を踏み入れたのだが、その時──僕の頭の中がぐちゃぐちゃになり、そして僕は意識を失うことになったのである。そして気が付くとそこには魔王とリリアーナの姿があり。僕が意識を取り戻したことに気づいたリリィは。魔王の傍から駆け寄ってくるなり「もう! 勝手に一人で動いちゃダメ!」そんな風に怒られてしまうのである。

リリィが怒ってくれている事は嬉しいと思う反面。リュシアとリリアーヌの事を心配してしまったのである。リュシアとリリアーヌの二人から、魔王から聞かない方がいいと言われている。それでも── 僕は魔王の言うとおりにするべきだと思った。だからリリアーナには悪いと思いつつも、僕にはその事を知る義務があると感じていた。だから僕が「ねえ、リリィはどうして僕をそんなに心配してくれたの? 僕達は出会ってからそんなに長い付き合いじゃないでしょ?」と問いかけると、リリィはその僕の態度に戸惑いを覚えてしまうのだった。そして彼女は僕に問い詰めるように言葉を発したのである。

リュシーア。私はあなたの事が心配になったのよ。

リュシアは私よりも遥かに優れた存在。

私はお父様に剣の才能がないと言われたわ。その事でいつも悩んでばかりいた。でもね、リュシアの話を聞けばいくら剣が上手くても、それだけじゃ強くなれないって。私はその言葉で前を向けるようになったのよ。

リュシアに会えて良かった。そして、あの子を守ってあげられなかった自分が嫌になる。

リュシアの言う通りよ。私は──私のお兄ちゃんを殺した女なのよ。その私を庇おうとしてくれたお兄ちゃんが殺されてしまうなんて──リュシアのお母様とお父様が悪いんじゃなくて。きっと私が悪いのだと思う。

そうよね。リリアーヌ。リリアーナの言う事は最もだと思う。私だって、自分の事を棚に上げるつもりはないの。それに私が殺した事は変わりようのない事実だと思っている。私は──私の意思でお兄ちゃんを手にかけた。私にとって、たった一人の大切なお兄ちゃんだったのに、この手で殺して。だからリュシアに嫌われても、仕方ないとそう思うの。

魔王の言葉に、リリアーナは反論できずに押し黙ってしまった。

リリィから聞いていたが。本当に【魔聖】は凄まじいな。俺は魔人の王でありながら、魔王の座に就いている。この世界では、魔族の王は魔王と呼ばれる事が多く。その事から俺が魔王を名乗るのは何も問題が無いと思っていた。実際そうであったからだ。だからリリィに魔王と呼ばれる事にも、別に違和感を感じることは無かったのだが。

どうやらこの異世界においての認識として。俺が【魔剣使いの王(キングマスター)】と呼ばれているから、それが広まった結果。【魔王(デーモンロード)】ではなく、単に魔人の王という意味も込めて、魔王と呼ぶ者が多くなったようだ。そうでなければ魔王などとは呼ばれないだろうしな。まあ、呼び名に関してはそこまで拘ることも無いのだが。

しかし、リリィの反応を見て。俺とリリィの関係性が普通のものでない事を俺は理解するのであった。

リュシアと俺は、それからしばらくの間。リリィとリリィの母親であるリュシアと一緒に過ごしていて。その間にリリィとリリアーヌの二人は、リュシアから剣の扱いを教えてもらうようになっていた。

「そういえば、魔王の剣技には魔法が織り込まれているけど、あれは何なんだろう」僕はそんな疑問を抱くと──魔王は僕に答えをくれたのであった。

それは魔人に伝わる剣の型の一つで。魔力操作に長けた者だけが扱える技なのだが。この型は特殊な物で。魔力を流し込む際に属性を持たせる必要があるらしい。ただ、それをやるだけで膨大な魔素を消費する事になるため、魔族はあまり使う者は居ないそうだ。魔人は体内に宿している魔核によって魔力を生み出す事ができるため。それほど苦労する事もなく、この剣を扱う事ができたらしいのだが。人間や他の亜人達が魔道具を使って魔素を発生させる技術を開発したことにより、魔族は魔核による魔素の生成に限界を感じ。今ではその技法を使う者がいなくなってしまったそうだ。

それから僕は、魔王城での生活を始めることになる。この生活が始まるまでの経緯を僕は知らないのだが。リュシアと魔王の話を聞く限りではこの国で何が起きたのか、おおよそ把握できた。僕と魔王との約束を果たす為に魔王城に住むことになったリリアーナだったが。僕との繋がりが強いためか、リュシアも僕と同じ館で住むことになってしまった。僕はその事については反対するつもりは無かったのだけど。なぜかリュシアの従姉妹にあたるリュリアと、リリアーナの従姉にあたるリリアーヌの二人の女性に睨まれてしまい。

そのせいで、結局僕達が三人で暮らすことになったのであった。そうして僕達三人は仲良く暮らす事になるのだった。

僕は魔王から話を聞き終えた時に意識を失ってしまい。次に目を覚ました時には、既に夕方近くになっていて。僕は慌てて立ち上がるとリリアーナのいる方に向かっていったのである。僕は彼女の無事を願いながら、急いで彼女の姿を探す。そんな僕の様子を見たリュシアとリリアーヌが声を掛けてきた。

「大丈夫ですよリュシア。リュシアのお友達は、まだ目覚めていませんが。リュシアの大切な人は無事です」リリアーヌは僕に声をかけてくるのだが。彼女の言う『僕の大切な人』という言葉を聞いて。僕はリュシアと魔王の事を思ったのだ。そしてリュシアも、僕に対してその言葉を口にしてくれた。

ありがとうリュシア。リュシアは僕の事を心配してくれたんだね。そして僕がリュシアの事を想っているのと同じように、僕の事を思ってくれている事が嬉しかったよ。僕達はお互いに想い合い。互いに守り合っているんだね。こんな僕達の関係を表すような言葉があったはずだけど。思い出せない。

僕が魔王の話を聞き終えてから数時間ほどが経過していたようで。その間、リュシアとリリアーヌの二人がずっと付いていてくれていたのである。そんな二人の姿を見る度に。僕は彼女達に心配をかけたことを後悔してしまうのだった。

僕はリュシアに心配をかけてごめんと伝えると。

リュシアにはそんな事はどうでもよかったみたいで。それよりも僕は魔王から聞かされたこの世界の現状を知ってしまった事。そして、その話の内容の方がリュシアは心配だと口にして。その事に、僕は罪悪感を抱きつつ。魔王が僕を心配するのは、きっとこの世界の為なのだろうと、そんな事を考えていたのだった。

僕はリュシアの言葉を受けて、これからの行動について考えていたのである。そんな僕をリリィが見つめており。何かを言いたい事があるようだったけれど。なかなか口にしない様子だったので。僕から聞いてみることにした。するとリリィは躊躇しながらも。僕の耳元でその事を小声で伝えてきたのである。

あのね、実はリュシーアのお父様が、お兄ちゃんを探しているみたいなの。それでね、もし良ければリュシーアのお父さんが探しているお兄ちゃんを見つけて欲しいなって──私はリュシーアにそう頼んでみるんだけど。そのお願いを聞いたリュシーアが少し考え込んでいる姿を眺めていたら。突然、リュシーアの顔つきが変わって──

「いいよ、分かった! 僕もそのリュカっていう人を、一緒に探しに行ってあげるよ!」って。そんなリュシアの声が響いてきて。

そんな僕とリュシアの様子を目にしたリリアーヌが、リュシアの傍に近づくと、その肩に両手を置いてリュシアの事を止めていたのである。

ちょっと待って、リリアーヌさん! リュシーアに変なこと吹き込まないで! あなたはリュシアの事、心配じゃないんですか! そのようにリュシアを叱るリリアーヌの姿を見ていると。リリィは苦笑いをしながら「お母様、心配な気持ちは分かりますが。もう少しだけ、そのくらいにしてください。それにリュシアの言う事には続きがあると思いますから」と言ってリリアーヌを落ち着かせたのだった。そしてリリアーナは僕の顔を見ながら言葉を続ける。

お兄ちゃんは私の為に色々と頑張ってくれているんだよ。私はそんなお兄ちゃんの助けになってあげたいとそう思う。だから私はお兄ちゃんを助けてあげたいとそう思うの。それにね。私は──私の事を心配してくれるリュシアが好きだから。リュシアの為なら何でもしてあげられるって思う。私はリュシアが好きだから。私は──私なりに頑張るからね! だからね、リリィ。リュシーアは、私に任せてほしいの。私だって、お兄ちゃんの役に立てるように──お兄ちゃんを救えるようになりたいから。それにね、リリィ。リュシアが、そうしたいと言っているのだから。それを邪魔するような事は、私は絶対にしないから──私はそう言うリリアーナの言葉を耳にしながら。リュシアの言葉の意味を考え始めていたのであった。

そういえば──お兄ちゃんはどうして魔王になったの? それに【魔王剣(キングブレード)】だっけ、あれがお兄ちゃんの力の源なんでしょう。それって凄く不思議な力だよね。リュシーアの話を聞いた時も不思議に思っていたんだけど。魔王になった理由って──何なんだろう? お兄ちゃんはその力を欲していたけど。でもそれは、ただ単に強さを求める事とは違うよね。魔王は──魔族の王は魔族の中でも特別な存在なんだもん。

私にも教えて欲しいな、魔王になった時の事を。

リリアーナがそう口にしたので、僕はリリィに視線を向ける。彼女は僕の事を見ていたので、僕から先に話をしようとそう思いながら、僕は魔王城で暮らしていた頃の事をリリィに伝えたのである。

そう言えばさ。リュカのお母さんが言っていたんだけど。この異世界に召喚されてからずっと。リュシアが魔族領に戻ってくることは無かったらしいよ。それが今年になって戻ってきてくれたわけだし。やっぱりこの世界に来る前に、リュカルナ王女様に会った事が切っ掛けだと思うんだよね。それとも別の原因かな。まあ何にせよ。リュカルナ様のおかげで、お兄ちゃんはここに来る事ができて。リュシアとも再会できたから。

リリアーヌとリリィからそんな言葉を聞かされて、僕がそんな二人の様子を見ていたら、突然──リュシアが僕の事を呼んだ。

ねえ、勇者のお姉さん、ちょっといいですか? 僕はリュシアの方へと顔を向けると「どうしたの?」と声をかける。

うん、そのね。私がお父様に頼まれた事で、一番気になっていることがあるんだけど。そのことなの。あのね、この世界にやって来たのが本当に魔王なのかどうか分からないけど。でもこの異世界は、元々はリュシアがいた所なんですよね。それでこの異世界で魔王と呼ばれる者がいるとしたら。この魔王と呼ばれているのは。もしかしたらリュカの前の世界の人じゃないかと思っているんだ。だって、もしお兄ちゃんの言うとおり。魔王がこの世界で暴れているんだったとしたら、きっと、リュシアと同じ日本人で。それも私達の知っている人だったんじゃないかなって、そんな気がするの。

うーん。確かにそうかもしれないね。でもリュカの前の世界の人は、もう死んでいるはずだよ。

そうなんだよね。じゃあやっぱり別人の可能性もあるのかな。もしかすると別の世界からの転移者で、リュシーアのように元々リュカの知り合いで、こっちのリュシーアが知っている人で。そういう可能性があるって事だね。

うん、可能性はあると思う。そうだとしたらどんな人が魔王なんだろうね。

うぅ、想像できないよ。そうだよねぇ。そもそもそんな魔王とか呼ばれちゃっている人なんか、普通に考えておかしいもの。普通の人に魔王になれなんて言われても無理だよ、絶対。というか、まずは人間を辞めないと駄目なんだし。

そう考えると。そのリュシアのいた世界の人は一体何をやっちゃったの? でもその人のせいだとは言い切れないような気がしてきた。その人がこの世界の人達を傷つけようとしたのだとしたら、それはきっと、何か理由があったのかも知れないって思うの。

そうだね。

リュシアは真剣な表情で僕の方を見ながら。そのように口にしたのだ。

リリアーヌが何かを言いかけていたが。それよりも僕も彼女に確認しなければならない事があるので──僕はリュシアの質問に答えながら──リリアーヌの事は、あえて無視する事にする。そう、僕が確かめたかった事は。あの時に見た魔王の映像についてだったのだが。

あの時に見てしまった光景が──もしも過去の出来事だったとして。その人物がリュディア様なのか、それとも違う人物なのかを確認しておかなければならなかったからである。何故なら── もし、それが僕が知るリュディア様だった場合。あの方は、魔王と手を組んでいた可能性があったからだ。

魔王がリュデアの国の姫に手を出していたとなれば、当然問題になる。リュア様はそんな魔王の手下のような真似をしているような御方ではなかったが。

魔王がこの異世界にいる以上、リュディア様がこの異世界の誰かと関係を持ち。そこから情報を得た可能性が否定できなかった。

僕としては──魔王がこの異世界に存在する時点で。僕達の世界では既に死亡している人物であると考える事にした。つまり僕達がこの異世界に来た際に出会った人物は魔王ではなく、僕達の知らない誰かなのだと考えた。そのように仮定した場合──僕の考えが正しいとすれば、魔王の正体はこの異世界のリュディア様なのである。だがその場合、リュカである僕はその事実を受け入れなければいけなくなるのだが。そうしなければ僕自身が壊れてしまう恐れがあるからだ。僕は自分の心を護るために。そう自分に暗示をかけたのである。

ただ──あの映像を見る限り、やはり僕はこの世界で生きていたようだし。そしてあの場所に立っていた人間は僕の記憶にある顔立ちで。さらに僕自身の顔も存在していた事からして、あれらは本当の過去であると考えてもいいのではないかと思ったりもしたが。しかしそれでも不安が残るのも確かだったのだ。

それに──あの場所が何処だったのか、まだはっきりと特定できてはいなかったのもある。あの場所は森の中に存在していて──あの場所だけがぽっかり穴でも空いたかのように切り開かれていたからだった。

だからと言って僕達は魔王を倒す必要がある為。魔王城に行く必要はあるのだが。もしそこで──あの魔王城に残されていた、僕が見覚えのある景色を見てしまったならば。その瞬間に僕は正気を失ってしまうかもしれないと思っていたのである。だから魔王城を進む際は細心の注意を払わなければならない。だから今はそんなことを考えずに魔王城へ進もうと、そのように考えていたのである。

リリィがリュシアに色々と尋ねていたようだけど。私達の世界とこの異世界がどういう繋がりを持っているか、それを私はまだよく分かってないから。リリアーヌとリリアーネの二人が話してくれた内容を聞いてみて。それで納得したのと。それにリリィの言っている事の方が説得力があるように思えたから。それに私は、リュシアを信じることにしたんだ。

うん、私も。リュカがそう言うなら間違いはないと思う。だからリリも、それで納得して欲しいな。

うーん。分かった! リュシアがそう言うなら。私はそれで納得しておくね。だからリリィもリュシアの言葉に騙されているフリをしておいて欲しいな。そうしないとリリィがまた心配して色々と動き出す可能性があるからね。だから──お願い。リリィがそうやってリリに頼んでいる様子を見ていると──なんだか僕は少し可笑しくて。

えっ! 何! お兄ちゃん、急に笑って! 私は真剣に話をしていたのに。もう酷いよ!僕はそんな風にリリィが怒ってくれたおかげで冷静に考える事が出来たのであった。そうしてリリィのおかげで平静を取り戻す事ができた僕は──再びリュカルナ様の事を考えてみる。

もしかするとこの世界に召喚されたのはリュカルナ様が関係していたりするのだろうか。いや、そもそもこの異世界が僕達のいた世界とは別の世界だという事は理解していたが。この異世界には魔王が存在していて。僕達のいる異世界では勇者が存在する。ただ──僕の前にいた世界は、リュカが言うには元は同じ世界からやってきたはずらしいので。僕達の世界で勇者と呼ばれた人物が召喚されている可能性もあったはずだ。それに召喚されていたとしても勇者とは限らず、勇者に似た何かの可能性もある。それなのにどうしてこの異世界では、あの人が魔王と呼ばれているのだろう? うぅん。リュカ、難しい顔をしているけど、もしかしてお腹でも空いているの? それだったら私のクッキーあげるよ! 私がそんな事を考えている時。リリアーナが唐突にそんなことを言ってきてくれる。

そうじゃないけど、とりあえず一つ貰おうかな。

僕はそう返事をするなりリリアーナの方を見てクッキーを食べる体勢を取ったのでリリアーナが「はい、どうぞ!」と笑顔で僕に差し出してくれる。そしてそんな彼女の様子を、僕が口にする前からリュシアとリリィの二人は凝視しており──何だかいじわるされた気分になりつつも。美味しいクッキーだったので、つい全部食べてしまい。

あぁ、やっぱりそうなんだ。

リュカはお昼ご飯を食べてから時間を空けているはずだし。おやつくらいじゃ、さすがのリリのお腹は満たされなかったのだろうけど。それでね。そのお菓子ってリュカの魔力を使って作ったものだよね。それで── リリアーヌがそこまで言いかけた時に、リリアーネが何かに気がついたように。僕の方に近づいてくるなり──僕の耳を引っ張ってリリアーヌに聞こえないようにしながら。小声で話しかけてきたのである。あの娘は、そういうところまで勘付いているのね。でも、あまりあの娘の事は信用しない方がいいわよ。

リリアーヌの事? えぇ、あの娘が本当にリュシアの友人なのか、それは私にもわからないのよ。リュカがこの世界に来た事で、何かの影響が出ている可能性もあるしね。それにあの娘と会っているリュカも影響を受けているかも知れないでしょう。

そうなんだ。でも僕はあのリリアーネと、リュア様に出会ってから。特に変わった事は起きていないと思うんだけど。まあ僕がリュア様と出会った時は変だったから、それが影響したのだとしたら──そう言えるかもしれないけど。

リュカの気持ちはわかるけれど、今はあの少女については何も考えないでおきなさい。

でも。

今はあの少女が何者か、正体がはっきりしていないんだもの。もしかするとリュカやリュシアの敵になっている可能性もあるんだからね。そうなったら── あの子がリュカにとって、大切な存在であることは変わらないかもしれないけれど。その時は、もうリュカが傷つく姿はみたくないのよ。もちろん、あの娘も同じね。

わかったよ。僕はその言葉を聞くと同時に──それ以上は何も言わず。黙って俯いたのであった。そんなやり取りを終えた後に、僕は先に進む為に立ち上がったのだが。そんな僕の手をリュシアは握ると──僕の手を引いて、そのまま歩き出そうとしたのである。リリアーネが「ずるい」と言い出したが、リュシアはそれを宥めるような口調で。僕を連れて行くことだけを伝えてくれており。

うーん。そうだね。そろそろ魔王が復活しているかもだし。リュカの事を気にしながらも先に進まないと。

僕はリュシアに連れられるままに魔王城の中へと進んでいくのだった。そしてその道中で。リュシアの言っていた通り、僕はあの場所に立っている事となるのだが。その事実を僕は知らないまま── リリアーヌが、リリアーニャの事を少し嫌な奴だと言っているのを聞いた時に、ちょっとびっくりした。だって、リリっていつもあんな感じなんだよ。リリは自分の好きなように生きる事を望んでいるみたいなの。だからリリィに対しても自分の思い通りにさせようっていう考え方が強いから、リリィは時々リリに対して怒ったりするんだけど。

私は──それならいいなって思った。自分のしたいように生きているなら。それを邪魔されないようにする為なら、多少強引でも良いんじゃないかなと思ったの。それならお互い様だよ。それにリュシアもリュカの為に色々頑張っているんでしょう。それにお友達の為だから仕方がないのかなとも思う。それに、リリィとリリも、本当は仲良くできるんじゃないかなと思ったりするんだ。

そう言えばリュカも、リュシアと同じような性格なんだよね。それで、リュカルナとも。リュシアとリリの関係は、なんだか似てる気がするの。私としてはリュシアの事は嫌いじゃないから──これからもっと仲が良くなるといいなって思ってるんだ。あっ、そういえば、リュカルナと一緒の時には私とリリアーネもお話しているし。私達三人は仲良くなれたら良いのになって、そう考えているんだよね! リリはどうなんだろう。あの人と一緒にいると、なんだかリュカとリリアーナみたいに、ずっと二人だけの世界に閉じこもってしまうのかなって、不安になったりもしたけど。リリってば、リリ自身よりあの人の事を優先したりする事があるし。リリとリリアーネとあの人は似ているようで違うのかなって思えてきたりもしちゃったり。そう思えたりするようになっただけでも── 僕はリリアーナとそんな話をしているうちに。リュカルナさんと、そのお仲間の二人がいる部屋の近くまでやって来ていたのだ。だから僕は気を引き締めていこうと──リリアーナの話を聞こうと彼女の方を見ようとした瞬間に── 私はリリィと、リリの事を好きになれそうなリリィの話をしていたんだ。

僕はその話を聞いていると、胸が痛くなってきたのだ。僕がいない間にも──みんながそれぞれ頑張り続けていて。僕に色々と伝えようとしてくれていたからこそ、今の僕がこの場に存在している。だからこそ、僕には彼らの想いに報いる義務があった。そして、リリアーネのその想いに応えたい。僕はそう強く願ったのである。

ただ、それと同時に僕がリリィ達を想っている気持ちを、彼らに知られてはいけないと思っている。そうしなければリリィ達との関係が崩れかねないから。それだけは避けなければならない事だとわかっているから。僕は、彼らがリリィの味方であろうとする気持ちに甘える形で。今は、彼らから距離を置かなくてはならないと理解していたのである。

それでも、リリアーナの言葉は、僕の中に入ってくるたびに僕の胸に響いてくる。そうして──いつの間にか僕は、涙が止まらなくなっていたのである。そんな僕の様子に気がついたのだろう、リュシアはそんな僕の様子を心配して僕の様子をうかがってきてくれる。僕はリュシアの顔を見て大丈夫だから心配ないよと、微笑もうとした。しかし僕の頬は引きつり、上手く笑顔を作る事ができず。そんな僕の表情を見たリュシアは、突然僕を抱き寄せたのであった。そして── リリィ、リリィも私の気持ちを分かっているから──きっと私の行動を受け入れてくれるはず! リリィは、私がリリの事が苦手って事を、多分一番よく知っているの。でも私が、この世界にやってくる前から、リュカの事を大切にしてくれた事は確かだし。だから──リュカがリリアーネと離れてしまうまでは、一緒にいても良いって思ってくれているはずなんだ。だからね。

「リリアーネ」と、僕は震える声のまま彼女に語りかける。

んっ、なぁに、リュカ。もしかして──私が羨ましくて妬いているのかなぁ。だったら私のお願い聞いてくれる? そうしたらリュカが寂しい時、こうしてあげるよ! えっと、リュカ、私の顔が近いけど、どうして目を閉じたのかな? うん。それはもちろん──リュア様との口付けを思い出しながら。

「リリィは、僕のことどう思ってるの?」

僕の声は震えていて。そして今にも泣き出しそうになっていた。そしてリリアーネも──泣いていた。ただそのリリアーネの目からは──涙は流れていない。だけど彼女は泣いていたのだ。その目の奥から溢れ出る、その熱いものを僕は確かに感じていたのである。

それは──リュカルナさんへの愛情。僕はそれを改めて確認する事になり──僕の中に嫉妬心が芽生えていくのを感じていたのである。僕のそんな様子を見かねたのだろう、リリアーヌがリリアーネの手を強引に振り解くと──僕を自分の元に引き戻し抱き寄せてきた。

もうリュカは本当に素直じゃないなぁ。リュシアちゃんと私を比べたりして。それに、リリアーネだって私と同じようにリュカのことが大好きで、大切に想っているんだよ。でも私だって、リリアーネのことが好きだよ。私だってリュカが大切で大好きで愛しているの!!リュシアが言ってることだって間違ってはいないけど、私にとっては、リュア様が一番大切なのは変わらないよ。リリィのことも好きだし、それにね、あの人が──リュア様が生きていたなら、私をこの異世界に連れてきてくれていなかったなら。私はここにはいなかった。あの人と巡り合う事なんて絶対に出来なかった。そしてリュア様はあの世界で死んじゃって。

でもね、だから、私は──あの人に会う為に、この世界に来た。リュカルナが死んで、リリィがいなくなって、もう二度とリュカに会えないかもしれないって思っていた時に、リリアーヌって名前を与えてくれた、この世界に導いてくれた。その感謝の意味もあって、私はあの娘達の側に居続けているのよ。

リリィが僕の腕の中から逃げ出そうとしたが、僕は彼女を逃さないようにしっかりと掴んでいたのであった。そう、これは僕の気持ちの問題なのだ。そうして僕はしばらく──彼女の事を離さなかった。僕は僕の中に入り込んでいる彼女の存在と会話をして、彼女も──リリアーネも、僕に対しての想いは同じであると再認識することが出来たのであった。そのおかげもあり、リリアーナに対しての気持ちの変化も感じることが出来るようになっていたのである。そんな僕の様子を感じ取ったのだろうか、リュシアとリリィナは顔を合わせると。二人はお互いに笑顔でうなずいていた。僕はそんな光景を見ながら、少しだけ、自分の中に芽生えた感情について考え始める。

僕は自分の中に入って来た存在に対して──恐怖を感じる事はなくなっていた。むしろ、彼女が入り込んで来てくれなければ。リリアーナと出会う事も出来なかったわけで。そして、彼女との再会を果たすことが出来なければ。リリアーナとは出会えなかったのである。

リリアーヌ、僕は君に逢えて幸せだ。君の事を考えると胸が痛む事もあるけれど。君は僕の心に平穏をもたらしてくれていたんだよ。

そうやってリリアーネのことを想っていると、リリアーヌは自分の身体から離れていき。僕の頭を撫でるとそのまま部屋の扉を開ける。そこには──リリと【聖魔王】の姿があって。彼は僕の方を見るなり──こう言い放ったのだ。

僕は、そんな彼に言葉を返すと──彼は僕に告げる。

リュカルナ様も──貴方の事が好きなんですよ、と。だから貴女が彼に会いたいと思っているように──彼女だって同じ気持ちを抱いているのだと。それなのに僕達は互いに遠慮をしてしまっているのではないかと彼は言っていたのだ。僕はその彼の言葉を受けて、思わず──苦笑いしてしまったのであった。そう、僕だって、僕だって。

そんなやり取りをしている間に、僕の胸の中はすっきりとしていた。リュカルナさんの気持ちを知って。その想いに応えられないのに僕はリリアーネと一緒に居ることが許されるのかとか。色々と考えることもあったのだ。僕はそれを確認すると──まずは、リュカルナさんのところへ向かおうと、決意したのだった。

そう思った瞬間、僕の目の前が一瞬真っ白になる。そして、視界に映し出されたものは、見慣れぬ場所だった。そう、ここは、どこだろう。僕は、どうなったんだろう? そして──。どうして僕はこの世界に召喚されているのか。そしてなぜ僕はこの場所にいるのか、その理由をようやく知る事ができたのである。僕はこの世界に来て、自分が何故、こんな場所に立っているのか、疑問に思うと同時に。この世界の状況も理解していたのである。そう、僕はここで──。

私はリュカルナの部屋の前までやってきた。そこで、私は──ドアの前にいる人物達を発見することになる。リュカルナは勿論として、もう一人の少女が部屋の中に入ろうとしていたのだが、その彼女の様子が普通ではない事に気がつき──その手を振り解いたのだ。

「何をするつもりですか!」

私が声をかけると。そのリリィと呼ばれる女性は、私を睨みつけながら。そしてその視線をリュカルナへと向けていたのである。そして、リュカリアンが「ちょっと待ちなさい」と言って。リリィの行為を止めたのであるが、リリィはその言葉を聞くことなく── そう言うやいなや。いきなり私に攻撃を加えようとしてきたのである。だから私は咄嵯にそれを避けると、そのまま距離を取る。するとリリィは──「リリアーヌ、あんた、何やってるのよ!邪魔しないでよね」と叫んでいるのであった。

ただ私が驚いているのはそれだけではなかった。なぜなら──リュカルナの傍にいたはずの──もう一人、リリィと呼ばれていた娘がいないからである。リュカは無事なのか。まさかリリアーナと二人きりになっていませんわよね?そんな不安を抱きながらも──今はそんな事よりリュカルナの身が最優先である。

「リリアーナさん。あなたに構っている暇はありませんの。そこをどきなさいな」と、私がそう言うと──彼女は私の言葉を無視したのである。私はリリィの行動を見過ごせず──リュカと話をする時間を奪うリリィを制止する為、私はその行為を止めようとするも、その手を弾かれてしまうのであった。そして彼女は、私が静止するよりも先に──リュカルナの元へと辿り着く。

リリィが私達の間を割って入って来ると、リリアーネがその行動を阻むべく、私に向かってきた。私達はお互いに武器を構えて戦闘態勢に入った。しかし──リリアーヌと私では相性が最悪だったのだろう。

私もリュカの為ならば命も投げ出せるくらい覚悟を決めているつもりではあるのですが。それでもやはり──リュカの身にもしもの事が起きた場合のことを考えると躊躇してしまう部分があるのです。ですがリリィは、私の心の内を読み取ったのでしょう。そう、彼女の強さは本物であり、私の想像を絶するような力を秘めておりました。そして彼女は──リリアーナからリュカを奪おうとしたのである。そのリリィの動きに私は──リリアーネと共に反応してしまい、そしてリリィの攻撃を防ぐことになってしまったのだ。

「私はリュカルナ様を愛していますのよ。その貴方があの人の元に行っても良いというのですか?」

「私だって。リュカ様をお慕いしておりますの。だからこそあの方に害を及ぼすような事をさせないようにしたいのよ」

リリィのその剣捌きには驚かされるばかりで、正直言ってしまえば、まともに戦う気すら起こらなくなってしまうほどの実力差を痛感させられる。リリィと私の間にはあまりにも大きな隔たりが存在していたのだ。だが私は、諦めることなく、彼女に対抗する為に、魔力を解放したのである。

そうして、リリアーヌは私を倒さなければ──リュカが危ないと思わせ、私との距離を詰めてきたのである。私はそんなリリアーネの動きを読んで、攻撃を繰り出していくも、ことごとくその攻撃を受け流されてしまい──ついに追い詰められたのであった。そしてリリアーネの剣が私に迫ってきた瞬間──私はそれをギリギリで避けようとした。その刹那。

僕は目を覚まして──すぐに状況を理解したのであった。僕を取り囲み、今にも僕にとどめを刺そうとしていたリリイ、そしてリュカルナの二人を止める為に──僕は二人の動きを止めに入る。その結果、僕の攻撃が二人に当たりそうになったがそれは避けることが出来たのだった。

そして僕はすぐさま、リリアーナが持っている剣を取り上げることにする。しかし──リリアーナはそれを簡単には渡さなかったのである。そうしてリリアーナは僕の行動に対して文句を言ってきたのであったが、そんな彼女を僕は睨みつけてやった。リリアーナとリュアの関係を知っているリュカルナが、その事で動揺してしまったが。リリアーナは、リュアと私は関係ないと言っているにも関わらず。リュカとリリシアの関係性の方がよっぽど深いはずだと──そんな事を口走ったのだ。だから私はリリィの事を黙らせようとして──リリアーヌの持っている短刀を奪い取ろうとしたが、その攻撃も避けられてしまったのである。

そして僕は再び──自分の中に入ってきた彼女の存在を感じる事になる。彼女の想いが伝わってきて、それが僕にとってはとても嬉しいものだったのだが。同時に──彼女の事を好きになっていた事に気がつくことが出来たのであった。そうしているうちに僕はあることに気がついて、リリィに声をかける。

僕は彼女にお願いする。

「僕の中に入り込んでる女の子に聞いてほしいんだけど。僕は君とは戦いたくないんだ。僕が君の敵じゃないっていうのもわかるよね? それとも──まだ僕を信じられないのかな?」と、僕が尋ねると、リリアーナは首を振って答えてくれる。

「ううん、そんな事はありませんの。貴方の想いもちゃんと伝わっている。ただ私は──貴方と一緒に居られる時間をもう少し伸ばして欲しいと思ってしまったのよ。でももう終わりにしましょう。この世界の為に──私は貴方と一緒にいることはできないのだから。私は──魔王を倒さないといけなくなってしまったの。それに貴方に迷惑をかけてしまうかもしれないしね」と。

そう言って、彼女は、リュカルナとリリィが僕達の間に割って入って来たことを気にすることなく、リュカルナとリリィの身体を抱き寄せると──そのまま転移を発動させる。そして僕はその二人を追いかけることは出来なかった。何故なら──僕の胸の中から出てきた彼女が、「ごめんなさい」と僕に告げると──そのまま僕の前から消え去ったからだ。僕はそんな彼女とリリアーナのことを想いながら。リリアーヌに「少しだけ待っててくれないか?」と告げると、リリアーヌは笑顔を見せてくれて、リュカルナは困惑の表情を見せていたが──僕はリリィの後を追うことにしたのである。

僕はまずはリリィとリュカルナが何処にいるのか探ることにしたのだが、僕の目の前に映り込んだものを見て驚いた。それはリリアが作り出したであろう魔道書の頁だ。僕と、【聖魔剣士】である彼女が共有した情報の中にはその本について書かれていたものがあるので知っていたのだ。そしてそこに書かれてあったものはリリアの力の一部でもあったので僕はその存在を知る事になったのだった。

そしてその場所に行けばきっと──彼女達がどういった状況になっているのかも分かるだろうと思った僕はその場所に向かうことに決めたのである。

そう、リリアは僕の中に存在する。彼女の力の欠片である本がリリアーナが消えた後──自動的に発動するように細工をしてくれていたのだ。そうすれば──彼女の居場所を突き止めることが出来るのは当然のことであった。

「リュカルナ様、どうされたんですか?」とその場所でリリィに話しかけられた時──リュカルナは自分がどのような感情に支配されているかを実感することになる。そしてその事実に驚愕する事にもなったのだ。何故ならば──自分は今までリュカリアンのことだけを想っていてくれたのだと信じているリュカルナは。まさかリュカが自分の事をここまで大切に思っていてくれた事を知っただけでも嬉しかったのである。それと同時に、そんな優しい彼の傍に居ることが出来ない事に悔しさと後悔を感じずにはいられなかったのだ。だからといってここで泣いている暇はないのだが。それでもやはり心の奥底にある感情を抑えることはできなかったようである。

リュカの傍にいたかったという思いが強すぎる為か──リュカリアーナはその場に膝を付いてしまうことになる。

そんな彼女の傍へと寄ったのは──リュカルナではなくリリィの方であった。そして彼女は、優しくリュカルナの手を掴むと、リリィはそのまま立ち上がり──リュカがいる場所へと向かいたいので協力してくれないかという提案をしてきたのである。リュカルナはその申し出を受け入れるかどうか迷ったが──彼女の手を拒むことはなかった。

そうして──リュカルナとリリィの二人がその場を後にして、リリアの元へと向かったのであった。しかし──そこで二人を迎え撃つ者がいたことに二人は気がつくことはない。いや正確には、気がついたところですでに遅い状態であったのだ。なぜならばその相手こそが──その部屋に存在している人物の中で一番の実力を有していたからである。つまり──その者にとって、この二人を殺すことなど赤子の手を捻るようなものであるだろう。しかしそんな実力者に狙われることになった理由に──リュカルアが気づくことはついぞなかったのであるが。

僕はリリィ達の後を追っていたわけなのだが、何故かそこには二人の女性と一人の女性と男性と、あと小さな子供がいて──リリィと話をしている様子を眺めることになってしまった。その部屋では戦闘が行われていたようで、既に終わっており。その事には疑問を抱くことがなく、また、その事について、僕が質問することもなかったのだ。

「あれ?あなた達は──何やってるんですか?」

そんな風にいきなり声をかけてくる女性がいたが、それに対して反応をしたのは──リュカとリリシアの二人であった。リリアはそんな三人の姿を目に入れると、リリアは微笑を浮かべる。そしてそんなリリアの様子を見たリリィも微笑む。そしてリリィがリュカルの方に顔を向ける。そして彼女はリュカルに対して言葉をかけるのであった。

「私の事、覚えてるわよね? リリアよ。そして──リリィとリュカとリュカルナの三人が一緒になってる姿を見れたのはすごく幸せな気分になるよ」

リリアが僕達の名前を口にすると。その会話を聞いて反応を見せたリリィは、その顔を曇らせてしまう。そしてリリィはこう口にしたのである。

「私の──リリアの名前をどうして知っているのです?」と、リリィがリリアに向かって言うと。リュアさんの記憶を通して見ていたのだとリリアは答えた。その瞬間、リリィの瞳には涙が溜まるような光景が広がっていたように思えたのだが、すぐに元に戻ってしまっており。そんな二人の様子を見ながらも、僕はこれから先の行動についてを考えることに決めていたのだ。だからそんな時である。リリィとリリシアから話を聞くことが出来たのである。僕は二人からの話の内容で、リリィ達がなぜこんな場所に飛ばされたのだろうかという事がわかったような気がして、それを尋ねようとしたのだが。その前に僕はリリアに抱き寄せられてしまったのであった。

そして僕はリリアに、リュカリアード王国まで戻るのに力を貸してほしいと言うことを頼むことになった。リリィは僕の願いを聞き入れると。僕の手を握ってくれると、僕と一緒に、リュカリアード王国の王宮に戻るため、この場所に残っていた人達に、お礼を言って回ってくれたのである。しかし──僕のことを好奇の目で見つめてくる者達ばかりで僕は、あまりいい気持ちになれなかったのである。

それから僕の目の前でリリアが転移を発動させると──その先にあったのが僕の家だったという事に驚きを覚えた。しかし──僕達を出迎えてくれる存在がいたのだ。その者は僕とリリィのことを待っていたようであり。すぐに家の中へ招き入れてくれた。その人は──僕と【聖魔剣士】として行動を共にしていた女の子の母親であった。

僕は彼女の名前を知っているのだから、僕も名乗りを上げた方が良いだろうと思って、「僕は──」と言いかけると、その女の子が僕の名前を呼んでくれたのである。そして僕がその子のことを誰なのか思い出すまでに時間がかかった。というのも、僕は、彼女の記憶を全て受け継いでいなかったからだ。そのため僕が彼女について知っている情報は、その名前と外見と、年齢ぐらいのものだったのだ。ただ僕は彼女に関する情報が頭に流れ込む度に──僕の中にいる女の子の存在をはっきりと感じることが出来ており。それで僕は彼女を思い浮かべることが出来たのだ。

そうしてその女性と僕が話しをしている間、リリィとリリアの二人が、他の人を連れて来てくれたのである。その連れてきた人物は、リリィの妹と弟である、双子の姉妹だった。彼女達にはまだ自我がある状態で、僕に助けを求めてくれたのだ。僕は、【悪魔神官】との戦いで負ってしまったダメージによって、意識が薄れつつあった。そして僕はリリィとリリアの二人でリリィの両親に僕を預けて。その後に転移をしてくれるように指示を出した。リリィもリリアもその僕の頼みを受け入れてくれて、リリィとリリアの二人は、それぞれ僕の身体に触れてくれて、そして僕は自分の家で意識を取り戻す事になる。そして僕のことを見守っていてくれる人たちの存在を確認すると──僕は、身体を起こして、リリィのことを抱きしめると。僕の傍に来てくれていた皆に感謝を告げる。僕がそうすると、僕のことを心配してくれていたリュカルナとリリィとリュカは涙を流してくれたのである。

僕はリュカルナとリリィとリュカの三人が無事であることに安心しながら。

「僕は大丈夫だよ。みんなこそ──何か異変があったりしない?」と尋ねると。三人とも特にないと答えたのである。僕はリュカルナの方を見ると、リュカルナは僕に近寄ってきて、泣き出しながら謝ってきたのだが、それに対して僕は何も言えなかったのである。そんな事をしているうちにリュリアもやってくると。リュカの姿が見えなかったので「リュカー!」と呼びかけたのだが返事はなかった。

そして僕はあることに気づく。それはリリィのことを呼びながら部屋を飛び出していくと。彼女は僕のすぐ後ろについてきてくれたのだ。そして彼女の力を使って探すことになると──その力は発動した。そして僕達が向かった先にはリュカとリリィとリュカがいると思われる場所を見つけたのだ。しかしその場所が何処だったかという事はわからず、その場所にたどり着くことも出来なかったのである。そうして僕達は一度、リュカの部屋に集まることになる。そこで話し合いを行うことにしたのである。まずは僕が一番に思ったのが──リュカのことが心配だったので、僕はリュカルナに、今すぐにリュカルのところに行きたいと告げる。するとリリィもリリィのお母さんもリュカルナのお父さんもリリィのお兄さんや妹さん達も──そしてリリアのことも、全員が同じ意見を持っていたらしく、すぐにリュカのところに駆けつけることになったのである。僕はそこで一つだけ確認しなければならないことがあったので──その事をリリアとリリィとリュカに伝えることにしたのだ。

「あのさ。リュカの力が目覚めているかもしれないんだけど──リュカはリュカなんだよね?」

僕は、僕の中にあるもう一人の人格のことを考えながら、そう告げた。

その言葉にリュカとリュカルナが動揺しているのが目に見えていて。リリシアだけが落ち着いていた。リュリは僕が口にした意味が分かったのか「私達の事を覚えている?」と僕に問いかけた。それに対して僕は──僕が持っている知識では答えることが出来なかったのだ。だから「うん。僕にはよく分からないんだ」と正直な気持ちを伝えることにする。

僕の言葉を聞いたリュリは少し悲しそうな表情を浮かべていた。

僕はそこで──「だけど」と言葉をつづけることにしたのだ。

そして僕の口から出てくるはずの無かった台詞を口にしていたのである。

僕が口走ったその言葉にリュカルナは驚いた顔をしており。リリィは僕を見つめて──リリィの視線を感じた僕は──リリィの方へと振り返っていた。

僕にリリィを見られていると気づいたリリィの頬が朱に染まった。そしてリリィが恥ずかしそうな仕草を見せているが。僕はそんなリリィの様子を可愛いと思いつつも。そのことばかり見ているわけにもいかないので── リリィの顔から視線を外してから。

「僕はリリィの事が好きみたいだ。今まで出会った人達の中でも──僕に優しく接してくれた女性はリリィが初めてだったから」

そんな言葉を──口にしていると。リリシアが突然現れ、僕に向かって──

「私の事は──どう思っているんですか?」

僕はそんな質問をしてくるリリシアに対して「うーん。僕は君よりもリュカとの方が相性が良いような気がするけど」と言うと。リリシアの眉がぴくっと動いて、リリシアの目が細くなり。そのリリシアの瞳の奥には、どす黒い何かが存在しているように思えた。

リリィは僕に対して「そ、そんな事ありません! 私の方があなたと似合ってます!」と言う。

リリィは僕の事が好きでいてくれるようで嬉しいが──僕は僕自身の考えを伝えないといけないと思った。

僕はリリィにこう伝える。僕は僕自身がリリィの婚約者として相応しい存在なのか、わからない。僕は自分がどれだけの事ができる存在なのか知らないのだ。

そして僕はリュカルナがこの世界に現れた時、彼女が何者であるかも知らなかった。僕が知っているリュカルナと今のリュカルが同一人物ではないと、リリアが口にしていて、その事実は、リリア以外の人達も知っていることだ。僕がリリィと一緒にリュカリアード王国に帰ってきた時も──僕達と一緒に行動をしていた者達には、僕とリュカルナは別人のように思われたはずだ。僕はリリィに僕の本当の名前を──僕がリュカリアード王国の王族だということを話す。そしてリュカルナには僕のことを全て教えるようにと頼んでおいた。リリアに関しては僕達が出会う前からリリアは僕を知っていると言っていたのである。そしてリリアと僕は出会ってから共に過ごすようになっていて。リリィと僕との会話の中でリリアと出会えたことは僕にとって大きな意味を持つ事になった。リリアが僕の事を見守ってくれていたのである。だから僕は、リリアに、僕の家族やリュカリアード王国の人達を助けて欲しいという願いを込めて、僕が知っていることをリュカリアード王国の人々に伝えてもらうことにしたのである。僕は──リリィとリュカルに、リリィと僕が婚約していることと。そして僕のことについても話す事に決めたのだ。しかし僕は僕の身体に宿る力をまだ完全に把握出来ていなかったので──これから先、どのように変化していくのかわからず、もしかしたら、僕の能力も変化するのかも知れないと考えていたのである。しかしそれでも僕は、自分の気持ちに素直になろうと心に誓ったのだ。

僕が自分のことを話し終えると──僕はリリィの傍に行くために足を動かすが。

僕が足を動かしはじめた直後、僕の目の前に魔法陣が出現する。

僕はその魔法陣を見て、警戒を強めるが──。

その魔法陣の中から出てきた存在をみて僕は目を丸くしてしまう。

何故ならそこから出現した存在が、リュディア姫と僕がよく知る存在であるリュカの姿があったからである。ただその姿はリュディア姫にそっくりであった。

僕達はお互いの状況を報告し合うことになった。

僕達が遭遇した出来事については僕が説明して。それから、僕達の置かれている状況をお互いに共有することになったのである。そうして話をしているうちに僕とリュカは互いの力の解放について話をすることになるのだが──その結果、僕の中には既に魔人族の【聖魔王】の魂が封印されており、そして【勇者】の力が眠っている事も知ったのだ。それは僕の中に眠る【魔人】──今は【悪魔神官】に聞いた話と同じ内容だったのである。そうすると【悪魔神官】の言葉を信じても良いのだろうかと考えることになるのだが。

しかし【悪魔神官】の話をそのまま信用することは出来ず。しかしリュカは僕の中に封じられた存在と意思疎通ができると言っており、そのことからも【悪魔神官】の言うことが本当だということがわかるのである。しかし僕にはリュカの中にいるであろうもう一人の人物がどういう者なのか理解できておらず。それを確かめる必要があると思っていたのである。

そうして話し合いは夜まで続いたのだった。僕は僕の中の魔人が動き出そうとすると。僕を制止してくれているようだ。だからといって僕の身体を勝手に動かせるわけではなく。僕の行動を制限するくらいしか出来ないようなのである。僕の身体の中に封じられてしまった二人の人間がいるのが問題だと言えるだろう。その問題を解決しないことには、僕は自分の意志で行動することができないのだから。だからまずはその事について相談をすることにする。

リュカは──リュディア姫に僕達のことを伝えると、そう口にしたのである。リュディア姫に僕の事情を全て話してもらい。そうする事がいいのではないかと僕も考えていたので。僕はそれで構わないと言うと──リュディア姫は了承してくれたのである。僕はまず、リュカの方はリリカ王女に伝えることになるのだが──リッカは僕のことを心配して僕の側にいた方がいいと助言をしてきており。リリカはリリィの家族と話し合いがあるとのことだったのだ。

「私に任せておいて」と自信満々な表情を見せるリリカは──何故か僕に近づきながら、僕をじっと見つめていた。そしてリリシアとリュカルナの二人が部屋から出て行くと。僕達は二人きりになったのである。そうしてしばらく、僕とリュカの二人で会話をすることになり。

そうして僕はリリシアに、リュカルに僕のことをすべて打ち明けることを告げる。リュカルもリリィと同じように受け入れて貰えるのかと不安に思っていたらしいが。リュカは僕の意見に賛同してくれたのである。僕はリリシアにそのことを伝えたあと。今度はリリアの方にも、リュカルに僕のことを教えることを提案すると、リュカルは快く承諾してくれたのだ。リリアのお母さんはリュカのことをとても心配していたらしく。僕はそんなリュカの気持ちをリリアに伝えてから。リリシアにはリリィとリュカを僕のところに案内してもらうようにお願いする。リリィは少しだけ、リリアと会話を交わしただけで納得して、リュカを連れて僕のところに来ることにしてくれたのだった。

リリィはリュカルナと僕が同一人物であることを知っていたのである。リリィは僕がリリィに対して告げたことを聞いて、「そっか」と呟くと続けて「私にその事実を伝えなくてよかったんですか?」と訊ねてきたのである。確かに僕は、リリィにその事実を伝えて、僕の正体を伝えるべきなのかもしれないと迷ったこともあったのだ。しかし結局僕は僕がリリィに本当の名前を教えなかった理由と──僕とリュカルの関係を伝えただけにとどめたのである。リリィは僕のその返事に対して。僕の言葉の真意に気づくことはなく「まぁ、仕方ないですけど。でも私はあなたと共に生きることを決めたのだから──覚悟してくださいよね」という言葉を残して僕から離れていくリリィの後ろ姿をみていて、やっぱり僕の考えを理解していないんじゃないかと思えるのだが──それでもリリィに僕の考えを打ち明けなくても良かったかなと思ったりしていたのだ。

僕にそんな感情があることを──。僕の中のもうひとりの存在が感じ取っているのか、僕の中にいるその存在は僕に話しかけてくるのだ。

──君にはこれから先、困難が待っているのだよ。

僕には僕の目的があり、その為に動いているのだから当然だと思うが、僕の心を読んで、それをわかっていながらもそう言ってくる存在に僕は苛立ちを覚えてしまうが。そんな事を考えてもしょうがないと僕は思い。それから、僕の心の中に存在する、僕の知らない誰かに対して僕は問いかけていた。お前は何者なんだ? ──ふっ、いずれ、わかるさ。君はその真実を知ったとき。きっと、絶望するよ。その時、君は私を受け入れてくれるかはわからないけど。ただ──今はまだ、私のことは内緒にしておいてほしいんだ。そうしないと──君の目的を達成することが困難になってしまうから。

僕の中で眠っていた魔人──いや今は違うか──リュカルは、僕にそう言い残して。そしてリュカルは自分の力で、自分の存在を隠し始めるのである。そして僕の身体の中からいなくなるようなのである。僕はその事に対して何か思うことはなかったのだ。何故なら、この世界に存在する全ての人間が善人だけだとも限らないのである。僕の中で眠っている存在のように──僕を利用しようとするような人間は確実に存在するのだ。だから、僕の中にある力が目覚めたとしても──僕が、この力を使えるようになるとも限らず。その力が、本当に僕の味方になるとは限らない。

だから僕はリュカルの忠告を受け入れる事にしたのだった。僕は僕の大切な人達を守りたいと強く思っているのだから。その決意は変わらないのだ。

そうして僕がリリシア達と、僕の婚約者達を待っている間に、リュディア姫からリュカについての詳しい説明を受けると。僕はその話を信じるしかないと判断することになるのである。

そして、僕は僕の身体の中に封じられてしまった二人の人間のことをリリアとリリシアに伝えることになるが。リリリアはリュディア姫の説明に違和感を感じて、リュカのことを疑うようになったのである。そしてリリリアとリュリアナは僕の身体の中で眠る、僕達とはまったく関係の無いはずの魔人族の男と。もう一人の魔人族の女のことで話がしたいと言い出して、リュディア姫の目の前から姿を消したのだった。そうして、残された僕達は。リュカから事情を聞かされることになったのだ。

僕はリリシアと一緒に僕の部屋に向かって歩いていると──突然現れた女性に抱きつかれる。

そう、僕はリュカルとリリカの親子に出会えた事で──今まで、僕達がしてきた事は無駄ではなかったと実感することができていたのである。しかしリリカがいきなり僕の部屋に姿を現すなり。僕の事を強く抱きしめてきたのだ。

僕は慌ててリリカに声をかけようとしたのだけど。僕はリリカが泣いていることに気がつくと、そのまま彼女の行動を受け入れたのである。僕はしばらくリリカにされるがままになっていると──リリシアとリュカの親子がやって来て、リュカに、僕の事を任せて欲しいと言われたのである。

僕はリュカルに僕の意思を伝えることにした。

そうするとリュカルは、僕のことを助けるために──僕達の身体の中から出て来たと言う。僕はそれを聞き流そうとしたのだが。リリィが、リュカの言う通りだと僕に言うと。僕はそれを信じざるを得なくなったのだ。リリィも僕と同じ力を手に入れて、魔人族になったのだと言ってきたのである。リリィは、僕のことを守るためなら自分がどうなってもいいという、強い覚悟を持った表情を見せていたのである。僕はリリシアの方に視線を向けると、リリシアも僕のことをまっすぐに見つめ返していたのである。

そしてリリカは僕のことをじっと見つめていると。「リュークさんが私のことを好きだといってくれるのはとても嬉しいわ。だってリュカルがリュカの姿に変化したのがその理由なわけだしね。だから私があなたのことをリュカルの代わりに受け入れようとしてるって、そう思ってもおかしくはないと思うの。それに、あなたは私のことを大切にしてくれているのはわかってるもの。リュカのことをあなたが信じてあげることができないのなら、私にその資格はないと思っていて。だから──リュカのこと、許してくれるかしら? もちろん私は最初からあなたのことをリュカの身代わりだなんて思ってないわ。私にとってはどちらが大切か、すぐに決められるような問題じゃないもの。そうでしょう? リュカは──リュカルは確かに私にとって特別な人間だった。けれどそれは恋愛的な意味合いではなく、弟のような感覚が強いのよね。家族っていうのとはまた違っていて、でも一番大切な人間だったんだけど──。そう言うことも含めて考えると、今のリュカの存在は、どちらかと言うと私の理想の形に収まったと言う方が正しいのかしら? そう考えてみると、私に迷いは無くなったのよ」

僕はそんなリリシアの言葉に少し戸惑いを覚えながら、「僕達のことは、秘密にしてもらえますか?」とリリシアに伝えると。リリシアが微笑んでくれたので、「ありがとうございます」と言うのだった。そして僕はリュカに、リリィの事を頼んで、リュカルのことを信用することにしたのだ。リリシアはリュカルのことを、本当のリュカルとして扱うことに決めたらしいのである。

リリシアはリュカルに。「これからよろしくね。お母さんって呼んでいいのかな? まぁ、どっちでも好きな呼び方をしてくれたらいいわ。それで、お母さんが、リュカルに聞きたい事があるのよね。リュカに身体の変化が起きる前に言ってたことなんだけど。リュカルの身体の中にいたリュカは【聖杖】に魔力を吸われすぎて意識を失う寸前だったのよね。だからリュカはそんな状態で、一体何を言ったのか。リュカは覚えてるのかしら?」と、訊ねるのであった。

リュカは僕の身体の中から出て行った時に、僕の中に残っていた記憶の欠片のようなものが、僕の心に届いていたらしく。僕は僕が眠りにつく前の出来事を思い出すと。「えーっと。あ! そういえば」と声を上げて思い出したふりをして誤魔化す事にしたのである。そうしなければリリシア達に嘘をつくことになってしまうのだから仕方ないだろう? 僕の心の中にいるもうひとりの存在に対して──僕は心の中で問いかけた。お前は本当に何者なんだ? と僕は問いかけたのだ。

僕は今現在僕の中にいる存在について疑問を抱いていたのだ。そしてその存在に対して僕は心の中で語りかけることに──いや、正確には念じることにする──しかし僕にはこの存在の感情や気持ちといったものがまったくわからないのである。ただこの感情の起伏は──怒りの感情であることは何となく理解できたのだ。だから僕はその怒りの感情に身を委ねる事にした。そうする事によって、この感情の正体を突き止められるのではないかと考えたからである。

そうして僕はもうひとりの存在を怒らせるつもりで行動することに決め。その存在に対して感情をぶつけてみるのだが。その存在からは僕のことが一切見えておらず、その存在は僕のことなど無視しているように思えたのだ。そして僕はその存在に対して憤りを感じてしまい、もうひとりの僕の事を無視したのである。その存在に対して──僕の中にいる存在のことを考えれば当然だろう。僕の中の存在である存在は、僕のことを救ってくれたのである。その感謝の言葉さえ、僕の中にいる存在に対して伝えさせてくれずに。存在は僕の中に再び封じこめたのだ。僕は存在に対して何もできなかった。いや──しなかったのである。その存在に対する僕の心の中の葛藤も知らず。存在は僕の身体から出て行ってしまったのである。

そして僕は──僕の中の存在が僕を救ってくれて。その後で封印されてしまった事実を思い出し。僕の中に眠っているその人物の想いを知ろうと試みるのだが。その時には既に遅かったのである。そう、その存在は僕に言葉をかけてはくれなかったのだ。ただ一言、「お前はまだ目覚めるべきじゃなかったんだ」と言っただけで。僕の身体から出て行って。そうして僕の身体の中にはもうひとりの存在は居なくなってしまったのだ。

リュカの記憶から察するに──リュカを眠らせた後に、その存在は何かに気づいたような感じだったが。リュカの身体から抜け出ると、リュカに対して何かを語りかけて、それからすぐに、僕の中に存在するその何かは僕の前から姿を消したのだ。

リュカルはリリカと一緒に何処かに消えたまま帰って来ない。そしてリリアナも何故か姿を消してしまったのである。そうすると残されたのはリリシアだけだった。リリアナは何かに気がつき。僕のためにリリシアにリュカルを託して、どこかへ駆け出して行ったのだ。だからリュリシアだけがここに残されたのだった。そして、残された僕達はどうすれば良いのか分からない状況のまま、リリアナが戻ってくるのを待つことになったのである。

リュリシアと二人きりになりしばらくすると、リリシア達三人が戻って来た。しかし戻ってきたと思ったのだけど。リリアナとリリィの姿が見えなかったので、僕は首を傾げるのだけど。リュリシアは何も言わずに、僕が抱っこして連れてきたリリィを床に下ろして座らせてくれたのである。そして、僕達の前で、今まで見たことのないほど怖い顔になって仁王立ちをしているのだった。その姿は、普段温厚そうな表情を見せる彼女から想像もできないものだったのだ。

僕は、そんな表情をした彼女を初めて目にして驚いてしまったのだが。彼女は、僕の目の前に突然姿を現すなり、突然僕のことを抱きしめたのだった。僕はリリィのことで頭がいっぱいでリリシアの様子がおかしいと気づけず。リリシアにされるがままに抱きしめられていたのだ。僕は抱きしめられてリリシアに頭を撫でられたのだけど。そうされていると次第に冷静になれたので。「どうして、リリシアさんが、こんな顔をしているのか教えて欲しいんですけど」と言うと。リリシアに抱きしめられている僕の腕に手を絡めていたリリシアにリリカまで僕の傍にやってきたのである。

そうしてリリシアに事情を聞くことになる。するとリリシアは僕の身体の事が知りたくて、リュリに僕のことを診察させてとお願いをしていたようだ。リュリはその申し出を快く引き受けていたようで。リリスは僕の治療の為に自分の部屋に籠っていたのだという。リュカルとリリィの二人は僕に危害を加える心配がないのを確認して、今は別室で待機してくれているとのことだった。

リリシアに診てもらうために僕の部屋に移動することにした。僕はリュリにリリシアのことを任せる事にし、皆に席を外すようお願いした。僕としては、リリシアが何故僕の事を調べたがっているのかはわからないけれど。リリシアにだけは知られたくないという、強い拒絶感を感じていたのである。

そういえば以前も同じようなことがあったのを思い出す。

僕がこの世界で目を覚ました直後。僕の事を調べたいと申し出た貴族の娘が、僕に触れようとしてきたのである。

あの時は確かリリシアとリュカルの二人が、強引に僕の部屋に入ってきていて。そして僕はその時の事を鮮明に思い出し──「あっ! そうか!」と言ってしまうのであった。僕はリュカルの身体で経験していた記憶を思い出したのである。それは、この世界の魔法は僕には使えないと言う事を──思い出してしまったのだから。つまり僕は【無属性魔法】しか使うことが出来ないとわかってしまったのであった。その事を思い出したら途端に気分が悪くなってしまい、胸がむかむかしてくるのを感じたのだった。そうして、その不快感に耐えられず、僕はその場を離れようとしたのだけど。

そんな僕の様子に気づいてか。リュリは僕の肩を抱いて支えてくれて。僕が倒れないようにしてくれたのだった。そうして僕とリリカとリュカルの三人は、一旦部屋に戻り着替えをする事になった。そして僕は部屋の隅に移動させられ。そこで吐いたのである。

僕の様子を見ていたリュリシアが、すぐに水を持って来て僕の背中を擦ってくれるのだが。それでも僕は吐けずに、胃液ばかりが出て来る。

そうしていると今度は僕を横にしてくれるようにリュリシアに頼むのだが、リュリシアはそれを聞いてくれなくて。それどころか、僕の額に手をあて熱を測った後で、僕を横になるように指示するのだった。そうやってリュリシアの指示に従っているうちにようやく落ち着いてきて、落ち着いた僕は少し休むことにしてベッドに移動することにした。しかし僕は少しだけ休もうと意識を手放すのだが。すぐに僕は目が醒めてしまうのである。

そうすると、僕は僕の体調を心配して見に来てくれたリュカルに向かって。リュカルが僕の中に入っている間に起きた出来事を全て話してしまう。僕の中に存在している誰かの事も含めて。

僕が説明を終えると。リュカルは「わかりました。私も出来るだけの事はやってみますね」と言いながら微笑んでくれたのである。そう言えばリリシアのことについて訊ねるのを忘れていたが。僕はそのことをすっかり忘れたまま。再び眠ろうとするのであった。

ただ僕はまた眠れなかったのである。僕は先程よりもさらに悪化している自分の体調不良に戸惑いを覚えながら、リュカルの方を見て助けを求めるような眼差しを送ってみるが。リュリシアは僕の方を見ることもなく真剣に考え込んでいるような感じで、リリシアと何やら会話をしているようだったので僕は諦めたのだった。

僕とリュリシアはリュカの容態が良くなった後も一緒に過ごすことが多くなって。僕の中に存在する存在についても、リュカに確認を取ることにしたのだ。そしてその結果、リュカも僕の身体の中に存在したその人物のことを知っていたようで、僕の知らない事実を話してくれたのである。

僕の体内に封印されていたのは、もう一人の人格であり。この人物の名前は『リュカリエル』──と、い言うらしい。

リュカの話によれば、この人物のことは、魔王軍の【悪魔神官】に魂を喰われたリュカルの肉体を再生させる時に、その代償として僕の体内に封じられることになったのだというのだ。

しかしリュカルは、リリシアやリュカル達と共に、【聖都グランシャリオ】に出現した魔物の討伐に向かうと、そのまま行方知れずになってしまったとのことだった。だから僕はリュカルから話を聞かせて貰う事で、僕の中に存在するそのリュカの存在を確認する事にしたのである。

僕の中に存在していたリュカルは、やはり、リュカル本人ではないようなのである。

僕はその事を知った時、落胆してしまった。

だってそうだろ? 僕がリュリシアに抱いている感情がリュリシアに伝わることはないんだから。でもそんな気持ちとは裏腹に。リュカルはリリシアに対して恋心を抱いているのだということを教えてくれて、リリシアに対しての想いを語るのだ。そして、そのリュカルの話を聞いた僕が「リリィにもその気持ちは伝わっているよ」と教えると、リュリは嬉しそうに笑みを浮かべるのである。

しかし僕の中で眠る人物──その人は女性なのだ──はリュリに対して好意的に接してくれるのだと言うのだ。

そして、僕の中に居たのはリュカであって、リュカでないのである。

そう、僕に宿っていたリュカは、僕の中に存在する人物の事を──僕の中の人物を、『リカルマさん』と呼んでいたのだ。その人物は──『リカル』という名前を持っているようなのだった。

*

***

それから数日後のことだ。リュカルが目を覚まして僕の前に姿を見せたのだ。僕の中にリュカルの魔力が流れ込んできた感覚がして。そして、僕の中から、今まで感じることがなかった懐かしさを感じ取ったのだ。そう、僕がこの世界に産まれた時から感じていた温もりのようなものだ。僕はこの温もりの正体がなんなのかを知るために、そしてもう一度確かめるために、目を覚まそうとする。しかしそれは叶わないままで、ただ時間だけが過ぎて行く。そうして、いつの間にか眠っていた僕の傍にリュリシアとリリシアの姿があって、二人は僕を優しく抱き上げてくれたのである。

僕はそんな二人に甘えるようにして。二人に抱かれて眠りにつくことにするのだった。

そうすると、リリシアが僕の耳元で囁いた言葉が聞こえる。

そして次の瞬間。リリィの声が僕の耳に届いた。

僕が目を開けると僕の目の前にリリィの顔があるのだけど。どうやら眠っているようで僕が起きている事に気づいていないようだ。リリィは寝言のような声を出しながら幸せそうな表情を見せて眠っているのである。するとその様子を見ていたリュリが「ふっ、まったくこいつは、しょうがない奴じゃのう。こっちまで幸せな気分になってしまうではないか」と言って微笑むのだけど。それに対してリリィが「うん、リリィはいつも幸せそうな顔で眠っているよね」と答えるのだ。僕はその二人のやり取りがとても心地よく聞こえた。僕はそんなリリシア達と一緒に過ごすのが好きだった。だからこれからも、皆で楽しく過ごしたいなと願わずにはいられなかったのである。

僕の事をリュカルは、リカルマと呼んでいるみたいである。

そう言えば、以前もリュカルは僕の事をリュカルではなくてリカルと呼んでくることがあった。そして僕はその時に違和感を感じた事があったのだが。その時は気のせいかと思っていた。そう考えるとリリシアと初めて出会った頃──僕の身体の年齢に合わせて精神年齢を操作されている──の僕とリュカルが一緒に過ごしてきた中での僕への対応の仕方を思い出しても納得がいった。リュカルがリカルと呼びかける度に僕は不思議な感覚に陥っていたのだ。そしてリリシアは僕のことを『リカル』と呼んだことがなくて、僕のことを『リク様』とか、名前で呼ぶ事はなかったのだが、なぜか僕は彼女の口から僕の名前が呼ばれたときに、嬉しいと思うと同時に恥ずかしいとも感じていたのである。その理由も今の僕ならわかる。僕はリュリの口調を聞いてリカルという呼び名に抵抗感を感じていたようだ。そう思うとリュリの態度も、もしかしたらそういう事だったのかもしれないと考えるようになるのだった。

リュリが僕の事をそう呼んだ時は僕は少し戸惑ったけど。しかし、それは嫌だったわけでは無くて。なんだか特別な呼び方をされている気がして照れくさかったのだと今ならば理解できたのだった。

そういえば僕の記憶の中にある、もう一人の人格は『リカル』と言う名前を名乗っていた。そう思った僕がその事実を口にする。すると僕の身体の中のもう一人の人物が『私はリュカリエルと言います。私の事はリュカルではなく──』と言いかけて。

そこでリリシアの視線を感じる。そして僕と目が合うと、リリィが微笑むのである。

ああ──そうか。僕はそこで理解した。

リリシアは僕の中で生きているリカルを僕を通して見て、それでリュカルのことを『リュカちゃん』と呼んでいたんだと、やっと理解したのである。そしてリカルはリュカに、僕の中に存在する別の存在であるということを、説明してくれたようであった。リカルの説明が終わると、リュカは、僕と同じように驚いているようなのだが。リュカは、リカルとリリシアに、どうしてそう言うことになったのかを説明して欲しいと頼まれると。リリシアとリュリの二人が、僕の事を好ましく思っていることや。僕の中に存在するリカルと僕との間に起きた出来事について、僕にしてくれたように。そのリカルと僕との過去の話もしてくれたのである。そうすると、リュカはとても驚いた様子を見せるのだが。リカルから「リュカルちゃんの身体の中にいる、もう一人の私を、助けたい?」と言われると、リュカはその問いかけに迷うことも無く答えを返したのである。

そして僕は、もう一人の人格を封印している僕の肉体から切り離される事になる。僕はリュカルと別れるのは寂しかったが。僕がそう思っているとリカルは、僕に『私とリカルは一心同体ですからね』と言うのであった。僕はリカルに、リカルは僕の中に存在しているのは確かなのだから、いつでも一緒に居れるはずだと伝えると。僕に微笑んでくれたのである。そして僕はその微笑を見てドキッとしてしまって、それを隠すためなのか、自分の頬が熱くなっているのを感じてしまったのであった。そして僕はそんな僕の反応を見てニヤリとするリカルにからかわれてしまう。僕が慌てながら「そ、そんなことはいいから! 早く僕の身体から出ちゃえよ!」と僕がリカルに命令するように言い放つと、リカルは不貞腐れた顔をしてから渋々といった感じに僕の身体から離れてくれたのである。

そして僕は僕の中にいたリカルに身体を乗っ取られて、リカルに言われるがままに僕の意識は深い場所へと向かって行き。そしてリリシア達の前で目を覚ますと、そこにはリリシアとリュリが僕に話しかけてくれたのだ。

*

***

僕の意識は、その会話を夢見るように聞いていたのだ。そしてその会話を、その情景を思い浮かぶたびに、僕の心に温かいものが流れ込んで来る。まるで今までに体験してきた、僕の中で眠っていた記憶が呼び覚まされるような感覚に襲われるのである。しかし僕はこの光景が何を示しているのかを理解することが出来ないでいた。ただこの情景から感じることは──この先に何が待っているのか。それを期待するような胸の高まりを感じているのである。

そして僕は──。

【勇者】が口にする【聖魔剣士】の名前を聞いて驚愕していた。その人は【魔王】が倒したはずの人物なのだ。【聖剣王】は【魔王】の亡骸の傍でその力を失い消えていったはずなのである。そして【魔王軍】によってその国は滅ぼされて。その国の民たちは他の国に避難することを余儀なくされたのである。だからこそ僕は【聖都グランシャリオ】に向かう道中で出会った人達は皆悲しんでいたのだ。

「お父様に何かをしたのですか? それに──なぜ貴方達がその方の名前を──」

「んー? そうだねぇ、ちょっとだけ君達の邪魔をしていた、と言うところかなぁ」そう言って彼女は僕に対してウインクしてくるのだ。僕は彼女に対して怒りを覚えて。彼女を攻撃しようとして、身体を動かそうとしたのだが。なぜか動けないのだ。そう──彼女の行動を見ていればそれが分かる。そう言った動きをしないからだ。でも何故か、僕の中に眠っている存在──リカルが「うぐっ!!」と声を漏らしたのだけは聞こえたのである。僕はその言葉を聞いて焦って彼女に問いかけようとしたのだけれど。僕はその言葉を発する前に──彼女が僕の唇に指を当てる事で止められたのだった。

僕は思わず口を閉ざしてしまう。すると彼女は僕の瞳を覗きこむようにして、妖艶に微笑むと。僕に告げた。

「君の事は調べたからね、知っているんだよ。リュカル」──そう言われて僕は、僕の中に居た人物の正体に気づくことが出来たのである。僕は彼女の正体を知っている──僕の中にある、リカルの知識のおかげである。

僕の中の存在──リカルの正体が判明した瞬間に。僕の中には、もう一人の人格が宿ることになったのだけど。しかし僕の身体にはリカルが居るだけで、リカルの身体には僕が存在する。それは、僕の身体の中に存在するもう一人の人格は、どうやら僕が眠っている時のみ活動するようで、僕の意識が覚醒していなければ出てこないみたいである。

僕はそうして目覚めたリカルの意識を表に出したまま彼女と話をすることにしたのである。そうすれば、僕の身体の中に入っているリカルも目覚める事になり、二人で同時に話が出来ると思ったからである。

しかし僕とリカルがそう話し合っている最中に。僕は突然リリシアに抱きしめられたのである。僕は慌てて離れようとするが、リリィの魔法で身じろぎも出来なくなってしまう。そんな僕を、リリィが優しい眼差しで見ているのだった。

「ちょっ!? リリィ! いきなり何を──ひゃああっ! 」僕の言葉の途中でリリィが僕の耳元に息を吹きかけてくるのである。僕はそんなリリィの攻撃に抵抗できないでいる。そんな僕の姿を見てリュリは微笑むと、「ほれ、もっとリクに触れても良いぞ」と言って、リリィと一緒に僕の身体を触りまくってくる。そして僕に覆い被さるような姿勢になったかと思うと僕の身体を抱き枕にして眠り始めるのだ。僕はリリィとリリィが抱いている猫のような姿をした生き物のせいで。逃げる事が出来なくなってしまったのだ。ちなみにその生物だが、僕から見るとリリィと同じような見た目をしている。違う所があるとすれば、髪の色だろうか。リリスは綺麗な銀色なのに対して、リリィが連れてきた方はピンク色である。そして、この世界では見たことがない服を着ていて、スカート状の服から伸びた足が白くて綺麗で目を奪われるほど魅力的であった。

そして、僕の首元で寝始めたリリシアに。僕はリカルが僕の中で暴れ出したことで、僕はまた気を失ってしまったのだった。そうして再び気が付くとリカルも落ち着いていて。リカルの口からリリシア達から受けた攻撃の説明を聞いている間に僕の意識は覚醒していった。

僕が目覚めた後。僕の口からは自然に僕の中に存在していた人格について話すことができたのだが。僕はリカルから説明を受けて驚いていた。そのリカルの言うことに間違いが無いとすると、もう一人の僕は【聖魔剣士】と呼ばれているらしいが、その人物は、僕にとても似ている容姿を持つ、女の子のようであった。そしてその少女の容姿はリリシア達にそっくりだというのである。

僕はその事を不思議に思ったのだが、僕の中から出て行ったリカルに尋ねても要領を得なかった為、とりあえず僕の頭の隅に留めておく事にしたのである。


* * *

******

***

【勇者】が口にしている名前はリュカであってリュカではない

「それじゃあそっちは頼むぜ?」そう言いながら、俺に向かってニヤリと笑みを見せる女。その女の後ろの方からは男の声がするのだが。俺は今目の前にいる奴の事が気になってしょうがない。

俺はそいつの顔を見るとどうしても違和感を感じるのだ。そう──この感覚は前にも覚えがある。こいつは一体誰だ? そう疑問を持った俺は。そいつに確認するように「お前、【魔王】の仲間なんだな?」と聞くとそいつも「当たり前だろう」と言い返してきて。そう言うと【魔王】が手に持った短剣を俺の方に突き刺すように構えるのだが、俺にはこいつが何をするのかは分かっていた。なぜなら──。

──そいつはもう、すでに死んでいるからである。そう、今の【魔王】が使っている武器の能力は、死者の蘇生と、その能力を持っている人間を、別の誰かに取り付かせる事が出来るのだ。その力を使うためには取り付いた相手の身体に短剣を突き立てなければいけないが。しかし取り付いてしまえば、後は自由自在なのだ。しかしそれもこれも全て【勇者】が持っている武器の力を使ってのことなので、普通ならばありえない状況でしかないのだ。

しかし──どうしてなのか、【勇者】が持つ、この武器は特殊なのだ。それはその武器に【聖剣】と言う名称がついているからこそわかることなのである。その武器の能力とは──『死んだ者を取り付き人として復活させる事ができる力』なのである。つまりはそういうことだ。【魔王】の持つ武器の効果と、この【聖魔剣】とでも言うべき武器は対になっているような気がする。だからこそ、本来なら不可能な、死者の復活を実現させているのだ。だからこそ、おかしい──と。

そう考えてしまう。

何故なら、俺の中に存在している記憶によると、こいつの身体には俺が存在しているのだ。そしてそいつが身に付けている装備品は全て──。──【魔王】の装備とまったく同じものを身に付けているのだ。だから違和感があったのだ。それに、そいつの顔に見覚えがなかったのだ。でも今は思い出した──この顔、何処かで見たことがある。そうだ──俺は、俺と同じ名前で、そして性別も同じ。しかも、性格までも全く同じである人間が、もう一人いるのを思い出したのである。その人物が目の前にいるのだとしたら──。

そう考えたら辻妻は合うのだ。しかし──目の前の【魔王】から放たれた、その【聖魔剣】とやらが放つ、その光の刃を避けることが出来なかった。そして俺は── ──死んでいったのである。そして俺が、その事実を理解すると同時に、視界に映っている映像が変わったのだった。そう──先程までは確かに、目の前にいた【魔王】の姿は消えていて、そして、その背後で微笑む女性。そう【聖魔女】と呼ばれていた女性の傍で横たわっていたはずの、【勇者リカル】の姿をしている女性が。

──そこには立っていたのだった。

**

***

僕は目が覚めると。そこに広がっていた景色を見て驚いたのである。僕は何故か──知らない部屋に居て。そして僕が座って寝ていたベッドの上にはリリィが居て。さらに僕のお腹には猫のように丸まったリリシアがいるのだけど。

そうしてリリシア達の姿を見て安心感を覚えてしまって。

リリィのお胸に頭を押し当てるようにしながら、僕はそのままの状態で、少しの間リリシアの体温を堪能してみる。僕はその状態で考えるのだ。そういえばここは一体どこなんだろうか? それにリリィはなぜここに居るのだろうと。

すると僕の耳元に甘い声が響く。

「あら、リカル起きたのね。よかったわ」と僕に囁くのはリリィである。

「うむ。よく眠ったのう」と僕に話しかけるのはリリシアである。そう言って二人とも僕から離れていくのである。

そしてリリシアはそのまま部屋の外に出て行ってしまったので。僕はその後を慌てて追うと。僕が出てきた扉の前にリリシアが立っている。リリシアの視線の先に目をやると。どうやらそこの部屋は応接室であるらしく、ソファーに座っている一人の男性が見える。そしてその男の人はこちらを見ている。どうやら僕が来るのを待っていたようだ。その男は僕の姿を見て立ち上がってこちらに向かって歩いてくる。そして僕の前まで来ると。

「私は、この国の王を務めているものだ。まず君には感謝を伝えよう。娘を助けてくれてありがとう。そして、これから私に力を貸してくれないか?」

と丁寧に挨拶をしたのだった。僕はそれに対して、

「いえ、当然の事ですから」

そう口にして笑顔で答えるとリリィとリリシアはそんな僕の後ろに立って僕と一緒になって笑ってくれる。そんなリリィとリリシアが着ているのはリリィが黒を基調としており。リリシアが白色を基調とした衣装を身につけていてとても可愛らしい。

「おお、そうですか。ところで貴方達は一体どちら様でしょうか? リリィさんとリリシアさんのことは良く知っていますが」

そんな僕の質問に対して答えたのはリリィである。

「ふむ。妾の名は【神剣リリシア】。【魔剣士】リクと共に旅をしている者だ」

と堂々とした態度で言うと。その言葉を聞いて男性は一瞬戸惑っていたが。しかし直ぐに冷静になり。そしてこう告げてくる。

「なるほど。【聖魔剣士】と呼ばれるリカル殿ですね。リカル様は【勇者】であり【聖魔王】でもあり、また【結界術師】としての一面も持つ。そう言った意味もあって。その知識も豊富なのですが。やはりその知識量には驚かされますな。さすがは【聖剣リリシア】と契約を結ばれた方といったところなのかもしれません。さて、それでは本題に入りましょう。実は我が王国に不穏な動きが見られまして、この国に攻め入って来ようと企んでる者達が居るようなんです」

「ほう。そうなのか? してそ奴らは一体何が目的で攻め入るつもりなのだ?」

「ええ、その目的は、我が王国の【聖剣リリシア】を手に入れようとしているらしいのですよ。その為にそのリリシア様を奪い取ろうとしているようですが。まあそれも失敗に終わりそうな雰囲気になっているようですけどね。その事についてはリカル様はご存知ありませんよね? 今我が国はリカル様の噂を耳にしてから、そちらの方の話題でも持ちきりとなっておりますからね。そこで──リカル様にお願いがあるんですよ」

「うーん。なんだか厄介ごとみたいだね。それでどんな内容なんだい?」

「それは、我が国の【聖剣】である【リリシア】を守って欲しいのです。この国はリカル様がこの国に来られた時に。色々と力になっていただければ幸いですので、もちろん、報酬としてこの国から望むものを差し上げたいと思っておりますので──。どうでしょう? 私の依頼を受けてもらえないでしょうか?」

そう言うと目の前に座る男は頭を下げた。そして──僕達三人を順々に見渡した後で。再度僕達に依頼をしたいと懇願してくる。それを見ていたリリイとリイは僕に向かって「受けるんじゃよ」「断ってもいいぞ」と口にしてきた。だから僕は──

「わかった。この【リリシアン】の依頼を引き受ける事にするよ」

そう伝えると目の前の男が喜び、そして部屋を出て行った。そして、僕はリリィの方を向き、そして──。

「ねぇリリィ。今から一緒に、あの人に会いに行ってみようか」

僕はこの世界に来て初めて会った人間を信用する事にしたのであった。

************

***

お知らせ: いつも本作をお読みいただき誠に有難うございます。そして、まだ本作のレビューを書かれていない方は、よろしければぜひレビューを書いていただけましたら嬉しく思います。皆さまからのレビューを心よりお待ちしております! 本作を読んでくださった感想や評価をいただいております。そして大変多くの読者様に応援していただいており、その事を励みに日々執筆活動を行なっております。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

もし本作が気に入っていただけたら☆をチェック★いただけましたら嬉しいです。そして、フォローやブックマークも随時受け付けています。よろしくお願いします。(この下の表紙にあります【作者マイページ】にて作品フォローをしていただけますと最新話が更新された際に自動で投稿されるようになり便利になります。なおその際は作品下部にある【共有】ボタンから作品をシェアすることでより多くの方に読んでいただけるようになります。どうぞ、よろしくお願いいたします)

リリィと一緒に【リリシアン】と会いに行くと。そこに【リリシア】が立っていた。そして彼女は僕の隣に立つリリィに気づいたようで──、

「あら、リリシア。あなたもこの世界にやって来ていたのね。私としては嬉しいけれど──。あなたのお兄さんが大変な目にあってしまうかもしれないからあまり心配させないでちょうだい」とリリシアがリリィを注意するように話したのだ。しかし、リリィはそれを聞き流し、そのままリリシアの横を通り過ぎて行く。

僕はそんなリリィを見送りながらリリアーヌに問いかけたのだった。そうするとリリーは──。

「リカル。リリシアが言っていた通り。リリアンヌ様はこの世界の王だわ。今は【貴族王】と呼ばれているけど──」と僕の耳元に囁いた。それから続けて「ちなみにこの国の王は【勇者リリシア】の兄なのよ」と言ってきた。

僕はリリシアの傍まで行くと──リリィと同じようにして彼女に抱きついた。その行動を予想していなかったのか、少し驚いていたようだが、直ぐにリリィの時と同じように優しく僕を抱き締めてくれた。

僕はリリィが僕と同じことをしたように、僕も同じ事をしただけである。リリィの頭を撫でていると、少し照れているリリィと、その光景を見て笑っているリリシアの姿があったのである。


***


***

僕はリリィの膝の上に座りながらリリィに甘えるようにして抱っこされていた。

「あら、仲良しなのね。私と兄上はこんなにくっついてくれなかったのに。少し寂しいわね」

そんな言葉をリリシアがリリィとリリシアに向けて呟く。僕を二人の間に挟むような状態でリリシアはソファーに腰掛けていて僕達のことを見ながら話しかけてきたのである。

「リカルは私の大事な仲間じゃ」と、僕の背中に顔をすり寄せて頬ずりをしながら言うのがリリィである。

「ふふふ、そうなのね。それにしてもいいわねー。兄妹愛って、私は兄弟が居ないから憧れちゃうわね。そういえばリリスはどうしてここに居るの? 貴方確か兄上に付き添って【聖都ラリス】に残ったのではなかったの?」

リリシアがリリシアに対してそんな質問をしたところ、突然現れた一人の青年が「私ならこちらにいますよ。リシア姫」とリリシアに声をかけてくる。

どうやらその男はリリスの弟である【英雄王リリス】らしい。彼は金髪の髪を肩くらいまでの短髪にしてあり。整った顔立ちに、細身だが引き締まった筋肉を持ち合わせたイケメンで、身長もかなり高く、そして──美形である。しかしそんな彼が着ている衣服はボロボロであり、体中が血まみれだった。僕はそんな彼の姿を見ただけで、何が有ったかが容易に想像出来たのだった。僕は思わず、

「大丈夫ですか? 僕で良かったら傷を治しますが?」

「いえいえ、お気になさらずに、これしきの事、何ともありませんよ。それよりも貴方に頼みたい事が有りまして、貴方はリリシア姉上と、そして【魔王リリシア】を召喚なされたのですよね? 貴方の【神剣リリシア】の力を、今度こそ私に貸しては貰えないでしょうか? そして、リリィさん。貴女には私の【聖杖レアリシア】の力をお貸ししたいのです。この二つの力を合わせてこの世界を混沌に陥れた存在を打ち倒す為に、力を貸して欲しいのです」

そのリリアリスは必死の形相でそう訴えかけてくると、深々と頭を下げた。その行動は、今まで自分がして来た事の贖罪のような感じで僕にも伝わったのだが、リリディアは違う意味でとらえてしまったようであり。彼に近寄るといきなり蹴りを入れようとすると──、

「ちょ、ちょっと待って下さい!リリアーネさん!! 私がいったい何をしたというのですか?」

その言葉に対してリリシアがリリアリスにこう言った。

「あら? まだ分からないのかしら? 貴方がしてきた所業の数々、覚えがないとは言わせないわよ」と。そしてその言葉を引き継ぐ形で、僕もリリシアの言葉に賛同して「そうだよ。君のしたことを忘れるはずはないじゃないか」と言う。

「え? そ、それは一体どういうことでしょう? まさかリリアーナ様達が生きていたとは知りませんでしたが。もしかして記憶をなくしてしまっているとか? い、一体どうしたら思い出していただけるんでしょう?」

そう言うと今度は急に涙を浮かべ始めたのだけれど。どう見ても演技にしか見えなかった。

僕はリリシスの方を見る。すると彼女は僕の意図を察したようで微笑み返してくれる。それから【英雄】としての権能をフル回転させて『真眼』を発動する。

「──君は誰なんだい?」と、その男に問うと──、「──え?」と間の抜けた声を出しながら目を白黒させており、その表情からも、その答えは嘘だと判断出来るほど分かりやすい態度を取ると、次の瞬間。彼は消え去ったのである。


***


***

僕達が屋敷に戻るとそこには先程戦った【暗殺者】のリリスが僕達のことを待ち構えており。僕達の前に姿を見せると、膝をつく。

そして──、

「──どうかこの俺に! 貴方様のお傍に仕えさせていただけないでしょうか!」と僕に言って来たのだった。


***


***


僕は【リリアーネ】を抱きしめていた。そうする事でリリアーヌの心が安定して落ち着きを取り戻していった。

僕は彼女が落ち着くまで優しく頭を撫でるのだった。しばらくしてから僕は彼女の腕を放すと。僕は彼女を見つめる。

僕はそんなリリアーネに語りかけるように話しかける。

「──さっきの人達だけど。あれが僕を狙ってくる理由を知っているのかな?」

「いいえ。リリスさんがあそこにいるのは偶然なの。本当は兄さんと一緒に【王都ラトラス】にいるはずだったんだけれど、兄さんがどうしても会いたいっていう人がいるから一緒に会いに行かないといけなくて、それで兄さんは一人で先に王城に戻ったんだけど。その途中で──あの人が私達に襲いかかってきたの」

「なるほど。あの時もそうやってリリアリスの居場所を聞き出そうとして、リリスさんにやられたという訳だね」

僕はそう答えるとリリアーヌも同じようにしてうなずく。僕は改めて【勇者】の事をリリィに相談しようと思い彼女にも話したのであった。「リリシアの件は分かった。確かに奴が言うことも分からぬでもない。リリアはわしの妹じゃからしての。ただ、それでもわしは、この世界の秩序を守るために戦うと決めたのじゃ。リリリスよ、安心せい、その気持ちを裏切る事はせん。必ずこの世界を守って見せる。じゃからお主の力も、この【魔王】であるわしに預けておくれ」と、そうリリィは力強くリリスに向かって話すのだった。

そんな話が終わると──「ところで、そちらの女性の素性をお伺いしても宜しいでしょうか?」と僕に対して尋ねてきたので、僕はリリアーヌを手招きしてから、リリアーヌの事を紹介しようとしたところ──、 突然、僕達の背後に誰かが降り立ったのである。そして──、

「ふむふむ、やはりそうですか──。これは大変興味深い結果です」とその人物は嬉しそうに僕の顔を眺めながら言うのである。

僕はその聞き覚えのある声に嫌な予感を覚えながら後ろを振り向くと、そこに居たのは──。

「あら、【リリアン】様ではないですか」

そう言いながら、リリシアは立ち上がると、リリアンの方に歩み寄っていったのである。リリシアが近づくにつれ、何故かリリリスの顔色が変わっていくのだが。そんな様子などお構いなしといった感じでリリシアが話し掛けたのだ。

「久しぶりね。相変わらずそのお姿も美しいわ。でもどうしてここに居るの? 確か【王都ラリス】に貴方達は滞在していたはずよね?」

「あら? そんなの決まっているじゃないですか。この世界の王となるべく貴方がたの様子を見に来たに決まっていますよ」

「そうなのね。でもいいの? 私達の世界に来るのがそんな理由で?」

リリシアは意地悪そうな笑顔でそう告げると、リリリスに近づいて行く。その度にリリリシアが放つ雰囲気に押されていくのかリリリスが一歩、また、もう一歩後ろに下がって逃げ場を失ってしまう。しかしそこは【英雄王】の二つ名を持っているだけはあってか──。気合を入れ直すかのように「──うぅ。」と、小さな声でうめき声を出すと、リリリスは何かの構えをとる。

それを確認したリリシアは楽しげな笑みを浮かべながらゆっくりとリリリスに近づくと。いきなり──

「はいっ」と言いながら拳を突き出し──「うぐぇ!!」っと変な叫び声を上げるとそのまま地面に転がってしまう。

どうやら、殴られたようだが、その衝撃をもろに受けたのだろうか? 気絶してしまったようである。そんなリリスの側に近寄り、そして抱きかかえると「やっぱりまだ弱いわねぇ~。もう少し鍛えた方がいいわよ?リリスちゃん。それにしてもよくこんな姿でここまでこれたわよねー? 貴方ってば、昔からあまり変わらないわよねー」と呟いているのだった。そんなやり取りを見ながら僕はリリシアに、今のはなんなのかと質問をしたところ──彼女はあっさりとした態度で、僕に説明してくれたのである。

それによると──彼女は【聖剣聖リリシア=ルミナス】であり、僕と同じくこの世界に呼び出されているはずの存在であるらしい。ただし【魔王】としてでは無くて【女神リリアーナ】と【勇者リリア】がこの世界で生きているらしいのだが、それが誰なのかまでは彼女は知らなかったみたいだが、僕達の正体を知った事によって【聖剣】に込められている力が反応したので駆けつけて来たのだと言っていた。

それから僕達がリリスを連れてリリリアーナとリリアの部屋に戻って来てみると──部屋にはなぜか僕の師匠であり【魔帝マギアナ】と【聖魔剣士】を名乗る女性がいたので、その二人と僕達でリリィを交えて話をすることになった。

まず最初に僕から【リリィに僕との関係を話したのだけど、リリアの事はどうしようか悩んでいた時に──】


***


***

【魔帝の城にて】


***

***

「──【聖魔】だと? そんなものこの世に存在しているのか? そもそも、何故貴様がそれを操れる? おかしいではないか。【魔王リリシア】と【聖女リリア】の魂は一つになり、新たな存在へと生まれ変わったはずだぞ」

そう、この世界には【魔王リリシア】と【勇者リリア】の二人がいて、お互いの存在を掛け合わせる事で、僕達を誕生させるという計画を実行しようとしていた。その為に僕が【勇者リリア】の力を、【魔王リリシアス】の力と混ぜ合わせ、融合させ、僕達の体を作り替えようとしていたのだ。そしてその作業の途中で僕の体が作り変えられる最中に──、【聖魔女リリリス】が現れたのだという。僕はリリスを庇いながら必死で戦ったのだけれど──、

『──ふふふっ。貴方にはまだ早すぎたようですね。いいでしょう、今回は諦めます。でもいずれ必ず迎えに行きますから。その時まで私の事は忘れないで下さいね。待っていてください』と言って消え去ったのだという。


***


***

その話を聞いた時──、僕は心の中で『しまった』と思った。まさか【リリスの狙い】はこのリリリィにあったなんて──、僕としたことが迂闊にも程がある。僕もそうだが【勇者】であるリリアは今の状況から推測すると恐らくリリスが【僕達が持っている力】のどれかに反応してやって来た可能性があるだろう。

そして僕がリリスを倒した後に現れたこの女性が、【魔王リリス】本人だと仮定すると──リリスが言っていた「──私が貴方の力を手に入れましたから。【貴方はここで死になさい】。大丈夫、すぐに終わらせて差し上げますよ」というセリフと辻妻があってしまうのだ。

そうして考えれば考えていくほどにリリスがなぜこの世界に突然現れ、【聖魔王リリス】と名乗った理由や行動原理なども理解出来てしまうのだ。だから僕は思わずリリシアに向かって確認してしまう。

【魔王の力を手にした者は──【魔王リリシス】と同じ姿になるのかい?】

僕はそうリリリアに尋ねる。するとリリアは静かにうなずいたのだった──。


***


***

その話を聞くと、僕はリリシアの方を向くが──。その表情を見て愕然としたのだ。そのリリシアの顔はまるで恋する乙女のように赤く染まっており。僕に向かってキラキラと輝く瞳を向けていた。僕はその顔を見ると。何故か胸が締め付けられるような痛みを感じてしまった。そして同時に、リリィは僕の方を見つめて来て、僕は──。

僕はリリアに話しかけた。

「【リリシア】。僕はね──君を迎えに来たんだ。一緒に元の世界に戻ろう。君の事が好きなんだ」

そう言うと僕は彼女に近づいて行き、彼女の手を取ると、そのまま自分の胸に押し付けた。その僕の行動を見ていた【魔帝】はニヤリと口角を上げながら、楽しそうに笑い、【聖魔姫リリアーナ】と【英雄王リリアン】も興味深そうにその光景を見ているのだが、当の本人は顔をさらに真っ赤にして「──ッ!!?? な、何を言ってるのですか!!! そ、それは私もですよ? でも──でも──、今は無理なのです。私も、いえ、私は貴方の力を手に入れたい。貴方にこの世界の全てを譲り渡してもいいとさえ思っています。だからもう少し、時間を頂けないでしょうか?」と。

その言葉を僕は聞いた。その言葉を聞き、僕は「そうか、残念だよ。僕も、リリシア、いや──、【リリリス】、僕は──」そう、僕はリリシアとリリスの両方を手に入れる為にこの世界に残り、リリシアを手中に収めて。リリスの力を我が物とし、【リリアの肉体と精神の乗っ取りを行い──リリシアを完全に支配下に置くつもりでいたが──、こうなった以上はもう手段を選ぶ必要はないな。それにしてもリリアまで手中に収められなかったのが痛すぎる。あの子だけはリリシアに近づけるわけには行かないんだよなぁ。リリスめ。余計なことをしでかしてくれたものだ)と考え、【聖魔姫リリアン】と【英雄王リリアン】に視線を送ると。

僕が見ていることに気がついたのか二人の目が合ったのだが──、僕は二人に向けて、リリスの力を試しに使うと告げてから──。

「さあ、おいで【リリアリストア】よ」と言うと。

目の前に光の渦が現れる。そこから現れたのは先程の光を吸い込み、リリスの力をその身に取り込んだ存在だったのだが──。その姿に僕とリリシアを除いた全員の顔色が青ざめたのがわかる。なぜならそこには、今までとは似てもにつかない姿がそこにあり。その見た目は完全に──。

『──わたくしをその様な名で呼ばないでくださいませ!この世界の皆様の魂は素晴らしい輝きで溢れておりますの。その中でも貴方は特にわたくしが愛おしく思えてしまいますわ。そのお力でわたくしも是非貴方様の寵愛を受けたく──どうかわたくしに貴方の全てを捧げてくださるのなら、この世界は永遠に続く事になるでしょう──ですが、それならば仕方ありませんわね。この世界をわたくしが貰ってしまいましょうかしら?』と言い放つ。

「──何を言い出すんですか、この馬鹿は!」とリリシアが怒りをあらわにするが。そのリリスの言葉に対して【英雄王】と【魔帝マギアナ】が反応をする。二人は「【魔導神リリアンナ】様にしては珍しい失態だ。しかしあれは、我らの世界に存在する者なのか?見たことがないぞ」と。

【魔王リリス】の姿はリリアの姿をしているが──、リリスは白を基調とした服を着ているのに対し、その女性は漆黒のドレスを纏っていた。その黒い服を揺らしながらこちらに近づいてくると。僕の側に来ると。

僕の頬に手を当てて、うっとりと、熱っぽい瞳で見つめてきたのだ。そして僕の事を誘惑するように唇に人差し指を這わせて妖艶な笑みを浮かべると。その女性の瞳に僕の魂は魅了されてしまった。僕の魂は一瞬で囚われてしまったのだ。そしてその女性──リリス──に心奪われてしまっている僕は、その美しい笑顔に魅了されてしまった。

僕はその笑顔から目が離せない。その瞬間から僕の頭の思考回路が上手く回らずに正常に機能していない事に気づいた僕は、リリスの【技能】の効果を受けてしまってるのだろうと察することが出来たのは良いが、そんな僕を見てか、リリスは嬉々として語りかけてくる。そんな様子を見ていた他の面々が「なんていうことでしょう!このままでは【魔王リリシア】も危ないのです。【聖剣使い】としてこの場にいる皆さんを助けなければ!!」と言って飛び出して行こうとするリリアだったが──、「無駄だ」と【英雄王リリアンナ】と【魔王リリシア】に言われてしまう。リリアは立ち止まり悔しそうな表情をしていると。【聖魔女リリシア】は【魔王リリシア】に言うのだ。

『──貴女、私に勝てるとお思いなの?貴女ごときではこの方の【魅力】は抑えられませんもの。諦めなさい。貴女は私より弱かった。ただそれだけの事なのですから』と。

そのリリスの言葉を聞いたリリアの表情が変わると。今度はリリシアに向かって叫ぶ。

『──貴方は一体どういうことですか!?リリリスの力が貴方にあることは知っていましたが、こんなに早くその力を我が物にしていたなんて。どうして黙っていたのです!!』と。

リリシアはその問いに「私が手に入れた力ではありませんのよ。この方、【聖魔王リリシス】が私の前に現れ、私の事を求めてくださいましたの。私はこの方に自分の全てを受け入れてもらいたいと思いましたのよ。そう、私の身体も──この身もこの精神も──そして命さえも全て」と言って。僕に向かってうっすらと笑う。

その光景を目の当たりにしたリリアの感情が暴走し始める。リリアが「──【魔王リリシア】!!! 貴方が──貴方という人が。そこまで腐っていたなんて!! もういいです。貴方を殺してあげますから覚悟して下さい。そうすれば【聖剣】も手に入る事でしょうから──ね」そう言った直後だった。僕の横で何かの気配を感じ取った僕は、【リリアンナ】に言うのだ。

「おい、あいつを倒せ。お前の力を見せてもらうよ」と。すると【英雄王リリアンナ】は、僕からの指示に従うつもりなのかは知らないが、無言のままうなずくと。その身に秘められている魔力を高め始めた。その様子を確認すると同時に僕は行動を開始すると。その身を【魔導神の衣】と【魔道神の盾】を装備させると共に──【リリスロード】に変身を行うが。それと同時に【リリアリストア】が動き始める。そのリリスの手の中にはいつの間にか大振りの鎌が出現していて。その大振りの武器をまるで手慣れたかのように構えたかと思うと。【聖魔女リリシア】に向けて投げつけると──、その手には新たなる大鎌が装備されていた。

その攻撃を目にした【魔帝マギアナ】と【魔帝マギアル】、それに【聖魔王リリス】が「まずい!」と言うが、その心配を他所にリリスの攻撃は空を切り──その攻撃を回避した【聖魔女リリシア】に反撃の機会を与える事になったのだった。【聖魔女リリシア】の一撃が、リリスの大ぶりの武器を叩き落とそうとしたが。その刃がリリスに突き刺さることはなく。その刃は彼女の肌に触れることなく通過していく。だがリリスは気にした風もなく。【聖魔姫リリアーナ】に視線を送る。

そのリリスの様子に気が付いた【魔帝マギアナ】が、すぐにでも行動を起こそうと動いたが。リリスはそれを制止して──、【聖魔姫リリアーナ】に対してこう言い放つ。

『リリア様のお力──お借りいたしますわ』

そう言葉を発した後──、僕の元に戻ってきたのだ。

その様子を見てか──。先程、攻撃を仕掛けたリリスが──こう呟いていた。

『まさか!あの力は!──いや、そんなはずは──ありえない!!──だってそれは、私の役目だから。──いや違う!あれは私じゃない!!私は、わたし、ワタシ──』とその口からはブツクサとした声が流れ出る。

そんな様子を見てリリアンとマギルアが近づこうとするが【聖魔姫リリアー】は二人に「ダメ!」と言うと。【魔道神マギアナ】に目配せをしてから。二人を止めてから──、【魔導神リリアンナ】に対して。

「【魔導神マギアナ】、お願いがありますわ。──あの方の力を封印して欲しいのです」と言う。

「なぜ?」と聞くリリアンに対して──、【聖魔妃リリアータ】は微笑むと。

「──リリシアちゃんの為なのよ」とだけ告げて、そのまま僕の元へとやってきたのだった。そのリリスの姿を見た僕は──、「ありがとう、リリリス──愛してるよ。リリス、僕だけの君になって欲しいんだ。これから先、ずーっと。僕は君と一緒に生きて行きたいんだよ」と言って抱きしめようとしたのだが──突然僕の胸元から銀色に光り輝くナイフのようなものが飛び出すと。そのナイフはそのままリリアに襲いかかろうとしていた【真魔人リリス】の首元へと飛びかかり──そして貫く!その勢いは凄まじく、首だけではなく胴体までを貫き。その場に縫い付けたような状態になると──。【真魔人リリス】は動かなくなる。

その出来事があまりにも唐突すぎて、何が起こったのか全く理解が出来なかった僕だったが、そんな時。リリアンとマギルアの叫び声で僕は意識を取り戻すことになる。

「シンジ!大丈夫か!?」

「──あぁ、なんとかね」と答えると。リリアンは安堵したように「──本当にすまなかった」と謝罪してくる。その姿を見ていたリリシアが僕に声をかけてくる。

「──あの方、【真魔王リリスロード】がこちらに向かっているようでしたので。急いで対処しなければと思いまして──」と言って。その後、リリアに対してお礼を言いつつ。僕の胸に抱きついてくると。「私も、リリスさんの事が大好きです。──ですから私の魂も貴方に貰って欲しいんです」と言ってきたので。僕はその願いを聞き入れることにして、【リリアロード】の力を使いリリアの魂を肉体から分離させた後に。自分の魂を分け与えるようにして僕の中に入れてあげたのだった。そして僕の中の魂の一部を受け取った事で、今まで眠っていた力が再び覚醒し、【聖剣使い】の能力を使う事が出来るようになったのが分かったが。

そんな僕の視界の片隅に表示されていたステータスが変化していることに気づく。

《勇者》のランクが上昇していて──Sになっていた。

僕はそんな現象を見て、これはもしかしたら、僕の中に存在する【リリス】という女性が、リリアである僕の魂の一部を取り込み──そして【聖剣】と同化したことで。僕の中の力が変化したのではないだろうか?と思ったのだ。そんな事を思っている最中、リリアの事を心配するリリアが「──リリス、大丈夫かしら?私の魂を受け入れてくれてるかな?」と言うと──、「きっと受け入れてくださると思いますよ」と言って【リリシス】は笑みを浮かべていた。

リリアンが言うには──、彼女はこの【リリス】の事を『【魔王】でありながらも【聖魔王】の器でもあるリリス様の生まれ変わり』と言っているらしいが、それが真実かどうかは分からない。

まぁその事は今考えてもしかたない事なので。その辺りの事については置いておくとして。

とりあえず今は【聖魔王リリス】だ。

彼女が僕の元に近づいてきて、リリアの前に立つ。それから──【魔王の衣】を脱ぎ捨てると「私の名前は、【リリス】。私の全てを受け入れるのなら。この名を呼ぶと良いのです」と言った。その姿は【リリアリー】と同じ銀髪碧眼の美しい女性の姿をしているのだが。彼女の背中には翼のような物がついており、まるで天使を思わせる姿をしていた。

僕がリリアに「──名前、教えてくれるかい?」と問いかけてみると。

「──リリアよ」

と答える。それを聞いた僕は、改めて彼女に自己紹介をすることにしたのである。

──リリア。

その名を聞いたリリスは、驚いた表情をして「──そうですか、リリアというのですね。分かりました」と言うと。

『──では私はこれで失礼しますね』と笑顔を見せてその場を去ろうとする。僕はそれを制止するようにして声をかけた。すると彼女は、リリアに対してこう言ってのけたのだ。

『──私がいなくなって寂しいと思うでしょうけど。すぐに会えますから。それまで私がいない間は。その方の言う事をよく聞いてくださいね。その方は貴方を大切に思ってくれる方ですから。私も、貴方の事が──貴方が私に好意を抱いてくれていたことは分かっていましたから』と。

リリアは涙を流すと。リリスに向かって言葉を紡いだのだ。

「──私を助けてくれたこと。感謝しています。リリス、貴女が私に与えてくれていた想い、確かに受け取ったわ。ありがとう、本当に、ほんとうに、ありがとう。だから今度は私を好きになってくれる人の側に──幸せになりたい。その人に、尽くしていきたいの」

その言葉に、僕はリリアに目配せをしたのだ。すると──。

「私からも言わせてください」とリリアが僕に向かって頭を下げてきて──、続けて言葉を発し始めた。

「私はリリア、──いや。私の本当名前は、リリアロード。私は魔王にして聖王。私の力はリリシア、いや、【リリス】から受け継いだものです。だからこそ私は、その力で世界を救いたいと考えています。その決意を持って行動したとしても、私は魔王という立場上、人々に恐怖を与える存在になってしまいました。それでも私は人々を守りたいという気持ちを無くさずに。ただひたすら行動しました。そのせいか、いつしか私は人々の希望の星になりました。それは悪い意味で、──人々は、その力を恐れ、私を排除しようとします。その結果、【聖魔女リリア】は【聖剣】に飲み込まれ。──そして私はリリスによって【魔聖姫リリアーヌ】になった」

そこまで話してから僕に視線を向けた後、リリアに向き直り──

「だけどもう。いいんです。今の時代は平和になってるはず。だから私の力はもう必要じゃないはずなんですよ。だってそうでしょ? だから私はリリシアにお願いして【真魔人】から解放してもらうことに──」と。そう言った。その言葉を受けてか、リリアは自分の身体を確認するように見て。そしてため息をつくと──、リリアンとマギルアに対して「どうすれば元に戻れるんでしょう?」と問いかけたのである。

********

***

リリアンが説明をする。その声は僕の頭に響き渡ってくるが、その内容を聞く限り。【聖剣】の中にリリアの魂を取り込んだ状態で、【聖剣】を砕くと。元に戻る事ができるようだが。その話を聞いたリリアはこう答えたのだ。

「そんなのは嫌ですよ。──せっかく生まれ変わったんですもの」と。

そんなやりとりを見てか。リリスは、リリアンの方に顔を向けると「それでしたら。このリリアちゃんと──リリアンさんのお力をお貸ししましょうか?もちろん条件付きで──」と言ってきたのだった。

僕達はお互いに話し合いを始める。僕はその話合いに参加する気はないのに、何故かその光景は僕の目に飛び込んでくる。まるで誰かに監視されているかのように、その会話は耳に入ってくるのだ。僕としては別にどちらが勝っても負けても関係ないと思っているのだが。僕の中にあった記憶の欠片──断片が僕の心に訴えかけてくるのがわかる。

──リリアに全てを捧げろ。──お前の魂はその為にあるんだ。──俺は知っているぞ。その魂の輝き、──その力を使えば、世界なんて簡単に手に入れることができるだろう。

その考えを振り払うように頭を振った僕は。僕の傍にいた【真魔人リリア】と【魔聖人リリアリー】と、そしてリリアンの三人のやり取りに意識を傾ける。リリアは【聖剣】と一体化してしまっている為、その肉体が滅びてしまえば──死んでしまうのだという。だが、僕の中に存在している【リリス】の力と融合する事ができればその問題は解決されるはずだとリリスは言う。それに【聖剣】に宿っていた力も、魔王の【称号】と共に僕の中にある【真魔王リリアロード】へと受け継がれた為に。【聖魔王】と化した今の状態でも扱う事が出来るだろうとの事だ。

ただ、リリアの本来の姿と違う姿で、僕達と一緒に戦うのには抵抗があるらしく。リリアはその提案を断ったのだが。その姿を見ていた【リリアロード】のリリスは「それなら私達が協力してあげるの」と言うと、二人の肉体に魔力を通して、リリアに自分の肉体を与えたのである。リリアと融合した僕の目に映るのは、今まで見た事のない【リリア】の姿があった。銀色の髪をした美少女のその容姿を見た僕は──「──綺麗だよ。リリア、君が僕の婚約者だった時とは違った印象を受け取れるけど、それもまた可愛いくて好きだよ」と言ったのだが。

僕のそんな褒め言葉を、リリアは全く嬉しくなかったようで──

「うぅー。恥ずかしいわよ。でも仕方がないわよね。私の姿を見ても全然驚かないから不思議に思ってたんだし」

「いや、驚いているさ、──だけど、僕は君の本当の姿を既に見ている。だからこそ──」

僕はそう言うと──リリアを引き寄せると唇を重ねた。突然の行動に驚いた様子を見せていたが。僕はそのまま抱きしめると。リリアの舌と絡ませていく。最初は抵抗をしていたリリアも次第にその気になったのか、僕の動きに合わせるようにして動き出す。その事に気づいたらしいリリスは微笑むだけに留めている。そして暫くして顔を離すとリリアが呟く。

「ふぇ~びっくりした。キスって初めてだったんだけど」

頬を赤く染めたまま上目遣いに見つめてきたのだ。そんな可愛過ぎるリリアの様子を見て──僕は再び抱き寄せて唇を重ねる。すると──。

「ねぇ──もっと欲しい。リリ、私ね。こんな気持ちになった事ないの。ドキドキするし胸が苦しいよ。──だけど、それ以上に、リリとのキスは幸せな気分になれるから。だからね──私に貴方を教えて、貴方をちょうだい」と。僕にそう告げてきた。

僕は「──わかった。だけど僕にも教えて欲しい事があるんだよ。君はどうして、その、【魔王の衣】を──【勇者の聖衣】を纏っていないのに──」と問いかけると、彼女は「それは簡単な話よ。リリは、あの力がなんなのか分かってるの? アレは【魔王】の力と、【聖女】が纏っているはずの衣とを合わせた力。つまりは──リリが私の力を使えているのはそういうこと」と答えたのである。僕は「そうなんだね。ありがとう。それじゃぁ早速始めようか?」と口にすると── リリアに向かって手を差し伸べたのである。するとリリスから念話が伝わってくる。

『──私はリリアンさんの相手をしていますから、そちらはよろしくお願いしますね』という。その言葉を聞いた僕は、リリアンの方に目を向けたのであった。

*****

***

********

『──いい加減に、目を覚まして頂きます!』

マギルアの力が増大していき。その勢いで地面を穿ち。そこから岩の塊が飛んできて私に襲いかかってきたのだけど。それを【神魔竜】のマギアルが私を守ってくれる。

【真魔人】に変身をしている状態の私は、魔獣化の力を使うことができるようになったのだけれど。その力を使えば私自身を守ることもできる。

マギルアは攻撃の手を止めずに次々と私に岩石をぶつけようとしてくる。流石は大精霊であり【大霊王】の称号を持つだけのことはあるわ。ただ、今の私の力ならば、その力を無効化して、逆にマギルアに対してダメージを与えることも可能。

私はマギルアの攻撃に目を向けると──

『──そこだ!!』と私は声を上げると、魔法障壁を張り巡らせる。そしてマギルアに向けて攻撃を仕掛けたのだ。

マギルアが攻撃をしてきた場所に狙いを定め。そこに私は雷を放つ。私の雷撃をその身に受けた【魔聖人】が苦痛に満ちた声を出す。

私は更に【真魔人】となったことで、使えるようになっていた魔法を使うことにした。それは【光属性初級魔法】の閃光だ。私はこの【光輝ノ槍剣】を手に持っているのだけれども。実は剣だけではなくて杖として使うことも可能なのだ。そしてこの魔法の最大の特徴は相手の弱点属性でなくともダメージを与えられることにあると思う。この技のおかげでマギア王国の人達を救うことが出来たのだと実感出来るくらいな威力を誇る。まあ欠点があるとしたら消費MPが多い点だろうか。この前のように大量にモンスターを倒した時は気にしないけど普通の相手に対してはこのぐらいの消費量に抑えるつもりだ。だからこの一撃で倒せなかった場合は他の方法を試す必要があるのだが。今の所はまだ有効な手段が見つかっていなかったりする。そこで私が閃いた作戦なんだけど──私の魔力を直接相手に流し込み続ける事で一時的に行動を不能にする。これが成功したからこそ今の状況が生まれていたりもしているんだよね。後は相手が油断していたから、その瞬間を狙うことも出来て成功に至った感じかな? ただこれに関してはまだまだ研究中なんだよね。ちなみにこの方法はリリスが考えた方法。彼女から教えてもらった方法の一つでもある。リリス曰く、魔人といえども生物。生命の核は魂に存在するため、この方法では魔人を殺さずに行動を奪うことが出来ると聞いた。

そんなことを頭に浮かべながら、私と【真魔人リリアロード】との戦いが幕を上げたのである。

マギルアの反撃で私の元にも被害が出ているのだけど、【神界ノ竜】のレティとリリィが回復してくれているので特に問題はないだろう。私自身もダメージを受けたわけではないし、むしろこちらの有利に事が運んでいる状況だ。ただ、一つ気になることが私にはあったのだ。

(──おかしいわ。さっきからリリスが何かをしているように思えるのは気のせい?もしかして、あの子も【真魔人】の力を使えるのかしら?)

そんな疑問を抱きながらも、目の前にいる敵を見据える。すると【聖聖人】の【真魔人リリアロード】が呟く。

『そろそろ決着をつけさせて貰う!覚悟しろっ!!』

そんな彼女の様子を見た私も「──そうね。こちらもそろそろ終わらせましょうか」と返事をするのだった。

◆私は【聖魔聖人】へと進化した後、【真魔人】へと変身する。そして【真魔人】の姿で戦うと決めてから。その戦闘の中で一つの事実が明らかになった。

【聖剣】と融合した私の体は今までの私と違う動きを見せる。【聖剣】に宿っていた力はリリスから譲り受けたことで完全に私のものとなったわけだが。リリスの力と融合した事によって、新たな力を得ることができたのである。それは私の体と同化できる力、そしてリリスの魂と私の魂を同調させ力を共有することを可能とすることだ。リリスも言っていた事だが、この力を使えばお互いの意思疎通も行える。それに融合していれば力を行使する際の影響を抑えることができるのも大きいところだろう。そして──

『はあああっ!!いくぞおおぉお!!!』

私の中に存在するもう一人の私。それが【聖魔人リリアロード】と呼ばれる私だ。

私と同じ容姿と能力を持ち合わせていて、同じ人格を持っている。そんな彼女と融合することにより私と全く同じ能力を持つことになったのだが。私との違いといえば──。

【聖勇者】のリリアンが私の力を発動した時にのみ、リリアとリリアは同一の存在になる事が可能だという。

ただしリリアも私と同様に。リリアが得た能力はリリアンの物なので、リリアンの能力しか発動出来ないという制約はあるようだ。なので私達二人が同時に能力を使うことは無いのだが。もしそれが可能な場合──私達の二人で【真魔王】の力を行使可能だということになってしまうのだ。これはあくまでも理論上は可能なはずで、実際にやったことは過去に一度もないらしい。だけどそれが可能であるという事実だけは確認することが出来て良かったと思っている。そうすればより安全にリリンちゃんやアイシアを守れるからだ。

「──さて、そろそろ終わらしてしまおうかしら」

リリアとの思考共有を行い、私は【真魔王の衣:天翔之鎧】の翼を使って空に飛び上がる。それと同時に【神域の聖剣エクスセイヴァー:白夜乃星月】を構えたまま──

『これでどうだああ!!』

私は空中に浮かぶと同時に。【真魔王の衣:天翔之盾 》を展開させる。すると──私に向かって襲い掛かってきた岩石が見えない壁に阻まれるようにして砕け散った。

その光景を見て、驚いた様子を見せた【真魔人 マギルアロード】。だけど彼女は直ぐに私に目掛けて魔法を放つが。その魔法は【神聖竜リリィドナ=ルインドラ】の力を借りることで防ぐ。

「ふぅー。とりあえずこの辺り一帯の地形を変えちゃうかなぁ」

「なんですって?」と私に尋ねてきた【真魔王】。それに対して私は、少し微笑みを見せてしまう。

「──この大陸から外に出ることは許さないって言ったでしょ?」と。

私が口にするなり大地が揺れ始めたのだ。そしてそれは徐々に大きくなっていくのだった。

『こ、こんな馬鹿なことがあるというのですか?まさか貴方は──貴方の力は』

動揺しているのが良く分かる。それは無理もないだろうね。大精霊を複数使役することなど人間には不可能なのだからね。ましてやその力を自分と同列化させるなど不可能だと。

『ま、まずいわ。こんな力が相手だなんて──』

リリアの声が聞こえてくる。ただその声色からは焦りのようなものは見受けられなかったのである。何故ならばリリアンと【真魔人リリアロード】の力が融合したことにより、私にはリリアンの力を完璧に使いこなすことが出来るようになっているからである。

『リリア。あなたはこの力が怖くなったの?』

私は彼女に問い掛けるのだが返答はない。ただ彼女は黙ってしまったのだ。

(どうしてなの?もしかしてこの力は危険だから使わせたくないとか思っているんじゃあ)

確かにこの力は、リリィの力の一部でもあるため制御が難しく、場合によっては暴走してしまう可能性もあることは分かっているけれど──でも今の私が使っている限りではその可能性は低いと思うんだよね──だからこそ今の私が使うべきなのだと思うし。今のままだとこの大陸を守護することが厳しいと思ったから使うことに決めたんだけどね。それに──

『──大丈夫だよ。私に任せなさい!さっさとあいつ倒してこの騒動を終わらせちゃおっか!』

『──分かったわ。信じてる。あなたのその言葉が私の心を支えてくれているもの。そして私はあなたと一緒にいるためにこうして一緒にいることを選んだのよ』

(リリア──。うん。ありがと。そして──愛してるよ。さあ、決着をつけよう。この【聖勇者】の使命と共に!!)

そしてリリアの【神界ノ竜リリィ】は私の呼びかけに応じてくれた。

「リリア──いくわ!!」

『了解しましたわ、我が主リリア。共に戦います!!』

私の体に光が宿る。その光を見た【真魔人 マギルアロード】が叫ぶ──

『何をしているのですか!?そんな光──私の魔法で──』

『残念だけどその程度じゃ私の【神界之竜リリイナ】を止める事は出来ないわ!!』

リリアが言う通り、私の纏っていた光の粒子は徐々にその輝きを増していったのだった。

【聖勇者】としてこの世界に生まれた私は、この世界を滅亡の危機から救うことが自分の存在理由だと思っていたのよね。だから私は自分の【スキル】が目覚めた時からこの力を使って戦うことを決めたんだよね。

私の生まれながらに持つスキルの名は──【真なる聖者 セイクリッドプリエステス】。そしてその効果とは、自身の魔力が尽きぬ限り半永久的に持続される全属性耐性と回復系の能力と。

【神霊力】──つまり【神域の神力】と呼ばれる、神の加護と力を行使することができるというものだ。

その力を使うためには膨大な魔力を消費するのだけど、私は幼い頃から【聖魔力】を高めるべく修行をしていたので、【真魔人 リリアロード】に進化した後は魔力量はかなりのものになってきていたのよね。そのお陰もあって魔力が枯渇するような事態に陥ることも無くなったんだけど。

ちなみに私の【真聖剣】と融合した姿である【真魔王】リリアンの持つスキルも。リリアとリリアが融合したことで得ることが出来たスキルで、その名を──【真魔ノ王リリアンロード 】と呼ぶらしいのだ。

この【神界ノ竜リリィドナ】と【真魔人リリアロード】の力を融合した力を行使する時は【リリアン】と【リリア】という二人の人格が現れることになる。【聖勇者】リリアンの場合は【聖剣リリアンソード】を扱う事ができるようになるのは、私自身と融合したリリアンが剣の能力を最大限行使することができるからなのよね。リリンやリリシアの【聖獣化】と似たような現象を引き起こすのだと思う。ただ私の場合は【神聖竜リリィドナ】の力で全ての能力値が大幅に上昇するという違いがある。そして、この【真魔王】の能力も私と同様に。

私の力を完全に使いこなす事が出来る。

私の力と融合するだけでなく。私の力の一部を行使することが出来る。それがリリア──【リリアン 】の真の強みであり。私の弱点となるだろう──リリアはリリアの力を使いこなすことが可能なので。もし私が彼女よりも強くなければ勝つことが出来ないのだから── 【聖勇者】と【真魔王】が融合することによって生まれた最強の戦士。そんな【聖勇者 マギアリカ】へと覚醒した私の前には──絶望的なまでの実力を持つ【聖聖人 リザルドロード】。【聖魔聖人 マギルアロード】の姿があった。

「もう手加減なんかしない──本気で潰しにかかる。いくよ──」

『望むところです──【聖魔王】の力をこの私に見せつけてやる!!』

私はリリアから得た力の片鱗を──この世界で行使する。

すると私に向かって放たれようとしていた無数の岩弾と、氷槍が砕け散ったのであった。それを目の当たりにした【聖魔人 マギルアロード】の顔色が一瞬だけ変わったように見えた。それは驚愕した表情──だがそれも束の間のことだった。直ぐに冷静さを取り戻そうとしたのか【真魔人】の力を全力行使し始めたのだ。

【真魔人の衣】が赤と紫を基調とした色に変色する。同時に彼女の体が巨大化していく。それと同時に周囲の気温が下がっていくのを感じた。これは【神域の聖炎 】の力を行使したことで生じた変化だ。どうやら【真魔王】は私の【真魔之剣 】と同等の力を有しているらしく、【神域の聖火 】と【真神ノ聖焔】をその身に受けた状態で【真魔之鎧】を発動させた。そのせいで私の【真魔之剣 】が通用しなかったのかもしれない──

『──私も負けてはいられないですね。私の力も見せてあげます』

【真魔王】リリアはそういうなり両手を広げたのだった。そして【真魔王の衣】が黄金に輝く──それはリリアが【神霊之王リリアンナ】の力の一部を【真魔王の衣】を介して発動しようとしていることを示し。私は思わず【真魔人 リリアロード】に問いかける──

(──何をしているの?まさかリリアは──この世界に存在する他の精霊の力を使えるの?)

私が尋ねるとその問いに対して答えを返してくれたリリア。

『えぇ。そうですよ。ただリリシアの力はまだ私と完全に同調していない状態のため使えませんけどね。ですから──私に出来ることは【神聖竜 リリィドナ】の力と私との完全な一体化を果たすため。一時的に私の中にあるリリアの記憶と感情を共有することによって、私の中で眠り続ける過去の私の力を借りることにしたのです。それは私の魂と融合した時に──』

その瞬間──私の中から凄まじくも優しい何かを感じ取ったのだ。そしてそれは私の力を最大限に引き出すための力だとすぐに理解できた。

(──ありがとう。リリア。さぁ──決着をつけましょう)

『えぇ──共に戦いましょう』

私の体が変化し始める──

『な、なんですって!?そんなことが──いえ、今はいいわ。貴方は──』

【真魔人 リリアロード】が叫ぶが、私の姿を視界にとらえると。彼女は私と敵対する気がなくなったようで黙り込んでしまったのである。その証拠に【真魔人 リリアロード】の身体に変化が起き始めていたのだ。

(【真魔人 リリアロード】の体が変わってる──)

その光景に驚いた。彼女は私の方を見つめて微笑んだのだった。

「私は今から本来の姿で──この世界を救う為に戦おうと思うのだけど。それでも──私の邪魔をするつもり?」

『いいえ。もう私には貴方と戦う理由はないわ。それに私の目的は既に果たしましたから』

「──え?」

私には何が起きたか分からなかった。その言葉を最後にリリア──リリアロードは消滅したのである。

(どういうことなの?)

私はリリアの行動の意図が全く掴めず戸惑っていたのであった。

(一体なんで消えたりしたのかな?リリアは──)

突然目の前で消失してしまったリリアを見て動揺を隠しきれなかった。しかし私はリリアのことを考えてる場合じゃないのだと気持ちを切り替える。私は自分の使命を思い出した。私は私のすべきことをするために。

そして──私は私の敵となった【聖聖人 リザルド】に向けて攻撃を開始する。その途中で私は【魔刀 ムラマサ(無)】で攻撃を仕掛けたのだが。【聖聖人 リリアード】はその攻撃を素手で簡単に受け止めた。しかも、全くダメージを与えれて無いようなのだ。

【聖魔の剣】と融合したことで得たこの武器の攻撃すらも効かないとなると──【聖聖人 リリヤード】の防御を突破して、彼女に一撃を与えるのはかなり難しい。そんな考えが脳裏を過ったが──私はすぐに頭を振り払いそんな思考を追いやったのである。

今の私は【真魔人】の力を得て【聖勇者】よりも遥か上の存在になった。だからと言って慢心して戦っている訳でもない。私はこの【勇者 】の称号を得た時に、自分の限界を超えた強さを手に入れてしまったが。この世界の勇者として、そして──この世界を滅ぼそうと目論む悪を倒す存在。それが私なのだと自覚した。そして私の勇者としての力が最大限に発揮されるのは【神聖竜】リリィと融合した状態の時。つまり【聖勇者 マギアリカ】の時は、その真の力は使えないと私は認識していた。だがそれは──あくまで【聖魔人】と融合した状態で、リリアとリリアが分離した状態であるならば──話は別だった。その力を完全に扱える。その事を私は知った。だから、リリアと一つになることで得られる恩恵とはまた別の。私がリリアから得た【スキル】は。リリアとリリアの二人が合わさることで発現するものだということを理解したのである。だから──【真魔王】リリアンの本当の力を開放し。私が得たスキルの本領を発揮しようと──そう考えたのだ。

私の体に異変が起こり始めている事に気が付いていた【聖聖人 リリアード】だったが、【聖勇者 マギアリカ】の攻撃を受け流しつつ、【真魔人 リリアードル】と融合したことで獲得したスキルを行使しようとした。【真聖魔人 マギアールード】のスキル──【神域の癒し】の力を。(私の体は──私のものではないようだ。【聖勇者 マギアリカード】に何かをされた──のか?いや、それはないはずだが。とにかくこの状態を維持するしかない。私にはまだ戦う理由がある。だがこの姿では──)

リリスフォードはこの場から一旦退却する事にした。そしてリリアンと融合することで新たに取得したこのスキルを試すために使用したのである。それは、先程彼女が行ったのと同様の行為。【神聖獣】と融合した際に手に入れた新たな力。

それがこの力であり、【神聖魔獣 シンリア】の【神獣之翼 】だ。これは【聖獣 セリアストル】と融合し。その力を手に入れた際に、私に与えられた新たな力の一つだった。リリアの【神獣 リリアンナ】の力の一部を行使することが出来る。その事を思い浮かべたリリアードは再び【真魔人 リリアードル】の力を発動する。そして私から距離を取りつつ。私との距離を取ったリリア。だが私は、そんなリリアに対して、私は容赦なく攻撃を仕掛けようとする。だがその時だった。

【聖勇者 マギルリア】が私の方に視線を向けると──リリアを庇うように立ち塞がったのである。

(まさか私からリリアを守るというつもりなのか?だがこの力なら。私一人で、リリアードを止める事が出来るはず──いや、違うな。彼女は何かを狙っているのか?)

私に対して警戒心を露わにしながらも──彼女は【聖勇者 マギルリア】に守られている。その姿を確認した私。

すると──突如上空に現れた存在が私に襲いかかったのだ。

(なに!?あれは──リリィ?いや──リリィではない?)

それは【神霊 神龍リリアンナ】だった。

(──リリア。貴方は何をしたいの?)

『私の狙いが分かりますか?』

私の質問に対して、【真魔王 リリアスロード】となったはずの彼女からの返答。それはあまりにも唐突すぎるもので意味が分からないものだったのだ。その問いの意味を考えている間にも私の周囲に魔法陣が形成されていき、無数の魔法陣から現れた光の塊達が襲ってくる。私は咄嵯の判断で回避行動に移るも、その隙を狙ったかのように【神聖竜 リーリアドナ】へと変化したリリアが再び姿を現し。今度は炎の力を使って、私に追撃を仕掛けてきたのである。私は炎によるダメージは受けないと分かっているが、リリアに攻撃を加えることを躊躇してしまったのだ。そして──その瞬間に私の動きが止まるのを待ってましたと言わんばかりに【聖勇者 マギルリア】の攻撃をもろに食らってしまったのである。

(この女──何をしたんだ?)

その攻撃によって私の【聖魔人 リリアードル】の状態は解除され、私とリリアは完全に分離して元の姿に戻っていたのだった。

「リリア。私を──騙していたの?」

「そうですわね。でも私とリリアはお互いに利用しあうだけの関係でしたので、お互いの思惑を知る必要もなかったのですわ。貴方もご自身の使命の為に私の邪魔をしなくてはならなかった。ですから、私が貴女の邪魔をしたところで問題はありませんでしたの」

(そういう事か──)

確かに彼女の言うとおりで。私は私のやるべきことをするしかなかった。私はリリアを倒さなくてはならない立場にある人間。

リリシアを封印するという目的があった。だからこそ──彼女をここで倒さなくてはいけない。しかし──

(リリアを倒すことなんて出来るわけがない)

私の心の中ではそんな考えが渦巻いていたのだ。彼女はもう既に【真魔王】として覚醒を果たしており。更に【聖魔】まで手にしてしまった。その事実だけでも私の心に衝撃を与えたが。それだけではなかった。リリアは自分の娘と一つになったことで【神域の聖魔人 リリアーデロード】の能力をも手に入れてしまってる。

(こんなのに──どうやって勝てっていうんだ)

その圧倒的なまでの力の差を実感した私はどうしたらいいのかわからなくなっていた。

『──私達はもう既に、互いの役割を終わらせてましたわ』私の耳に入ってきたその言葉が、私の中に流れ込んでくる。その言葉を聞き終えた私に【リリア】の意識が向けられたのだった。

『私の役目は終わりを迎えている。そして、貴方には貴方のすべきことがあるのでしょう?私を気にせず戦いに集中してくださいな』その言葉を聞いて私は──リリアに言われるがまま──再び自分のやるべき事を為すために動き出したのである。

【真聖勇者 マギアドレア】の剣が振り下ろされた時、私はそれを素手で掴み取りそのまま握り潰したのであった。そして──【聖勇者 マギルリア】の懐に入るとその勢いのまま、拳を叩き込むのであった。

「がぁっ──ば、かな。何故、私の力が通用しない!」と驚愕しているマギルリアの胸倉を掴むと私は【聖勇者 マギルリア】の体を持ち上げ、地面に思いっきり叩きつけると。そのまま蹴り飛ばしたのであった。すると彼女は地面を転げ回りながら吹き飛んでいくと瓦礫の中へと埋もれてしまう。それを見て呆然としていた【神聖獣】と融合した状態の【神霊王 セイレーイアーナ】であったが。直ぐに私に対して攻撃を開始しようとしたようだけど。私の体の変化を見て慌てて攻撃を中止したのだ。私自身何が起こったのが分からなかったのだが。気が付けばいつの間にか、今のこの状態に落ち着いてしまっていたようである。

『あー、これってもしかして、融合したことでリリィの力が完全に使えるようになったとかって話なのかしら?それともこれ自体が、私の持つ力の影響みたいな?よくわからないけど。とりあえずあの子をなんとかしないと』

そう思ったリリィはそのまま【神聖獣 セリアストーラ】の元に向かうと、その体に触ると、リリアが【真聖勇者 マギアドライド】から受けたダメージを回復させたのだ。そして私は【神聖獣 セリアストル】との融合を解除し。本来の姿に戻ったのである。そんなリリアの姿を確認してから私は【聖勇者 マギルリア】の元に歩き出す。

『マギルリア、大丈夫かしら?』私が話しかけてもマギルリアは気絶していて答えられる状態じゃないようなので、私はマギルリアが目を覚ますまで待っていることにしたのである。それからしばらくすると、彼女はゆっくりと目を開け──自分が生きているということを確認すると安堵していたのだった。

その後、リリアはリリアンナの方に向かって歩いていき、私もそれについて行くことにする。そんな私の方に視線を向けたリリアンナは私達二人に対して謝罪の言葉を口にしたのである。

「まず、私の我がま──ではなく。娘のお願いを聞いてくれていたことに感謝します。本当にありがとうございます」とリリアは私達に頭を下げて感謝の気持ちを告げた。それに対してリリアンナも私に対して頭を深々と下げていたのだった。「えぇ、それでリリアとマギルリアはどうして戦っていたのか。そして私に用があるというのは一体どんな事なんですか?」

私はまだ二人の話を詳しく聞いていなかったためにその疑問を投げかけると、二人はその問いに対してこう返答してくれたのだ。

それはあまりにも予想外過ぎる返答であり、私が驚くのは当然の話だと言えるのである。

「私がここを訪れたのは、私の娘である【真聖聖勇者 マギアルリアナ】と【神霊聖勇者 リーリアスティア】に貴方を紹介をするため。私の娘は貴方の力になりたいと、そして私の力は貴方に捧げたいと言っています。その証として、私は──【聖勇者】と【聖魔王】の力を、娘は私の力で手に入れた力を差し上げました」

私はリリアの言った言葉の内容に対して驚きを隠せなかったのである。まさか【聖魔】と、さらに【聖勇者】と【聖魔王】までもが、彼女達の手に渡ろうとしていたとは思わなかったのである。だがそれ以上に驚くべき内容がリリアの発言に含まれていた。

(つまり──私の力と彼女の力の二つを手にしているという事よね?)

そんな私の疑問を感じ取ったかのように、リリアは説明を始めたのである。その話を聞いた後、私の頭によぎったことは一つだけである。

私の力を手にした彼女は今。何を思って行動に出ているのだろうかということである。

(私としてはこのまま彼女と争う事を避けたかった。しかし、私の力を手に入れた彼女がどういう行動を起こすのか分からない以上、今は様子を見た方がいいかもしれない)と思い至った私は何もせずにただリリアの様子を見守ったのだった。すると──

「私の力が欲しいなら。貴女に差し上げるわ。でも──私の願いは違うわ。私の望みはこの世界の平和を維持すること。その手伝いをして欲しいの。それが、私の──私の愛する娘の望んだ世界だから。その手助けをしてもらいたい」

その言葉を受けてリリアも私の方を向いてきたのだ。

(リリアの目的は私の力を得ることでは無い。リリアは自分の持つ【神聖竜 リーリアドナ】をリリアンナに譲り渡す代わりに。リリアンナに私の力を与えて世界を平穏に保とうとしているのだ)そのリリアの決意の眼差しをみた私は、リリアとリリアの愛娘に心の底から申し訳なく思っていたのである。私は彼女達を利用するつもりなんて全く無かったのである。しかし、結果的には私は彼女たちを利用した形になっていたのだろう。その事に心が締め付けられるように苦しくなっていく。しかし──

(それでも──)と私は考える。私もリリアのように。自分の家族や仲間を大切にする想いが人一倍強いと自負しているからこそ。自分の大切なものを護る為に、他の人達を利用してもいいと思っている。そしてその為ならば、いくらだって悪役になる覚悟も決めているのだ。そして私は──リリアンナに向かって手を伸ばしたのである。

「リリアンナ、私は──私達は貴女が大切で大好きです。そして私は、貴女を、リリアンナを愛しています。だからどうか、私の手を取ってください。リリアの力を受け取った後も私と共に生きてください。そして、私と一緒に。世界を平和に導くために尽力してくれませんか?」

私がそう言うとその言葉を聞いたリリアの顔が一瞬で赤くなっていたのだ。そしてリリアの隣にいるリリアの娘も同じように顔を真っ赤にしながら恥ずかしがっているのだった。

(うっ、リリィの姿でそういう表情をされると、ちょっと破壊力がすごいんだけど。やっぱりリリアの見た目をしているせいで、可愛さが倍増してるっていうか)そんなことを私は内心思いながら苦笑いしていると、その私の顔を見た二人が慌てて姿勢を正していたのだ。

私は、その二人を見て少し微笑みを浮かべてしまう。リリアがこんな風に慌てたり動揺したりする姿をあまり見ないのだけど。娘の前ではこういう姿を見せることはあるようだ。

『あら、私の顔を見てリリアがそんなに焦ったり動揺するのは初めて見るかもしれませんわね。そんな可愛い一面が有るなんて知らなかった』

私は心の中でそう呟きながらリリアンナの返答を待つ。するとリリアンナは私の手を取ったのである。すると──【真魔剣 セイントレイラロード】の刀身部分が光輝き、私の右手に集まっていくとそのまま消えていく。それと同時に、私の中に、今まで感じたことのない力の波動を感じたのである。それを確認するとリリアは、

「【聖魔剣 セラスティーア】、【真聖剣 セレスティーア】。これが今の私が持つ、【聖勇者】としての能力なんです」と言った。

それを聞いた私は思わず、【神聖竜 リーリアドナ】に目を向けると。

「今の【神聖聖龍】は私ではありません。【神聖聖竜 リーリアドナ】に融合したことで。この子の意思と力が【聖勇者 マギルリア】から継承され、新たな【聖勇者】が誕生したことで能力が変わったようですね。それにしても凄いですよ。【聖勇者】が扱える能力は全部で六種類存在しますが。それをこの子が扱えば、まさに無敵の最強になり得るでしょう。それと【聖勇者】のスキルの一つ。【慈愛の乙女 リリアンナティア】。これはあらゆる生物や物を癒し守る力を持ってます。そして【聖魔剣 セラティーナロア】は、使用者の魔法属性や魔法の攻撃力を上げる力。この力は、貴方にとってかなり有利に働くでしょう」とリリアンナを見ながら嬉しそうな笑みを見せていたのだった。

それを聞いたリリアも、「私の持つ全ての力を受け継いでくれたこの子になら安心できそうね。ありがとう、リリア、リリアの娘さん。これからよろしくお願いします。私は【神聖魔王 リリアナーテ】として頑張ります!」と言うと私達に頭を下げたのだった。

『ふぅー、なんとか一件落着ってとこなのかしら?リリアーナの時と違って色々複雑だし、疲れたー。でも──良かったわ。本当に』私はそんなことを考えていたら、リリアから突然質問を受けた。

その内容は。どうして私が、神から力を授けられたときに私の姿になっていたのかという疑問だったのである。リリアの疑問に対して私はその疑問について答えようとしたが。

そこで、私の視界が白くなっていき。意識を失ってしまったのである。どうやら私の身体がもう限界に達していたらしい。そして私の目の前には、【真魔王】となったリリアの姿が映っていたのだった。

(リリアが私の姿をしていた理由。恐らく、私の力を全て吸収するのに適した存在が、リリアだったんだろうけど。それは、リリアが自分の力を【神聖聖龍 リーリアナドナ】に渡せる唯一の存在だったからだとは思うけれど──。それだけじゃない気がしていた)と、リリアとリリアの愛娘とリリアとの対話の後の出来事を、夢現に思い出した私はそんな事を考えていたのである。そして私は、自分が何故リリアと愛娘の二人と会えたのかを思い出した。

(そうだ、リリアの願いを聞き入れていた時に、私の前に現れたあの女性──リリシアと。私の前に現れた金髪の少女──リンだ。あの二人の目的を聞く前に、リリアと話に集中していたために、聞けずじまいで。それからの記憶がない。私は、いつの間にか眠っていたのかな?)

とそこまで考えた時。

「リリア様!目が覚めたんですか!?」というリリアの声が聞こえてきたのであった。私はゆっくりと目を開けてみるとそこには──心配そうな表情で私を見つめているリリアがいたのだ。

(あれ、私どうしてこんな場所に?)と思いつつも、私を心配している様子のリリアに私は声をかけることにする。

すると私が起き上がろうとした際に。私の身体に激痛が走り抜けたのだ。すると私の身体を支えてくれたリリアは、私を優しくベッドに寝かせてくれて。そしてリリアが私の傍に来てくれていた。

リリアが私のお腹辺りに手をかざすと私の身体が温かい何かに包み込まれる感覚に陥った。その暖かさを感じていると、痛みが無くなっていくような気がしたのである。そんな事を思った瞬間、私の中にあった違和感も薄れていったのだ。そんなリリアの様子に驚きつつ。私に回復術式を施してくれていることに感動した私は。

「あ、ありがとう。おかげでだいぶ良くなってきたわ。それより──貴女はいったい誰なの?どうして私の名前を知っていたの?」私は、リリアの容姿をしているが私の名前を知っている謎の人物に向かってそう問いかけたのであった。

私の問いを聞いてリリアがその人物を警戒したが。リリアはその少女を見て驚いていたのである。

その女の子の外見の特徴は、金色の髪。そして瞳の色は碧眼であり。顔立ちも、美少女と呼ぶに相応しいほどの整っている容貌をしていたのだ。そしてその子を一言で表すのであれば、妖精という表現が一番合っているだろうと思うほど可憐な雰囲気を纏っているのである。その美しい姿に見とれてしまう程の美形だったのだ。

すると私の言葉を聞いたその子は。少し恥ずかしそうに頬を赤めながら自己紹介をしてくれたのである。

「私は、リンと申します。実はリリアさんから頼まれごとがありまして。それを伝えに来ました」と言う。そして彼女はその言葉のあと。私達が、この世界に来るまでの一連の出来事を説明してくれたのである。

その話をリリアが聞いている最中。リリィとアリシャが部屋に入ってくると、私の顔を覗き込んでくると。二人が同時にこう言って来たのである。『大丈夫なんですか?』と──私は苦笑いしながらも、

「大丈夫よ。ただの回復術式でここまで効果が出るとは思わなかったわ。流石リリアの師匠ってことなのかしら?貴女のおかげで助かったわ。本当にありがとうね」と私はそう二人に伝える。すると二人は安心したような微笑みを浮かべると。私の横で椅子に座って、私をずっと見守っていてくれることになった。そしてリンはリリアとリリアの娘に目を向けたあと。

リリアの方を向き。私達三人に向けて、真剣な口調で語り始めたのである。そして、その言葉を告げた後に。私の方に振り向くと笑顔で私に話し掛けてくる。

「さぁ、行きましょうリリア。私達は貴方の力になれます」と。その言葉に私は思わず反応してしまう。

「どういう意味?それに私達の力が今の状況に役立つとは思えないのだけど?」

そんな言葉を聞いた彼女は。私に近づき。そっと耳元で囁いて私に伝えたのである。その言葉の内容に、私は目を大きく開いて驚愕してしまった。

「私達は貴方に忠誠を誓う騎士として仕えます。ですから私をリリア様の側に置いください。私を仲間にしてください」と。

彼女の口からそんな言葉が漏れた直後。

私は自分の身に起きていた異変に気がつく。その異変というのは、リリアから受け取ったはずの膨大な力が全く流れ出さずに私の中に残り続けているということである。

『どうやら、無事に力の譲渡に成功したようですね。良かったです』リリアの優しい声が私の脳内に響いて来たのである。そして私は改めて彼女を見る。そして、リリアの姿を見てリリアが成長した姿を想像してみる。

すると私は。何故か知らないけど。彼女にそっくりな姿の女性を思い浮かべてしまったのである。そして思わず口に出たのは。

「貴女は、【神聖聖龍 リーリアドナ】なの?その姿は【神聖魔王 リリアナーテ】の姿なの?それとも【神聖竜 リーリアドナ】のリリアの姿なのかしら?それとも──私の記憶の中の【聖魔王 リリアナーテ】の姿なの?どれが本当なのかわからないんだけど。私の考えが正解だったら教えて欲しいわ」と。その私の言葉を聞いた彼女は一瞬固まったあと。急に慌て出したのである。そしてリリアはそんなリリアの背中を押し。部屋から出て行こうとする。そんな状況を見ながら私は、

『とりあえず、リリアに任せれば良いでしょうから、今は気にしない方が良いわよね』と、そんな事を考えながらリリア達の様子を伺っていた。

私がそんなことを考えているうちに、リリアの愛娘が私に声をかけて来る。私は、この子の名前を呼んでみた。するとその子は私に向かって、名前を教えてくれたのである。そして、私の力になってくれると言ったことをもう一度、私に話してくれたのだった。そしてその子が言うには、【魔勇者】になったリリアの能力は、私の【魔眼】の上位互換の能力を持っているらしいということを聞かされたのである。そしてその能力の説明を受けた後、リリスも一緒にこの世界に連れて来てくれないかという依頼をされた。私はその申し出に了承したのであった。

そして私に説明を終えた彼女が再びリリアの方を向いて、私についていくと言う意思を伝えたところ、彼女は私に振り返ってリリアに視線を送ると、「ではリリア、後はよろしくお願いしますね」と言って、消えていったのである。

そんな不思議な体験をした私は、リシアが言っていたように。私の中で眠りについたリリアの存在を思い出しながら考える。

(今のリリアの状態がどんなものなのかまでは理解できないし。それに、私の中に入っているリリアの存在が。どれだけのことが出来るのか。そんなことは私にも全然わからないのだから)とそんなことを考えつつ。私と愛娘の会話に耳を傾けていたのである。

するとそんな時に突然。部屋の扉が開きそこから一人の青年が入ってくる。すると私の愛娘のリリィは嬉しそうな声で。『あ!父上だ!』と言っていた。




そしてそんなリリィの声に私は驚いてしまう。そしてリリィがそんな声を上げるのと同時に私の愛娘が私に話しかけてくる。どうやら私の愛娘が私の事をお父さんと呼んでいたみたいである。

そんな事実を知らされると、私は思わず顔に両手を覆ってしまったのである。そして、この子に父親だと言われたのがとても嬉しいと感じてしまった私は、自然と涙が溢れてきてしまったのだ。私は、こんな感情が自分にあるとは思っていなく。少しだけ動揺してしまう。

私のその様子を見かねた私の可愛い愛娘は、心配そうに声をかけてきたのだ。

「だ、大丈夫だよリリア」と。

その一言が更に私にとって嬉しいものとなり。その一言で今まで溜まっていた疲れとか色々なモノが全て吹っ飛んでしまったのである。そう感じていると、今度は別の方向から。聞き覚えのある女性の声と男性の低い声の二つに。私の名を呼ばれたのである。私はゆっくりと声の聞こえて来た方向に顔を向けるとその二人の人物がそこにいたのだった。

「久しいのう、主様よ。まさかここでお主に会えると思っていなかったわい」と言うその言葉を聞いた時、私の頭の中に浮かんだ言葉があった。そしてそれを思わず口にしていたのである。「貴女の本当の名前は、リディアじゃないんですか?」と──するとその言葉に反応したのは私の横にいたリリアとリリィである。

そして二人はその言葉を発した私に近づいてきて、リリアが私に対してその事を尋ねると。

「はい。その通りですよリリア様」と、リリアに返事をして来たのである。

そんな事を私に問いかけるリリアに向かって、その少女は自分の事をリディアと名乗って来たのである。そのリディアの話を聞いていたリリアの瞳が大きく見開かれ、私の事を凝視してきたのであった。

*

***

私はリリアに私の事をリリと呼ぶように指示すると。私はリリをじっと見つめた。リリの瞳を見れば見るほど、私にそっくりな少女だということに驚かされる。そしてその容姿も、私の好みの美少女で。リリアとは全く違ったタイプである。しかし、私の好きなリリアの容姿に似ている部分も多くあり。リリアをもっと幼くしたらきっとこのような容姿をしているのだろうという程、私の目には映っているのである。私はリリアの師匠である。リリアの事は、誰よりも一番よく知っていると思っている。だから、そのリリアを小さくすればこうなるだろうなぁと考えていたリリアをそのまま成長させたような姿の少女がリリアの前に現れたのである。その事に私は驚きを隠しきれなかった。そのリリアによく似た美しい顔立ちをした女の子は私に語りかけて来たのだ。そのリリアにそっくりの可愛らしい唇を動かし言葉を紡いでくるのである。「貴女はリリアーナ様で間違いありませんか?」と。私は、リリアが言った言葉の意味が理解できなかったが、取り敢えず、肯定の返事だけをする。そんな私の答えを聞いて、私の目の前のリリと名乗るリリアに瓜二つの女の子はその可憐な笑顔を浮かべて、言葉を続ける。

「貴女様に、我が魔王より伝言をお伝えに来ました」と、そう言われた私は、先程のリリアとの会話を思い出したのだった。

そして、リリの話に耳を傾けながらリリの伝えたかった言葉を頭の中で反すうした。

その内容は── 私の力になりたい。

リリアが私に力を授けてくれたのと同じで。

私が魔王として復活するまで。魔王の力を私が行使できるように。魔王の力を封印して欲しいと言うことである。魔王としての力は魔王の力なのだそうだ。ただ、私が魔王として覚醒して力を使えば使うほど。その魔王の力を使いこなすことができ。私が元々持っていた力がどんどんと減っていくらしい。その減った分だけ、魔王としての力が私に還元されて強くなるらしい。魔王の力の使いすぎは危険であり。そんなことをしている間に私の力は奪われてしまう。それは避けなければいけない。魔王の力を完全に制御できる存在が、この世界に私以外にいないのであれば尚更であると。そんな説明をしてくれたのだった。

そんな説明を聞きながら、私は納得したのだった。そして私はそのリリに頼み込んだ。そして私の娘である、この子のことを頼むことにしたのであった。そんなリリに私は自分の気持ちを正直に伝えたのだ。私はこの子を手放す気など無いということを──すると、私の愛娘リリは、自分の母親であるリリアの方を振り向きながら嬉しそうな声を上げる。そして私の愛娘がリリアに向けて、嬉しそうな声を上げながら、自分の胸の内をリリアに伝え始める。すると愛娘はいきなり泣き出してしまったのである。その事に私は焦りを感じ。自分の愛娘を抱き寄せようとしたのであるが。私の腕をすり抜けてリリが私に抱きついて来たのである。そして愛娘が私にしがみつき大声で泣いている最中。リリアは静かに私達に近づいて来て、優しく微笑むと、そっと抱きしめてくれたのである。そしてその優しいリリアの温もりが伝わってきて。私は安心感を覚え。私の胸に抱かれた愛娘のことをしっかりと受け止めたのだった。

その後、落ち着いた私達の前に現れたのは【真祖】と【魔王】と【勇者】の3人であった。

【魔導姫】の【リーシャ】は私の横に座りながら私のことを見つめてくる。

【魔剣士】の【ラフィア】は私の愛娘の頭を撫でていたのであった。

そして、【真祖】である【エルミア】と、その妹である【聖勇者】の【ソフィア】は私の前に座っていたのである。そして、私達の目の前に座っていた三人は。真剣に話し合いをしていたのだ。そんな中、私と目が合うなり、三人のうちの一人である。【聖王女】の【マリアベル】が、私に向かって、言葉を投げかけてきたのである。「リリア殿。この世界を救ってくれてありがとうございました。この世界にはもう既に勇者はおりません。この世界の全ての種族を統べる王である魔族。そして、その頂点に立つ者だけが、魔王になれるのです」と、彼女は私に話してくれたのである。

そんな彼女の説明に私は驚いたのであった。しかしそんな彼女に対して私はこう質問したのだ。なぜ、彼女はそんな事を知っているのかと、そのことについて尋ねてみたのである。すると彼女は、そんな私の言葉に反応を示した。そして、私の問いかけに、答えてくれたのである。私が元居た世界で。私は、私自身の事を色々と調べているうちにそのことに気付いたのだと言う。そう、彼女は私の事が好きだと私に言ってくれたことがあった。そのことに少しだけ驚いてしまった私に、彼女は恥ずかしそうに頬を赤く染めると、その理由を教えてくれたのである。私の事を調べていくうちに好きになってしまったのだと、彼女は私に打ち明けてくれのだった。そんな彼女に私は心が揺さぶられたのである。そして私のその言葉に、嬉しそうな表情を見せてくれると、更に言葉を続けて、私は彼女がその言葉に嬉しくなってしまう。「この世界に生きる全ての者達の為に。この私と手を結べないかと私は思っています」そう言うと、私に向かって両手を差し伸べてきたのだ。私はその彼女の手を握るのと同時に、「私の名前はリリア。よろしくお願いしますね」と、私は笑顔を浮かべるとそう挨拶したのである。そして私と握手を交わした【聖王女】は、私のその言葉に対して笑顔を向けてくると「リリア殿。こちらこそ、私を受け入れて下さって本当にありがとうございます」と、そう言って私を見つめたのであった。

それからしばらくの間。私の目の前で話し合いが続いていた。そうしていた時に、私は少しだけ眠たくなってきて。いつの間にか寝てしまったのである。その事を思い出した私は慌てて周囲を確認したのだが。私の視界に映ったその場所を見て少しだけ驚くと、私はその驚きを心の内に隠し、その光景を目に焼き付けたのである。

なぜなら、私の目に飛び込んできた光景というのは。私が大好きだった、いや、今でも好きな景色。そして私が初めて目にした、リリの母親である私の大切な人がそこにいたからである。

私が好きな人は、とても綺麗な人だった。だから、私が憧れてしまった。私は、リリの母さんである人に話しかける。

「あの。貴女はもしかしたら、私よりもずっと若いんじゃないんですか?」と、私が一番疑問に思っていたことを尋ねたのだ。するとその人物はこう答えるのである。「確かに私はまだ子供を産む前の姿のままだ」と、そして更にこう続けるのである。

「でも私は貴女よりも長く生きているよ」と、その一言に私は驚きのあまり固まってしまう。

だって私は知っているから、母様より年上だというのなら。母様がまだ幼い子供の頃からの知り合いだったはずなのだ。その事に衝撃を受けている私に構わずに、その女性は私に対して言葉を続ける。「君の名前、まだ聞いていなかったね」と。私はそんな女性に名前を告げたのだった。そうするとその女性が笑ったような気がした。

そして──私は夢を見た。それは私が幼い頃の夢。私の本当の名前を思い出した時のことである。私の本当の名前が思い出せないまま過ごした日々の事を思い出した。そして──私は目覚めるのだった。

そんな私が目覚めたのは薄暗い場所だった。私の事を上から見下ろしながら見つめてきている少女がいたのだ。私のその視線は少女の目に向けられていて──少女の瞳の中に私が映し出されている。私が少女のことを見上げれば見上げる程、私の身長が縮んでいく感覚がある。不思議な気分になった。少女の容姿は美しく可愛らしい。だけど、私の目に見えていた姿は、もっと美しい少女だったのだ。私を覗き込んでいる少女の容姿は、まるで人形のようだった。その少女は美しい金色の髪をしていて、その美しい髪が地面についている。そして瞳の色はエメラルドグリーンである。その美しい少女に見惚れてしまうと、そんな私に少女が言葉を投げかけてくる。「貴女の名前を聞かせてもらえますか?」と、私はそんな少女の質問に「私の名前はリリ」と答えたのであった。すると少女は嬉しそうに微笑むと「ではリリ様」と、そう言って私の頭に触れて来て「貴女に力を授けましょう」と言った直後。私の頭の中に入って来る何かがあった。そしてそれが終わると同時に──意識を失うのであった。

私が目を覚ましたら見知らぬ場所に居て──私の周りで色々なことが起こっていたのだった。

そして私の目の前に── 私と同じ姿をした人が現れたのだ。

そして私の目の前に現れた私と同じ姿の少女は、何故か私の姿を見て悲しげな表情を浮かべたのだ。

そんな彼女は私に手を伸ばすと私に近づいてくるのだった。その私の目の前にいるのと同じ姿をした女の子が、私を抱き寄せるようにしてくると。私の耳元に向かって優しい声で囁き始める。

『大丈夫ですか? お姉さま?』

その声を聞いて私は驚いた表情で彼女を見つめる。

そんな私に優しく微笑みかけてくると。彼女は私のことを心配してくれていたのだ。

そんな私とそっくりな私とよく似た見た目のこの子は誰なんだろう。そんな事を考えていた私はその人物に向かって恐る恐る声をかけたのだ。すると、その子が私の問いかけに反応して答えてくれた。その返答はとても嬉しかったのだ。

この世界に魔王として生まれ変わり。魔王として覚醒してこの世界に舞い戻ってきた【リリア】という女性の力になる為に私は生まれたのだという事を教えてくれたのだ。私は、リリの力になりたいと心の底から願っていたのであった。

そのリリの力になるための方法として私を転生させた。私の双子の姉妹。そして私の妹である【セフィーロ】と【リーファ】の二人が私と同じような方法でリリに力を捧げることになった。そして私達三人の魂が一つになると、リリが魔王として復活するという話を聞かされた。

私達が三人が揃ったところでリリに抱き寄せられてキスをしたのであった。

そんな私の唇に触れたのは柔らかく温かいものだったのだ。その感触が伝わってくると同時に、私の中の何かが大きく変わったような感じがする。

その後、私達の前にいる私と同じ顔つきのもう一人の私の姿をした人物が。私と妹の二人にこう言ったのだ。

「私達の目的はただひとつです。魔王となった、お父様の娘である。私と、リーファちゃん。貴方と私で四人で力を合わせ魔王を倒し。世界を魔王の手から解放すること。そして世界を救うのです」

そう言ってその私の妹は、真剣な眼差しをリリに向けると言葉を続けたのであった。

私と妹。そして私達の双子の娘であり、妹でもあるリリは今現在。私達の目の前で激しい戦闘を行っていた。そう私達はこの世界に存在する魔族を、そして魔族の王にして最強の存在である魔王を倒すため、戦っていたのである。

「私に、任せて」そう言い放った私は妹に向けて魔法を放ち攻撃を仕掛けたのである。すると私の背後に妹が瞬間移動をして来たかと思うと。妹はその攻撃を避けようとするのだが間に合わないと判断して妹が剣を振るって斬撃を放ってきたのだ。私はその攻撃に対して咄嵯の判断をすると同時に自分の体を盾にすることで、私の目の前にいた魔族を守ることに成功したのである。すると私の背後で、魔族を守っていた私の妹が、私に対して言葉を紡ぐ。「お姉様。危ない」と、私はその一言を聞き届けた後に、私の事をかばってくれた。私と全く同じ姿をしているその娘の名前を呼んだのだ。その娘の名前は──「ありがとう。私の愛しい妹」「ふふっ。そう呼んでもらえるの嬉しい」そう言葉を交わしている間にも。リリと私の偽物との戦闘が続いていたのである。そうやって激しい戦闘をしていると私の身体には傷が増えていっている。でもそれは仕方がないことなのだ。だって、この私と全く同じ姿形をし、しかも私と同等の魔力を持つ私を倒さないと、私はこのままリリを救えないまま死ぬ事になるのだ。そして私が死ぬと、この世界の均衡が崩れ、この世界が崩壊する。そんなことになってしまえば、私をこの世界に送り込んだ張本人である私にそっくりな。その女性。

つまりこの世界に私を生み出した女神である【アリシアス】に責任を取ってもらう必要がある。だから、私は絶対にここで倒れてはいけないのだ。

そう思い私は必死になっていたのである。そうしていた私と、私をかばいながら、そして私の偽物を相手しながら戦う妹の二人はお互いの事を心配しながらも、お互いに信頼を寄せ合い連携を取りながら、魔王軍の四天王と呼ばれる者達と戦っていた。そんな私の視界の隅で戦い続けている私の妹であるセフィを見つめるリリの姿が見えた。

私はそんなリリの表情を見つめながら思う。

リリの事を心配そうな目をしながら見ている。その表情からはリリのことが大好きだという気持ちが見え隠れしていたのだ。私はその事に気付いたとき、思わず微笑んでしまうと、「ありがとう。私をかばう事が出来てよかったわね。もう大丈夫だから、安心しなさい」と言って、妹に向かって笑いかけるのである。その私の笑顔を見た妹は一瞬だが動きを止めてしまう。

しかしすぐに動きを再開し私と一緒に戦おうとしたのだった。

「私が守る」

「私が貴女を守ってあげる」

そんな風にお互いの健闘をたたえ合った私達は目の前にいる、私に瓜二つの外見と、その身に宿す膨大な力と。それに比例した、圧倒的なまでの魔力と戦闘能力を誇る敵に対して二人で協力し立ち向かうのであった。

そうやって私達は、私と、リリの偽物。

リリと私の偽物が放つ攻撃を防いでいたのであった。そうやって私達は協力して戦いを続けていたのだけれど、流石に限界が近いのを感じ始めていた。私達の力は確実に削がれていっており、そのことに気が付いていた私は妹に言うのである。

「ねえ、あのさ。リリのこと好きなんだね」そう言葉をかけたら。妹のセフィーロの動きに少し迷いが生じたのだ。それを見逃さなかった私は、その隙をついて私の目の前に立っていたセフィーロの腹部に蹴りを入れて吹っ飛ばすと。そのまま私の目の前に立つ私に斬りかかって来た。その一撃を受け止めると。私の妹であるその女性はこう言ったのである。「うん」

そして私は「じゃあさ、私が勝ったら私に譲ってくれる?」と言葉をかけてみる。そして私の言葉を聞いた、その私と瓜二つな私と同じ顔をしたその少女は、嬉しそうに頬を緩ませると。嬉しそうに返事をしてくれたのだ。

「うん。分かった。その代わりお姉さまが負けたらお姉さまを私にちょうだい?」と、私に向かって言って来ると、私と私に似た容姿の女性がお互いに構えたのだ。そして同時に駆け出してお互いが交差すると、すれ違いざまに私とその偽物の女は剣を交えた。そして私達の戦いが始まろうとしていた。

そうすると突然リリが、魔王モードになり私の前に姿を現したかと思った次の瞬間。リリの体の中から眩い光が現れて、それが魔王リリアに変身して見せたのだ。そうして現れた魔王リリア。その姿は、黒を基調としていながら赤の装飾が施されている鎧を身につけており、手に持つは漆黒の禍々しい形状をした片手剣。そしてその瞳は、まるで血に染まったような赤い色をしており、その双眼に映るもの全てを呪うかの様な、邪悪な雰囲気を纏わせていたのである。

その姿を見ているだけで私は背筋がゾッとした。その見た目は美しい。美しいはずなのに──何故か私の体は、恐怖に支配されてしまいそうになるのだ。まるで私に助けを求めるような、そして私のことを助けて欲しいという感情が沸き起こってくるのである。

だけどそんなリリを見ていて私は気が付いたのだ。リリがこの世界で魔王として蘇るまで、どれだけ長い時を要したのか。リリの口から、私達姉妹の事は聞いていたが。

その話を聞いて私は正直、信じ切れていなかった。しかしこうしてリリとリリを魔王にした元凶の魔王が対峙してる光景を見ると。

私の妹である【セフィーロ】はリリのことを魔王として尊敬している様子だし、魔王リリアも妹の事を慕っていた。それはリリからも妹の事を大切に想っていると私は感じていたのである。そのリリが、私の妹である、リリィの事を魔王として敬うのであれば、きっと妹もリリのことを認めて敬意を持って接してくれるだろうと思っていた。そう思ったのだ。そうして、リリは妹に語り掛ける。

「貴方はどうしてこんな酷いことをしているの? 貴方はこの世界を救ってくれようとした勇者様の子孫なのよ? 貴方なら分かるでしょ? 貴方の祖先。勇者と呼ばれた貴方が愛し合っていた、貴方の大切なお母様を貴方のお父様から奪った魔王を、そして魔王が支配している世界を救いたいと言う貴方が、私達姉妹と、私の可愛い娘である、このセフィローとリリーの三人の力を奪い取って、私を魔王として甦らせたのでしょ? 違うのですか?」

リリの問いかけに魔王リリィは「はっははははははははは」と、狂ったように高笑いをすると言ったのだった。

「ああ。魔王様だなんて呼ばれているのが腹立たしくて、私達が愛した人。そして、私達に家族と幸せな時間を与えてくれた恩人であり、私の大切なお友達の【リリア】を魔王として復活させただけですよ」

魔王は、リリィの事をリリと、そして魔王として復活させられた、そのリリアを魔王と呼ぶと、私の妹である。私の事を奪った張本人であるその女性に向かってこう言い放つのであった。

私はそのリリの様子を見ていて確信を持った。

そう。リリは間違いなく私の妹であり、魔王であり、魔王リリスの娘。

私の娘である魔王である【リーシャナ】を、私から奪い取り、私の娘の事を、リリではなく、リーシャナと呼んで、魔王であるリーシャナを魔王として扱い。リーシャナを魔王にする為に、自分の力を奪い取った。そして魔王にする事で、自分より強い力を得た。私の娘を魔王にしたのだ。

私は怒りに我を忘れそうになる。そして、私は魔王リリスに斬りかかったのであった。私は魔王に斬撃を飛ばす。しかし私の怒りのこもった斬撃を魔王リリィが、その手に持った黒い刃を持つ剣で受け止めると弾き返してきたのだ。私は弾かれた自分の斬撃によって吹き飛ばされてしまった。

私は痛みを感じるとすぐに立ち上がるのだが。その時すでに、私の偽物と戦闘していた妹が、私の偽物を吹き飛ばし、私の元へ駆けつけてきたのである。

「お姉ちゃん。怪我は大丈夫?」

妹が私の事を案じてくれていることを感じた私は「うん。ありがと」と妹に感謝の言葉を伝えて私は妹のことを見るのだった。そうすると私の目の前には、私に瓜二つの容姿を持つ、魔王である私が立っていたのだ。そんな私の姿をしたリリに私は言うのである。

「ねえ。私が勝ったらさっき約束したよね。この子、貰うからね」と言って私の目の前に現れた私の姿形の、魔王の偽物を睨みつけた。その魔王は微笑むと、私に向かって言葉を返してくるのである。

「ふふふふふふふ。いいでしょう。貴女が勝ったのならば、貴女にこの【リーシア】をあげましょう」と言って微笑んだのだ。

そうすると妹の姿が突然消え失せたかと思うと私の前に姿を現したのである。そうして、私の事を見つめていた妹と私は、お互いの事を抱き締め合いお互いの存在を確かめると、「お待たせ」とお互いに笑顔で言うとお互いを放す。

「さて。これで邪魔者は居なくなった。あとは二人きりだよ」と私は言う。その言葉を聞いたリリアが微笑むと、リリに向かって声をかけたのである。

「もうすぐ決着がつく。だから少し待っていて欲しい」そう言った後に、私の目の前に立っている私の事をした私のことを見ながら、こう口にしたのだった。

「お前が私のことを騙していたことは分かっている」

「あら、そう。じゃあ私に勝てるつもりなのね。今の貴女は、私の方が格上だって理解できないのかな?」

リリの言葉を受けた魔王は笑みを浮かべると言った。

そうして私のことを見据えるとこう続けたのである。「そう。今や、貴女と私の間に存在する実力差が分からないみたいだ。でもまあいい。そんなことは些細なことだものね。私達姉妹は、あの方に寵愛を受けていると言うのに、そんな事も分からないんだね。本当に愚かな姉妹達」と、そう言って魔王が指を鳴らすと。突如として周囲に魔獣が現れる。そうして、私の目の前にも私の偽物が出現する。しかしそれは、魔王の力を取り込み強化された。

つまりは私達と同等の強さを手に入れた存在なのである。私は目の前にいる私と同じような姿をした敵に対して警戒をしながら攻撃を開始した。そしてその私の行動を見て、目の前に居るもう一人の私は、楽しそうな表情をした後で私に向けて剣を構える。

そしてお互いが動き出そうとした次の瞬間に、二人の私の体を貫くような光の槍が出現したのだ。そのことに驚いていた私の事を気にせずに、私達のことを襲ったその槍を放った人物が口を開いたのである。

「何をするのです。貴方は、私とこの方との決闘をお望みではなかったのですか?」と、そう言いながら私達の目の前に、その少女が現れたのである。その人物は、美しい銀髪の少女だった。しかしその美しい銀髪を後ろで縛っており。顔付きが大人びているため、綺麗なお姉さんのような印象があった。しかし見た目とは裏腹に彼女はまだ幼い少女でもあるのである。そんな彼女は見た目の年齢に見合わない妖艶な雰囲気を持っていた。そんな彼女が着ているのは銀色の軽鎧なのだが彼女の体に似合っている。そう思えるほど、彼女にその鎧はよく馴染んでいた。しかしそれは当然のことだろう。その銀色の軽鎧は彼女のために作られたオーダーメイドの一品物の特注品だったからである。それは私の妹の為に作られた特別な鎧だったのだ。その事を知ったとき。私も妹と一緒に、魔王様にその鎧を作ってもらった経験があるのだ。だからこそ私もその鎧に、特別の感情を抱いている。そうやって現れた少女を見た時。魔王である私は思い出したのである。それは私がリリィと出会ったばかりの頃の話である。その時にリリィによく似た少女が突然現れて、私達の前に姿を見せた。

その時に、私はその少女を見てリリィにとてもよく似ていると感じたのだ。その事を魔王に伝えると、リリはその話を否定はしなかった。そうやって私達は、私達の姉妹の事で意気投合をして仲良くなったのだ。そのことを思い出し、そのリリィに似た彼女こそ。リリの姉でこの世界に存在していたという、この世界を破滅に導いた魔王であるのだと分かったのである。私は目の前に佇む彼女を改めて見た。

すると私の前でその魔王が私の事を見据えると言ったのである。

その魔王は私にそっくりで、しかしどこか私と違った。

「私は、リリと魔王リリアの妹です」そう言ったのだ。そしてその魔王が身に着けている軽装備を私は見て驚く。そう。その装備はリリィが纏っていた物に、とても良く似ていたのである。それはまるで魔王の格好をそのまま模しているようでいて、細部が違うのだが。似ているのである。その姿を見て、私は確信した。やはり目の前に立つのはこの世界で私達に危害を加えた人物なのだと言うことを確信したのである。

私が目の前に居て、そして私の姿をした者を睨みつけているのに気付いたリリシアとリリィ。それに私のことを心配してくれていたらしい、リリシアの双子の妹である、リリィの姿を見つけた私は。リリィがそこに居ることに安心をすると同時に疑問に思うことがある。なぜなら私の娘であるリリが私のことをリリィと呼んでいるのだ。それなのに私がリリと呼んだことでリリシアが不思議に思わないわけがなかったのである。

しかし私の事を心配して駆けつけてくれたらしいリリに、その事を問いかけるのは気が引けた。なので私は、とりあえずリリィに大丈夫だと言い。そして、私の前に立ち塞がった。魔王の配下であるリリがリリィを庇っているようにも見える光景を見て、私は違和感を抱く。そして、私のことを無視して、姉妹だけで話をしているのである。私としてはこの二人を放って置く訳にはいかないので、なんとかしたいと思った。だが私ではどうしようもないとも感じてしまうのである。そうしてしばらく様子を見ていたが何も変化がなかったので私は声をかけたのだった。「何?もしかして私の娘に話しかけない方がいいって言うことなのかな?」と、私がそう言うと、魔王は私のことを見るのだが私はそれを無視することにした。私のことを無視すると言うことがどういうことかを分からせてあげる必要がある。そう思いながら私が攻撃をしようとしたら妹達が間に入ってきたのだ。そんな様子を眺めつつ。私の妹である、魔竜王の魔王は私に声をかけてきたのである。「ねえ、私と戦ってくれるんでしょう。なら、貴女の娘の事は今は置いておきましょう」

魔王リリはリリシアの事が気になっているはずなのだが。なぜかそんなそぶりを見せなかったのである。私はそれがどうしても気になったのだ。

だからといって私の娘の事をこのまま見過ごすことも出来ないので、私は自分の気持ちに整理をつけることにする。

そうするとリリは「仕方がないわね。でも私は、すぐに決着がつくなんて言ってないよ」と言って笑ったのである。その笑顔が可愛いと思ってしまった自分に嫌気が差したのだが。それでも私はそんなことを思ったのだった。そんな笑顔に惑わされている場合ではないと頭を切り替えると私は自分の武器を構えたのだった。すると妹である魔人が近づいてきたのである。そして彼女は私を抱きしめてくると妹は私にこう言ったのだった。「お姉ちゃんが戦おうとしている相手はとても強敵なんだから。お姉ちゃんが本気を出して戦ったとしてもきっと勝てないだろうからね。私がサポートして上げるから一緒に頑張ろう?」と妹は言ったのだ。妹に言われた言葉で私の頭の中で一つの言葉が引っ掛かった。妹である魔王から「お姉ちゃんは私のものだから誰にも渡さないんだから!」と言われた時のことを。あの時と同じ感覚がまた訪れたのだ。

その時に魔王の配下の者達が一斉に動き出した。そして私の周りに、妹の姿を模した魔人達が現れていたのだった。その事に対して妹が私を守るために魔人を倒し始めたのだ。そうすると魔王が妹の行動を止めるような行動をしてきたのだ。その行動の意味がわからない私。そして魔王の言葉を素直に聞いた妹を見て、魔王に対して警戒をし始める。

その事に魔王が気づいたのかどうかは分からないが私に対して何かを言ってきたのである。その言葉を私はしっかりと聞き届けることが出来なかったが。私はその言葉を耳にして。私と娘の間に横やりを入れられているような気がしてしまったのだ。

だからと言って私は目の前に現れた私そっくりの人物を無視することが出来ない。そう思って私は私のことを見るとこう言ったのだった。「魔王は、この私だ」

私のその言葉を聞いた魔王は笑みを浮かべた。

魔王の言葉を聞いた魔王は私とリリィを見比べるとこう言ったのである。「リリとリリアが私の邪魔をしているのは分かっている。邪魔するならば容赦はしない」

その言葉を聞いて、私の中に焦りが生じた。なぜならば私の言葉が魔王に届かないと理解できたからである。私の言葉を聞いたはずの私の姿の魔王が、私のことを無視してしまっているからだ。そして魔王は続けて口を開くと、私の事を指さしながら、魔竜の魔王に向けてこう言い放ったのだった。

「魔王は、私だって言ってあげてるんだけど」と。

魔王の発言を聞き、リリシアは自分の胸を押さえつける。魔王に指摘され。リリシアは心が揺れ動いてしまっていたのだ。魔王は、そんな妹の様子に気づくと魔王に向けてこんな事を口にしていた。「お前も馬鹿よね。私に言われれば、簡単に騙せると思っているの?そんなことじゃ私に勝てっこ無いって教えてあげる。そうしないと、本当に私の計画が壊れちゃうじゃない。だから今ここでお前を始末しなきゃいけなくなるでしょ?でも残念。今回は見逃してあげる。でも私に挑んでくるのなら覚悟しな。この世界を滅ぼす前に貴方達のことは絶対に殺してあげるから」と、魔王はリリシアにそう告げたのだ。そうしてからリリは、リリシアに視線を向けると魔王に向かって叫ぶように言う。

「魔王、いい加減に私のことを無視してんじゃねぇぞ!お前のせいでリリが悲しんでるじゃないか!!私は、お前を許さない。許せないんだよ。お前の存在が私の心を揺るがすから。だから、お前を絶対に倒す。私は魔王リリを倒す勇者になってやる。お前を倒して私達は元の世界に帰るんだ。そしてみんなで幸せになる」と、リリは叫んだのだ。そんな叫び声をあげた魔王を私は驚いた表情をしながら見ている事しかできなかった。そう、魔王が、そんなことをするわけがないと信じ切っていたからである。しかし魔王リリのその態度で私はあることに気がついたのだ。そう、魔王は自分が本物だと偽物の私に見せようとしていると──そして、そうやって私とリリを引き離そうと企んでいることを、私は気づいていたのである。そうでなければ私の娘が、私に魔王だと名乗らないはずであると、私は思ったのだ。

そのことに気づいた時。私は魔王リリに対して強い憤りを感じ始めていたのである。私の大切な家族である、魔王である娘と、そして娘の愛する人との時間を奪う行為だと思えた。その事から魔王に対する憎悪を胸に秘める。私は、自分の事よりも。私の事を大事にしてくれる娘と時間を奪われていることに苛立っていたのであった。そしてそのことから、私は自分自身に冷静さを取り戻させてくれた魔王に感謝をしたのである。

私は、魔王にこう話しかけることにした。

「ありがとう。私のことを気にしてくれているようで嬉しかったよ。魔王さん。私のことなんかどうなってもいい。だけど、この世界に居る人達の事を私は守りたいと思う。私の大事な人を奪った魔王であるあなたは倒すべき敵なのかもしれない。でもね。あなたの力も借りたいの。魔王の力を借りたらダメなのかしら?」と、私は魔王リリに話しかけたのである。そう話しかけてきた私の姿を見て、魔王リリが言う。「へぇ、私のことを怖がってはいないみたいね。私にそんなことを言う人間なんているはずがないと思ってた。それにリリをここまで成長させた存在は貴女だったのか。これは予想外だわ。まさかそんなに若いとは思ってなかったもの。リリ、成長したのね」と魔王は私達を見ながら言う。

その魔王の姿を見た私とリリィはお互いに見合って微笑みあうと「えへっ」と言う言葉を発しながら魔王の方に目を向けたのだ。魔王は私達の事を愛おしそうに見つめてから口を開いた。

魔王が私達に優しい眼差しを送ってきた後。彼女はリリとリリィを交互に見て、そしてこう呟いたのである。

魔王は、そんな私を見て、「面白いわね。貴女のことがますます欲しくなっちゃったわ。貴女と、貴女の妹を我がものにしたくなったの。私と一緒に来てくれる?そして二人で私のことを支えて欲しいわ」と言い。

そして私とリリィを抱きしめてくると、魔王は私に囁くようにしてこう口にしたのだった。

「大丈夫よ。私についてきなさい。そうすればきっと幸せな未来が待っているから」と。

その言葉を聞いた私は少しばかり戸惑ってしまう。私には、自分の子供がいるのだ。しかも自分の妻も一緒だ。それなのに魔王に付いて行くのはどうかと考えてしまう。私は魔王の言っている意味がわからなくて困っていると。私の様子を魔王は観察していたのだ。その事に気づいた私は、もしかして私が悩んでる事に気づかれたのではないかと思い。どうにか誤魔化そうとするのだが魔王の質問攻めにあってしまい何も言えなくなってしまったのである。そして私は魔王リリから、どうしてこんなことをしたのかという理由を聞かされたのだ。その理由というのが私とリリシアの二人が私のことを見て羨ましいとずっと思っていたらしい。それでいて私がリリシアを育ててあげた事を知って魔王としての力を与えても良いと思っていたそうなのだ。でも、私という存在がいたので躊躇してしまい。魔王になることを決心出来なかったと言う話だったのである。

その事を聞いて私は魔王に同情をしてしまう。そうすると私の中に魔王である彼女の事を仲間にしてあげようと思ったのだ。そうする事で私の願いである家族との時間が増えるからである。だからと言って、その事が魔王の策略だと思ってしまえば私は彼女を信じ切ることが出来ないだろうから。その事を気をつけようと心に誓うことにしたのだった。そしてその事に魔王が気付いたのか、それともこの事を話したかっただけかは分からないが魔王が私に向けて、笑顔を見せて私にこう告げて来たのである。

「貴女に会えて良かった。リリのこともそう。そして何より──貴女の事を気に入ってしまったわ。私のことはこれからお母さんって呼んでくれて構わないから」

そう言われた私は困惑を隠せなかった。いきなり私のことをお義母さんと呼ばせようとしていたのだ。その様子を目の当たりにしたリリィは、私に対して何かを言う事はなかったが、私と同様に戸惑ってしまったようである。そうして私の反応を見て楽しんでいる魔王の様子を見ると、本当に彼女は魔竜王と呼ばれている魔王本人なのだろうと私は確信をしたのだ。そうしなければ魔王が、このような言動をするとは到底思えなかったからだ。

ただ、その時に、魔王に対して疑問が生じてしまったのである。なぜ彼女はリリのことをリリアと呼び、妹のリリシアをリリアと呼ぶような呼び方をしていたのだろうかと── 僕は魔竜王に向かってこう叫ぶように言ったのだった。「僕達は、お前に勝ち目はないんだよ」

僕の発言を聞き、目の前に現れた魔王は自分の事を呼び止めようとしていると判断する。

だからこそ、目の前に現れた私によく似た人物に向けて私は言う。

「お前に私は止められないよ。お前じゃ私を止めることが出来ない」と。そう言うと私は、私の邪魔をする者達を排除する為に攻撃を開始しようとしたのだ。そして、私と私の娘たちとの間に生まれた空間に存在する亀裂を消す為に、私は魔剣を取り出したのだ。だが魔竜王の攻撃により、私は魔剣を奪われ、地面に落とされてしまったのである。私は急いで体勢を整えるべく地面から飛び上がるが既に遅かったのであった。なぜなら魔竜の魔王は、すでに、自分の力を開放させていたからである。その瞬間、魔竜王の周りに存在していた空間そのものが砕け始めたのだ。その事に恐怖を感じながら私は逃げようとしたのだが、もう遅い事を知る。なぜなら私に向かって放たれた魔剣による攻撃をもろに受けてしまったからだ。私は、そんな攻撃を受けてしまった事で魔竜魔王によって、この場所ごと消されそうになった。だが私はそんな簡単にやられるわけがない。なぜなら私にはまだこの場に残るために出来る事があったからだ。それは私の娘がここに来るのを待つ事である。そうする事で私の娘と、もう一人の娘の命を助ける事ができるからだ。だから、まだ諦める訳にはいかなかった。

私は、自分の存在を、この世界で残しているのだ。だから私が存在している限りは、必ずあの子達がここに来ると確信している。

それに、私の事を気に入っていると言った魔王の言葉は、嘘ではなかった。私は彼女が、私とリリを自分の母親のように思って接してくれていることを知っているのだ。だから私は、そんな魔王の為に私の存在を賭けてでも時間を作る必要があるのだと思っている。

そして私の存在は、娘が私を救い出してくれると信じる事にした。

その証拠に私の娘は現れる。その事は分かっている。だって、この世界の理を私自身が体験したのだから──その事を思い出した私は、すぐに自分の力で結界を展開する。私に残されている時間はそんなに多くはないだろうと分かっていたが。それでも私は、娘とリリィが来るまでの間。自分が生きている時間を有効活用しようと思ったのだ。その行動の結果。私は生き残ることに成功したのである。しかし私の存在が消えるまでの残り僅かな時間にリリとリリィは現れてくれたのだ。その事に私は感謝をすると同時に心が温かくなっていくのを感じていたのだった。

そんな風に思ってしまっていた私の元へと、二人の娘と一人の女性が駆け寄ってきたのである。その事から私達はお互いに見合って、微笑むのであった。そして三人の女性が、魔王に語りかけてきたのだった。

私達四人は、お互いにお互いのことを知っていて面識のある仲である。だから魔王と対面してもお互いに警戒することなく普通に話をすることが出来たのであった。そうする事でお互いに安心することができたのだ。そして私は、そんな私達に話しかけてきた魔王を見据える。その魔王は、リリィと同じような服を着ていたのだ。ただリリアの方はリリィと違って、黒い髪を腰のあたりまで伸ばしている姿は、どこか幼さが感じられて、可愛らしい印象を私は抱いた。そんな彼女に対して私はリリを成長させた存在なのであろうと考えていたのである。

私の娘であるリリィも綺麗ではあるが、それ以上にリリアという娘も美人だった。私はリリィの母親が美しい容姿を持つ人なので、当然と言えばそうなのかもしれないが。魔王という特殊な立場を持っているはずの魔王の子供がこんなにも美形だとは思わなかったのだった。その事に驚いた私は、魔王という種族の美しさの秘密が、私とリリとリリアの母親が違うことにあるのではないかと勘ぐったのである。そうでなければ説明がつかないほどの美貌を、魔王と、そして二人の姉妹はその身に宿していたのだ。

私とリリィとリリアはお互いに微笑み合う。そうしてから魔王と向き合い話し合いをすることになった。まず最初に魔王に対して私達家族は、今の状況を説明すると、リリアはリリアティアという存在に転生をしていて元人間であることを伝えたのだった。それからリリィが自分の正体について話し始めると、その事を聞いていたリリアが驚いている様子を私達は見ることになる。

その事に驚きながらも彼女は冷静になって質問をした。どうして自分達がここに来たのかという理由を私達は伝えるとリリとリリィとリリが私と魔王である自分の力を使い、魔竜王に戦いを挑んだ事を告げる。そして、そのおかげで魔王の力の一部を奪い取ることに成功して、私と私の家族は無事だったと伝え、その後に私の娘が助けに来なければ私とリリィは魔王の力で完全に消滅させられてしまっていたことを正直に告げたのだ。そして魔王は私の娘とリリと、リリに付き添っている魔族の少女と三人で、これから戦うことになるので、リリに私から魔剣を渡すことにしたのである。私は、私の持つ全ての力を、私の愛刀の一本の魔剣に注ぐとリリに向かって投げつける。それを受け取ったリリは、自分の愛剣と共に私から受け継いだ能力も使えるようになり嬉しそうにしている。その姿を見て私は微笑んでしまった。私が持っているのと同じ魔剣と、私が使う技を使えて喜んでくれるなんて嬉しい事だと感じてしまったのだ。そして私に視線を向けたリリに対して、私は優しくリリの事を抱きしめる。その事に感謝をしたリリが「ママありがとう」と言ってくれたことが本当に私は嬉しかった。

その事で私は涙を零してしまった。こんな時に、私の事を「ママ」と呼んでくれて。私は幸せを感じずにはいられなかったのだ。だが、その時だ。リリの顔つきが変わる。それはリリとリリアの表情が変わったからである。

「どうしたのリリ。まさか何かあったの」私は不安になりリリに聞くと、リリアが代わりに答えてくれる。「お姉様。私の予想通りみたいですよ。さっきまで戦っていた相手がこちらに向かってきます」その言葉で、私と私の家族は構えるが。その前に魔竜王が現れてしまう。そして私達に向かって、先ほど私から奪ったと思われる膨大な魔力を解き放つと、そのまま魔竜王は魔獣を生み出し、私とリリとリリアに向かって攻撃を始めてきたのである。

だがその攻撃をリリは魔剣を使って相殺してくれた。リリアのほうも私から受け取った能力を上手く使いこなしており。リリの手助けをしなくても良くなったのだ。だがそのことで魔竜王がリリィとリリに攻撃を加える。だがその事をリリィが私から譲り受けた能力で回避をすると。その瞬間にリリィの魔剣が輝きを増したのである。その事に魔王とリリアは驚愕している様子を見せていた。そう、リリィは私の持っていた魔剣と魔剣の力を開放することに成功したのであった。その事によってリリィが魔剣の力を解放したことに魔王は気づいたのである。その事に魔王はすぐに対応するが。リリアは、その事を事前に把握しており、リリアが先に攻撃を仕掛けたのだ。その事に対して魔王はリリアの動きに感嘆したようである。そしてリリアに対してリリが加勢して戦いが始まったのである。

私の娘と、魔王の二人が手を組み、更に私の娘たちが私から引き継いだ力で魔竜王を追い詰めていく姿を、私は誇らしく思う。だが、それと同時に、私に残された時間は僅かしかなかった。その事に私は恐怖を感じると同時に寂しさを感じていたのだ。その事に私は恐怖を感じたままの状態で、それでも私は必死に私の娘である二人の戦いを見守るのであった。

私は自分の娘の戦いをじっと見つめていた。リリィはリリアの攻撃を防ぎながら魔剣の能力を使い反撃を行うと、それに対処したリリアだったが、リリィの攻撃によって体勢を大きく崩されてしまう。

だがそんな事で怯むリリィではない。リリィはその瞬間に魔王である姉の弱点に気づく。それは魔王が自分自身で制御していない部分があったからだ。だからその事を確認した私は、その事を利用しようと動き出したのだ。その行動は魔王にとっても予想外だったようだ。

そんなリリィの行動を私は微笑ましく感じながら応援をする。そんな私と、私の家族の前でリリィは、リリアの胸ぐらを掴むと、そのまま地面にリリアを押し倒そうとする。

私はそれを見届けるとすぐに行動を開始した。リリィがリリアの事を倒したら終わりになってしまうからだ。私はそんな事にさせるつもりはない。だから私は魔王に向けて走り出すと魔竜化した右腕を出現させると──その腕を思いっきり魔王に叩きつけたのだ。その衝撃は魔王だけでなく。私の家族達と私の家族を守っていたリリィや、リリに付き従っている少女の体にも伝わり。全員がその場から離れる事に成功する。

ただ、魔王だけはその場に残ったが、リリアの胸に埋め込んでいた、その魔核を取り出す事は成功したのだ。これで魔王の体を完全に崩壊させることができる。私はそんなことを考えて笑みを浮かべた。

そんな魔王の姿を見ながら私は自分の体が光を帯びている事に気がついてしまう。それが何を意味するのか。私は分かっていたのだ。そして私の力が消え始めていることも分かった。そしてそんな私の横にはリリとリリィと二人の魔王であるリリアがいたのである。私は彼女たちと顔を合わせると微笑み合った。もうすぐ別れが来ようとしている。その事が私に実感を与えてくれたのだ。そして私達は最後の時間を過ごすのである。そう思っていた。

そんな時に私の横にいたリリアは突然。自分の妹であるリリの事を自分の方に引き寄せたのだ。その事に驚くリリとリリィだった。でも、そんな私達の気持ちを他所に魔王はリリアに語りかけたのである。その声には怒りと悲しみが入り混じっており。その事で魔王はリリアに問いかけたのである。その質問の内容とは「お前は、何故、自分の身を守る事をせずに、自分の妹の命を守ろうとした」と言うものだったのだ。その言葉に魔王の怒りと悲しみを私達は全て理解してしまう。なぜならば、魔王の大切な人を私達が傷つけてしまったことを私達は自覚できたからである。その事についてリリアが説明しようとするが、魔王はそれを聞くことはなかった。そして魔王はそのまま魔王の力で生み出した黒い球体の中に自ら入り込んだのである。それを見たリリアとリリィとリリアは困惑していた。

そんな三人に私は魔王が何をしたかったのかを説明し始める。その話を聞いて三人は、驚き戸惑っていたが、その時には魔王がリリアから奪った魔剣を、自らの心臓を突き刺したのである。そのことに私は魔王の考えが分かり私は泣きそうになる。だが、それよりも先に、魔王は私の家族と私の家族の方を向くと「ありがとう」と言ってきたのだ。そして最後に魔王は自分の名前を告げた後で、魔王は魔王としての全ての力を失う。そして魔王だったものはその場で倒れた。だが私と、もう一人の魔王だったリリアは倒れないのを気にしていた。私は自分の身に何かが起きていることはわかっていたのだが。私に何かが起こったわけではなかったのだ。ただ私ともう一人の魔王のリリアはその場に崩れ落ちるように倒れたのである。私は自分の体に起きていたことを理解したので、私は意識を失っているもう一人の魔王の体を揺すった。そしてその行為に対して、私はもう一人の魔王を抱きしめたのだ。そうする事で私は安心することができたのである。

それから少しの間。私は自分の体の中で、もう一人の魔王の魂が自分の体から抜けていくのを感じ取りながらも。もう一人の魔王に私と私の家族の無事を、そしてもう一人の魔王の妹であるリリのことをお願いすると私は眠りにつくことになる。

それから私が目覚めた時に私の目に入ってきたのは、私の娘であるリリィの心配そうな表情だった。私は自分の娘の顔を眺めていると、リリィが何かを伝えようとして、言葉を出してきた。その言葉は、私達に対して感謝をしてくれていたのだ。だが、私はそれを否定する。私は娘のためにやったのではなくて、私達家族のために行ったのだと言い張る。その事で私の心は軽くなるのを感じた。そのおかげで、私が今まで抱え込んできたものを吐き出したのだ。その結果。私に安らぎが訪れることになった。そして私は娘に笑顔を見せながら抱きついたのである。そして私はもう一人の自分の事を思い出したのだ。そして私は自分の胸元を見ると私の服は赤く染まっていたのである。そうして私の体は私の血で真っ赤に染まっている事に気づいたのだ。そんな私の事を心配して娘と付き添っていた魔族の少女が私に回復魔法を施してくれていた。

その事に私は嬉しく思い、魔族の少女にお礼を言うと。彼女は、涙を流していた。だがその表情はとても嬉しそうであるのが見て取れた。その後で魔族の少女は、自分の名前を名乗ってくれたのである。その名前はリーサというらしい。その少女と話をしている間にも、魔族は次々と駆けつけてきてくれる。

私はそんな彼らの優しさに感謝しながら。自分の娘と一緒になって私の娘を慰めていたのだ。そしてそんな優しい時間が過ぎるのと同時に私の体も、段々と冷たくなっていった。そんな私に私は残されたわずかな時間で、魔王から受け継いだ記憶を整理しながら思い出すことにする。私は、これからどうするかを考えた。そして、私の体の中にあるリリアの体から、リリアに話しかけたのだ。そのことで、リリアが驚いていたが。私から伝えられた内容を伝えると、リリアも了承してくれる。私はその事にお礼を言いながら、魔王がどうしてリリアに殺された時。リリアの身体を使って蘇らなかったのかを説明したのである。それは私にも分からないことだったが、恐らく、魔王は、リリアに自分の魔剣と、そして魔剣に封じ込められていたリリアの力を封印して、この世界に送り出したのだろうと思うと伝えたのである。その言葉でリリアは納得してくれたようで私との会話を終えたのだ。

そして私と、私の家族が魔獣人から襲撃を受けているのが目に入ったのだ。その瞬間に、私は、私の娘たちを守るために戦うことにした。そしてリリィと共に、私達は魔人と戦う事になったのだ。その戦闘中にリリィの口から、もう一人の魔王である。リリアが既に亡くなっていることを聞いたのである。その事に関しては悲しかった。私にとってはリリィの母親でもあったからだ。そんなリリアの死を知りながらも私は目の前の戦いに集中するのであった。

私の攻撃によってリリィの父親であり魔王であったリリアの魔核が破壊されてしまい。その事を確認した私は勝利を確信するのと同時に私の体が薄くなり始めた事に気がついたのである。そんな私にリリィは私の名前を叫びながら駆け寄ってくる。そんな私の姿を見ていた魔王の付き人の女性達やリリィの家族は涙を流していたのだ。そんな彼らに私は「私が死んだ後は娘をよろしく頼む」と頼み込んだのである。

そんな私の言葉を聞いていたのかリリィに抱きかかえられたまま目を閉じているリリアは、その瞳を開けると。涙を流すリリィの頬に手を触れると──私を見て、私だけに分かる合図を送ってきてくれたのである。それはリリィの事を守ってくれ。私にそう言ってくれたような気がしたのだ。そんなリリアの様子を確認した後で、リリアは自分の胸に埋め込んでいたリリアが使っていた、あのリリアの心臓を取り出したのが見えた。それをリリィに差し出したのだ。リリィは不思議そうな顔でリリアの事を見つめていたが、リリアはそんなリリィに、心臓を渡して欲しいと言いながらリリィの手を取り心臓を持たせると。私と目が合う。そして私にしか見えないように微笑みを浮かべると──そのまま自分の心臓に突き刺したのである。その事でリリアは完全に動かなくなった。

そんな光景を私は目の当たりにしながらも、私自身が、その行動を取らなければいけないと。私の体の中にいるもう一人の魔王に私は命令をしようとした。しかし私の体はすでに私の命令に従わなかったのである。それでも私は最後の力でリリィを魔王から助けようとしたのだ。その事で私の体に激痛が走るが、私の体に宿っていたもう一人の魔王であるリリアの力が完全に失われて、リリアの体の中にいたリリアの存在が消えていくのを感じ取ったのである。その事により、もう一人の魔王であるリリアの存在が失われてしまうと。同時に、私の意識までも薄れていったのである。私はこのままだと死ぬことになるかもしれないが。私にはもう、自分の命を諦めるという選択肢はなくなっていたのだ。だから私は、最後の最後で自分の体が動く限りに足掻く事にしたのである。そんな私の視界には魔王のリリィが私を助けようとしている姿が目に映り込んだのだ。そんなリリィの行動を無駄にしてはいけないと、そう思った私は自分の体の痛みに耐えながらも、自分の娘を守る為に魔王であるリリィの前に躍り出る。そんな私の行動を見たリリィが慌てて止めようとしてくれたのだが、そんな私の思いは、魔王のリリィに伝わることはなく。私の体を、魔王であるリリアから譲り受けた魔剣を使い。私の体を突き刺したのだ。そんな魔王の攻撃により私は苦痛に悶える事になる。だが私は、そんな魔王の行動を気にせずに、もう一人の魔王の魂の欠片を自分の娘の体内に取り込みながら、私は意識を失ったのである。

それから私は自分の命の火を燃やし尽くそうと必死になっていた。なぜなら自分の大切な存在である。私の子供と、そしてもう一人の魔王を命を賭けてまで守ろうとしてくれていたリリアの思いを、私のわがままに、そして私自身の都合で潰すことなどできなかったのである。そんな私に自分の命を大事にして欲しいという魔王の言葉が届くことはなかった。なぜなら魔王が私を殺そうとしていたからである。

私は自分が魔王であるリリアの娘である。リュカを傷つけたことに、激しい怒りを抱いていたのだ。それに私は自分自身の命を大切にしようとしていなかったのだ。そんな私に向かってリリアは、私の代わりに魔王となって欲しいと言い残していたのだ。そんなリリアから頼まれて、私が魔王になることを断れるわけがなかった。私は、魔王になりたかったわけではないが。リリアの気持ちは、素直に嬉しいと思ったのだ。私は、その事をリリアに伝えると、リリアが私の為にと魔王として私を守ってくれていたことを知ることができた。そんなリリアを私は絶対に守り通したいと思い。私を庇って死んだ魔王リリアの願いを、私に変わって魔王になることを決意していたのだ。だが、その事で私は自分の身を滅ぼす結果になったのである。

私は魔王となった自分の体を動かして、私を殺しに来ていた魔王である。リリアのことを私は許すことができなかった。魔王に対して私の憎しみが募っていった。魔王はリリィを操っていた。その事実はわかっていたので、私は魔王に対して激しい憎悪を抱いたのである。その事に、魔王に対して、私はリリアを殺された恨みもあるため。どうしても許すことができない。

魔王に対する私の攻撃は激しくなっていった。そして魔王は私がリリィを操っていたことに勘づいて反撃してきたので。私の攻撃が魔王に当たっていく。そんな中、魔王はリリアの魔核を私の体の中から取り出すことに成功したのだ。そして私はその魔核を壊されないように魔王に渡そうとしたのであるが。私の力では渡す事ができない。そのため、魔王は魔剣の能力を私に使うように指示を出したのだ。その事を知った私は魔王から魔剣を受け取る。それと同時に魔剣の能力を使う。

その事に驚いたのは魔王だけではなく、リリィも同じだった。リリアはそんな二人に、私達が魔人の王になったことを伝えてくれたのである。その言葉を聞いてリリィは泣いてしまったのだ。リリィが泣きながらリリアと別れたくないと言うのはわかる気がした。

私はその時に魔人という存在のことを思い出し。魔王にその説明をしてもらった。だがそこでリリィの母親が私達の前に現れたのであった。だがそんな彼女の姿を見るなり。魔王が私を守ろうと動き出したのである。そして私はその事に気づかず、もう一人の私に襲いかかっていたのである。だがもう一人の私はその事に気づくと、自分の武器を使って私の攻撃を防ぎ。さらに攻撃を仕掛けてきたのだ。

もう一人の私は、私の攻撃を難なく避けていき。私はそんなもう一人の私を何とか倒して自分の中に戻していたのである。

私はその事をきっかけにもう一人の私を封印することに成功する。私はもう一人の私の能力が封印された事に安堵しながら。私もリリィの母親と同じでリリアに、私の事を託してほしいとお願いをしたのだ。リリィはその事を聞いた後に涙を流しながら私を抱きしめてくれる。私はそんなリリィの行為に感謝しながら、リリィを優しく抱き締め返したのである。そのあと私はリリアの心臓を使って、魔王に封印されているはずの、魔族の心臓を蘇らせる方法を教えていたのである。

私はその方法を魔王に伝えて。その通りにするようにと伝えていたのだ。その事でリリアから教えてもらった心臓を蘇らせた魔王であったが。心臓がうまく機能していない様子だったのだ。その事から、魔族である心臓の持ち主は魔王であってリリアではないことが分かってきたのである。

私はその事を理解した瞬間。自分の体内からもう一人の魔王の存在を感じ取れたのだ。そして私とリリアはお互いの存在を確認し合うように会話を始めたのである。その内容は私にも分からなかったのだが、私は魔王の意識の中に入ってリリアと話し合っていたのである。そして魔王の体から魔核を取り出した後で。リリアは魔王に自分の心臓を差し出したのであった。それを見た魔王はリリアが何を考えているのかを理解する。その事に魔王が気づいたのを見て私はリリアの心臓を魔王に託したのである。魔王はそれを握りしめると自分の胸に埋め込む。そして魔王は自分の胸を押さえて苦しむのである。その様子を私は見守っていると、もう一人の魔王の気配が完全に消えた事を感じると同時に、私の体からもう一人の私の魔力の波長を感じ取れるようになっていたのである。

それから魔王は私にもう一人の私のことを頼んできたので。私はその事を引き受けて。リリアに言われた通りリリアが大切にしていたリリィと、もう一人の私の子供である、私の愛娘である『ディア』の事を守りながら過ごすことにする。そして私は自分の魔力が回復するまで眠りにつくことになるのである。

それからしばらくして、リリアの娘のリリィが自分の命を賭けてまで助けようとしていた少年。魔王である私の娘にそっくりな顔つきの、私の息子。リリィが、自分の娘と一緒に助けた少年。リュークは無事に意識を取り戻すのを確認することができた。そんな彼はリリィに、自分のことよりも、リュカルナさんのところへ急いで行くべきだと言われてしまうのである。私も彼の行動に納得してしまった。そんな私の様子を見ていたリリィとリリアが慌てて私を説得しようとしてくれたのだが。私はその事に全く耳を傾けなかったのである。

私はリリィの父親がどんな男なのか興味があった。だから私は彼に近づき話しかけてみる。すると私の姿を確認したその男が、私の姿を見て驚く。それはそうだ。なぜならリリィの父親でありこの国の元王子である彼が私の正体を知らなかったからだ。そんな彼と少し話してみて私は彼に興味を抱くのである。そして私はリリィが助けたリュークの事を調べることにしたのである。その事で私はある結論に達していた。だから私はリリアが目覚めるまでの間だけ、私に時間を与えてもらう事にしたのだ。

そして私は私自身がリリィに告げていない事があるので。それをリリィとリリアに教える事にしたのである。リリアにリリィの母親のことや、リュシアのことを。私はリリィや、魔王リリアと同じような関係だと話したのである。

そんな私はリリアとリリィを連れて、私が魔王になった経緯と。魔王と魔人の関係について、私がリリアから聞いていた事を、リリアとリリィに話すことにしたのである。そんな私にリリアはリリィをよろしく頼みますと言ってくれる。

そんな二人の言葉を聞きながら私は自分の体に戻っていったのである。その事を見届けてくれた魔王であるリリアは。私の事を娘のように思っていてくれていることが嬉しかった。だがリリアは私と違って自分の命を大事にしてくれるといいと、リリィを大事にしてあげてくださいねと言われたのである。その事に関して私は何も答える事ができなかった。

なぜなら魔王がどうして魔王になってしまったかはわからなかったからである。そんな魔王になった理由を、私はリリィに聞けなかったが、リリィには本当の父親について伝えることにしたのだ。私は私を生んでくれた親のことを何も知らないので、私はリリィを私の実の子だと思い込んでいたのである。だから魔王が自分を捨てなければ、こんな状況にはなっていないだろうとリリィに言ってみたが、魔王が悪い訳ではないと言う。私はそれでも私が生まれたときの状況を知りたいので、リュシアに聞いた方がいいという事になったのである。

リリィは私に魔王になって欲しいとは言わないで欲しいというのだ。そんな彼女を見ながら、私はリュリアの願いを叶えたいと心から思った。そして魔王は私が魔人にしている事を知っている。だからこそ私に魔王にならないで欲しいと言ったのだ。そして魔王の望みが叶わないなら自分が死ぬしかないという。その話を聞いた時、私は何も言い返すことができなかった。

私はその事にショックを受けて、リリィから目を離し俯いていたのである。だが、私はリリアの気持ちが痛いほど分かった。私だって愛する人が殺されたと知ったらその犯人を殺しに行きたいと考えるほどに怒っているのだ。その事に気がついた私は魔王の言葉を思い出した。リリィの為に魔王になると決めたのだから、リリィの望んでいる魔王になるべく努力しようとそう決心するのであった。そして私は私に自分の正体を明かし、魔王になるための特訓をして欲しいという。魔王であるリリアに対して。魔王になる事を決めたのだ。そうすれば魔王になれるとそう考えたのだ。私は私の中にある魔素を使って魔王になろうと思ったのである。その事を知った魔王が驚いていたのだが、リリアに魔王の体を動かす許可を求めた後で。リリアの体に私の魔核を融合させて。リリィの心臓が私の体に戻るのを待って、リリアの体を動かせるようになるのを待ったのだ。そして魔王がリリアを動かし始めた瞬間に私は魔王の体を奪うことに成功し、魔王となったのだ。

私が私でなくなる前に。私の事を止めようとしたリリィが、私を殺そうとした魔王の手を掴み、私を守ろうとしたのは覚えているが、その後の事は私は記憶していなかった。

私は私の意識が戻ると同時に。私の娘に殺されたという事実を知る事になる。

魔王はリリアの魔眼の力によって私達を操り、魔人の心臓を奪おうとした。だが魔竜王の娘であるリュカが私の前に現れたことで状況は変わる。彼女は魔竜王の心臓を私達に差し出してきたのだ。それを受け取った私達はリリィの父親の魔王が、魔族として復活して魔王の館から出て行くのであった。その事をリュカが見送ると、すぐに自分の息子を抱き抱えて安全な場所へと連れて行ったのだ。その事で魔王は私に怒りを覚えたらしく。私を倒そうと襲ってくる。そんな魔王と戦いながら、魔王がなぜ魔人を作ったのか、魔人が生まれるきっかけなどを聞かされることになった。その事に私はまだ信じられないでいたのだ。

魔王である私に襲いかかってきた魔王。私はそんな彼に私の娘と私を殺した恨みで向かってくるのかと聞く。すると、私の問いかけに対し魔王は何も答えずに攻撃を仕掛けてきたのだ。そんな魔王の動きを見て私は魔王の行動を理解してしまう。そして魔王と戦うために、魔王がリリィの母親と魔王の関係を説明してくる。その話を聞かなければならないと思いながら魔王と戦っていたが、私とリリィの母親が同じ人間だとは、にわかに信じがたかったのである。そしてその事実を受け入れる事にした私は、私の心臓を差し出して魔族の心臓を蘇らせて、魔族の心臓に入れ替える事を魔王に伝えた。私の心臓と魔族の心臓を取り込むことに成功した魔王は、魔族の心臓に体を馴染ませるために眠る必要があると言う。そして魔族の心臓を埋め込まれて目覚めたばかりの私は魔王をリリアと名付けて自分の娘として育てる事を決意したのだ。

リリィがリュークをリュカの元へ送ろうとしている姿を見た時に私は魔王の記憶を思い出していた。だがその時の私は、まだ自分の力を制御することが出来ずにいたのだ。その為私は、リリィが私からリュアを引き剥がそうとする行動に出るとは思いもよらず、私の体の中からリュシアとリリィの子供でリュカルナの愛娘でもある、私の大切な娘である『ディア』が引き剥がされた事に、自分の感情を制御できずに激怒してしまったのである。

私はそのことで、自分が誰に何をしたのか思い出すことができた。そしてその事に絶望感を感じながら、ディアの心臓を取り出した。その心臓を見て私の中にもう一人の魔王の意識がある事に気がつき。その事に驚愕する。その事を知ってか、リリィは私の体から離れていったのである。

私はそんな彼女を見つめた後で、私の心臓と娘の心臓を交換してリリアを復活させるのであった。そうして復活した私は魔王城に戻り、私に攻撃してくる魔王とリュカの戦いを止めるように命令する。魔王は私が意識を取り戻したことを確認し、リリィの父親の魔王に私の事を頼まれたと。魔王は娘を守る存在でなければいけないから守ると宣言した。だがその言葉を魔王自身が否定するように、リリィを殺すと言い出した。その事で魔王が私に、何故リリィを殺さねばならないかを聞いてきたのである。その理由を聞く限り私はその話の内容に驚き。私はその事について確認をすることにしたのだ。

私の中で眠りについた私の魂。リリィが私の命を救い、魔王が守ってくれた。その事に私は深い感謝をするのである。だからこそ魔王とリリアには幸せになって欲しかった。私は魔王に、リュアは死んだのではなく、私とリリアが殺した事を伝え。その真実を知った魔王が私の元に現れて謝罪するのだった。そんな魔王と、魔王の娘リリアとのやりとりを見聞きしながら私は私の中の魔王について、その気持ちを少しだけ理解したのであった。そんな魔王を私は許してあげることにしたのである。そして魔王は私の為にリリアの父親を捜しにいくといって私と別れるのであった。そんな魔王が去り際にリリアとリリィが私の実の子でないのではと話していたが、私と魔王の間にできた子は確かにいるのだが、それが本当に私達の子なのかが分からなかった。そして私の中にはもう一つの魔王がいるが。その子とリリアが私の産んだ子に間違いはないと魔王に言うと、私は私の娘に会いたいからと魔王と別れたのである。

そしてリリィは、リュークの所へ戻ろうと言ってきたのである。その事について魔王は賛成してくれたが、私の中に潜む魔王は、リリアの心臓を持つ私の命を狙ってくることを伝えたのだ。そして私は魔王城に戻ってきた経緯を伝えるが、その事で私の中のもう一人の魔王の存在にも気づいたようだ。

私はリリアが自分の事をリリアだと言ってくれる事がありがたくて、思わず涙してしまう。そんな私はリリィの前で涙を流してしまったことに恥ずかしくて顔を隠してしまう。だが、リリィには泣いている姿を見られても良いと思うようになったのだ。私は自分が犯した罪を告白して謝ったが、それでも許してくれるのであった。そんな彼女が心強くて、そして可愛かったのを覚えている。そしてリリアと一緒にリュークの元に行こうとしたが、リリアを一人にする訳にはいかず。私は私を目覚めさせるためにリリアの力を借りる必要があると伝える。そんな私は、自分が死にかけていたことに驚くとともに、私にリリィが私の娘である事を教えるのであった。そして私は、私の中に存在しているもう一人の魔王の事を告げると、リリアは私と魔王を交互に見て、魔王の気持ちを考えろと言う。その言葉を聞いた魔王は、自分のやってしまった事を認めたくないという。そんな魔王の言葉を聞き、リリアはリリアはリリィを愛してるからこそ。リリィの望みはなんでも叶えたいし、叶えなければいけないと私に言い放ったのだ。その事について魔王は何も言わずにリリアの願いを聞いていたのである。私はリリィの言葉に救われた。魔王はそんな私を見てリリィにありがとうと言うのだった。そして私とリリアは再びリュアに会う為に動き出すのである。

魔王は私が魔王城を出るときに、リリアに何かあったらリリィを助けるよう私に頼んできたのだ。その事が嬉しくて私はリリィにお礼を言ってキスをしたのであるが、リリィに嫌がられてしまい落ち込んでしまった。私は魔王城を出て、リュークに会えると思いながらも、私はリリアにリュークの場所を知らないのか聞いてみたのだ。そして知らないというので私はリリアをリュークに預けて魔王と共に魔人を倒しに行くことにする。その事を決めた魔王に対して私は反対したのだが、魔人になった魔王妃を倒さないわけにはいかないから倒す事を決めたのだという。そう決めた魔王だったが、魔王は魔人になりかけた時に記憶を失ったらしく、私に倒された後に魔人の体に魔核を入れられて蘇ったらしい。そして魔人の体の使い方を覚えた時に自分の記憶がない事に気付き。私に対して攻撃を始めたのだ。そんな状況でも私達の娘を頼むと言われた時、この人はやはり私達の父親なのだと改めて認識したのだ。

そんな会話をしていると、リリィは突然苦しみだす。リリィは意識を失いその場に倒れ込むのである。そんなリリィを抱き抱えるとリリィは自分の娘だというのである。その事に驚きつつも私は自分の娘のリリアが心配で仕方なかった。そんな私に、リュアに娘が二人いて。リュシアの双子の姉だと教えられたのである。そんなリリアが目を覚ました事で、私は安堵するが。魔王の記憶とリリィの娘が、私の娘である事を聞かされ困惑していたのだ。そんな私に追い打ちをかけるかのように、リリアがリュークは死んだという。私はその事を信じられずにいると、リュカが私の前に現れたのである。

そして彼は私の愛娘を殺したと言ったのだ。私はそれを聞いて目の前が真っ暗になるのを感じたのである。そんな彼に対し、私の娘は死んでなどいないと否定した。

魔王である彼が嘘をつくとは思えなかったのである。

私達は魔族の王を倒すために動くことにした。魔族の王である私に勝てるのは魔竜王だけであるからだ。

私はリリィを守るために、魔王との戦いに身を投じたのだ。

「おい! 起きろ!」

(誰?)

「お前さん誰って、俺は俺だよ」

僕の名前は???(名前が思い出せない)年齢は20代前半のようだが僕は今どういう状況に置かれているのかも思いだせない。

(貴方は一体誰なんですか?)

そう問いかけたつもりだったのだが、僕の耳には何も聞こえてこなかったのである。だが僕の問いかけに相手は答えてくれたようなので僕は質問を変えて問いかけてみる事にする。どうやら相手は、自分と僕の意識だけが共有されていて体は別々になっているという事を伝えてくるのである。その事を聞いた時に自分の体を見ようと視線を動かそうとしたのだが自分の意思では首すら動かす事もできなかったのである。

(ここはどこなの?)

「それは俺も知りてぇんだよ。だがよ、ここがどこかよりも大事なことがあるんじゃねぇか?」

確かに自分の名前も年齢も家族も仕事も思い出せないのだけれども、それよりももっと重要な事があったのかさえ思い出せなかったのである。だから僕はその男の言葉に同意したのであった。

(教えてください!)

その男は僕の言葉に反応してくれず。代わりに僕の中で何かが流れ込んでくる感じがして、流れてきた映像が頭の中に流れ込んできたのだった。そうして僕は自分が何者かを知った。そう、僕は転生者であった。ただ普通の人とは少し違う。普通は前世で死亡した時点で輪廻の輪に組み込まれるのだが、神が気まぐれで転生させてくれるのだ。但し条件があって『勇者』とか特別な職業ではないのに、その世界に何らかの影響をもたらす者に限定されるという。だが、今回はそんなに悪い条件では無いみたいで安心した。その事に安堵しつつも自分が転生してきた場所を見て驚いた。そこには大きな川が流れておりその川の畔で焚き火をして暖を取っている人達が見えたからである。

(あの~すみませんがあそこに見える人々は一体何者でどんな状況なのか説明してくれますか?)

僕の中では既に先ほどから会話が成立しているという認識なので相手が話している内容を理解できる。しかし現実では話しているはずの相手の言葉が全くと言って良い程聞き取れないのだ。その事を彼に聞くと自分はもうすぐ死ぬと伝えてきたのである。そして彼の死因を教えられた僕は驚愕するのである。彼は、この異世界に来る前に自殺をしていたのだった。

そしてそんな彼を、その死を止められずにいた自分に絶望してしまった。だがその事については彼も同じであり気にしないでくれと言っていた。だが、このまま見殺しにする訳にも行かないと、何とか助けたいと懇願すると、僕の願いを聞き入れてもらえて、神様の加護として力をくれると約束してくれたのである。

そして、まずは彼の願い通り蘇生をお願いしてみたのだ。その願いを聞き届けてもらい。彼の体を綺麗にしてあげたのである。そして、これから起こるであろう出来事についても教えてもらった。彼は、元の世界に戻るには魂だけの状態では戻れない為、魂が消滅する寸前に魂の回収をするために召喚されるというのであった。つまり肉体が無い状態の僕では元の世界に帰れないというのであった。そうこう話をしていると、僕達の元に、3人の騎士が駆け寄ってきたのである。どうやら彼らが僕達がこの異世界に呼ばれた本当の目的である。

魔獣の王を倒しに行くという事になっていたらしいのだ。僕もその戦いに参加する事になるのだが、どうやら僕達のパーティーメンバーに回復役が必要との事らしく。たまたま僕に力を与えた人物がその役目に相応しいと判断したからと、その人は言うのだった。その言葉を聞き僕は、その人に任せることにしたのだ。その人は僕にお礼を言い、僕を仲間の元へ連れて行こうとするが。どうやら僕はその人の力に耐えられなかったようでその場で気絶した。だがそのおかげで僕の意識は薄れていく中、最後に彼が言った言葉を耳に入れることが出来たのだ。

「君の運命は必ず私が変えてみせる。待っていてくれ、君を必ず救い出して見せる。それまで生きていてほしい、私が愛するリリア」

その声を最後に僕の中の全ての感覚が消えてしまった。

◆ リュナが目を開けると、そこはいつもの神殿の部屋ではなく見知らぬ天井が広がっていたのであった。リュナは周りを確認しようとしたが、手足を動かすことが出来ない事に気が付くのであった。

(そうだ私、あの男の人に負けて、それで私どうなったんだろう?)

リュナは自分の置かれた状況を確認しょうとしたのだが何もわからないのであった。

リュナが困っていると部屋の扉が開き1人の少女が入ってくる。その子は金髪の長い髪をした美しい少女であった。そしてその髪と同じ金色に輝く双眼に吸い込まれそうになるのを感じながら、リュナは少女の瞳に見惚れてしまっていた。

「あらっ! お目覚めになられましたね」

そう言ってその女の子は嬉しそうな笑顔を向けてくるのである。そしてその言葉を聞いたリュナはようやく自分の置かれている状況を思い出したのである。リュナは少女を問いただしたのだが、彼女は微笑みを浮かべて自分の名前を告げてきた。

そして彼女がこの国の姫であると自己紹介し。彼女の名前はディアーナと名乗ったのである。そして自分の事を覚えてないと聞いた彼女に、リュナは申し訳ない気持ちになってしまった。その事を申しわけなく思い謝ろうとしたリュナだったが言葉を発する事が出来なかったのである。

(どうして!? ちゃんとお話ししようと頑張ってるのに)

そんな焦った表情をしているリュナに優しい顔を向けた王女はその小さな手を伸ばしてリュナの手を握ってきたのだ。そしてリュナの手を自分の頬に当てると涙を流したのである。そして優しく頭を撫でてくれたのである。(この子、泣いているのになんて優しそうな顔をして笑うんだろうか)

そう思うとリュナは心が痛くなり、なんとか慰めてあげようと思ったが。体は動かないままである。そこで仕方なく自分の思いを精一杯伝えるために握ってくれた手に力を入れ握り返す。するとそれに反応したように、今度は両手で包むようにして、さらに力強く握りしめてくれる。その事が何だかすごく嬉しく感じてしまい、思わず泣きそうになってくるのを我慢したのである。そんな事をしていると突然部屋の入り口が勢いよく開くと。そこにいた者達に一斉に視線を浴びてしまうリュナだったのだ。

その者たちとはリュナの事を覗き見ていた神官長と騎士団団長と聖騎士と呼ばれる者たちだったのである。リュナはそんな三人を見た瞬間に、何故か恐怖を感じていた。その三人の視線に宿っていたものは憎悪の感情が込められていたのだ。

その視線に射抜かれただけで心臓が掴まれたような息苦しさを感じたリュナはすぐに理解できたのである。自分の命を狙うつもりだと──

(逃げなきゃ)そう思った時はすでに遅かった。なぜなら部屋に入ってきた男たちにより拘束されてしまったからだ。だがそんな事をされているというのにも関わらずリュナは落ち着いていて不思議だとは思わなかったのである。

「リリィ様から離れろ!」そう叫ぶと同時に騎士の男が、その大剣で斬りかかるが、あっけなくあしらわれたのだった。

だがその隙を突いて一人の女性が飛び込んできた。その女性は白銀の鎧に赤い髪のショートカットで切れ目の鋭い目をした女性であった。だがその目は今悲しさに揺れていたのである。そして女性の振るう一撃は、あっさり避けられ、逆に強烈な拳を腹部に受けた事でその場に倒れ込んでしまうのである。その事を見て慌てて駆け寄る他の二人であったが、既にその二人の動きは止まっておりそのまま崩れ落ちる様に床に倒れたのである。そんな様子を見た騎士団団長が叫んだのだ。

その声に反応して振り返り見た光景は信じられなかったのである。

そこに居たのは黒いローブを身に纏い、手に水晶を持った銀髪の男であった。しかしその男の姿を見て驚きもしなかった。なぜなら男の正体を知っているからである。

「貴様は何者なのだ?」

その問いかけに対し男は無言で見つめ返していただけだったのだがその答えはすぐに分かる事になった。

それは突然現れた黒き龍の吐くブレスで、リュナ達の乗ってきた船を吹き飛ばしたのである。だがそれだけでは済まされなかったのである。

リュカと魔王の会話を盗み聞きした者は誰なのか。それを知る為にも僕は彼らについて調べる事にしたのだった。僕は彼らの後を追いかけるのだが、その時、彼らはすでに森の中に入っており僕一人だけ森の中で迷ってしまったのである。

だけど僕は諦めずに進む事をやめず進み続けた。そして何とか森を抜けることに成功したのであった。ただ森から出ることができた時には日が落ち始めていた。その事に少し焦ったが僕はまだ走り続けるのであった。

そして何とか目的地の砦まで辿り着くことが出来たのだ。

僕はその建物の入口に立つと見張り番をしていた兵に話しかけようとしたのだが、僕はいきなり背後から攻撃されたのだ。その攻撃を辛うじて避けると僕を攻撃した奴に向かって構える。そしてそいつの顔を見ると、そこには見知った人物が立っていたのである。そう、その人物とは、勇者パーティーのメンバーで賢者と呼ばれていた人物でリュカの兄であったのだ。

リュカの兄の実力がどれほどのものなのか、リュカルナには分からないのだが。それでもリュカルナは自分よりも格上の相手だということを察したのだ。その事を確認したところでリュカルナはこの建物の中に入り込む事にしたのであった。そして中に侵入を果たしたリュカルナはとりあえずこの建物にどんな者が住んでいるのかを確認する為。探索を始めたのだ。そして最初にたどり着いた部屋はどうやら食事場だったらしく、そこでは大量の食べ物が机に並べられていて。数人の人達が集まって酒を飲みながら騒いでいたのである。そんな彼等が酒を飲んだ後の行動は決まっていたのである。

酔っぱらって、誰かのせいにするのだ。それがたとえどんな理不尽なことであっても、自分のストレスの捌け口となるものが目の前にあると。彼等の行動を止める事が出来るものはいないのである。そして、リュカの不幸はそれだけではなく、ここで起きた出来事によって更なる不運が降りかかってしまったのであった。

食事をして満足していたリュナの前に突然扉が開かれたと思った次の瞬間には大きな衝撃と共に何かがリュナの方へと飛んできて。そしてその事に反応することが出来なかったリュナは吹き飛ばされてしまったのである。壁にぶつかったリュナはその壁を壊してしまったようで更に瓦礫に埋もれていく。

その音を聞いて駆けつけてきた兵士はリュナを見つけるなり怒鳴りつける。そしてリュナの腕を掴むと無理矢理立たせると引きずるように引っ張っていったのだ。

その事に驚いたのは僕であった。

まさかこんな簡単に侵入を許してしまうなんて思っていもなかった。そしてこの事態を引き起こした人物がこの先に居るという事を知って。僕の中で緊張が増していく。そしてリュカルナが辿り着いた先では複数の人が殴り合っていた。その様子はまさに乱闘という言葉が良く当てはまるような状態だったのだ。そんな光景を目の当たりにしたリュカルナは、その場から離れる事を決める。

僕はこのまま此処にいた場合、自分もその騒動に巻き込まれる恐れがあると判断したからだ。その為にもまずは自分の安全を第一優先する事を決めたリュカルナはこの場所を後にしようとしたのだ。

だがその選択をした時点で既に遅かったようである。

なぜなら僕の方に向かってくる存在がいる事に気がついたからであった。しかもその気配の主は明らかに強い力を発しており、明らかにこの場で戦いを行う気満々だったのだ。そんな相手に僕のとれる選択肢はあまり残されていないのである。だからといって逃げれば確実に僕はその強敵に殺される事になるであろう。そんな状況に立たされた僕の心は絶望に染まっていた。

しかしそんな中、僕が取った行動は意外なものであった。その僕の取った行動とはリュカルナから逃げることだったのだ。

「あれっ!?」と、僕は声を上げて困惑していた。

(何故だ!?)リュカルナがそう思った理由は簡単である。リュカルナが逃げ出した事により、リュカルナを捕まえるために動いていた者達は標的を失ってしまったのである。そうなると彼等は別の者に狙いを定めているのだが。その相手というのはリュカではなくリュカを捕らえていた兵士だったのだ。兵士達は突如として始まった乱闘に巻き込まれて次々と倒されていく。そしてその様子をリュカは隠れて見ていたのだが、この砦を警備する者達が次々と減っていくことに不安を覚えた。だが、リュナの不安はさらに大きくなってしまうのである。リュナは、そんな時に、リュナを殴った者の事を思い出すのである。

(あの時リュカさんのお兄ちゃんはなんで私を攻撃してきたのだろう?)

リュナはそんなことを考えながら必死に考えたのだ。

(確か私がここに入ってきた時の状況的に。多分お兄ちゃんもここに入ったんだと思う。でもお兄ちゃんの目的はここには無かった? ならどうして私は捕まったんだろうか)

だがそこで、思考を止めてしまった。その理由が、考える事が馬鹿らしくなったからだ。今の状況がすでに理解不能であり、これ以上考え事をするのは無意味だと思ったからである。なので今はここから無事に出る事を最優先事項にすることにしたのである。そしてそんな事を考えると同時に疑問が生じるのである。それはなぜ自分は生きているのかという疑問だった。

(リュナ様を助けようと飛び出したけど。間に合わずにリュナ様の所に敵が行ってしまったのは分かった。その前に俺に向かって攻撃してきたのは一体なんだというのだろうか? まるでこちらの動きを予想したかのようなタイミングだったが。もしそんな事が出来る者が存在するのならばその人は化け物か化物であるという事になるのでは)とそこで一つの答えにたどり着くことができた。

「そうか、魔王の差し金か! くそ、やはりあいつがこの国の王に!」そう叫ぶと同時に拳を握りしめるリュカルナは、悔しさを噛み締めて拳を強く握る。そして、すぐにその拳を開くと。その手を握りしめて決意を固めるのである。

(リュカが魔王を倒すと決めたように。俺も必ず奴を倒してやる)

「リュナ様。どうかそれまでご辛抱を!」と呟くとリュナの後を追っていくのであった。

一方その頃リュカは、何とか逃げ出そうと暴れ回っていた。そして遂に逃げ出せる機会が訪れたのである。だがそれはあまりにも突然の事だったので。リュカ自身理解するまで時間が必要だったのである。

それは何故かと言うと、急に現れた銀髪の美青年の一言により全てがひっくり返ってしまったからだった。その言葉を聞いた兵士達はすぐに行動を開始した。するとあっという間に逃げようとしていた者達全員を取り囲んでしまい逃げ道がなくなったのである。

それを理解した者達が騒ぎ出した事でその青年が姿を現した。その事に対して僕は思わず驚いてしまったのだ。だって、その人の髪の色と顔つきが。リュカそっくりの見た目をしていたのだ。だがその人物は僕のよく知っている人ではなかった。そして、その人物を見た僕はその人物の正体に気づくと唖然としてしまったのであった。

リュカ達がその銀髪の人物に出会った頃、砦の内部を歩いている一人の女がいた。それは先程までリュカルナと一緒に居た女だったのだ。その事について、リュカルナは、その女性の後を着いて行っているとやがて地下へと続く階段を降りることになったのである。その事から彼女は恐らく何かしらの情報を知っているのではないかと思われた。だからこそ僕は彼女から情報を得るべく行動しているのである。だがその道中、僕は何度も罠を作動させて、危うく死にかけたのだ。

そしてようやく目的地にたどり着いたのかその部屋の中に入るのである。

そしてそこにはリュナと同じような姿の女性が椅子に座っていたのだ。その女性は、リュカルナの姿を確認してから嬉しそうに声をかけてくる。その事に警戒しながら近づいてきたリュカルナに対して女性は笑みを浮かべると自己紹介をしてくれたのである。

リュカルナはそんな相手の態度を不気味に感じながらも、一応こちらも名乗り返すと女性から話を振ってきたのである。その話の内容はとても興味深いものであり、僕が求めている内容であった。そして僕にとってその話は有益なものになると判断したのだ。そしてリュナを開放するように要求をしたが拒否されてしまった。だから今度は僕に何かして欲しい事はないか? という内容で交渉を始めると、あっさり了承されたので早速実行する事にしたのである。そしてリュカが要求したのはリリアーヌとリュカの関係を知りたいという事であったのだ。それを聞いて少し不思議そうにした女性であったが素直に従う事にしたようで質問してくると。それに答える形で僕も彼女に聞きたい事があると伝える。そして彼女の口から語られるその内容を聞き驚く事になった。何故ならば彼女が言うにはリリィは既に亡くなってしまったはずの人物なのだから。

その事に驚きつつも納得する部分もあったのである。何故なら目の前にいるこの女性にはどこかリュナに似ている面影があるからだ。その事を伝えると目の前の女は嬉しそうな顔をしていた。

だがそんな表情をしている彼女を見ているとある違和感を抱く。そしてその事を確かめる為に僕は、彼女達を拘束するのだった。

そしてリュカルナは部屋を出るなりある事を考えていた。その事とはこれからどう行動するべきかという問題である。そんな悩みを頭に浮かべながらリュカルナは歩いていたが、そこで後ろから声を掛けられたのだ。振り返るとそこに居たのはリュカルナと同じ様な鎧を身に付けた兵士が立っているのが目に入り。そしてリュカルナは話しかけられると身構えた。

しかし相手の兵士の様子からリュカルナが考えていたような相手ではない事に気づいたのである。

その事に安堵して、相手を見るとリュカの姿がそこにあったのだ。僕はリュカルナの方を見て驚いた。そしてリュカルナも同じだったようで、僕と視線があった瞬間驚いた顔をしていたのである。

それから僕達は話し合いを始めたのだ。その内容は僕が何故こんな場所にいるのかという事と。何故この場所に来たのかを聞かれたのでその事に答えた。その説明を聞いたリュカルナは僕の話を聞いて驚いたような様子を見せると真剣な顔になり僕の方に視線を向ける。そしてリュカルナはいきなり謝りだすと、その事については自分の責任だと言い始めたのだ。そんな風に言われる理由が全く分からなかった僕は、その謝罪を受け入れるわけにはいかないと考えたのである。なので、リュカルナを庇うような発言を繰り返す事になってしまった。その結果リュカルナは、僕の言葉を受け入れて、その事で感謝すると同時に僕に頼みごとをしてきたのだ。それはリリィの事を教えて欲しいという依頼である。

その事を頼まれて僕は困惑すると共に、なぜこの人がリュナのお姉さんであるリュシアさんの名前を出すのだろうと疑問を感じたのである。僕はリュカルナにその理由を聞こうとしたが、リュカルナは先に僕の事を話しだしてしまった。

そんなリュカルナの話は衝撃的なものであったが。僕はリュシアさんの事を知らないので、僕は、リュカルナから聞くリュシアの印象と僕の知っている彼女と違う所が無いかどうか確かめた。するとその違いがないという事がわかった。だから僕はリュカルナに対して、リュカという人物がリュカルナの弟であり、その事が原因で国を追われる事になったのだと告げるのである。その事を伝えた時、リュカの顔は悲しみに彩られていた。そして僕はそんなリュカになんて言えばいいのかわからなくなってしまったのである。

だが、そんな時にリュカの様子がおかしくなったのだ。リュカはその事に疑問を感じると同時に。もしかすればリュナと連絡を取る手段があるのかもしれないと考えつく。その考えを肯定するかのようにリュカが何かを言うと、突如として僕の前にリリアーネさんが現れたのである。

突然の事で驚いているとリュカの声でその事を説明し始める。そして僕の前に現れたのは本物のリリアーナさんでは無いのだという事を知ったのだ。だがそれでも目の前にリリアーニャさんがいる以上。本人に間違えないと思ってしまっていたのである。そこで僕はふと思い至る点がある。それは先程まで話していた人物が。リュカルナとそっくりであったからだ。そしてその事についてリュカも思い出すと、確かにそっくりだと言って来た。そこでリュカが僕に向かって質問をぶつけてきたのである。どうしてあなたは自分の事を他人のように語るのか? といった内容の質問だ。だがそんなリュカの疑問も、次の一言で吹き飛んでしまう。

なぜなら、リディアーヌと、リュナの二人を助けに行くという事だったからである。そしてリュカは僕に向かって協力してくれという。

その言葉を断る理由は僕にはなかった。なのでその事を伝えると、リュカルナが、リアナに会わせてくれるという。そしてそこで、僕の知っている情報を全て話すように求められたのである。僕はそれを承諾した。その事でようやくリュカルナは僕の事を信用してくれたのであった。その事によりリュナの姉であるリュシアとの対面が実現したのであった。

リュカルナの案内によりリリアーヌの部屋にたどり着いた僕はそこでリリアーニャに再会を果たす。僕はそこで初めてリリアーヌに会ったのだが。その姿を見ると同時に涙が出そうになった。だが何とかそれを我慢して平静を保つ。

そうして、僕とリュカルナは、お互いに情報を交換した後で、今後の行動について打ち合わせをするのだった。

「じゃあ、後はよろしく頼む」そう言うとリュカは、部屋から出て行ってしまった。

リュカルナが出て行ったのを確認してから僕は扉の鍵を閉める。そしてリリアーナに視線を向けたのだ。するとそこには先程までの幼さが消え失せた妖艶な雰囲気を持つ女性が座っていた。

その事からもしかしたらリリアンヌではなく。リリアーナの方が本物なのではないかという考えに至る。すると彼女は、僕を見ながら口を開いたのである。

そして彼女は僕に対して問いかけてきたのだ。その質問に対して正直に答える事にした。まず初めに名前を名乗った後に自分が転生者である事を伝え、その後で魔王によって記憶を消されている事を説明した。だがここで一つ問題があったのだ。それはこの事実を知っている人物は少ない方がいいとリュカから言われているので、その件に関しては黙っていようと考えていたが。その話を聞いた事でリリィの反応が変わる事となる。その為に仕方なく僕はリリアーヌに真実を話すことにしたのだった。

僕が自分の知る限りで、今分かっている情報を伝えたのだ。それを聞き終えたリリィは何故か嬉しそうな笑みを浮かべていた。そんな彼女の態度に違和感を覚えた僕は。一体どうしたのかと聞いてみた。すると彼女は嬉しそうな笑顔のまま僕の方を見ていたのだ。そしてその事に嫌な予感を覚えると共に、これから起きるであろう事を思い浮かべたのだ。そしてそれは見事に的中してしまったのである。

その事に呆れつつも、これからの事を考えると頭が痛くなる。そんな気持ちになっている僕に対し、彼女が口に出した言葉はとてもじゃないが信じられるような事ではなかった。

その事を伝えられた僕は唖然としてしまう。そんな僕に対してリリィが笑いながら言ってきたのだ。その言葉で更に僕の中で混乱が生じてしまうのだった。だが僕はその事についても質問する事にする。そうしないと話が前に進まないと思ったからだ。そんな僕の言葉を聞いたリリィだったが、その事を説明する事に対して乗り気ではないようだった。だけど僕からの強い視線を受けて渋々ながら了承してくれた。

そうして話し始めたリリィが僕に伝えてくれた内容は驚くべき内容であった。その話を一通り聞き終わったところで僕は思わずため息をつくと頭を抱えてしまうのであった。

「まあ大体の事は分かったんだけどね?」とりあえず現状を把握するためにそう言ってから僕は頭を上げずにいる。何故ならば──今の状況があまりにも非常識過ぎたからだ! そしてようやく落ち着いてきた僕は改めてリリアーヌの姿を見てみると、僕の知る彼女とは違いすぎて戸惑う事になってしまった。だがよく見て見るとどこかリュナの面影がある。そんな事を考えながらも彼女を見つめているとリリアーナがこちらを見てきていた。その視線にドキッとして僕は目を逸らしてしまいそうになるがなんとか堪えて見続けた。

しばらく見ているとその事で照れたような表情になると同時に恥ずかしげに頬を赤くしている。そこで僕はリリィの方に視線を向けてみるとなぜか僕のことを睨んでいたのだ。

そしてリリアーヌに視線を戻すと彼女の方は、僕に見られているのが嬉しかったのか満面の笑顔を見せてくれて。僕もつい嬉しくなって微笑んでしまったのである。その事でますます嬉しそうな顔になると共に少し顔を赤らめていたのだ。僕は、この空気に呑まれてこのまま流されてしまうわけにはいかないと考え。一旦深呼吸をして心を落ち着かせることにする。

そこで少し落ち着いたので、これからの事についての話を始めようとするのだが、そんな僕の服を誰かが引っ張っている事に気づいて振り返るとそこには僕の事をじっと見上げてくるリリアの姿があった。そんな彼女を見た瞬間また僕はドキドキと心臓の鼓動が速くなり、顔が熱くなっている事に気づくと、慌てて僕はリリアーナに視線を向けるとそちらも僕の方を見ていて目が合ってしまう。その瞬間またしてもお互いの間に甘い空気が流れるが。その事を振り払う為に一度咳払いをした。するとリリアは僕の事を見て申し訳なさそうに頭を垂れると、謝罪の言葉を口にする。

その謝罪を受けた事で、リリアの方をしっかり見る事が出来た。そんな彼女は僕が怒ってないと判断したのだろう、安堵した様子を見せる。それから僕に対してリリアの方へ視線を送るように指示してきたのだ。その事を不思議に思いつつも僕は、リリアの方へと視線を向ける。すると、リリアの顔はみるみる内に真っ赤になり俯くと同時に、上目遣いになりつつ僕の様子を伺ってくるのだ。そんなリリアの様子に可愛さを感じつつも、彼女の事を心配する。だがそこで僕はあることに気づいたのである。そう、リリアが着ている衣装にだ。そこで僕は彼女に尋ねる事にした。

その事を聞いてリリアの顔が引き攣り冷や汗を掻いている。そんな様子を見せられても僕は引くことができない。そんな僕の事を見たリリアは観念したかのように項垂れると共に僕の方を見ると口を開いた。

「わたくしの服はリリアーヌ様が選んだものよ」と、そこでリリィの口から出てきたリリアの名前。それが意味することは僕にもわからなかった。だから僕はそのことを質問しようとリリアに声をかけるのだが、何故か僕の言葉を聞くとさらに落ち込み始めたのだ。そのリリアリアのあまりの変化っぷりに驚きながらも。僕は何も言えなくなってしまったのである。そんな僕の方を見るリリアの顔つきが真剣な表情に変わると、突然、彼女はリリアのことを抱きしめてしまったのだ。

リリアは突然のことに驚いて固まってしまっている。そんなリリアを愛おしそうに眺めているリリィ。そんな二人を羨ましく感じてしまう自分を抑えて、僕もリリアに近づくと優しく声をかけた。

僕が話しかけたことでハッとなったのか。リリアがリリィから離れようとしたが。そんな事を許さずリリアの事を引き寄せると。リリアを抱きとめて頭を撫で始めるリリィ。そんなリリアの行動にリリアが抗議の声をあげるが。僕はその事を無視する。そして僕はリリアがリリアであることを確信したのである。その事によりリリアに対する警戒を解く事ができた僕は、リリィと二人で話ができる環境を整える事にした。そして二人と会話をする。その事によってわかった事。リリアがリリィだという事は間違いないという結論に至ったのである。

リリアは僕が言った言葉の意味を理解したようで、すぐに僕の方を向いて「お父様に報告してくる」とだけ言うと。部屋から出て行ったのであった。

その後で僕はリリィに今の状況を詳しく説明する事とした。そこで僕達がやろうとしていること、その為に必要な事、そして僕が転生者という事を話したのだ。だが僕の予想通りというべきか、僕の持つ力がどういうモノなのかを知ることでリリィが動揺してパニックを引き起こしてしまいそうになったのだ。だが僕はそんな彼女を強く抱きしめると耳元に囁いたのだ。

大丈夫だよと、そう言い聞かせるように──するとリリィは徐々に落ち着きを取り戻してくれたのだ。そんなリリアに僕は感謝の言葉を告げる。その言葉を聞いたリリィは笑顔で応えてくれると同時に嬉しそうにしていたのである。

それからしばらく経つと扉をノックされる音が聞こえた。それに僕は扉の向こう側にいるであろう人物に向かって声をかける。その言葉に反応して扉が開かれ一人の人物が入ってくると。そこにいた人物を見て驚いた。

そこにはリュナの姿があったのである。

その姿を見て思わず僕が立ち上がって駆け寄ろうとすると、リリィに手を掴まれて止められてしまう。そこでリュナの姿をよく見ると、服装などがいつもとは違う事に気づいたのだ。そういえばと思い出してリリィの方を見ればリュナに対して鋭い目を向けており、リュナは怯えてしまっていた。だが、リリィはすぐに態度を崩すと笑顔を見せてからリュカの元へ歩み寄ると抱き着くと口を開いたのだ。

そんなリリィに対してリュナが「母上」と呼びかけたのである。そう、目の前にいた女性はリリィの母であるらしい。リリィが僕の方を向いたので、どうしたのだろうと疑問に思っていると、リュナはこちらを見ていたのだ。そしてリュカの方に近づいてくると僕に向かって話しかけてきたのだった。「貴方のお名前はリュカと言うのですよね?」と聞いてきたのだ。その事について僕が答えると、今度は「私が貴方の母親でも驚かないのですか?」と聞かれる。それに対して僕は「えっと、なんとなくだけど。そういう予感があったんです」と、曖昧な返事になってしまった。そんな僕の態度にリュナも苦笑いする。そして僕の傍に来ると僕に向けて笑顔を見せたのだ。そして、リリィの方を見て、次に僕を見つめてから再びリリィの方を向く。そして僕達の方に視線を移すと僕に対して笑顔を見せる。その表情はとても優しげなものであった。その顔を見てリリィの方は複雑そうな表情をしていたのであるが。

その事を不思議に思いながらも僕もリュナの事を笑顔で見つめ返したのである。そうしてしばらくの間、リリィと話をするリリィとリリィを見つめているリュカ、そして二人の様子を見ている僕といった構図になった。その時間はとても楽しくて心温まるものであり、いつまでも続けば良いと思ったぐらいだ。だが、そんな時間は突然終わりを告げてしまう。それは突然のことだった。そう、「私もいるんだからね!」と言いながら部屋に入ってきたのはリシアであった。そうしてリリアが入ってくるとその勢いのまま僕の事に飛びついてきて頬擦りをし始める。いきなりの事で反応が遅れてしまったが。僕はとりあえずリリアの事を引き剥がす事に成功した。だがそれでも諦めなかったリリアが強引に腕を引っ張って連れ出そうとしたので僕は慌ててしまう。するとリュナがその光景を見ながら笑っていた。そんな彼女を見た僕は、リリアの事を連れて行っても良いものか判断がつかなくなり、困惑してしまうのである。その事に気づいたリリィが助け舟を出してくれたのだ。

そのリリィのおかげで、リリアに引っ張られて行く事態を回避できた僕はホッと胸を撫で下ろす。そこでリリアが僕の方を恨めし気に見つめていたが。リリィが宥めると同時にリリアがおとなしくなったのである。

それから僕は改めてリュナの方に視線を戻す。するとそこには優しい表情を浮かべてこちらを見ているリーニャの姿もあったのだ。僕は思わず微笑んでしまっていた。するとそんな僕を見て微笑み返してくれる三人の少女たち。そうしている内に時間が過ぎると夕食時になる。そして皆と一緒に食事を摂ることになって僕はその事を断るが、リリシアに引き摺られるように食堂へと連れて行かれてしまったのである。そしてその席には当然のようにリュナの姿があった。

そこで僕はある事に気づいてしまうのだが、この城にはどうやらリリィ達親子だけではなく、リュラ一家がいるようである事を悟る事になる。そこで食事中はなるべくリリア達とは会話を控えることにした。するとどうやらリリィが寂しそうな顔になっていた事に気づくのだが。僕としてもリリア達に僕の能力の事がばれるような行動を取りたくなかったため、あえて気がつかないふりをして、自分の事に集中することにしたのである。

しかし結局食事中に話しかけて来たリュカの言葉につい乗ってしまい僕は自分の能力を明かす羽目になってしまい、そのせいでリリア達親子は僕が普通の人間ではない事が分かってしまい、僕の秘密を知ったリリア達との話の流れで僕の正体が異世界から来た転生者である事が明かされてしまったのだった。そう、そんな僕の口からは自然と言葉が紡ぎ出されることになる。その言葉は何故か勝手に出てしまったのだ。その言葉を聞いて驚く三人の少女の顔は驚愕に染まっており、僕に話しかけようとしてきた少女をリリアが止めてくれたおかげで何とかその場を凌ぐことができたのであった。だが問題はこの後である。僕はこの先をどのように対処するか考える事となり、考えれば考えるほど頭を抱えて悶絶してしまったのである。

そんな僕をリュナが楽しそうに見ていた。

その日の夜は色々とありすぎて僕は疲れ切ってしまうことになる。だがそのおかげもあって僕の気持ちは少し落ち着いたのだ。そこで僕は明日以降のことを考える。そして今日の出来事を振り返りつつ今後の方針を決めるのである。その結果から僕はある決断を下したのであった。

次の日になり、リリアとの話し合いをするべく僕の部屋を訪れたリリアに対して早速とばかりに僕の能力についての説明を行うと彼女は驚きながらも理解してくれたようであり安堵したのである。

その後で僕達は今後の方針を決めてお互いに納得した上でそれぞれの場所へと向かうことになった。

まず僕は王城に向かうことにする。そこではリシアに会う事が出来ればいいと考えていた。昨夜考えた事は僕自身にも影響する事でもあったが為、それを早く確認したいと急いでいたのだ。その為僕は朝食を食べ終わると同時にすぐに城を飛び出していた。そして王城に辿りつくとその足で国王の元に向かったのだ。

そして僕は今──王城の謁見の間に立っていた。玉座に座り僕を見下ろすその人物は、この国の最高権力者である。そしてその人は──父である。そんな父である王は僕を見て驚いた顔をしていたが、そんな父を見ていると僕は何だか不思議な気分になってしまう。今までずっと一緒にいた父ではあるが、やはり僕の中では父の印象は強いのである。そして僕は父に挨拶をした後で用件を伝える。

「突然で申し訳ないのですが父様、リリアのところへ急ぎ行きたいと思いますので許可をいただけませんでしょうか」

その言葉を聞いた父は何も言わず、ただ僕を見据えたままである。僕の事を信じて任せてくれているのか? それとも僕の言葉など聞くまでもないのかと、そう思ったのだ。そうこう考えているうちに父は「うむ」と言うと、手を上げて僕を呼び寄せると、耳元で小さく呟く。

「急げ、そして娘を頼む」

それだけ言うと父は立ち上がって歩き出す。僕はそんな父が歩いていくのを見送った後で踵を返すと走り出したのであった。そして僕は一分一秒でも無駄にしないよう全力でリリアのもとへ向かっていったのだった。

その最中である。

突如として目の前に黒い影が現れたのだ。それは一体ではなく複数で。そう、僕はこの時になってやっと気づいたのだ。そう、僕の目の前に現れた者達は僕を狙ってやってきた刺客である事を──。その者たちが身に纏っている鎧の色から察するにおそらくはこの国の騎士であるのだろう。

そんな彼らの姿を見て僕は警戒をあらわにするとすぐに魔法を発動する態勢を取る。だがその僕の前に一人の人物が立ちふさがったのだ。そしてその人物を見て僕も驚いてしまった。何故ならそこに現れた人物こそ僕をこの世界に召喚した人物であったからである。だが、その姿を見る限りまだ幼い少年のような姿であった。だが僕よりも年上のようだというのは雰囲気と体つきで分かった。そして僕の前で仁王立ちになると両手を広げて騎士達の前に堂々と立つと声を上げたのだ。その声は甲高くどこか人を不快にする声音をしており、とても耳障りなものであった。だが、その者は僕を守ろうとするかのように僕の前に立ち塞がってくれたのである。僕はそんな彼の後ろ姿を唖然と見つめていたのだった。そうしてしばらく時間が経過するのだが。一向に動き出そうとしない。そう思っている矢先に彼はゆっくりと僕の方へと振り返ってきたのだった。

「あ、ありがとうございます! その、あなたは僕を庇おうとしてくれましたよね?」と、僕は彼に駆け寄りながら感謝の念を伝えたのだ。そんな僕の姿をみたその人物は笑みを見せるとその口を開いた。

「うん? まぁ気にすることはないよ。僕は勇者として君を助けに来たんだから」と、そう言いながらウインクをして見せたのだ。その態度に僕は苦笑いを浮かべてしまうと、僕の様子を見た相手が何かを感じ取ったようで、首を傾げると質問をしてきたのである。

「君は僕に対して恐怖を抱いているわけじゃないのか?」と聞いてきたのだ。僕はその問いに答えるべきか迷ってしまった。正直に言って僕はこの相手のことが怖かったのである。その理由というのが僕には理解できなかったからだ。そう、それは見た目の年齢からは想像できないほどの力をこの人物が持っていたのである。だがしかしだ。この人物は間違いなく僕を守ってくれたのは事実なのだ。それにこの人物が僕を騙しているという可能性は少ないと思われたのである。だから僕は素直に自分の感じたことを話すことにした。そうすると相手はなぜか納得すると、「なるほどね、そういうことだったんだ。そう言えば自己紹介がまだだったね。僕は君の言うとおり『リリア』の父親なんだ。これからよろしくね!」と、そう言って笑顔を見せたのであった。僕はその事に戸惑いつつもなんとか言葉を絞り出すことに成功する。

「はい、えっと僕の名前はユウトといいます。その、よろしくお願いします」と言って頭を下げて挨拶を行った。だが、そんな僕を見た相手は何故か驚いた顔になった後に突然笑い出してしまう。その様子に困惑してしまうのだが。僕がどうして笑うのかと問いかけようとしたところで先に相手の方が僕の疑問に答えてくれたのだ。その話の内容は実に衝撃的なものであり、そして僕を驚愕させるものだった。なんとこの世界では既に僕という人間は存在しなくなっていたようなのである。つまり僕はこの世界では完全に存在しない存在になっているのだというのだ。

そして僕はこの世界の人間がどうやって僕を召喚できたかという理由を聞かされることになったのである。その話を聞いた上で僕が考えたのは。もしかしたら、リュカル達が僕に渡してくれたあの剣が原因だったのではないかということである。

なぜなら、あの時リュナが僕の身体に異変を感じた瞬間に光輝いていたからだ。そして僕の中に膨大な力の奔流が流れ込んで来たことも思い出していた。さらに僕の中で眠る記憶の中にも、確かにその時の事が思い浮かび上がっる。だからこそ僕が考えるには恐らく間違いではないだろうと。僕は心の中で納得してしまったのである。だがその事をリリアの父に伝えたのだがその事は知らないと言われたのである。そしてその言葉を聞いた僕は落胆した。どうやらその情報は王城内に広まっていないようであり、一部の限られた人間しか知ることができないようなのだと。

その言葉を聞き、僕としてはますますリュカ達の事を放っておく事ができなくなってしまったのである。そうして考え込んでいる僕の傍では相変わらずリリアが話しかけてくる。その内容は、先程の刺客の件についてだった。僕のお陰で助かったとそう言った後でリリアが謝り出してきたのである。リリアの話によれば彼女はこの国に敵対する勢力に属する者だというのだ。しかも今回の襲撃もその者達が仕掛けてきたものであると言うことを知らされた僕は思わず頭を抱えたくなったのだ。

そして僕が色々と悩む事となる原因の一つでもあるリリィの事について相談に乗ってくれるという事になり。僕がリリィの部屋に向かうと、リリア達とすれ違うことになってしまうが仕方ないと思ったのである。僕はそんなこんなでリリアに連れられて部屋へと向かうことになると、そこで僕達は驚愕の出来事を目にすることになる。なんとその部屋の中には、リュカルの姿があったのである。しかし僕はリュカリアの顔を見ると、すぐさまその場から離れることを選んでいた。何故ならリュカリアが涙を流していたから。きっとリュカルが死んだ事を思い知らされてしまったに違いない。そんな彼女に今の自分の姿を見せることはとてもできなくて──。

リュナはリリに案内された部屋に一人残っていた。リリはその事を告げるとリリも別のところに向かっているようだと。リリアは少しの間だけ寂しそうな表情を浮かべたがすぐに微笑むと「わかった」と一言呟くと部屋の扉に手をかけたのだった。そうしてリリと別れて部屋に入った彼女は、リリアの言っていた事を思い出す。

リリアはこう語った。リュカルとリリシアの二人には仲が良くなる機会を作ってほしいと。その言葉を受けてリリアは自分の気持ちを伝えようと決心するのだった。そう、それは──。

僕は今王城の中庭にいた。この場所にはもちろん目的があるのだ。そう──リシアと話をするためだ。昨夜の内に王城の兵士達からリディア姫の情報を得ていた。その結果得られたものは彼女が王城の離れにある塔に幽閉されているという事である。それを知った僕はすぐにその事を国王に伝えるために謁見の間に向かい父に会いに行くことにしたのである。そしてリリアにリシアの元に向かう事を告げてから急いで城を出るとそのまま目的地へと向ったのであった。

そんな僕はリシアの元へ向かう道中で偶然にも、僕の視界の端に気になるものが目に入ってきてしまい、そちらの方へ目を向けてみるとそこには一人の少年と思しき人物が立っていたのである。その姿を見ていると僕は自然と彼の下へ向かって歩いていくことになった。理由は分からない。ただ直感でこの人ならば僕を裏切ることはないと判断したからである。その証拠はあった。僕が近寄ると同時に少年は僕の方に振り向いたのである。そして目が合うと少年は一瞬だけ嬉しそうにするのだが直ぐに厳しい顔をすると僕に詰め寄ってきたのであった。

僕は目の前の相手を見据えて思う。おそらくこの人は僕の知っている人物である。しかし確証がないので迂闊に口にすることができないでいる。すると、目の前の相手が口を開いたのだ。

「ユウちゃん? ユウちゃんだよね?」と、目の前の相手から発せられた言葉に僕は動揺してしまう。その反応で正解だったと理解すると僕も相手の名前を呼ぶことにしたのだ。

「その声はまさか『ユキナ』なのか?」

僕の言葉を受けた『ユナ』と名乗ったその女性は僕を見て涙を流すと僕に抱きついてきたのである。

僕は彼女の行動に対して何もできずに立ち尽くす。何故なら突然の状況変化に対応できなかったからである。そう、突然現れた女性が僕の名前を知っていたばかりか抱きついて来るなどとは予想していなかったからだ。そのため僕はどうして良いのか分からず呆然としているだけであった。そうやってしばらくの時間が流れる。だがしかしいつまでもそうはしていない。そう思った僕は意を決して声をかけると抱きしめられている手を解いて彼女から離れようとしたのだ。だが、それを邪魔する声が僕に届く。

「ちょっと! あなたなにをやっているのよ! その男を放しなさい!」

そんな声が聞こえてきたことで僕は驚いてしまう。僕達がいる場所というのはそれなりに人気がない場所ではある。だから誰かが僕達に声を掛けてくることなどほとんどないと言っていいだろう。そう、だからこそ僕とユキナが驚き戸惑ってしまったのである。だが、僕はふと冷静になって考えてみればこの状況はおかしいと思うようになったのだ。だって、ここには僕とユキナ以外には誰もいない。なのにそんな所に突然女性の声が現れた。

僕は不思議に思って周囲を確認すると僕の背後に視線をやったのだ。そしてそこで僕はようやくその状況を把握することが出来たのである。そう、僕の背に人が立っていることが気配だけで分かったのだ。僕はその人物を確認しようと背後を振り返ろうとするのだが──その必要はなかったのである。なぜならその人物は僕とユキナを強引に引き離してくれたのだから。その行為によって僕は助かったのである。

そしてその人物はというと。なんとその少女こそが『リリア』だったのである。僕は慌てて頭を下げると謝罪をしたのだ。そしてなぜこんなところに居たのかと聞いてみたのだがリリアはそれどころではないと言った様子だ。

なんでも僕がここに来ていることに驚いたらしいのである。そしてリリアが驚くということはだ。僕の知る人物の中に彼女がいる可能性が高いということになるわけで、僕は警戒を強める。そう、そのリリアに良く似た容姿の女の子に。そしてその予感は当たりであったらしく、リリアに質問をしてみたところ、僕はこの国の王女の知り合いだったと判明したのである。そう僕は、僕の世界の常識で言うのであれば一国の姫と知り合いだということになったのだった。そのことに思わず頭を抱えてしまう。どうしてこうなったのかと思わずにいられなかったのである。

だが、それはあくまでも僕にとっての問題であり。僕とリリアの共通の知人が関わっているとなると話は違ってくるのである。僕はそのことを伝えると、僕の世界で起きた出来事を説明したのだ。リリアが僕と一緒にこの世界に転移させられた事、そしてその世界で魔王と呼ばれる怪物を倒したという事に。

その説明を聞いたリリアの瞳は輝きを増していく。それはその話が事実であることの証明になったのである。僕は思わず苦笑を漏らしたのだ。リリアが僕の事を信頼してくれるのはありがたいことではあるが。僕はリリアが僕に好意を抱いているのではないかと思ってしまった。

そして僕がリリアの告白を受け入れたのも。リリアが僕の事を信じてくれているからこそだと思う。だがその前に。僕は自分の置かれている状況をリリアに伝えておく必要があると思い、まずはそのことからリリアに話しておくことにする。僕が異世界から召喚されて勇者として呼ばれたこと、それから魔人族との争いに巻き込まれたこと。そしてその最中で、僕の身体に異変が生じて、【悪魔神官】が言うには僕の魂の半分は別の存在に支配されているということだった。そしてその魂の片割れは僕が殺した存在だということである。そう、僕が今まで生きて来たのはこの世界の僕であって、本当の僕ではないということをリリアに話す。そうして僕の話を聞き終えたリリアは納得してくれたようで、その表情は真剣そのものに変わっていた。その表情を見た瞬間、僕の中で何かが疼いたのである。その正体はすぐに判明することになる。

なぜなら僕の事を愛してくれていたはずのリリアの顔が僕の知らないリリアの表情へと変わっているように見えたのだ。それが意味するのは、リリアも他の者達と同じだったということだ。僕がこの世界で知り合った人々は僕がこの世界に馴染むように様々なことを教えてくれたのである。しかしそれも限界が訪れていた。そして僕はある事を決意する。それは──この国を出る事である。

リリアが僕以外の男性に心を開いている姿を僕は見たことがない。そしてそれはきっと、リリアにその気が無いというだけではない。その男性の心の中には既に別の女性の影があったからに違いないと思った。つまり僕は騙され続けていたのだと理解したのである。そう、そして僕は決意する。

もう、僕に付き纏うリリアには迷惑している。僕はリリアと別れるためにもリリアにはっきりと伝えたのだ。

「君は──俺の知っているリリアじゃない」と。

その言葉で、リリアは表情を変えると怒りの表情を浮かべて「貴方も──私を捨てて別の女に行くと言うのですか」と言うのだが、それについては僕も思うことがある。

「リリア、君の気持ちは嬉しいけどね。今のリリアじゃ僕は受け入れられる気がしないんだ」と、正直に告げたのである。

そして僕はその場から離れるとすぐにこの場を立ち去ったのだった。

僕達は王城を出ると街の宿屋に向かって歩いていた。そして街に着くとリリアと別れたのだ。そのことについてリリアが気にしていたような態度を見せていたが、僕は無視をする事にした。

そう──今更なのだ。それにリディアと話をするにも僕はリリアを連れて行きたくはなかったのである。その理由は僕達の話を聞いていたであろう兵士達からの情報が問題だったのだ。

兵士達によるとリディア姫は今の王城の離れにある塔にいるというのだ。それについて僕とユキナはどうするべきかを話し合っていたのである。しかし結局はそこに行くしか無いだろうという事になった。そして向かうことにしたのであるが僕一人で行かなければならなくなってしまったのだった。

というのも、リュカル達と共に魔物の討伐に向かっていたリリィとリュカ達。彼女たちが戻ってくるまでにはまだ時間がかかりそうでその間に僕は行動しなければいけないと考えたからである。そのため僕は単独で行動することにし、そして行動を始めた。ちなみにだがリディア姫がいるとされる塔がある場所に行くために僕は一度城の外に出る必要があったため門兵に声をかけたのだ。そうすると僕の顔を確認した兵士たちが何故か驚愕の表情で固まることになるのだが、僕は構わずに行動を続けるのであった。

そして僕の行動を見守っている者が居たことに僕は気づいていたが、今はそんな事は気にならないくらいに急いでいたのである。

そう、僕はこれから起こることを予測した上で行動しなければいけないのだから。

そんな僕の様子を観察するような人物の気配を感じ取りながら、僕にできる限り急いで目的地へと向かうのだった。

僕は城から出ると目的地に向かうことにしたのだ。

その行き先とは王城の外、すなわち街中だ。

そう、僕はリリア達と合流するまでの間にやらなければならないことがあったのだ。その目的とは僕のステータスを確認するということである。その目的は二つあった。一つは自分の状態を正確に把握すること。そうすれば僕は自分の状態をしっかりと理解することが出来るだろうと考えていたのである。そうすることで今後の対策を立てやすくなるかもしれないという考えがあっての行動だ。もう一つは僕のスキルを調べることである。これについても僕自身の能力がどういうものなのか確認する必要があったからだ。そして、それらの目的を果たさないといけないと僕が考えている理由は、僕の中にあるもう一つの人格『悪魔』の存在が関係していた。僕は『悪魔の呪い師』によってその力を半分支配されている状態である。そして僕が持っている力の中に『魔力感知』という技能が組み込まれており。この力は僕の周囲の人間が持つ魔力の波の動きや質などを読み取ることができるというものである。そう、僕がリリアに対して行ったのはこの力でリリアの心の内を知ることだったのである。その結果リリアが僕を愛していないということを理解することが出来た。そして僕がそんな風に『人の心の内を読む』ことのできる力を持っているということはだ。僕の身体を乗っ取ろうとしている存在が近くに居る可能性が高くなるということである。そのことは僕自身も理解しており警戒を強めていたのである。そしてこの『悪魔の呪い師』の力を利用して相手の位置や能力をある程度見抜くことが出来るようになることも分かってきたのである。そしてこの『悪魔』の力で得た情報を整理したうえで改めて考えてみる。

リリアンナは言ったのだ「勇者の器は成長している」という言葉を。

これは僕の中に存在しているリリスの事を差している言葉だと思っていた。

そしてそれは正しいのだと思う。何故ならば僕とユキナと行動を共にしてから数日経過しているが僕の中にいるリリスの意識は覚醒したままだからである。そのせいかリリアに告白をされてからというものリリアは頻繁に僕の所に来るようになったのだ。だが僕はそれに対して嫌悪感を抱いてしまったのである。そしてそれは当然の結果になったのだ。そう、僕のリリシアに対する思いが変わることがなかったからだ。そしてそれはユキナも同じだろう。だから僕はリリアと決別したのだ。そして僕にはリリアーデという婚約者が存在しているのだから、リリアは僕を諦めるべきだと思うのだった。しかし僕とリリアーデはお互いにお互いを大切に思っているが、まだそこまで踏み込んだ関係は結んでいない。だから僕とユキナはお互いが望まない限りはリリアとの関係を切るべきではなのではないかと考えるようになったのである。その考えにたどり着くためには僕の中に眠っている『リリス』の事を詳しく知る必要があり、僕はそのためにこの王城を出ることにしたのだった。そして、そうして僕の事を見つめていた人物というのがリリアだと言うことに気づいた僕は慌ててその場を離れようとしたのだった。

そして、そうこうしながら僕は目的の場所に着いたのである。そう、その場所こそが僕が目指してきた場所だ。

その目的地というのは冒険者ギルドである。その場所に僕がたどり着いた時だった。突然僕の前に人影が現れると僕の目の前に立ったのである。その人物は全身黒ずくめの服装をしているが。僕は一目見て相手が普通の人では無いことが理解できるほどの雰囲気を出していたのだ。そしてその人物が話しかけてきた。

「貴様は一体何をするつもりだ?」

僕に向かってそう声をかけてきた人物こそ──この国の宰相であり、この国で最も権力を持つ男、その人物であったのだ。

「え? なんのことかな?」

僕にそう尋ねてくる男の質問に僕は惚けることにすると。彼は不機嫌になったような口調で言う。

「ふん、とぼけても無駄なこと。お前は私が調べさせた結果によるとこの王都の勇者殿の一行と一緒にいるのではなかったのか?」

僕はその言葉を聞いて少し考えるフリをした。そう、僕に話し掛けてきている人物の名前は──この国の王、ゼストと言う名前である。その名前については僕は事前に知っており覚えておくことにしたのだ。そして彼の質問についてなのだが──僕に何を求めているかについて探る必要があると考えたのである。そうでなければ僕の前に姿を現したりはしないはずだからである。僕は彼に尋ねたのだ。

「僕と一緒だった人ならここに来ていますよ。彼女達なら魔物討伐に出かけてここにはいませんけどね」

僕はわざとらしく惚けていた。すると彼が続けて僕に向かって話を続ける。

「そういえば最近噂になっているが、あの三人娘達は本当にお前の嫁にされるのではないのか?」

「そうですね。いずれはそういうことになるでしょうが──」

僕は適当に会話を続けると話題を変えてみることにしたのだ。その方が相手に警戒されずに話をすることができると考えてのことである。

僕にこの王城を出るきっかけを与えてくれたのは他でもないリリアであるのだ。だからこそ僕は彼女とはきちんと話をしておくべきだと思ったのである。そしてリリアとの話の中で彼女が僕の事を本気で愛してくれていることは伝わって来たのだ。だからこそ僕はリリアと会う必要があると感じていたのである。そして僕は彼女に問い掛ける。

「それより、お父上。どうして僕の所にやって来たんですか? 僕はこれから用事があるのでそろそろ退散したいのですが──」

「おい、逃げる気か?」

「いえ、逃げようとしているわけではありませんが。これからちょっとやることがあるんですよ。だから早くこの場を離れたくて」

僕はそんな風に言いながらこの場を離れる理由を考えてみた。しかし、特にこれといったものはなかったのだ。

そう、ただリリアと話す前にこの男と話をする必要があると判断したからこの場所に来ただけなのだ。だから正直に言えばこのまま帰ってしまってもよかったのだが、リリアの父親と話すのは悪くない機会だと考えたのだった。そう、今はまだ時期尚早だがリリアと和解するために僕は必要なのだと僕は考えていたのである。そのため僕は再びゼストに向けて問いかける。

「僕はこれからやりたいことがあるので──出来れば失礼しますがよろしいでしょうか」

僕はそう言って立ち去ろうとする。

しかし、僕が立ち去るために足を動かそうとするよりも先に、ゼストが僕に声をかけてくる。僕はそのことに気がついたため仕方なくその場に残ることになった。そう、ここで彼と会話をするしかないと覚悟を決めたのだった。

僕は目の前の人物をじっと見つめると口を開くことにした。そう、まずは彼の名前を聞かなければなにも始まらないからである。そう考えた僕は彼に話しかけたのだ。

僕はリリアに確認を取らずに立ち去ったことで、リリアが僕に対してどう感じているのかが不安になり、心配で仕方がなかったが。とりあえずリリアとは話をしなければならないと考え、僕はリリアがいるはずの場所に向かう事にした。しかし、僕のことをずっと見張っていた人物がいることに気づいていたため、僕は一旦リリアの元に行くのを中断することにしたのである。僕はそのことを気にかけながらも急いで向かったのだ。

僕は先ほど出会った人物が僕をつけ狙ってくるのではないかと危惧していたのである。なぜならばあの人物の正体がリリアのお父さんである宰相だからである。そんな人物がなぜ僕を尾行するかのような行動を取っていたかということについて考えてみると。それは僕のことを調べるためか、もしくは『悪魔』のことを調査するためであると考えられる。そして後者の場合だと非常に危険な状況になってしまうかもしれないと恐れていたため。一刻も早くその場を離れようと焦って行動していたのである。その行動から分かる通り僕の目的はこの王城にある図書館へと向かうことであった。この目的の為に王城を抜け出してきたというわけだ。そうして目的の場所に辿り着いたのだ。この目的は二つあったのだ。

その二つとは僕のスキルを調べることとリリィやリリア達が戻ってくるまで時間を稼ぐことだ。前者の目的を果たすためにはやはりリリアと話がしたい。そう思って僕は目的の場所へとやってきたのだ。

僕の視界に入って来た場所は王城の敷地内にある巨大な建築物である。

この王城は街の中心に存在しているが、それでも敷地は広大であった。そうしてその建物の中に僕が入ってみると。中には大量の本が納められている場所がある。その場所は僕がリリスの記憶の中に存在していた場所で。リリアやリリスが言っていたが。ここが王立図書館と呼ばれる場所だったのだ。そして僕はこの場所に辿り着くまでの間に僕の身体の中に存在するもう一つの人格『リリス』についてある程度調べることができていた。そのおかげで『リリス』という人物がどういう人間なのかということが分かったのである。『リリス』という人間は、僕が前世の世界に住んでいた時に存在していた人間である。その人物の名は──リリスという少女で僕の妹だと名乗っていたのだ。そして僕はそんな彼女の事を調べようと思って王城の敷地に存在するというこの施設を探そうと思っていたのである。しかし僕の考えは甘すぎたのだと思い知らされた。そのことは僕の身体の中に入っているリリスという人格の特殊性に起因するものだった。リリスは自分の意思ではこの身体を制御できなかったのだ。そのため僕は『悪魔リリス』とリリスという二人の人物の存在を同時に把握しなくてはならなかったのである。

そしてそのことから僕は、自分の中に住んでいるもう一人の自分と会話をしながら過ごす生活を送ってきたのだった。しかし僕は今までそのことについては気にしていなかった。というのも僕は自分自身の中にリリスの存在を感知することができなかったからである。リリスは確かにそこにいたのだが。そのことは僕の記憶には残っていなかったのだ。そしてそのせいもあってか僕の中のリリスの存在を感じることが出来なくなっていたのである。そしてそれが理由で僕はリリシアやリュカルと出会ってしまった。そうして僕はリリスがリリアやユキナに接触することを許した。そしてその代償は僕の中に眠るもう一人の人格であるリリスだったのである。

僕は『リリアとリリスとの邂逅の代償』という言葉でその出来事を思い出していたのだった。そう、その出来事こそがリリスと僕が分離してしまった原因でもあったのである。そしてリリスと僕との関係はリリスの願いによって成り立っていた。そうして僕はリリスとの関係を思い出す。その思い出はまるで走馬灯のように頭の中に蘇っていく。それは僕が記憶を失う以前のリリスとの記憶のようで。そう、それは僕の記憶の一部だった。

「うわああああっ!」

僕はその声が耳に入ってくると同時に慌てて目を覚ましたのである。

僕に覆いかぶさるような格好をしていた女性は僕の叫び声でびっくりしているような表情を見せていた。そう、僕の耳元にその女性の息がかかるくらいの距離だったため。その女性は驚いていたのだった。そのため慌てて僕は女性を突き飛ばすとその距離をとった。

突き飛ばされたその人物は地面に倒れこむとこちらを見つめている。


僕は慌ててその人物に謝罪の言葉を口にすると彼女は首を横に振ったのだ。

「い、いえ、私は大丈夫です」

そう言うとゆっくりと立ち上がり僕を見つめる。

僕はそんな彼女をじっと見つめていた。すると僕が見たその顔はリリアととてもよく似ていたのである。しかしその髪の色は銀髪ではなくて金髪であった。そのことに気づいた僕が彼女の名前を呼びそうになると。その前にリリアと思われる人物が言葉を発して来た。

「ご、ごめんなさい。突然こんなことしちゃって」

「い、いえ、僕も油断していたので、それでその人は?」

僕はそう言って視線を移す。そこには地面で倒れこんでいる女性の姿があったのだ。「そ、その子はこの王都に最近出没し始めた、盗賊団のリーダーよ」

「え? リーダー? それならあなたが捕まえればいいのに」

「うん、最初は私もそうしたかったんだけど。その子を逃がさないためにこの子を使ってたから。その子が倒されたことで拘束していた力がなくなってしまったみたいなのよ」

「え? じゃ、じゃああの時の魔法ってこの人の物だったんですか?」

「ええそうよ。私が使ったのは眠りを誘う催眠の光。この光が当たればすぐに深い眠りに落ちてしまうはずだったんだけどね」

「な、なるほど。それはわかりますけど。あの時は本当に死ぬかと思いました。だって、急に眠くなって来て、目の前が暗くなったんですから。まぁあの時意識が飛んでなかったとしても、結局あの光の餌食になってたと思うので同じ結果になっていたとは思いますけど」

そう、僕はリリアに説明しながら、先ほどまでの出来事を思い出していたのである。

僕が気を失った後の事をリリアと会話をして聞いてみたのだが。やはり、僕はあの攻撃を受けて気絶してしまい、そのまま気を失っていたらしい。そして僕はこの王城で目を覚ましたのだった。しかし僕のことを見下ろしている人がいたのだ。リリアは僕の顔をじっと見つめたまま何も言わずに黙っているのである。そのことで少し不安になってしまった僕は彼女に声をかけようとした。しかしそれよりも先にリリアが動き出して。そしていきなり僕の上に覆い被さると、僕の頬に唇を当てたのだった。

そんなリリアの行動に動揺してしまった僕は、彼女に「何やってるの? 僕たちはまだ婚約者でも何でもないんだからこういうことしない方がいいんじゃないかと僕は思うんだよ」と忠告した。

「え? どうして?」

「え、だからその、キスとか恋人同士がすることでしょ」

僕がそんな風に答えても。リリアはその行為を続けることを止めようとしなかった。僕がリリアを引き離そうとするよりも前に彼女の口は僕の口に触れることになる。そのことに驚いてしまい動けなくなった僕はされるがままの状態になってしまう。

しばらくするとリリアは満足そうに笑顔を浮かべて、「お姉ちゃんが好きな人にキスしてあげるのに何か問題でもあるかな?」と言うとリリシアは微笑み僕をぎゅっと抱きしめてきたのだ。そしてリリアは僕の手を握り締めながら立ち上がるのである。そこでようやく解放された僕は、慌ててその場から離れようとしたが、その時には遅かったのだった。僕のことを待ち構えていたリリアによって抱き着かれて、そして再び強引にキスされたのだ。しかもそのリリアの強引な行動に驚いた僕だったが。僕が逃げ出そうとしても彼女は放そうとはしてくれず。そしてまた僕の意思に関係なく僕の口からは、情けない事に甘い吐息のようなものが漏れてしまっていたのである。そのことが恥ずかしかった僕は何とか離れようと試みたが。しかしそれは無理だったのだ。なぜならリリシアと僕の筋力が違いすぎて抵抗できていなかったからである。そしてその状況のまま暫く時間が流れると。リリアは僕からやっと口を離したのだ。そうしてリリアが僕の方を見ると、嬉しそうな笑みを見せてくるのである。その事で更に僕は困惑するしかなかった。そうしてリリアの様子がおかしいと思った僕は恐る恐る彼女の事を見たら。リリシアがリリアのことを後ろから押し倒すように引き剥がしてくれたのである。そうして二人から解放された僕はその場で座り込むと呼吸を整えたのだ。しかし二人の事を見ることだけは避けたかったのでうつむいていたのだけど。僕の身体に触れられる気配を感じたので僕は慌てて顔を上げることになった。

そうして、顔を上げてみて驚いたのであるが。僕はなぜか自分の意思で身体を動かすことが出来なかったのである。僕はその事に疑問を感じながらもその人物を見上げるとそこには、金髪で美しい女性の優しい瞳が映り込んでいた。そして彼女は「私の可愛い妹になんて酷い事をするのかしら?」と言って、僕を立たせてくれたのだった。

僕は自分の身体が自由に動かせることを確認したあとリリシアの方へと視線を向けたのである。そうすると彼女は僕の事を優しく抱きしめてくれるのだった。そして彼女は僕の背中をさすりながら僕に問いかける。

「それで? 私がいない間にあった事はだいたい想像がつくけど、貴方の名前はなんていうのか教えてもらえるかしら」

「え? ぼ、僕ですか?」

「そう、その女の子は今私が眠らせてるけど。もしその拘束を解くことができたとしたなら。この子はまた襲ってくるかもしれない。だからその対処のために君の名前を教えてほしいの」

「そ、そうだったんですか。そのことについては僕が説明します。なのでこの子のことは気にしなくても大丈夫です。それで僕の名前は──」

「ちょっと待ちなさい! この子の名前は私達で決めた方が絶対にいいわよ!」

「で、でもリリィ。この子の名前ってもう知ってるでしょ? それに名前を教えるだけでこの子に何をされるかもわからないわよ」

「で、でもこの子を信用しているわけじゃないんでしょう?」

「もちろん、それはそうよ。でもこの子が私達の知らない情報を持っている可能性もあるの。そう考えると少しでもリスクのある選択肢は排除しておくべきだと思うの」

「なっ! それってどういう意味よ。私達が知っている情報の方が少ないって言いたいんじゃないの? リリシィアは一体何を知っているっていうのさ?」

「そう言うわけじゃないのよ。ただリリィはもっと警戒心を解いたほうがいいわよって言ってるだけ。そんなんじゃ、いざという時にこの子にやられちゃうかもしれないわよ」

「はぁ? やられるってどう言う意味よ」

「その言葉の通りよ。だからリリィは一度、この子の前で無防備になった方がいいと思うのよ」

「は? そんなこと出来る訳ないでしょ? 私は私を慕ってくれている人達の為にも常に気を張らないと行けないの。だって私はこの国一番の魔法士で。この国に害をなす者は全力で叩き潰さないと」

「そうよね。そう考えないとやっていけないものね。私はそんな貴女だからこそ力を貸したのよ。だってそうしないとあの人が可哀想だったから」

「はあ? リリシアーはいったい何を言いたいの?」

「別に大したことじゃないわ。私は貴女の事を応援したいって思ってるって話」

「そんなの当たり前じゃん」

「ええそうね。そう言えばあの時もそう言っていたわね」

「うん、だからさ、その話をここでするの止めてもらっていいかな?」

「ふふ、わかったわ。でも覚えておいて。いつどこで、何があるか分からない。その時後悔しない選択ができるか。それはきっとリリア次第だと思うわ。今のあなたは、まだ未熟。そしてその心も。だからこれからはより精進なさい。あなたはまだ成長できるはずよ」

「そ、そりゃ、まだまだ、これからでしょ」

「そうよ。あなたならいつかきっと成し遂げることができる。それだけは保証してあげる。それでは行きましょうか」

リリアがそう言うと僕の手を握る力が少し強くなった。

「行くってどこにですか?」

「うん? とりあえずお姉ちゃんのお家に帰ろうと思って」

「そ、そうですか」

僕はそう答えるしかできなかった。そうこうしていた間にも、僕をここに連れて来た女性が、リリシアに倒されたはずのその女性に近づいていて、その女性の耳元に何か囁くと。女性はこちらを振り返った。そして「じゃあそろそろ、私は帰ることにするから、貴方達は勝手にすれば?」とだけ言ったのだ。しかし僕はそんなことを言われてもこの場で彼女についていくつもりはない為、その場にとどまることに決めたのだが、そこで女性の言葉を聞いた二人は、急に表情を変えてその言葉に返事をしていた。僕は二人が何を話したか全く聞こえなかった。それは多分声の大きさ的に小声で喋っていたんだとは思うけど。二人の雰囲気が一瞬変わったような気がして僕は動揺してしまう。リリアが僕を連れて帰ろうとしていたのはわかるが。僕はその場に残ろうとする。そこでリュカルナが急に現れた。しかも僕達のすぐ傍でだ。リリアはその事に気づいていたようだが特に驚きを見せることもなく、「おかえり、早かったんだね」と話しかけていたのだった。するとリュカルは僕に向かって挨拶をしてくれる。

「ああ、久しぶりだねリク君。無事で良かった。それでなんでここにいるの?」

「いえ、その、成り行きでここまで来たと言いますか。色々あったんですが」

「なるほどね。まぁリリシア様とリリィさんがいる時点でそうなるのは必然だっただろうからね」

「やっぱり、そうだったんですよね」

「うん、それでリリシア様にリリィさんまで一緒になって、こんな所で何をしているんだい?」

「え? それは、ですね。その──」

僕はそんな風に答えようと思っていた。しかし僕のその返答よりも先にリリアが答えていたのである。そして僕はそんな彼女に驚くばかりなのだが。そんな僕のことをリリシアが抱きしめて、その僕の顔を覗き込んできていた。僕はリリアの胸に顔を埋めたままの状態で彼女達から視線を逸らすしかなかったのである。そしてしばらくリリシアの抱擁を受けていた僕だったが。僕はそこでようやくリリシアから解放されたのであった。しかし、すぐにまた別の人物によって拘束されることになってしまったのである。そのことに僕が驚いていると。僕の視界には、金髪の女性が映り込んできたのだ。

僕は彼女の行動に対して疑問を抱くと同時に嫌な予感を覚えてしまっていたのである。そしてそれは的中することになる。彼女は、僕を抱き上げるとそのまま歩き出してしまったのだ。そうして僕が抵抗しようとしても。その人物はびくともしなかった。そして、僕は自分の意志とは別に移動を始めてしまう。リリスやリリシア達がその金髪の女性のことを止めようとはしたが、その女性はリリシアやリリア達に一切視線を合わせることはなく。まるで何も聞こえていないように僕の事を強引に連れて行く。

そうして僕はその女性の家の中に運び込まれてしまい。その部屋に監禁されてしまったのである。リリシアとリリアの制止を振り切った女性は、部屋の外から扉を閉めてしまい。鍵をかけると僕の方を笑顔で見つめてくるのである。

そうして、その女性は僕の身体の上に馬乗りになると。僕の事を押し倒してきたのだ。僕は突然の事で、どうすれば良いのかわからない状況で、女性のされるがままになっていた。僕は、その金髪の女性に押し倒されながらも彼女の顔を見ることが出来たのである。彼女は美しい瞳を持っており、綺麗な髪に整った顔立ちをしていて。美しい人だとは思ったが。彼女のその美しい顔が僕に恐怖を植え付けてきたのである。そうやって彼女が僕を見下ろしながら微笑んでいるのを見ていると僕は身体を震わせていた。

彼女は僕のことを逃さないようにするためか、僕の上に乗りながら腕を抑え込んでいる。僕はどうしてこのような事をされているのか。そしてこの女性は何者なのかと思考を巡らせていたが。やはり、この女性が僕のことを知っているとはとても思えなかったのだった。それにしてもなぜ、僕はこの部屋に連れてこられたのだろうか。そしてこの後何をされるのだろうと想像すると背筋に寒気を覚えると共に全身が熱くなるのを感じたのだ。

その瞬間、先程までの光景を見ていたはずのリリシアが──リリシアの姿が変化して【魔王リリシアス】へと変わると、即座に僕のところへと駆けつけてくれた。しかしそれと同時に。金髪の女性がリリシアへと視線を向ける。するとリリシアの動きは止まってしまった。

「ふぅん、貴方があの人のお気に入りなんだ」

「そ、そんなことは、関係ないでしょう。早く私の上からどきなさい」

「あらら? 私からしたら関係のない話じゃないんだけど。でもそういうわけにもいかないかな? だって今この子には貴方の事を諦めてもらえないかもしれないし。だから私と一緒に来てもらうしかないのよ」

「それは、無理よ。それに私は今、私だけのモノ。だから絶対に渡さない」

「ははは、そうやって、私達みたいな化け物を目の前にしても怯えないなんて。でも貴方があの人に選ばれたのは、この子が理由なんでしょ?この子がいなけれさえしなければ、この国を手に入れられれば。あの人は振り向いてくれるかもしれない。そうよね?」

「そんなことにはならない」

「ふーん、まぁそう言う事にしておいてあげるわ。それよりもいいの? このままだと私達の正体がこの子に伝わるかもよ?」

そう言ってその金髪の女性が僕を指さすのだが。リリシアは特に反応を示すことなく睨みつけている。そんな彼女を見てその金髪の美女は鼻で笑った後。「じゃあこうしましょうか。この子は貰って行くけど。あの人が貴女達の力を必要としている間は見逃すことにしてあげてもいいわ」とリリシアに向かって言い放つのだった。

僕はリリアーヌとリリーの会話を横で聞いていた。

僕としては【魔導師】としての力を得た二人と互角以上に戦っているこの女性の方が何倍も脅威に見える。そうやって僕がリリィに問いかけようとしたとき。リリアの口から衝撃的な言葉が出てきたのである。

「え? お姉ちゃんって何よ?」

リリィの言葉に僕は耳を疑った。だって、お姉ちゃんって事はこのリリアとリリシィアは血が繋がっていて家族だって事だろ? そう言えばさっきリリリィにお姉ちゃんって呼ばれて返事をしてたような? でもそれが意味するのは。僕がさっき見た夢のような映像は現実ってことだ。つまり、目の前の二人は姉妹で、僕が愛していると言っていたのは、実の妹のことだったということか! それに気付いた時。僕は思わず頭を抱えて座り込んでしまう。そして僕はそのまま、リリシアとリリアのことを信じられないという目で眺めるしかできなかった。そして二人のやりとりが僕の耳に届いていた。僕が絶望している間にも話は進んでいたようだ。そしてその内容を聞いて僕の心が締め付けられる思いだった。僕にとって大切な存在だったリカルが。死んでしまったという事実を知って。

僕の脳裏には僕と仲良くしてくれる友達の顔が浮かんでいた。僕の心の支えになっている人達のことが、頭を過って離れなかった。リカルだけではない。リリィやロト、それにリリィシアにリリシアもだ。僕にとってはかけがいのない友人達だ。そんな人たちが、リカルの事を死なせた奴らの手に掛かっていることを知って。悔しくないはずがない。しかもそいつらに捕まっているというのならなおさらだ。僕の感情が激しく揺り動かされた。僕の手を強く握っていたリリアの手の力が抜けていた事に気付いた時には僕は既に駆けだしていた。そしてその勢いのまま、僕が飛びついたのは── ──リリシアの腕の中だった。そして僕が泣きそうな顔で見つめている事に気付くと。彼女達はお互いに見合わせて。僕のことを安心させるような微笑みを浮かべていた。

──そうして、僕達はその場を離れることになったのである。そしてその場を離れてしばらくした後、僕の手を握りしめていた人物が僕に向かって口を開く。

「ねぇ、これからどうする?」

「どうしようか。そうだなぁ」

僕は彼女の言葉を聞きながらも考え込む。僕は彼女の事が気になってはいたのだが、今はとにかく、この場所から離れることを考えるべきだと僕は思っていたのだ。そう思ってから僕はリリアのことを見る。すると彼女の視線とぶつかったので僕は慌てて顔を背けた。僕は恥ずかしくなってつい顔を下に向けてしまったのである。

そして僕がリリシアと手を繋いでいる反対の方の手は誰かによって包まれていて。それはもちろん、僕の妹の、その小さな手で。僕はその事実を再確認したことによってさらに顔が赤くなってしまうのを感じていた。そうやって僕は彼女の方に目を向けようとするが。どうしても彼女を見れなかったのである。

なぜなら彼女は、とても綺麗になっていたからだ。いやもともと美しかったんだが。僕の前ではずっと子供のようだったのに。なのに今は大人のように美しく成長している。そんな彼女を見ているだけでも僕の心臓の鼓動が速くなっていくのを感じてしまっていた。そんな彼女から目が離せないのだ。僕は、妹に対してこのような感情を抱いている自分が気持ち悪く思えてしまって、自己嫌悪に陥りそうになってしまう。だけど彼女の姿を目に焼き付けておきたくなってしまったのである。そして彼女の姿を見たくて。そうやってリリシアの方を見てしまうのだ。しかしそうすると今度はリリシアのことが気になり始める。そうして結局、リリシアやリリアやリリアの姉に視線を奪われてしまいそうになるのだ。だから僕は、視線を動かさないようにして、なんとか落ち着こうとする努力をしていた。

僕は今の状況を整理しようと必死になっていた。だから僕は自分の意識にリリアを刻み付けるように、その美しい容姿を凝視してしまったのである。そうして僕の胸が高鳴っていく中。ふとした違和感を感じた。そのことに不思議そうにしながらもそのことに僕は思考を向けることが出来ていなかったのである。

──そうして、しばらく歩いたところで僕はようやく落ち着いてきた。そうして落ち着いた後に僕は今の自分の状況を客観的に見ることができた。そこで僕は、ある重大な問題に直面することになった。それは、僕の身体は、幼くなっていて、子供の姿になっていたということである。それもただの子供ではない。見た目は十代後半ほどだろうが。それでも身体の成長が完全に終わっていないのだと感じてしまったのだ。これはまずい、そう感じながらも僕たちは、どこかに向かって移動していく。そうやってしばらくすると視界の端っこで何か動くものが映った。

僕は咄嵯に反応して剣を構えるとその先を注視する。するとそこには人影のようなものがあったのだ。しかしそれはすぐに逃げていったのか。姿を消してしまうのだった。しかし今の反応で確信できた事がある。あれは恐らく敵側の者だろうと僕は考えていた。なぜならあの気配に覚えがあるからである。そして僕はそのことをリリティアに伝えようとして彼女に目を向けたのだが。僕は彼女が泣いていることに気が付いて。僕は何も言うことができなくなってしまう。リリティアが泣くのは珍しい事ではないが、いつもは僕を気遣うために無理に明るく振舞ってくれるのが常であり。こんな風に悲しむ姿を見るのは初めてなのだ。だから僕の心に動揺が走ると同時に、そんな姿を見せてくれたことに、嬉しく思う反面。やはり彼女は僕より強くてもまだ若い少女であることを思い知らされたのであった。

そんな状況の中。僕はリリアを一人にするのは不味いと判断すると、彼女を抱きかかえることにする。しかし彼女はそんな僕の行動を見て少し嫌がるような仕草をする。そんな態度を見せたリリアの表情はどこか暗く見えたが。僕はリリアから拒絶されたと思いショックを受けていた。しかしよく見ると彼女はそうやって僕の腕に抱かれることを拒否しようとしていたわけではなく。恥ずかしさから、抵抗しようとしていただけだったようである。だから僕が強引に抱きかかえたことで、観念すると大人しくなる。

そうやって僕は歩き続けるのだった。そうしているうちに。僕達が向かっていた先に大きな都市が視界に入って来た。

僕は今、王都に向かって移動をしている最中で。そして僕は、僕の隣で寝息を立てている女性の顔を見て驚いてしまう。だって僕の隣には。僕の妹の、リリアがいるのだ。

「はぁ、一体どうしてこうなった?」僕はため息をつくしかなかった。

僕が【聖騎士】の力を得た後、僕はリリシアとリリシアのお姉さんリリシアと一緒に行動を共にすることになっていたのだが。僕達の目的地である【王都エルドラド】に向かう途中で、魔物に襲われて。その危機を脱するために、お姉さんのリリシアが【魔法陣の魔眼】を使用してくれたのだ。そしてその時にリリシアの瞳から流れ出してきた魔力の奔流を受けた僕は意識を失った。

そして僕が目覚めたのが、この見知らぬ森の中で。僕の傍らにはなぜかリリアがいた。そうして僕はリリアに起こされると、僕はリリアとリリアお姉さんリリシアの二人に連れられて移動することになった。そして今僕達は王都を目指しているわけなんだが。僕はリリアのことが気になって仕方がなかった。というのも。リリアが僕と離れることを拒んだからだ。僕は、僕がリリアから離れないようにリリアが手を繋いできてくれていることにドキドキしてしまい。そんな自分に嫌悪感を覚えながらも、僕はそんなリリアの行動を嬉しいと思っていたのである。

僕達の目の前には広大な大地が広がっている。それは僕達が進む方向には森が続いていたのである。

「はははははははははははは」

突然僕達に襲い掛かってきた笑い声は、僕達のことを馬鹿にするような言葉を投げかけていた。僕はその言葉を聞くと怒りを抑えきれなくなり、その相手を倒そうと剣を構えたのだが。リリアがその相手に向かって走り出したのである。

「──な!」

僕の手を引っ張って前に出るリリアのことを僕は見上げるが、リリアは真剣な顔でその人物の事を見ていたのだった。その人物が、【英雄姫】と恐れられている、この国のお姫様だということはリリアが教えてくれたことだ。リリアの二つ名は『大魔法使い』であり。魔法のエキスパートでもあるのだ。だからこそ、その実力の高さを知っているからこそ、僕はリリアの行動に驚きと、そして尊敬を抱いたのである。そうやって僕とリリアが見つめている中でリリアはその男と向かい合っていた。

僕はそんな二人の姿を見ていることしかできなかったのである。そして僕は、二人のやりとりを聞き逃さないようにするのに精一杯で、周りが見えなくなっていたのであった。

リリアと対峙することになった男は、自分の事を魔王軍の将軍だと名乗る。そんな相手にリリアも名乗るのかと思ったら。彼女は相手の事を無視をした。そればかりか、彼女はその男のことを睨みつけて、そして、殺そうとするかの如く攻撃を放ったのである。

僕はその光景に絶句していた。まさか、僕の妹がここまでやるとは思ってなかったからだ。そう言えば以前。僕の妹のリリアリスと模擬戦をしたときに。彼女は手を抜いていたということを知ったのだ。そしてそんな妹の本当の力を目の当たりにしたときの僕の感情は恐怖で染まっていたのだ。

そう、僕の妹リリアリスとリリアの姉妹はとても仲が良くて。そしてお互いのことを認めあっているという関係性があったのだ。だからこそ僕の妹であるリリアはリリリスの姉に勝つことができたのだ。だけど。

──リリアは、本気で戦っていないのにリリリスに勝ったのだと。僕はその時のリリアの言葉を思い出していた。そうして僕の心の中で、リリシアはリリアに対して勝てるのだろうかという疑問が頭を過ぎってしまう。僕はまだ知らない。僕の妹が本当はどれだけの強さを誇るのかということを。

僕とリリアの二人は今まさに戦いを繰り広げていた。僕が呆気に取られていたせいか、いつの間にか僕達の周囲に他の人たちが集まり、僕達の戦いを見学するように取り囲まれていたのだった。そんな彼らのことを気にも留めずに僕はリリアのことを見る。そして彼女が放った風の刃によって。男の片腕が切り落とされたのである。

しかしそんなことでめげるような男ではないようで。その男は、リリアを追い詰めるために、リリアに接近するが。そうはさせないとばかりに、リリアはリリア自身を中心とした巨大な爆発を発生させるのだった。

僕は妹の姿を見守りながら、妹は凄いなと考えていた。しかし僕自身も、こんな風に戦うことが出来たらと、僕はリリアのことが羨ましく思えてならなかったのである。だけど僕が、今の僕に何ができるんだろうと考え込んでいるうちに、リリアが優勢になっていたのだ。僕はそんなリリアの様子を見ながら、今度、妹に稽古をつけて貰おうかななんて考えているのであった。

そうしていると、リリアにやられた男が地面に倒れると、「降参です。負けました」と言って、リリアの前に平伏したのだ。

「私のことは見逃してくれますね?」

「──っえ?」

僕の口から間の抜けた声が出るが、それは仕方がない事だろう。なぜなら僕は、今の出来事に理解ができていなかったのだから。僕だけでなく、周囲のみんなも同じような表情をしていたと思う。

そしてリリアの方を見ると、そこにはもう彼女の姿はなかった。そうして彼女は忽然と消えてしまったのである。

「あの人いったい何者なんだろう?」

僕はそう口にすると首を傾げた。すると僕の背後にいたらしい、先ほど僕に話しかけてきた女性が声をかけてくれる。その女性の話を纏めるとこうだった。彼女はこの国の王女だという。そんな彼女は【勇者リリア】をずっと探していて。そして、この国の姫君リリアをようやく見つけたから声を掛けたということだった。僕はそんな彼女に対して興味を持ってしまったのだ。そして僕たちは彼女と行動をともにすることにした。そう、僕たちは旅を続けていく。この世界を救うための旅へと出発するのだった。

私は今【聖魔女】の姿に戻って、とある村に向かっていた。私が訪れた村は私がかつて支配しようと企んでいた場所なのだが。しかし既にそこは、別の人間の手に落ちていたのだ。しかもその人間の勢力はかなり大きく。この大陸全土にまで広がっているという話を聞いて。

──そして私は考えたのである。この大陸を統べる存在に会えば何か分かるのではないかと。だが、今の私の力ではこの世界に平和をもたらすことは出来ないだろうと、そのことに気が付いたのだ。だから私は新たなる戦力を得ることにした。

【聖魔】の力を得た彼はかなり強かった。でもそれは、あくまでこの世界での話。彼がいた元の世界でも強いのかどうかは分からないのだ。なぜならば彼の力はあまりにも強力過ぎるからだ。

だから私は再び彼を手に入れる必要があると考えたのだ。そのための準備のためにこの村にやって来たのだが。しかしそれは無駄足に終わってしまいそうだ。なぜならここにはこの国の王がいて。そしてその人物には、強力な加護が与えられているからである。

その能力の名は、絶対の忠誠心である。これは相手の心を完全に操り。自分の思うままに行動させる能力であり。その効力は非常に恐ろしいものだといえるだろう。そう、一度洗脳されてしまった人間は、二度と正気に戻ることは無いとされているからだ。そのことから考えてもこの国は危険すぎる。

「ふむ、ここは引き下がるべきか?」私は独り言を口にすると。今現在【聖女リリシア】と行動を共にしているであろうリクのことを思い浮かべた。そう考えると、ここに長居するのはあまり得策ではないか?と感じるようになっていたのである。そうしてしばらく考え込んでいた私は。

「まぁ、いいか」とつぶやくと、次の目的地である町に向かって移動を開始する。

そうやって【聖魔女】リリシアは王都を目指して歩き続ける。

僕達は【王都エルドラド】に到着した。僕はそこで【王都エルドラド】についてリリシアから聞いたのだが。どうやら、僕達が今いる【王都エルドラド】には三つの都市が存在していて。それぞれの都市の長が都市全体の代表者を決めることになっているのである。その三都はそれぞれが競い合い発展して、より都市の規模を拡大させていっているのだという話だ。そして王都は、最も発展した都市であるために王城が存在しているのだ。僕が今歩いている通りの名前は【大通り】というらしくてその道を真っ直ぐに進んで行くと。大きな門が姿を現した。その大きな門に視線を向けた僕は驚いてしまう。というのも。門の左右に立つ兵士が槍を構えた状態で直立不動の姿勢を取っていたのである。

そして門の奥にある街並みを見てみてさらに驚くことになったのである。何故ならば。街の中心に建っていたはずの巨大な建物が破壊されて無くなっていたのであった。僕はどうしてそんな事態になっているのか分からず混乱していた。だって僕はついこの間まで【迷宮主】をやっていたはずだ。それなのにどうしてこんな街のど真ん中に立っているのか不思議でしょうがなかったのである。僕はそんなことを思いながらも、目の前で起こってしまったことをどうにかしなければと考えていたのだ。そう考えていると僕達に声をかけてくる人物が近づいてきた。その人物とは、この国で一番偉い存在である【王都エルドラス】の領主の執事さんだったのだが。

彼は突然頭を下げ始めたのである。そんな彼に僕は慌てるのだが、僕の隣にいた、リリアは、特に動じることもなく。

「お久しぶりですわ。ご機嫌はいかがでしょうか?」

と笑顔を見せながら相手に挨拶をしたのであった。

◆ リリアが相手との会話を始めた時、僕はとても緊張してしまい、何も話すことが出来なくなってしまったのである。だけど、そんな状況の中でも僕に対して相手側の人たちも親切に対応してくれていた。そして相手が落ち着いた後に、僕は気になっていたことをリリアに質問した。

「リリア、この街では何があったの?それに破壊された建物は、もしかしてリリィちゃんのお父さんが建てた屋敷だったりするの?」

僕は、僕を召喚した時に一緒にいた女の子のことが心配になりそのことを聞いてみた。

するとリリアが少し悲しげな表情を浮かべたので僕はそれ以上聞くことが出来なかったのである。

僕が困った表情をしているとリリアが微笑みをこちらに向けてくれた。僕はそんな彼女の優しさに安心してほっとしていると。僕の隣で話を聞いていたリュカルが声を上げる。

僕はそんな彼女の様子にびっくりしていると、彼女は僕の手を握る。そうして、僕はリリアに連れられてその場を離れていったのである。僕はそんな二人を見送って、その場に一人残された。

そうして僕はこれからのことを考えながらリリアの後ろ姿を眺めるのであった。

「はあ、なんかすごいところに来ちゃいましたね。私にはまったく馴染みのない光景です」

「えっと、その言葉使いはちょっと不敬じゃないですか?」

「ああ、すいません!つい、癖みたいなもので」

リリアの従者の一人は慌てて、口調を改めると謝罪の言葉を僕達に告げる。僕は苦笑いをしながら「はは、気にしないで下さい」と言うと、彼女の方を向いて改めて自己紹介を行うことにしたのだ。僕は彼女に僕の名前を教えることにしたのである。そして僕は自分の名前を彼女に伝えると、今度は彼女達の名を教えて貰った。まずは僕の横にいるリュカリスに。彼女はリリスとリュカリスの姉妹であるらしい。そして、リリスの方が姉であるようだ。そして彼女の隣に控えているのは姉のリュカリリスである。この姉妹は元々奴隷商人の商品として売られていたが、僕が買い取ったことで、今はリリアに仕える使用人になってもらっていたのである。

ちなみに、彼女たちは、僕の奴隷ではないのである。なぜならば僕の【呪印】にそんな効果は付与されてないし。僕にはそもそも、奴隷を持つつもりなんてなかったのだ。僕は奴隷という制度を快く思っていなかったのだから。だけど、リリアはどうしても、と言い張り、そして他の二人の女性も僕に忠誠を誓ってくれていたので。こうして、僕達の仲間に加わっていただいたわけである。

僕は、リリアの横に居るリリスのほうを見る。リリシアのことはリリスが説明してくれたのだが。リリアリスのことはまだリリシアから詳しい話は聞けていないのである。なので僕はそのことについて彼女から色々と聞こうと思った。だけどその時にリリリアが僕の側に歩み寄ると僕の耳に口を近づけると、リリシアのことが気になるようなそぶりを見せるので僕は彼女を家の中に招待することにする。

僕がリリアと一緒にリリシアのことを家に招き入れると、そこには既に僕の仲間の一人である【剣姫リリアーナ】の姿があって、僕の家族である、リュカ、クレア、ルリカと共に、仲良く遊んでいたのである。僕はその様子を見て心の底からホッとするのだった。僕はこの家の中にいる全員の事を家族のように大切にしたいと思っていたから。そして僕はリリリアに、彼女がなぜここにいるのかを聞いた。リリアはリリシアと話がしたくてここに来たのだと言ったのである。

僕としてはそんな危険な人物とは会いたくないのだが、そう言うと、リリアから。僕と離れないから、大丈夫だと言われたのだった。そうして僕がリリアと話をするために、この部屋を出て、そして戻ってきたときにはすでに。リリシアは、僕の家族の一員になってしまっていて。しかもなぜか、マギルアや、レイラとも打ち解けていたのである。

そして僕はリリシアに、【勇者】の力があるのなら、この大陸を救ってほしいと頼んだのであった。するとリリシアは少し困った顔を見せてくれたのだが、その後で何かを考え始めてしまったのだ。そんな彼女の様子を不思議に思った僕は、しばらく彼女の様子を見守ることにしたのである。

僕達は王都エルドラドの郊外に広がる、森の入り口に立っていた。僕はこの場所にたどり着くまでの間にリリアやリリスから色々な話を聞いたのだ。どうやら、【王都エルドラド】には王都に住む人々を守る【騎士】と、その配下の者たちが存在するようで。彼らには階級が与えられていて。【騎士】の下に【兵士】、その下は【従士】となっているそうだ。【王都】に存在する貴族たちの中には【騎士】の爵位を持つ人物が存在していて。そしてその中には当然、領主と呼ばれる貴族も存在するそうだ。その人物こそ先日僕が戦った【魔族領エルディア】の王城に存在した魔将軍である。僕はこの国に着いてすぐにそのことに気が付いたのである。

そのことから僕は、あの【王城】こそがこの国の中枢だと予想した。そうして僕は今ここに立っているのだ。僕は【王都】の街の景色を眺めながらリリスに尋ねる。

「ねえ、ここから一番近い【迷宮主】の館ってどこかわかるかな?」

僕の言葉に、リュカリスが「リク殿の望む場所を私は知っている。ついてきて欲しい」と言うと。僕達を先導してくれるように歩き始めたのである。僕達が歩き出すと、その横を【聖魔女】であるリリアと【剣聖】のリリイが付いて来ることになった。【王都】に到着したばかりだというのに、僕達の周囲がかなり物騒な気配に包まれていることに気づいたのは歩き出してすぐのことであった。

そんなことを思いながら僕達は街外れに向かって歩を進めていった。僕達が今歩いている【大通り】の両脇は綺麗な町並みが並んでいた。だが、そんな街並みに目もくれないで僕達は足早に進む。そしてたどり着いた場所は王都の中心街よりも離れた場所にあった【大広場】だ。そこでもかなりの数の兵士が待機していて、王都内で起こったことに対して警戒を強めていたのである。

僕達の姿を目にして、一人の兵士が声を上げてくる。その瞬間に周りの兵士が一斉に動き出し、リリア達を取り囲む。僕はそんな彼らに向けて叫ぶ。

「待て!彼女達に攻撃するのは許さないぞ!」すると僕の声を聞いてか。彼らは一瞬戸惑いを見せた後で。僕達に武器を向けてきたのである。僕は彼らの反応を見て、やはりリリア達のことを良く思ってはいない存在が、この国の中にも大勢いることを理解すると。僕はそんな兵士達に対して【真魔王之杖:アルデバランノツカイ】を突き付けて、彼らを威圧することにした。僕は、【魔王覇気】を発動し───

「お前たちの主人に伝えろ。俺の名はリリシアだ!リリアに伝言を伝えなければ、このままこの街を破壊する、とな!さあ早く行かないと手遅れになるぜ!じゃあな」と叫んだ。

僕がそういうと。兵士たちはすぐに動き始める。そして王城の方に走っていったのである。

僕はそんな様子を確認して【転移門】を開くと。リリア達の方を振り返る。

「とりあえずリリア達の事は僕が責任を持つよ。リリスは、リュカリスに色々教えてあげて、僕とリュカリスは先に屋敷に向かうことにするから。リリア、後はお願いしてもいいかな?」

僕がそういうとリリシアは僕の側に寄ってくると、僕の耳元で囁いたのである。

「私の事まで気遣っていただいて感謝いたします。それと、屋敷の件については承知いたしましたわ。リリスさんとリリィちゃんはお借りしていきますね。リリィちゃんがとても喜んでおりましたので。あと、リリスさんのこともよろしく頼みます。私には姉妹がいないものですから姉妹がいる生活というのがどんなものなのか知りたくって。それにリュカリスちゃんも一緒に居たほうがリリィちゃんにとってもいいと思っていますからね。でも本当によろしいのですか?私達も一緒について行って。正直申しましてリリシア様と二人で行動するのは、危険が伴うと思いますけど」

リリシアが僕に問いかけると、僕は笑顔を浮かべる。「リリシアに僕以外の友達が出来れば良いと思っていたんだけど、なかなか機会に恵まれなかったみたいで、ずっと寂しかったみたいなんだよ。だからこれからは僕がリリシアのお兄ちゃんになるから、僕の事を好きにしてもらっていいからね」と僕が告げるとリシアが微笑みながら「では早速ですけれどリリア姉様に会えるなんて感激です。こんな素敵な妹ができたと自慢させていただきたいですね。もちろんリリスちゃんも大好きですよ。だって二人は同じ名前ですもんね。双子なんですよ。そしてこれからもずっと仲良しでいて下さいね。そしてできれば私のことはリシアって呼んで下さい。なんだかもどかしくて恥ずかしいですから。リリス姉様にはもうすでに、そう呼ばせて頂いておりますけど。それでリリシア姉様のことはリリシアと呼べば宜しいでしょうか?」と嬉しそうにリリアとリリシアに語りかけるのであった。そんな彼女の姿をみてリリシアは微笑むと「ええ、勿論ですよ。それでは、皆に自慢できるように。まずは姉妹らしく手を繋いで行きましょうかね」と言って、二人揃ってリリアの手を取り、僕が開けた【扉】の魔法陣の中に消えていくのだった。

そうして僕は三人を見送った後にリリアの方を見ると、なぜかリリアは不機嫌そうな表情をしていたのである。

僕達は王都に辿り着くとまずはリリシアに王都を案内してもらうことになった。僕達は王都の入り口にいた兵士に声をかけられたのだが。その兵士にリリシアから伝言があると告げる。

すると、王都の警備兵を統括する指揮官から話を聞きたいという連絡が入ってきたのだ。僕はそのことについて了承の意思を伝えると。すぐに兵士と面会する運びになった。僕はそんなリリシアの後をついて行く。そして僕はある違和感を覚えるのである。それはこの国の王城の雰囲気だ。王都の城門の周辺には【魔族】と思われる存在や、冒険者達が多く集まっていた。しかし王都の中心街はというとその雰囲気は一変していたのだ。そしてこの王都にいるのは、王都に住んでいる貴族と【騎士】と呼ばれる人々だけなのだそうだ。

そんなことを考えながらも僕はリリシアと一緒に歩く。しばらく歩いていると大きな建物が姿を現す。どうやらこの建物こそが王城であり。王城の中には【魔将】や【魔人】、それに【魔族】の姿が確認できるのだが、僕達が入っていくと、彼らはこちらに気が付くのだが、なぜかそのまま通り過ぎてしまうのだ。僕としては何かあったら怖いから【真魔王之剣】に手を掛けておくが、僕と、リリシアには目もくれずに素通りしていく。僕が疑問を抱いているうちに謁見の間にたどり着いたのであった。

リリアの【転移門】を使って、【王都】にたどり着いた僕ら。

僕が作り出した【空間収納】の中にあるはずの、僕の家がある場所にたどり着いたはずなのに、なぜかそこには見覚えのある【転移門】が存在していたのである。

僕とリュカリスが唖然としているとリリアは。リュカリスに「どうやら貴方は、ここに住んでいたみたいね」と言い出したのだ。その言葉を聞いてリュカリスは驚きを隠せないでいるようだったが、すぐに気持ちを切り替えたようで。リリアと会話を始めるのだった。そんな二人のやりとりを聞いて、僕が、どうなっているのか質問したところ。リリアは少し困った顔を見せてくると。

リリスに目配せをして、リリスが僕に向かって口を開いたのである。

「あの【門】は、【王都】に存在する、【王】の屋敷に繋がっています。つまりここはリリシア殿の屋敷なのです。リリシア殿とリリス殿はこの屋敷で暮らしていたようなので、この王城にある転移門の事も知っていたのでしょう。リリリスちゃんもこの事は知っているようですし」

その説明を聞いて僕は、納得をする。この屋敷の内装を見た時から思っていたのだが、王城とは思えないほど豪華な作りになっていて。僕が住んでいた【迷宮主の家】よりも、立派な作りになっているのを不思議に思っていると。リリスがその理由を教えてくれたのである。この【王国】の王都で暮らしている人達が住んでいる場所は全てこのような感じなのだとか。そういえば王都には冒険者や【魔王】などが存在する。そしてその中には【勇者】の称号を持つ存在もいたわけだし。そんな存在が住む場所は王城のような場所になるのだろうなと考えを改めることにしたのである。そんなやり取りを終えて、リュカリスと【聖魔女】リリリアが王城に足を運んだ目的を確認する。そして、王都の状況を確認し、王城内の様子を窺うことにしたようだ。

王城の様子を見たところ、【聖剣】を手に入れる為に乗り込んだ【聖都リリアン】とは違い、【王都】の方が活気がないように感じられる。僕達の侵入に気づいた兵士が駆けつけてくるのだが。僕は兵士たちに敵意がないことを伝えるためにも【真魔導衣:ディアボロダレスキメラメイジ 】のフードを取る。それから武器も収納して丸腰であることもアピールすると、僕はリリシアに向き直り──「さてこれからどうしようか?」と語りかけると彼女は微笑み返して僕達に向けて提案してくる。

「この場でお話しすることはできませんから私の執務室に案内しますわね。それにリリシアの知り合いに会いたいのです。この屋敷の地下にいますから」そういうと僕の返事を待たずに歩き出すのであった。

地下への階段を下る途中。この場に存在している【魔将クラス】や【魔王】らしき者達からの視線を感じていた。僕とリュカリスを【魔王覇気】の気配だけで警戒していたからだ。

そして僕は先ほどの【転移門】のことを思い出した。王都の地下は、この王城と同じ構造なのだろうと予想できた。僕は【転移門】で別の場所に移動して、この場所で戦闘が起こらなかったことに感謝しながら。僕に警戒感を抱く【王都の住民達】を横目に階段を降りていった。

そして僕はあることに気づく。リリシアは【転移門】が使える。つまりこの屋敷がリリシアの住んでいた家だということは確定的だと思う。ということは、ここに僕の【真魔人化 モード リリシア】が眠っている可能性があるということ。もしかするとリリスの本体が眠っていて、それがこの世界に来てしまった場合の事を考えると非常にまずい。なぜなら【リリスの本体はリリスの魂の中に取り込まれている状態であり、肉体がない状態でリリスが存在しているのと、同じことになる】からである。そうなると、今僕の隣で嬉しそうにしているリュカリスは、僕の体と【融合合体】することで。本来の力を取り戻すことができる。しかしそれはそれで危険だと思える。リリィとリュカリスは元々一つの存在として存在しており。それを切り離して今の状態を安定させている状態であるから。どちらかというと不安定であるのだ。だから今は安全でも、今後何が起こるかわからないというリスクが発生するわけで、リュカリスにも危険を及ぼすかもしれないと考えるに至ったのだ。僕はリュカリスを自分の側に寄せるように手を引くが彼女は笑顔を見せるだけだが嫌ではないらしく大人しく従ってくれたのである。そしてそのまま歩いているうちに目的地に到着したようである。その部屋に入ると、中には女性が四人と男性二人が座っていた。そのうちの三人はそれぞれ騎士服姿の男女だったのだが──女性の一人が「まあ! まさか本物の【姫様】だわ!」と言って立ち上がったのだ。その声を聞いた残りの面々も立ち上がりリリスに頭を下げたのである。

その光景を眺めていた僕は、僕の後ろにいるリリスのことが心配になり彼女の方に振り返ると──彼女も僕のことを不安げに見上げていたのである。僕は彼女に、「大丈夫。リリシアは君の事を知っているんだし」と伝えると、少し安堵の表情を見せてくれるのであった。

そうこうしている間に【騎士の格好をした女性達】から【リリアの母であり、元魔王のリリアナーテの妹であり【王】であるリシアリーゼ=アルフォーニ】の紹介を受けたのであった。僕とリュカリスはそのことに驚き、慌ててその場で挨拶を行うと。なぜか【騎士服を着ていない男装をしているリシアリーサ=エルレイン】も僕達に名乗ってくれて。僕に握手を求めてきたのである。僕は戸惑いながらもリシアリーサの手を握る。

僕はどうしてリシアリ―さんがこんな場所にいるのかが理解できなかったのだ。だってここはリリシアが住んでいた場所で。しかも彼女がこの国の【王】だということがわかったばかりなのだから。そんな僕が戸惑っているとリシアリーリさんは、突然にリリスに向かって話しかけ始めたのである。

「この子から話は聞きました。貴女に頼みたいことがあります。私とリリスちゃんとこの子を一緒に旅に出てください」

その話を聞き僕は困惑を隠せないでいたのだ。そんなリリスに助けを求めるような視線を向けると。僕に目を向けたあと、ゆっくりと首を左右に振ってリシアリ―さんの話を受けることにしたみたいで、僕に別れを告げるかのようにリリスに笑いかけてくる。それを見てリュカリスは不満顔を見せていたのだが──すぐに気持ちを立て直すと、僕に何か言いたそうにするのだけど。すぐにその感情を抑え込んだのである。

そんなやり取りを行っている中。一人の女性が、僕とリュカリスに興味があるようで、近づいてくるのである。それは僕達が、この王城にやってきた目的でもある【聖剣】を持っている騎士のようだったのだ。僕がこの【王国】に来た目的は【聖剣】を手に入れる為だったので。僕もリュカリスもその騎士の方に向き直るのであった。

リリシアの屋敷の一室では僕と【リリアナの父であり【聖魔王リリアロード】であるリリシアの祖父である、王【リリスロード】と、【リリアの双子の姉で元魔王のリリアーナの片割れである、【リリスリーナ】、そして、この国の王女【リリスリーナ】】の三人が向かい合っていたのである。

【王国王都リリアーゼ】でリリリスが暮らしていた部屋にたどり着いた僕達は、そこでリリスとリリスリーザを対面させて。その後に僕達を王城に連れてきたリリアーナが。僕達のいる部屋の扉をノックすると。すぐに部屋の中に入ってきたのである。その姿を見て僕は、リリアは、リリアの身体を奪い取り、僕の前から姿を消したあの日の出来事を思い出してしまうのであった。僕は、すぐにリリアに駆け寄り抱きつきたくなる衝動を抑えるが。そんな気持ちを察したリリスは、リリアを抱き寄せると僕に向かって「私がここにいる以上。もう二度と貴方には近づかないで頂戴ね。私は私の好きな人のそばにいたいだけなのよ。それが私の本音なの」と言い放つ。

そんな二人を見つめながら、リシアリーは微笑み。「やっぱりリリリスちゃんの事を一番わかっているのね。リリスちゃんは」と言い。リリシーリはリリスとリリシアに歩み寄ってくると。僕に話しかけてきたのである。

『さっきぶりですね』

その一言に僕は、驚くのだが。僕が、なぜリシアさんは僕のことを知っているような感じで話をしてきたのかわからず、困惑した。なぜならこの人は僕の前に現れたことは一度もなかったはずなのだから。そしてそんな僕の様子を見ていたのか、リリシアリーが。「実は私たちが【聖都リリアン】の【王城】に侵入しているときに。あなたがこの国に訪れたという話がリリシアに伝わってね。それで、この子に会わせてほしいとお願いしていたの。そしたらリリリスちゃんが、この子がここに来るから会いに行くって聞かなくて。だからリリシアとリリシアリーとこの子に会いに来ていたという訳なの」

そういうと僕に笑みを見せたのであった。それから彼女はリュカリスの方に向き直り、

「この子のことを任せても大丈夫?」とリュカリスに声をかけたのである。

すると、

「任せてください!」

元気よく答えると、僕を引き寄せ、頬を擦るようにして甘えてくるのであった。

僕達の前にいるこの【リリス】は僕のことを見据えると「私の名前はリリアリスです」と名乗りを上げ、僕も同じように名乗り上げる。そして、リュカリスと、リリアナと、リュカリスに抱かれたリリリスにリリシアリーと、リリスのお母さんであるリシアリーさんの視線を受け。僕の方も視線を返して見据えると──「さて、この場でお話しすることではありませんが、この国の現状はご存知ですか? それとこれからのことを話しましょう。まずは私の執務室に案内しますのでついてきてくださらない?」と言う。

僕は彼女の言葉を受けて、僕以外の全員に意見を求めるように視線を送る。

そして、

「僕はリリシアと一緒に行動するから問題ないと思うけど、リシアさんはどうするのかな?」

僕がリシアに語りかけると、

「この国の状況をもう少し把握したいので、少し調べておきたいのです。この国にリリリスちゃんと一緒に行ければ助かるのだけれど」と言ってきて。僕もそれに同意するようにうなずくのだった。その僕の反応を見ていた【リリス】は僕に向かって手を差し出してくると。

『──この手を取れば、この子についていくしかありませんわ。この手を取りなさい』と僕に向かって囁いてくる。

そして僕に向かって妖艶な瞳で見つめてきたのだ。僕はそんなリリスの瞳を見た瞬間。吸い込まれるような感覚に襲われ。僕の思考が奪われると同時に体が動くようになり、リリシアの手を握る。その行動が当然だと信じ込むかのように自然と行った行為だったのだ。そんな僕の手を握っているのは、いつの間にか僕の背後にいた【聖魔騎士 リリシア=エルレイン】だったのである。彼女は「やはり、私の意思が宿ったこの子にも影響がありますわね。私と一緒のこの子は、リリスちゃんの力の影響で操られているみたいですね。でも心配しないで、私が元に戻せるわ。私ならできるのだから。安心しなさい」と僕の耳に囁くのであった。その言葉で僕の頭も徐々に働き出すと。

そんなリリシアの言葉を聞き、自分の意識が戻ってきたことに気づく。そんな僕の様子をリリシアリーは心配そうに見下ろしてきている。

「────っ、あっ、リシアありがとう」

僕の呟きを聞き、 リリシアは嬉しそうに微笑んでくれるのだった。そんな二人の様子を目の当たりにしていたリリスは僕の方を冷たい眼差しで睨んでいたのである。そのリリスの表情は先程までの優しい女性の雰囲気などではなく。冷たく、感情を感じさせないそんな顔であった。そんな彼女を見てしまった僕だが。すぐにリリアからもらった指輪の効果を思い出すと。その効果は発動しているのだとわかり。僕は心の中で感謝をしたのだった。そしてすぐに気持ちを立て直すと。僕はリシアの方を見て。リリアとの会話の内容を思いだし。彼女に話しかけたのだ。

「僕に出来ることはあるかい?」と問いかける。

すると、

「今から話す内容は、この子たちに話さないようにしてください。いいですね」と念押しされてしまい。僕は黙っていると、「ではこの子たちの質問に対して素直に答えてください。嘘はつかなくても結構です。それと、この話を聞いて、もしこの子たちが貴女のことを信頼できないと判断すると。この国から追い出します。よろしいですね」と僕に告げ。僕が無言でうなずいて返すと。「では、貴女はこの子たちを連れて、王城から出て行ってください。私の指示が終わり次第。また王城に来るとよいでしょう」と言って、その言葉を僕に伝えると。リシアが突然僕を抱き寄せ。「大丈夫。絶対に貴方をここから追い出さないわ。約束よ」と言うと、突然、視界が切り替わるのであった。僕はリリアから受け取った力の影響だと思いつつその光景を見ると、リシアと【リリシスロード】の二人はその場に残っているようであった。

リリアーナは僕の腕を掴むと。僕を部屋の外に連れて行き。そのまま部屋から離れてしまう。僕はリリアからの加護の力で強制的に転移されたみたいだと思った。そんな事を考えているうちにも、リリアは僕の手を引っ張り歩き続けていたのである。

しばらくして立ち止まるとその部屋の扉を開き中に入っていくのであった。そこは、大きなベッドと机しかない部屋であった。そしてそこには、僕達のことを待ち構える人物の姿があったのである。

「待っていたよ」と言い放ったのは【聖王】リリアロードであり、その横には【勇者】リリアリーナが立っていたのだ。僕は慌てて立ち上がり二人に向かい合うのだけど。僕の隣にいるはずの【魔王】の気配がなかった。

(あれ?)と思いながらも「どうしてここに?」と疑問を口にしてしまうのだが。

それに対してリリアが、

「ここは【聖王】様がおられる場所だよ。ここ以外に貴方が行く所があるの?」と言い放つと、僕の顔を覗き込んできて。

そしてすぐに「この人って本当に【リリアーナ】の事が好きなんだね。リリアちゃんもリリアちゃんで。この人にべったりだし、まぁこの人の事、信用していないからわかるんだけどね。リリアちゃんは私と同じリリアーナちゃんの事大好きだから」と言う。

僕はその一言を聞いた時、すぐにこの人が僕が会いたいと望んでいた相手で間違いないと感じてしまうのである。

「僕はリリアリーナ。貴方の事はリリアリーナから聞いたから知っているんだよ」と言う。

その一言で僕の緊張が一気に解れ、リリアの友達であるこの子ならば僕も気楽に接することができると感じたのだ。

それからしばらく雑談をしていると【聖王国リリアン】の王城内にいることを教えてもらい。僕が、【リリアン】に来た本当の理由を伝えると。彼女は真剣に考えてくれて、そしてこう口にしたのである。

「この国で起きている問題を解決する為の力を授けることは簡単だよ。だけど、この国には魔王がいない。魔王の力がないと、私達の力は半分程度しか使えなくなる。それでもいい?」

僕はそんな言葉を聞くと同時に考えると、リシアが教えてくれた話を想い出し。この子に協力をしてもらうことに決めたのであった。そして、協力してくれるのであれば僕にこの国の問題を解決して欲しいと言うと。彼女は快く了承してくれ。僕に「この国をお願いね」と声をかけてくれると。僕の手を優しく握りしめる。それから僕たちは【王都リリアン】の外に出るために、リリアと共に移動する。するとそこにはすでに【真聖勇者】のリリアリーナの姿があり。僕達を待ちうけるように見据えてくるのであった。

僕は、この【リリアリーナ】という【聖王】に。この国に何が起きたのか?と聞く。リリアは僕が【魔王の呪い】の封印を解く際にこの国に訪れていることを知っていたらしく、僕達が出会ったあの日の出来事を説明してくれたのである。

リリアがこの国の王女で、リリアリナーは僕と一緒にこの国を訪れたリリアの親友であると聞かされる。そして、リリアリスは【聖王国リリアン】の聖王の座を引き継いだらしいが。なぜか、僕や僕と関わった人たちに対して異常なまでに敵意を抱いていると教えられたのである。その理由を問いただすと「リリアリーナは私の大切な友人なの。そしてリリィと私が一緒にいた時にリリアナに助けてもらってから親友になりましたの。その大事なリリィを傷つける人は許せませんの。それにこの国では、今大変なことが起きていますの。それのせいなのか、この国に訪れる冒険者や旅商人などが激減していますわ。その原因を調べようとこの【リリアン】から出ることも禁じられてしまいましたの」と言うと、悲しげな表情を浮かべている。その言葉を聞いたリシアも「この国はリリアスと私の故郷でした。ですから何とかしたいと思っていますの。そのためにこの国を出るために準備をしていたのですけど、出られなかったのですわ」と残念そうな声で呟く。僕はそんな彼女たちの話を聞いた後、 リリアリスのことを調べる為に、

「──わかったよ。じゃあ、まずはリリスに会おう」と言うのであった。

「わかりました。リリスなら何か知ってるかも知れませし、私達もこの国に起こっている異変について知りたいので。リリスに会いに行きましょう!」と言うと、すぐにリリシアが僕に抱きついてくる。

そんな僕の隣にいるリリアもリリアナもリリアリーナも、リリアの言葉を聞き、すぐに僕に抱きついてくる。リリアは「リリアはずっとこの日が来るのを楽しみにしてたんですよ! やっとリリアと遊べるんだもん」と嬉しさを隠さずに僕に訴えてきたのだった。リリアとリリアナが嬉しそうにしている姿をみていると、なんだが微笑ましい気持ちになると同時に、僕の腕の中にいる二人が可愛くて仕方なくなってくる。リリアーナはリリアリと顔がよく似ているのだが。髪の色が違うし性格が全然違う。でも二人とも凄く可愛いのだ。そんな二人の髪をなでているとリリアも、

「リリアも、リリアの事を好きになってくれたら嬉しいな」と言いながら僕の腕を取り胸元に押し当てると、僕の腕を自分の手で押さえつけるようにしてくるのである。

そんな様子を見てしまったリリアーナがリリアに「ちょっと、なんで私も抱きしめてもらえてるのに、リリアだけなの?」と文句を言うのだった。

「えへへっ。ごめんなさい。リリアは昔からこの人の事を知ってますから、リリアーになら譲ってあげても大丈夫かなぁって思ってますの。リリアとリリアは双子だし、きっと仲良くなれますもの」とリリアは笑顔でそう言うと、今度は僕の後ろに回り込むと背中からぎゅっと抱きしめる。そんなリリアを見ていたリリアーナが「リリアの裏切り者~。もう絶対に、絶対に許さないんですからね」と涙目になっている。

「ま、まってリリアリーナ」僕はそう言うと、「んー」とリリアは少し考えたあと。僕の唇にキスをすると、「これで、今日からリリアがこの人の奥さんだよぉ。リリアもリリアーナの事が大好きだもん」と言い。僕の腕を抱き寄せ、リリアリーナの方を見る。するとリリアーナも負けじと僕に抱きつくと、僕に頬ずりしながら、「私だってリリアが大好きだよ」と言うのであった。そしてリリアが僕の首筋をペロッと舐めてきて、僕はびっくりしてしまい体を震わせてしまう。するとリリアが僕から離れ、リリアと入れ替わるようにリリアーナが僕に近づいてきて、僕の腕を強く握りしめてくる。その手からはリリアーナの強い力が伝わってきており。僕の体に痛みが走るが、僕はそれを気にすることなく。「ありがとう」とお礼を告げると、リリアとリリアーナはお互いに笑いあうのであった。そんな彼女達のやりとりを見ていると、やっぱり姉妹だなと思うのである。リリアは本当に明るくて素直で優しい。僕なんかのことを好きでいてくれて、こうして僕の為にここまで駆けつけてくれた。その事にとても嬉しく思ってしまう。

それからしばらく僕達は雑談をして。この国の状況をリリリーナに教えてもらう。この国の状況は僕達が【勇者】の神殿で出会った時から変化していないようであった。

「──じゃあそろそろ行きましょう。まずは聖王城に、そこでこの国の【聖王】様に会って話を聞かないといけませんわ。それでその後どうするかを決めませんと。この国では、あまり自由に行動ができないですから」

リリアンがそう言い放ち移動を開始しようとした時、急にリリアーナの足元が輝き始める。その光景を見ていると僕の体から、何かが流れていくような気がした。

そして光が消えると、リリアーナがその場に座り込んでしまい、僕にしがみ付いてくる。僕はそんなリリアーナを心配するのだが、リリアーナがすぐに「平気だよ。【魔装化】して、この城の中に入ったから疲れちゃったんだ」と言うと、僕から離れて立ち上がり僕に向かって「リリア、また後でね」と言うと、僕達と別れて走り去っていくのである。そしてリリアリーナとリリアの二人は手を繋ぎ僕にお辞儀をすると言ったのである。

「この度は助けていただき本当に感謝していますの。私はこの国が本当に大切なので貴方に協力させてください」「私もリリアを助けてくれた人に協力するのが、私の義務だと思い協力するよ。リリアは、本当に大事な友達で、私は友達として力になりたいんだよ」とリリアがリリアリーの側に駆け寄り嬉しそうな声で話すと、僕に「この国に来てくれて、私を見つけてくれて、友達と言ってくれたリリアと出会えて、そして私の事も友達だと認めてくれたリリアと友達になれて、リリアはとっても嬉しいの。だからね、これからいっぱい、いっぱい楽しい思い出をリリアと作るんだ」と嬉しそうな声音でそう口にすると、僕を抱きしめるのであった。リリアは僕の事を抱きしめるだけで満足したようで、僕の手を引っ張り立ち上がらせる。

それからリリアンに案内され、リリアやリリアの姉妹が暮らしているという【王都リリアン】の中心部にたどり着くと、そこには巨大な王城の門があり。その扉の前に二人の騎士らしき女性が立っているのが見える。リリアとよく似た雰囲気の銀髪の女性なのだが。その女性の表情が僕には何故か怖い感じに見えるのだ。

リリアリーナは二人の元に近づくと僕達に一人ずつ丁寧に挨拶をしたのだ。それから王城を指差すと言う。「あれが私達【聖王国リリアン】の聖王の住まいですわ。私もあの方に会うのは初めてですの。この国を守ってくださっているのですけど、あの方にこの国を守る理由を聞いたことはないですわ。それに聖王とは言われてはいますけど、本当の名前があるはずなのですが、なぜか教えていただけないの。それに私達は直接会ったこともないのですよ。あの方がいる場所は特別な場所ですから」と言うと、続けて、リリアが「でもね、リリアが産まれた時にはすでにいなかったみたいだけど。私が【聖魔女リリス】の生まれ変わりってわかっていたみたいなんだ。それでリリアが生まれた時に「私の愛しい娘」と呟いたって聞いたことがあるの」と言うのだった。その話を聞いた僕はリリアとリリアの姉妹を見ると。二人は悲しげな表情をしていた。その様子から察する事ができた僕は、すぐに二人に声をかけようとした瞬間。目の前にいる二人の表情が怒りに満ちていることに気付いたのだ。そしてリリアの姉であるリリアーナは、「──リリアがこの国に来たらすぐに会えるようにしてくれてるのに、何にも知らないの? リリアリーナ」と言うのであった。

そんな二人のやり取りを見た僕とリリアは驚いてしまう。なぜならこの国は、【聖魔王マギアナ】と、【真魔王マギアナ=リリアン(愛称:リリィ)】がいるからである。しかし今はその姿を国民に見せないようにしており、今この場所から少し離れた所で眠っている筈なんだけど。その事は知っているんだろうかと思い。そのことを聞こうとした時だった。

急に僕の腕に何かが触れる感触があったのである。見ると銀色に輝く腕輪のような物が僕の腕に巻き付いているようだし手まで伸びているのだが──これなんだろうと思っていると、僕達の会話を聞いていたリリアーナが口を開く。リリアの妹は「それはこの国で産み出された魔法の腕輪だよ」と説明を始めるのだった。この国の【魔法石】は、【魔力石】を媒体にすることで様々な事象を起こすことができると言われているのだそうだ。その腕輪に埋め込まれている魔法石の中には膨大な力が封印されているのだと言うのだ。そして、リリアリーナはリリアに向き合うと、「それを使えばどんな相手だろうと絶対に逃がさないでしょ」と言い放つ。リリアがその事を聞き「確かに逃げられる事は無いと思うの。この【呪印の指輪】は絶対に逃げることができないようにできてるから」と口にすると、その腕のブレスレットに手をかざして呪文を唱える。

『我が名はリリア。この世に存在する全てを滅するものなり。この世を混沌に導く存在の力を我に与えよ。さすれば我はこの世の全ての物を支配せん』

その呪文を唱えた直後。銀色の腕輪から光の粒が飛び出し。リリアの右手を包む。リリアは目を閉じ、自分の中に流れる【闇】を感じ取り、ゆっくりと目を開ける。するとそこに現れたリリアの手を見て僕が驚く。

リリアは僕の腕から手を離すと「これで、この国に害を成すものが現れても大丈夫だよね。これでリリアの事を信じてくれるかな?」と聞いてくるのであった。

そんな出来事があり、僕がこの国に入ることができたのであった。リリアも【真魔人】のリリスと融合したことで【勇者】の力を手に入れた。リリも【真魔装】の力を身に着けたし。これでやっと聖王国の攻略に取り掛かる事が出来る。

僕はまずこの国の王様に話を聞いてみることに。するとこの国の王様は忙しいらしく、会うことはできないと、断られてしまう。

リリアの言うとおり。僕は、【聖王女リリアーナ】の知り合いだと話す。すると僕の事を知っているという返事が返ってくる。そして僕がリリアの友達だと伝えると、リリリーナに案内をするようにと命ずるのであった。

僕はリリとリリアと一緒に城の内部へと通されるのであった。リリアの話では。この国で僕に敵対行動をとらないと約束する代わりにこの城で住む事を許可されたのである。そう言えば。この世界には、人間以外の知的生命体は確認できていない。僕達の世界の【獣人】と呼ばれる人達は【獣人連合国】で生活を営んでいるが。それ以外は全て魔物と呼ばれている生き物なのだ。だから僕は疑問を口にする。なぜ、この国ではリリアが迫害される事もなく。自由に暮らす事ができるのかを尋ねたのだ。すると、リリアは、「その事でしたら。簡単にお答えできると思います。リリは私達姉妹が認めた方でしたから。そして貴方はあの【白銀騎士団】からリリアを助けたのですから。この国に住む資格はあると思います」と言うのであった。その言葉の意味を理解できなかった僕にリリアは「リリが言っていたでしょ?【魔族】とかそんなの関係ない。この国が困っている時。助けてくれた人を、助けてあげたいと思う。それだけでいいんだよ」と言ってくれる。リリアの笑顔を見つめながら、彼女の言葉を反駁するのであった。

それから僕達三人で城内を散策する。そして【王城リリアン】の中心部へと向かうのである。その途中で一人の青年が近寄ってきて、突然リリアに頭を下げる。僕はその様子を見ていて不思議に思い、リリアに「リリアさん。彼は誰ですか?」と尋ねると。リリアは、微笑みながらも答える。

『私の大切なお友達だよ』と嬉しそうな声音で、そう言ってくれるのであった。

その言葉を聞いた瞬間、僕には分かってしまったのだ。

彼が【聖魔装騎士】で、この国の最強の騎士で、そしてこの国の英雄。

リリが愛した人で。リリアが守りたいと願った人でもあるんだと──── 僕は【真魔王マギアナ=リリアン】の事をリリアーナに尋ねようとするのだが、リリアーナが僕の前に手を出して遮ってしまう。そして僕の唇にそっと手を触れさせるのである。それから、彼女は、「リリアに内緒のお話をしようか。リリは私の親友だから特別に教えてあげる。私はね、本当はね。聖王国の騎士だったんだよ。リリアと同じ、【聖魔装騎士】の一人でもあったの。それでね、私はリリアの為に、自分がやれることをやっていたの。私は、リリアに頼まれたわけじゃないけど。私は、私が助けたいと思って、そうしていたの」と言ってくれたのであった。

僕は、リリアの願いを叶えてくれたこの【真魔王リリアーナ】に心から感謝したのだ。そう思った時に。急に、何かしらの視線を感じ、僕とリリアとリリアーナはその方向に顔を向けると──── そこには、僕達を見つつめていた一人の少女が立っている事に気づくのであった。

その少女は銀髪で、青い瞳をしている美少女であった。

僕はその女の子の姿を見たときに違和感を感じたのだ。この子は、本当にこの国の人間なのかなと、思ってしまったのである。その理由はこの国に住んでいる人々からは感じないような雰囲気がこの子に感じてしまったからだ。

僕達が、その銀髪の少女に目を奪われていると、その子は口を開く。「──あなた、この国の王に会う為にここまできたの?」と、少し冷めた声でそう告げてくる。

僕はそんな態度に、思わずムッとしそうになるのだが。リリアーナが僕と彼女の間に割り込むと。リリアーナが、目の前に現れた女の子に向かって。まるで親のように語りかけるのだった。「私の大事なリリを傷つけようとした人は絶対に許せないんだからね」と言うと、今度は、リリアとリリアーナはお互いを抱き締め合う。その様子を見ている僕は「リリア。大丈夫なの?無理しないで」と聞くと、リリアは、優しい笑みを浮かべて、「ありがとう。でももう慣れちゃってるんだから平気だよ」と笑いかけてくれる。

そしてリリアーナは、「大丈夫だよリリ。心配しなくて良いんだから」と言うのであった。そんな二人に、この国にいる人達とは違う何かを感じていた僕は── この二人は何者なんだと感じる。そんな僕に気が付いてか。銀髪の少女は、こちらに近づいてきて。僕達に問いかけてきたのである。「貴方はリリの事が分かるみたいですね。どうしてでしょうか?」その言葉を聞いて、僕は確信してしまったのである。僕はその問いに、正直に答える。

『リリアーナ。いえ、真魔王リリアリーナが。僕達の知っているリリア本人だと分かったんですよ。それに僕達は貴女と会っていました。忘れているのなら教えます。この国は、僕が【魔族】としてこの世界に現れる前の、僕の住んでいた世界に存在している。【リリア帝国】。そこに住んでいたリリア。その人にそっくりなんで、この子がリリアだと確信しただけですよ』と、僕が口にすると。リリアーナが僕の腕を掴み。そして「ねぇ。それじゃあ、リリが私に会いに来たときの記憶を持っているって事なの?」と言ってくるのである。

その言葉を聞いていた、この国の王の娘である【真王女リリアリーナ】は、「やっぱり、そうなんですね。それなら貴方には、お願いしたいことがあります。どうか私を助けて欲しいんです」と言うのであった。

この国で暮らしている、銀髪に青の瞳を持つ美しい女の子。名前は【リリアリーナ】と言うそうだ。

リリの双子の妹にあたる人物で、リリよりも大人びている雰囲気が伝わってくる。そんな彼女の言葉に、僕は戸惑うが。彼女が真剣に、切実に伝えてくれているのは間違いなかったのであった。

僕が、そんな彼女から詳しい事情を聴こうと質問しようとしたその時に、急に城の入り口から大きな声が聞こえてきて「見つけたぞ!!聖剣の巫女!!」という男の声が聞こえたと思ったら、次の瞬間。この城の門が破られ。鎧を着た大柄の男とその仲間らしき人達が城内に侵入を果たしてしまう。その光景を見ていた、リリアとリリアーナが、「「私の大切な国をこれ以上傷つけさせない」」と言うと。

銀色に輝く光の粒子に包まれて姿を変えて行く。リリアがリリに融合している状態で、銀狼のような獣と化していく。その姿がとても神々しかったので。見惚れてしまったのだ。すると僕の隣にいた、銀髪に蒼色の瞳のリリアーナとよく似た姿をしていた少女も変身し始めていくのである。そして二人の姿が変わっていき。

僕に話しかけてきていた銀髪のリリアは、巨大な狼の姿で銀色に輝き。その背に乗る銀髪の少女も同じような姿に変身する。そしてもう一人のリリアも銀毛の犬の獣人としての姿に変わる。

そしてリリの口から言葉が出てくる。

「さぁ行こう。私の可愛いお友達の皆んなが危ないの」と言うと、僕と銀髪に銀の瞳のリリアリーナを背中に乗せるとその場を駆け出したのである。僕はリリの言葉に戸惑いながらも彼女に尋ねる。

「ねぇ、リリアリーナは一体どういう事?」と聞いてみたのだが、彼女の口から出てきたのは「今説明をしている時間がないんだよ。だから私の言葉を信じてほしいんだ。私はリリィの事を守ってあげたいから助けに行くのよ」と言う言葉だった。そして彼女の案内に従い進んでいく。すると僕が、以前訪れたことがある、聖王国の城下町に到着したのであった。そして僕と、銀髪を腰まで伸ばした蒼眼の女性リリアーナを降ろすと。リリは「リリは、他の人達の避難を手伝っているから。マギルア君とはここで一旦別行動にするね」と言い残すと、彼女はリリアリーナの姿に戻ると同時に何処かに走り去ってしまう。残された僕は。彼女の後を追いかけようとするのだが。リリは、僕に微笑みながら「ここは私に任せて、貴方はこの国で私を救ってくれた人達が暮らす場所。そう聖王国に住む民達がいる町。その人達の所に向かうんだから。早く行ってきてほしいんだ」と言う。

確かに、リリアーナがリリの事を心配するように、この国が滅ぶ事を望んでいる存在はいないはずだ。だからこそ、まずはこの国の住民達の避難が最優先なのだと。リリが言っていた言葉を思い出し、そしてリリが指差す方向を見ると。この国の中心に存在する【聖魔王 マギアナ=ルリーナ】の居城が、炎で焼かれているのが目に入るのである。

(このままではリリの愛する人々が殺されてしまう。)僕はそう思いリリが指し示してくれた方向へ、全力疾走をする。リリのおかげで身体強化魔法を使い続けることが出来る状態になっているため。身体能力の向上と回復力の強化の恩恵は計り知れないものであったのだ。僕が急いで駆けつける中で僕はある異変に気がつく。この国の人達は誰一人悲鳴を上げることなく、むしろ歓声を上げていることに驚くと共に不思議だった。そんな僕は城門の前に到着するのだが、そこには大勢の兵士達が倒れているのが目に飛び込んで来たのだ。しかも彼らは傷一つ負っていない。そんな兵士の人達を見て僕は困惑するのだが、そんな中、僕は聖騎士の姿を見つけたのだ。

聖王国には【神聖聖騎士 セインロード】と呼ばれる人がいたので、僕は彼なら何とかしてくれるのではないかと思い声を掛けてみる。

「あのすいません、この惨状は貴方達がやったことなのですか?」

するとその聖騎士は、振り向き様に僕の顔を見るなり驚愕していた。それもそのはずで僕は仮面を付けているため正体が分からないはずだったからである。その彼は、「き、君は。何故ここに?」と言って驚いている。僕は聖騎士に対して、現状の説明をしてもらうように言うと、「それは出来ないんだ」と言ってきたのだ。僕が理由を聞くと。彼は答えてくれたのである。

僕がここに来た時点ですでにこの国にいる全ての人間は眠らされていたらしい。しかし唯一目を覚ましていたのが目の前の聖騎士であり。彼の力でこの国の人々を全員気絶させたのだと言う。

「でもどうしてですか?」

「実は、僕は国王に頼まれてこの国を守る為に戦っていたんだけど、この国を攻めていた、この国の王女様と仲が良いはずの【真魔王】リリアが攻め込んできたんだ」

その話を聞いて僕は納得した。リリアは自分が狙われている事は分かっていた。そのためこの国の人々に迷惑を掛けたくないために、この国を離れたがっていたのだと、その事実が分かり。僕は目の前にいる、聖騎士に感謝を伝えようと頭を下げた。その瞬間に、聖騎士の目つきが変わるのを感じると。突然僕の方に手を向けると「──動くな。この距離でこの威力の攻撃を食らう事になる」と言うと、僕に向けて雷撃を放ってきたのだ。僕はその攻撃をまともに受けてしまう。

その一撃で意識を失いそうになってしまうのだが。なんとか堪えてみせたのである。

(今の一撃で確実にやられるところだったが、僕の肉体が強化されていて助かったようだ。)僕にはこの攻撃を受ける直前、一瞬で、自分のステータスを確認していたのである。その結果。僕自身が思っていた以上の防御力の高さを見せつけられて安堵していたのであった。そんな僕は。目の前にいる【聖魔王】に話しかける。

『なぜ貴女は、リリを狙うの?』

すると聖魔王はその質問を受けて笑みを浮かべると、「ははははっ。まさか私が狙っている相手が君だと思っているのか?本当に滑稽だよ。私の狙いはこの国に眠ると言われている聖剣の力を我が物としに来ただけだ。そのついでに、私の邪魔をしようとしている、その聖剣の巫女を殺すつもりでね」と、口にして聖剣の力を得ようとしているようであった。そして聖剣を手に入れるためにリリを殺そうとしたのだという。僕は聖剣について聞きたいことがあった。

この国で保管されているとされる聖剣が本物なのかを確かめなければならないと思ったので。確認するために僕は、彼に尋ねた。するとその聖魔王は、「本物の聖剣だと証明できるものなら何でも見せてあげるよ」と、僕が言ったことで、あっさりと認めてくれたのだ。そこで、僕は聖剣のありかを教えてもらう事にすると。彼が指を指したのは、聖王の居城の最上階である玉座の間であった。そこに、聖王が自ら作り上げたとされる、聖剣があるらしい。

僕も一緒に連れていって欲しいと頼むのだが。どうにも断られてしまった。理由は簡単だ、僕を連れて行ってしまっては僕の正体がばれる恐れがあったからだ。僕は仕方がなく、自分でその場所へ向かうことにしたのである。

その途中で、リリアから貰った指輪を使って転移を行い。リリが指し示した、リリの仲間が暮らしている町へと転移する。僕はその町を歩いて行き。町の中を探し回る。そして町の中心に存在する城の中に入っていく。すると城の中に入ったところで僕は一人の人物と遭遇することになる。それはこの城のメイド長をしている人だった。彼女は僕の姿を確認すると。驚いたような顔になり。慌てた様子で言う。

「マ、マギルリアさん。なんで、ここに!?それにリリアリーナは一体どこに行ったのですか!!」

と、問いかけてきたので、彼女がこの城に居ないことを話すと「そうですか。やっぱり私を置いて何処かに行ってしまったのですね」と言い。悲しげな雰囲気を出す彼女を見て。少し胸が痛むのを感じながらも尋ねることにする。そうして彼女の口から聞けた話は。リリアがこの町から姿を消してしまった時の事の真相であった。リリアがいなくなってしまっていた時に彼女から手紙が届いたらしいのだが。その内容を見て彼女の姉でもあるこの国のメイド長は涙を流していたというのだ。内容はリリアリーナの想いが強くこもった文章だったという事で涙したという事だったのだと言う。

それからしばらくしてからリリアが現れて、僕達の元に駆け寄ってくるのだが。その姿を見たリリアは「おぉ!!やっと見つけたんだよ。あれ、その女の子達はリリリーナの新しいお友達かな?」というリリの言葉に僕は戸惑いを隠せない。リリには僕のことを話していないはずなのに。リリアの口からその名前が出たからこそ驚いてしまう。だが、すぐに彼女は僕の隣に視線を向けた。そこにはリリアが立っていたので。僕は思わず「どっちがリリでどっちがリリリーナ?」と、二人の顔を交互に見つめながら尋ねると。二人ともが笑い出して「「私は私なんだから間違えちゃ駄目でしょ。ほら私の顔をよく見るの」」と言われて。僕はリリアが言っている言葉の意味を理解できなかった。だけど僕は今この場にいることだけで幸せだと思うのである。そして僕は聖魔王の待つ場所に案内してもらうことにしてもらったのであった。

リリとリリアが、同時に同じ声を出したため。私は混乱していたのだった。そんな私は、銀髪の私と銀髪を腰まで伸ばした少女の姿に変身した、リリアの2人が。楽しそうに話をしていたので、私はその様子を見守っている。その光景を見て、銀髪の少女リリアの方が本当のリリアであり。銀色の長い髪を背中にまで流している方の少女は偽者だと思い込む事にした。その事を思い出している中でふと思う事があった。先ほど私が見たリリアが姿を変えている所を、思い出す事ができた。その事が分かった時、この世界の魔王になった私の【マギアナ】の能力は想像以上に強力なものだと思えたのである。そしてその能力のお陰で初めて会うことになる相手であっても、相手の能力を把握できることが分かっただけでも十分であったのである。だからこそ私は思うのである。

この国の勇者が消えたと知ったら聖王様はこの国を捨てる可能性が高いだろうなと。しかし聖剣を手に入れようとするこの国の支配者の考えまでは読めなかったのは残念な結果と言える。だからこそ。この国を支配する聖魔王のやり方に怒りが湧き上がってきたのであった。そしてそれと同時に。この国の人達が聖魔王の手にかかる前に救わなければならないと感じたのであった。

(それならば一刻も早く聖王様と合流してこの国の人々を逃がすことが大事だと。聖魔王を倒すことよりも優先事項だと私は判断することにしたのである。)そんな事を考えている中で、リリアの様子がおかしくなっていることに気づいた。その瞬間に銀髪の少女姿の方のリリアの顔色が真っ青になっているのが見えると、何かを恐れるように体が震え出していたのだ。その表情がとても心配になってきて。リリアの体を支えると。

「大丈夫?」

そう声を掛けると、彼女は私に向かって言う。「ごめんねリリィ。この子が、リリが危ない。急いで聖王のところに戻らないとその聖剣を奪われる可能性がある。だから私と一緒にきてほしい」と言ってきたので、もちろん私は承諾をした。すると、リリアは私の方に振り返り、真剣な眼差しをしてこう告げる。

「ありがとう。でもこれは危険な賭けでもある。だから私が聖王にリリのことを伝えた後にすぐ行動を起こすけどいい?」

「えっ、それは構わないんだけど。一体どういうことなのかな?リリア」と、聞くと彼女は答えてくれる。その方法とは、銀髪の自分リリではなく、私が知っている方のリリの容姿に変化してみせて、私達をこの国の外へ出すというのであった。確かにそれなら安全に逃げ出せるはずだと納得したので私は了承する事にする。

『分かったわ』

その一言でリリの容態が悪くなるが「だ、だいじょう、ぶ。もう平気。じゃあいくわね」と言うと、私の目の前で、銀髪の少女の姿がみるみると変わっていくのを感じる。その様子に驚きながらも、目の前に現れた、もう一人の私を見て、その姿を見て安心したように微笑んだ後で意識を失ってしまった。

(良かった。この子の意識がない間にリリアのところに戻っておいた方がいいのかな?)

と、思った時だ。突然私と入れ替わるようにして、目の前にリリィが出現した。リリィは銀髪の少女の身体を抱き抱えると「悪いんだけど。そろそろ時間が無くなってきたのよね。とりあえず安全な場所に移動させておきたかったのよ。それにリリアも連れて行かないといけないから一緒にお願いしたいんだけど良いかしら?」と言うのであった。そして私が返事をするよりも先にリリィは消えてしまうのであった。そしてその後すぐに、リリとリリの姉妹がいる町の入口に到着することができたのである。私はまずこの姉妹を避難させることにしてから聖魔王の元に向かうことにしたのであった。

僕はリリアの転移の魔法によって移動すると、そこにはリリアの知り合いである聖王と呼ばれる人とリリアの3人で話しているのを見かけたのであった。その様子を見守りつつ会話の内容を聞き取っている時に。僕の腕の中には銀色の髪の毛を持つ少女が眠っていることに気づくと僕は慌てて彼女に声を掛けたのだった。その声で彼女は目が覚めたのか。僕に視線を向けると、「うっ。あれ、どうして、貴方に抱き抱えられているのでしょうか」と、尋ねられた僕は、正直に伝える。その言葉を聞いた彼女は、少し恥ずかしそうに頬を赤らめていたが。リリアから聞いた事情を話してあげると、「分かりました。私もその協力します。リリの為に」と、決意に満ちた目をしていた。そして僕は聖王とリリアを説得することに成功したのである。

するとリリアは僕に耳打ちするように「リリリーナはここにいるよ?」と言うので確認のためにリリアと聖王にはここで待っていてもらうことにしたのである。そして僕は一人で聖魔王が居るとされる玉座の間に向うのであった。僕は玉座の間に入るとそこに居たのは一人だけだったのだ。

玉座の間の中で僕は、その人物の姿を視界に入れるが。その人物の姿に僕は絶句してしまう。なぜならそこに居たのは僕の世界で僕と融合してくれた存在の一人。【リリアリーナ】だったからである。その事に対して、驚きを隠せなかったが。それでも僕は彼女を問い詰める事にした。何故僕達と融合したはずの彼女が此処にいるのか。と。すると、彼女は「それは、貴女達が、こちらの世界に来たからよ」と、答えるのだった。

リリアとリリリーナが同一人物で有ると、私達は理解していたが。その話を聞いていた時に、リリアが急に顔色を変えて「リリリーナ!!あなたがなぜここに」と、叫ぶのである。私は一体何が起きているのだろうと不思議に思っている中。聖王は慌てたような口調で私に語り掛けてきたのである。

「マギルリア様でいらっしゃいますか」

そう言われて私は驚くと、聖王は続けるように言う。「マギルリア様にはお伝えしていなかったのですが、私達は一度死んでしまったのです。その時にマギルリア様が助けてくれなかったら死んでいたのかもしれません。だからこそマギルリア様に感謝をしております。本当に、ありがとうございます」と言われて。私は聖王が話していたことを思い出そうと必死になるのだが、思い出せない。そこで思い出せない原因が分かった。その出来事が起こった時のことを全て忘れてしまったからだ。その事を自覚して。記憶が消されてしまったことを改めて思い出して落ち込んでいる時に。リリリーナから衝撃の事実を聞かされることになる。リリアは私の妹であるリリナにリリリーナの力を分け与えたことによりリリアは力の大半を失い眠りに付いてしまうという事を聞かされる。私はそれを聞いて、リリがこの世界に残ってまで成し遂げようとしていた事を思い出し。妹思いのリリが私に託してくれた事を嬉しく思うのと同時に。私の為を思ってくれたリリリーナの行動が嬉しいと思うのだった。それからリリアとリリリーナに別れを告げるために。彼女たちに話しかけることにする。その言葉を聞くと聖王はリリリーナに「貴女はまだ私達についてくる気はありますか?」「はい!!もちろんなんだよ!!」リリとそっくりの容姿をしているのに。声や仕草などが違うだけで別人にしか見えない。そんな不思議な感覚を覚えながら私は二人を連れて外に出ることにして。その途中で聖王の勇者と合流する。

(勇者はリリアの姿を見て、一瞬だけ悲しそうな顔をしたが、今は聖魔王を倒す為に協力してもらわないと困るため、何も言わずにリリスの相手をしてもらおう)と考えながらも、私も一緒に行動することになる。リリアと私は聖王に事情を説明してから、リリアがリリアーナであることを教えると、その説明が終わりしだい、リリをリリのところに届ける。その後は私はリリの元へ急ぎ向かうことにしようと思っていると。突然聖王に止められてしまう。「まて!そなたが何者かわからないのだから。聖剣を預ける訳にはいかぬぞ」と、聖王は言ってきた。私はそれを言われることは予想していた。そして私自身に聖剣を渡すことなんて出来ないと。その事で聖王を説得しようとしたのであるが。リリリーナの言葉によってその必要がなくなってしまった。それは私に力を貸すと、聖王の代わりに勇者に協力をして欲しいと言われたので私は承諾する事にして勇者と共に行動する事を決意したのである。その事に聖王が驚いていたが私はそんな事を気にしている暇はなく、リリアのことが気になっていた。

(私が今出来る事をしないと、きっと後悔する事になる。それだけは絶対に嫌なんだ)

私がリリアの事を心配している時に、目の前に現れた聖王様の配下らしき人達を見て、どうしたらいいのかわからなくなったが。とりあえずはリリアのところに戻ろうとしてその場から逃げようと私は考えたのだ。そしてすぐにリリアと入れ替わると私はリリリーナを避難させてからリリアの元に急いで戻ったのであった。

私が戻ってきた時、すでに戦いが始まってしまっていたので。私はとりあえず様子を確認する。

(この子。見た目から判断すると私と融合して貰った時の姿に似てる?それじゃあさっき現れた子は一体誰?この国を支配している人じゃない?それにさっき聖王と話をしたあの子が言ってた事も気になるなぁ。リリが何かを知っているはずだけど。まだリリの意識が無いみたいなんだよね)と、考えながらリリアの意識が戻るのを待っていた。しばらくしてリリアの容態が良くなると私はリリに向かって聖王の話をしていた事を説明するのである。「そ、そうか」と、リリの声色は少し暗く感じたので私は彼女の方を見るが彼女はリリアの方を見ながら涙を流していた。その様子を見た瞬間、私にもリリアが何を考えているのか大体わかった気がしたのである。だがそれでも、彼女は聖王を助けるために動くことを決意するのであった。その意思を確認した後に私たちは行動に移る事に決めた。そして私はまず、目の前に出現した少女。おそらく魔王であるリリに話を聞くことにしたのであった。その少女の名前は【マギレア】と名乗った後で。彼女はこの国での出来事を詳しく教えてくれたのである。その内容を聞いた私達はその少女【マギアリア】と魔王と呼ばれる女性と戦うことになったのであった。

私達の目の前に姿を現したのは、銀髪の少女の姿をした魔王で。彼女が現れた時、リリアの体に異変が起きた。その様子からリリアに何があったのかはわからないが。この銀髪の少女は魔王ではない事が分かる。しかし、この状況で私達が魔王と名乗る者を倒してしまえば間違いなく面倒ごとに巻き込まれかねない。私はこの銀髪の少女が何者か分からない以上迂闊に手を出すのは得策ではないかと考えた。私はまずこの魔王を名乗る銀髪の少女の話を信じる事にしたのである。この国の状況をリリアから聞き出すためでもあったが、それよりもこの銀色に輝く瞳を持つ彼女が本物の魔王である可能性もあると私は考えていたのだ。

私はその可能性を考えつつ、この魔王を名乗った少女がリリに似ていることに気づいたのだ。そして彼女が本当に【リリリーナ】であるならば、彼女が持っている知識を私は欲していた。何故なら彼女が持っていた【リリのスキル】があれば、私はより強い力を手にいれられる可能性があると思ったからである。そのため私はこの少女を仲間に引き入れる事を決めたのだ。

私達が話を終えてから私達はリリが居ない事に気づくと、リリアに聞くことにした。そしてその理由を聞いて私は、リリアがリリに会えていないことでショックを受けたのがわかると。リリアの傍に行き、頭を撫でると、「心配する必要はないんだよ」と言って、安心させることにしたのである。その後私はリリアにリリの事を伝えると、リリアの表情が変わったので、リリアに何を伝えれば良いかを理解してもらえたことが分かり。そしてこれから起こる出来事が一体どういう結末になるかが分かってしまったのだった。

リリアからリリのことを伝えられて、僕はリリリーナが無事だったことに安堵しながら。どうしてこうなったかをリリリーナに聞こうとするが。その前に僕達が玉座の間から出た直後に【魔王リゼリアス】が現れるとリリアに向かって剣を降り下ろすと。リリアがリリスに変わってリリの事を庇うようにリリの前に立つ。その直後僕の横で悲鳴に近い叫び声が上がる。リリアの体は斬られてしまい血が流れ出していく。そんな様子を見た瞬間、僕の中に怒りが湧き上がってくる。

(なんなんだよこいつらは。ふざけんなよ。一体何なんだよお前ら!!何の権利があってリリを殺すっていうんだよ。殺す理由なんか一つも無いだろう!!そもそも。こっちはお前らの事を信用してないのに。こんな事をして許されるとでも思っているのか?)

僕は心の中でそう叫ぶと僕はリリが守ったはずのリリアの腕を斬り落として、その痛みでリリアが絶叫を上げるのだった。

私はマギルリア様に「私達が時間を稼ぐので、その間に貴女がリリアとリリの体を治してください」と、お願いされて私は了承するとリリアの元に向かうのだった。

(リリ。ごめんね。貴女が私の身代わりにならないで良かった。だって、私よりも貴女の方が辛い思いをするのは見たくないから。だからこそ今のうちに謝っておく。本当に今までありがとう。リリア)私は自分の腕を犠牲にして私を守ってくれた妹に感謝をしながら自分の力を集中させると傷口が光る。

(本当にありがとう。私の妹達の為に犠牲になってくれて)と私は感謝をする。私のお姉様であるリリナお母様の願いである世界平和を実現させる為の希望であるリリアお兄様の為を思って行動しているリリのために私は命を賭けてでもこの国を守ろうと思っていると決意を新たにして。私はリリアに私の魔力を全て譲渡することにしたのである。

(どうか、リリを助けてあげて下さい。私の大切な妹達を)私は祈りを捧げるように、そして私の命を削るような勢いで力をリリアに送り続けるのだった。

私の力でどうにかリリの治療を終えると、私は聖王様と一緒に魔王と戦おうと決心したのであったが、その決断が一瞬で砕け散ることになる。突然魔王の隣に現れた存在。それが誰かは分からないが。その人物を見た瞬間、私は恐怖で足がすくんでしまい動けなくなる。なぜなら、私を恐怖させた人物が。聖王の娘であり、聖魔王でもある。リリアのお母さんだからである。そんなリリの母。いや。魔王をリリが抱きしめた瞬間、私もリリも、いや私以外の全ての者がその動きを止めることになる。そして私はリリアの母親を見て驚く。

リリアと同じ顔をしていても、雰囲気も仕草も何もかもが違って見えるリリの母。彼女はリリとは違い大人っぽい容姿をしており、私よりも遥かに年上に見えるが。その年齢を感じさせない容姿。それに、見た目の年齢はともかく。中身がリリにそっくりな事に気づいたのだった。だが私はそんなことより気になっている事がある。それは私とリリアのお腹にいる子供だ。この子の母親が目の前の人物だということを私は理解すると、私はその事について聞こうとしたのだが、私の意思とは関係なくリリの母から視線を外すことができないのだ。そしてリリの母は私に近づくとその手を握るのであった。「貴女の力を、私達にください」そんな言葉を告げられた私は何故か断る事ができず、私はリリの力の一部を譲渡する事になったのである。そして私が意識を戻した時には既に戦いは終わっていたのだ。

私は今の状況が全く理解できなくて、頭がおかしくなりそうなのである。

私達の目の前でリリの体から光が溢れ出してリリスの姿になると。リリスは魔王と名乗った銀色の少女を睨みつけて戦闘を開始した。

リリスが聖王様に向かって魔法を放って攻撃しようとしたのを私は止めようとするが。聖王から止められてしまったのである。何故聖王を止めなければならないのかという疑問はあるが。聖王が止めたくなるのは当然だと私も思った。なぜなら私達は今現在聖王の城に攻め入っている敵国の兵士の恰好をしているのである。しかも聖王に刃を向けた状態で、この状態なのに聖王は冷静な態度で私達を見ていたのだ。そして聖王の娘であるリリアが、銀色の少女の姿を見て驚きの表情をした後に聖王に向かって何かを伝えた瞬間、リリアの体が発光してリリアとリリが入れ変わるのである。その光景を目の当たりにして驚いたのは、恐らくその場に居た全員が同じ気持ちであったはずだ。

私は魔王と魔王の仲間である銀髪の女性と銀髪の少女を相手に戦う事になると覚悟を決めると、リリアが何かを呟く。その途端に、私達の視界から魔王と少女の二人と魔王の側近らしき者達と聖王であるはずの銀髪の少女の姿が消えたのである。

(一体何をしたの?まさか。この国に居る全員の動きを完全に封じたとかじゃないわよね?)そんな事を思っていた矢先に魔王と名乗る少女が現れた時私は思わず固まってしまう。だがその時。私と同じように驚いて固まっている人物が隣に立っている事に気がつき。私と目を合わせた瞬間に、その女性は涙を流したのである。

私はこの女性が誰なのか直ぐに分かったが、とりあえず話をするためにリリの所に向かった。そこで私は彼女の名前を確認する事にしたのである。そしてその少女の瞳には見覚えがあり、彼女が【勇者】であることを理解し、彼女が【マギアドライド】と融合するのを私は黙って眺めていたのであった。だが私はすぐに彼女が、あの魔王を名乗る銀髪の少女と戦う為に、リリに【リリィソード】を貸して欲しいと頼んだのであった。そして彼女は、私の考えを読み取ったかのように、魔王と銀髪の少女に向けて【リリィ】の剣を振り抜いたのである。

そして次の瞬間。私には何も起きなかったのだが。その剣を振ると同時に私の横に銀色の髪をなびかせた少女が現れると、魔王と魔王と魔王と魔王の三人を、斬り伏せていたのだ。

魔王を名乗る少女の攻撃を、私の娘。そして娘が召喚された時に共に現れた銀髪の少女の一撃が、魔王に直撃して魔王を絶命させる。

その一連の流れを見届けた私は。自分の中に芽生えつつあった【力】の存在を感じるのである。

(私にも力が宿ったみたい。それも凄い力を感じる。この力なら私に勝てる存在なんてそうそう居ないんじゃないの?)

そう考えた瞬間。私の中にある感情が生まれると、それに従って私の中から膨大な魔力が溢れ出す。

私はそれを全て使い果たすように、全身全霊の魔力を込めて私は魔王を名乗った女性に向けて【真聖魔法 真聖魔法陣 真聖結界 究極完全治癒(アルティメットヒールオール)

究極超回復(パーフェクトキュアオール)】という極大魔法の五連コンボを放った。その結果私の前には誰も立っていないことに私は気づく。だが私の中には、未だに残っている力が存在していた。

(これで終わった。やっと終われる)私は安心感と共に。自分の体に異常が無いかを確認して。先程感じた異常な程の力が私に残っていなかった事を実感すると安心していたのである。私はそのまま倒れて眠ってしまうのだった。その後。私が目覚めるまで三日ほどかかった。その間。私が眠るベットの横でずっと付き添っていてくれた人に感謝しながら目覚めた。その人の事を思い出しながら。私は彼女に自分の正体を伝えるために、彼女を探し回るのだったのである。

*******

***

僕は【マギルリア】という名前らしい少女と話をすると僕はこの世界の現状を理解したのである。僕達と敵対する相手である魔王と呼ばれる存在と聖王国を滅ぼそうと攻めてくる侵略者と。その両方が実は同一人物だという事を、僕はその情報を元に確認をして、魔王を倒せる力を持つ存在として僕は選ばれた存在であるということを理解するのだった。そう考えると僕の心は興奮してしまい。リリアとリリが僕の前に再び現れるのを楽しみにするのだった。

そして僕は今。聖王の城の一室で目を覚ますと。僕を見守ってくれていたという女性。リリナ様と一緒に朝食をとる。それからしばらくしてからリリナ様から、僕に質問を投げかけられたのである。

「ねぇ、君はさ。自分のお姉さん達と妹に会いたいと思わない?」その言葉を聞いた僕の答えはもちろん「はい会いたいです」という言葉で、そして「お姉様達に早くお礼を言いたいんです」と告げると。リリナ様は「じゃあ君と、その子供達を私達の所に案内しようと思うけど良いかな?」と言ってくれたので。私は嬉しくて「もちろん大丈夫ですよ」と答えて、その日の夜。私は聖王の城を出るのだった。そして夜の街の中を歩いていると私は聖王の城の外で待っていた聖騎士に保護されて城に連れて行かれると。私の目の前に懐かしい母と妹達が現れて私を優しく抱きしめてくれたのだ。

(お母さんとリリとリリア。私の家族が戻って来てくれた)私は涙がこぼれ落ちてしまいそうになるのを抑えて。まず私はお母さんの胸に抱かれて母に甘えることにしたのである。そして私は、今までの出来事を包み隠さず母に報告をした。

私が話している最中、母は優しい表情をしながら聞いてくれていて。私は、この世界に母達を残して行ったことを後悔していることを話すと母は「ごめんね寂しい思いをさせてしまって。私達のことはもう心配しないで、これからは私達の傍で暮らしなさい」と言われてしまったのだ。そして私はリリアの事も話すことにした。だが、私にはどうしても気になる事がある。

私がその事をリリアに告げようとしたら、突然リリの体が輝き出してリリの姿が消えてしまったのである。私はリリの事を心配しながらも、今は、目の前にいる母親とリリアにリリアの母親に、リリのことを託すのだった。私はリリアの母の優しさに触れることができ、少し落ち着いたところで私は自分がどうしてここに来たのかを話したのだった。私はリリスの体を使って魔王と名乗った女性を倒す為にここに来たということを二人に伝えると。私に何か言いかけた聖王であるリリアの母の言葉を遮るようにリリアの母親は私に話しかけてきた。

そしてリリの母に私の娘とリリアが、この世界に来るまでの流れを聞いて、私達が知らない所で何が起こっているかを教えてもらったのだ。

そしてリリアの母と別れてから私達は、リリアの実家に向かう事になったのである。リリの話では私と聖王様を会わせたくない様子だったが、それでも私は聖王に会う必要があると感じていた。だから、どんなに嫌われていても聖王である聖王様に私と娘のリリを引き渡してもらい、聖王国の今後について話し合おうと考えていた。

だが私はリリアの母と娘から告げられた内容に驚かされることになる。

なんと私が魔王を名乗る銀色の少女と戦った後に眠りについていた間に、既に戦争状態に突入してしまっていたのであった。私は自分の不甲斐なさと、リリスが頑張っているのに何もしていない自分自身に怒りを覚える。しかしここで怒っている場合ではないと自分にいい聞かせる。

(今はとにかくこの子達をリリスの元へ届けなければ)

私は決意をすると急いでリリとリリアの故郷に向かって走る事にしたのだ。その途中で私達は魔王と名乗った銀色の少女と遭遇して戦うことになるのだが、私はその時になって魔王と戦えるのかどうか疑問を抱いていた。なぜなら私の中で未だに力を感じ取れていないからだ。そんな不安を抱えていたせいで私は魔王を名乗る少女と戦う事になり。結局戦いの途中で私の娘が、あの魔王と名乗る少女を倒してくれる。

私はそんな光景を見ていて改めて私の中の力が強まっている事を感じるのであった。だが私の中にある力を使い果たすようにして戦った私は、魔王を名乗る銀髪の女性を倒して意識を失う。そして目覚めるまで二日間も眠っていたのだとリリナ様に言われてしまう。だが目覚めるまでに見た夢はとても幸せだったと私は思いながら。私が起きた時にはもう夜が明け始めていたのである。私は自分の体に傷が無い事に気づく。だがその代わりに私の中に不思議な感覚が生まれたのを感じたのである。

(私に一体なにが?それに今私が眠っている部屋はどこだろう?)そう思って私は、私が寝ているベッドの横に立つ人物に目を向ける。その人物はリリアとリリアの母親が立っていた。その姿を見て私は安堵すると同時に。私は自分の中で芽生えた力を試したくなったのである。

私の名前は、リリスと、そして聖王女リリアと私は名乗っている。聖王である私の父親は私に名前をつけずに、私の本当の名前を誰にも教えない事を約束させた上で聖王女リリという名前を与えたのであった。そして私は聖王家の一員として恥ずかしくないように、厳しく育てられた。だけど私にはまだ名前が無かった。そしてある日。私の名前を決める為の儀式が行われることになった。そして儀式が行われると、そこには魔王を名乗る銀髪の少女がいたのである。私は驚きで声を上げることを忘れて見つめていた。すると少女は、その見た目と裏腹な幼い声で「お前を私の奴隷として貰い受ける。そして、この国の未来の為に働いてもらう事になるが異論はないな?」と。私に向けて言ってきたのだ。私は、自分の中に宿った力で、どうにかなると思いながら魔王を名乗る銀髪の少女と相対してみる事にした。だが、私にはその魔王を名乗る銀髪の女の子に攻撃を当てることすらできなかったのである。

その後。その魔王と名乗る銀髪の少女と魔王を名乗るリリの母親の会話を聞く限りでは、魔王と魔王は、どうやら別人であることが分かったのだ。だがそこで魔王が言ったある言葉に、私の娘であるリリアは反応してしまったのである。

リリアは自分の事を聖姫と名乗り。リリアの母親はリリという偽名を名乗ったのだ。そして、私の娘であるリリアが、魔王を名乗る銀髪の少女に連れ去られると私は確信したが、なぜかリリアを連れていくのではなくリリを連れていくと言っていた。私は不思議に思ったものの、魔王と呼ばれる少女はその場を去る前に、自分の名を【マギルニア】と言うのだと告げたのだった。その言葉を聞いた瞬間。私は心の底で、その名前がとても懐かしい物に感じたのであった。

そして私は、自分の名前が分からないと告げて、私は、私の名前を、リリスとして生きていきたいと告げると。何故か私は自分の娘に抱きつかれてしまう。私は混乱しながらも。その娘に優しく抱きしめ返してから頭を撫でてあげた。それから私は、私の娘と、リリアに別れを告げて聖王の元へ向かうと決めたのである。

その後私は。私の目の前で意識を失った聖王様を見つけた時に、私は慌てて駆け寄るのだった。すると聖王は目覚めて私を見てくれたが、私がリリという名前を出すと途端に怯え出したのである。そして聖王は、私に対して、「君は一体なんだ」と言ってきたのだ。聖王が言っている事は理解できる。なぜ私が、私自身である聖王に恐怖を抱いているのかがわからないのだろう。だがそれでも。今の私には魔王を倒さなければならない使命があるのだと思い、聖王から逃げるように私はリリアが暮らす町へと向かったのだった。

******

***

リリス視点に戻ります ******リリア達と出会ってからは本当に色々な事がありすぎたと思う。私の娘と妹の二人は魔王を名乗る銀色の髪をした女性と対峙することになり、そして私は、私自身の正体を知る事になってしまう。私と、私の愛しい娘を私の中から追い出して、そして私から娘を奪った存在がリリである事を知り。私と娘の間に出来た子をリリは、自分の子と認識できずに。自分の娘と私との間に産まれたリリにそっくりの子供。リリアと名付けたのであろう。そしてリリは、魔王と名乗る存在に私と私の息子を奪われてしまう事になったのだ。私は、私のせいでリリアとリリとリリスと私を苦しませた。

だから、私は私にできることをしなければならないと、そう考えながら、私達は、魔王を名乗る銀色の少女に追い詰められる。

(このままじゃ殺される。リリの言う通りだ。やっぱり私がここに来た理由は、魔王と戦うためなんかじゃなかったんだ。リリを助ける為に私達を助けに来ただけだったんだ)私はそんな事を考えながら魔王を名乗る少女と戦い続ける。私は、私が死ぬことで、この世界に訪れるかもしれない絶望を回避する為に、必死に戦い続けるのだった。私は、この世界に来てから、私はずっと後悔し続けていたのだと思う。私がもっと上手く立ち回ればリリに迷惑をかけることも無かったのに。そしてこの世界を救えたのかもしれない。でも私は、自分が勇者になったせいでリリが私の代わりに辛い目に合っていることに罪悪感を感じていた。そしてその罪を、私は私の手で償わないといけないと感じてたのだから。

私は魔王と名乗った銀色の少女との戦いの最中。私は銀色の鎧を纏って、剣を振るう。

(私は今なら、きっと、この子に勝つことが出来る。この子の動きは、リリに動きを読まれていたのもあって予測しやすいのだから)

私は、今までの私の弱さを払拭するために、私は私の中にある力を、全て出し尽くすことにした。そう、私は今、この時の為にここにやってきたのだということを私は自覚する。

「これで決める!!」

私は私の全ての魔力を注ぎ込んだ攻撃を繰り出す。

『神聖魔法 セイクリッドホーリーランス!!』

それは私の得意な攻撃であり、聖王国の王族しか使えないと言われている魔法の攻撃でもあった。その聖なる光の矢が私の目の前に現れた魔王と名乗る銀髪の少女に向かって突き進む。だが魔王を名乗る銀髪の少女も私の攻撃を予想していたらしく。自分の手にしていた武器に、光を集めていくと。それを聖王国に伝わる神槍と名高い伝説の聖槍に変化させるのと同時に自分の体に聖属性の障壁を展開する。

その防御は凄まじいものであり。私が放ち放った聖王の使う技の威力を全て受けきってしまったのだ。

その事に私はもちろん驚く。だが魔王を名乗る銀色の少女が驚いていたのが分かる。彼女はその攻撃を受け止めてみせると、自分の体を貫こうとしていた聖王の奥義である聖王撃の力を分解した事で、私は、魔王を自称する銀色の少女の力の底知れなさに私は恐怖を覚えたのであった。

(私の力が弱いんじゃない。この子の力の方が強いのだと理解させられたけど。だからといって、諦めるわけにはいかない!!)

私の頭の中には、私の事を嫌いだと言った時の娘の顔がちらつく。あの子が私の事をどんな気持ちで私に告げたのか、あの時私は知らなかった。私は、私の中で、魔王と名乗る銀色の少女は魔王ではないと気づいていた。だけど娘の口から、あの子の想いを聞いてしまうまでは私は何も知らずにいたのだった。あの子の母親であるあの人の言葉も、あの人が私に伝えようとした言葉を私は聞いてしまったがために。私の行動の歯止めをかけていた。だけど私は自分の行動を止められなくなってしまったのだ。

なぜなら、自分の子供をあんなに可愛がっている母親が、自分の子供を傷つけるような真似はしないはずだと思ったからである。私は、その事が分かった瞬間に私は私の行動を正当化できるのだと、思い込む事にしたのだ。

「この程度で勝ったつもりになるの?そんなはずがないよね。私は、この程度では死なないし負けもしない。この程度の力が私に通じたなんて思わない方がいい」そう言いながらも魔王と名乗る銀髪の少女は聖槍を構えなおすと。聖槍の穂先に自分の体を覆うように魔力を集めると。そのまま私の方へ向かって突撃してきたのである。その突進は、さっきまでの速さと違うのを感じとった。そして魔王と名乗る銀色の少女が私との距離を一瞬で縮めてくる。そして聖槍を横に薙ぐと私は咄嵯にしゃがみ込んで聖槍を回避しようとしたが間に合わずに聖槍の一撃が腹部を掠めてしまう。その攻撃を受けて私は聖槍から発生した衝撃を受けきれずに吹き飛ばされてしまう。

(なっ!!? 嘘でしょ!!!??)

私は驚きを隠せなかった。私の目に見える速度と、魔王を名乗る銀色の少女の攻撃速度は、桁外れに速かったのだ。私は慌てて立ち上がり構え直してみるが、私の体は震えているのが分かってしまう。(怖い。勝てる気が全然しないんだけど)私は心の中でそう思っていたが。それでも私は、私のやれるだけの事はやってみることにしたのだ。だけど、私の目の前に現れたのは私のよく知る少女の姿であった。その少女はリリアという聖王家の人間なのだが、この少女の母親がリリという名前を名乗っている。その事を考えると、私に娘がいると知った時に魔王を名乗る少女がリリの名前を呟いていてたのを思い出す。私はその事に違和感を覚えずにはいられなかった。

何故ならリリは魔王と名乗っている銀色の少女よりも遥かに年上なのに外見は、その魔王を名乗った銀色の少女とそっくりだったからだ。私はその事を思いながら私は私の前に現れたリリアと言う少女を見つめる。すると、リリアと名乗るその聖王の娘であるはずの女性は。私の顔を見ながら、にっこりと微笑むと、私の方に手を伸ばして私の手を握りしめてくれたのである。

そしてリリアと名乗る女性はそのまま自分の唇の前に指をたてると静かにして欲しいとお願いしてくる。私は、この女性が何がしたいのかわからなかったがとりあえず彼女の言葉に従うことにする。

その後。私の目の前でリリアと名乗る女性は自分の腕を切り裂くとその腕を私の口に強引に入れてきたのだ。その瞬間。口の中に痛みが走る。私はその事に戸惑ってしまう。その私にリリアと名乗る女性は優しく語りかけてくる。その声音はとても穏やかで優しくてそして懐かしい感じのするものだった。

(なんだろうこの感じ、すごく懐かしい。まるで母親に抱きしめられているかのような温もりを感じる)

私にとってリリアが優しく私を抱き寄せて頭を撫でてくれる感覚が心地よかったのだ。

そしてリリスはそんなリリアの優しい笑顔に見惚れていたのである。

(やっぱりこの娘。どこかおかしいわ。だって私を敵であると認識していてもおかしくはないのに、それなのにとっても穏やかな雰囲気を漂わせながら私に話しかけてきているのだから)

私を抱きしめるこのリリアを名乗る女性の体温と心臓の鼓動が聞こえてきて、この女性が生きて動いているのだという事を知ることができた。だがリリアを名乗るこの女性からは魔力を全く感じることが出来なかったのである。そして私に対して、自分の血を飲んで欲しいと言われてしまい。私の口の中が傷だらけになっていたのだ。そのことに私は戸惑いつつもリリと名乗る女性に従ってみる事にする。その事を伝えると私の口からリリは、自分の血液を抜き取ると、その抜いた血液を飲み込んだ後に自分の腕を自分で切りつける。

そしてリリアと名乗る女性はその自分の傷を私の顔に近づけてくる。

『治癒』私が魔法を発動させると、その魔法の効果が発揮されて、リリアの腕の傷はあっという間に完治してしまう。その様子を見た私に近づいてきたリリという名の女性はにこやかな表情を浮かべながら私の耳元に向かって囁き始める。その甘い香りと息遣いに私は何故かドキドキしてしまい。顔も熱くなるような感覚に陥ってしまいそうになるが。私はそんな自分に言い聞かせる。

(なっ何を考えているのよ!!この女が誰であろうと私は勇者の使命を全うしなければならないんだから)そう思ったのだが。私の頭の中に浮かんでくるのはこの少女と初めて出会った時の事を思い出していたのだった。

そして私はその事を考え出すと涙を流すことになってしまった。

(私は、もう誰も死なせたくないのに、なんで私はこんなに弱いんだろう)そんなことを考えながら、リリアと名乗る銀色の少女の肩に手を置く。そして私は魔王と戦う為に覚悟を決めることにしたのだった。私は魔王と戦う為にあることをすることにした。

それはリリから譲り受けた剣に、魔力を込めてその魔力を武器に纏わせることだ。この技はリリから教わった技で、【魔闘気】というものを使う技だ。この【魔闘気】という技は剣に魔力を流してその魔力に攻撃力を持たせる事ができるというものだ。ただしこの技を習得するために必要なのがかなりの魔力コントロール能力と繊細な魔力操作をする必要がある。しかも一度発動させるだけでもかなりの精神力を消耗することになるので、連発することが難しいので。使いどころを誤れば大変な事になるのである。だが私は自分の目の前に現れた魔王を名乗る銀髪の少女を見ていて確信したのである。その銀色の少女が使っている聖槍の力を見た時、聖槍は聖槍でありながら魔王の持つ闇の属性を持っている事が分かり。聖槍を使いこなす魔王と呼ばれる銀髪の少女もまた闇と光の両方の力を操ることができるのではないかと考えたのである。だからこの技が役に立つと私は直感したのだ。そして私はすぐに自分の持っている大剣に私の中の全ての力を込めたのである。その力は、聖王国でも最高峰の技と言っていいものなので。その威力は相当なものである。

私はそれを自分の体ごと魔王を名乗る銀色の少女に向かって突進しながら、振り下ろす事にしたのだ。そうすることでこの魔王を名乗る銀色の少女の動きを止めると同時に攻撃を加えられるかもしれないと、私は考えていたのである。

(よしこれでこの娘の隙をつくことが出来る)

だが私はこの時あることを忘れてしまっていたのだ。その忘れていたことこそが私が今ここで死ぬことになった原因であると言える出来事が起こることになる。それはこの私と魔王を名乗る銀色の少女との距離を詰めた時に起こった。魔王を自称する銀色の少女に私は斬りかかった。だが、その斬撃はあっさり防がれてしまった。私は自分の一撃が全く通用していない事にショックを受けると共に魔王と名乗る銀色の少女の表情が変わったことに気づく。

(あれ?どうして急に怯えた様な顔をして私から離れていく?)

そして私を睨みつけた魔王を名乗る銀色の少女の視線が私ではなく私の後ろにいる存在に向けられた時。魔王を名乗る銀色の少女は信じられない速度で、その場から離れるように跳躍したのであった。魔王と名乗った少女の異常な速度についていけなかったリリアという女性だったが。彼女が魔王と名乗る銀髪の女性から逃げる様に離れていった事で少しだけホッとするが。しかし私の方は安堵した瞬間に足を踏み外した事でそのまま倒れ込んでしまったのだった。私は倒れた衝撃に耐えようとしたが、その前に地面に叩きつけられた衝撃を受けて意識を失ってしまったのだった。その時、私の目の前に現れた一人の人物が居たのである。その人物は黒い鎧を着て、私を助けてくれた男性なんだけど。その男性の容姿に私は目を奪われた。そして男性がその美しい金色の瞳で私を見つめてくる。その男性は私の目の前に現れると私を軽々と抱き上げてくれる。そして優しく微笑むと私に声をかけてきたのだ。

「大丈夫か?」

私はその声を聞いた途端にその男の人に見惚れてしまう。なぜなら私が初めて見る金髪碧眼の男性で。その上、その人は私に優しく笑いかけてきてくれた。それが私の心を動かしたのは言うまでもなかった。だけどその時に、魔王を名乗る銀色の少女の声が聞こえてくる。「貴方。その人を渡してくれないかしら?私はその子を連れて帰るの。そして私の家族に会わせてあげるのよ。だってその女の子も私たちの家族なのだからね」と魔王を名乗る銀色の少女は、私の方にゆっくりと近づいてきたのである。私は恐怖で体が震えるが、私の事を大事そうに抱えてくれているその人の腕の中に居るだけで安心できて私は自然と彼に微笑んでいた。すると、その男が突然、私の額にキスをしてくると。

「君に危害は加えないから怖がらないでくれるかい?」

私を気遣う優しい声で語りかけてくる。その事に驚きつつ私は彼の言葉に従うことにした。

私は、彼が、とても紳士的な振る舞いをしてくれることで、私を安心させてくれる事に感謝をすると共に。私には勿体無いほどの相手だと思い。私はそんな彼に対して恋心を芽生えさせていた。

(あぁこの人が私の騎士になってくれたら、どんなに嬉しいことだろうか)

私はそう思いながらも私は自分の気持ちに嘘をつき続ける事にする。だってこの想いが報われる事がないのを知っているから。だから私はこの想いを胸に仕舞い込み続けることにしようと決めていた。だって、彼は、聖王国の王子様だからである。そんな人と私なんかが釣り合うわけなんてないと分かっているのだから。

そして私はそんな私に対して、私を助けたその男は微笑む。すると私はこの男から目が離せないので見つめ続けていると。その男は私の目の前で、その美しい顔を崩して私を笑っていたのだ。そして私の顔を見るとその男も私と同じように赤面すると私から目を逸らす。そして恥ずかしそうに頭を掻くとその男は自分の唇に人差し指を当ててから静かにして欲しいと言ってきた。私は、そんな男の人に言われた通りに黙っている事にする。その男の人から優しい魔力が流れ込んできたような気がしたが。私にはそれを感じる余裕がなかったのだ。何故なら私はそんな私のことを見つめる魔王を名乗る銀髪の少女をどうするのかを考えていたからだ。そして私は私を優しく抱き寄せてくれるその男を見つめながらこの優しい時間を過ごせることの幸せを感じていたのである。

(やっぱりリリがこの世界に戻ってくるのを待って良かった)

リリが生きていることが確認でき。その事を知ったリリアは嬉しくなり、私も思わず微笑んでしまうのである。そしてその事が私にとっては、この世界で生きていた証を残すことが出来たことに他ならないと思った。だが私はそんな事よりもリリが私に対して敵意を全く持っていなかったことが凄いと思う。だってリリアを殺そうとしていた魔王の妹であるリリは、魔王であるリリアが生きている事を知るとすぐに私に対して攻撃をしてきた。

そしてリリは私が死ななかったのを見て。自分が私を殺せなかった理由を探り始めていた。その理由はすぐにわかった。私がこのリリアと同じ姿をしたリリアに、魔王の力を奪われて弱体化しているのが分かったので。リリは自分を殺すことができないと悟ったようだった。ただそれでも私に警戒心を抱いていることは変わらない様子で私を警戒し続けていた。

そんなリリは私とリリに話しかけてきた勇者と名乗る女性の方をちらりと見ていた。そんなリリの行動を見て、勇者と名乗る女性は少しだけ動揺したような反応を見せた後。リリの事を観察し始めた。

それからしばらくしてからリリの視線は勇者と名乗る女性の胸元のネックレスに向けると。何かを悟ったかのように勇者に話しかける。

『あなたもリリア姉さんが生きていて驚いているでしょう?』とリリアの目の前の勇者に質問をしていた。

『えぇ驚いたわ。まさかあの時の事故の時に亡くなったはずのリリアが生きていてしかも、私の前に立ちはだかるとは思わなかったから』そう答えた彼女は自分の手に持つ大剣を構え直してリリアの方を見る。その構えから私は彼女の技量に感嘆の息を吐いていた。そしてリリアの方は彼女達の様子を観察するように見ているだけだったのだが。急にリリが自分の顔の前に両手を出して、まるでその手を自分の目から隠すようにしてから目を大きく開くと、私に向かって話しかけてくる。その行動に私が疑問に感じて首を傾げてしまうと。

『お母さま。申し訳ありません。でもこれは必要な事なんです。今すぐに私の力をお母さまに分け与えますので少し我慢してくださいね。本当はこういうことをしたくはなかったのですが。でもこうしなければ私は負けてしまいますので、お願いです。少しの間でいいので私の力を分け与える事に集中させて下さいね。そうすれば後は私の力でなんとかしますので、どうかよろしく御願いいたしますね。リリアは、必ずやお父様の元に帰りますからね。信じていてくれると嬉しいですよ。私は貴女の娘でリリアと言う名前の女性なんだってことを──』

リリスの声を聞き届けた後に、私は自分の中に不思議な感覚が生まれていくのを感じ始める。そして私はこの不思議な感覚に驚きながらも私は私の中に生まれているものを受け入れたのだった。すると私の中で魔王の力が膨れ上がるのを感じる。それは、この世界の王と王妃の娘である私が本来持つべきではない程の強大な力を秘めたものになっていたのであった。その事実は私にとっても、私に力を貸してくれている人達にとっても嬉しいことだっただろうが。私の場合は違う。その大きすぎる力は今のリリィでは扱い切れない代物なのだから。だからこそリリは今ここで死ぬわけにはいかないのだ。それにリリも気付いているようで魔王である自分に言い聞かせるように独り言を呟いている。その独り言を聞いただけで私はリリが魔王としてどれだけ強いのか分かってしまったけど。だけど今はその話はおいておくことにしたのだ。

なぜなら目の前で魔王と名乗った銀色の少女が、私に対して自分の妹と母親を傷つけられた怒りで私を睨みつけて、私の方を見つめてきたのだから。そしてその事に私も身が震え上がる。だが私はリリアを魔王だと認めて受け入れることにした。リリアは私に、お母さんと呼びたいと言われた時には驚いたが、しかし私は自分の娘の呼びかけを無視することは出来なかった。そしてリリアとリリアの体の中に宿る魔王は魔王を名乗り魔王であると認めた上で。私はリリアを受け入れると。私は魔王である彼女に語りかけた。

すると魔王である彼女は私に向かって頭を下げる。私は彼女がどうして私に頭を下げられないといけないのかわからない。なので私は慌てて魔王である彼女に、私の方に近づかない様に警告をするのだった。すると、私のその態度を見た彼女が少しだけ不機嫌になったように見えた。そして私は私に近づいてこようとした彼女に対して「ダメよ」と強く拒絶をした。

そうすると私の事を見ていたリリアが急に苦しみ出す。そんなリリアの異変に気付いたリリが「どうしたの?!お母様!」と声をかけてくるが。その時に魔王を名乗った銀色の少女の声が私の耳に聞こえてきたのだ。

『リリア?何をした?お前のその力は一体何なのよ?そんな化け物のどこが良いのよ?その娘がそんな化け物を産めるとは思えないのだけど?それなのに何故そんなにその子の事を庇うわけ?もしかてその子と何か関係が有るのかもしれないけど。そろそろ教えて貰おうかしらね』

魔王を名乗る少女は私と魔王であるリリアが、お互いのことを名前で呼び合っていることに気が付き。リリと私との関係を怪しみ始めていたのである。

そしてその魔王を名乗る銀髪の少女の問いに対して私は答えることにした。私はもう覚悟を決めており魔王を名乗る彼女を自分の娘の身体を使ってこの世に蘇らせてくれた存在でもあるからである。

そんな彼女からの問いかけに私は、正直に話すことにしたのだ。私には夫がいるのでその夫の元に戻りたいという気持ちは確かにあったけれど。私にとってリリアという少女は実の娘であり大事な家族でもあったからである。だから私は目の前に現れた銀色の女性が本当に私の愛した人であるのかどうかを確認しようと決めた。そしてもしもそうであるならばその事は私だけが知れば良い事だし。例え相手が私の事を知らないままであっても私を愛し続けてくれた大切な人であることに違いないと思ったからこそ、その事を隠しておく必要はないと考えたからだ。それにこの人は私の夫が愛する妻であり。そしてこの人の夫である私の旦那も私を愛してくれる人なのだろうと思えるからこそ私はリリがどんな状況にあっても私の子供であると信じる事が出来た。そして私の答えを聞いた魔王である彼女は目を丸くして驚いていると私の方を見つめてくる。私はその魔王と名乗る彼女の表情を見ても動じることはなかった。むしろ魔王と呼ばれる彼女の方が私より動揺していた。

それからしばらく魔王と名乗る銀色の女性は黙り込んだあとで私の方を見ながら尋ねてきたのだった。『もしかして、そのリリアは貴女の本当の子供なの?』と。その事に私は、はい。そうですよと答えると、銀色の女性は私の返事を聞いて。何故か嬉しそうに微笑むと私とリリアの方を見てから嬉しそうに微笑む。そんな彼女の姿を見て私は彼女の正体が何なのか分かったような気がする。だってその女性は私が大好きで。私が誰よりも好きだったあの人に良く似ていたから──

『じゃあ、やっぱり貴方は私の愛しい人だったのですね。リリスさん。私もあなたに会いたかったのですよ』その女性の名前はリリである。その事にリリアとリリアの中にいる魔竜の魔王である少女は気付いたようであった。そして彼女は私をじっと見つめながら。『もしかしてリリアの母であるこの私が貴女にリリアの力を返した事で。私の力の一部がこの子の魂に吸収されてしまったのかしら?』

そんな彼女の言葉にリリアは自分の胸を抑えながら苦しんでいた。きっとそれは間違いなかった。リリの体は私の力に耐え切れなくなっていたんだと思う。でもそれでも彼女は自分の母親の為に自分の身を危険に晒しても、私の中に入った母親の力を解放しようとしてくれていた。その姿を見た私はそんなリリが愛おしくてたまらなくなる。だって私の命は後少ししかないと言うことは分かっているのに。私の命を犠牲にして私に力を返してくれた事が分かったからだ。そんな私の姿をリリアは悲しそうな目で見つめている。

『そんな顔をしないでください。お母様。私にだってやりたいことくらいはあります。ですので私のことは大丈夫です。ですが、私はお母さまのお力の一部を封印させていただくことをお許し下さい。お母さまは私の事を守ってくれたのです。私はこの力をお母さまに返します。お母さまの力の一部はお母さまが持っていた方が絶対にお役に立ちますからね』

『そう言ってくれるのは凄く嬉しいですが。私は貴女に生きて欲しいの。貴女にはリリが望んでも出来なかった幸せになってほしいから』私は心の底からそう思ったので素直にそう伝える。すると彼女は『ありがとうございます。でも、私にとっては貴女が一番の幸せなんですから』と言い返す。そんな彼女に対して私は何も言わずに彼女の瞳を見続けたのだった。

そんな私達のやり取りを見たリリの体の中の魔王の意識は私の事を優しい目で見て。私の事を認めてくれているように感じた。だけどその視線は直ぐに冷たい視線に変わると。私の方を憎らしいものを見るかのような目つきで睨みつけてくる。その事にリリは焦ってリリアを止めようとしたが間に合わない。なぜならば既に私の中にある力が溢れ出しているからだ。そしてリリの体の中から膨大な魔力を魔王が解き放った瞬間。私はリリが言った言葉を思い出した。

魔王であるリリの母親の名前。それは、リリスという名を持つ女性の事を思い出したのである。そして私達はお互いの存在を認識すると同時にお互いの事を認識し合うのであった。

『貴女が、リリス様なのですか?まさか貴女様に会えるなんて。しかも、この世界で──』

私達の前に現れた銀色の美しい女性にリリアがそう声をかけると。その言葉を聞いていた彼女は驚いた様子を見せた後に嬉しそうな顔をしながら。私と私の愛した人とそっくりな容姿のこの女性の名前をリリアに尋ねたのである。するとリリアはその問いに対して。リリと名乗った銀色の女性が愛した人であったと答える。するとその話を聞いた魔王リリが涙を流し始めてしまう。そんな彼女に向かって魔王である銀色の少女が。リリスと呼ばれた女性は。『あらまあ。私の愛する人が亡くなってしまった事は知っていましたが。私以外の誰かに恋をしていたのはショックですよ。私が死んでしまったから新しい恋人を見つけたというなら理解出来なくはないのですが。リリ、どうして私の事を忘れられないのですか?私はずっと貴女の事を待っていたんですよ?どうして私の所に帰って来てくれなかったのです?』そんな風に魔王であるリリスから詰問されるのである。

その質問を受けたリリアも、そして私もどう答えればいいのか分からない状態になり。そんな二人の様子を見て。私の娘であるリリィは少しばかり呆れた声を出して。

「ちょっとお母さん。何で、お母様とリリアを二人っきりにしたのよ?!もしかして嫉妬していたとかじゃないでしょうね?」と尋ねるのであった。そんなリリィに対して私は苦笑いを浮かべながら「違うよ。私はね、私の目の前で私のために命をかけて頑張ってくれた人達がいるの。そんな人達の手助けがしたいの」と、私はリリアに向かって話しかける。するとリリアはそんな私の方を見てきて「そんな事を言っていたら、私やお姉ちゃんの事を心配するのは当たり前だよ?お母様。でも私はリリの体を使ってこの世に蘇ったことで、この子の中で生きているから、お母様が私の為にこの子を救おうとしている事を止めるつもりは無いよ。だけど、お母様がもし、私とお姉様の事を大事にして助けたいと思っているのならば。私は私の意思でお母様を助けるために動きたいと想っているわ。お母様の娘として恥ずかしいけど、お母様の力になりたいからね?だからお母様が私の事を思ってこの場に私を残してくれて本当に感謝しているの」と、リリが言う。そしてそんなリリを見て魔王である彼女はリリの事を優しく抱きしめるとリリアも魔王の事をぎゅっと抱き返す。そんな仲睦まじい親子の姿を見て私も思わず笑ってしまうのであった。そして私は目の前のリリアに対してこう話し始める。

『じゃあお願いね。リリア。貴女の体を治す為には魔族である貴女の心臓を魔王に渡す必要も有るの。貴女の体を使ってこの世界を救いましょう。この世界を、私達がかつて愛した者達の暮らす世界を守りましょう。このリリと一緒にね』

そんな私の言葉を聞いた魔王はリリから私に目を向けると、私に尋ねて来たのだ。

『その話はどういう意味なのでしょうか?それに、魔族は人よりも強い存在なのです。なのに貴女は一体どうやってそのリリという娘を救う気なのですか?』その問い掛けに対して私は、魔王である彼女に。リリの体を借りてリリアの肉体と魂を蘇らせたのは、リリとこの世界で共に生きて行く為だと伝えたのだ。すると彼女は私を真っ直ぐに見つめながら私の話を聞こうとするのである。そしてリリも私を真剣な表情で見つめて。私の言葉に耳を傾けていたのであった。

魔王リリと私の会話を聞いたリリアが魔王である銀色の女性の事をリリと呼んで。リリはそんなリリアを見て嬉しそうな表情を見せながらリリアの体に憑依するのである。そしてそんな魔王リリの様子を見ていて魔王の従者の1人であるリリアの妹が魔王の事を怖がり始めていた。魔王である銀色の女性に恐怖を抱いたようで、魔王を名乗る銀色の女性から離れようとし始めたので、リリと入れ替わった魔王の付き人の女性に止めてもらえる。そしてそんな妹の行動を気にする素振りすら見せず。魔王リリスは真剣な表情で私の方を見てきた。私は魔王リリの目を見て覚悟を決めると。リリに私の中に入っている魔核を取り出すように指示をする。するとリリは戸惑いながらも、私の言う通りに自分の胸元に手を当てて、自分の体内に手を入れると私の体内にある魔族の王たる者が持つと言われる最強の力を持った石、魔核をリリは手に取るのであった。

そんな私の様子を見守っていた魔王は私に尋ねる。

『それでこれから何をしようとしているのかは大体想像できますが、それをやった場合。貴女の体は耐え切れなくなってしまい。私の力を解放して得た力で私とリリが愛した者のいる世界を守っても、貴女はその世界の理から外れた異物になってしまいます。そんな事をしても、貴女は幸せになれるとは私は思えません。それとも何か理由が有るのですか?それを説明して貰わない限り。私もリリもその行為に協力することはしかねます』

そんな事を言われた私は、その言葉の意味を理解した上でリリとリリの中に居る魔王リリに対して自分の決意を告げるのである。

「私の命がもうそんなに残されていないことは分かるよね?でも、そんな私の体でも出来ることがあるの。

リリ。貴方の魔王の力と、私の勇者の力。この二つの力を合わせて、私の命を使ってリリが愛してくれた私の仲間と。私の愛しい人と私の大切な娘の生きるこの世界を守るの。それが私の命で守れるこの世界の最後の命でやらなければいけない事だと思っているの。だって私のせいでこの世界の運命は決まってしまったんだもの。この世界を破滅させる原因を作ってしまったのは私。そんな私の犠牲になったこの世界で、私が最後にやるべきことを、この世界で最後まで生きた者として、やり通さなきゃならないと思うの。だって私はこの世界が好きなんだもの。この世界には愛が溢れているから」私はそう言うと魔王の力を封じるための封印の解除を始めるのであった。

そんな私の姿をリリアは悲しそうな瞳で見つめながら、それでも、魔王が私の事を心配してくれている事に私は嬉しさを感じながら、私を見守り続けてくれるリリアの事を私は愛しく思い。リリアのことをそっと抱きしめたのであった。

『リリアのお母さん。貴女の考えている事は全て分かっていますよ。ですが私もリリと同じようにお母さんのことを助けたいと思って行動しているんですよ?私はリリアの意識を封印するために使った力を貴女の意識が封印されたままの体から回収するだけ。貴女の意識も取り戻す事ができるんですよ?貴女の力が使えればきっともっと多くの事が出来るようになると思いますよ』と優しい口調で言う魔王の言葉を聞いて驚く私であったが『それは無理だと思うよ』とすぐに否定したのである。なぜならばそのやり方をした場合。今の状態でさえも既にかなりの負担となっているので、この世界に生きる者たちに危害を与えてしまう可能性があったからだ。そしてそれは私の望む事では無かったため。私は、今の私の状態を維持することしかできないと説明した。すると彼女は困ったような顔をして私を見るのだが。そんな時私の体が眩く光始めた。そしてそれと同時に、私は私の中から力が抜けていく感覚に襲われたのである。どうやら魔王である銀色の少女の力で私の中の魔力と聖剣が反応し始めてしまい、私の体から大量の聖なる力が失われ始めてしまう。私はそんな事が起きないように私の体を維持しようとしたけれど、その私の様子を見ていた魔王が。私に優しく話しかける。

『大丈夫ですよ。私に任せてください。私が貴女の体の事を保護していますから、貴女の大事な人たちの事も心配しなくて良いんですよ』と、その言葉と同時に魔王である銀色の女性が、私の中に眠るリリの体に向けて手を伸ばし始めるのだった。

魔王リリと入れ替わる前に、私は私の中に入っていた魔族の王である力の象徴、魔石と呼ばれる物を、リリアと私の体の中に宿っている魔王の力を使い私の体から引きずり出したのである。そして私から抜き取ったリリの心臓とも言える魔王石を私は両手に持つと、私はリリに話しかける。

『お願いね。リリ。私は、この世界で貴女と共に生きる事ができて、幸せになれました。だから私は、リリ。貴女に全てを託したいのです。この私の願い、叶えてもらえないでしょうか?』私はそうリリに対して問いかけた。するとそんな私に向かってリリアは、私の娘であり。私と魔王がリリアと呼ぶ少女、つまりは私のリリが微笑みながら答えてくれたのだ。その顔を見て私は心から嬉しく感じたのである。だがそんな幸せな気持ちが私から抜けると同時に、私は私の中から何か大きなものが抜けた気がしてしまい私は膝から崩れ落ちそうになるが。そんな私の事を私の付き人の女性ともう一人の付き人の女性。そして騎士団団長の三人と一人の魔族であるリリの姉妹が支えて何とか床に倒れる事は免れる事ができた。しかし私の体力も、私の命も残り僅かになっていることに間違いは無いようだった。だからこそ早くしないと。私の命は失われて二度と戻らなくなってしまう。

「お母様の頼みなら聞くよ。それにお母様はリリにとって大好きな母様で有り、お母様が大好きな父様をリリの体の中で見守ることが出来たから、私はこの世界でも寂しい思いをしなくて済んだよ。それにリリアお姉様がこの世界に来てくれてから。リリとお姉様に本当の姉妹になってくれて嬉しかったし。私も本当に嬉しかったんだ。だからお願いします。私の体の中で安らぎながら、ゆっくり眠って下さい。今まで私のために頑張ってくれてありがとうございました」リリは私の事を見つめると、涙を流しながら、笑顔を見せながら。リリの口から私の中にいた魔核を取り出そうとしたのだ。そのリリの言葉を聞いた私は涙を止めることができなかった。そのリリの言葉を聞き、私の中にいる私の意思は私の中に入って来てくれないからこそ、リリアと魔王の2人の体を使っているリリに私の意思を伝えてもらうように頼む。

そんな私を抱きしめていた3人と1人が、私の意志を理解できなかったようで、戸惑う姿を見せたが。私の中にいた銀色の女性だけは、そんな私を見て少し考える仕草をして私を見た。そしてそんな銀色の女性は私に対して『わかりました』と言って私の体に近づいて来たのである。そんな彼女の行動を見ている私は。自分の意思が彼女に伝わってくれていることに、私は嬉しく思った。そしてそんな私の様子を見て、私の傍にいた付き人の女性は私のことを力強く抱き締めてくれる。

リリアと魔王の体を交互に見比べながら。私に近付いて来ると私の体に手を伸ばす銀色の彼女。私の体に手を触れた途端。私の体は激しい光に包まれて私の意識はこの世から消えた。そんな私を抱き締めたまま泣き続ける私の従者達を見ていた銀色の女性は、優しい表情で私の体を支えて立ち上がる。そして私の体の中から何かを引き抜いたのであった。それを確認した私の付き人は、慌てて私から離れようとする。だが私の事を支える者がいなくなってしまった私はその場で倒れそうになってしまうが。その瞬間、銀色の女性が何かを唱えると、私の体が浮かび上がったのである。それを見て私は自分の力が失われた事を改めて認識してしまった。

「私の娘を宜しくね」私は私の中に残っている私の力を全て、私の中に残っていた私自身の力を使う事に集中すると。そんな私の様子を見て、私の体から引き抜いた銀色の石を自分の胸に近づける銀色の髪の少女。そんな彼女を見守っている私の従者の一人は。そんな彼女に声をかけるのであった。

私の体の中の魔石を取り出した後、私は私に残されている僅かな命の全てを魔王石とリリの体を守る為に使おうとした。だがそんな時、私の体の中にある魔力や聖剣、勇者として持っていた力が全て魔王石に取り込まれてしまう。そんな様子を感じ取って、この世界で私と共に過ごした仲間と娘が驚いている姿を確認して。私はこの世界で一緒に過ごす事のできた人達の事を思い出す。私のこの世界で生きた人生はとても楽しいものだったが。もう私はこの世界で、自分の体で自分の人生を生きることはできない。そう思っているとリリと私の中にいるリリアさんとが会話を始めてしまった。

私と話せるはずの無いリリアの声が聞こえることに私は驚きながらも。私は自分の意識をリリアの中に戻すために行動する事にしたのだが。リリの肉体からリリアを救い出す事に成功はしたが。魔王の力は完全ではなく半分程までしか取り返す事が出来なかったのである。それでも私は残りの力でこの世界の者達に迷惑をかけないためにも、私がこの世界で手に入れたもの全てを使って私の命の残り火を使いきろうとしたのだが。私から抜き出した力を私に戻した事で力が殆ど戻ってしまった銀色の少女に私は私の命の力を吸い取られ。命を失ったのであった。

私の目の前でリリと魔王リリが入れ替わり始める。リリは自分の体の主導権が自分にあるのだと気がついたらしく、リリアの事を必死で止めようとしていた。リリアの体のリリが暴れ始めたのを感じた私は。そんなリリにリリアと私の体が繋がっている事を伝えると。私の体から離れて行ったのである。そんなリリアの姿を見てほっとしたのも束の間。私と入れ替わった魔王はリリアを落ち着かせる為に優しく話しかけた。すると魔王の言うとおりリリアの落ち着きを取り戻し、そしてリリの言う事に素直に従い始める。その二人のやり取りを見つめる私は安堵のため息をつくとそのまま意識を失うのであった。

『お父様!!しっかりしてください。目を開けてください!!』

私は自分の耳にリリィの言葉が届く。そしてその言葉と同時に私の視界に入ってきたリリの顔に安心した。私の娘のリリが無事で本当に良かったと思っている。私は自分が今生きているのか、それとも既に死んでいて、死後の世界に来てしまったのか、それを確認する為の時間が欲しいと思ってしまうが、私はそんな余裕すらも今は持ち合わせていない状況なのだと直ぐに思い出し。私の目の前で心配そうな表情をしている、愛しい娘に笑いかける。するとそんな私の様子を見て安心したような顔をしてくれる私の大事な一人娘リリの姿に私は嬉しさを感じずにはいられなかった。そしてそれと同時に、そんな愛しい我が子を守り通せた事に満足するのだった。そして私が眠っている間に何が起きたのか。それを聞こうと思って周りを見渡すと、どうやら私は魔王城の寝室らしき場所で横になっていたようだったが、その部屋には、魔王とリリの他に魔族の少女が私と私の隣に居た付き人女性の近くに立っているだけであった。その魔族がリリアの姉だという事は魔王である銀色の髪の女性に聞いている。そしてその魔王である銀色の女性から。魔王の城にいる魔王である銀色の女性以外の魔族は全て私の敵ではないと聞いた私はその事実を心から感謝し、そしてそんな優しい魔王に私は心からの忠誠を尽くそうと誓ったのである。

私の大事な大事な愛する家族であるリリアは私の命と引き換えに守ることができたけれど。まだ私の娘の命を守ってくれたリリを魔王の城に残して来たままなのを思い出し、そして私の娘であるリュカルナに、私の代わりにリリの事を託して来てしまっているのを思いだしてしまう。そんな私の心の内が伝わったのか、魔王は私の方を見て微笑んでくれる。魔王が何故私に対してそんな態度を取ってくれているかはわからないが。魔王と私は互いに微笑みあうのであった。

そして私のそんな様子を見てリリは、自分の父親に向かって、私達の関係を尋ねた。そのリリの質問を聞いて私は少し戸惑いを覚えるが、その事をリリが知らないと言うことに関しては少しだけ嬉しく思った。だってリリアのお父さんが、私のお父さんなんだよって言ってくれてるみたいだから。そしてリリアは私の事をお父さんと呼んでくれるのである。その事を実感しながら、私はその事をリリに伝えようとした時に。私達が寝ていたベッドの周りに突然現れた、紫色の煙と共に現れる黒い影の軍団を、魔竜王である銀色の女性とその配下の魔物達が迎撃してくれた。私も自分の武器を握り締めて戦おうとするが魔王がそれを制してきた。だから私は魔王に、なぜ邪魔をするのか?そう問いかけたのだけれど、答えは意外なもので。この程度の連中なら私でも簡単に片付けられると言い切った銀色の女性。確かに私達よりも弱いはずの魔物の群れは一瞬で蹴散らされたのであった。そして銀色の髪をした美しい魔族は私達を守るために魔族達に指示を出すと。自分の体を霧に変化させて姿を消したのである。そんな彼女の動きを見て私は驚きの声を上げてしまったのだ。だがその驚きの声に対してリリは何の反応もなく平然としている。まるで彼女が消えた事が当たり前のように振舞っている。その姿を見つめながら、私は彼女の存在の大きさを改めさせられた。

それからリリと魔王は二人で話し込んでいる。その話を真剣に聞く魔王。そしてその話を聞き終わった魔王はリリの事をそっと抱きしめたのである。私はその行動に驚くが。魔王のリリへの気持ちを改めて理解した私は。その光景を温かい目で見つめるだけだった。そして私は自分の命がもう残り僅かだと理解していた。だからこそ私の最後の仕事として、私の大事な大事な家族であるリリアに幸せに暮らして貰えるようにリリアの側にいることにしたのである。リリアがリリに魔王に認められたことを報告してくれたことで、私はこの世界に魔王が現れた時の事を思い出す。

この世界では、この世界を恐怖と混沌の渦に引き込んだとされる悪神達が存在していた。そんな彼らの手から逃れる為に、私達人間は異世界から勇者召喚を行い、彼らに立ち向かったのである。しかしそんな私の前に突如現れた銀色の女性は圧倒的な力で私の前に現れると、そのまま私達人間に戦いを挑んできた。その時に私達はその銀色の女性がこの世界に災厄をもたらす元凶だと思い。彼女の行動を必死で止めるべく立ちはだかったのであった。そして銀色の女性と私は戦い、私の仲間達は彼女の仲間によって殺されてしまい、銀色の女性は、私を殺す直前にリリに語りかけたのである。私はその時、この場にいるのがリリだけでは無く。魔王とリリの姉もいた事に、私は酷く驚いていた。

「私の愛しき子供達よ、私はお前たちと戦うつもりはない」

そんな事を言う銀色の彼女は私には興味がなさそうで。すぐに私の事を殺そうとする。だけどリリアの事を大事にしている魔王はそんな彼女に、私の娘を見逃してくれれば、私は大人しく引き下がると言ったのであった。だがそんな私の申し出は、あっさり断られてしまうのである。しかもその後、私の大切な仲間を殺した魔王の配下と私と魔王との話し合いが始まった。その結果は私が仲間を殺しているのを見たリリアが、魔王と私の争いを止めようとし。そして魔王がリリアの願いをかなえてくれたので、私は殺されることは無かったのである。そして銀色の彼女が現れてから。私の大事な人達が次々と私達の前から姿を消すことになった。そんな銀色の彼女の出現に驚いた魔王とリリのお姉さんが私の所に助けを求めにやって来る。私も二人を必死で助けようとしたのだが結局私には何もできなかった。そんな中でもリリだけは、魔王を必死に止めてくれていて。私は自分の不甲斐無さに嫌気がさしたが。それでも魔王の側にいて魔王の事を応援し続けたのであった。

リリと魔王リリアが入れ替わる。その様子に驚いてしまった私は声を上げて驚いてしまうが。私のそんな様子に構う事無く魔王は自分の体の調子を確かめ始めていく。そして私の体の中の魔石を取り出し、そして私の体の中にある全ての力を私に戻したのだった。そしてその事を確認し終えた私は、魔王の力を使いこなし始めた私の娘リリを優しく抱き寄せる。すると魔王はリリアに私から預かっている銀色の剣を渡す。それを受け取り魔王の力に目覚めたばかりの娘の様子を見る。そして魔王に娘の様子を尋ねてみると、魔王は嬉しそうな笑顔を見せて私と娘の事を受け入れてくれるのだった。

『お母さん。私頑張るから。頑張ってお兄ちゃんを守るから』

私はそんな娘の言葉を聞いて涙を流してしまう。私が守れなかった息子に娘が出来ていたという事実を。そしてそんな娘に私は守られているのだという事を考えると。そんな娘が無事に育ってくれた事がとても嬉しいのと同時に、自分が情けなくて涙が出そうになるのだけれど。その気持ちを抑えて魔王の側に立つ事にしたのであった。魔王と一緒に銀色の少女を見つめる私は、魔王と同じ銀髪である魔王リリアの姿を見て、私の可愛い娘が、この世界の魔族の頂点と言われる魔竜王の娘になった事を、誇りに思う。それと同時に、これからの戦いに対して心を引き締めなおす。魔王リリアは私のそんな思いを察してくれたのか、私に手を差し伸べてくる。

『私も貴女にお願いがあります』

私は魔王リリアの手を取り、彼女の言葉を待っていたが。彼女は私の想像もしていなかった事を私に頼んでくる。それは私の大事な大事な家族であるリリアの体の中に眠るもう一人の人格の事についてだった。そして魔王リリの口からその事を聞いた私は困惑してしまうが。私にとってはリリの事は誰よりもよく分っているつもりでいる。その事は魔王も知っているはずなのだが。何故そんな質問をしてくるのだろうと不思議だった。しかし私が答えるよりも先に、私の娘であるリリは、自分の事を分かってくれた母と慕っているリリアが、自分の中にいる存在のことを知っていたのは意外だと言っていたので。私の中で更に訳がわからなくなってしまった。私がそんな状況で困った顔をしていると。そんな私の元に銀色の美しい髪の美しい女性が現れる。

その美しい女性は私に微笑みかけてくれて。銀色の魔竜王と呼ばれている私の妹であると言う事を教えてくれた。そして銀色の髪をしている妹の存在を知らないかと言う事を聞くと。私は銀色の髪を持つ女性に見覚えが無かった為。私は首を傾げて知らないと言う事を伝える。すると私の妹の魔王はその表情を変えると、何かを私に伝えようとしていた。その瞬間に魔王はリリアの体に吸い込まれて消えてしまい。それと同時にリリアの意識がなくなったのである。私はそんなリリアを抱きかかえて魔王城の一室まで運ぶ。そんな私のもとに銀色の女性と紫色の髪をした魔族が現れた。その二人は私の様子を見て慌てて私と魔王が居なくなった後のことを色々と教えてくれたのである。

それから私はリリィがリリに入れ替わったことに関して。魔王は私達の娘リリィが魔王になってしまったという事に戸惑っているようだったので。その事も含めて私は説明していく。すると魔王はとても申し訳なさそうにしていたのだ。その姿に思わず苦笑いしてしまった私は魔王が謝る事は無いと言う事を伝えようとした時に、突然部屋の扉が開かれて。そこから現れた魔王の側近の女性が銀色の鎧を身に纏い銀色に輝く魔剣を持った男性を連れ立って現れる。そしてそんな男性が私の目の前に来ると私と話をし始める。

どうやらこの男性は魔王の父親で私の息子だとわかったのである。しかも彼は私達に挨拶をしに来たらしく、私達が居る部屋に入ってくる。しかしそんな彼の行動に銀色の美しい女性が私に近寄って来ると。自分の息子の不甲斐無さを謝罪しだす。そして魔王が連れて来た男性と銀色の美しい女性は魔王城に戻ると言って帰っていったのである。そして私は魔王と私とリリと魔王の母親だけになって部屋に残ったのだが。そこで私達は話し合いをすることにした。話し合いを始めると私はリリスとリリシアに私の正体を告げる。私の正体は、かつて魔王とリリシアと共に悪神達と戦った人間であると告げると。リリシアは驚きの声を上げたので、魔王の方を見るが彼女は静かに私の方を見て微笑んでいたので。その事実を信じた私は私自身がこの世界にやって来た理由を話す事にする。そして魔王と魔王の母親は真剣な眼差しで私に話を聞こうとしてくれた。

「この世界に貴方が来た理由が、リリアさんの体に眠っていたもうひとりの娘。その少女の覚醒を止める為にこの世界に転移してきたと言いましたね?」と、私の言葉を聞き終わった後で、魔王がそう聞いて来たので私は魔王に私の思いを話したのであった。するとリリの体の中にあった魔力が一気に膨れ上がり、リリはその場で苦しむが。魔王と銀色の女性が私に話しかけて来る。私は二人がリリに話して聞かせろと言った言葉をそのまま伝えようとリリの耳元で囁くと、リリはそのまま気を失ってしまう。そんな様子に私は不安になったが、銀色の女性の言う通り。リリは大丈夫だというので。私は魔王の言葉を待つことにしたのである。そして魔王が私と銀色の女性と魔王の三人だけになる事を望む。魔王と私はお互いに顔を見合わせて驚くが。私はその申し出を了承したのであった。

銀色の女性は魔王の体から銀色の髪の毛をした少女が出てくる。そして銀色の少女の事を魔王と魔王の母リリは見慣れていたようで。特に驚いた素振りを見せなかったが。銀色の少女を見た瞬間に魔王は泣き出してしまい、そしてその事に銀色の女性は戸惑い、銀色の少女に魔王に何かしたのかと聞いていたが。銀色の少女は何もしていないというので。魔王は落ち着くのを待っている。そしてしばらくして魔王が落ち着付くと銀色の少女が、この世界では珍しい黒い髪をしており。しかもそれが魔王の知り合いの子供に似ているという理由でリリアが私達の前から消えたのが自分の仕業ではないと。銀色の少女は魔王に伝えたのである。そして魔王が私と二人だけで話がしたいと言ってきていたので。私はその場から離れることにする。

そんな私に銀色の魔王の配下の者が近づいてきて、私にある事を頼み込んできた。その頼み事は魔王の体を治すために必要な素材を集めてきて貰う事だったのだ。だが、銀色の魔剣を持っていたリリのお父さんも、その配下達も。皆私達の前から姿を消したため。私には銀色の少女以外、この世界に私と行動を共にしている魔族の人達はいなかったので。私は仕方なくこの銀色の髪をした魔王の部下が集めた物を受け取りに行くと。銀色の髪の少女は私が集めて来た材料を見ると、とても驚いた様子を見せていたのである。その事に私と銀色の髪の魔王は、そんな銀色の髪を持つ彼女から目を離すことができなかったのであった。

魔王がリリに、お前の兄ちゃんを一緒に探してくれと言われて魔王は魔王のお母さんに頼んだのだが。リリは魔王の言葉を聞いた後に倒れてしまい。魔王はリリが倒れたのは私のせいだとリリが言った言葉をそのまま魔王に伝えると。魔王は自分の母親が悪いわけじゃないと言って魔王に私から渡された道具を使うように魔王はリリに伝えていたのである。

それから暫くの間私は魔王城に残っていたが。私はリリとリリアの事を考えると胸を痛めてしまう。私の娘はリリアとリリシアの両方がいるのだけれど、娘を一人失った気持ちになりながら私はこれからの事を考える事しかできない自分に腹を立てるが。今の状態で出来る事を必死で考えるが何も思いつかない。するとそこに私達の娘である魔王が姿を見せたので、私はリリと魔王について聞く事にしたのである。

『リリちゃんのお兄ちゃんが、何処にいるかはわからない』

『でも。お姉ちゃんと一緒だったからきっと生きている』

魔王と魔王の母親の言葉に私は安心する。その言葉を聞いてリリの事も魔王とリリアに任せる事ができると思った私は、私がこの場から離れようとすると魔王と魔王の母親に私は止められたのであった。そして魔王は私に魔王の娘リリをお願いしますと頼まれる。そんな事を私の娘は、魔王の娘は私を母と呼んでくれていて、私も娘を大事にしているつもりなのにどうして私が娘である魔王の願いを断ったのか。それは私の中でリリアの存在が大きいからだ。リリアは私の可愛い娘であり。魔王である娘のお願いなら喜んで引き受けていたかもしれないが。リリの兄の事は私が口を挟む問題でもない。私は魔王が私に対して魔王の娘であるリリと、魔族と人間との架け橋になるようにしてほしいという魔王の言葉に少し心が揺らいでしまう。そんな時私の足元から突然、魔獣の王が私に襲いかかってきたので。私は自分の命を犠牲にしなければいけないと諦めて覚悟を決めると。魔王と魔王の母親が私と魔獣の王の間に割って入ってくれたのだ。

そのおかげで私は魔王達のおかげで、助かった。そんな魔王と魔王の母親は私の前に出てきてくれた。そんな二人の姿を見ていた魔族の人達は魔王と私に攻撃する事はせず、魔王の配下達は、魔剣を持ったリリスの父親と一緒に戦ってくれたという魔王に感謝の言葉を伝える。そんな事があった後で、私の元に魔剣を持った紫色の髪をした男性がやってくる。私はそんな男性の事を見ながら彼が、魔王の父親の魔剣使いである事を知ったのである。するとそんな私の耳に魔剣を持つ男性の声が聞こえてくる。その声に私は魔王の母親を見るが、魔王はそんな私の事を見つめて優しく微笑んでいたのであった。そしてその事が気になった私は彼にリリアのことを聞こうとするのだが。その瞬間に私の意識が途絶えてしまいそうな程強烈な目眩に襲われたのである。そして気がつけば私は自分の部屋で倒れて居たのである。そして心配してくれた銀色の綺麗な女性が私の所までやって来て、私を抱きかかえて自分の部屋に運んでくれる。そして私の傍を離れずに、ずっと私の事を看病してくれる銀人の女性に私は自分の本当の名前を教えてあげる事にする。

「そういえば自己紹介をしていませんでしたね? 私の名前はセシリアと言います」

「セシリーさん。貴女が私を助けてくれたのですね?」

「えぇそうです。それとセシリーと呼び捨てにしてください。私は貴方達にとっては敵に当たる者なのですから」

「いえそんな事はないですよ。私はこの世界の平和を願っています。だから貴女の事情がどうであれ。私達に敵対するような存在では無いと思っております。そして私はそんな貴方の力になりたいと思っているのです」

「それはとてもありがたい事だと感謝しています。私はそんなあなた方に一つ提案をしたい事があるのですが、私達魔族はこの世界を滅ぼそうとは思ってはいません。私達が戦う相手は悪神と呼ばれる者達だけです。そして私は魔王とリリシアが幸せに暮らせる世界にしたかっただけで、この世界を滅ぼすつもりはありません」

「そうですか。私は魔族の人達の事を詳しくは知らないけど、セシーがそこまで言うなら、悪い人ばかりじゃないんでしょう。ただ。魔王の事は私にもわからないんですよ」

その言葉に銀色の女性は魔王とリリシアに何があったか教えて欲しいと、銀色の女性に頼み込んだのである。そして銀色の女性の話を聞き終わった彼女は泣き崩れてしまったのであった。その事で私達と敵対したくないと思っていた彼女は本当に私達に敵対する意思がなかったと知った。しかし、彼女はその事実を知っても。自分の家族を、愛する夫を失った事に違いは無く、悲しみに明け暮れたのだ。私はその彼女に魔王城にある書物庫で本を読む許可を与えると。その女性は自分の知識が足りていないと思い込んでいたようで。魔王のお母さんに案内するようにと銀色の女性に頼む。そして彼女が本を読み始めてしばらくした時に、その女性は突然私に向かって謝罪してきたのである。そしてその言葉を聞いた私が驚き、銀色の女性が私と銀色の女性の会話を聞いていた事に驚いてしまったのであった。

そして私が気を失ってからの状況を銀色の女性に聞いているうちに、リリアと魔王は魔王のお父さんと共にこの国を出ていったと銀色の女性に聞いて私は安堵した。リリの体はもう既に限界に来ていたので、もうじき死んでしまうのではないかと心配していたのだ。そして私はリリアがもうすぐ死ぬ事を、私の娘の魔王と娘と同じ名を持つ銀色の髪を持つ銀色の女性に伝えると。二人は泣き出してしまう。

そんな銀色の女性に、リリアの体を私が引き取りたいとお願いしてみることにしたのだ。銀色の女性は私が魔王の体に入った時の状況を考えれば。魔王に迷惑がかかるかもしれないと躊躇しているようだったが。私がどうしてもと言うと銀色の女性は渋々了承してくれた。だが魔王はその申し出は断ると思うとも言っていたので、何故だかわからなかった。そして私も魔王から断られても別にかまわないと思っていたので、リリアを連れて行く事はしなかった。

そんな私と銀色の魔王の配下である女性を、リリィの配下達は魔王城に残していくことにしたのだ。それはこの国にまだ私の娘リリが生きている可能性があったのと、魔王の母リリが魔王の娘であるリリシアと魔王の娘を探している事を伝えて。この国の兵士達に協力してもらうためであると私はリリの母親に伝えたのだった。だが魔王とその母親は、魔王の娘リリを、この国から連れ出す事を決めたようである。私はリリシアは大丈夫だと、銀色の魔剣の所持者である魔王の母親に伝えると。私達と一緒に行動を共にすると言ってくれたのだ。

魔王が私に頼み事をしてくる。魔王の願いはこの世界の全ての魔族の王になって欲しいというもので、そんな事不可能だと私が告げると、魔王の母親も魔王もその言葉に賛同してくれたのである。魔王の母親が、私がどうしてそんな事を言い出したのか、魔王の母親も魔王に理由を訪ねていたのだが。その理由を私はリリアの事を話すと。魔王の母親に、リリアと魔王はリリが死ねば悲しむだろうと私に伝える。

魔王は自分が魔王になる時に母親の記憶がないと言った。魔王が魔王になった時は魔獣が暴走を始めた時期だったので、母親として魔王を育てる時間がなかったので記憶を失うしか手が無かったのだ。だが母親の事は覚えていなくても自分の母だと本能的にわかっているから。魔獣が暴虐に走る事を防いでいたと私に説明する。魔王の父親は魔獣が暴れる事を止めた後に蘇ったようだと私は推測すると、それが正しいのかどうかまでは私にはわからないが。魔獣の王が、魔核を埋め込む実験体に使った魔族の生き残りは殆ど生き残っていないと言っていた事から、魔王の父親も魔族だったのではないかと推測している事を伝えたのであった。魔王の母親も同じ考えのようで、魔王の母親と私は同じ意見のようである。そして私はその言葉を聞いた時に、魔獣がなぜ凶暴化しているのがわかった。魔族の血のせいだったのだ。そしてそのせいで魔王の母親とリリの母親であるリリアは殺され。魔王の父親がリリを攫い魔王にしたのだと考えるが、私は魔王と魔王の母親に魔王の本当の母親が生きている可能性がある事を教える。魔王の母親はそれを聞いて酷く落ち込んでしまい。そんな彼女の様子を見て私は少し後悔してしまったのである。

魔王の母親がこの城に残るというので。私は娘のリリアを探すために魔王の体を借りようと決意したのであった。その私の事を止める魔王と魔王の母親だったが。私がこの世界で娘のリリアを見つけるまで、私はこの体から離れられないからと二人に説明をする。そして私は魔族達の国を出る前に魔獣達の様子を探って見る必要があると思い立ち、魔獣が何処に居るかを魔王に尋ねて見る事にしたのである。すると魔王はすぐにその場所へと向かい私もついて行くと伝えてきたのだ。そんな魔王の言葉に魔王と魔王の母親が止めようとした。しかし、私は魔王と魔王の母親に魔獣の王が復活している可能性があるからと話す。

「えっ! でもその話は、リュナは信じる事ができるのですか? 魔獣が魔核を埋め込まれたのは私が生まれるより前なので、魔族の私や魔王の母親は魔族の王ですからわかりますが。人間である貴女は信じられないのではないですか?」

「えぇ。確かに私は人間の世界では魔族の敵と言われていましたが。私の生まれた場所が魔族に滅ばされた国だったという事と、魔族の魔核を体内に埋め込めば。魔獣を操る事が出来ると聞いた事があったので信じています。だから私は娘のリリアを探し出してこの世界を救う為にも魔族に協力したいと思っています」

私の言葉を聞いた魔王は納得できない表情をしていたが、それでも私の事を信じてくれると言う。魔王のその優しさは私の心を動かすのであった。そんな魔王と私は、魔王と魔王の両親に見送られてリリアを探しに向かう事にする。魔王達は私が探しに行きたいという事を反対していたのだけど。私には魔王の母親の記憶があるからか。何故かリリアの事がすぐに見つかる予感がしたのだ。そして私の勘は当たっていて。魔獣の国に足を踏み入れた途端、リリアが私の事を待っていたかのように現れたのである。私はそんなリリアの姿を見ると抱き締めてあげようとしたが、私はリリアと初めて会った時の事が頭に浮かんでしまう。私はそんな思いを抱いたまま、リリアの頭を優しく撫でたのである。するとリリアは、私の顔を見つめた後で。いきなり私に対して土下座をし始める。そのリリアの行動を見て驚いた私は慌ててリリアを止めようとするが、リリアは私の事を見る事もせずに謝り続けたのである。そして私の腕の中でリリアが突然倒れた事に驚く。私は急いで魔獣の王の元に行くとリリアの状態を説明し。リリアを助けてほしいと告げたのであった。

「うーん。まあ仕方ないか」そう呟いた魔獣の王は私を案内するために魔の森の奥地へ行こうと提案したのだ。その言葉に私は首を傾げると。リリアを助ける為に必要なものがあるのだと説明する。その説明を受けて、その言葉の本意に気がついた私はその話を受けると、案内をしてくれる魔族に付いて行ったのである。そしてたどり着いた場所は巨大な空間であり、そこには様々な色の水晶の様なものが、天井から吊るされていたのだ。そしてそれらの中の一つが眩しく輝いていた。その輝きは普通の光とは違うように見え、とても綺麗なものであった。その光の塊の所にたどり着くと、それはとても小さな女の子が寝ている姿に変わる。そしてその少女がゆっくりと目を開けると、私に視線を向けてくるので、私は挨拶をする事にする。

「あなたの名前は何ですか? 私はリリアと言います。よろしくお願いしますね。それで私はどうしてこの世界に呼び出されたのでしょうか?」と私は目の前の少女に尋ねると。

私を召喚したのは魔獣の王らしいと、魔獣の王の使いだという女性に教えられる。私はこの魔素濃度が高くなっている魔族がいる場所にいると、魔素が体に悪影響を与えないかどうか心配で魔獣の王に尋ねてみる。魔素の濃度を下げてもらう事は可能かと聞くと、私なら大丈夫だと思うよと言ってくれたのだ。そんな会話を交わしている時だった。リリアの様子が急におかしくなり始めると。リリアは自分の事をリュークと間違えながら私に向かって抱きついてきて。涙を流し始めたのである。私はリリアを抱きしめてあげると、「もう大丈夫だよ」と囁いて安心させたのであった。

そしてリリアの症状が落ち着きを見せた時に私は気が付いたのである。私達が今いるこの場所は魔王城があった大陸の更に北にある極寒の地であると魔獣の王が言うのである。しかも魔核が埋まっているという魔族の国にも近かったようだ。リリアはそんな所まで移動できるほど体力が回復していたので、その言葉を聞いた時にリリアの体調を気にするのであった。そして魔獣の国に戻る事になると、私達は魔獣の王が住んでいるであろう城に案内されて、私もそこで暮らす事になった。リリアが私の側を離れずに一緒に暮らしたいと申し出て来たので、それを許可したのである。

私とリリィはリリアを救ってくれたことに感謝しながら、魔王達にお礼を伝える。そして私とリリアと魔獣の王と共に魔王城に戻ったのである。魔獣の国はリリィとリュシアの二人に任せてあるので、リリィも問題ないだろう。

魔王と魔獣の王と私は魔族の国の王として就任することになった。だが私はまだこの国の魔族の扱いについて納得できていなかったので。その事を二人に話すことにしたのである。

「えっ!? リリア様は、魔族の味方だったのですか? 魔族は人族から忌み嫌われて滅ぼされて。生き残った魔族達を魔王軍が助けたという話を聞いたのですが。魔王の話ではリリア様が魔族を助けたというのは違うみたいですね?」

私は魔王とリリアがこの国に来るまでの事情を説明すると。魔獣の王が驚きの表情を浮かべ、魔王も信じられないという表情をしている。だがリリアの本当の父親と思われる魔獣の王が生きている可能性があるので、今は私の娘として扱っていると説明した。リリアとリリの二人が親子である事を。そして魔獣の王がリリアの父かもしれない事を話すと。魔王と魔獣の王は凄く驚いていたが、私の予想通り、やはり魔獣の王はリリアの父親であるとわかった。私は二人から色々と質問をされ、魔獣の王から娘として育てられた経緯を教えてくれたのである。魔王の母親の事も知っている様子だったので、私は全て正直に答えたのであった。そんな私を、リリアとリリとリリスとリュシアは暖かく迎えてくれて。その日の夜は歓迎会を開くと張り切って準備を始めてくれる。その晩は魔王城のみんなで大騒ぎをして楽しんだのであった。そして翌朝に私はこの魔族の国に住む住人達の前で、魔族に対する扱いを改めてもらおうと考えていたのである。そして私が魔王になってから二日目の早朝の事である。私の元に訪問者が来た。私の側近でもある、リリアの親衛隊長だったライルが慌てたように報告してきたのである。私はリリアと二人でその報告を聞き愕然としたのだ。

私はこの魔族の国に住む住人達を集めさせて、魔族に対してどういった態度を取るのか決めさせようと思って朝早くに起きたのである。そして私の元に使者が訪れ、魔王軍では無く魔獣の王国の傘下に入ると宣言したのだ。突然の使者が放った言葉でその場がざわつき始める。しかしそんな事にはお構いなく、魔獣の王が現れてこう言ったのだ。お前達はこの者に従う気はあるかと。その言葉に私以外の全員が賛同したので、私は慌ててそれを止めたのだが無駄に終わってしまった。そんな私の横にはなぜか魔王の姿もあったのだ。その事に驚いた私の耳に「リュカ姉さんがここに居るなら当然だよ」と言ったのだ! なんという事だ! リリィから私の事をリュカルと呼ぶ許可は与えていないのに勝手に呼んでる。そしてリリィから聞いていた魔王の特徴にそっくりなのだ。

「あなたはリュナ! なぜ私にこんな仕打ちを?」

「うーん。だって僕の事を殺そうとしたでしょ? 僕は自分の母親と妹の命を守る為に君に剣を向けたのだから恨まれても仕方ないと思わない?」と、リリアに似た容姿を持つその魔王は平然と言ってのけたのである。私は魔王のそんな言葉を信じる事が出来ずに、魔獣の王が本当に魔獣の王なのかを確かめる事にしたのである。

リリと魔獣の王は私達の様子を見守っている。

魔王が私に攻撃を加えてくる前に私が魔王を殺さないか見届けているのだ。そんな魔王は私を殺すのには何の躊躇もなく。本気で私を殺そうとして来たのである。そんな魔王の動きを見て私は彼がリリアの本当の父親だと確信をしたのであった。リリは魔王が私を殺さぬように魔法障壁を展開して防御してくれていたのだ。私はそんな魔王と戦わなければならない状況に陥り戸惑っていたのである。そんな時、私はリリアが居た世界にいた時にあった夢の内容を思い出す。そう、リリアと魔王の出会いはこういう感じではなかっただろうか? そう思った瞬間、私の頭に突然声が聞こえてきた。それはこの魔獣の王の声であった。

『魔王と魔獣の王が出会った時の事は思い出しましたか?』と聞いてきたのだ。私は、それが今起こっていることだと瞬時に判断する。なので私もこの場で魔王との初めての出会いを再現する。リリアが見た夢の内容が私にも見えているようなのだ。魔王が私に向けて放つ魔法の威力が格段に上がると私に襲いかかってくる。だが私は、リリアとの夢の内容を再現しようと魔王の攻撃を避けるように動いていくと、次第に魔王の方が追いつかなくなり始め焦った表情を見せるようになる。私はリリアと初めて会ったときの状況を思い出していた。確かリリアに聞いた話では、魔王とリリィが魔獣の群れに囲まれた時、魔王の窮地を救った事でリリィと友達になったのだと教えてもらったはずだ。その事を私は魔王に試してみたのだ。魔王は私の動きについて来れなくなってしまい、とうとう私から距離を置く。その行動から私はこの世界の魔族を、リリアとリリと魔王と魔獣の王の四人が統治していたと記憶を遡る事にした。すると案の定その光景が私の脳内に映し出されたのだ。そしてその出来事を詳しく思いだすと、確かに魔獣の王がリリアとリリを救い出し。魔王を魔の森の奥へ連れて行く姿が鮮明に見えたのである。

そしてその魔獣の王の事を私に知らせるようにリリアとリリは魔獣の王の所に駆けつける映像が見えたのだ。だから私はこの目の前にいる少年の事をリリアとリリの父親と認識できたのである。

私はその魔族たちの過去の情景と、その当時起こった出来事を見聞きしたことを全てリリアとリリに話すと、リリアもリリも泣いて喜んでくれた。

そして魔獣の王が魔族の扱いを改めさせたかった理由を聞いて。リリアは納得してしまった。私は魔族の扱いについて考えさせられる結果になり。今後は私も魔族たちを虐げるような真似だけはしない事を誓おうと心に決めるのであった。

僕の名前はリュークと言います。今はリュカルと呼ばせてもらっています。リリア様にお願いされたからではありませんが。これからはこのリュカルの身体をお借りする事が多くなりましたので、僕の事はリュークとお呼びくださいね。それとリリィお義母さま。もうすぐ赤ちゃんが生まれるんですよ。僕は今からとっても楽しみにしているんです。そんな幸せいっぱいな僕は今日はリュアと一緒に魔王城の城下町にお忍びできている。この国の王であるリュカルは毎日のように視察をしているが。まだ生まれたばかりの赤ん坊であるリリを、城の中に一人で残すのは気が気でないらしく。こうして護衛を必ず付けるという条件で、お目付け役のリリアとリリィと僕で城下街に遊びに来たのだ。勿論護衛役としてロトとサリエが付いてきているが、二人共変装していて誰だか分からないくらいの別人になっている。リリィの話では、魔族の国に遊びに行く際にこの姿に着替えさせられていたらしいのだ。そしてリリィもリュシアと同じ銀髪に変わっているのでリリィとリリの区別が全くできない程だ。だがそんな変装でも、リュリアを抱っこしながら歩く二人はとても目立つようだ。僕はこの国の民にリュカルの事を聞かれては適当にあしらっている。その度に僕は、まだ生まれたばかりでお披露目もしていない赤子であるリュカ様が、このような姿で歩いているはずはないと、誤魔化しているのだ。だがそれでも僕は、この国の民から尊敬の眼差しを受けているようで気分が良い。リリアは僕の横で嬉しそうな顔で僕の腕に絡みついてきている。まるで僕の婚約者みたいな感じだがリリアとリリアママがそう言って強引に絡んでいるだけだ。そのお陰もあってか、魔獣の王と魔王が手を取り合って仲良くしているというこの国での魔獣と人族の関係は良い方へ向かっており。リュリアとリリは人族の女の子に人気があり、その二人を優しく抱きしめて愛してくれるリュカが、この国では王子のような立場になってきており、今ではリリアの事をリリア様と呼び慕ってくれる者が増えてきていた。その事に関してはリリアはとてもご機嫌なのだ。そんな時リリアはリュリアに話しかけてくるのであった。

「リュカルちゃん、そろそろオムツ交換しないと駄目かなぁ?」

「うん! リュカルもそろそろおしっば出るよ!」

「うふふ、リリアに似ずリュカルは可愛いわねぇ。リリアの子供の頃を思い出すわ。そうそうリリア。そろそろ出産日近いでしょ? 私達とリリアの子供だから絶対双子だから、その日に産まれると予測しているんだけど、私とリリは仕事があるから出産に立ち会うことができないけど大丈夫? 無理しなくていいのよ」

そんなリリアとリリアママの話に、リュアスは興味を持ったのか会話に参加し始めた。

リリアの娘はリリアに似ているのかとか、どんな風に成長していくのかなど。そしてお姉さんぶって妹に構いたくなるのか、色々と聞いてくるのだった。この子が本当にこの魔獣の王国を纏め上げていたリュアという魔王なのかと疑いたくなるほど無邪気で可愛い子なのである。リリィやサリアから聞く話だと。見た目と性格は全く違うらしい。そう考えると、あの魔王は本当に恐ろしい存在だと思えるのだが。魔王がこんな無邪気に可愛く振舞っていた姿を想像すると、笑いが出てしまう。

そうこう考えていると。急に城内が騒がしくなってきた。何かあったようである。僕はリリアに念話で連絡を入れようとすると、何故か念話が通じない。僕は慌ててリュカルから離れて剣を抜いてリリを抱きかかえる。そうするとすぐに僕の前に結界が発動した。どうもこの結界をリュカが張ったみたいだ。僕は結界の中で外の様子を探ろうとした。

僕の目にはリリア達が襲われている場面が映るが、リリアがリリを庇いながらも懸命に抵抗しており。リリも泣き叫びながら剣を振るっていた。

僕の目にはリリアと魔王しか映っていない。

そしてこの場に他の魔族が見当たらない事からも、この場でこの魔王と戦っているのが魔獣の王国の者たちではないことが窺える。僕はリリア達の様子を見て冷静さを取り戻していた。そして魔王に向かっていくのであった。そして魔王に一撃を食らわせ、リリアに怪我がない事を確認し。魔王に攻撃を仕掛けようとした瞬間、魔王に止めを刺す機会を潰されてしまった。この僕が殺気だけで身動きできなくなってしまったのだ。この魔王を甘く見ていた。この魔獣の王は魔獣の王が言っていたような危険な存在であることは間違いないだろう。そして僕の目の前に現れた魔王は、今まで出会った誰よりも強い事が窺えたのだ。その魔王と対峙し、僕は改めて魔獣の王の凄さを実感する事になるのであった。

僕の前に姿を現した魔王を名乗る男の強さは尋常ではなかった。先程の殺気でこの僕を一瞬で凍り付かせる程である。

魔王にリリアを殺されたと怒りで頭に血が上っていた筈なのに。今の僕は冷や汗が止まらない。

「君は確か魔族と獣人が同盟を結んだ時の、魔王の側近をしていた青年ですね。君には少し恨みがあったのですよ。私の妻が世話になったようですので、その借りも返してあげますね」

魔族に妻がいてしかも子供までいたのか!? そしてその子供を攫われて魔王は怒っている?どういうことなんだ! 僕は混乱して頭が働かない。魔王との距離が縮まり、奴は手に持った魔杖に魔力を込めて僕に打ち込んで来る。僕はそれを咄嵯に盾に付与魔法を掛けてガードしたが吹き飛ばされてしまった。この魔族は、魔王と名乗っておきながら僕よりレベルが低いと思っていたので完全に油断していた。僕は立ち上がり、魔銃を抜き放ち速射を繰り出すが、魔王は全ての銃弾を手で受け止め、その弾を全て投げ返してきたのだ。僕はとてつもないスピードで迫り来る攻撃を全て避けたが、僕の後ろに居た魔獣の王の腹を貫いていた。この男は何をやっても僕の予想を裏切る行動ばかりしてくる。僕は再び剣を構え直し。今の攻撃のチャンスを逃さずに、一閃を放つがその攻撃は防がれてしまった。だが魔王に余裕はなく、明らかに息が上がっている。

このまま行けば僕にも倒せるかもしれないと、希望が見えてきた時。魔獣の王が魔獣の王の身体を借りて、この男の身体を使ってきたのだ。

なんとも厄介なことに、魔王の肉体を支配していても魔獣の王の自我はまだあるようだ。そしてこの魔獣の王が纏っている黒い鎧からは禍々しい気配を感じ。僕がこれまで戦ったどの魔族と比べても段違いの強力な魔族だという事は明白なのだ。僕はこの圧倒的な強さに、初めて死の危険を感じていた。この男は僕が戦ってきた相手とは別次元の強敵であり、僕一人で倒すのは絶対に不可能なのだろう。この国には他にも多くの強者が居るが、この国最強クラスの者達が、束になっても勝てるかどうか解からないという感じなのだ。そんな相手が魔王と共闘し始めた。

魔獣の王と戦う事に躊躇していたが、今は魔獣の王と魔族の王である魔獣の王と、どちらを相手にするかで戸惑ってしまっている。その隙を突かれて、魔獣の王と魔獣の王に、同時に攻撃をされる。なんとか回避に成功したが、その衝撃で僕は地面に転げてしまう。更には起き上がる事もできず、這いつくばってしまうほどに足にダメージを受けたようで動かなくなったのだ。その僕の足を魔族に踏みつけられて動けなくなってしまう。

「くっくくくくくく、貴様のような雑魚にここまで手こずるとは思わなかったぞ。まぁいい、お前は殺す前に楽しませてもらう。私の相手をしてもらうからな」

「くっ! リリアを返せ!」

「まだそんな口が叩けるのか。ならまずはその減らず口を塞いでやる。その生意気な顔をもっと歪めてやろう!」

魔獣の王がそう言い放った途端に、リリアの顔が変化していく。僕は恐怖心と絶望感で何も考えられなくなっていた。

そんな時だった── 突然リリスが僕の視界に入ってきた。

『リリィお義母さま、リューク兄様から離れてください』

リリィがそう言うとリリスは、リュカルの頭の中に入り込み、リリア達を攻撃しだしたのだ。そのおかげで魔王と魔獣の王の動きが止まった。その間に、リリとリュカはその場から離脱し、安全な場所に移動した。そのリリア達は、魔王に囚われたリリアを助けるために必死になっているようで、リュリとリュアはリリアが無事だった事を喜びつつも、早く魔王を倒してリリアを助けたいと頑張っていた。だが二人の力はリシアと比べると、やはりまだまだで。魔王を簡単には倒せなかったのだ。だがその戦いを見守りつつ。魔族と魔獣の王は、二人に目を向けると、二人に襲い掛かっていった。だがリリアが魔獣の王の邪魔をし。魔王はリリアとの激しい攻防を繰り広げていて、僕が動くことが出来るようになった時。既にリリアとリリママとリリアパパは、二人と相打ちになり消え去っていたのである。僕はすぐにリュカルとリリの元に向かいたかったが、それではリュカルが危険だと思い留まった。

魔王は僕を見て、リリアと魔王との戦いの巻き添えを食らい、瀕死の重傷で動こうとしないと判断したようである。

「くそがー!!! よくも! 私の妻をよくも殺してくれたな! 私は貴様に必ず復讐をして見せる。その時には、あの時の屈辱を思い知らせて、この世界にいるすべての者どもを蹂躙してくれる。覚悟していろ!!」

魔王がリリアの最後をみて激昂し、リリアを亡き者にしてくれたリリアの家族への復讐を宣言したが、僕はそんな事はどうでもよかった。それよりも僕はこの魔王が気になっていた。魔王の言っている事が真実だとすれば、魔王はこの世界に来る前までに他の世界にいたという事なのか? 僕は疑問に思い。魔王に質問したのだが。この男は自分の秘密については一切語らなかった。だがこの男は、自分が別の世界から来たということは認めているようなのである。

そうこうしているうちに、僕の目の前にリリアが倒れている姿が見えてきた。僕はリリアの姿を見て、いても立ってもいられず。リリアに駆け寄って回復魔法を施すが、リリアはもう虫の息であった。

僕はリリアに何度も声を掛けたが、その声に反応することはない。だが僕は諦めずに何度も呼びかけ続けた。そして最後にこう告げた。

「ごめんねリリア。僕のせいで君が死ぬところなんて見たくないんだ。僕も直ぐに君の後を追うよ。僕の分まで幸せになってくれると嬉しいんだけどね。僕の分身は、君に預けておくよ。きっと役に立つ筈だから」僕は自分の胸に手を突っ込んで、収納から剣を取り出しリリアの胸に差し込んだ。

僕には分かっていたのだ。リリアに僕の意識が混ざったのならば、僕は死ねないと。僕は最後の力を振り絞り剣を抜いてリリアから離れて立ち上がった。

僕の予想は当たっていたようで。僕には傷がなかったのだ。僕が立ち上がると魔王と魔獣の王が、僕を殺そうと近づいてくるが。僕は全く怖くなかった。この剣のおかげなのか?僕には力が溢れていたのだ。この剣は僕が今まで持っていた聖剣ではないのだが、僕を見守ってくれるという気持ちが流れ込んできていた。僕は今までとは違う自分になれた気がしていた。その剣は魔刀ライキリと名付け、その能力として闇属性魔法を吸収する効果があるようだ。僕は試しに、魔王に斬りかかってみると。この攻撃は防がれるどころか、魔族であるはずの魔王の体に一筋の切れ目が入って、魔王を絶命させていたのである。

僕は魔族である魔王を殺せた事で安心し、その場に崩れ落ちていったのだった。

僕は気が付くと真っ白な空間にいた。

そこにはリリスの姿があり。そしてその隣にはなぜか魔族が立っていたのだ。僕は警戒したが、この魔族からは殺気を一切感じない。そして何故か懐かしい雰囲気を感じていたのだった。僕は魔族の顔を見て驚く。

「リリス、どうして魔族の中に入っているんだ?」

僕は驚いてそう言った。僕にリリスの事は、ずっとリリスとしか言わないが、それは僕が魔族の中に居る存在の人格を認識して、それがリリスだという確信を持っていったのだ。そしてこの魔王が僕の中に居るように。リリスの中に居たのは、魔族の王であるリリィと魔獣の王でもある魔王だという事は、今の僕なら理解できる。そのリリスの中に入っているこの魔族は一体何者なんだ!? 僕の問いに対し、リリスは何も答えるつもりがないのか。僕の方にゆっくりと歩いて近付いてきた。僕は剣に手を掛け、リリスの行動を見つめる。

「その剣の鞘は外さなくてもいいのかしら?」

「え!? あぁ! そうだった! これは僕の剣だったのを忘れてたよ。ありがとうリリ」

リリスが魔獣の王の肉体を奪った時は、僕と魔王との殺し合いに水を差すので黙っていたが、この魔族が現れたことで僕はやっとこの魔族の正体が解ったのだ。何故ならばこの魔族の正体は僕にとってかけがえのない存在であるからなのだ。そうこの魔族こそが本物の魔獣の王であるのだ!僕がこの魔獣の王と初めて会った時に話したことを思い出す。僕が勇者であり英雄で神になるかもしれないという話をしていた時である──僕の中で一番古い記憶であり。まだ物心つく前なので、僕ははっきりと覚えていないのだが──僕の中にはリリスではなく、魔王の魂が入っていたのである。

リリスはその事に全く関与していないのだが、魔王の方はリリの記憶が少し残っているようで、この魔族の事を魔王と呼んでいたのだ。リリが魔王の魂を持っている理由は知らないが、この魔獣の王は僕の中の魔王を消し去る際にリリの事を気に入ってしまったらしく、リリの中の魔王を消さなかったようなのだ。

そしてそのリリが魔族に憑依した事を知って、慌てて魔王にお願いしてリリの体を乗っ取って貰ったらしいのだ。その話を僕にした時はまだ魔族として完全に覚醒していなくて、リリスに自我があるような感じだった。リリスを乗っ取りたいという魔王の欲望に負けたのは間違いないだろうが、その後魔王は僕の為に、僕の願いを聞き入れてくれて魔王の力を使って、リリをリリスの人格に戻してくれたのだ。

僕の中の魔王の消滅により。リリと魔王の関係は途切れる事になり、魔王のリリに対する興味も失くなって。魔族もリリに憑依する事を止めたのだ。

その魔王は今僕の前にいるリリの肉体に入ったこの魔族だ。その魔獣の王リリにリリスが取り込まれていた事になるのだが。

その魔王リリは魔獣の王に身体を貸し与えていたのだろう。だが魔獣の王にリリは殺されてしまい。魔王は激怒し、その復讐をする為、この世界にやって来たのだろうと思う。リリスがリリアの体内に入り込む前にリリアを攫おうとした魔王は、逆に返り討ちにされ、リリスに取り込まれる結果となったのだった。リリはリリスがこの世界の魔王を倒すまで眠っていて欲しいと言い。魔王に眠って貰っていたのだが。

魔王が目を覚ましたことにより、眠りが浅くなっていたところに、リリと魔族の戦いが起こり再びリリスの体内に魔王が入り込んだと思われるのだ。魔王に意識を奪われた事により、僕の記憶から抜け落ちたので詳しい事までは分からないが、この推測はほぼ正解だと思うのである。だがこの場では魔王の事は伏せておくべきだと思い、僕は黙っていることにしたのであった。だが僕にだけは教えておきたいと思った僕は、この場で魔王に話しかけたのである。

「初めましてだよね?君は魔獣の王であってるのかな? 君にはお礼を言いたかったんだ。この世界に来て、魔王とリリアが戦い、そして僕は死ぬ筈だったが。君のお陰でこうして生き返れたんだものね。本当に感謝しているんだよ」

僕がそういうと、魔獣の王は嬉しそうな表情になり、その場で飛び上がって喜び出したのだ。その姿は可愛い小犬が喜んでいる姿そのものであった。魔王がこの姿を見ると怒ると思えたが。その姿を見ても魔王は一切気にした様子がなかった。やはり僕の中にあるリリスは魔獣の王の人格に変わっているようで、魔族の感情を感じられないようだ。

僕にお礼を言われた魔獣の王も大層喜んだようで、先程よりも激しく跳ね回る。その度に地面が大きく揺れ動き。僕が倒れそうになるほどであった。しかしそんな魔獣の王が急に動きを止めて静かになると、魔族は何かを考え込んでいる様子を見せる。その姿を見て僕も考えを纏めている最中であると判断すると邪魔しないように黙り込んでいたのだった。

そして暫く沈黙の時間が流れる。その間僕は自分の中の整理を行う為に、今までに得た情報をまとめていた。まず最初に、僕は勇者であるようだ。これは僕が魔王に勝った時点で確定したのであろうと思っている。

僕は、自分がこの世界に来た理由を考えていたのだ。僕は今まで勇者召喚を行った国に行った事がないので詳しくは知らない。だがこの世界で、僕が倒した魔物や魔人について調べたところ。僕のような異世界の人間ではない事がわかってきたのである。この世界の住人には僕が倒したあのレベルの相手と互角に渡り合える人間は存在していなかった。つまりは僕と同じようにこの世界に転移して来た人間がいるのだろうと、そう考えていたのだった。

僕と同じ境遇にある人物だとするならば。僕には会いに行く義務がある。僕はリリスがリリアに乗り移っていた時の記憶がうっすらと残っていたのもあり。僕の中にリリスという存在はもう居ないという事は分かっていたのだ。そして魔王を消すためにリリスは僕のために命を捨て、魔王はこの世に残ったのだと思っていた。そしてその僕が死んだ事で魔王は完全に消え去ったのではないかと。僕は勝手にそう解釈していたのである。

だが実際はそうではなかったのだ。リリスが僕の中に戻ったという可能性もある。その場合、僕は勇者でもなんでもなくなり。ただの一般男性であるわけなのだ。僕と魔王はお互いに殺し合ったのだが。その魔王を僕は自分の意思ではないにしても殺してしまった。その責任は取るべきだろう。

僕には二つの選択肢が存在した。勇者である僕の力を受け継いだ者が僕を探しているという話は聞いていた。その者は僕の力を利用しようと考えているらしく。その力の使い道をどうするか考えているようなのだ。その者に勇者として協力して魔王を倒そうと考えるか、それともこの力を持って別の人生を歩んでいくのかの二択が僕の前には存在している。その選択が、僕の人生を決める事になると、なんとなくそう思ったのだ。

だからと言って僕は勇者としての人生を歩む気はなかった。僕は魔王を倒してこの世界を救えば、それでいいのである。それにこの世界で僕は一度死んでいて。この体は、僕の物ではなく。リリスの物なのだ。それをリリスが僕に託してくれたものであるならば。この体を僕は使うことは出来ないと、そう考えたのだ。この体で生きていけと言われれば、この体で生きるつもりはあるのだが。それはあくまでも僕はこの体の持ち主の代理人として行動していくという意味なのだ。

その為に僕は、これからの事を考える必要があった。

まず初めに僕がこの体の主に断りを入れるべきかと悩んだが。リリスは、僕にその体を譲ってくれた。リリスに会えなくても、この体の本来の主の居場所ぐらいはわかるのではないかと考えてみた。そこで僕は、リリスが残した魔法道具の中に地図がある事を思い出した。

それを使う事に決めた僕はその魔法の発動を行うと。そこには確かにリリスの名前が書いてあったのだ。

その場所を指差し確認した僕は、すぐにその地点へと移動する。そこは小さな小屋があったので、おそらくリリィと魔王はそこに住んでいるのだろうと考えたのだ。僕はそこを訪ねることにして扉を叩くと。しばらくしてから中に招き入れてくれた。

僕を迎えてくれた人物は二十代半ばの女性で。髪が長く美しい女性だった。彼女は突然の来訪に驚く事もなく。微笑みながら対応してくれるのである。そしてリリアと名乗った。

「私に何か御用でしょうか?」

僕は彼女の質問に答えようとした瞬間。リリスが慌てて止めようとする。僕は何故止めるのだろうと思ったのだが。リリスが真剣な顔をしたので素直に従う事にしたのである。リリスは僕の中から出ないようにと言うのが伝わってきたのだ。

「えっと。私は貴方達を探していたんですよ。魔王さんとお話したいと思いまして、こうして伺ったんですけど──」

リリスの慌てように、僕の事を探そうとする何者かの存在があるような気がして。この事を尋ねる前にリリスの事を隠さなければならないと感じ。咄嵯に適当な嘘を吐いてしまう。だがそんな僕の言葉を聞いてリリスは納得したような表情を見せたのだ。

「あら、リュカ様はどうしてこの場所に辿り着いたのですかね? この場所を知る者はかなり少ないはずなのですが。まあ良いでしょう。魔王様は今眠っているので。後ほど話をしてくださるかもしれません。今は少しだけなら話をしても問題ないと思いますので、ごゆっくりしていてくださいね。私がお茶をお持ちしますので、お部屋でお待ちになっていてくれますか?」

僕はリリスの言う通りに、部屋のソファーで待つ事にした。だがリリスは僕の横から離れずについて来る。そんなリリスの姿を見て、このリリスはリリス本人で、リリスの中のリリスの人格とは別人だと改めて実感出来たのだ。僕は魔王の人格も持っているリリスに対して違和感を感じなくなったが、リリス自身はどう思っているのだろうか? そんな事を考えて僕は魔王を待つ事にした。するとリリスはお茶の準備をするといって離れるのだが、何故か僕にくっ付いてくるのだ。僕はこの状態のリリスが、リリスの人格に戻ろうとしているんじゃないかと思ってしまい。ついつい聞いてしまうのであった。

僕は魔王との会話を終えると、その魔王と一緒にいたリリアにも声をかけておく事にしたのだ。

僕はこの場に残っている魔獣の王に声をかけて先に部屋を出る。だがこの魔王も一緒に来て欲しいと言ったら素直に了承してくれた。

「ところで魔王さんはどうやってリリアに乗り移ったんだい?僕のように憑依系のスキルなのか、もしくは肉体そのものを交換するスキルでもあるのかな?」

僕は魔王に質問をしてみるが。だがしかし、魔王は黙って首を横に振るだけだった。そして僕の質問の回答を拒否した。そして僕は、魔王からこれ以上聞き出す事は諦める事にしたのであった。

僕はリリの父親である魔王と話しをしたかったのだが。魔王は僕の事を拒否してしまった。そのため僕にできる唯一の方法を取るしかないと判断したのである。だがそれは僕の思い通りにはならないようで、リリの父親は、自分の事は魔王であると認めるが。自分の事は『リリの父』だと言って頑なに名前を言おうとはしなかったのである。

僕はその態度に疑問を持ちながらも、「そうかい」と言ってそれ以上魔王を追求することを諦めることにしたのだ。だが僕はこのまま何もせずに帰るつもりはなかった。そして僕は、ある意味この世界で一番偉そうな人物の名前を言ってみたのである。

「僕はね。リュオメイロン皇帝を知っているんだ。だから君がこの国の魔王だって知ってるんだよ? だから、君のことは僕にとっては他人じゃなくて身内なんだよね」

その言葉に、魔王は反応した。そして僕をじっと見つめると驚いた表情をしていたのだ。その顔からは動揺が感じられた。僕はその表情を見て確信を持つことができた。魔王はリュオメイの事も知っているのだと、だから魔王はこのリリアの中にいることも。リリアの父親が魔王だという事も認めたのだと理解できたのだ。僕はこのチャンスを逃すまいとさらに畳み掛けて説得を行うことにしたのである。

僕が必死にリリの父親を説得していると、急に現れた女性がリリのお父さんに抱きつくとキスを行った。その光景に、僕の頭の中で警告音が鳴ったのである。

僕は焦ってしまい咄嵯に二人の間に割入ってしまったのだった。そしてリリスの方を見るが、その時にはもう遅かったようで、すでにリリスの姿はなく。僕の中にリリスの存在がなくなっていたのだ。僕は目の前にいる女性の事を観察するが。僕の中にある知識の中では心当たりがない。僕は警戒しながらリリィと呼ばれた女性を見ると彼女は嬉しそうにして、こちらに向かって話しかけて来たのだ。

「私の夫になる方が、貴女のような方で良かったわ。私の名前はリィネ。これから宜しくお願いしますね?」

リリアに似た顔立ちの女性からそう言われても僕は困惑するだけで。この女性は何を言っているのかわからないというか、なんでこうなっているのかがわからなかったのである。僕はこの現状を理解するために考えを整理しようと必死になっていた時、後ろでリリの父が、先程までの威厳はどこに行ってしまったのかと思えるほどの悲痛な叫びを上げると僕の方に近づいてきて僕に訴えかけたのである。その様子に僕はとてもじゃないが魔王には見えなくなっていて、僕も戸惑っていたのだが、彼は続けて口を開いた。

僕は魔王の話を聞いたがその話のほとんどを右耳から左耳に抜けてしまっていたのだ。ただ彼の言葉が真実なのだとすれば、僕は彼に謝る必要があると感じた。僕には、この体と記憶が魔王のものだということがわかっていたのに、リリスと入れ替わったという事は、僕は彼を騙していた事と同じなのだと気づいたからである。僕は何も知らない一般人を装う演技を続けていたのだが、それでも、僕の中の魔王の人格は気づいていただろう。その事は本当に申し訳ない気持ちになってしまったのである。僕は謝罪を行いたい衝動に駆られていたが。その前に確認しなければならない事があり。まずはリリスの事を聞いてみた。彼女はリリィという名前ではないのかと。

僕は、その答えを聞きたかったのだ。もし、彼女がリュオメイの娘だった場合。彼女はリュカにとって敵になってしまうのだから。そして彼女は「違う」と言って、リリの父親である彼の名前を教えてくれたのだ。その名前を聞いて僕は思わず驚いてしまった。僕が知っている名前がリリの口から発せられたからだ。それはリリアの父親であり、勇者として戦った魔王の名前だったのだから。

その後リリスの居場所を尋ねようとした僕であったが、それは出来なかった。何故ならば、リリアと名乗った女性から僕に向けて攻撃が行われたからである。それは僕を殺そうという明確な殺意を持って行われた行為なのだが。僕の目の前に居たリリスが僕の盾となって、攻撃を受けたのだ。

だがそこで問題が発生したのである。何故ならば、僕の身体の中には、リュオメイロンと、魔王の人格が存在しているのだ。その二人の精神をどう扱うべきなのだろうか?と。そこで、僕は一つの方法を思いついたので実行する事にする。その方法とは、僕の中に二つの意識が存在するのなら、どちらかが消えるしか無いと、そう考えたのだ。その為に僕はまず魔王から消してやろうと思い。魔王に対して魔法を行使しようと思ったのだが。そこで僕の身体の中に居るはずのリリスからの抵抗を感じたのである。リリスは僕の事を守ろうと行動を起こしてくれたのだ。そして、僕の中にいる二人は互いに相手の人格を排除するべく戦い始めたのである。

その結果。まずはリリスの人格が消滅してしまった。そしてそれに伴って魔王の精神が消えていった。僕はそれを確認して満足げな表情を見せると。次に僕自身も消滅する事にしたのであった。僕は僕自身を消滅させれば、元の世界に帰れるかもしれないと考えていたのだ。

僕は僕自身が僕の存在を消去するイメージを強く持つ。

「僕がこの世界に呼ばれた理由はわからないけど、これで終わりか。」

そう呟くと僕の意識は完全に無くなったのであった。そして僕は自分の部屋へと戻っていく。その僕の姿をリュオメイとリリスが見送るのだが。僕達はそんな事に気が付かないまま別れることになったのであった。

僕の目の前で、リュオメイとリリスの親子がお互いに戦う姿を見ていた僕だったが。そんな僕の目の前に急に現れる人物が居たのである。

僕の前に現れたのは僕がこの世界で知っている人物であった。そう、僕の世界における父親にあたる存在である人物が現れたのだ。そして彼に対して僕が声をかける前に、リュオメイが僕達に声をかけてきたのである。その声に驚き、そちらに視線を向けた僕だが。そこには、何故か僕達の方を睨むようにして見ている父親の姿があった。僕は一体何が起きたのか状況を飲み込めずにいたが。僕の隣では、リリスの父親がリリスの頭を撫でながら微笑んでいたのである。僕は、自分の父親も、この世界の人間に化けているという可能性を考えた。だが僕のその予想は違っていて、リリスの父親がこの世界を滅ぼそうと動き出していたので慌てて僕は、自分の父親と、リリスの父親の前に移動をして間に入ろうとしたのだ。そして僕が二人の間に飛び込もうとしたが、その時既に遅く。父親の攻撃によって僕は吹き飛ばされていたのだ。

「どうして父さんはいつも僕の邪魔をするんだ!もういい加減にしてくれよ!!」

僕の言葉に父は反応せず。そのまま攻撃を繰り出そうとしてくるのだが。そこに割って入った存在が有ったのだ。その人物を見た瞬間。僕が今まで生きて来た中で初めて感じるような感情に襲われたのであった。そしてその人物の顔を見つめたまま呆然としている僕を現実に引き戻したのはリリィの声であった。その声を聞いた時に僕は思い出す事が出来たのだ。自分が今何をしようとしているかを、そして目の前の人物はリリの父親であり。そして、リュオメイの娘である事を。僕が目の前の相手に集中して、その事に思い至った直後。

「危なかったですね、旦那様、さぁ、こちらへ来てください。そしてこの世界から出て行ってください。」

僕の視界には魔王とリリス、リリィの三人が現れて僕に話しかけて来た。僕としては彼女達に文句を言いたい気分になった。なぜなら僕はリリと入れ替わっていて。魔王とリリスの親子が争うのを止めようとしていたはずなのに。なぜか僕がその争いの渦中に居てしかも僕は攻撃までされたのだから。しかし僕は、自分の置かれている状況を整理するため冷静になることにした。だからまず最初に、目の前に現れた三人の存在について尋ねる事にしてみたのだ。

僕は、まず最初にリリの父の方を見る。彼はリュオメイルという名前らしい。しかし僕は彼の名を知っていてもこの世界においては他人なのだから。彼が本当の意味でリリィの父親かどうかはわからないというか、リリアの記憶は曖昧にしか覚えていないし。それに、彼の言葉を全て信じたわけでもないのだ。そして次はリリの母であるリリィの方を見てみるが。その瞳をみて確信を持つことになったのである。そして僕が最初に感じたのは、やはりこの人は自分の母親だと思えるものであったからだ。彼女の目を見てすぐにわかったのは。僕の記憶にある母親の目がリリィと同じで優しい眼差しをしていたからだろう。そして彼女は僕の方を見て笑顔を浮かべる。その顔に僕は思わず照れてしまいそうになるが。ここで流されてはいけないと思って真剣な顔つきに戻すと話を聞くことにする。

それから僕は魔王の話を聞き、目の前の人達の関係性を知ることが出来たのである。魔王が僕に向かって言ったことは衝撃的過ぎた。僕はその事実に動揺してしまっていたが。それでもなんとか落ち着きを取り戻してから考えると僕はどうしたら良いのかがわからなくなってきてしまったのだった。

僕はリュオの言っていることは本当なのかと思い、リリィの母親のリリィを見ると彼女は首を傾げた後に、何かを言おうとしていたが僕は咄嵯に言葉を止めるように指示をした。すると、その僕の動きに気づいたリリとリュオが僕に対して疑問をぶつけてくるが、今は説明するよりも優先しなければならないことがあると考えた僕は、リリィの母親に話しかけることにしたのだ。

僕達がリリアを庇っている間、リュオの方はと言うと、リュオと魔王の戦いが始まるのだが、僕はリリアの方に意識を向けると、リュオと魔王の方は、まだ戦闘を繰り広げているのだが。リュオが優勢のように見えた。魔王が、僕達に対して、攻撃を仕掛けて来たのを察知した僕と、リリスとリリィの二人が前に出るとリリスが魔法を行使したのである。僕はその様子を後ろから確認して、リリスの魔法の凄さに感心するのだが、それよりも重要なのはリリアの事であった。彼女は、自分の母親がリュオの方に近づいていく姿を不安そうに見つめていたが、そのリュオの行動に驚いたようにしていたのだった。そしてその隙を突いて、リリの父親は魔法を使い僕達を攻撃する。僕はその攻撃を防ぐ為の防御結界を展開する。その結界で守られていのが幸いして攻撃の影響を気にせずに僕は攻撃に集中する事が出来ていたのだ。

僕の張った結界にはヒビが入っているようで、僕の魔法で攻撃が防がれてしまうのを理解しているのかはわからなかったが。それでも、僕の事を攻撃し続けているようだった。僕も、このままでは、僕の力だけでは耐えきれないと思ったので、攻撃を中断して魔法を行使して対抗する事にしたのだ。そうして、僕が行使した魔法は光属性魔法であり、その魔法を魔王に向けて放ったのだが。魔王はその魔法を避けずに受け止めていたのである。僕が、どうしてそんな無謀な真似をしているのだろうと疑問を抱いていると魔王から返事が返ってきた。その声を聞いて僕が驚き固まってしまっていると、魔王が突然笑い出してしまったのである。

僕は、自分の身体からリリアの精神が出て行く感覚に襲われて慌てるが、それはほんの一瞬の出来事でしかなく、その後リリアは僕の身体に戻ってきたのだ。僕とリリス、リリの三人はお互いを抱きしめあいながら安堵の息を吐く。

「大丈夫か?」僕がリリに声をかけると彼女は微笑み、僕はそんな彼女に愛しさを感じる。そうして、魔王との戦いが終わった僕は改めて周りを見渡して、そこでようやく現状に意識を向ける事が出来たのだ。僕はまず初めにリュオの方を睨むが、彼に対して何もする事は無かった。そんな僕の態度にリリィは戸惑いながらも心配そうに僕の方を見ていたのである。

そう、魔王に対して僕は魔法を行使したがその攻撃は避けられてしまい魔王に当たる事は無かったのだ。魔王が避けなくても僕に魔王を倒す事なんて出来はしないのだが。だから魔王は僕に対して何もしなかったのだ。そして魔王の方は僕に対して何もするつもりが無いようなので僕は魔王に対して敵意を持っていない事を伝えると、リリの父親でもある、リリが産まれるまでは魔王だった男と話をするために魔王に近寄ろうとしたのだが。

「待ってくれ!」

魔王とリリの父親の間で戦いが起きている最中。僕は二人の間に入って行ってしまったのであった。だが僕に声を掛けてきたのは僕の父親である存在ではなかった。

僕は声が聞こえた方向を見る、そこには僕の父親と、リリの父親であるリュオがいた。そして二人はそれぞれ違う表情で僕の方を見ており。僕に助けを求めるリリのお父さんに、険しい顔をして僕に武器を構える父親の姿が有ったのだ。その光景を見た僕は驚いてしまい動けなくなっていたのである。そう、そんな僕に声が掛ったのだ。「貴方の父親が私の味方をするならば私は敵対しても構わない。だが私に敵対の意思があるならお前には死んでもらうぞ。」とリリィの父親が言って来た。それに対して僕が答えようと口を開こうとすると、魔王の邪魔が入った。その事に腹を立てた僕は怒りを隠さずに魔王を問い詰めようとしたが、魔王の様子がおかしいことに気付いた僕は黙り込んでしまったのである。その魔王の姿に戸惑っていた僕の事をリリスは心配してくれていたのだ。そのお陰で、魔王の言葉に僕は我に返る事が出来た。

そして僕はまず父親に向かって話しかけた。「どうして僕の父親である貴男がこんな行動をとっているんだ?そしてどうしてリリスの母親であるはずのリリが父親に敵対するような行動をしているんだ!?説明をしてくれ!!」と僕は大声で叫んだのだ。

僕が叫んでいる途中で魔王が「リリの母親か、面白い冗談だな。それともリリィがこの世界の人間の記憶を持っているとか言い出すつもりか。だがそれも面白いが今の状況でそれを言うとは流石に空気を読めない発言過ぎると思うのだがな。」と笑われたのである。そのことにムッとした僕だったが魔王のその様子に違和感を覚えたのだ。その理由は魔王が本気で笑っていなかったからだろう。その事がわかっているからこそ僕は何も言えないでいたのである。

僕は魔王の事が信用できないと感じていた。だから僕は魔王に向かって警戒しながら「何を言っているんだ!僕は真面目に言っているんだよ!!ふざけているのか!!」と叫び。リリスが僕を心配してくれている事をありがたく思いながらも、僕自身も冷静さを失いかけている事にも気づいていたのだった。

しかし、魔王は僕の言葉を聞くと、僕に背を向けてその場から去って行ったのだ。その時、僕にだけ見える角度で不敵な笑顔を浮かべて魔王はこの場から離れていく。僕はその様子を見送ってしまう事になるのだが。その瞬間にリリの父親から攻撃を仕掛けられる。

僕の父は、その攻撃を防いで僕を守ろうとしてくれたのだ。だけどその事で、リリの父親は魔王と戦うことを止めた。僕は、リリィの母親が僕を守る為に、リュオの目の前に立つのが目に入り。魔王と戦っていることを意識が飛んでしまっていたようだ。

そんな時に僕達の会話を聞いていないと思っていたリュオの方からも攻撃を仕掛けられた。だがリュオウの方の攻撃が放たれる前に、僕は咄嵯にリリの父親の前に飛び出した。するとリュオウは驚いた顔をしながら、僕の事を攻撃してきたが。なんとか僕はその攻撃を防ぎ切ることができた。そんな時僕はリュオリアの顔を見ることが出来たのである。リュオウは先ほどまで魔王を相手に優勢で戦っており、今もなお魔王と接戦で争っていたはずなのだが今はどうだろうか? リュオは、なぜか困惑しており攻撃の手を止めると僕の方を見てきたのである。僕はそこで初めて気づく事になったのだが、なぜリュウが混乱しているかがわからなかった。そしてすぐに気づいたことがあった。

どうやら僕達は勘違いしていたようであった。魔王というのは目の前にいる、リリの父親とリュオのことだと思っていたのだが、魔王が、目の前にいるのは、この二人と、魔王の部下の三人だけであり。魔王が居なくなっても、他の部下は残っていたようで、彼等から僕達に向かって、攻撃を仕掛けられていたのである。その攻撃に対して、リリとリリの父親が立ちふさがり。リリが魔法を使って、攻撃を防いだのである。

そのおかげで、僕はリュオからの攻撃を受けきることができて、なんとか助かったのだと思ったが。そんな僕の思考を読み取っているのかは不明だが魔王から念話が届いて来た。

(そいつが、私の本当の息子ではないという事はすでに調べがついている。だからお前が私を倒そうとしても無駄だという事はわかるよな?)その言葉を聞いた僕は魔王が何を言いたいのかわからないでいた。そんな僕の様子をみて魔王はため息を吐くとその続きを口にしたのだ。(お前はまだその少年のことを理解していないのかもしれんが。その少年には私の血が流れていて。私の息子だと言ってもいい存在であるのだよ。)

その言葉に僕は驚くことになる。何故なら、今まで自分の正体を隠し続けていた人物が急に僕の父親の仲間であると宣言し出したのだ。そして彼は自分が僕の父親であることは間違いないことだと証明する為なのか、自分の力を僕に見せつけてきたのだった。そうして魔王の力を見た僕は魔王を自分の父親であることを信じる他無かったのである。その証拠として、彼が行使する魔法の力強さを目の当たりにする。

僕がその事を確認すると同時にリリの父親は、僕に攻撃を仕掛けてくるのだが、それは僕の母親によって防がれてしまう。だがその事に焦ること無くリリの父親はリリィの母親が僕に対して攻撃を加える隙を狙い魔法を放ってきたのである。

リリの母親はその魔法を防ぐことが出来ずに吹き飛ばされてしまい、そのまま意識を失ってしまう。だが僕はリリの母親を治療するために動くことは出来なかった。なぜならば、まだ僕にはやるべきことが残っていて、その目的を果たすまでは、リリの母親を助けられないからだ。そう僕は魔王との対話がしたくて、彼を探していたのだった。

僕がまだ幼く何も知らなかったころ、僕はよく一人で森の中に入ってしまっていた。森の中で迷子になってしまった僕を偶然にも見つけて、助けてくれた人がリリの父親である魔王だったのだ。その事から僕が憧れていた人物でもあり、いつか会えたらいいなと思っているうちに、大人になって、ようやく出会うことができたのである。

だが僕はリリの父親と、もっと違う形で出会いたかったのである。それはリリの父親が僕の父親であるからかもしれないが。それでも僕としては、こんな形で出会ったくはなかった。そう思っていたのは僕だけでなくリリスも同じ気持ちでいたのだ。そしてリリスも父親を探しにこの森にやってきたのである。僕は、そんなリリスと一緒に行動することが多かったのである。リリスが僕の事を気に掛けてくれていたからこそ。僕は、彼女の父親に恩返しが出来ると思って、リリスの父親の手伝いをしてあげたいと考えるようになり、そしてその考えに賛同してくれる仲間も増えていったのであった。そして僕とリリスの仲間たちの絆は強くなっていったのだった。

魔王が、僕の父親であることを知った後。彼の力は本当に強大だった。魔王に攻撃を仕掛けようとする度にリリスの父親とリリィの母親により邪魔されてしまい思うように動かせてもくれないのだ。だが僕は、その二人の相手をしながら魔王に攻撃する機会をうかがっていたのである。

そうこうしている間に僕は、リリの父親に吹き飛ばされてしまう。その光景を見てリリの父親は不敵に笑うと僕の事を追いかけようとしてくるのだが、僕と魔王の戦いに割って入ってきたリリの母親の行動が僕を助ける結果となった。僕はリリの母親にお礼を言ってから魔王の事を追うことにする。そして僕は魔王に問いかけたのだ。「貴方が僕の父上だということはわかりましたが。僕が知りたいのは貴方の正体です。貴方が、この世界の人間ではないだろうという事も知っています。僕は貴方が僕の父上に間違いないということを確認しておきたいのです」と。そうすると魔王は僕に話しかけてきたのである。

その質問を受けた僕は「僕の父は、貴方ですよ」と答えた。その返事を聞いた瞬間、僕は驚きを隠せない表情になり魔王の事を見ていたのだ。その表情を見た魔王は自分の事を見透かされていることに、少しだけ笑みを浮かべた。

「その様子からすると私がどうして貴方の父親かと分かったようですね。だが私にその答えを教えたところで何か得をするわけではないのでしょう。ならば答える必要はない」と、僕の父親であろう魔王は言ったのだった。僕はそんな魔王に、僕はどうしても聞きたいことがあり聞いてみた。

僕は「それじゃぁ、貴方はなんの為に魔王として存在しているのですか?貴方の目的は一体何なんですか?」と聞いたのである。その問いに魔王は何も答えず僕に向かって魔法を放った。そのことで僕はリリスの母親に助けられる事になる。そして僕は魔王を睨みつけると「僕に攻撃しても無意味なことが分かりませんか。僕を攻撃すればリリの母親は勿論のこと。リリィの母親の命すら危険にさらすことになると言うのに、そこまで愚かだとすると僕は失望してしまいますよ」と言ったのである。その言葉に魔王が僕の事を嘲笑ったのだ。

僕が魔王と会話を続けているとリュオの方から話しかけられたのである。僕は、今の状況を考えるとリュオの方に向かうべきだと思ったのだ。

僕がリュオの方に向かって移動しようとすると魔王に呼び止められる。そして魔王が僕に告げたのだ。

僕は魔王の言葉に耳を疑うことになる。なぜならば、その魔王の言葉の内容はリリスの父親にリュオの母親を殺すように指示を出したものだったからである。しかもその理由も話さずいきなりそんな事を告げる魔王が信じられなくなったのだ。

僕はリリィの父親に視線を向けて、その行動を警戒した。その事に気づいた魔王の部下の一人の男性が僕の前に立つ。その事に魔王が驚いたような声を出すと、魔王を守るようにもう一人の部下が僕の前に現れたのだ。その事に驚いた魔王は僕達と戦うのを諦めてしまったようで撤退していく。

その事で僕は安心していたのだが魔王が去って行く姿を確認したリュオとリュアリが僕達の方に近寄ってきたのである。そんな僕達の元に現れた二人は、僕に文句を言ってくる。

リュリの母親から回復薬を受け取ることになった。そんなリュリの母親に僕が、「僕のことよりリリアのことが心配なので。僕は彼女の元に急ぎたいのですが、その前に一つだけお願いを聞いてもらっていいでしょうか?」と告げる。その僕の行動に対して、彼女は僕の事を優しく抱き締めてくれたのだ。そんな彼女に僕が、これから起こるであろう出来事を話し始めた。そうして僕が説明を終えたあと。リュオ達が僕に、リリとリュカを助けてほしいと頼まれることになる。その言葉を受けて、僕の心は既に決まっていた。その為、リュオ達から離れてリリの父親とリリシアがいる場所へと向かったのであった。その僕のことを見送りながらリュオはリュカの母親のところに駆けつけていったのである。そしてその事を確認した後。僕はまだ倒れているリュリの父親を背負うことにした。そして急いで、リリとリュリの居るところへと向かっていく。

そうしている間に僕は自分の身に起きている異変に気づくことになる。先ほどから、リュリの両親を背負っている時に感じていた違和感が消え失せていくのである。その事を感じ取りながらも僕は、先ほどまでよりも足が早く動き出せるようになっていて。まるで自分の身体が自分のものじゃないかのように感じたのだ。

僕が急に強くなった理由について考えていたのだがそんな事はどうでもいいと僕は考える事を辞めて、リリとリュオが戦闘をしているであろうと思われる場所に駆け付ける事に集中したのだった。そう、僕はリリィが僕のために作ってくれた回復ポーションを飲み干してしまっていたのだ。だからもう、そのポーションが回復することはなかったのである。そうして僕は、その場所に着いたときリリィとリリの父親との戦闘が繰り広げられていて。僕は、その二人を止めるために戦いに割って入ったのだった。だがその行為が、リリィの逆鱗に触れてしまう。リリが僕に向けて攻撃を放とうとするのを止めようとしたリリの父親はリリの攻撃に吹き飛ばされたのだ。僕はすぐにリリの父親に駆け寄り治療を行った。そして僕は彼にリリの父親のことを託すと、リリィの元へと向かい彼女と剣をまじえた。そうしてリリの父親は魔王の娘との戦いを始める事となる。

その事を見たリリの父親は「君は、私の事を忘れていないか?リリの事ばかり気にして、私の事が疎かになってしまっているのではないのか」と言い出したのである。その言葉に対して、僕は、目の前にいる人物こそが自分の父親の正体であり、その人物が自分と同じ異世界から来た者であるということを思い出せたのだ。そう、僕はリリィの母親からもらった回復ポーションのお陰で、この場に間に合うことができたのだった。

その事実を理解したことで、僕は改めて父親を倒さなければならない理由を思い出して父親に立ち向かったのである。そして僕の父親が使う強力な攻撃の前に僕は為す術もなく地面に倒れ込むのだった。

だが、その一撃で、その人物からの攻撃が終わると、僕の事を見て笑いだす人物がいたのだ。僕はその人物に、見覚えがあった。その人物はリリの父親だったのだ。僕は驚きを隠せずにその光景を見ていた。だが、その人物はリリの父親に殺されてしまい。僕は悲しみと怒りが混じり合い。リリの父親を殺そうかどうか本気で悩んでいた。その光景を見かねたリリが、僕に「父さんを殺した奴を殺しても、リリ達は幸せにはなれないし、貴方自身も満足は出来ないでしょ。貴方は貴方の人生を歩みなさい。それが私にとって、一番の望みなのよ」と僕に告げたのであった。

リリは僕の父親の事を倒すのではなく助けることを勧めてくる。僕はその提案を断るのだがリリは、その父親を助けることが出来る方法があるという。しかし、その方法もリリの母親が死ぬ可能性があるという事を伝えられて僕は悩んだ末にその方法を受け入れて。リュオの母親に頼み込んで魔王を拘束してもらうことに成功する。だが、魔王を封印している魔導具はリリの父親が持っていたものであるため。僕では解除することができないのだ。僕はそのことで焦りを感じていたのだが。その状況を打開してくれる人物が現れた。

リリの父親の仲間の男が魔王が封印されている魔導具を使って、リリの父親を解放させることに成功させてしまう。そして僕は、魔王と対峙することになる。

だが魔王も僕の力に対抗する手段を持っている様子はなかった。そんな時だった。突然僕の力が弱まっていく。そのことに僕は驚いてしまう。なぜならば僕の中に存在する魔力を、僕の父が吸い上げ始めていたからである。僕はその事に抵抗するが、魔王には全く効果がないようだ。そんな状況の中で僕は必死に思考を続けるが、何も思い浮かばなかったのである。そう、僕はここで殺される運命なのだろうと考えていた。だがその時、魔王の様子がおかしいことに気がついたのだ。僕の中にあったはずの大量の魔力が、一瞬にしてなくなりかけていた。そう、僕の父親が僕の中にあった全ての魔力を奪い去ろうとしていたことに気付いたのである。そうすると僕の中に存在した莫大な量の魔力は一瞬のうちに全て僕の中から出ていきそうになり。僕の肉体に影響を及ぼし始めたのだ。そのことから僕の体力が徐々に低下していき意識を失いかけたのである。そして僕の事を抱き抱えて守ってくれた女性によって僕は一命を取り留めることが出来た。その女性はリリの母親であるリリィであった。僕はリリィの母親から、回復薬を手渡されそれを飲んだことによって何とか、その場を凌げたのだ。その後リリィは僕の事を抱きしめると、そのまま僕の事を気絶させる。そして、リリの父親の元に向かい。僕が今まで経験したことを説明し始める。そんな僕達の会話に魔王が現れ話を聞き始める。僕は魔王に問いかける。魔王の目的が何なのかを知りたかったのである。そんな質問を受けた魔王は何も答えようとしなかった。僕はそんな魔王の行動が信じられずに、魔王に攻撃を仕掛けようとするがリリィの母親に止められてしまう。

リリの母親は魔王を敵視していないようだった。その様子に僕は驚くが。僕に対して魔王とリリの父親は仲間であることを説明すると。僕の方を見て、魔王に攻撃するなと命じたのだ。そんな事を言うリリの母親の言動から僕は、魔王の味方だという事を信じることになってしまった。そんな出来事があった後に魔王の配下の男性が魔王に話しかける。すると魔王は配下に何かを命令していたのだ。僕はそんなやり取りをしている二人の姿を見ていると魔王からリリィの父親の事を頼まれてしまう。僕はその事に嫌だと答えてしまう。

その僕の言葉を聞いた魔王の態度は、僕の事を馬鹿にするような態度を取っていた。僕は魔王が許せなかったのである。だけどその魔王の部下は、そんな僕の事を哀れに思ったようで、リリの父親を救いたいなら、魔王に頼めと言われたのである。

僕は魔王の言葉に従うことにすると、リリィの母親が、僕の事を心配そうに見つめていたのだ。そして僕は、リリィの母親に微笑むと彼女の頭を撫でたのである。

そうやってリリィの母親と話をした後。魔王の方に振り向くと魔王は部下の男性と話していた。

その魔王達の元にリリィの母親であるリリィがやってくると、リリィの父親は僕に対して「私はこれから、私の本来の目的を達成するために動くつもりだ。だがその前に君とは戦わなければならない。君は私の大切な息子でもあるが同時に私の邪魔をする存在でも、あるのだ。だが私はその君の事を心の底から憎いとは思えないのだ。だからこそ君が、私を倒してくれないか?そうすれば、私も、少しだけ気が晴れると思うのだ」と言い出す。そのリリィの父親の提案に僕は、リリィの父親と戦う決意を固めて。そして僕は剣を構えたのである。僕は剣を構えると魔王の部下から剣を借り受けると、リリィの父親に戦いを挑んだ。そうして僕は、リリィの父親と戦い始めることになったのである。

僕は、魔王が僕の父親から回収した魔力を自分の身体の中に取り込んでいたことで僕の身体は思うように動かなかったのだ。だがそれでも、リリィの父親に勝つことは出来そうもなかった。そして、リリィの父親と僕との攻防が繰り広げられる。その攻防の中、僕は、剣の扱いに慣れていないことに戸惑っていた。そんな中、僕はリリィの父親の動きについていくことが困難になっていた。そうして僕は次第に劣勢に立たされていったのである。

そんな僕は最後の賭けに出ようとしていた。そう、それは【神装武具】である【真王覇刀ゼクセリウス:エクスタシーソード(僕がそう名付けたのだが、正式名称を未だに知らないため、そう呼んでいる)を使い、僕が持つもう一つの力である「神速斬」を使う作戦である。その技は、本来であれば、リリィの父親の使う剣閃と同じ速度で剣を振るうことが可能なはずなのだが、僕がリリィの父親に勝利するにはその剣の速さを超える必要があったのだ。そう、僕の持つ、もう一つ武器があれば、僕はリリィの父親を打ち破ることができたかもしれない。

その事を考えた時。僕は一つの仮説を思いつくことになる。そう、僕の父に埋め込まれた魔王の心臓。そこから、魔王は僕に干渉できるのではないかということだ。もしその考えが当たっているとしたら、僕はリリィの父親をどうにかすることができるはずだと思ったのだ。

僕はその可能性に賭することにしたのである。僕はそうして、魔王の力を使うことを決意したのだが、魔王の力でリリィの母親を救うことができるかどうか不安で仕方がなかったのだった。なぜなら魔王の能力の一つである「吸収能力」は僕の意思と関係なく発動してしまう可能性があったからだ。僕の意思に関係なく発動してしまった場合、僕はリリィの母親を傷付けてしまいかねなかったのだ。そして魔王の能力はそれだけではない。僕は、僕の父親が使う攻撃を全て使うことができるのだ。僕はそのことを考えると僕の父親の能力を全て使うことで僕は、魔王とリリの父親を同時に相手にしなければ、リリの父親をどうにかすることなど不可能だということに気付かされるのだった。だがその時、突然魔王の動きが悪くなる。

僕の目からはそんな風に見えたのだ。そして僕はその時チャンスだと感じ、僕は魔王を倒そうとする。だが魔王に簡単に倒されてしまったのだ。だがその時魔王が、僕の中にいたもう一人の存在に気付き。その存在と魔王と戦闘を開始するのであった。魔王との戦いの中で僕は自分がもう助からないと思っていた。そしてそんな僕の前に現れたのが魔王の部下である男性である。僕はこの男から回復薬を受け取り、飲み干すと意識を取り戻したのである。そんな僕はリリィの父親をどうしたらいいのかわからない状態で、立ち尽くすだけだった。そんな時、魔王が僕の目の前に現れる。そして僕は魔王の行動を眺めていると魔王は僕の中に存在する父親の存在を消そうとした。

僕は、魔王を止めようとした。だが僕の言葉を聞くこともなく、魔王は僕の父親のことを封印することに成功したのだ。その事を確認した僕は魔王がリリの母親の元に向かう姿を見ているしかできなかった。そうしているうちに、リリの母親が、僕の方を見ていることに気がつくと僕の方に向かって近づいてきたのである。リリの母親から渡された回復薬を僕は一気に飲む。それによって体力は回復するがやはり僕の中の魔力はまだ完全ではなかったため。リリィの父親を救いに行くことが出来ない状態だった。僕はその時に、魔王に対して激しい憎悪を抱くようになる。しかし、今の僕では、魔王を止めることはできない。だからせめて魔王がリリの母親に何かしないように警戒をしていたのである。そんな僕は魔王に視線を移す。するとそこには、魔王に抱きかかえられた魔王の部下の姿があり。その男性は魔王の腕から逃れようとするが、逃げられなかったのであった。そんな時である。突然リリの母親の体から血が吹き出し始め。リリの母親は苦しそうな表情を浮かべ始めたのである。そんなリリの様子を魔王の部下の男が確認し魔王に報告する。魔王はその話を聞いて、部下の男に指示を出したのだ。そんな魔王の指示を受けて部下の男は動き出したのだが、部下の男性が何かをしようとした瞬間、魔王はリリィの事を庇うように抱きしめる。するとその行動のせいでリリィの母親の背中が切れてしまったのである。

リリィの母親の怪我を見て動揺した僕だったが何とか気を取り直した。そして僕は何とかして、その場から逃げ出すことにしたのだ。リリの父親が封印されている魔導具がある部屋にたどり着き僕はその部屋に入ると、僕は魔導具に手を触れた。その途端。僕は魔道具から膨大な量の情報が頭に流れ込む。僕はそんな情報を受け止めることができずにその場で倒れ込んでしまったのだ。だがそんな状況になっても、僕の意識は保つことができ。何とか、立ち上がることに成功したのである。そして僕はその情報から一つの結論に至る。僕は、リリィの父親を解放するためにその部屋の奥に向かったのだ。だがそこで魔王に見つかることになり、僕は追い詰められたのであった。

僕はそんな魔王の部下の攻撃を何とかかわし続けるが魔王の部下は僕を殺すのではなく、ただ捕まえて、リリの父親を解放したい様子であり、僕のことを捕らえようとしていることが分かっていたので、逃げるのは簡単ではなかった。だけどこのままだと確実に殺されると僕は感じて。僕は魔王を倒すしかないと考え魔王の部下と戦っている最中に隙を作ってその場から離れようとする。そうして僕はなんとかリリィの父親の元に向かおうとするが、魔王の部下の男の追撃から逃れることが出来なかった。そんな僕は覚悟を決めて、リリスとして得た全ての力を使って戦うことを決意する。その力を使えばもしかしたら勝てるかもしれない。そう思いながら僕は【神装武具】を手に持ち戦い始めた。そうして戦いを始めた直後である。僕は信じられないものを見たのだ。なんと僕の手にあるはずのない【真王覇刀ゼクセリウス】が現れたのである。その事を知った僕はすぐにリリスの力を使えるか確かめるために使ってみることにするのだが、その力はあまりにも強大な力で使いこなせるか心配になったが、なぜか手に持っている【真王覇刀ゼクセリウス】を握り締めると使い方が分かり始める。そして僕はその力で僕を捕まえようと迫ってきた魔王の部下の攻撃を防ぎ。反撃に転じることができたのである。

魔王はそんな僕を危険だと判断したのか僕の方に向かってくるが。そんな魔王の行動を僕は、剣で弾き飛ばしたのだ。そう、僕が握っていた剣こそリリスの記憶の中で存在していた最強の剣『真王覇刀ゼクセリウス』だと言うことを僕は確信したのであった。僕は、リリスの知識の中から剣技を思い出していく。その中でも僕が最も強い剣撃である【神閃一閃】を放つ準備をしたのだ。

そうして僕は剣を構え直すと剣に意識を集中させる。その剣技とは、僕の持つ、最高の攻撃力を持つ剣技なのだが、それを行う為の手順が少し複雑なのだ。まず剣に纏わせる属性は火だ。そしてその次に、その剣に込める魔力の量だが、僕が持つ全魔力をその剣に注ぐことが必要である。だがその行為自体はそこまで難しいわけではない。僕は今までその魔力を温存してきた。なぜなら魔力を全て使ってしまうと、魔王を相手するのが厳しくなると思ったからである。だが今、その魔力を僕は躊躇いもなく使う決意を固めたのだ。僕は剣を構えると、リリスが記憶の中に残した、剣術の中で、最も早く、そして最も強力な剣撃。【神瞬雷神閃】を放ったのだ。その剣は僕の放った魔法によって剣身に帯電した状態の一撃を繰り出すことが出来るのである。その【神速閃神連斬】の一撃は、【神閃一閃】の十倍もの威力を持っているが僕にそんな攻撃は扱えなかったのだ。だがその力に剣の力が合わされば扱える可能性はあると考えたのだ。そうして僕のその剣は見事に、リリィの父親に突き刺さりリリィの父親を吹き飛ばす。僕はリリィの父親の元に駆け寄るとリリィの父親を回復させたのであった。そしてその剣が引き抜かれると。僕の目論見通り、魔王は復活することなく消え去り。そして、リリの父親から邪悪な気配が消え去る。そうすることでリリィの母親は意識を取り戻す。そして僕が母親に声をかけようとした時。魔王の幹部である男の声が聞こえる。

僕は男から距離をとるが、どうやら男は僕を攻撃する意志はないらしく、その事に疑問を抱いていると。男は僕の元に現れこう口にしたのである。「あなたにはまだ役目が残っているようです」と言い残すとそのまま姿を消してしまったのだ。僕はその後。魔王の封印が解除されてしまったことで。この国の王様からお礼がしたいと言われたが、そんなことは後回しで構わないので僕にはやりたいことがあった。そうして僕が向かった場所は、この国の王宮の玉座の間に辿り着く。その部屋の中で僕はこの王国の国主である国王に挨拶をすることになったのだ。そして僕は国王からお礼がしたいと申し出を受けることになる。その申し出に対して僕は断る。なぜなら僕はリリィの父親を助けるという目的を果たしたわけだからこれ以上、この国に滞在する必要はなくなったのだ。それに僕はリリィの母親に傷を付けた張本人なので僕としては居心地が悪い。その事でリリィの母親からも感謝された。

だがその時。リリの父親の部下であった男性から、リリィの父親が意識を取り戻したと連絡が入り。僕がリリィの元に向かうことになったのである。そしてその時には既にリリィの母親の怪我は完全に癒えていたのだ。リリの父親を僕は助けた。だけど僕はまだやるべきことがあると感じていて、そしてその事に気がついたのはリリの父親と会話を交わしている最中である。僕はそんな僕の気持ちを察してくれたのか、リリの父親に、僕に協力してもらってもいいか尋ねてくれたのである。

そうして僕はリリの父親と共に魔王の心臓を体内に宿している人間を探し出すことにした。だが僕はその人物が何処にいるのか検討もついていた。それは魔王が封印されていた魔導具が置かれている部屋の奥の部屋。つまりは魔王の部下である男が入っていった場所から魔王の配下が現れることを想定していたのだ。その事は僕の目の前に現れた人物から話を聞き出すことに成功をする。そしてその場所に向かって僕は移動を始める。しかしそこでリリの父親からある提案を持ちかけられる。

その提案とは僕と一緒に魔王の配下の男の捜索に手伝ってくれるということだった。僕はその事を聞いてリリの父親の提案を了承することにした。だが、そんな僕の返事を聞いて、リリの父親にこんな事を言われてしまう。

そう言われた瞬間。僕は何も答えることができなかったのだ。だがそれでも僕はどうにかしなければならないと思い。自分の中に存在するもう一人の僕に語りかけたのである。すると、僕の中から現れたその男性は、魔王を倒すためには協力が必要だと言ってきたのだ。だけど、魔王の力を手に入れた僕は正直魔王に勝つのは不可能だと自分で思っている。だからこそリリィの父に協力してもらうしか道がないと考えている。しかしリリィの父は魔王が倒された後に何が起こるか知っているような気がする。その事で僕は魔王の配下が動き出しているのかもしれないと考えてしまった。僕はその事を考えている時に一つの考えが浮かび上がる。それは、もしかしたらこの世界に召喚されたのは僕だけではなくてリリも同じだということにである。その事をリリの父親に伝えた瞬間。リリの父親の反応が変わる。そうして僕の前に突然リリの父親が姿を見せる。僕はその姿を目にした瞬間驚いてしまう。何故ならそこにいたのはこの世界の人間の姿ではないのだ。だがリリと同じ銀髪の色をしていることから。僕の頭の中に一つの仮説が生まれる。

僕が今、考えた仮説は当たっていて欲しくないと願うのだが、その可能性は低いと思うのだ。なぜなら僕の前に現れたリリの父親には明らかに普通の人間のものではない。翼のようなものが背中から生えていたのである。その事から僕の中では最悪の結果が導き出されることになる。そうして僕はその事を確認するために口を開いたのだ。そしてその事を口にするとリリの父親は悲しそうな表情を見せてくる。だが僕はそんなリリの父親の事を無視して質問を続けた。だが僕の口から放たれたその言葉を聞いた瞬間。リリのお父さんは驚きを見せる。

そう、僕の考えていたことは当たっていたのだ。だが僕が一番気にしていたことは別のことであった。そう、なぜリリの父親だけがまだ生き残っているのか。そしてリリはどうなったのか。それを僕は尋ねたのである。するとリリの父は、リリの無事を教えてくれると僕は胸を撫で下ろして安心することができた。そう、僕は一番大切なリリの安否を確認したかっただけなのである。僕はそこで一息吐くことができた。そうして一通りの確認が取れたところで僕は本題に入ったのである。

そう、僕はその事を確かめると、すぐに魔王を倒しに向かいたいと伝えた。しかしそんな僕に対してリリの父親に、そんな状態で行けば死んでしまうと言われてしまい僕は、魔王の力を手っ取り早く使いこなせるようになる方法を尋ねるとリリの父親は教えてくれなかったのである。だがリリの父親のその行動が僕を信頼していないからだという風に考えることができず。僕には、何か他に理由があるのではないかと思い始めていた。その理由はリリの父親と話をしていて、なんとなく感じることができた。僕はそんなことを考えながらもリリの父親に連れられて魔王のいる城へと向かうことになる。

僕は、その道中。自分が手に持っていた武器を見て驚くのである。その剣こそリリスが使用していた最強にして最大の剣である『真王覇刀ゼクセリウス』であると気づいたのだ。そう、僕はこの剣を魔王の部下である男が手に取ってしまったことを思い出す。

そしてその剣を手にした瞬間。魔王の魔力が膨れ上がっていくのを感じた僕は。その男に向かって攻撃を仕掛けたのである。そしてその攻撃が命中する前にその男は僕の視界から消え去ってしまう。そして僕は魔王の攻撃になんとか耐えながらその男の魔力を追いかけていく。そして、僕がその魔力を追っていき、たどり着いた先は、僕の予想通りの場所であった。そう、そこはリリスの記憶の中にあった魔王が眠っている場所にそっくりで、そこには大きな水晶が飾られている部屋だったのである。その部屋で僕は魔王と相対することになる。だが僕の目論見通り。僕の放った剣撃が見事に魔王に命中をしたのだ。

そう、僕はこの瞬間を待っていたのである。僕はそう確信をしていた。なぜなら、この世界で、魔王にダメージを与えられた者は僕以外に存在しないからである。しかも、この魔王の剣で斬られた傷は回復することがないのだ。僕はその事を理解しているからこそ。この剣をこのタイミングで振り下ろすことを決意したのであった。

僕がこの剣を魔王の心臓を宿している人に向けると、魔王の配下の男性に姿を変えたその人はこう言う。「まさかあなたに私の邪魔ができるとは」と口にすると、その男性の身体が徐々に光に包まれていったのだ。そしてその男性は僕の前から姿を消し去るのであった。だが僕にはその事がわかっていた。僕はこの瞬間に魔王の配下を封印することに成功したのである。そして僕は、魔王の配下の男に憑依していた人物に語り掛ける。

そしてその人物から、魔王を復活させようとしている目的を聞く。僕は、その男から、【エルドラド】が危機に陥るという情報を貰い。すぐにでもこの場から離れようと考えていた。だが、その考えはすぐに破棄されてしまう。

「まあ待ちなさい」

「ッ! 」

「私はお前さんと少しばかり話してみたかっただけだ」

僕は目の前に突然姿を現した老人の姿を目にして動揺してしまう。

「お爺ちゃん。その人に何しているの? お爺ちゃんはその人から力を吸収したんでしょ」

「ああ、そのとおりじゃよ。だからわしはお主にも興味を持っているんじゃ。それでお前さん。わしのところに来る気はないかい?」

お祖父様の言葉を聞いて僕はどう答えるか迷っていると、リリィは僕を守るようにお祖母様が僕の前に姿を見せてくれる。僕はその姿を見ただけでお祖母様の強さを感じ取ることができるようになっていた。だが、そんなリリのお祖母様に、お祖父様が、僕の目の前から姿を消したかと思うと、次の瞬間、リリのお祖母様の首を掴み上げると地面に叩きつけようとする。だがそんな行動を予測できていた僕は。リリをリリィから離すことに成功したのである。

そして僕はお祖父様に視線を向けた瞬間に僕は目の前に立っているのが本物の魔王であると直感するのであった。なぜなら僕が今まで出会った誰よりも強者のオーラを放っていたからなのだ。その事を自覚していた僕は、リリを守るためにも、リリのお祖父様に勝負を仕掛けることにしたのである。その結果は引き分けに終わってしまうのだが。だが僕はその時。あることに気づくことになる。そうそれは僕の中の魔人の力が、どんどん膨れ上がっていく感覚を覚えたのである。僕はその事に焦りを覚えるのだが。

しかし僕はここで一つ気になる事ができてしまう。なぜなら目の前にいる二人の男女は、見た目は僕と同じ人間にしか見えないのだが。明らかに他の人達とは違う圧倒的な存在感を放つ者だったからだ。そんな事を考えている僕の前ではリリが、自分のことを僕に紹介してくれる。僕はそんな彼女に対して自分の名前を告げた後、リリアと名乗る。すると目の前の女性は、リリのことを自分の娘として迎え入れると言い出すのだ。だがそんな女性の行動に僕は違和感を感じていた。そう、僕はなぜか、そのリリアと言う人物のことを全く信用できないと思ったのである。

僕達が、そんな話をしていると。僕達はいきなり転移をさせられてしまう。そう、魔王であるリリシアによって、僕達は別の場所に移動させられたのだ。そしてそこで僕達の前に現れた女性は僕達を見て嬉しそうな笑みを浮かべてくる。僕はそんな女性の態度を見てリリと顔を見合わせると、リリは不安そうな表情をしていることに気づいたのである。

だが僕はそんな事では怯まないのだ。なぜならば今の状況を理解したからである。僕は今まさに絶体絶命な状態に追い込まれてしまったようだ。だってそうだろう。僕達に戦いを挑んできた人物は。魔王その人であったのだから。

僕がリリィの父の力を受け継いでいた事を知って魔王が、魔王の娘であり。僕の妻だと言ったリリの事を欲してきたのだった。その事から、魔王の配下の一人に僕がリリの父親の力を受け継いだ事を教えた奴がいると確信したのである。そのことから、僕はこの世界に勇者が召喚されていることに魔王は確実に気がついていなければならないと判断したのである。そうして僕とリリの前に突如姿を現せた魔王と、魔王の娘であるリリの二人は、お互いに、激しい戦いを繰り広げようとしていたのである。

僕達の前には、突然姿を現した。魔王と魔王の娘リリが現れたのである。そしてそんな二人が戦おうとしたところで僕は魔王に向かってこんな言葉を叫ぶのであった。

僕が魔王に向かって叫んだ一言は、リリは誰にも渡すことはできないということであった。そう僕は、初めてあった時。そして今も。僕の心の支えとなってくれている。リリだけは僕が命に代えても守ってみせるのだ。そして僕は魔王に向かって攻撃を開始した。だが、その攻撃は、まるで魔王の手の中で遊ばれているような感覚に襲われるのである。それでも僕は負けるわけにはいかないと必死に食らいついていった。すると僕の剣技に、魔王の剣技が重なっていく。僕は魔王の動きが読めずに防ぐことだけに専念する。だけど僕は少しずつだが、魔王の攻撃をいなせるようになってきており、このまま行けば、勝てるかもしれないと思っていた矢先。魔王の拳が僕に向かって繰り出される。

その魔王の攻撃に対して僕は咄嵯にリリを庇うように抱きしめることで、僕は魔王の攻撃を受けることになる。だが魔王はそんな僕の行動など、お見通しであったかのように、僕に向けて追撃の攻撃を仕掛けようとしてくる。僕がその行動に気づき防御しようと身構えたところで、魔王が僕への攻撃を止めたのであった。

「やはり、私と互角の戦いをできるのは君しかいないみたいだね」

僕はそう口にしながら、魔王の方を見る。すると魔王は僕を見ながら口を開く。

「私の剣を受け止めるなんて君は、本当に素晴らしい素質の持ち主だよ。だから、君に、本当の名前を教えてあげようじゃないか」

魔王の言っている意味がわからなかったが、僕は魔王が名乗った名前が偽名である可能性を考慮して魔王の話を聞くことにする。

「僕の名前は、『ラクス』、君たちが【魔王領】と呼んでいた土地を納めている【魔王】だよ」

その魔王が発した言葉の意味を理解すると、僕の身体に寒気が襲ってきた。そして魔王はさらにこう続ける。

「そうだよ、私が君の探していた魔王だよ。私は、この世界を支配するためにこの世界に呼ばれたんだよ。そして、【聖魔大戦争】が始まるはずだったんだ。だがしかし、私の目の前に立ち塞がった邪魔な男がいてね。その男のおかげで、計画は台無しさ。でもね、その男もようやく死んだ。私の計画がついに完遂する。そして私はこの世界の全ての生物に絶望を与えることが出来る」

僕は、目の前にいる魔王の言葉に恐怖を抱くが、なんとかその気持ちを落ち着かせると。僕は改めて目の前の相手を倒すための覚悟を決めるのである。だが、僕は目の前の魔王に勝算があるかどうかを冷静になって判断することにしたのだ。僕は目の前の相手が、どれだけ強いのかを正確に知らなければいけなかったのである。そうして、僕は、自分の持っている剣の力を開放しようとするのだが。その前に魔王は自分の部下の力を封印してしまった時の状況を思い出していたのである。

僕はそう考えると。すぐに自分の持っている剣に魔力を込めて、魔王に向かって振り下ろすことにした。そうして魔王に剣を振り下ろした直後、魔王が身に着けている剣から、禍々しい闇が放たれるのが目に映る。

だが僕が放った剣撃が魔王に当たる寸前で何かに阻まれたように止まると。魔王は僕にこう言うのだった。

「この力は、私に敵意を向ける者を弾く結界のようなものなんだ。それに、この力を破るにはそれ相応の力が無ければ不可能という訳なんだけど。残念なことにこの力で防げる攻撃というのは限られていて、この力を打ち破れるのは私と同等の力を持つ者の力しか通用しないという訳なんだよ」

魔王の言葉を聞いた僕は、目の前の存在が自分よりも圧倒的に格上であるということを認識して焦ってしまう。僕は今まで自分の力が通用すると思って戦っていたからだ。

僕は目の前にいる存在の力があまりにも規格外であることに気づくと、その事に気づいていない様子の魔王に。僕は隙を見つけ出して、一撃を加える事にしたのである。その事に気づいた魔王だったが。その瞬間。魔王は一瞬で僕の視界から姿を消し去ると。僕はいつの間にか吹き飛ばされてしまう。

そうして吹き飛ばされた先にはリリが立っており、僕はそんなリリの姿を確認するとすぐに立ち上がりリリの側に立つ。そうして僕達が魔王から距離を取っていると。僕達の前に魔王が現れて、先ほどと似たようなことを話し始める。僕は、魔王と同じような力を使えるのは、僕が受け継いだリリアの父親だけだと思っている。そう考えた僕達は、すぐにその場を離れようとしたが。僕達が離れようとした瞬間。僕の腕の中には、リリがいないことに気がつくのだった。

僕が慌てて周囲を見渡すと、魔王の背後に隠れていた。魔王の娘であるリリを見つけることが出来た。僕はリリが生きていることにほっとすると魔王と、その娘から目を離さないようにする。だが僕はここで一つ違和感に気づく。そう目の前にいるはずの魔王から気配を感じないのだ。僕は、目の前に存在しているのが本物ではなく幻影である可能性が高いと気がついたのだ。だがそれがわかったとしても魔王は攻撃する手を緩めるつもりはなかった。

僕はまず魔王の娘の方を警戒する事にした。なぜなら魔王は魔王の力で攻撃してくると思っていたからなのだ。その事を確認したかったからである。そうしていると魔王の幻影が、いきなりリリに向かって攻撃をし始めた。だが魔王は僕がリリのことを庇うことを想定していなかったようである。そのおかげで僕は魔王の攻撃が、僕の方に向かって来ないことに気がついた。そのことに少しばかり驚いていたのだが、魔王の攻撃が僕の予想を超えて強力だったことは、僕にとっては予想外の事態だったのである。その事に気が付いた僕はリリを守るために全力で戦う事に決めたのだ。だがその前に魔王が僕に質問してきた。僕がリリアの母親から受け継いだ力をどうして持っているのかについて尋ねてきたのである。僕は目の前に現れた偽物の魔王に対して。お前は一体何者なのかと言うと、目の前にいた魔王は僕の問いかけに対して、答えた。

「その力は私の父親のものだろう?私はそれを返してもらうだけにすぎないよ」

僕は魔王がそんなことを言う意味が全く理解できなかったが。目の前の魔王がリリの父親と同じ存在である可能性があると考えたのだ。だからこそ魔王がリリに襲いかかった時に、魔王はリリに攻撃を加えることが躊躇われたはずである。

しかし魔王はリリを攫いにきたと言っていたので僕は、魔王がリリをどうするつもりだと言って問い詰めたのだ。そうすると魔王は、魔王の力を受け継ぐ者が生まれればその者は魔王となる資格があると言う。

僕は魔王の言っていることが本当であるならば、僕達の仲間になるかもしれないと考えてしまう。なぜならば魔王は僕の力を奪おうとしたのである。それは僕と本気で戦う意志があったということになるからである。そして僕は魔王と戦うことになるかもしれないと考えるのだった。なぜならば魔王の目的というのが、この世界の生物の根絶やしだと口にしたからである。そんな魔王と敵対しなければならないと思うと僕としては戦いを避けたい。だが目の前にいる魔王に勝つことができなければ結局は同じ結末を迎えなければならない。つまり僕がこの世界に平和をもたらす為に戦わないといけないと思ったわけなのだ。

だから僕はリリをこの場に置いておきたかったが。このままリリを一人で行動させるわけにもいかないと判断して僕達は一緒に行動することになったのである。

僕は魔王から視線を逸らすこと無く。これから起こる戦闘に備えて準備を始めるのであった。すると僕の考えを読み取ったのか。魔王は僕に向けてこんな言葉を呟くのであった。「君の考えていることは手に取るようにわかるから、君の考えを私に教えてくれないか?」その一言が僕の耳に届くと同時に、僕は背中に寒気が走るのを感じる。その声からは僕に対して強い興味を持っているように思えたのである。だが僕の口からは一言も発することができなかったのだ。まるで、その一言を口に出すと取り返しのつかないことになってしまうような予感がしたからだった。

だが僕の直感は正しいもので、魔王のその言葉には恐ろしい程の力が込められているような気がしたのだ。だからこそ、僕は何も言えなかったのだ。すると僕の目の前には僕に対して、ある言葉を投げかけてくる人物が現れたのだった。その人物を見た時。僕は驚きを隠せなかったのは当然であろう。なんたってそこに立っていたのはかつて【大森林】を荒らし回っていた【鬼族】の少女であったからだ。僕はすぐに目の前の光景が信じられず固まってしまったのである。

そんな様子を眺めていた少女が口を開くと、魔王にこう言うのである。「私は魔王様に従う。だから私も貴方の部下にしてくれないかな」

僕もそうであったが魔王も彼女の発言の意味が理解出来なかった。そのはず彼女はついこの間までは敵同士として争っていたのであるから。だが魔王は彼女の言葉の意味を理解すると、嬉々とした表情を浮かべるのだった。魔王の表情を見て僕は嫌な感じを覚えた。なぜかはわからない。でもこの流れは危険だということはわかったのである。そして僕達の方に振り返った魔王は僕のことを睨みながら僕のことを見つめる。魔王の視線は鋭く僕に刺さっている。だがその魔王は僕の後ろにいる。

「その男、私よりも弱いぞ。そっちの方がお前達にとっては都合が良いのではないか」そう魔王は自分の娘の方に顔を向けた。その言葉でようやくリリスがどういう立場に置かれているのか理解できた僕は、リリィを見る。リリの姉であるリシアさんの方を見ようと思ったけど、今はそれどころではない。僕は今目の前の問題を解決する方が先決だと考えて。すぐに魔王を撃退する方法を考えることにする。

「なぁリリアン、その少年と戦わせてくれるかい?私は彼が気に入ったからね。彼の強さに興味があるんだよ。いいよね?それともリリスのことが心配なのかな」魔王のその発言を聞いた魔王の娘の瞳孔が大きく開いたかとおもえば魔王の娘であるリリスは僕の腕を掴むと、その勢いのまま後ろに飛んで魔王から距離を取ろうとする。

魔王がそう告げた瞬間に僕の背後で凄まじい衝撃が発生したのだ。そのせいでリリアが地面に激突してしまうと僕は焦ったが、そんな状況の中で僕は自分の体が宙を舞っていることに気づく。僕の体はそのまま吹き飛ばされていくと、魔王が僕の事を見ていた。そしてそのまま魔王と目が合うと、僕は地面に向かって叩きつけられてそのまま転がり続けると。リリアに受け止められたのだ。

そうして僕の腕に抱きついているリリアに向かって僕は。僕はリリアに怪我はないか確認しようとしたところで僕は魔王とリリアの距離が非常に近いことに気がつき、僕はすぐに立ち上がりリリから離れると剣を構えなおす。だが僕はその行為に何の意味もなかったのである。何故なら、魔王は既にリリのそばまで近づいており、その手には禍々しい力が集まっていくのが見て取れた。そして僕はそんな魔王の様子を見ながらも、自分の力でどうにかすることが出来ないのは分かっていたのだ。だからこそすぐに剣を収め、その場から離れた。魔王の力が解放された瞬間に僕は魔王の力がどれ程強力であるかを理解したのである。そして僕はこの力で攻撃されたのならばリリの命が無いと判断した。そのくらいに強大な力を僕は目の前で見せつけられたのである。

その瞬間。魔王は僕に向かって攻撃を仕掛けてきたのである。だがその攻撃が僕の元に向かうことは無かった。魔王が攻撃を止めた理由は簡単で。リリが僕達の間に入り込む形で現れたからだ。その行動で僕達の戦いは中断させられた。そうして僕はリリのことを庇うためリリアと二人で彼女を守るような形で、魔王の前に立つことになったのだ。

僕はそんなリリのことを横目で見ながら、リリアのことを守ろうと、僕はそう思ったのである。その気持ちに間違いはなかった。ただ僕がリリアの身体を借りている時はいつも僕自身が守られていたのだと改めて気づかされたのである。僕の身体を使っている間は何故か、僕自身はその人を守りたいと思ってしまうのだ。それは僕の心の問題なのかもしれない。

だけど僕の今の身体が、僕自身のものだとしたら?僕はそんな疑問を抱くが、今は目の前の事に集中する必要があるとすぐに思い直したのである。だから目の前の魔王と対峙することにした。そうしているうちに、僕は魔王がなぜ急に戦いをやめたかに気づくことになる。その魔王の顔が先ほどとは違って真剣な眼差しでこちらのことを見つめていたのである。

僕はそんな彼女の変化を見て不思議そうな顔をしてしまったが。リリは僕の隣に立っていて、「リリス。貴方のやりたいことは分かったよ。でもね私は貴方に傷ついて欲しくないんだよ」そんな風に呟いていたのである。そんな言葉を僕は聞くことになる。その言葉を呟くリリはどこか悲しそうで辛そうだ。そして僕はその姿を見ていられなくなり思わず彼女に話しかけてしまう。その行動にリリアの意識が抵抗したが。そんなことは気にせず僕は話を続ける。すると魔王は僕達をみて何かを感じ取ったのか。魔王が口を開くと僕達に対して問いかけてきたのである。「君は一体誰なんだ?どうして私の邪魔をする?私の何が不満だというのだい?どうして私がこんな目に合わなければならない?全てはこの世界の仕組みのせいなのか?だとすれば私は君たちのような存在を許してはおけない。だから君達が持っている力を私に差し出しなさい」そんな言葉を口にすると、魔王の表情が変わったのだ。

魔王のその態度の変化を見てリリが慌てていたのである。そして僕も同じように驚いてしまったのだ。それは魔王の口調や声質に変化が生じたのだから驚くのも無理はないはずだ。その変わりように僕は戸惑ってしまったのだ。

「なっ何を言っているの!貴方には関係のない事ですわ。それにリリスの事をどうするつもりなの」リリはそんな言葉を叫ぶと魔王が、そんな言葉に反応して、その言葉を吐きだしたのであった。

その言葉とは。「この世界の生物を全て殺しつくします。それがこの世界の意思なのですから」と、そう言ってのけたのである。そして僕はその言葉を聞いて、魔王の力の一端に触れてしまうことになるのだった。魔王の言葉は真実味があったのだ。その言葉で魔王の感情が、僕の頭の中に流れ込む。それと同時に僕の思考を支配されそうになってしまうのだった。その事に気づいた僕は必死に抵抗するが、無駄だった。僕は魔王に取り込まれそうになると魔王の娘が突然動き出して、僕のことを抱きしめてくる。魔王はその様子を見たからかすぐに僕を開放してくれたのだ。

魔王が僕の方を見ながらこんな言葉を投げかけてくる。「君のことは気に入ってしまったが。私はこの世界に君という人間が存在するのが我慢できないんだ。私はね、自分の愛するものを奪われてしまったからこそこの世界に復讐しなければならないのだ」そんな魔王に対して僕は反論しようとしたが。言葉が出なかった。魔王に心を支配されてしまって言葉に出来なかったのかもしれない。それでも僕にはまだ出来ることがあった。そのおかげで僕はどうにか、自我を保つことが出来たのである。僕はどうにか自分の意志を取り戻すと僕は剣を構えると魔王に切りかかる。

その時に僕の身体が勝手に動く感覚に襲われるが。なんとか踏みとどまることに成功した。僕は僕の意志に反して僕の肉体は動いているのだ。僕の肉体はリリの体を使って戦うことを決めてしまっていたのだ。僕の身体の動きは僕の意志を無視してどんどん魔王に向かっていく。そしてリリの身体は魔王に対して攻撃を始めてしまうのであった。だが僕の体は魔王を圧倒してしまう。

僕には魔王と戦う理由がないのである。魔王と戦おうとすれば必ずリリの体に負担がかかるからだ。僕の考えは間違っていないはずである。だが、リリの体を使い、魔王を追い詰めていく僕の体が僕の体を侵食していく。魔王は余裕の笑みを浮かべながら僕の攻撃を回避し続けるが、僕はそんな魔王に攻撃を与え続けるが。全く効いている様子がなく。逆に僕の攻撃によって魔王を傷つけることは出来ても致命打を与えることもできなかったのである。

そんな攻防を繰り返している中で、僕の体から、リリアが飛び出してきて。魔王を殴りつけたのである。僕は咄嵯のことでリリアを止めることが出来なかった。そんな僕を責めるのは間違っているだろう。僕は今リリの体に入っているのであるから、この行為は僕の意思ではなく。リリアの行動によるものだと言えるのだから。そして僕の予想通り、リリの肉体を使っていたリリアの身体能力が飛躍的に上昇して、魔王と互角に渡り合うことに成功する。しかし、魔王の力はそんなものでは無かったのである。その証拠にリリの攻撃が、リリスに直撃して、リリスの体が吹き飛ばされると、その勢いで、リリスの体が地面を転がるのである。僕はその光景を目にするとリリの方を振り向いた。その振り向いた先に、魔王の姿があり。彼女は僕のことを見下ろしながら、「私の力の方が上ですね」と言い放ったのである。その言葉で僕はさらに追い詰められてしまう。そして僕はその隙を突いて、魔王から逃げるためにその場から離れようとしたのだ。その瞬間に魔王は僕の背後に移動していて僕のことを羽交い絞めにする。僕はその瞬間。殺されると感じたのだ。そのぐらいに彼女の腕力は異常で、僕のことを抱きかかえていたのだ。そしてそんな状況を見逃さないとばかりに、僕達の目の前にリリアとリリの姉妹が現れる。そして魔王に向かって走り出したのだ。

魔王はリリのことを離すと僕に向かってこう言った。「これでお別れになります。さようなら、貴方に死が訪れるのを待っていますね」その言葉を聞いた僕は絶望に包まれたのだ。僕はその瞬間。自分の行動がいかに軽率なものかを知ることになったのである。

僕の意識は徐々に覚醒して行くと、自分の意識が戻るまで。時間が経っていた。そうして僕の意識が戻って来くると目の前には魔王がいるのだ。その魔王の容姿はとても綺麗であり、魔王と言う存在でありながら美しさを感じさせるほどだ。僕はその魔王を見つめていると魔王は僕を見て笑いかけて来る。そんな魔王の顔を見た僕は、目の前に魔王が存在していることに気がつき。自分の状況を確認するとすぐに剣を抜き魔王に斬りかかろうとするが、魔王がその剣を握りしめていて攻撃することができなかったのだ。そして僕は魔王の手の中で、その剣を折られてしまうのである。だが、僕の武器はこれだけではなかった。僕の【収納】スキルを使えば剣はいくらでも作り出せるからだ。僕はすぐさまに剣を作り出そうとするが、剣を作ろうとすると何故か魔王は僕の手の中の柄を握ってしまう。そして魔王は僕の顔を見るなりこんな言葉を発したのである。

「そんなに慌てないでください。貴方は私のものになるんですから、そんなに急がなくてもいいじゃないですか。貴方が、私の言う事に従ってくれれば貴方の大切な人には危害は与えませんよ。そうして私はリリアの体を貰うだけで満足ですから。そうしないと私は死んでしまうのですから、それに私の本当の目的は、リリアの身体を使うことだから」

僕はその魔王の言葉を聞いて、目の前にいる少女が魔王ではないことに気づくことになる。そう魔王と同じような外見をしているが魔王では無く。魔王の娘が、僕とリリアの目の前に現れたのだった。そして僕はその言葉を聞き。僕は彼女に対して敵意を抱くことはなかった。ただ彼女がリリシアの肉体を手に入れようとする行為が気に食わなかった。

僕は彼女の言葉を遮りこんな言葉を口にする。「君にリリシアの体は渡せない。リリシアが僕と一緒に居たいって願ってくれてるんだ。それに君が魔王でリリシアを攫った張本人だっていうことはわかっているんだからな。それに僕の大事な人を傷つけたら容赦しないぞ」

僕は彼女にそう言い返すと、彼女は不敵な笑みを浮かべるとこんな言葉を呟いた。

「そういえば貴方が私の目的が分かってしまっているなら。私はあなたを殺してしまうしかないですよね」

そんな魔王の娘の発言に僕は、僕はどうすれば良いのかと考えるが。そんな僕の事を考えてくれたのか、リリアが魔王に切りかかったのである。その行動を見て僕はリリアにありがとうと伝えて魔王を睨むことにした。そんな僕に対して魔王の娘はこんな言葉を放つ。「私は魔王ではありませんよ。私は魔族ですから。私はね、この世界で魔王として君臨していたけど、本当は魔王様の眷属ですから。私の種族は魔人の類です。まあ、魔族の方々も、魔獣も魔王も全部同じ扱いにされていますが」そんな事を言う魔王の娘の話を聞いていた僕は、「それじゃ、なんの為に、君はリリアの身体を奪っているんだ」そんな質問をすると彼女はあっさりと答えてくれた。

「簡単です。リリアは勇者なんですよ。そして魔王様の伴侶でもあったのだから」

そんな言葉を聞いて、僕は動揺してしまい、魔王の言葉を理解するのが遅れてしまった。そうして魔王の娘の言っている事をようやく理解することができたのである。そうすると僕には一つの疑問が生まれたのだ。僕はそんな魔王の娘の言葉を聞いてある事に気づいてしまった。そしてその事を確かめるために、僕は魔王の娘とリリとの会話のやりとりを思い出しながら口にした。「君は確かリリスの事を、リリと呼ぶが。どうしてリリスのことを、リリスと呼ばず。リリと呼んでいるのだろうか」僕はそう言って魔王の娘であるリリスの返事を待っていたのだ。

魔王の娘がリリスの名前を呼び間違えてリリスと呼んだ時僕は確かにその声が聞き取れたのである。そして僕はその時に気が付いたのだ。リリの身体を使っているのがこの娘だとすると。この子はリリのことが好きだったんじゃないかと、そんな思いが脳裏を掠めたのだ。そして僕のその言葉を聞いた魔王の娘であるリリは僕のことを凝視していると、そんなリリの様子を見つめながら僕は言葉を続けていく。「僕の考えている事が正しければ君の目的は僕の想像通りに進んでいるんだと思う。リリが好きなのだろう。そしてこの国の人間に、自分のことを好いて欲しかったのだろう。そのために魔王の肉体を利用して魔王のフリをしていたのだろう。リリは僕と一緒にいると約束してくれたんだ。君に彼女を返してもらうわけにはいかないんだ」

僕がそんな風に宣言すると魔王の娘であるリリスはこんなことを言う。

「貴方の考えていることはよく分かりましたわね。そう私がリリス様に好意を抱いていることは否定するつもりはありませんよ」そうして僕に向かって魔王の娘である彼女はこんな提案をしてきたのだ。

その話の内容はあまりにも信じられないことばかりで僕達は驚愕することしかできなかったのである。それは、まずリリスを誘拐したのはこの国の人々に対する試練であり。そしてその犯人が、リリス自身で。リリスの体に宿る魔王が、僕達に助けを求めるメッセージを残したのだという。そしてそのメッセージを解読した結果が今の状況を作り出したということだったのだ。

だが僕は納得できないことがあったので。その事に突っ込んでみたのだ。「君の言っている事はわかるけれどそれでも僕にはわからない事があるんだよ」

僕はそう言うと、僕の考えを口にしたのである。

「そんなにも強い力を持っている存在が。何故わざわざ、僕達を騙すような真似をして、この国に危機を与えようとしなくてはいけないのさ。そうしないと僕達の力が確認できなくなってしまうじゃないか。それに君には、僕の力を試したい気持ちがあったはずだろ。だったら僕と戦うべきだろう。そんな理由なんて無いはずなんだ。それと、僕は魔王であるリリスを愛しているんだ。その体に入っているのがリリスの体だとしてもリリスの心はここにはいないんだよ」そんな感じに反論してみる。しかし僕の言葉を簡単に彼女は受け流してしまうのである。なぜなら魔王の娘である彼女の意見は変わらなかったからだ。そしてその理由を説明してくれる事になった。しかしその内容を要約するとこういう事になる。僕達がここに来る前から、魔王の娘は自分の目的の為に、リリスに憑依していただけに過ぎないというのだ。そして今回の魔王城での騒動は自分が起こしたものではなくて他の魔人の仕業だということだ。そしてこの国が危機に陥った理由は僕にあったらしいのだ。僕は魔王城に居たときにリリアの中に居る魔王に対して、「今すぐこっちに来てくれないか? 僕の仲間が困っているんだよ」と言ったことがあるのだが、魔王はその一言ですべてを察してしまったらしく、「すぐに助けに行きたいところなのだが、まだ私自身が自由に動けないのだ」という言葉を口にし、「それにそろそろリリの魂と私の身体が離れられなくなるかもしれないからな」と言っていたのが魔王の耳に届いていたのだ。

その事を知ったリリスの体を奪おうとしたリリシアと、そして魔王がリリスの体を手に入れて、リリスの意思を無視してリリシアが魔王と結ばれることに危機感を抱いたリリが結託してリリシアが行動を起こしたのが原因だ。しかもその行動に僕が関与していると思ったリリシアと、僕と結ばれたいと強く願ったリリがリリシアと手を組んでリリシアの肉体に、魔王である自分の肉体の一部を入れて。自分の肉体の一部を融合させてまで魔王の肉体を乗っ取ったのが魔王を操っていた魔人だというのだ。

その事実を知ってしまった僕は驚きを隠せないでいたが。目の前の少女の話を信じるしかなかったのである。

そして僕の目から見て目の前にいる少女の瞳からは敵意をまったく感じることができなかったのだ。それどころか、僕の目の前で泣いていた。魔王であるはずのリリスの意識が入った、魔王の娘リリスは泣きながらこんな事を言ってくる。

「やっと、これで貴男と一緒になれる。貴方が死んでしまえば、貴方が居た場所に戻ることが出来る。貴方が、死んだ後にもずっと私は待っています。そしてまた貴方に会う為に私は頑張ります。貴方が死ぬときは、私は死にますから。その時は私の傍に永遠にいてくれませんでしょうか?」とそう言い残してリリスはその場に倒れてしまうのであった。僕はそんな彼女を抱きかかえると。彼女の頭を撫でて、僕は魔王の娘であるリリスを落ち着かせるのであった。

そんな様子を僕に抱き抱えられている少女を見ながらリリは複雑な表情をしていたのであった。僕はそんなリリの様子に気づくことができたが、とりあえずリリアに任せることにして、リリスが気絶したので急いで僕がリリスに憑依されているリリの部屋に連れていきそこでリリスの回復を待つことにしたのだ。そして数分後。魔王の娘が目覚めた時に。彼女は涙を流しながらこんな事を口走るのである。「私は貴方の妻になれなかったけど、せめてリリスさんとしてなら私は貴方と一緒になれるんですね。でも私は魔王の身体に、取り込まれてしまったせいなのか、魔王の魔力の塊になってしまっているみたいなのです。私の心はこの魔王様と融合した状態ですが、肉体は別々なのですよ。このままだと私の命が危ないからどうにかしてください」そんな事を言い出したので。僕の仲間に相談すると。その問題もあっけなく解決することができたのだ。なんと、その魔王であるリリスの娘の体はリリの中にある、僕の血で満たされていたのだから。

そんな理由で魔王の娘リリスを僕は【真祖の血】を使って治療することにしたのである。

魔王の娘であるリリスを、僕の【真血】の力を使う事で何とか治すことができて一安心したが。魔王の娘であるリリスを、僕の眷属にしたところで、僕はこれからどうすれば良いのか迷ってしまう。そんな時にリリアがこんな提案をしてきたのである。「私の身体を使っても良いから、私と結婚してください」そうして僕にプロポーズしてくるリリア。僕はそんな事を考えていたのだけど。魔王の娘である、リリスは、こんな事を言うのだ。「リリス様の体を使っているとはいえ、貴方はもうすでにリリスの事を裏切っています。ですのでリリス様にその罪滅ぼしをするために、この魔王の娘の、この身を使って下さい。そしてこの魔王の体を使ってリリアを好き放題にしてください。それが貴方の責任のとり方でしょう」そんな事を言われてしまっては。断る事も出来ず。僕は仕方なく。僕が愛した魔王の娘と、僕の娘の二人を僕の手で幸せにすることを決めたのだ。

そうして魔王の娘リリスとリリは結婚したのだった。そして魔王の娘が僕の眷属になり僕の妻となっていくのを実感することになる。魔王の娘は僕の妻の中に加わり、僕の家族の一人になることになったのだ。そうして僕はリリが魔王の娘であることを受け入れることにしたのだった。リリスが僕の仲間に加わった時と同じ現象が起きたため。僕はそんな出来事に困惑するしか出来なかった。

僕はそんな魔王の娘のリリと魔王であるリリスが同時に存在しているのが、違和感でしかなかったので。まず魔王の娘であるリリスの呼び方を【魔王の娘】に統一することを告げて、そして僕は魔王の娘であるリリスの願いで【リリ】と呼ぶことにすると。リリとリリアが、何故か嫉妬心を露にしてしまい、僕がリリと呼んだ時に「その娘を、リリちゃんって呼ばないで欲しいですの」と。僕にそんな事を言って来たので、僕は「リリは僕のことをご主人さまと呼んでくるんだけど、僕の奥さんになったんだからリリにそう呼ばれるのはおかしくないか?」そう疑問を投げかけると。「おかしいに決まってるじゃないですか。リリスの体に入ったのに、貴方がそんなに気軽に呼ぶなんて不愉快すぎますわ」そんな感じの事を口にすると今度は、リリアの方が怒り出して、「そんなに呼びやすいのならば仕方がないわね。私はご主人さまったんって呼ぶことにしますわね」とかなんとか言い出してしまった。そうすると更に話がこじれてしまい。最終的に僕の呼び方がご主人さまになってしまったのだ。そして僕は二人の魔王の娘とのやりとりを見つめながら苦笑いをするしか出来なくなっていた。魔王の娘であるリリスが、「ご主人さまといちゃつき過ぎだと思いますわ」と言い出したので、それに反応するように、魔王の娘であるリリが、僕の手を握りながら僕のことを奪い合い始めてしまうのであった。そんな風に僕が二人の女性に取り合いをされながら生活しているうちに時間は流れて行き。僕達はついに、魔族の王でありこの国の王でもあるリリアの父親を、倒すことに成功したのだ。僕達の戦いは長引くかと思っていたけど、魔王であるリリアがリリスの体に馴染むと、まるで人が変わったかのように積極的に動き回り、そして圧倒的な力を見せつけ、僕が今までに見たこともないほどの強さを見せてくれた。

そしてそんな強さを見せつけた魔王であるはずのリリスとリリが協力して僕達に協力し。そして戦いに勝利したのである。そしてこの戦いの後、僕は魔王の城に、僕の仲間たちと向かうことになるのだが。僕はその時の事を回想する。リリスに魔王の娘として生まれ変わった僕の、新たな魔王城への旅路がこうして始まったのである。

リリスにリリアの体を明け渡したことで。本来のリリスに戻った僕は、魔王の娘の体を乗っ取ってしまったために、その肉体を返さなければならない。しかし僕の眷属である魔王の娘はリリの中で生きている為、僕は、その事に申し訳なさを感じつつも。魔王であるリリアに事情を話しに行く。しかし、その途中で、僕は一人の男に声をかけられる。

「お前が、リリスを倒したっていう冒険者か。まあ、その実力は俺も確認させて貰ったが、本当に強いな。この国に君臨するつもりはないだろうな? この国の為にその身を尽くしてくれ。この国はこれから大きく変わっていくはずだ。その変化にはきっと君の力が必ず必要になると私は思うぞ」そんな事を口にした、初老の男性が僕の前に現れたのである。僕は彼に見覚えがあった。それは以前出会ったことがあるからだ。その男は魔王城の近くにある小さな街で出会った。僕が、まだ幼かったころに僕を助けてくれたことがある人。そんな人の名前を僕は呟くのであった。「貴方はまさか、僕の師匠じゃなかったのか?」と僕は驚きながらも口にすると、その男性は笑みを浮かべるとこんな事をいうのだ。「ようやく私の名前を思い出すことが出来たみたいだな。私の名は【レイフォン。かつてリリスの師を務めていたものだ。リリスよ。私の愛弟子である君を助ける為に私はこの世界にやって来たのだ。この私が来たのだ、リリスの事を頼んだぞ。君は私の誇りだ。魔王を倒せる勇者は一人しか存在しないのだ。リリス。私の娘を、頼むぞ。それとリリス。今、リリスの中に存在する魔人の肉体だが、その肉体は本来私の物なのだが、魔王が私の肉体を取り込んでしまい。魔人と融合してしまってね。私の魔力を封印されてしまっていて、もう私は戦えないのだ」そんな言葉を僕に伝えると。そのまま去って行こうとする。

僕は慌てて追いかけようとしたが。その時に、リリは「貴方はどうしてリリスの肉体に宿りたいの?」と尋ねると「リリスに、リリスの父である魔王様を止めて欲しいからだよ。リリス。君の体には魔王様がいるから、私が憑依できる余地がない。だけどリリスなら魔王様を受け入れられるはずなのだ。私の肉体が滅びてもリリスだけは生き延びてくれれば。私にとってこれ以上の幸せはない。だからリリス。お願いだ」その言葉を残して僕の前から姿を消すのであった。そして、僕の中にいる魔王であるはずのリリスがこんな事を告げる。「貴方が助けた、あのお方ならきっと私を救ってくれたと思うの。だって私の事をあんなにも大事にしてくれたのだから。だから私は彼のことを、愛していました」そんな事をリリスに言われて僕は少し複雑な気分になってしまう。僕が知らないところで。リリスは僕以外の人を好きになり。そして僕ではない男の人がそのリリスの想いを受けとめていたから。でもリリスはその男性の事が好きならそれで良いと思い。そしてその人は僕も知っている人だったので、リリスが幸せになれそうな男性だから僕はリリスとその人に幸せになってもらいたかったのだ。

僕達がそんな話をしながら歩いていると、そこには、大きな穴が空いていて、そこに地下迷宮へと繋がる階段が見えているのだ。僕が、それを不思議に思っていると、急に僕の視界を黒い何かに覆われてしまった。リリスとリリが警戒態勢に入り、武器を手にしている気配を感じるが、何もしてこない事から敵意のない相手だとわかると。すぐに僕から離れて警戒を解くのだ。そうすると僕に近づいてきた、その人物の姿を見て。リリとリリアは僕から、リリスを奪うように奪うとリリスを自分の体から出すと。リリスに抱きつく。

そんな彼女達の様子にリリスは困ったような表情をしていたのだが。リリアの方は嬉しそうに微笑んでいるだけで。リリアの方は僕の方に振り向き言う。「貴方がこのリリスちゃんを幸せにしてあげないと駄目なんだからね」そんなことを言われて。僕はリリスの体の中から出してきた、僕の師匠と名乗る老人に視線を向けると彼は苦笑いしながら言う。「この子が、お前が倒したリリスがこの世界の希望であり、未来そのものなんだ。リリアやリリスのことはお前に託してある、どうかよろしく頼む。それにしてもリリアにそっくりだったな。まるで生き写しだったよ。あれがリリスなのか?」と言うが。リアリスが僕の腕を抱きながらこんな事を言う。

リリスは自分の体を僕の身体を使って抱きしめながら、「ごめんなさいご主人さま。リリスちゃんの体はもうご主人さまの物です。でも大丈夫ですよ。これからは私がリリスですから、ご主人さまを幸せにするのはこの私なのです」そう言うとリリスが僕の顔をじっと見つめてくるので僕はリリスを見つめ返してあげるとリリスの顔がどんどん赤くなっていき。「そ、それじゃあそろそろ戻ります。また後で会いましょう」と言って僕の身体の中に入って行ってしまう。

そんな感じでリリスの体を僕のものにしてしまうことに成功したのだが。魔王の娘を二人も娶ることになった僕だったが、僕の奥さんになるはずだった魔王の娘の体を奪ったリリスと。僕の恋人であるはずの魔王の娘リリアと、僕はこれからどうすればいいのだろうか。

そんな事を考えながらリリスとリリが仲睦まじく手を繋ぐ様子を見ながら、リリスが幸せな生活を送れるように、魔王の肉体を手に入れた魔王の本当の肉体が暴走しないように僕はリリスを守ることを決意するのだった。

私が意識を取り戻すと、私の体を乗っ取ったリリスと。その体に宿った、魔族の魂に侵食されたリリアの体。私はそんなリリアの肉体の中身に宿る魔王リリスによってリリスが私の体を乗っ取り私の目の前に現れると、私を見てこんなことを聞いてくる。

「ねえ、お母さんはどうして私の邪魔をしたの?」その一言で理解出来た私はリリスを責めるような口調で言う。

「リリスは私達のことがわからないのですか? どうしてそんな質問をするような子になってしまったのです」そんなことをリリスに告げてリリスを説得するのだけれど。リリスはそんな事に興味はないという様子であった。そんな風にリリスと話しをしていくとリリスとリリスが仲良くなると。私とリリアの会話を黙って聞いていて、二人のやり取りが終わるまで待っているリリスにリリが話しかける。

「リリスも私たちの味方になってくれましたわね。ありがとうリリス」

そんな言葉を口にしたリリスがリリに向かって笑みを浮かべたのだ。リリスはリリに対して好意を抱いており。そんなリリスの気持ちを感じ取ったリリもまた、私と同じように。自分と血を分けている、妹のことを嫌いになれない。むしろ妹を愛してしまっているのかもしれないと私は思ったのだ。だから、このままではいけない。魔王リリスを倒してしまえば魔王の娘である、この世界にいる唯一の人間であるリリが不幸になってしまうと考えた私は、私の肉体の中に存在している、もう一人のリリの魂を呼び覚まそうとするのだが。私はそんな時に魔王城に侵入者がやって来た事を知らされると、その侵入者の実力を測る為に、リリは私とリリをその場に残して一人で侵入者を迎え撃つ為に出ていったのである。その瞬間に魔王の娘の肉体を支配する魔王リリスとリリナという魔人の女とリリシアという聖王が私の前に現れたのである。私はそこでリリスと戦う事を決めると。その前に私はリリの事を思い出し、この城の地下に存在する、私の家族がいる場所に案内すると言ったのであった。私はリリス達に、ある少女のところに連れていくと言い、そして地下へと向かうのであった。

私達は魔王城の地下にある。私が暮らしている場所へとやってきた。その地下室には私の家族がいたのだけど。リリスは興味深そうに辺りを観察していた。私の妹とリリスがお互いに見つめ合うと何故か険悪なムードになってしまいリリスが私の妹の手を握り「あなたの名前はなんていうのかな?」と尋ねたのである。するとリリスは私を見ながら言うのだ。「そのお方が私達の母親なの?」その問いかけに私は驚き。私を母親だと言う。リリスの言葉が信じられず戸惑っていたのだ。そんなリリスに、私は魔王城の外で何が起こったのかを話すと。リリスは少し考えるような仕草をして言う。

「私の中に魔王様がおられるのですね。私はリリスちゃんと一緒に幸せに暮らしたいと思っています。ですから私に力をくださいませんか?」とリリスは私の顔を見るなり笑顔を見せてそう言ったのであった。リリスの言葉を聞いた私の脳裏に声が響き渡る。

『私は貴方の肉体と融合していますから貴方の考えは筒抜けになってしまっているんですよ』そう言いながらも。リリスは自分の意思を貫き通すことを決めたようであり。私の力を手に入れようとリリスが私に話しかけてくる。すると私の脳内に私の知らない記憶が流れ込んでくる。それは私が体験したことのないはずなのに知っている記憶。そうこれは、私の記憶だ。その記憶は魔王が封印される前の世界での出来事。そして私が、その記憶の中の、一人の少年に惹かれていたこと。魔王をその身を持って守った勇者。その勇者こそがリリスの夫である魔王なのだ。そんな私と魔王の記憶を共有させられたリリスがリリスとリリスの肉体を支配しているリリスが私の前で頭を下げていたのだった。

それからしばらく時間が経過するとリリスは私の事をお姉様と呼ぶようになっていた。私は魔王の娘でありリリスの姉として振る舞っていくうちに、次第に自分の中に存在したはずのもう一人の自分が消えていってしまい。私はいつの間にか自分自身が誰なのか、分からなくなってしまっていたのだった。そして私はリリから頼まれていた事を思い出すのだ。それはリリの身体の中から、魔王リリスを取り出さなければならないということ。そうすれば、リリの体の中に宿った魔王は消えるはずだから。だから私は、この場にリリスを連れてきたのだとリリスに伝える。そうするとリリスも魔王である娘の存在を知っているのだとわかった。だから私とリリスは、二人で協力することにしたのだった。リリは私が助け出したいと思っていたけど、今の私にリリスを止める術はなかった。

「さあ、魔王様に会いにいきましょう」

そう言ってリリスの手を引っ張った私は魔王城を進んでいくとそこには、巨大な魔力の渦が発生している部屋がありそこにリリスの肉体が保管されていたのである。そんな、この世界のリリスの体を見て、リリスが悲痛の叫びをあげる。そんな光景を見て私の中のリリスが私に語りかけてくる。

(リリアは、リリスちゃんを幸せにしてあげられなかったのね)と寂しげな口調で言うリリスの声に。リリスにそんな想いをさせてしまった自分に怒りを覚えるのだが。そんな時、急に現れた黒い鎧に身を包んだ男によって、この魔王の娘は連れ去らわれてしまうのである。

リリスが連れて行かれた後。魔王の娘リリスの肉体を奪い取った魔王リリスが、リリシアがリリスの体を使って、私をこの世界から追い出そうとしていたけれど。その時に私の体内にいたリリスがその事実を知ってしまい私の元に駆けつけてくれたおかげで私は、再び自分を取り戻し。私の意識はリリスの体に宿っている魔族をどうにかしなければと考えるようになる。リリスが魔族の魂をどうにかして押さえ込むと言うのなら私は魔王リリスを倒してしまおうと考えていた。そうして魔王の娘を二人同時に手に入れることになるのだが。そんな私を見て嬉しそうな表情を浮かべる二人を見ているうちに。

もしかしたら私は二人のことが好きなのかもしれないと思い始めていたのだけれど。私は、これからどうすればいいのかわからなくなり。これからの事を考えるために一度、三人で話し合う時間を作ろうと考えた私だったが、そこで突然私の視界は暗闇に閉ざされるのである。そして私の耳に誰かの声が聞こえてくるのだ。

「ようやくお前に接触することができたな。俺がお前の父親で、リリスやリリシアにお前のことを託した男。リゼアリアス=レイナレスト。お前が今どこにいるのかもわかる。だが俺はもうすぐお前の前から姿を消すだろう。この世界を崩壊させようと目論む。ある存在が目覚めようとしているからだ。奴の力を使えば、リリスを救えるかもな。リリスを救うには魔王の体を乗っ取る、魔王リリスをどうにかするしかない。魔王リリスを倒すことは諦めてもいい。あの化け物を倒せればお前の大事なものを取り戻す事ができるかもしれんぞ」

そんな言葉を残してその声の主が去っていく。

「ま、待って。どうして私の父さんがリリスを助けないといけないのよ」と叫んだのだけれど、その答えは私には何も答えることはなかった。その日を境に私は、リリを救いたいという願いが、より強い思いになっていた。そのせいもあってか私は無意識のうちに、私の中で眠るもう一人の私を呼び起こそうと必死になって呼び掛けたのであった。

そんな私は魔王の肉体の主導権を握ろうと必死になっている。リリスの姿を見たリリアの目に生気が戻っていたのが分かった僕はそんな光景を目の当たりにして、やはり【魔王】とは、リリスの双子の妹であり、魔王リリスの方なんだなと理解すると同時に。

そんな僕の横でリリアと、魔王リリスの会話を聞いていて気になったことがあった。それはリリスの肉体を支配する【リリア】と魔王の魂の主導権を取り戻そうとしている、魔王リリスと。そして、そんな魔王と妹を、リリスは幸せにしたいと考えているようで、僕もそんな姉妹の絆を感じ取り、なんとか手助けできないものかと考え込んでいた。そんなことを考え込んでいる僕に向かって。リリアは「魔王は、私の妹の体を利用して私を殺そうとしてきたわ」と言ってきているのだ。

そんな話をしているうちにリリスが魔王リリを抱きしめていた。そんな姿を見て魔王リリスはリリを優しく撫でていたのである。そんなリリスと魔王を、微笑ましく見守っている僕がいたがそんな場合ではないことに、ふと我に帰る。そして僕とリリは、リリスを元の世界に戻すための方法を模索し始めることにしたのである。そうしてリリに話しかけようとしたその時。リリの目の前にいた魔王リリスの瞳が一瞬、赤く光り輝いた。その瞬間。魔王リリスの全身に異変が起きたのだ。そんな魔王の変化に戸惑いながら見ていると、リリは「魔王はリリスの体を使って何がしたいの」と魔王リリスに声をかけているのだ。その問いに答えるように魔王は「この体は私の物。魔王が私の体を好き勝手に操れるわけがないのよ。私を元に戻してくれるのはリリスお姉様だけなのだから」と。そう言ったのだ。

それからしばらくの間。私は、リリスの体を我が物にしようとする魔王と戦っていたのだ。そうこうしていうちに私は。私がリリスの身体の中にいることに魔王は疑問を抱いていない事に気づく。それから私はリリスに憑依したリリスの意識に語りかけると。その意思をくみ取ってくれた彼女は。私に魔王と対話をするチャンスをくれたのだ。私は魔王をどうにかするためにリリスの体を使い、魔王の体の中に入ろうとしたのだ。

そして私は、その試みに成功し、魔王リリスと対面することになる。そんな私に対して魔王リリスが話しかけてきた。私はその問いかけに。「貴方がリリスに取り憑いている存在なんですね?」と質問を投げ掛けると、リリスは、リリスの姿をしていても中身は魔王リリスであることを確認するのである。そうして、私は魔王リリスが何故このようなことをしたのか、その目的を聞き出していく。そして、魔王がリリスの妹を救おうとするその理由を知る。そうすると私は、自分の肉体を、この魔王リリスに譲り渡すことを決意する。その方が効率よくリリスを助けることが出来るとわかってしまったのである。

そして私が魔王リリスを説得できたのを確認したリリアとリリは嬉しそうな笑みを浮かべていたのだった。その笑顔を見ているだけで私は、この世界で生きる希望を持てるようになるのだが。私はまだ自分の肉体を取り戻していないことに気がつき。私の身体は何処にあるんだ? と探す。しかし、それらしい物は見つからず、私達三人だけとなった空間では。突然リリスが私の事をお姉様と呼んできたのである。そんなリリスの言葉に驚きつつも、その呼び方を受け入れた。それから、そんな時である──── 魔王がリリスに乗り移って暴れ回っているという事実を知った勇者がリリスを救出するべく動き出してくれたのであった。勇者の仲間たちはリリスのことを魔王だと思い込んで攻撃を加えようとしていたのだ。勇者が魔王と戦うという構図が成り立ってしまっていた為に仕方がないことでもあると思うのだが。勇者が仲間を引き連れて現れたことによって、私は窮地に陥ってしまうのであるが。私は勇者の仲間の女性達に助け出されてその場を脱することに成功をしていた。

そんな事があり、魔王は魔王城にリリスと共に逃げ帰るのだが、私達がリリスに肉体を奪われてしまってからしばらく時間が経つと魔王は突如姿を消してしまう。そんな出来事に私とリリが戸惑っていると。突然、リリスとリリスが二人に分裂してしまったのである。私はリリに「どういうことなのこれは一体!? リリス、説明できる?」と聞いてみるとリリスが私に、「私にもわからない。急に魔王と、そして私の中に居た魔族の気配が消えたんだ」と、私と同じ感想を抱いていたようであった。そんな困惑をしていると魔王が姿を現したのである。魔王はそんな混乱している私たちに向かってこう言うのである。

「この体にはお前たちを害するような力は存在しない。むしろ逆。この体はお前たちの肉体だ。お前たちがこの世界にいる間は、肉体はこの世界の者になるのだよ。つまりお前たちはこの世界に滞在するための許可証を手に入れたと言うことだな」

魔王は、この世界に存在するために肉体が必要だったので私達の体を使うためにリリスの体を支配し続けていたが、魔王がこの世界の者として存在するためには、その必要がなくなると言いたいのであろうが、その話が本当なのかを確かめる術は、この世界の住民である私達にはないのだ。それでも、リリスの話だと、リリスが魔王に支配されている間。この魔王城は魔王の魔力に包まれて誰も入る事が出来なかったらしいのである。そんな魔王城を自由に移動できるようになった魔王に。リリスとリリが質問をする。「ねぇ、魔王。貴女が私をこの体から追い出した後、この子、どうなったのよ」と魔王の胸ぐらを掴みながら、その事実を聞こうとする。その行為に魔王は。私達の体に負担をかけないように優しく私の腕を握りしめながら、そっと離させ。リリスに、リリスが今現在どのような状態に置かれているのかを教えていく。「お前が私に、この肉体を奪われた後、この者はお前と入れ替わったようだな。私の肉体はお前に返すよ。お前の大切な者の肉体を取り戻せて良かったな。これで安心だろう」そう言い残して私の肉体を奪ったリリスの肉体に戻ろうとする。しかし、リリアの肉体に入ったリリが。「ちょっと待ちなさい。私の妹の肉体を返してもらいますからね」と魔王を引き留めていたのである。そんな二人の様子を見て、魔王は。「いい加減にしなさい。お前の肉片が妹の中に紛れ込んだせいで妹の精神は崩壊寸前よ。これ以上妹を苦しめないでくれ。頼む」と。泣き崩れていた。そんな様子を私達は呆然と眺めていることしかできなかったのである。それから私は、妹と魔王が争う姿を見ていて。リリスの体が魔王に乗っ取られた時に私の中で感じた違和感がなんだったのかを理解することになる。魔王リリスの精神が、魔王ではなく。リリスの物だったことに気がついたのであった。その事に気がつけたのは魔王とリリスの二人が同時に存在していたからである。その事を理解してから、私はリリスの肉体の中に入っている、リリに意識を向けることにした。そうするとそこにはリリが眠っていて。その横にいたのは。リリスであったのだ。そう私は、リリスがリリスの肉体に入り込むことに成功したことを知ったのであった。

そんな私はこの場を離れようとしたのだが、魔王リリスは、そんな私の行動を止める。その行為は、魔王がリリスを救う為にやろうとしていることを邪魔しないようにしてほしい。そうお願いされたからこそ、この場で待機することにしていたのだ。それから、しばらくしてから、魔王リリスの肉体が輝きだす。その現象を見ていて私はリリスの肉体に魔王が入り込んでいるのではなく。リリス自身が魔王の肉体になりかわったのだという事に気づく。そしてそのリリスがリリスの肉体から出てきた時には魔王の姿になっていたのだ。それから魔王は自分の体を確認すると。「やはり。私の肉体が戻ってきたか」そう言ってから、私に向かって、「感謝するぞ。私はこれから私の妹のリリスを救うために動く。その間は妹と私の身体を守っておいてくれ」と言い残すと魔王は魔王城を飛び立って行ったのである。その出来事を見たリリスは、自分の体を抱きしめるように震えていて。リリがそんなリリスの背中に手を置き。「心配しないで。魔王がリリスの妹を救い出しに来るまで。私達がリリスの身体を守るんだからさ」と、私に助けを求めてきた。その言葉をきいた私は。「わかったわ」と答えて魔王リリスの体を守り通すことを決意したのである。そうするとリリスは、「ありがとう。お姉様」そう言ったあとに。自分の身体に魔法をかけているようであった。

私は自分の体を魔王に渡したことを少し後悔していたが。自分の身体を取り返してリリスの事を考えてあげなければと思い直し。まずはリリスが無事であることを祈ることにするのであった。それからリリスが魔王に身体を取られてから一月程経過した時のことである。魔王から連絡が入る。それは、私に用があると言うことであった。そして私は、魔王城へと呼び出されるのであった。私はその呼び出しに警戒心を高めながらも、この世界で最強の存在である魔王からの誘いを断る事は出来ず。素直に従う事にして魔王城に転移をしたのだった。そうして、私は魔王城の応接間に連れて行かれたのだが。そこで魔王は私に対して謝罪をしてくる。その事に対して私は驚いてしまうが、その後に魔王は、私が予想だにしていない事を言い出したのである。

「私がこの世界に来てしまったせいで迷惑をかけて申し訳なかったな。本来であればこの世界に召喚されるべき人間は私ではなかったのだ。私の妹がその任を負うはずだったのに、その責任を私が負う羽目になってしまった。そのせいでお前に苦労を掛けることになって本当にすまないことをした」そう言い切ると、私に対して頭を下げてくる。私は突然魔王から謝られた事でどうしていいのか分からなくなってしまうが。その事について、何か事情があったのかを聞いてみる。

すると、魔王は語り始めるのであった。魔王リリスは私の妹では無くて別の人間の姉であると。私はその話を聞き流そうとしたが。よくよく考えてみると。魔王リリスとリリスの関係が似すぎていると思ったのだ。魔王リリスと魔王リリスは外見が酷似していて同一人物なのではないかと私は思ってしまったのである。そして、その考えが正しいのかどうかを私は魔王に確認することにした。その結果は私の考えが正しかったことが証明される形になる。そしてその話を聞いていたリリスが、自分こそが魔王だと名乗るのだが、私はそんな言葉を信じる事ができないでいたのである。そんなリリスに対し。魔王リリスが真実を語る。自分は本当は【真魔導士】の称号を持つ者であり。私の姉であった存在なのだと─── 魔王の言葉に私は驚きを隠し切れない。だってあの、最強と言われる聖剣を持った勇者でも倒す事が出来なかった魔王を倒すことのできる力を持つ人間が存在したということだからである。そんな驚愕の出来事があり。魔王の話を聞くことにした。

その話はこうであった。私は元はここと違う異世界の出身でこの世界の住人ではないのである。私達がいた場所は、科学と呼ばれる物が発達しており、魔獣が存在しないという環境で過ごしやすい場所だったらしい。そして私には愛する家族がいて、愛しい妹がいる。そんな生活をしていた。そんな幸せな日々が、ある日を境に崩壊することになる。突如空から黒い球が現れ私達の街を襲って、人々を殺し始めたのだ。その時、私の目の前には、幼い少女がいた。その子が私に助けを求めて来たのである。「私の名前は佐藤理沙。あなたは?」私は、助けてくれた礼を伝えるため名前を名乗ると。その女の子はこう名乗った。「私の名は鈴木里奈だよ。ねぇ、私達と一緒に世界を救わない?貴方ならこの世界に魔王として召喚される事が出来るんだよ」私はその言葉を聞いた瞬間に迷わず、世界の危機を救うことに賛同した。それから私は私を信頼してくれる部下を集めて魔王を召喚するために行動する。そうすると一人の少年と出会える事になる。その少年こそ、後のこの国の王となる人物で私の婚約者の王子でもあったのだ。しかし彼はこの時まだ未熟でとても戦えるような相手ではなくて私一人で戦うしかなかったのだ。しかし私は戦いの中で彼に救われる事で彼と恋に落ちていくことになった。そうしていくうちに、彼も成長していけるようになってくれた。そんなある時に事件は起こる。それはこの世界の全ての人が魔力を失ってしまい魔力を扱うことができない状況に陥ってしまったのである。この世界から魔力がなくなったせいなのかわからないが、私の愛する人も、私自身も魔力を使うことができなくなってしまったのであった。この事から私の国の人々は、魔力を使って生活をすることができなくなり。どんどんと衰弱していき。私は絶望する。そんな私の事を不器用なやり方だったが支えてくれて私を愛してくれるようになっていた彼の姿を見て。私は彼を、私の伴侶にする事を決意する。

そうして私と彼は結婚しこの国で、新しい王となった。しかし魔王が現れた時に、その魔王は、魔王の力を封印された状態のはずなのに。なぜか、私の妹のリリスをこの国に呼び寄せた。そうしてリリスが、妹の肉体に魔王の魂が入り込んだことで妹の精神は崩壊した。その事実を私達は受け入れたくはなかったが、その事を受け入れられないままでいると、今度は魔王リリスが妹であるリリスを助ける為に自分の体を作り変えたのだ。

私は魔王にそのことを聞くと、リリスを助け出すために自分が肉体を変えて妹の身体に入り込むことにすると、妹に説明すると、「私は、魔王に肉体を奪われることに恐怖心を覚えてしまう。魔王が私に危害を加えない保証がないのであるから。だけど。それでも妹のために行動しようとする気持ちを尊重したいと思う。私はリリスお姉様を信じますからね」と言い切った。リリスお姉様と呼ばれてしまった事に魔王は照れていたけど嬉しそうにしている。そして魔王は、自分の身体を作り変える魔法を行使したのである。そうして魔王はリリスに身体を奪われた状態で妹の身体に自分の肉体を作りかえたのだ。その事を私はリリスに尋ねると、リリスはその質問に答えたのであった。

「実は魔王さんのお姉さんのリリアがこの世界に召喚されたのは私がこの肉体に入り込んだ影響によるものだと私は考えているのよ」とリリスが言う。それから彼女は、リリスの妹であり、魔王の姉であるリリに、この世界での生活を楽しんでほしい。と伝えて欲しいと言われたのである。

その言葉に私は戸惑ってしまうが、魔王のリリスは、「妹の願いを聞き届けてくれ」と言って来たので私は渋々リリスの妹であるリリをリリスの体に入れて、この世界に残させる事に決めたのだった。そうしてリリスは魔王城から去り。魔王リリスが、魔王の身体を取り戻し、この世界に召喚されてきてから約1年程経過した時のことであった。

この国は今、大変なことになっていた。なんと隣国の王国と帝国から攻め込まれたのである。しかもその理由が。我が国の宝物庫に収められている伝説の武具の数々が、隣の国の者達の手に渡らないようにしたからだと言う。私はそれを聞いて呆れてものも言えなくなってしまう。なぜならその事は私達が管理をしていたからである。それを隣の王国の連中は盗んだのだと言い出したのだ。

その事に私は激怒して隣り合う帝国の者と共に、この侵略してきた国を返り討ちにすることにした。しかし私は知らなかったのだ。この国がなぜこんなにも疲弊しているのかという本当の理由が。それは魔王が、魔王リリスの身体に自分の体を作り出したことで。その体が持つ魔力量が膨大になっていたのだ。私は、その魔王の力を借りることで。リリス達の住んでいた場所と、リリスの妹のリリスに魔王が召喚されていたこの場所とを行き来出来るようになった。それにより私は魔王と協力して戦争をすることに成功する。そして私たちは、魔王の力で、一気に敵を殲滅する事に成功をしたのである。その後。リリスが、魔王リリスに体を返してくれた事で魔王がリリスの身体に戻る。魔王はリリスにお礼を言うと、リリスの身体から抜け出し。元の姿に戻ったのである。私はそんな魔王を見て。「ありがとうございました」と言うと、魔王は、「気にしないでくれ。俺は俺の大事なものを守るために行動していただけだからさ。リリスが無事な姿を見ることができて本当によかった。それとリリに、魔王をこの世界で生きていけるようにしてくれって頼まれてたからな。これからよろしく頼むぞ」と言ってきたので、私は笑顔で返すのであった。

それから、この国をどうやって復興しようかという話になったので私はこの国から出ていくことを告げると、魔王からこの世界にある遺跡で魔王を呼び出せる召喚台が隠されているらしいと聞いてその場所に行くことにする。

そうするとそこには大きな扉があった。私がその大きな扉を開けるとそこは神殿みたいな場所で。そこで私は魔王を呼び出してみる。そうすると魔王が現れるのである。魔王が私に向かって話しかけてきたのである。「貴女が聖王様だな。俺は魔王リリスだ。これから宜しくな」と言って握手をしてくる。その手を握った瞬間に魔王は「これで契約は成立だな。後はこの世界を救うために協力してもらえたら助かる。まずは俺の仲間になって欲しい」とお願いをされて私は承諾することにした。そうしないとリリスとの約束を果たすことが出来ないから─── それから私はリリス達と一緒にこの世界を救うことになるのだった。

魔王がこの世界に召喚されてきた理由は私とリリスが出会った時と同じように。魔王リリスと魔王リリスに体が奪われていた妹のリリスの精神がこの世界を救ってください。と訴えかけたことで魔王はこの世界に呼び出されたという事である。そして私は魔王からある情報を聞かされたのだ。それは、妹が勇者として異世界召喚されるかもしれないという内容である。妹には幸せになる権利があると思い、妹がこちらに来る前に異世界に行ける方法を探しておきたいと申し出ると、すぐにその方法でも見つけてくると請け負ってくれたので安心をしたのだった。しかし問題はここからであった。妹の精神が入った器を用意しないと行けないのであるが、私の妹の肉体は既にない為新しい肉体を手に入れるしかないと考えていた私に対して。魔族の王であり、魔族連合国を束ねる魔王マギアナ=ルリーナは「ならリリにこの身体を提供してあげようかなと思っているんだけど」と言われて私は戸惑うことになった。私はどうしてですかと尋ねてみると、この世界の魔王に妹が乗っ取られたら困ることになると思ったからだと返答されて。私は納得する事にした。確かに私の国には魔王がいる。しかし私の愛する妹の命を奪おうとした相手には恨みを持っているが、妹の体を奪った妹は魔王を慕っていると聞いたからこそ、私には魔王を殺せないでいる。だから妹は私から離れて行き魔王の元に行こうとしたのだろうと思う。だからこそ魔王は妹の事を気遣った上で提案をして来たのであろう。しかしそれでも私はその話を呑むことはできなかった。妹の体に魔王が入り込んだ状態では魔王が妹をこの世界に召喚してきてしまう恐れがある。私はそう判断して、魔王と相談した結果妹の身体を新しく作ることにしたのである。私達が妹のために用意してあげられたのは、妹と同じ種族の人間の肉体を材料として提供することだけだった。しかし妹の魂は肉体から離れることはないと思っていたので私は諦めかけていたのだが、どうやらその魂は肉体に宿った状態で召喚されてしまっていたようで。私の知らない間に妹が召喚されてしまったようだ。

私はこの世界で妹に会うことができた喜びを感じながら妹の肉体をこの世界に召喚する為に準備を進めていったのである。妹の為に最高の肉体を作ることにした。それから私はリリスから提供された、妹の身体を元に、魔王の協力もあって、魔王が用意した最強の肉体を作り出すことに成功し、それを触媒に私の肉体も作り変える事にした。魔王曰く、私の体はもう普通の生物とは言えないレベルの強さに達しているとのことで、その私の肉体を使い新たな体を作っていく。そうすることで私の体を作り変える事ができて。私は肉体を作り変えた後。魔王城に赴き妹の魂を私の肉体に移すことを始める。その作業を始めて数日が経過した頃に私は魔王城に戻ってきた。魔王が私に会いたいと言ってきたからだ。

そうして私の肉体を作り変えた魔王は私の元へとやって来た。そうして彼は私の体を褒めてくれると、そのまま私と熱い口づけを交わしたのであった。私は彼の唇を受け入れ、彼の求めに応じて舌を絡ませ合うとお互いを求めあうかのようにして長い時間口付けをした後。魔王と私はお互いに愛を確認し合ったのであった。それから魔王は、私を連れて彼の居城である城へ案内をしてくれるのであった。

僕は玉座の間に入った。そうすると玉座の前には魔王がいて、リリスさんに何かしらの指示を出した後、突然雷撃を放つ。僕はそれをまともに食らい床に倒れ込むが、それでも立ち上がると魔王に向けて攻撃を開始する。

僕が攻撃を仕掛けようとする度に魔王はそれを避ける。そうするといつの間にか魔王に僕の攻撃を簡単に避けられてしまい。それを見たリリスさんが「さすがは魔王様ですね。まさか私が操れる限界ギリギリの力を持った肉体を手に入れたのにこんな簡単に回避してしまうなんて凄いですよ」と感心している様子だ。

僕は魔王がどんな手段を使ったのか分からない。でも魔王の力が増したのだけは分かったので。全力の一撃をお見舞いする事にする。

魔王はその攻撃を回避せずにあえて攻撃を受け止めるつもりのようである。

そしてその一撃は命中し、魔王に致命傷を与える。

その瞬間、僕は勝利を確信したのであった。しかし、そんな時、魔王が不敵に笑みを浮かべたかと思うと、「これで貴女の役目は終わりました。さようなら」とリリスさんの身体から出てきたリリはリリスさんの体から出ていき。リリスの身体が倒れる。

それから魔王の身体は黒い煙となり散っていく。

そんな魔王の様子を見て、勇者は慌ててリリスのもとに駆け寄り、「おいっ!!しっかりしろよ!!」と、リリスに声をかけるが、彼女は目を開けず反応はない。「おい、返事をしてくれよ。なぁリリス」と言い、勇者は涙を流す。

そしてリリスに呼びかけても反応がない。そんな様子を見ていた私は思わず勇者に「まだ死んでいないよ」と伝えてしまったのである。そしてリリスが無事であることを告げたことで勇者が驚きの声をあげる。

私は勇者を落ち着かせるように話しかけてから、リリの方を見ると彼女は魔王によって魂が抜かれて意識を失っているだけで生きているという事を説明するとその話を聞いた魔王が「そうか。それは良かった。しかし魔王が俺のリリスを殺したわけじゃないんだよな?」と質問してくる。私は「そうだな」と答えると、魔王は、ホッとした表情になる。そして魔王はリリスの傍に行き彼女の手を優しく握り締めると、自分の額に手を当ててから、自分の力を彼女に流していくと。

リリスはゆっくりと目を覚ましたのである。そして目覚めたリリスは自分の状況を理解出来ていなかったので。「あなたは誰?ここはどこなの?」と聞いてくるので。私はリリスに説明をするのである。

リリスは自分が異世界召喚された時にいた部屋にいることに気づく。そして自分の記憶が抜けていることに違和感を感じたようだったが。しばらくして落ち着いた後、自分のことを心配していたのか泣きそうな顔になっている魔王に気づくと、彼女は彼に近寄って行って抱きつき、キスを交わすのであった。その様子を見ていた私は微笑ましい気持ちになる。そして魔王の方も、彼女を強く抱きしめ、彼女と長い口付けをしてから、ようやく離れたのであった。それから魔王の方から自己紹介をしてきた。魔王の名は魔王マギアナ=ルリーナといい、魔王はこの世界で魔族の王様をしていることを教えてくれたのである。

私はそこで魔王が異世界召喚の召喚台が隠されている場所を知っていた理由を知るのである。そうする事で、この世界の魔王は私達が探しているものを探し出してくれたのだということが分かった。そこで私はこの国の問題を解決するために魔王に協力してもらうことにすると。魔族の王は快く引き受けてくれて。魔王が私の身体の中に入ってくる感覚に襲われると、私に話しかけてきた。「これからよろしくな聖王様」と言われ、私はその声がどこか懐かしい感じで、まるで魔王とずっと前から一緒だったかのような気分になり、魔王とリリスと3人でこの世界を救うために協力し合おうと言うことになった。それからこの国に住む住民達の事を任せたいと頼まれ、リリスも協力することになった。

私はその話を聞いてからこの国に居る人間達はみんないい人達ばかりで、その者達に被害を出さない為にもこの世界に危機が迫っている事を伝えた方がいいと判断し、そしてこの世界に召喚されてきた勇者達を呼び出して、事情を話すことにした。そうして、私とリリスと魔王と勇者は今後の対策を話し始める。まず、私達の目的は、魔王を元の世界に戻すための方法を探すために魔王の本体がいるであろう魔王城へと向かうことである。そしてその道程で、魔族の王国が滅んでしまった理由を探る必要もある。魔族の王国が滅ぼされた経緯についてだが、どうやら魔王は、自分から他の生物に対して戦いを挑むことはなく、魔族の領域に侵略行為を行なってきた者たちの国々が勝手に戦争を始めた結果である。

それからこの世界に魔王が呼び出すことができる存在というのは、魔王の配下となっている生き物であり。この世界に本来住んでいる生命体ではないらしいのだ。

しかし今回の場合は魔王を崇拝する組織に呼び出され、そして魔王の意思とは無関係に魔王を殺そうとしたらしく。それが原因で、本来の主である魔王が目覚めてしまい、そして暴れまわっていたところをたまたま近くにいて。それを止めようと行動していた私達と出会って戦闘になったという話だった。

だから本来は敵対する関係なのだが。今回は魔王城へ行く途中で出会っただけなので特に危害を加えることなく通り過ぎようとした所。私の目の前に一人の男が飛び出してきて。私は咄嵯に反応した為男を斬る事はなかったのだが、魔王に攻撃を加えようとするそぶりを見せた為。私達は彼を取り押さえることにして拘束をしたのであった。

そうしている間に男は目を覚まして「放せっ!この悪魔がっ!!」と大声で叫び始めた。そんな様子に気づいたのだろう。勇者がこちらにやって来てから男を見て驚いた表情を見せる。

「おい!!この男を知っているのか?勇者よ」と私が尋ねると勇者は男の事を知っていた。彼は、かつて聖女と共にこの世界に呼ばれ。この世界を救う為に共に戦ったことがある仲間で「どうして彼がここに」とつぶやくと。

勇者の知り合いだという事は確認が取れたので私は彼に事情を聞くことにしたのだった。

そうして勇者の口から聞いた内容をまとめると。どうやら彼は元々人間の街に住んでいる住人で、この世界を救える可能性のあった聖女の味方をしようと、彼女を庇うようにして、私達に攻撃してきたのはそのためだと言うことが分かり、そして彼はこの国の宰相に使える文官で。この国で起こった反乱を治める為に、聖王の協力を得る為に私が連れて来たと、嘘の情報を伝えるように指示されていたという事が分かって来た。彼は聖女の幼馴染でもあったようで、彼女を守ることができなかったことの罪悪感と、私への憎しみから。このようなことをしてしまったらしいと私は気がついた。

そうして彼の処遇は勇者に一任することにした。そして私はリリスを、魔王と聖王に頼んだのであった。それからしばらく時間が経ち、夜になった頃合いに。私はリリスを連れてこの城の玉座の間に戻ってくる。それからリリスには玉座の間に来るとすぐに勇者の様子を見に行ってもらった。そうして戻ってきた彼女は「大変だよ!!リリ!!」と言って慌てる様子を見せている。私は一体何があったのか聞くと、魔王城に攻め入った際に行方不明になっていた兵士達が生きており。彼らは魔王城の中をさまよっていて、その数は少なくても30人近くいたそうだ。そんな彼らの話を聞いていた魔王とリリスが言うには「恐らく勇者の仲間たちが召喚台を破壊し、そして彼らを強制的に帰還させなかったのだろう」ということだった。そして彼らの中で、一人だけが生き残っていて、勇者の行方を探していて、見つけたと思ったところで襲われて殺されたとのことで、その時一緒に勇者の仲間だったという女の子もいたようだが、リリスの話だとすでに殺されているという。そう言った話を聞いて、私が、勇者の仲間だった女の子は私がリリスにした時と同じやり方で、魂が抜かれてしまったという事で。私はその子に謝罪しなければいけないと思うのであった。そしてその子は勇者の事を大切に思っていたみたいだと言っていたとリリスが話す。

そしてその話を聞いた私は、勇者は無事なのか心配になったが、勇者の居た場所はこの城の近くだったため。リリスは念話で勇者に連絡を取ってみると。

魔王城で勇者の無事を確認してから魔王城に集合し、魔王城へ攻め入る準備を行う事にした。そこで魔王とリリスがこの場を一時的に離れることになり、その間、私は一人でこの城を守っていることとなったのである。そして私はリリスが言っていた。あの勇者の仲間で、リリスと同じように魂を抜こうとした女性に会いに行こうと思い、玉座の間の近くにある小部屋に、彼女の部屋があり、そこにはリリがいたのである。そこで、彼女に事情を説明してから、謝ることにしたのであった。私は彼女に頭を下げてから、彼女から質問を受けることになる。「私は、聖王が今何を考えているのかわからない。私とあなたは同じなのに」と言われる。そして彼女が私に問いかける。なぜ、魔王の傍から離れようとしているのかを。私はその理由を話すことにする。それは魔王を元の世界に戻してあげたいと本気で思っているからである。魔王を呼び出したのはおそらく、魔王がこの世界に転移させられてくる原因となった。あの研究をしていた組織に違いないので。魔王は被害者でもあるのだ。

しかし私ではその方法を見つけることができず。リリスの話では、私も魔王の魂の一部を持っているため。魔王の元まで行き魔王に力を流せば、元の世界に戻れるかもしれないという仮説が立っているそうだ。ただその場合、魔王と融合している状態になるために、魔王に取り込まれないように注意する必要があると教えられ。私達はその方法について検討することになる。私はその事を踏まえて。私自身の事についても話すことにしたのである。そうしてからリリスは私からある事を聞き出したのであった。

リリスは、自分が異世界から召喚された時に、勇者召喚に巻き込まれた存在ではなく異世界からやってきた異世界人だった。リリス自身は、召喚された勇者に付き従う存在だったが、勇者に好意を抱き。その思いを抑えられず、魔王を暗殺しようとする計画を思いついたと言う話だった。だけど勇者は魔王と戦う前に亡くなってしまい、その事を知ってしまったリリスは、その後のことは分からないらしいが。リリスはこの世界のどこかに居る勇者を見つけ出そうとしていたのだった。そうしている間に私に出会い。そして、勇者にそっくりな私が勇者の代わりとして召喚されたことを理解するが、私も死んでしまっており。リリス自身ももうこの世には存在しないため。異世界からの異世界人を異世界に送り出す装置があるのであれば、それを使えばいいと、思いつき。実行したのであったが。異世界の人間はこの世界に来ることはできず、私は、その実験で異世界からやって来た存在でしかないと言われた。だから、私が生きている理由を知ることができれば、リリスが私の中にいる魔王の力を引き出すことが出来るはずと言う。

それから私達は二人で相談をして。これからの行動について決めることにし、この国を守護する為にこの世界に残った勇者の剣を使って私は魔王を倒すことにしたのである。

私達は、魔王と戦うことを決めた後は。その準備を整えながら魔王が帰って来るのを待つことになった。その間に、この世界の事やこの国についての資料を集めていると、聖王の名前と、勇者の名前を同じ人物が付けていた事を知った。この事実から推測すると、聖王の本名は、勇崎(ユウザキ)

和斗(カズト)と言う名前なのだろう。そのことから聖王は私と同じような境遇だった可能性があると考えられるが。リリスの話しによると、この国に古くから伝わる聖王は代々勇者の名前がつけられるので勇者の名前は特に珍しいものではないと、言われてしまうのだった。それから魔王がこの世界に戻ってくるのは明日の朝になり、今日は、勇者とその仲間だったという人達がいる場所に行き、事情を説明することに決めたのである。

そして勇者の仲間たちが集まっている場所に、私はリリスと一緒に向かい事情を説明した後。この世界に来た勇者を探すために私は、この世界に召喚されてからずっとお世話になっていた宿屋に向かい。そこで宿泊する事に決めたのだった。そして次の朝になると魔王が無事に戻って来てから、私と魔王で魔族領に行くことを決めて、聖王に会うことにしたのである。

それからしばらくしてから、魔王と私がこの城から出ていく際に、聖王に別れを告げにいき。そして私達がこの城を出ていこうとしているとき聖王に呼び止められたのだった。「お前たちはこの先どこに行こうというんだ?」聖王に尋ねられたので私は「私は、私の家族を探したいと思っています。そして魔王は元の世界で暮らしていた家に戻るつもりです」と告げると。魔王が、「俺もだ。それにリリも探さないといけないから」と答えてくれた。

そうして聖王に別れを告げると。勇者の剣を持ってきてくれるように頼み、聖王が了承してくれたので。私は聖剣を受け取ると。魔王と共に、この城を離れることにして。そしてこの国から出る際に、勇者の仲間だという女性とすれ違うが。私は勇者に会ってみたいと思ったのだった。

それからしばらく旅をしているうちに魔王と私が住んでいる街にたどり着くと、そこで私はリリと再会を果たすのであった。それから私は、リリが、自分の記憶が戻るまでの間はリリに、この世界に残る様に説得をするがリリは納得しなかったのである。私は仕方なく。この世界に残ってくれないのなら、一緒に元の世界に帰ると脅すと。リリアは、元の世界に帰らないと言い始め、リリスに体を返し、この体を自由に操る事が出来るので問題はないといい始めて。私と魔王は困惑してしまう。しかし魔王が私と話をした結果。リリをこのままこの国で保護してもらうことが決まり。リリアがこの世界に滞在することに決まり。リリは元の体に戻ったのだった。私は、その後この世界を魔王に案内しながら観光をし。そして魔王と別れる事にした。そうして私はこの世界に残してきた大切な人のために、私は元の世界に帰り。その日が訪れるのを待つことにしたのだった。

(お願い。誰かこの声が届いていますか? 私は今とても辛いです。あの子が居なくなってから毎日泣いてばかりいて、あの子は私の為に。自分の身を犠牲にしてこの世界の魔王を倒して。そして消えてしまったんです。私にはあの子しかいないのに。私はどうしたらいいのでしょう。

神様、もし私の声が聞こえたのならどうか助けてください。あの子を生き返らせて下さい。そして私はもう二度と、大事な人を失いたくないのです。)

(お願いします。誰か、私達を救ってください。)私はそんなことを考えていると、涙を流すことしかできなかった。その時だった。私の意識が途切れたのは。

僕は今魔王城におり、リリスの話しを聞き終えた後に。魔王から「お前はどうしてリリを助けた。なぜ、リリを助けることができた」と質問され。それに対して、僕も魔王と同じように、勇者が、僕の両親と姉を殺したから復讐するために魔王の敵になったと答えたら、勇者の事を聞かれたが、魔王と一緒で知らないと答えた。そして僕はリリスの方に視線を向けると、リリスがこちらに来て「私も知りません。でも、勇者の事を調べようとしてリリと出会ってからは、勇者に恨みを抱くようになりましたけど。勇者はリリを利用して、勇者は自分が生き残る為に、私と母を見捨て、リリを助けなかったんですよね。私もその勇者を恨んでいましたし、そして私はその日から、魔王を殺す為に生きることを決意しましたから」と魔王に向かって答えていたのであった。そして魔王はその話を聞くなり、リリスがこの世界に召喚される事になった出来事を話し始めるのであった。魔王はリリスをこの世界に呼んだ人物を知っていた。リリスをこの世界に召喚した人物は【勇者】だと答える。勇者とは勇者召喚に巻き込まれた存在ではなく、元々この世界にいた存在であると、説明した。そうすると魔王から「この世界の人間は異世界に干渉できないはずだが」と言われるが。リリスがそれを否定してから魔王に対して、勇者召喚を行ったのは魔王ではないのかと問いかけた。魔王はそれを否定することなく受け入れたので、やはり魔王と勇者は同じ世界から来た異世界人だったらしい。

そしてこの世界に召喚された勇者について調べた結果は。召喚された時に勇者に付いて来たのは一人だけで、残りの二人は勇者の傍にずっと付き添っていた。しかし二人に何かあったのか突然姿を消してしまい行方知れずになってしまったらしい。それからリリスが召喚されたのはその二人が消えた時期と重なるらしいが、しかしリリスは二人の名前を知らず、そのことについても勇者に聞いてみたそうだが。勇者からは何も教えてもらえなかったと話すのである。

そういえばリリスは聖王に勇者の名前を付けられたが。その名前を聞いたことがないと。そう言ってからリリスは自分の部屋にある日記を取りに行ってから魔王の元に持って行くと、リリスは日記を読んで魔王に見せた。そうすると魔王はリリスに「これを書いていた奴の名前は何と言うんだ?」と言われてリリスは、「名前は勇崎(ユウザキ)

和斗(カズト)と言いますが。勇者は偽名を使っていたんですか!?」と驚いた様子で魔王に尋ねるのだった。そうしてから魔王はリリスから受け取ったその日記に目を通していたのである。

そうすると魔王はある事に気が付き。そのページを破りとると。リリスの手元に戻し。そのページが、異世界からの異世界人が召喚された際に発生する。その異世界からきた人間にしか分からない文章になっていると説明し。そして、召喚された人間が元の世界で死んでしまった時にのみ現れる文字だと言い切った。

そう言われた私は勇者の日記の中身を見るとそこには。『私は勇者である』と書かれている。さらに私は続きを読むと、『この世界に勇者を送り込んだが失敗してしまったが。今度は成功した。しかも私好みの女性を連れてきてくれてありがとう。これで私とこの国の戦力は整った。この世界の魔王を倒してくれることを祈るしかないが。私達はこの世界の人間に危害を加える事は出来ない。だが勇者なら大丈夫なはず。勇者は、私達より優れた力を持っていはず。私はこれからは魔王城の近くに拠点を作ることにした。そして私はこの国を滅ぼすことに決めたのだ。この国を滅ぼし。それから魔族の領土をこの世界の魔王の領土とする為、魔族が平和に暮らせる場所を作ろう。

私はもう後戻りはできないが。この国にいる全ての人間を殺してやろう。魔族も殺しつくしてしまおう。私はこの世界を滅ぼさなければいけない。そしてリリスは私の妻になってもらうから覚悟してくれよな。

俺が必ず幸せにしてみせるぜ!!!!!!!』と書かれていたのである。私はその勇者がこの国に戦争を起こしたと知って。すぐにこの国から逃げる事を決めるのだった。

そして勇者の日記の最後に書かれている内容に違和感を感じた魔王に問いただすと。勇者は魔王と同じ異世界から召喚されてきた人間の可能性が非常に高いと言われた。しかし私はそれを否定した。魔王が言うような事が本当に起きたなら魔王もリリスをこの世界に送らなかったはずであるからだ。

しかし魔王は「リリスは、リリリーナと、この世界での勇者の名前を知らなかったんだろ?それは、この世界に召喚された勇者に記憶を奪われてしまったと考える方が自然だと思うのだが」と。

そう言われて私は「確かにそうかもしれませんが。それでも私とリリは。あの人の事を愛していたんですよ。そして私の心の中に残っていた。記憶は、勇者に騙されていたという記憶だけだった。あの人との楽しかった思い出が消されてしまったので。私は、私の愛するあの人を探すことにした。」と、そう答えたのである。そうすると魔王が「そうなのか」と悲しそうな顔をしていたが。その瞬間だった、私は魔王に首を掴まれ。そして壁に押し付けられて。息が苦しくなりもがき苦しみ始めると。「俺はお前が気に入った。だから殺すつもりはなかったがお前の心の奥底にあった。あいつに対する気持ちは偽りではなかったようだ。

そして俺と一緒にこの世界に来てくれるならお前の命を助けてやってもいい。俺の花嫁になれ、さすれば命を保証しよう。どうだ?」魔王にプロポーズをされて。私は、「はい」と言ってしまいそうになったが。私は思い留まり、この世界に残していく人たちの顔を思い浮かべてから、私には大切な人がいるから無理だと告げたのである。

すると魔王に頬を叩かれて、それから胸を殴られて。何度も殴り続けられ。痛い思いをさせられた後に。「ならもういい、お前はこの世界に居続けるというならば、死ねばいい。お前は邪魔になるだけだから、そして勇者を見つけ出したいと思っているんだったら。お前はここで死ぬべきだ。

そしてあの女にはお前は殺されたことを告げるから安心しろ。それからあの女は、勇者に裏切られ、絶望のあまり自殺をしたと伝えておいてやるからな。お前の死にざまを勇者に見せる事もできないだろうから残念だが。お前をここに置き去りにするから精々頑張れ」とそう言いながら、魔王は私を置き去って。その場から姿を消したのであった。

(リリ、貴方と出会ってからは毎日がとても楽しい日々でした。貴方のおかげで私はとても幸せな気分で過ごすことができました。

あの子がいないと、とても辛いけど、でも、私は絶対に負けない。あの子をこの手で取り戻すまで。)

(ごめんね、私にはあの子しかいないから。あの子を取り戻すまでは私は生きるから。あの子の傍にいてあげたいから。

そして私と、私達の娘に、私達を見捨て、私と妻を見捨て、娘に過酷な運命を与えた勇者だけは許さないから。

私も復讐の為に生きることを決めたのだから、リリも、私の復讐に付き合ってくれるよね?)

僕は魔王に殺される前に。魔王が僕が持っていた日記を取り上げてから僕の目の前に放置して行ったのである。そして僕は勇者について調べる事にしたのだった。そういえば、勇者は召喚される前は何をしているのだろうか。

そして日記を読むことで僕は知る。この世界の人間が召喚する勇者というのは。元々召喚されている勇者ではなく、魔王の作った人形であるらしい事を。つまりこの世界には元から勇者が存在している。勇者が召喚されるのは異世界召喚に巻き込まれるのではなく、元々この世界にいた存在である。その事実を魔王に聞かないと。魔王が何故勇者に狙われていたのかも分かるし、それに魔王も勇者の事を知っているのかもしれないし、そうするとリリスのお母さんについても何か知っているかもしれないと思ったからである。そうすると日記の最後の方に『私はこの世界の魔王を殺す。

私は勇者を召喚させた魔王を殺す。そうしなければこの世界を救うことが出来ない。』と書かれた文章を見つけた。しかし、そこで終わっていたのである。そして次のページを開くと、『日記を書いていたが。私はある人物に殺されてしまった。その人物を特定できないのが悔しくてたまらない。私はこれからこの日記を読み進める者にお願いがある。どうかリリスをよろしく頼む』と、書かれていたのであった。

日記を読んでいたのがバレるとまずいと、思ったので、そのページを破り取ってから、魔王城の外に向かったのである。外では兵士達に、私が勇者だと気が付いたらしく、兵士に呼び止められてしまう。「勇者様。どうしてこの城から外に出ようとしていられるのですが?まだ、お体の調子が戻っていないのではないのですか?そんなに急いでどちらに行こうとされているんですか?」

「勇者様!!この城に戻られていたのですね!!」と兵士が話しかけてきたのだ。そしてリリスの母を名乗る少女と、この城のメイドも、この魔王城の城門に集まってきており、その全員が僕が帰ってきた事に驚いている様子であった。そうしている間に、魔王が姿を現して。そして、魔王の口から。勇者の日記が読み解かれていくのだった。勇者は魔王と同一人物であるという事が明らかになったのだ。しかし勇者が魔族側についたのかと思っていたが。勇者は元々魔王側に付いていた事が判明し。そういえば魔王城の近くには魔王が作った拠点があり、そこから魔物が溢れているから近づかないように注意をするように言われ。さらに、勇者に何かされた時は。すぐに魔王に助けを求めるようにと告げられた。それからしばらくしてから僕は勇者の日記が書き綴られている本を手に取りながらその本の内容を全て覚え。そしてリリスが待っている部屋に向かう。

そうすると部屋の中でリリスの姿を見つけると。リリスは嬉しそうな顔をした後に、「日記を読んだんだね」と言われてしまい。「あぁ」と答えてしまった。それから私はリリスに対して。「なぁリリス。この国から出て行くって事は出来るか?」と聞いてみるとリリスは驚いた顔をしながら「何を言っているんですか?今この国は危うい状態なんですよ?」と言われてしまい。私は「この国を出たい理由は言えないが。とにかく俺は、この国を出て行きたいと、考えているんだ」と話す。

そしてリリスは何も話さずにただ呆然としながら私を見て固まっていたが、しばらく時間が経った頃に。私は「リリス。少しだけ、二人きりになりたいんだけど。良いかな?大事な話をしたいから。俺に付いてきてくれないか」と、リリに向かって話すと、私を信頼しきった様子のリリは、何も警戒する事なく私の手を握りしめてくれたので、私はリリスを自分の家に連れ込み。そしてベッドの上で抱き枕を抱きしめて眠っている姿を見ながら、私はその体を眺めていたのだ。

それから私は眠ってしまっている彼女に手を伸ばしてから優しく頭を撫で始め。彼女の髪を愛でてあげるのであった。そうしている内に彼女は目を覚まして起き上がり。「何してるの?」そう言われてしまって私は思わず「なでなでしてた」と答えると、何故か笑われてしまってそのまま二人で見つめ合っている時間を過ごしていったのである。そしてそのあとに私はリリを抱き締めて眠りにつく。

翌朝になって目が覚めた時に、私とリリスは服を着替えて朝食を食べるために、家の中にある食堂へと移動すると。リリスのお父さんがすでにそこにいて「よく無事に戻ってこれたな。本当に良かった」と言ってくれたが。リリスはその事に対して嫌そうな表情をして「貴方のせいで、勇者さんは死んだんですよ?それをわかっているのですか? 勇者が死んだ事によってこの国がどんな被害が出ていると思ってるのですか? それにこの国から逃げ出した人も多くて、もうこの国の兵力は、もう殆ど残っていないに等しい状態なんですよ」と怒りを込めて父親に向けてそう告げたのである。すると父親は申し訳なさそうな顔をしてから俯いていた。

しかし私達は知らなかった。リリスの父が、私を暗殺しようとした理由が、私の妻である銀髪の女性をこの国に召喚した勇者に取られた事が原因だという事をリリスは知らずに、私は知っていて、その事を誰にも言うつもりはなかったのだった。

私はその日。いつものように魔王が住んでいると思われる魔王城の中に侵入する為に。私の家に侵入してきた、リリスの父親と、リリスの兄を縛り付けてから私はリリスに、その事を報告をすると。私は魔王城に侵入しようとするのだが、その時には、既に私を殺そうとしていた人間達の気配が無くなっており。どうやら私は魔王と敵対関係になっていると勘違いされてしまっていたようで。

「魔王は、貴方がこの魔王城を抜け出した後は貴方に危害を加えるような事はしないと約束をしたわ。だから勇者は魔王を殺す必要は無いのよ」と、この魔王の城に居残っている、この世界の魔王の配下の者だと名乗った者達に、リリスと一緒に、この魔王の城の外に逃がしてもらえたが。その際に、勇者はリリスと一緒に居ると、他の人間の恨みを買ってしまい危険だと判断され。

私と、リリは別々に別れさせられる事となったのである。そういえば、あの時の私の格好はかなり酷い有様になっていたから、多分、リリスと一緒に逃げ出そうとして失敗したと判断されてしまったようだ。そして私が一人で歩いていると。私に声を掛けてくる者がおり。「お前が、勇者だったのか。魔王から話は聞いていた。俺の事は魔王は知っていた。だが。お前のことは知らなかった。それで魔王はこの俺に勇者と魔王の関係についての話をしてきたんだよ。俺は最初はそんな戯言を信じる気にはならなくて、勇者を、いや。元勇者を殺すつもりだったさ。だけど奴の話を聞きながらある事が分かった。あの女を召喚した元凶でもある女を殺してやりたかったからだなぁー」と。男はそう言った。私はそれを聞いた後その男を無視してその場を去ろうとするが。男が、「ちょっと待ってくれないかね?君にも色々と伝えておきたい情報もあるんだよね」と言うと、私を逃がす気がないらしく。

私と男の鬼ごっこが始まり。そして最終的にはリリスの兄が、その追いかけっこに参加して私を捕まえる事に成功したのであった。

その男は私の前に姿を現すと、突然、リリスの父親から聞いた話と、魔王が教えてくれた話を聞かせてもらう。

私はそれを聞いて、その魔王を名乗る少女の言い分に一理あると思いながらも、しかし私はその話を信用する事は出来なかったのである。

そして私は目の前の男達を見て「貴方達が私のことを騙そうとしていないのであれば、魔王は私の事をこの世界に呼んで、そしてこの世界にいる魔王が作り出した人形達と戦ってもらいたいと。そして私の持っている力を利用して。そして私が元の世界に帰る方法を見つけ出してみせるとも魔王は私に告げていた。私はこの世界が平和に暮らせるようになるまでの間は魔王と行動を共にすることを決めたんだ」と、そう答えた。そして私は魔王との待ち合わせの場所へと向かう事にする。その場所は。この魔王の城にあるダンジョンの最深部で待つと言っていた。そこで魔王に私の持つ力を使っても大丈夫なのかを聞くために。そして魔王に私の命の半分を渡して。魔王の力と知識を手に入れると決意をする。その事で魔王と対等になる事が出来るはずなので魔王と敵対するよりも、魔王と協力して戦うほうが、魔王を打倒するために一番有効なはずだと考えたからである。

そして私はダンジョンに向かいその中を進むのだが、途中で魔物に出会うことなくその階層に存在する扉の前に到着した時に。その部屋の扉が開かれており。その部屋の中には魔王である黒の少女の姿があり。

その黒の少女の姿を確認できた後にその黒の少女に対して私は「ようやく会えたね」そう呟くとその言葉に反応した黒の少女は微笑みを浮かべてから私に対して近づいてくる。それからしばらくの間は私がこの世界で手に入れた力でこの世界を破滅から救えるという確証を得たので、私が元いた場所に戻る為の方法を探すためにこの場を離れていくと告げると。この世界の魔王が、私が元の世界に戻れる方法を一緒に探してくれる事になり。私も、この世界に来てからずっと感じていた違和感に説明が付くと思ったからであり。さらにこの世界の人間が知らない事も知っている可能性が高いと私は思ったからだった。それに魔王も自分の目的を達成させるためにも、この私が必要だと感じているみたいだしな。だから私は魔王に協力する事を決めて。これからの行動について相談していく事にしたのだ。そしてこの魔王城は魔王城に住む魔物たちが住む町がある場所で。私はそこに連れて行ってもらう事にしたのである。そしてこの町で暮らしていく中でこの世界で生きていくための技能を魔王は授けてくれた。それから数日後に、私を殺せと命じられていた兵士達が私を殺そう襲いかかってくる。私はその兵士の剣を奪い取るとそのまま斬り裂き。兵士たちの武器を奪ってから殺してまわるのであった。そして私はその兵士を殺し終わると、その場に残っていた。私に襲ってきた兵士が身に付けていた鎧を剥ぎ取り。それを私の代わりに着て貰うことにしたのである。そしてその日の夜になると、この魔王城の町の町長からお礼の宴に招待されて、私はこの魔王の町で、魔王と二人で、仲良くこの世界での生活を始めるのであった

「どうしてこうなったのだろう?」リリスが呟いていたが俺は「まあ、気にしなくても良いんじゃないかな?」と答え。俺はこの世界の人間である、リリスの家族が暮らしている家に案内された。そこには俺と同じようにこの家の住人に捕まった家族がおり。俺は、この世界のリリアの家に居させてもらい。リリと過ごすことになった。ちなみにこの家のリリスの妹はリリという名前だった。

そしてリリスにこの家に住んでいる人達は皆。元々はリリスの母親の仲間だったが。この国を守るために、その力を悪用してリリスの母親を裏切った人達で、今の状況になった今でも自分達が正義だと。本気で思い続けている愚か者ばかりだった。リリスの母親は。そのリリスの母親と同じ境遇のリリスと。その母親であるリリスの母の二人を助け出したいが為に。そしてリリスの父親は、そんなリリスの母親に騙されて利用され、その挙句。リリスの母親に捨てられた過去があるので、リリスと、その娘であるリリの二人は父親の事を許していないようであった。そしてこのリリスの家の中に、リリスの父親がいるらしく。このリリスの家族に復讐をしてやろうと企んでいる馬鹿が何人かいたが、その全ては俺が始末する事にした。もちろんリリスは自分が狙われても返り討ちにできると思っていたが、この世界の常識を知らないリリスに万が一がないように、俺が全て対応することにしたのだった。

俺はこの家で世話になってからしばらくが経つと、俺はリリスの父に「リリスの夫としてこの家に居ても良いか?」と聞いてみた所。リリスの父はその事に関しては快く了承してくれて。

この世界でのリリスの父の名はルリリと言う名だそうで。俺の名前はこの世界にきてからもリリスの父からは勇者と呼ばれていたのだった。そして俺のこの異世界での呼び名は『勇者』ではなく、『救世主』と、この国の王様はそう呼んでくれていたが、この国の人は俺のことを勇者と呼んでいたのだった。それはこの国が勇者であるリリスがこの国の窮地を救ったと信じていて。だからそのリリアの父親は、勇者と呼ばれている俺にこの家を任せる事にしたのである。だがリリスだけは俺の事を、この家では、リリと呼ぶことにしたのだが。どうやらこの世界に来たときに名前が変わったらしい。

俺はこの世界に来るまでの名前を覚えていなかったが。しかしなぜか、この世界の言語を覚えた時にはこの名前が自分のものだと分かったから、この世界の人間と同じような名前を名乗ってもいいとリリスから言われていたから。俺はその名前を名乗るようにしたのである。そして俺達はリリスの父親であるリリさんの手助けを借りて、リリさんが元所属していた。元勇者パーティーの元メンバー達の悪事を調べ上げてから、その者達を、この国から追放する事に成功していたのであった。だけどこの国に居る間、このリリスとリリスの娘は。何度も襲われそうになったりしたが、その全てを俺は排除したのだった。リリスと娘を守るにはこの方法が一番良かったのである。そして俺は、この世界を救う英雄として祭り上げられて、この世界の人々には感謝されるのだが。その事でリリスには迷惑をかけてしまったと思っている。

「私だって戦えますよ。それなのになぜ私には何もしてくれないんですか?」リリスは頬を膨らませながら俺に向かって不満を言って来たが。そんな事を言われても仕方が無いだろう? 俺は元の世界に戻りたかったし。このリリスは、自分の父親のせいで苦しんできたんだから。

リリスが俺と一緒にこの世界にいると。他の人々から色々と嫌味を言われたりもしたからだな。それにリリスは、その事で他の人間に危害を加えられたりと酷い目にあっていたのだからな。それに俺は勇者として呼ばれただけで、特に何の力もないただの学生なんだから。そんな人間がこの世界を救おうとか思わない方が良いと思うんだよなぁーと思いながらも俺はそんな事は言わなかった。

そして数日の月日が流れた頃。ついに魔王から連絡が入る。そしてその内容は俺と。魔王が出会った場所に、この世界を救ってくれた事のお礼を言いたいと言っている人が来ており。そこで話し合いを行いたいと言われているので。魔王城へと向かってほしいと言われたので。俺はその魔王からの願いを聞き入れるのであった。

私達は、この世界の魔王と名乗る黒髪の女性の話を聞くことにすると、彼女は嬉々として話し始める。まずはこの魔王城に住むこの世界の魔物達は全て。私が作り出している人造人間なのだ。私の持つ特殊な能力を使い生み出した、魔物の形をした人形なのであると、魔王は告げると。私達が暮らしているこの町で暮らし始めた魔王を名乗る女性は。この世界で起きた事を話し出す。

この世界のこの国を治める王族とその一族とこの国の兵士達に、ある実験の為に、この世界から呼び出されたのが私とこの国の魔王であり。私の夫の二人だったのである。その呼び出しの目的はこの国で行われていた儀式の実験台にされて、生贄にされかけていた、二人の魔王を助ける為だったのですが。この国の王の一族に邪魔をされて。私はこの魔王に力を返してもらうために、私の持つ力を利用して魔王を作り出した時に手に入れた知識を元に、魔王と、魔王の体を使って作り上げた魔王の分身体を使ってこの世界で暴れさせて、私の夫とこの国の王の一族を滅ぼすためにこの世界での活動を始めさせたのです。私は、私の力の一部が封じられたこの魔石を。そして私の大切な人の魂をこの世界に引き留める楔の役目を果たすことになるので。私自身の肉体は既に無くなっています。ですので私の命の半分をお渡し致しますので。どうか私の大切な人に力を与えて、私の力の半分を持ってしまったこの世界の私の力を利用して私を生き長らえさせる事が可能なら、この私の命の半分を使って生き永らえさせてくださいとお願いをした。

そしてその願いは聞き入れられて。私と私の夫である魔王は命を救われることになったのでした。そして私を救い出してくれた魔王を私は命を懸けて守っていく事にしました。

私達はそれからしばらくして。魔王は、この世界で魔王の力を持つ者を集めてから。この世界の全ての魔物を配下にして。魔物にこの世界の征服を命じた後に。私とこの魔王は自分の力で元の世界に帰れるようになるために行動を起こすことにした。それから私は、魔王の分身体と共に魔王の元を離れて旅を続けるのであった。

私とこの魔王の魔王がこの世界に呼ばれたのは、私が召喚されたこの世界の魔王の力が欲しかったからみたいである。私が召喚されたのは。私に備わっている特殊スキルの、私の意思に反応する、私が認識していないものを認識するという、そういう特性があったからこそ、私を呼び出すことができたそうだ。私は魔王と話をしてから。それから魔王と行動を共にしていたんだけど。魔王が突然私に抱き着いてから唇を重ねてきてからは、急に私を見る魔王の目付きが変わるようになって。私はそんな魔王が少し怖くなったけど。それでも私は。魔王について行くことにしたのだった。

私はリリと言う名前だった。そしてリリスは、私の妹だ。でもこの子を産んだ後。私は病で死にかけている。だけど私はリリだけでも助けたくて。必死に回復魔法の魔力を込めた水を、飲み干すことによって体力と精神力を回復し。そして何とか一命を取り留める事に成功する。だけどもうこの子が、これ以上は生きることはできないと。医者が判断していた。

そしてリリはこのまま死んでしまうと覚悟を決めた様子であったが。その時にこの家に勇者と名乗る男が尋ねて来たのだ。そして彼は、勇者と名乗っており。その証拠に剣を抜いて見せてきた。リリはそんな勇者に助けを求めてみたが、その勇者は何もしてくれずに。リリの体を抱きしめてから優しくキスをして去っていくと。その勇者はその後すぐに、どこかへ消えてしまった。

そんな勇者の行動を見て。リリはとても驚いていたが。この子は私に何か隠し事をしているのではないか?と思ってしまうような事があり、それを確かめようとした時。リリの妹が、私に向かって話しかけてくる。

『お姉ちゃん大丈夫?』

リリは、妹にそう言われると。なぜか胸が締め付けられる様な感覚に陥るが。妹の表情を見ているとなぜかその痛みが和らいでくるのであった。

「えっ!?」リリの体は勝手に動き出し。勇者の後を追って家から出ると、そのまま家から離れてしまう。

(どどうして?)自分の意思では動かない体に戸惑いながらも、リリは勇者の後を追うが。その勇者が、途中で道から外れてしまった。なのでそのリリは仕方なく、その勇者の足跡をたどる様に歩き続けたのだ。

そしてしばらくすると勇者が立ち止まった場所にたどり着く。そこはリリも知らない森の奥深くにある湖の前であった。そこで勇者は立ち止まると。勇者の気配を感じたのか、森の中から銀色に輝く髪を腰にまで伸ばし。瞳の色は青色で。とても美しく顔が整っていて。肌の色も白く透き通るような色をしていて。背の高さが160くらいの身長に見え。胸も大人の女性に負けない程に大きく見える女性が現れ、リリに向かって歩いて来ると。リリの目の前に立ち止まり、優しい微笑みを浮かべて声をかけてきたのである。

「あらまあ。この世界の人間じゃありませんね。それにしてはずいぶんと珍しい容姿をしていますねぇー。この世界にこんな綺麗な娘がいたなんて初めて知りましたよ。あっ。初めましてですね。私はこの世界とは違う世界から来たリリスと言います。あなたの名前を聞かせてくれませんか?」リリスと名乗る女性はリリに対して挨拶をしてきたが。

だがリリの体が、何故か勝手に動きだし。そして勝手に口を開きだす。その瞬間リリは自分の体の自由が効かなくなり。まるでリリスが乗り移ったかのように、リリスの言葉を話す事になってしまった。その事を知ったリリスは面白がって笑い出す。そして自分の娘であるリリスに近づき頬を両手で触りながらリリスの身体を観察して楽しそうな表情で。こう言ってきたのである。

「なるほど。ずいぶん面白い能力を持っているみたいですけど。この世界での生活は辛いですか?」リリスに質問されて、それに対してリリスは笑顔のまま答えるのであった。

「うふふ。確かにこの世界にいるのはあまり楽しい事ではないかもしれませんが。そんなに辛くはないですよ。だって、私にとって大切な人達と一緒に暮らせますからね」その言葉を聞いて、リリスは驚いた顔をするのだが。リリスはリリスと話をし続けていると、どうやらこのリリスには、この世界にいる魔王の事を大切に思っているようで。そして魔王に惚れ込んでいるみたいなんだよね。そんな事を話し始めたリリスに対して。リリはリリスが何を言っているのか理解が追いつかずに。呆気に取られていた。そしてリリスはそんなリリに向かって自分の話を始め出す。

このリリスの世界での私は、元の世界に戻り。自分の夫のいる世界で暮らしていて。私の夫は元の世界に戻ると、私は元の姿に戻り。私の夫でもある魔王の分身体も、元の世界に戻り、そして私の夫と同じ名前の人と結婚する事になったのだと、そして魔王の分身体と私の間に生まれた子供は。無事にこの世界の元の世界へと帰る事ができた事を教えてくれた。そして魔王の分身体は、この世界の魔王の体を使って、もう一人の魔王を作り出し。そしてその二人の魔王の子供が私達の世界の新しい魔王として、この世界の新たな魔王として名乗りを上げるのを楽しみにしていると言った。その話を詳しく聞くと。魔王と私の娘の一人は結婚をしているらしく。その相手というのが、私の娘を妻に迎えて幸せになっているという話を聞いた時に。私と娘の一人の間に出来た子供の、リリの母親である私は、魔王と、リリスが愛したこの世界の魔王が、同じ存在だという事に気付いてしまうのである。

その事に気づいたリリは。この世界は、私が生まれ育った世界であるこの世界の魔族の男性を夫に選び。この世界と魔王と魔王と魔王の分身が、一緒にこの世界で過ごしていく世界になればいいのにと思ったが。






それは絶対にあり得ないと、リリの体は勝手に動き出し、私の考えを否定したのである。

それから私の体を勝手に動かすのをやめると、リリスはこの世界に来てからずっと一人で暮らしていたらしい。でもそのせいで退屈な日々を送っていて。リリスの事を気に入った私は、自分の体とリリスを入れ替えると、私は私の意思に関係なくこの世界で暮らすことになったのだ。それから私はこの世界の私に会える日が来るまでこの世界に留まることに決めたのであった。だけど私のこの体では、この世界の魔王に会う事はできなさそうだ。

リリは、私とリリスの話を聞いてから。なぜ自分がこの世界に来たのかを思い出す事ができ。私に自分の持つ能力を、自分の母親と姉の二人に譲渡して欲しいと言うので、私達はリリの願いを聞き入れて。リリからリリの能力を全て受け取り、リリが私にリリの持つ能力を全部渡すと、リリはそのまま意識を失って倒れてしまう。リリスはリリが目を覚ますまで看病をすると言って、リリの側に付き添ってくれたので。私は、私とリリが持っていたスキルの確認と、私の中にいたリリをこの場に残して。私はリリスにお願いをされた事を実行に移す為に。この世界に来るときに、勇者と魔王の気配を追って辿り着いた場所を目指して移動を始めるのであった。

そして私はリリスの案内によりその場所を見つける。そこにはリリスの妹でリリィと言う名前の子が待っていてくれたので。そのリリィにこのリリの体に、リリが持つ全ての能力を私から受け渡してほしいと頼むと、リリの体を乗っ取った事で、すでにリリが持っていた能力を、そのまま受け継いだ状態になっていたリリの体の持ち主のリリィは快く引き受けてくれて、私がこの世界に来てすぐに手に入れたアイテム。勇者の装備一式を貰ってリリィにリリの体にそれを身につけさせるのだった。その後リリスにも頼み込んで勇者の剣と盾を貸してもらい、そしてそれを自分の武器にする為に、勇者の剣と勇者の防具は、私が使用する為に手に入れることができたが、肝心の魔王がどこに行ったのかわからないという。

私はとりあえず勇者だった頃の格好に着替えるとその場から移動を開始し始めるのであった。そしてリリスは私に向かって。リリスはリリとリリの姉に体を返してもらう為。リリの体で勇者の力を使う必要があるのだと説明した。そしてリリスに私達親子にリリスが使っていた回復系の魔法薬を渡すから、もし何か困った事があった時には、遠慮なく使うように伝えてリリスと別れるのである。その後リリスは、妹であるリリと一緒に暮らしていると聞いて安心して私達はこの世界を離れることにしたのである。でも最後にどうしてもこの世界で魔王の事が気になり。私は、この世界の魔王がいるとされる街に向かって移動する事にしたのであった。そしてその道中で私はリリスの言うとおり。この世界にいる、この世界の私の娘。私の義理の娘になるであろうリリスの姉妹と会い、私はその姉妹を鍛える事に決めた。リリスの話を聞けばこの世界の私の娘は、かなり才能に恵まれているようなので、私の力を受け継ぐ事ができるだろうと考えたからだ。だからこの世界を旅立つ前に、この世界で、まだ会った事のない自分の娘と会うのをとても楽しみにしながら目的地に向かうと。私はそこで信じられないような光景を目にする事になったのである。

そして私はこの世界で初めて自分の家族と呼べる存在である勇者と出会う事になるのだが。この時の私には、まさかこの勇者との出会いがあんな事に繋がるとは思いもしなかったのであった。

「ん?」リリスから譲り受けた回復系の魔法の効果のおかげで。どうにか命の危機を免れた俺だったが。そんな俺の前に、突然銀色の髪の少女が現れる。

少女は銀色の髪を腰まで伸ばし。肌の色は透き通るような白さであり。背の高さも160程に見える女の子だと思われる人物が、いきなり俺の前に現れたのであった。

「お兄ちゃん。大丈夫? どこか怪我はしていないかな?」銀髪を腰まで伸ばした、綺麗な青い瞳を持つその美少女が、なぜか俺をお兄ちゃんと呼ぶものだから、俺は困惑するしかない。そしてそんな様子の、その銀髪を腰まで伸ばして肌の色を白い女の子は。自分の目の前で倒れている魔王を名乗る人物を見つめて、魔王と名乗った女性を抱きしめていた。そしてそんな状況を見て。その魔王を名乗った女性を、まるで宝物を扱う様に優しく扱う女の子の様子を見た瞬間に、その女性が魔王を名乗っているが嘘だと思えてきたのである。それにその銀髪を腰まで下し、綺麗な蒼色の目を持っている美しい女性の見た目がどう見ても十代前半にしか見えず。その外見からすると明らかに、自分より年齢が低く思える。だが、先ほど見せたあの圧倒的な実力を考えると彼女が魔王を名乗っても仕方がないと納得できるくらいの強さを感じてしまった。それによく見ると銀髪を腰まである長い黒髪にして、赤いリボンを付けたら魔王と名乗る少女とよく似ている気がするのだが。もしかたら魔王と名乗るこの少女と魔王と名乗る彼女の関係は兄妹なのかもしれないと想像できたのだ。だが、こんな可愛らしい妹とそっくりなお姉さんが居るならぜひ紹介してもらいたいところだと思うのだが。

「おねえさま!おねぇさま!!どうしてここにいるんですか?」そう叫ぶと。

その女の子はリリアの方に抱きつき泣き出してしまうのであった。そんな二人の様子を微笑ましく見つめながら。魔王を名乗った女性はリリスの方に近づくと声をかける。

「久しぶりねリリス」そんな挨拶をしてから、リリスに対してこう言ったのだ。

「リリス。リリ。この世界を守ってくれてありがとう」そしてそんなリリスに。リリスが今までどんな生活をしていたのかや。自分が居なくなってからも。娘や息子が立派に成長した事を話し始めたのである。そんな様子を見ていたらなんだがリリスの方が本当に自分の母親なのではと思う気持ちになってきて。俺は魔王と名乗っていたこのリリスという女性が本当の母親なのだと信じ始めていた。そして俺はこの世界に魔王が現れた原因を知りたかったのでリリスに声をかけようとしたその時である。突然リリスとリリスに似た容姿をした、妹の方を抱きしめていた方の子がこちらを向いて話しかけてくるのである。

「あなた。私の事が見えるのですか?」その質問をしてきた時。一瞬何の事なのかと思ったが。どう考えてもリリスの妹であるその子には俺が見えていて。普通に話かけてきているのだから。リリスと似たような存在なんだろうとは思ったので、その質問に答える事にした。そしてその俺の答えを聞くとその女の子は笑顔を見せて。そして俺に向かって手を伸ばしてくるのである。

そして次の瞬間。俺はその手を掴もうとしたのに、何故か手が通り抜けてしまい、その手を握ることができないのだった。その事に驚くと。

その少女は笑顔で謝り。俺の体を抱き締めるようにして、それからその手のひらで、そっと俺の頬に触れてくれるのである。そしてその女の子の手の平からは優しい魔力を感じることができ。俺はその優しさと温かさに安らぎを感じていた。

「ごめんなさい。あなたの事を見ることができる人に出会う事がなかったもので。少し焦ってしまったのです」そう話すと、今度は、リリスの妹が、自分の事を話し始める。リリスが妹と一緒にこの世界の事を見守っていてくれたことを聞き、嬉しくなって涙を流し始める。その事に驚いたが。それでも涙を止められないでいた。

その時に。突然リリスの妹が何かに反応し始める。

『魔王よ』そしてその言葉を聞いて。俺達はリリスの妹が見ていた方向を眺めると、一人の女性が姿を現すのであった。

魔王は、現れた一人の人物を確認すると。リリスから渡されたアイテムを魔王に向かって手渡し、魔王は、それを使って勇者の剣を手に取ったのである。その行動で、今まさに戦闘が始められると誰もが思い身構えると。魔王は勇者の剣を手に取り、それから、自分の体の中に存在する膨大な量の力を、この世界にいる全ての生き物に分け与え始める。それはこの世界に存在しているすべての生命体を。その体に宿すほどの大きな量だった。そして魔王が全ての力を人々に与え終わった瞬間。人々は魔王のその行動の意味を知る事となる。そして人々が理解する前に魔王の力を得た者達が現れ始めて。人々にその力を与え始めたのだ。そしてそんな出来事を目の当たりにしたこの世界の人々は混乱するしかなく。自分達に魔王の力を与えた存在が。実はこの世界の人間ではなかったという事実に気がついた頃には。すでに魔王の姿はなくなっていた。その事から、この世界の人々が混乱に陥るのにそれほど時間はかからなかった。そしてその事に、勇者リリスの妹と。その仲間達が魔王を追いかけようとしたが。その魔王は既に姿をくらませてしまっていた。その為勇者達一行は、勇者リリスの妹が魔王を探しにこの場を離れる。

勇者の仲間は勇者とリリスの妹が魔王を追う為にその場を離れようとすると、勇者リリスの体を乗っ取ったリリが、魔王との戦いで、勇者リリスから譲り受けたアイテム。

その力を使用して。勇者とリリスの体を元の状態に戻してあげてとお願いをしてくる。

勇者はその申し出を受けるかどうかで悩む。

勇者として生きてきて、この世界で生きる為には、自分の中にいる魔王を倒す必要があるのだからと。リリの提案を断り。勇者と魔王が戦った事で生まれた空間の歪みからこの世界に現れた。もう一人の魔王を倒しに行くと言い出す。だがリリも勇者がそう言うであろうことをわかっていたようで。すぐに魔王を追ってくれたらいいと言ってくれて。

リリからこの世界を守るように頼まれたと伝える。

すると勇者がリリに向かって魔王と戦うための助言をして貰えないだろうか? リリならこの世界の現状を知っていて、何かアドバイスをくれるのではないかと思って、と頼みこむと。リリはリリスが使っていたアイテム。

リリスが作ったアイテムと同じような道具を複数と。この世界の地図と。そしてこの世界の状況を書いた書物を渡してくれると。この世界で起こっている事を説明しはじめる。

その話の内容によると。

まず、この世界では。既に勇者リリスによって倒され。魂だけになったはずの魔王が復活したのである。

この世界は、本来であれば。魔王を倒した後に、女神様と呼ばれるこの世界の女神様の願いを聞き入れ。

その世界で新たに誕生した生命達を守護する役目を担うのであるが。

しかし、今のこの世界でその役目を背負える者がいないために。その世界に新たな命が芽吹くことはなくなり、 この世界を創世した女神様に与えられた使命を果たせないまま、時間が経過すれば、やがてその世界は崩壊し消滅する事になるらしい。だから魔王が復活を果たした時点で、魔王はこの世界にとって害悪の存在となったのである。

そんな魔王を勇者リリスは、自らの肉体を犠牲にしてまで封印に成功した。その後、勇者は勇者リリスの意思を引き継ぐ形で、この世界に残った魔王と魔王が作り出した、魔王が従えている魔物の軍団を相手に戦いを挑んだが。リリスが持っていた勇者が魔王を滅する為の力、勇者が持つ聖剣は。

この世界ではリリス以外が持つことができなかったのだ。

そんなわけもあって。魔王を退治する事を諦め。リリスと同じように。魔王を滅ぼす為には魔王と同等の力が必要とされると考えた、魔王が生み出した配下であり、最強の魔物でもある、七大罪を冠する悪魔を召喚し、その悪魔の力を得て魔王に挑む事で魔王を滅ぼす事を計画するが。この世界で、勇者リリス以外には使えない、聖なる力が備わった特別な魔法。

聖術を扱う事が出来る者は一人もおらず、結局、聖具と呼ばれる道具を用いて。聖術を発動させたが。それも失敗に終わり。最後の手段として、勇者の肉体を使い、魔王と同じ魔族になる道を選んだのである。そして魔王がこの世界から居なくなった後は。この世界に新しく誕生する魔王の為に、魔族の血脈を残すという仕事を与えられたと。

その話を一通り聞き終えると、リリスがなぜこの世界に現れ、魔王に挑んだのかもわかったので、魔王を追おうとするが。

勇者は魔王に負け、この世界の何処かに転移させられた魔王の行方を、知る手段はないらしいので。とりあえずリリスの妹に魔王を探す手伝いを依頼する。するとリリは魔王の魔力を探知し。その場所を教えてくれたのである。「ありがとうございます。これで魔王を見つけることが出来ます」

勇者はリリスの妹に感謝を告げると。

「この程度なら問題ないですわ。私達は、お姉さまから託された、お姉さまの娘であるあなた達の味方なんですから」そう笑顔で応えるのであった。

リリスの妹と別れた勇者とリリスの体を持つ二人は。その魔王が向かった先である魔王城へと向かうのであった。その魔王城を護るは魔王四天王の一人である魔王の娘。

リリスの姉である魔王リリスに仕えていたメイドであるリリスの妹が。リリスと共に作った装備を身に付けながら魔王城を目指す。

勇者はそんな二人のサポートをしながら魔王の元へ辿り着こうとするが。勇者とリリスの妹の前に現れたのは魔王の配下の悪魔。七つ首のドラゴンだった。そのドラゴンは。魔王がこの世界の全ての生き物に与えた、圧倒的な力と魔力を持った勇者であるリリスを、まるで小動物でも相手にするように簡単に殺そうとしてくる。そんな光景を目の当たりにして勇者は。魔王とリリスの凄さを改めて思い知らされていた。

「くそっ!! こんな化け物どもに俺とこいつは、今まで散々振り回されてきたって事なのかよ!!」と思わず口にしてしまう勇者だったが。「諦めなければ必ず突破口が見えてきます。あなたならきっとできるはずです」そう話す勇者の妹を見て、この子は俺よりもずっと強い子だと再認識させられると。「そうだよな! まだ負けたわけじゃないよな!」と自分を奮い立たせて、魔王城に侵入を試みる。

その勇者と妹の前に。再び七頭の巨大なドラゴンが立ち塞がり。

「私も戦う」そう言い出す。「私もリリス様の体を使って、リリス様の使っていたこの武器で戦えばきっと勝てるよね」勇者の妹は勇者と同じ様に。魔王の娘リリスが自分の肉体を使って戦おうとしていたのだった。そして妹が手に持つは、魔王と同じ力を持つリリスが愛用していた槍。魔王と勇者の娘がこの世界に降臨する前まで、魔竜王と呼ばれ恐れられていた。魔竜王の力を受け継ぐ魔王の娘が、父から譲り受けた力で戦いを始めたのだ。そんな二人に襲いくるのは、魔王四天王の一人である七頭竜だ。そんな魔竜王との戦いが始まり、最初は苦戦しながらも何とか互角の戦いを繰り広げる事ができた。だが魔竜王には。魔族の王たる資格のある者しか扱えないとされる、魔王のみが扱える特殊な力である闇属性の攻撃を使う事が出来き。それによって勇者とリリスの姉妹は、自分達の体が闇に染まる事で辛うじて生き永らえていたが。もう既に体はボロボロの状態であり。あと少し攻撃されれば死んでしまう状態だった。

それでも姉妹は、お互いの顔を見ながら必死になって、この戦いを生き延びようと戦いを続けていた。そしてそんな時に、魔王の妹は、リリスの母の形見である剣と盾を。

勇者が魔王と魔王の作り出した魔物と戦う時に使用していたアイテム。

リリスが残したその二つのアイテムの力を使いこなす事ができるようになったのである。そしてそれを使った彼女は。勇者の持つ剣とリリスの使った槍を一つに融合させることに成功して。リリスの使う技を全て使用できる状態となる。

それを見た勇者は、自分の持っている聖剣も同じように出来ないかと考え始めるが。それは不可能だと思い直した。

だが、それを実現してしまったのは、魔王の娘である。この世界の人間ではない少女だったのである。

勇者はそんな彼女の事を認めざるを得なくなると、二人で協力して魔竜王を追い詰めていくことに成功するのだった。

魔竜王の放つ強大な闇の力を。リリスの妹は自分の力に変換させながら戦っている。その姿を目の当たりにした勇者が、聖剣の力で自分の力を引き上げ、聖騎士が得意とする防御スキルと補助系魔法と回復系のスキルを同時に発動させて、聖女と呼ばれる存在の繰り出す神聖魔法を、自分の中で再現しようと努力を積み重ねると。勇者の中に眠っていたリリスの魔力にその力が乗り移ってくる。

その結果。魔竜王の放つ攻撃を弾き返し、反撃まで繰り出してくるようになる。

そんな勇者に対して、魔竜王はその攻撃を跳ね返す事ができなくなっていた。そんな攻防が暫くの間続き。

魔竜王は、この世界最強の魔物と言われるだけあり。この世界の生物の頂点に位置する存在であった。

それがたった一人の人間の前に敗れ去ろうとしていたのである。

しかしその時。リリスの体の中にあった魔王の意識が表に出て来て、勇者の体を乗っ取り始めたのだ。そして勇者の体に宿ったリリスの力と、魔王がこの世界に来て手に入れた。リリスと魔王だけが使える特殊な魔法の能力によって。この世界に存在するあらゆる物を無に帰する。全てを無かったことにする力。この世界が消滅する力。その力を使って勇者の体を乗っ取ったリリスの魔王の力は暴走を始めてしまったのである。

その魔王を止めようとする勇者だが、既にその力の侵食を止められるような状態ではなく、勇者の体と意識は、魔王によって滅ぼされてしまい。その力は全て、リリスが元々使えたはずの力を取り戻しつつある。魔王の力に吸収されてしまっていたのだ。

勇者の命が絶たれた事で、その力が制御を失いそうになったその瞬間。

「この世界に仇なす者は滅びよ」

そう言うリリスの声が聞こえたかと思うと。魔王城の結界が破られ。

その声と同時に、その魔王城は崩壊して、跡形も無く消し飛んでしまったのである。

勇者が目を覚ました時。そこにいたのは勇者の愛する人であった。その人はリリスと呼ばれていた人で、勇者と愛し合い。魔王を倒す為にこの世界に来たのだが。魔王に敗北してしまい。勇者と一緒にこの世界に留まることになった女性である。勇者はこの世界の人達を。特に、自分が愛した人と、この世界で知り合った人々を。魔王から守りたいと考えている人だったのである。

しかし、この世界が、本来存在する世界とは別の場所に作られた物である事がわかると。この世界で得た大切なものを守る為に、勇者とリリスはこの世界に残る事にしたのだ。

しかしそんなリリスと、勇者の前に立ち塞がる最強の魔物達。

リリスはこの世界に来るまでの記憶を取り戻したので。この世界で生きるためにこの世界を創造した女神が用意した力の一部。聖具と呼ばれている特別な道具を使えば、最強の悪魔を従える事が出来るはずだと考えていたが。残念な事にその力は失われているらしく。勇者は最強の悪魔を従えることが不可能になっていたのである。その事実を知った勇者は落胆するが。その勇者に優しく語り掛ける女性が一人いる。勇者の妻である彼女も。元々はこの世界に暮らす普通の人間だったが。ある日突然現れた悪魔によってこの世界に連れ去られ。勇者に助けられてから共に暮らし、その後勇者と結婚し、幸せな生活を手に入れた女性である。その妻もこの世界に残りたいと希望を勇者に申し出て。その妻の希望を受け入れることにした勇者とリリス夫婦は。勇者の住む街で暮らす事になったのであった。そんな二人のもとに、二人の娘が現れる。勇者は最初。リリスの事を、この世界に連れて来てくれた人だと思っており。

リリスはそんな勇者に「私はリリスですよ」と笑いかけるのであった。そして二人は娘の事を可愛がり。幸せに満ちた毎日を送れるようになる。そんなある日。この世界の最強最悪の魔物。その頂点にいる存在でもある、リリスの姉のリリが現れた。

そのリリはリリスの妹と共に、勇者の元を訪れたのだ。

リリスの妹が勇者とリリスの元にやってきて。

魔王の娘である、魔王の娘がこの世に誕生する前からこの世に存在するリリスの妹は、リリスと魔王の娘リリがこの世に存在した際に、その身に蓄えられた魔力と。魔王の娘であるリリの体に流れる魔族の王としての魔力が反応する事で。リリスの体の中には魔核が埋め込まれる事になり。その魔族の娘リリとリリスの妹である彼女が、姉妹の関係になるはずだったが。リリスの妹にはその力が無かった。その為に姉妹の力は拮抗しているのだと話すのである。そのリリスの妹の話を聞いた勇者は、魔王の魔核を手に入れれば。妹はリリスと同じように魔核を体内に取り込むことができると考えて。魔獣の王に魔素を集めるように指示をするのであった。魔獣達が集める魔素を集められる量はそれほど多くないが。魔核を手に入れる事は出来るはずと期待を込めての行動であった。そんな魔核を妹に取り込んでもらいたい勇者だったが。リリスの妹にそんな話をしてもわかってもらえず、勇者の妹を困らせていたのだ。そんな状況の時に。魔素がこの世界の全ての生命を狂わせる原因となっていることに気付いた勇者は。この世界の生き物から魔素を抜き取ってしまえばいいのではないかと考えるのだった。その考えは、リリスの妹も納得してくれて。勇者と妹の二人が協力して、その作業を分担して行うことにして。勇者の妹が勇者の手助けをすることになる。そしてその作業を終えた後で。魔王の娘リリアが誕生したのだった。リリスの妹も、勇者の妹に手伝って貰いながらその作業を終えると。リリスの姉妹の体内に取り込まれた魔族の王の力が覚醒する事になる。そしてそんな姉妹の姿を見た魔王の娘リリは、二人の姉であるリリスに嫉妬を覚えるようになり。姉妹の仲が悪くなっていくのだった。

勇者はそんなリリスにどう声を掛けるべきか迷っていた。そんな時だった。勇者の住む街の付近で異変が起こり。その異変の調査の為に。魔王軍の幹部である、四天王の一人が姿を現した。その女性は魔王軍の最高幹部の一人である、魔竜王であり、勇者の住む街を襲って来たのだが。その女性と勇者の間に、リリスとリリが現れ、その四天王との戦いを勇者と二人で開始すると。その魔竜王に勝ってしまったのだ。その光景を見て勇者は驚き、リリスの戦闘能力の高さを実感したのである。

だがその出来事をきっかけに、魔王の娘であり最強の力を持つ魔王の妹リリが、リリスの体に宿り。この世界を滅ぼそうと動き始めることになるのであった。魔王がこの世界を消滅させようとするのを勇者は止めるため。魔王の娘であるリリスの体に魔王の魂を呼び戻す事に成功はしたのだが。その際にリリスとリリが入れ替わってしまったのである。

その入れ替わりが、勇者と勇者の妻が暮らす家に現れた魔王の娘であるリリにばれてしまったのだ。そのリリは勇者が自分を助けてくれた人であることを知り。感謝をして、その力になりたいという願いを勇者に伝えた。

しかし、リリの中に居座っている魔王は。この世界の全てを無に帰すために。自分の持つ力を使うようにリリスを唆し始めるのである。その結果。リリスは勇者との約束を守れなくなることを確信してしまい。その力を使ってしまうが。それを止めることに成功した勇者とリリスの体の中で、魔王とリリスが戦ったのだ。しかし魔王の力の侵食は止められる物ではなく。勇者の体は徐々にその意識を失っていく。だがその意識が途絶えるまでに。

その意識の中に勇者が見たのは、勇者と魔王が出会った頃の風景だったのだ。その記憶を見終わった勇者は目を覚ますと。そこには心配そうな顔をして自分の様子を伺うリリスと、魔竜王とリリの姿があった。リリの事をリリスの体の中にいた魔王の力が乗っ取り。魔王が復活すると危惧した勇者とリリスだったが。魔竜王が魔王が復活する前に。

魔王の娘として生まれてくる存在がリリと入れ替わっている事を話すと。リリスはその話を信じずに魔王の娘リリを殺そうとしたのだ。だがその魔王の意識と入れ替わる前のリリが。

「この娘を殺すのなら私も殺しなさい」

そう言い放ったのである。そのリリの覚悟と。魔王の娘の力を目の前で見せられたリリスはその事実を受け入れるしかなかったのだ。そしてリリスはその力でこの世界の全ての人に施していた、魔力封印とスキル制限の魔法を解く。そしてリリスがこの世界に来てから、その体を成長させる為に使用していた、時戻しの魔法の力を発動させたのである。それにより、リリスはリリスの体を取り戻す事に成功する。だがその時にリリスの力も大幅に削られてしまっていたのだ。その状態で魔王が暴れ出したら大変な事になってしまうのである。そこで魔王の娘であるリリスは勇者に助けを求める事にしたのだ。その力を使いこなせているのはリリスの体に存在している、リリスの魂だけであるが。

魔王の魔核の力を取り込めばその問題を解決できるのではないかと考えたリリスは、リリスとリリの体を借りて、魔王が封じられている魔核の力を手に入れようとするが。魔王の魂は魔素の影響で、完全に浄化されているわけではないので。

「魔王の娘が二人いる」

その事が、勇者の住む国に住む人々の知ることとなるのである。

「あの、リリスさん。リリさんの体をお借りするのは構わないんですけど。私の体は大丈夫なんですか?」「その辺は問題ありません。あなたはこの世界でリリと出会っているんですよね? それにリリは、あなたの事も気に入ったみたいでしたし。私がその体の主になっても問題はないと思います。それよりも早く行きましょうよ。あそこをどうにかしなければ、勇者と愛し合うことも出来ませんし。リリスはそう言うと、勇者の寝室から出て行こうとするので、勇者もそれに続く事にした。そしてリリスは魔王の娘リリが、勇者の娘になった時の部屋に足を運ぶのである。そして勇者とリリスが部屋に入る。すると魔王の娘となったリリアがそこに存在していたのだ。魔王の娘のその体を見た勇者は驚いて、すぐにリリに問い詰める。すると魔王の娘がこの世に生まれた瞬間から、既に魔核の力を手にしており。魔素の影響を受けない体になっている為。魔王の娘であるにも関わらず、魔王の力に浸食されることもないとリリは説明してくれたのである。そんな魔王の娘に、勇者とリリスの二人は、その体がリリスの娘だと認識を改めるのであった。

勇者と魔王の娘は意気投合したらしく。その後魔王の魔核は無事にリリスの手に握られる事になった。そのリリスの手には確かに魔王の持つ。魔王の魔核が存在している。勇者はそんなリリの事を抱きかかえると、魔王が封印されている場所に急ぐのだった。

その魔王の部屋に入った直後。魔族達の叫び声や悲鳴が鳴り響き始める。その声は魔素による暴走によって苦しむ、魔獣の王が出す鳴き声に似ていたのだ。その異変は勇者達が予想していたことでもあったので、魔王の復活を予期して行動に移す。そしてリリスの力でリリアの中にある魔王の力が浄化され始め。次第にリリアの中に存在した魔核の力が失われていく。それと同時に魔核に残っていた、リリスが倒したはずの魔物達の王、魔物王たちの記憶が流れ込んでくる事になる。それは、勇者達が住んでいた世界に出現した、様々な異世界に出現していた、魔物王の記憶であった。魔王の娘である、魔王の娘として生まれた時から、魔物王は、魔王の娘である自分に服従するようになっていたらしい。

その為に魔王は勇者の娘リリスの体を手に入れた後。勇者に勝つことだけを考えているわけではなかったのだ。勇者が他の者達と争う事で消耗してくれる事を願ってもいたのだ。そしてその魔王の計画通り。

「もうこれ以上の好きにはさせません!」

そう叫んだ勇者が、魔王の力が完全になくなったことを確認する。だがその勇者の行動を確認したかのように、再び魔物達が魔素の影響を受けて暴走を始めたのだ。しかも今度の敵は前回と違い。その力は前回の魔獣の王が放つものとは明らかに違っていた。勇者はその魔獣の王をも超えている存在を相手にすることになるが。勇者はリリスを守りながらその相手と戦うことになる。しかし、リリスが居る限り、魔族はその力を発揮し続ける事は出来ないので。

「リリス様。リリス様のご家族が待っているはずです! 早くこの城から出てください。リリスの両親と兄に早く会って安心させてあげるべきです。ここは私にまかせて、急いで下さい。私はここで皆さんを守る為に戦うと誓いました。だからこの役目だけは、絶対に譲れないんです」

勇者の言葉にリリスは、自分の力を取り戻す為に魔核を欲していたが。それ以上に強い意思と願いを持った、勇者とリリスの姿を目にしたのだ。

そんな勇者はリリスが城を脱出した事を確認後。勇者として魔王との戦いを開始する。そんな戦いの中で、魔王は勇者に語り掛ける。その言葉は、今まで勇者が聞いた事もない。魔族であるリリスの家族が待つ故郷。リリスの故郷である惑星。魔大陸にある、魔人族の王。その王に魔王の娘である、魔王の娘は、自分の子供を産む事を伝えに行くのだそうだ。その魔王の子供を産んだ後で、自分は魔王の力を完全に手放すと魔王に誓うと言うのだった。そんな魔王の言葉を聞き、勇者は魔王を見逃す事にすると。

だが、リリスは勇者と離れることを拒み。魔王の娘を、勇者の娘にするべきだと言いだしたのだ。魔王はその意見に同意し、魔王の娘にリリスの血を与えることになる。その魔王と勇者の娘にされた魔王の娘はリリスと共に、故郷の星に帰って行くことになったのであった。

勇者とリリスはリリスとリリスの父と母。そして二人の兄が暮らしている家に向かって移動していた。リリスは自分の家に向かう途中、勇者の家に遊びに行った時に食べたケーキ。その作り方を父達に聞いてみると。父と母は懐かしそうな顔でその事を教えてくれたのだ。そして家に辿り着くと、その家は勇者が暮らしていた時とは違い。立派な屋敷となっていたのである。勇者はリリスの両親が出迎えるのを見て。勇者とリリスは勇者の体に戻ったのだった。勇者が勇者の家の中に足を踏み入れると、その家の中は。リリスの母の趣味なのだろう、勇者が好きだった紅茶が飲めるように、お茶のセットが置かれているのであった。

そして、そのリリスの母親から魔王の娘とリリスは紹介される。そんな魔王の娘に魔王は、勇者の娘である事を告げると。その事実はあっさり受け入れられる。勇者はリリスがリリスの兄と姉の事を聞いてみた所。リリスの両親は少しだけ困った顔をしたが、直ぐに笑顔になるとリリスに優しい口調で言う。「勇者の事はお父さんに聞くといいわ。きっと答えてくれると思うから」「そうね。あなたと勇者君との間に産まれた子の名前はどうなるか、私達夫婦もとても楽しみにしているんだもの。あなたのお母さんに聞きなさい」リリスと魔王の娘はお互いが兄妹になる事を、嬉しそうな顔をして喜んだのである。そしてリリスは勇者との子供を、魔王の体から生まれたという事は言わずに、リリスと勇者の子が魔王の力を受け継いで生まれてくるのだと話すことにしたのである。そして勇者はリリスと一緒に、自分の娘が生まれた時に用意された部屋に移動すると、リリスは自分の母親のところに話があるからと。一人になったのだ。勇者はリリスと魔王の娘を自分の元に迎え入れると。魔王の娘が産む子供の話を二人から聞かされる。だが魔王の娘が、自分が勇者の子であると、勇者と魔王の娘の関係を話す前に、勇者とリリスの間に子供が授かる事になる。勇者はその日を境に魔王城に居を構える事になるが。勇者はそんな勇者の為にリリスの両親とリリスは協力してくれていたのだ。

だが勇者はその魔王城の異変にすぐに気づく事になる。それは、勇者に倒されたはずの魔物王が復活し。魔物王とその配下の者達は、勇者の娘を新たな魔王と認定したのである。

だが、そんな事態になっているとも知らないリリスは勇者にその事実を伝える為に戻る。そして魔王城は勇者の娘と化したリリアと、魔物の王たちが支配する事になったのであった。

魔王は魔物の王たちを配下にする事で、魔族の国に混乱を引き起こすのに成功する。そして魔王が魔物達の国を支配しているという事実を知るのは、リリスだけだったのだ。リリスが勇者にそのことを伝えようとするが。勇者は勇者の息子の体を魔王に奪われていて、そして魔物達の王の体をも奪おうとしている。それを知ったリリスはすぐに行動に移すことにする。その方法はリリスにしか実行できなかったからだ。

その方法で魔王の娘になった魔王の娘をリリスは魔王の力を使って支配しようとしたが。魔王の娘である、魔物王の支配から完全に解放されていなかった為に失敗したのだ。その失敗の原因となったのが、リリスが勇者の子を妊娠していた事で魔王の娘は魔王の力に浸食されなかったせいだった。そして魔物の王は、魔王が復活するまでの時間を稼ごうとしていたのだが。魔物の王の体は、魔物の王に支配される前にリリスに乗っ取られたのであった。その魔物達の行動に魔物達は気づけない程のスピードで、魔物の王は魔物達の動きを掌握していく。そして魔物達が、リリスの操っている事に気がついてしまった時には、既に魔王が復活するまでに十分な時間が過ぎており。勇者の娘が魔素の影響から逃れてしまう時間になってしまったのである。そしてその事が魔王の復活と魔王が動き出すのに必要な条件が整ってしまうのである。魔王は、勇者に魔族達の王の座を譲ろうとはせず。勇者の娘であるリリアが王になるように仕向けるつもりだったが。リリスが勇者の娘になり代わろうとする。リリスに魔王の力を奪われ、更には勇者が持っていたはずの魔王の魔核が魔物王の手に落ちた時点で勇者に勝機はないと思っていた。だからその隙をついて勇者に戦いを挑み倒すしかないと考えていたのだが。そのリリスに魔王は追い詰められていく。そして勇者の剣で魔王を貫かれたリリスの体は完全に魔王の力を失ったのだ。だがその瞬間に魔王の体と、魔王の魔核を手に入れた勇者が復活してしまうのである。

勇者は魔王の娘を支配することに成功し。魔物の国の魔物の全てを自分の支配下に置くことに成功した。だが魔王の娘の力は強力であり、その力は魔物達を支配しただけでは防ぐことは出来ない。だから魔王の娘の力と拮抗する為には、魔物王と魔王の力が必要なのだと言う。魔王はその力を手にするため。魔王の娘である、魔物の王と魔獣の王の力を勇者の娘である、魔王の娘の体に宿す。魔王は魔素の影響を受けなくなる魔王の娘の力を手に入れた事で、この魔族の国は安泰だと考えた。その事に勇者は反対するが。その意見は通らないのであった。だが勇者はそんな魔王が許せなかった。自分の子供を奪い、自分の体までも奪い取った相手が。目の前で自分の事を馬鹿にしているように感じてならなかったのだ。勇者はその事を許すことが出来ず。魔王に攻撃を仕掛けるが、その攻撃は全て魔王の結界によって阻まれる。そんな時、勇者と魔王が対峙している部屋の外が慌ただしくなると。そこには魔王が呼び出した勇者の部下が立っていたのだった。

「お久しぶりです。リュカルさん!」

突然現れたその人物は勇者が知っている人物だった。その者は、かつて魔王を討伐する際に同行した、勇者の部隊にいた一人の聖騎士だった。その者の名は、ミルフィスト。彼は勇者とは面識がある。しかし勇者は彼に良い感情は抱いていないようだったが。

勇者は自分の妻である、魔王に奪われた娘が、魔核の魔素に耐えられず、魔核に取り込まれる寸前の状態だと言うと。魔族である魔王の娘に近寄るなと命令したが。魔王の娘であるリリスには、そんな勇者の言葉は届かない。リリスは魔王である父親の命令で動く事をやめたと言ったのだ。

「リリス様の言葉を信じてやってくれ!貴方の妻で有る方の言葉に嘘偽りはありません。彼女はこの国にいる魔族の事を本当に大切に思っているんです。だからこそ魔王の命令を無視してでも、貴女に協力して下さると言ってくださったんですよ」

その言葉に、魔族の国の王になった勇者が怒りを露にすると。

魔王の娘が魔王の娘であるリリスを睨む。そして二人は視線で戦いを始めたのだ。勇者と魔王はリリスの言葉を聞き。そしてお互いに自分の娘が自分達に反旗を翻したというのを理解した。その事実に、リリスの父親である、魔人族は、自分達の娘に対して。失望感を抱くことになる。だが、魔人族の王が娘の言葉を真実だと思いたかった為、勇者に取引を持ちかけるのだった。

勇者が勇者の子供として生まれてくる子供を。魔物の王の体を使って生ませるのであれば、今まで通りに魔人族の王に戻れるというのである。そして魔王も。勇者の子供であるリリスが魔王である自分を裏切らなかったのならば。自分は大人しくリリスに従うと言う。だがそれは。お互いの大切な物を取り戻すための戦いであったのだった。リリスは勇者の気持ちを知っており。そして、自分の息子である、勇者の子供が、人間との懸け橋になる存在だと、魔王から聞いているからこそ。

自分が今ここで戦う事を、息子である勇者に伝えるために、勇者の所にやってきた。リリスと魔物の王の力がぶつかり合うと、辺りが吹き飛ぶ程の激しい爆発が巻き起こる。勇者と魔王の娘である魔王の娘は激しい衝撃を受けながら、リリスと魔王の会話を聞いて、自分が騙されていた事にようやく気がつく。そして、魔物の王が勇者の娘であると知るが、その事はもう手遅れなのだと諦める。そんな時、魔物の王が意識を失い、その場に崩れ落ちると。その光景を見て、魔物の娘が、魔物の王の体が消えてしまった事を知り、悲痛の叫びをあげる。その魔物の姫に勇者は容赦なく攻撃をしていく。勇者の剣は魔物の娘の肩に突き刺さると、勇者は、魔王が魔族達の命を取るような行動をしないのなら、リリスが魔王に成り代わってもいいと提案する。

そして勇者は、魔王の娘である魔王の娘の体を切り裂くと。魔王の娘の体は魔素の影響から解き放たれて、元の少女の姿に戻ったのである。だが魔物の娘は、勇者の娘が魔物の娘に殺されたのを知ると、魔物の娘を憎むが。リリスは自分の母親を殺したのは勇者であると言い放つ。魔物の娘はリリスの言葉に動揺したが。そんな事を勇者の娘に言われる理由が分からなかった為、その事は否定する事にした。だがリリスが本当のことを言っているという事は魔物の娘にも分かっていたのである。その事から魔物の娘は、勇者の娘を自分の手で殺した事で、罪悪感に襲われると。自分がリリスの母親を殺し、魔物の娘から奪った事を勇者の娘に謝ろうとしたのだが。リリスはその魔物の娘の行動に激怒してしまう。リリスの父親は魔物の王はリリスの母を殺した仇敵だと。そう魔物の娘に伝えたのである。そして魔物の娘と魔王の娘が戦っている最中、魔物の王の魂はリリスの中に逃げ込んでしまうのであった。だが魔物の娘は、リリスが自分の中に逃げ込んだ事を確認すると、リリスの体に自分の手を触れる。リリスはその魔物の姫の行動の意味がわからず、戸惑うが。次の瞬間、リリスの体の主導権は魔物の姫に移ってしまったのだった。そしてリリスと魔物の王の入れ替わりは完璧に行われた。その結果、魔物の娘はリリスになり。リリスの体は魔核に取り込まれる事になったのである。

魔王の力を得た魔物の娘の力で、勇者達は追い込まれるが、そこでリリアが動き出し、魔核に閉じ込められている父親の命を助けようとしたのだが。その動きを見た魔物の王は魔核の中で、その動きに驚きを見せる。だがその瞬間。魔族達の支配権を持つ魔王の力が覚醒するのである。その力で魔族は支配されていく。だがリリムが必死で抵抗する姿を確認した勇者の娘は、リリスとリリアの中に戻り。そして再び入れ替わることに成功すると。魔物の王とリリスを封印する為にリリアと共に、動き出す。そしてリリスは魔王城の最深部まで向かうが。その道中で勇者の娘と、リリの二人の人格は統合されてしまう。

リリスは、魔素の影響がなくなったリリの体を手に入れて。魔物の娘はリリスの体を手に入れる事で。魔王と勇者の力を持つ者同士の対決が始まった。魔王の力を持ったリリスに勇者の力を持っていた魔王は、一瞬で倒されるかに思われたが。リリスの力の方が魔王の力を上回り。そしてリリスは、勇者の娘とリリの体を手にいれて勝利を得ることが出来たのだった。リリスは勇者の力と魔素の力を使いこなし、魔王の力を抑えこむことに成功したのだった。

そして、勇者の力を完全に取り戻すために、勇者とリリスとリリアの三人でリリスは、勇者の力を手に入れる為の方法を考えるのだった。だがリリスは勇者が魔物の国を攻めてきたことで。魔物の国に何か異変が起き始めているのではないかと考えたのである。だからまずは魔物の国の様子を見るために魔物の城に行こうとするのだが。そんな時、魔物の娘が突然、魔王の力を使って勇者と魔王の娘である魔物の娘に攻撃を仕掛けて来たのである。リリスとリリシアは魔物の王の体を奪い取ることに成功していたが。魔物の王の力は強力で、完全にリリス達の思い通りにはならない。その為、魔物の娘と戦う羽目になってしまう。そして魔王の娘である魔王の娘である魔物の娘はリリス達の行動を止めようとするが。その行為は無駄な事だと言われてしまう。その言葉で魔物の娘の心は完全に折れてしまい、その場に倒れ込むと。そのまま意識を失ってしまう。そんな魔物の娘に対して、魔物の娘が使っていた魔王の力を封じ込める。その作業が終わればリリス達が魔王の力を手に入れることが出来ると言うが。そんな時、突然リリスに、魔人の王と、魔王が姿を現したのだ。そして魔人の王が魔王に、自分達の息子を助けるように懇願し。その言葉を受けた魔王が魔物の王の所に向かい。リリスはその間にリリシアに魔王の娘を預けたのだった。そして魔物の娘とリリの二人は、魔核の中に閉じこめられている魔王の本体を救い出すことに成功をする。

しかしリリスとリリシアがリリとリリスと一緒に魔王の本体を取り込んでいる間に、勇者とリリスの娘の力は拮抗していて、勇者と魔王の娘であるリリスは追い詰められた状況になっていた。その時にリリとリリシアが魔物の王から、魔王の本来の力を取り戻すことに成功する。その事によって魔王の娘であるリリスに魔王が取り込まれている魔物の娘は魔物の王を乗っ取ろうとするが。リリスとリリの二人も魔王の本来持っている魔王としての魔力に飲まれないように踏ん張るだけで手一杯の状況になった。

そんな状況を打破するために勇者がリリスに話しかけると。リリスは自分の体をリリシアに任せて。自分は魔王の力だけを制御すれば、何とかなるかもしれないと言ったのだ。勇者はそんなリリスの言葉を聞くと納得した。リリスは、自分の体内にリリシアとリリを迎え入れ、リリの体を媒介にして魔王を自分の中に戻すことに集中する。だが魔王の娘である魔物の娘がそんな行動を許すわけがない為、魔王の娘と、魔王の力がぶつかり合う。そのぶつかり合いでリリスは自分の中にいる魔王の力を全て奪い取って、自分の物とする事に成功する。そんな時勇者がリリスの邪魔をした魔物の王に斬りかかるが、その攻撃が魔物の王の胸を貫いてしまう。その光景を見て魔物の王は心底嬉しそうな表情を浮かべるが。勇者は、リリスの攻撃の余波を受けて、吹き飛んでしまったのであった。

魔物の王に憑依されていた魔物の娘と、魔族を支配していた魔族の女王との間に生まれた魔人族は、魔物の王女を操り、魔王を暗殺しようとした。だがその事実を知った魔王と勇者の娘が魔族を滅ぼすために戦いを開始する。そして魔王の娘である魔王の娘は、魔族の王から魔王の本当の力が使えるようになり。圧倒的な実力差で、魔物の娘と魔王の娘であるリリスと魔物の娘である魔物の娘との戦いは魔王の娘の勝利で終わったのである。

魔物の王は魔物の娘である魔王の娘から受けた攻撃により。意識を失う寸前だったのだが。魔物の王は意識を繋ぎ止めると。自分が生きている間は、この世界は勇者の娘である勇者と魔王の娘に渡さないと宣言した。その事にリリスは、勇者と魔王の娘である自分を差し置いて、魔王である父さんが偉そうに言うのではないと怒ったが。魔物の王はそれでも、勇者の娘である勇者と魔王の娘である魔王の力を。自分が死んででも封印するべきだと言い張り。それを聞いた勇者と魔王の娘が魔物の王に攻撃をしたが。魔王の娘の攻撃すら魔物の王を傷つける事はできなかった。その光景を見た勇者と魔王の娘である魔王の娘である魔物の娘と勇者の娘である勇者の娘が、悔しさを滲ませるが。

魔物の王は最後の最後にリリスに、自分の力である。全ての魔物を操る能力の核を渡すと、リリスがそれを吸収して、自分の物として扱い始める。そして魔物の王は満足げな顔のままこの世を去ったのだった。だがその魔物の王の亡骸はリリスの魔素と混ざり合ってリリスの中で生き続けていく事になる。だがその事にリリスは気付かなかった。

勇者と魔王の娘である魔王の娘である魔物の娘の体は魔王の力に支配されてしまっていて。魔物の娘と魔王の娘の二人が同時に存在しているような状態である。だが魔王の娘の方には意識があるのだが。魔物の娘にその意識はない状態だったのである。その事で勇者と魔王の娘であるリリスは困惑してしまう。だがその混乱はすぐに収まった。それは魔人の王と名乗る男がリリスに自分の娘を助けるように頼むと。リリスは自分が助けるのであれば、自分の中の魔王の力は封印する事が条件だと言うと。魔人はそれでいいと言ってくれたので。リリスは自分の中に存在する魔王の力を封印することにする。そして魔王の娘の体が封印されたと同時にリリスの中に存在していた魔物の王が魔王の娘の中に戻ることになったのであった。それからしばらくしてからリリスとリリシアは、魔獣の王の力を手に入れた魔物の娘と戦っていたが。その魔物の娘の力は魔王の娘である魔王の娘を上回っていて、リリスが追い込まれてしまう。だがそこで勇者と魔王の息子である魔王の力と、魔王の娘である魔王の力とが共鳴を起こし。魔素の影響で魔王の娘である魔王の娘の体の主導権を奪い取ってしまった。そしてその瞬間に魔物の王は、魔剣の力を覚醒させることになる。

そして魔物の王が、魔人の王が魔人の王である事を告げると。魔人の王は魔物の娘に取り込まれた魔王である魔人の王の肉体を解放して、魔王を救い出したのだった。そして魔剣の力によって魔物の王と魔人が一体化した状態で。魔王の娘である魔王の娘に戦いを挑むと、その圧倒的な強さの前に魔物の王が負けそうになった瞬間に、リリスは魔人の王と魔王の子である魔王の力を奪うことに成功する。そのお陰で魔人の王は魔王の力を手に入れられたのだ。だがそのせいでリリスの中に封印していた魔物の王の力も復活してしまい。魔人と魔剣の融合した状態の魔人と、魔物の力を手にした魔物の娘である魔物の娘が対峙することになる。

魔人と魔物の娘の戦いは激しさを増して。リリスと魔人である勇者が、魔人の娘を追い詰めた時に、突然リリスに襲い掛かる魔人が現れた。その事にリリスは驚いた。その魔人に気が付いた魔物の王が魔人の男に魔素を分け与えていたのだった。その行為の意味を理解してリリスは怒り狂うが。その隙に魔人はリリスを倒してしまって。その魔人の男の正体は魔王の息子で、魔人を魔物の姿に変化させたのは魔物の王様本人だった。だがその時に魔剣が反応を示し、魔王の力を手に入れることに成功したのである。

魔剣は魔剣の力を手に入れることができる。だが魔人の王の力だけでは魔人としての強さはそこまで強くない。だからこそ魔人の王は魔王である魔人の力も手に入れたのだ。そう、魔人は全てを支配する存在。そして魔人以外の種族に魔素を与えると、その魔人から与えられた魔物になる事が出来るのだ。

そうやってこの魔の森の周辺に大量の魔物が生まれていき。そして魔王の娘である魔物が魔王として目覚め。魔物の王の娘である魔王が魔獣の王に乗っ取られてしまった魔物達を次々と倒していき。その事に対して勇者がリリスとリリアを連れて戦いに挑むが。魔人になった勇者では歯が立たず、勇者とリリアの二人がかりでなんとか互角の戦いが出来るぐらいになっていたのだ。そんな中、リュオが突如として姿を消してしまう。勇者は心配していたが。そんな事を気にせずに戦い続ける。勇者達はリリシアのおかげで、魔人の王を倒す事に成功した。しかし魔王の娘である魔王の娘はまだ倒れていない状態だったので。魔人の力で強化された魔物の王はリリスと戦い続けていた。リリスが魔人で、魔剣の魔人の王の力を持つ魔人の王である魔物の力を使っていても魔物の王には勝てる気がしないほどの強敵で。魔獣の王を取り込んだ魔物の娘である魔物の王の力の前では全く太刀打ちできずに追い詰められてしまうが。その時勇者とリリスと魔王の娘である魔王の娘である魔獣の王がリリスを援護してくれたことで形勢が逆転する。そう、魔物の王が魔人の王を乗っ取り支配することに成功した。それによりリリスと魔獣の王は、魔物の王と戦うことになり、リリスの体の中に存在する魔王である魔人の王と魔物の王とで戦いを繰り広げるが。魔人となった魔物の王の圧倒的な力でリリスと魔獣の王と、魔人になった魔人との戦いは魔人の王の方が優位に立ったが。魔人の王から魔人の王の支配を解き放つことに成功し。

その後、勇者の力が暴走した。その事に慌てた魔物の王は魔剣の力を解放する。その結果、魔物の王は自分の意識を失い、魔人の王に体を奪われる。魔人の王は、勇者の娘であるリリシアの力を奪おうと、リリスとリリシアを襲うと。リリスはリリシアに意識を移す。それによって、魔王の娘である魔王の娘である魔物の娘の力が覚醒して、魔人の王は魔王の娘の力を奪われて消滅してしまった。そう、魔人の王は勇者の力と魔王の娘である魔王の娘である魔族の王の力が混じり合って生まれた存在なので、二つの相反する性質の力には弱かった。

魔王の娘が魔王の娘の力を取り戻すのに時間がかかってしまい、勇者と魔王の娘である魔王の娘である魔獣の王との戦いが始まってしまう。その戦闘に魔王の娘である魔獣の王と勇者の娘である勇者は介入できなかった。魔獣の王は勇者の娘である勇者に力の源を奪われた状態で魔人となっている。その為勇者と魔王の娘である魔王の娘である魔獣の王に勇者の娘である勇者の力は使えなかったのであった。その事が原因で、勇者と魔王の娘である魔獣の王の二人はお互いの力をぶつけ合う。

その二人の戦いを止めたのは、勇者と魔王の娘である魔王の娘である魔物の娘だった。勇者の娘であるリリシアは、魔王の娘である魔王の娘である魔物の娘と魔剣の魔王である魔人の王と一緒に戦うことになる。そうして三対一での戦闘となり。その戦いはリリと魔王の娘である魔王の娘である魔獣の王が優勢だったが。途中で勇者と魔王の息子である魔人になっている魔王の息子である魔人がリリの力を奪った為に、状況がひっくり返りリリが押され始めていくが。

魔王の娘である魔王の娘である魔物の王は魔物の力を完全に取り戻すために。魔王の娘である魔王の娘である魔物の王の中に存在する魔王に体を返そうとしたら。それに気付いたリリシアが自分の中に存在していた魔王の力を吸収することに成功をする。そして勇者と魔王の娘である魔王の娘である魔物の王の力は勇者の娘リリスの中に存在する魔王と勇者の息子である魔人の中にいた魔王に吸収される。結果リリスが完全復活を果たしたのだった。リリシアと魔王の娘である魔王の娘である魔獣の王と魔人と魔獣が一つになった魔物である魔人との戦いが始まるが。魔獣の力を得て更に強力な魔物の力も得ている魔人の王には勝ち目がない。

そしてその事は魔王の娘である魔王の娘である魔物の娘が一番よく分かっている筈なのに、魔王である魔王の娘が魔物の力を得た魔人になってしまっているリリと戦っていたが。魔王の娘である魔物の娘である魔物の娘も、リリの持つ魔素と魔素とが混ざり合って生まれてくる魔人の王から与えられる魔物の力で、リリが強くなるのと同じようにリリにも強くなり魔物の王との戦闘力に開きが出てしまい、徐々にリリが追い込んでいくようになる。そしてリリの攻撃に耐えられなくなってしまい。遂に魔物の王の力は完全に失われてしまったのだった。その事で魔物の娘から解放された魔物の王は、リリとリリの中の魔王の力を取り込もうとした瞬間にリリスの反撃にあって、再び魔剣の魔人の王の力を失うことになった。

魔人の王はリリスが覚醒するまでの時間稼ぎの為に魔剣を欲していて。リリスと魔剣の魔人の王が戦い始めると。リリシアは勇者の娘の力を失ってしまったので、魔人と魔獣の二人の子供を相手にしなければならなくなる。

その魔獣の子供とは、魔物の王の息子が変化した姿だ。その魔獣の子供の力は凄まじく、リリシアも劣勢に立たされてしまうが。魔剣の魔人の王を取り戻した魔人の王が魔獣の子と戦っている間にリリシアも魔人の力を自分の物にすることに成功する。そうすると勇者の娘であるリリシアの力と、魔人の王である魔人の力を手に入れた魔王の娘のリリスは無敵となる。

魔剣の魔人の王を手にしたリリスと魔剣の魔人であるリリアと、魔物の力を受け継いだ魔王である魔物の王は。この国の魔の森にいる魔族の中で最強と言っていい程の力を持つ事になるが。魔獣の王に取り込まれた魔王の娘の力が完全に復活したわけではない。

その魔王の娘である魔王の娘である魔獣の王はリリス達に攻撃を開始するが、その瞬間に魔物の王が魔獣の力を奪い取り。魔物の力を得た魔人の王は魔物の王に戦いを挑む。その勝負は、勇者の子であるリリシアの力も加わっている事もあり、互角の状態にまで持っていき。最終的には魔獣の王は魔剣の力を解放して魔人の王に負ける事になるが。魔王の子である魔獣の王は最後に魔物の王に何かを伝えていたようだ。

その事に関して、魔王の子である魔獣の王は勇者の娘であるリリに何かを伝えるとそのまま消滅していったので。勇者の子であるリリシアは心配するがリリシアは勇者の娘であるリリシアが安心できるように微笑む。その表情を見て勇者の子であるリリシアは何も言えなくなってしまうのだった。

こうして、魔王の娘である魔王の娘である魔物の王は勇者と魔王の息子である魔物の力で滅ぼされて、魔人の姿となった魔物の王もこの場にはいないので、この国を支配していた魔王軍と呼ばれる集団はこの場で滅んだのだ。

リリリス達が王都に戻った頃には。魔獣達と人間達の戦争の決着がついていて、魔物の軍は王都を攻めようとしていたが、リリシアが魔王の娘の力で王都の上空を暗雲に包ませると、魔物達は慌てて撤退を始める。その様子をみた魔獣の王は、魔王の娘である魔王の娘である魔族の王に乗っ取られた魔王の娘である魔王の娘である魔物の王の力を利用して、人間の軍に襲い掛かる。その事で魔物の軍が王都内に攻め込んで来て大混乱に陥り、そこに魔物の軍と戦うために来ていた冒険者や兵士とが合流して戦い始めたが戦況が一気に変わり王都が落とされてしまったのである。

だがそんな事を知る由もなく、僕とリリスは急いで魔剣の魔人の王を探したのだが、王城の中は酷い有り様になっていて、もう王城としての機能は果たしていないようだった。リリスは魔剣の魔力の反応を探して見つけ出す事に成功したが、魔剣の魔人は既に息絶えていて。魔王の娘である魔物の王の力を受け継いでいる娘が居たが、その子はリリスが助けるよりも先に魔物によって殺されてしまう。そして魔物に寄生されたまま魔剣を持った状態の娘さんだけが生き残ってしまったのだ。

その娘の名前はミリアリアと言うらしく。この子は今年15歳だと教えてくれた。そして僕の事をリューク君と呼ぶので。どうして名前を知っているのか尋ねると、勇者の子孫であるミリスさんの友達だという答えが返ってきた。そういえば勇者の子孫は沢山いるのに。何故その人達の名前だけは分からないのだ?勇者の力を持つ者がいるはずなのになぁ。僕は気になっていた事を質問してみることにする。それはこの王都に聖女という存在がいないかということだ。すると勇者の血を引く女性で、現在行方をくらませている存在が一人だけ居ると答えるのでその特徴を聞いてみるとリリスの事ではないかと思って、本人確認をしてもらったら、やっぱりそうだったようで間違いないと教えてくれる。

やはり彼女は聖女の力を持つ女の子で。しかもリリィと同じ17歳だったようだ。その彼女が行方不明になった原因は、魔王の力を受け継ぐ魔王の娘が出現したせいであるらしい。そして彼女以外にも、魔王の娘である魔王の娘は何人も確認されていると。魔王の娘である魔王の娘である魔物の娘は、全てリリィのように聖剣を持つ者の傍に現れて仲間になっているそうだ。ただその事実は世間には公表されていない。勇者の血を引いている者しか知らされておらず。魔王の娘が現れたという事実と。魔物の力を受け継ぎ魔人となった魔王の力が関係していると知っている人は極少数だという事を教えてくれた。そして魔王の娘である魔王の娘である魔物の娘と魔剣が合わさった存在の魔王の力が暴走した時に現れる存在の事も教えられる。その存在は魔物の力だけではなく、魔物が持つ全ての力をその身に宿しており、更にその力は、魔王である魔王の娘の力の吸収も出来るのだという。

その事を聞いて僕は、その少女を救い出し保護しようと決めた。

リリスの話では、その聖剣の魔人である女性はミリアという名だそうで。リリスは魔人と化した魔王の娘である魔王の娘である魔物の娘の討伐には参加したが、その後はその女性がどうなったか知らないそうだ。なのでその魔人である聖剣の魔人をまずは探さないといけない。そしてリリとリリスには、魔獣の軍と魔物の軍勢に王城を攻め落とされる前に、魔獣の軍を蹴散らしてほしいとお願いをする。僕はその後にリリリスに魔人の少女の件について話すと、快く引き受けてくれて。すぐに魔獣の軍隊と魔物の大軍勢に対処してくれることになった。そして僕とフィリスは魔獣の王と魔物の王を何とかしなければいけない。そこで、王城の地下に魔王軍の本拠地に繋がる扉があり、そこには魔王の力を持つ者が封印されているらしいので、その魔王の力とリリスの持つ魔剣の力で魔王の力を持つ者を解放して欲しいとお願いした。そして僕が魔王を解放できるのであれば解放するように指示を出してもらい。そのあと魔獣の王と魔物の大軍を相手することになっている。僕はその準備を済ませる為に一旦別れることにした。リリスとリリには魔獣の王と魔物の軍が攻めてくるまでの時間を少しでも稼いでほしいと頼み、その言葉を受けてリリス達は了承してくれたのである。

そしてその日がついにやって来た。

魔獣の大群が王都に侵攻してきたのだった。その魔獣の数はとても多く。そして空からドラゴンまで飛んできた。しかし空を飛ぶことができるリリスとリリスが呼び出した巨大なグリフォンがドラゴンに向かって突撃すると。上空に待機していたドラドとガーゴイルもそれに習って攻撃を開始。更に魔獣の大群の中にいた魔物も一斉に動きだし。魔物の軍が進軍を開始した。

その様子を確認すると。僕は魔獣の王を封印から解き放つ事にしたのである。魔獣の王の体から溢れ出してきた魔素を吸収して魔人の力を増大させる事ができる魔人となる。

僕は魔王の力と魔素を取り込んだ事により。魔物の力を持つ魔王となる事で魔獣の王の力と記憶が頭に流れ込む。

その力で魔物の軍の侵攻を抑え込み。魔人の姿のまま魔獣の軍に戦いを挑むのであった。

******

***

私は、この世界に召喚された。勇者としてこの世界に呼び出された。

最初は訳も分からずに。何の説明も無しに、いきなり剣を持って魔王を倒すようにと一方的に命じられてしまった。

そして無理やりに勇者の力を植え付けられた後、そのまま魔王城に送り込まれた。だけど魔王城に着くまでの間に色々と情報を仕入れたけど、魔王に勝てるなんてこれっぽっちも思わなかった。

魔王の娘が現れてからこの国の状況は最悪になり、魔物の襲撃に国民は怯えて暮らしていた。そして私自身も魔物に追われていた時に魔獣の王と名乗る男に助けられてこの魔の森で暮らしている内に。魔物に寄生されてしまったのだ。

その魔物は魔物の王の息子だと名乗り。魔獣の姿になって魔物を従えながらこの国を支配しようとしている奴だった。そんな奴に魔王の力を持つ私なら魔王の娘の居場所が分かるはずだと言われて。仕方なく魔王の娘である魔物を探した。その探し方は簡単だった。魔物の王の気配を感知すればいいだけだった。だから直ぐに魔王の娘を見つけることができたのだ。

見つけた魔王の娘は魔獣に寄生されていて。魔獣に魔王の娘が支配される前だったので。その魔物は魔王の娘である娘に取り付いて、魔獣の王の力と魔王の娘の力を吸収すると、その魔王の娘である魔物の力を奪っていった。その後魔獣の王は魔剣の力を解放して魔王の娘である魔物を殺せと命じて消えてしまった。

魔人の私がその命令に背けるはずも無く。魔王の娘を殺した後に。その魔王の娘が残した魔人の娘の体に憑依した。

魔人になったことで、今までは見ることもできなかった魔力や魔法が目で見えて、魔力も大幅に増えていたので驚いたが、それと同時に嬉しかった。

魔人になる前は、魔法を使う事が出来なかったが。今は自由に使えるようになっているのである。それを確認したところで、魔人の娘である娘にも魔王の娘である娘と同様に。魔王の娘を探すように指示を出した。

この娘の名前はミリアリで、魔王の娘と歳は同じのようだった。

魔王の娘であるミリスと同じように聖剣が反応したので聖剣を抜くと、ミリスと同じような勇者の力を持つ者と判断できた。だが、ミリスとは違った点が一点だけあった。ミリスの持っていた聖剣は白銀であったが。その娘の持っている聖剣は黒い刀身をしている聖剣だった。

そしてミリスの時とは違い。聖剣を手にしたミリアは魔王の娘を探し出したのだ。

聖剣が魔王の娘であると認めたようだった。

だがミリスの時とは違って魔王の娘である魔王の娘の力を奪い。魔獣の王が作り出した大軍団の前に魔剣で立ち塞がり戦い始めた。魔人の魔剣は、魔王の力を持つ魔剣と相性が良く、聖剣の力の殆どを吸収してしまい、そのお陰で大軍隊に対抗できるだけの魔人となった。しかも魔剣は聖剣を凌駕するほどの能力を持っていたようだ。聖剣がいくら強くても、所詮は剣であって、魔力は聖剣には蓄積できないのに。その魔剣は、その膨大な魔力のほとんどを使い切って、魔王の大軍団の全てを薙ぎ払ってしまったのだ。魔剣の力は底知れなかった。そして、この圧倒的な魔剣の力で。この世界を魔王の好き勝手にさせてはならないと思い。私の願いを叶えてくれるのはこの魔人だけなのではないかと思うようになったのだ。

そして私は、魔人と化して、この世界で魔獣の王に君臨する事に決めたのである。そして、魔王の力を手に入れた事で魔物の力を全て吸収でき。魔人としての力が飛躍的に増大していくのが実感できるようになっていたのだ。

魔王の娘である魔物が死ねば、魔王の力は全て吸収されてしまうと思っていたが。魔剣に吸収しきれていなかったようで、魔王の娘の力はまだ残っているようである。

魔人の力を手に入れて魔王の力を持った魔獣の王となった魔獣の王こと魔物の王である魔王の娘が暴れまわる。

魔王の娘である魔王の娘である魔物の娘の力も魔獣の王となった魔獣の王の糧となっているのか。魔獣の王である魔物の王となった魔王の娘は魔物の王である魔人よりも、さらに強力になっていたのである。

**

***

僕は魔物の軍を殲滅した後。魔獣の王を封印することに決めた。そしてその封印を行う為には、僕が封印されていた部屋に行き。そこに保管されていた、リリスの持っていた剣を使わなければいけないような気がしたからだ。僕はその剣の事を知っていたが、その剣は僕の体に取り込まれていた為に思い出せなかった。ただ何故か。その剣を使えば何かが起こるかもしれないと。そう思っていたのである。僕は剣を扱える自信がなかったが。その剣を使わないといけなくなるような予感があったので。リリスと一緒に魔王の城の探索に向かったのだった。

**

***

私達は魔王の娘である魔人が魔物達を率いて魔獣の王を討伐しようとしていると聞き。私達が加勢しに行くと魔獣の王は、既に倒したと言っていて。そして魔物の軍勢に魔物の王と勇者が向かってくると教えてくれた。そしてこの世界の管理者を名乗る存在が現れるという。私とミリーがこの世界に来て初めて会った存在が、私達に力を授けてくれた存在であるらしいのだ。私はその話を聞かない振りをして魔獣の王の話に乗ってあげる事にした。すると魔獣の王と魔剣を持つ少女と魔獣の少女は、魔獣の王が用意した転移の魔法石を使用して消えたのであった。そしてその直後。この世界に新たなる訪問者が現れたのである。

それはまるで、神か悪魔の化身のように見えた。そして魔獣の王と魔人と名乗った二人も、その訪問者と対等に見えたのだ。いやむしろ訪問者の方が魔獣の王より強いと、私は思ったのである。なぜなら魔獣の王が呼び出した魔物の全てが、訪問者に倒されてしまったのであった。そして私はその人物を見て。リリスの持っている聖剣を、リリスから強引に奪い取ったのだ。そしてその人物が、私から聖剣を奪った事によってリリスの魔剣をその人物に奪われそうになってしまったが。なんとか阻止できたのである。そして、その人物は魔獣の王の呼び出した魔物を倒し終えた後は、この場から離れていく様子だったので、私たちはその人物の跡をこっそりとつけていた。

*

* * *

***

「お前らは何が目的なんだ」

その男が話しかけてきたのは、僕がリリスから奪った黒い剣に、その男は手を伸ばして来た時だった。突然の出来事に驚いてしまったが、すぐに我に返るとリリスに離れるように告げた。そしてその男の手に剣を渡すわけにはいかないと思った僕はその男に向かって問いかけたのである。

「私は、この世界のバランスを管理するために動いている者だ。その聖剣を私に渡しなさい。さもないと貴方に危害を加えなければならない」

と、その人は言うのだが。その人の体から発せられる圧力はとても強かった。それにリリスが反応して怯えた顔をしているのだ。だからそんな人に聖剣を渡せるはずもなく僕はその人と戦うことにしたのである。

魔獣を召喚していたその人は。魔王の力を持つ魔人となり。魔物の王となった魔王の娘に操られているだけのように思えた。そしてこの人も元々は、この世界に生きる人間だったのだ。だから、魔族にこの人を利用されてしまわない為にも。魔王の娘を倒さないとダメなのだと僕は考えた。その為に僕は魔王の娘を倒す事を決意した。

そして、魔剣を扱い始めた魔王の娘を倒すべく。魔王の娘の力を利用して作られた魔獣の王の力を使うと決めて魔剣の力を解放するのであった。魔素を吸収し続ける魔剣の力で魔剣の能力を高めていき。その能力を限界まで高めた後で魔王の娘である魔人の娘の体を乗っ取ることに成功する。

魔獣の王の力と聖剣を手にした僕は魔王の娘に取り付く。そして魔剣を聖剣の力を吸収する能力に変化させて、その聖剣の持つ膨大な魔力のほとんどを吸収すると、その魔力を力に変えて、魔王の娘である魔王の娘と聖剣を同時に相手にしても負けないくらいに強くなっていたのだった。そしてその力で魔王の娘である魔王の娘に戦いを挑んだのである。魔王の娘である魔王の娘の魔力を吸収する事で魔獣の王の力が強化されているのか。それとも元々魔王の娘である魔王の娘の力が強くなっているだけなのかわからないが。魔王の娘である魔王の娘は、僕の力に対抗することが出来ずに一瞬で勝負がつく。だがまだ終わりではなかった。魔剣の力を完全に開放するまでは終わらせられなかったのだ。僕は、その魔王の娘である魔王の娘に取り付いて魔王の娘に憑いている魔王の娘の力を取り込むことに成功したのである。その結果。魔王の娘を取り込んだことにより、魔王の娘を支配できるほどの力を手にしてしまった。その力はあまりにも膨大で。今まで以上に体が大きくなった気がしたのだ。それだけではなく、魔力も今までとは比較にならないほど上がっていたのである。それだけではなく身体能力の方も格段に向上していて。そのおかげで僕は簡単に、その魔王の娘を圧倒することが出来てしまったのだ。そして最後に。魔王の娘である魔王の娘に命令して。僕を殺そうとした魔獣達を全て消し去るように命じた。魔獣の王は僕の命令で魔人の力を使い。魔王の娘の魔力を使って全ての魔物を跡形もなく完全に消滅させる。その後僕の中に居た魔王の娘の力も完全に取り込むことに成功したのである。その後。魔獣の王が僕の中から出てくることは無かった。そして僕の体から出て行った後も、魔王の娘である魔物の王に憑依する事なく。僕の体の一部となっていたようだ。

そしてこの日を境に魔王は復活しなくなり。魔王の娘である魔物が暴れだす事も無くなったのである。だが、これで全てが上手くいったという訳では無く。僕の中に存在するもう一人の魔人の存在が気になっていた。それは間違いなく、あの魔人だったのである。何故なら、僕の中でその人物の記憶の一部が共有されるようになっており、その中には魔王の娘である魔人の名前も含まれていたのだ!

「どうして? こんなに可愛い娘に産まれたかったって思うけどね!」

(本当になんでこうなっちゃったんでしょうか)

と、心の中では思いつつも口に出さないようにする だって言ったら絶対に怒られるし、殴られちゃうから

「もうっ また私の事を可愛すぎるって思ったでしょう!? 私はもっとカッコイい女の子になりたいんですぅー!!」

そう言って僕の頬を指先で軽く突くリリスは、見た目は絶世の美少女なので仕方が無いと思うのだ だけど中身がちょっと残念な感じになっている まぁそこが良いところだとは思っているんだけど そして僕はリリスの事を好きだと思っている そして、リリスもまた僕の事を好きでいてくれているのだろう 僕は、リリスとの婚約を解消しようとした 理由は色々あるが 一番大きな理由としては、リリスを他の男性に渡したく無いと言う気持ちがあったからだ しかしそれをすると、僕とミリスの関係性に問題があるように思える そこで僕は魔王に相談することにしたのだ

「という訳で、どうにかしたいと思ってるんですよ」

「確かに、今のままの関係性では問題があるかも知れんのう」と魔王が答えると ミリスが話し始める「でも、私とリリスちゃんの仲が進展したのは事実よ。それに、この前も一緒に買い物に行ったし」

「えへへ デート楽しかったですね」と笑顔を見せるリリスに対して僕は微笑み返す。

そして僕も少し恥ずかしくなりながら話す リリスがとても嬉しそうな顔を浮かべる。

そして、ミリスは僕の方を見て話しかけてくる

「だからね。リリスちゃんを悲しませるような事は、絶対にやめて欲しいのよ」

と真剣に言われたのだ。そして続けて言う

「あなた達がどんな理由で婚約を破棄したいのかは分からないけれど。それでも、リリスちゃんを幸せにしてくれる事が第一条件でしょ?」

そう言われてしまうと、何も言い返せなくなってしまう そして魔王も僕を説得するように言ってくる

「リュオメイロン皇帝は、ワシの頼みを断るつもりかの」と威厳を込められた口調で言われると、やはり断れないのだ 僕はリリスと婚約を続け、リリスと夫婦になる事を決めたのだ。

リリスが嬉しそうにしている姿を見ると、僕も嬉しくなって来るのだ。

*

* * *


***

僕はリリスにプロポーズした。そしてリリスがそれを受け入れてくれたので、結婚式をすぐにあげる事にしたのだ。そして、リリスに結婚指輪を贈ったのだが。その時は、凄く幸せな時間を過ごした。


* * *


* * *


* * *


* * *


***

僕達は王城に戻り、盛大な結婚式を執り行った。そのおかげかリリスは国中にその容姿から、美しい姫として有名になり。他国の王子からも求婚される程の美女として有名になったのである。

僕は、リリスと結婚したことで正式にミリスと婚約関係を結んだ事になるので。リリスと結婚する時に魔王に頼んでいたことを、ミリスに伝える リリスと結婚するためにも。ミリスとの約束を守る必要があるのだ

「ミリスさんと、リリスさんの事をお願いしますね」

と僕は魔王に伝えていたのだった。

「ああ 安心してくれて良いぞ 二人にはワシが責任を持って、幸せにするからのぉ」

そう言って魔王は笑う 僕はその言葉を信じる事にして、リリスとミリスの事を任せたのだった。


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


***

リリスとの結婚生活は毎日が幸せだった。そして夜の生活においても、リリスと二人で楽しいひと時を過ごし。

僕は、これからもずっとリリスと一緒に暮らしていくのだろうと思っていた。そしてその予想通りにリリスと共に暮らす日々がしばらく続いたのだが、僕はリリスの体に違和感を覚えるようになったのだ。それは、時折だがリリスの姿が見えなくなることがあったのである。

そしてその日。リリスは部屋で一人で寝ており。僕がリリスの部屋を訪れる。

僕は、その姿を見て。驚いた なぜならリリスは、ベッドの上に裸で倒れていたからである そして僕の目の前で、苦しんでいるのであった。

慌てて、僕はその体に触れると冷たくなっていて 死んでいることを理解したのだった。

リリスが死んだのだ 僕はショックのあまり呆然と立ち尽くしていた。だが僕は我に返ると、その状況を何とか打破しようと動き始める このままにしておく訳にはいかないと思ったのだ 僕はすぐに魔王に念話をして、助けを求めることにした

『魔王様。至急、僕の屋敷まで来てください。大変なことが起きています』

そう言うと魔王は、直ぐに僕の元に現れたのだ そして状況を確認した魔王が一言言う

「これは まずい事になってしまったのじゃ」と 魔王に確認して貰った所。どうやら僕達の世界とは別の世界で死んだ人が、リリスの魂に引き寄せられて。異世界のリリスと入れ替わってしまったようだ 僕はそれを聞いて、ショックを受ける そして僕がその事で、ショックを受けているのを見た魔王は僕に優しく語りかける 魔王は僕の事を抱き締めながら 僕に話し掛けてくれる その優しさに僕は救われた気がした そして魔王に慰められ、冷静になった僕だったが。リリスを助ける方法は無いかと相談する。魔王ならば、何か解決策があるかもしれないと考えたからだ。

すると魔王はある方法を僕に教えてくれたのである それを実行するために、魔王と二人でその方法を実行した。

その結果、僕の中に存在するリリスの意識を取り戻すことに成功したのである 僕の中に存在しているのは、僕の肉体を使って生まれたリリスではなくて。別の世界で死亡した際に。その死の原因となった病で亡くなった人の人格であり。僕の中には二つの人格が存在していた。そして僕の中にある一つの人格が僕に取り付き。僕は、その新たな人格を受け入れることにしたのだ。その方がより僕らしいと思ったからだった。

こうして。僕は僕ではない別人の意識を受け入れたのである。

その人は女性で。名前も違った。だけどその女性が誰なのかは直ぐに分かったのだ。彼女はリリィの祖母にあたる人で。僕が小さい頃に病気で亡くなった人である しかし彼女が亡くなった後。何故か彼女の体は僕の体内に転移していて そのまま僕は眠り続けていたのだという 僕の中に居る彼女が、僕が目覚めた時に最初に聞いた言葉は 僕が目覚める前に見ていた記憶を視せてくれないかという願いの言葉であった。僕は、僕の体を借りてこの世界にやって来たので。僕の中の魔王に許可を取り。僕の見た物を見る許可を得て。僕に見せたのだがそれが失敗の始まりだったのだ。その映像を見終わった後の彼女は

「やっぱり こんなに早く孫に会うことが出来るとは思わなかったよ」と言い 僕に自分の孫を探すように依頼する。僕にはまだ、この体の人の記憶が流れてきていないので、僕のこの体を譲ってくれないだろうかと頼まれてしまう 僕は、この人にも事情があって僕の中に入ってしまったのだろうと察すると。彼女に協力することにする。僕が了承したことで。彼女は、自分が生前暮らしていた世界へと戻ることになったのだ。

僕の体から出て行った後も。僕は、僕の中で眠っている彼女を見守り。僕に色々と情報を伝えてくれていた しかしある日。突然彼女は僕に話しかけてきた それは彼女が眠っていたはずの場所で起きた事件が発端だ。

そして彼女が眠るその場所に何者かが近づいてきたのである。

僕は、彼女を守れなかった事を後悔し始めていた そんな僕の気持ちなど知らない彼女は。僕の心配をしてくれていたのだ。そして僕にこう言ったのである

「君が、この子を守りたいという気持ちはよく分かるよ。だって私は、この子に命を預けてここまで来たんだもん。それに私がここにいる理由は、私の家族を守るためなんだよ?だからさ、君は気にしないでよ」と言って僕の背中を押したのだった 僕はリリスを守るために、この体を守ることを決心したのである そうすると彼女は僕に対して感謝を告げた後。自分の娘に、会いに行くのだと笑顔で言う そういえば、娘のことがとても好きな人だったと思い出しながら。僕は彼女と話を続ける 僕は彼女に、もし良かったらリリも一緒に保護して欲しいと言うと。快く受け入れてくれたのだ そして僕は、リリに念話を送ると、僕が伝えた通りのことを話してくれるように頼み込んだのである。

それからしばらくして。リリは僕のところにやって来て、全てを話し終わるとリリスの祖母だという女性は。僕に感謝を伝えると同時に、私を元のいた場所に帰してほしいと告げる。

僕はその願いを聞き入れて、彼女に元の場所に返す魔法を行使すると。僕は僕に戻って来たのだ こうして、僕の中からリリスの存在は消滅したのである。僕達は魔族の王に、僕達の力を見せるための準備を行う事にした。

そのため僕達は、一度魔族が住む町まで戻り、そこから王都に向かう事になった。


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *

***

「魔王様には、僕達がどれだけの実力を持っているのかを見せる必要があると思います」と僕は、そう言うと。リリスとミリスは、僕の事を頼もしいと思ってくれたようで、嬉しそうな表情を見せてくれる 魔王は僕に対して「うむ 確かにそうかもしれんのぉ」と呟き、その後「それでは早速向かうとするかのぉ」と、僕達に言う 魔王に付いて行くとそこには、リリスが僕に作って貰ったという、あの巨大な門が現れたのだった。そして、その門を潜り抜けると。そこは先ほどまでの町よりも遥かに大きい町の光景が広がっていたのだ。しかもそこの住民は全て角があり、翼を持った悪魔の姿をしているのだ その景色を見た魔王が、感嘆の声を上げながら感想を述べる。その光景を見て、僕が感じたことと言えば、「なんだこの町は!!?」である 僕がそう思ったのも当然である 僕達はその町に辿り着くまでに様々な町に立ち寄ってきたが。それでもこの町程の大きさの町には出会っていなかったのだ その事に驚きながらも。僕達はとりあえず王城にたどり着く事を目標に歩き始める。


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *


* * *

************************

***

暫くしてようやく魔王城の城門の前にたどり着いた するとそこに現れた一人の老人に、リリスが呼び止められる そしてその男は魔王に用があるのであろう。僕達の方に近づき

「ワシは、王の側近の一人のバルムと言う者じゃ」と名乗り。リリスに王城に入るために必要な物を、差し出すように指示する そしてリリスはバルムが渡してきた紙に目を通してみると そこには魔王の許可印とリリスのサインが必要になっていたのだ。その用紙を受け取ったリリスは困ったような顔をして僕の方を見る。その様子を確認した魔王は、僕の方を見て指示を出した 魔王の指示を受けた僕はリリスが持っている書類を受け取り。内容を確かめてから、僕自身の名前をその書類に書いてリリスとミリスの名前を記入した後、その書類を差し出したのだ それを確認したリリスとミリスの二人は安心した顔になる そして僕が受け取った書面を確認してみると。そこにはリリスが持っていたのと同じ物が書かれていたのだ。それを確認したリリスは、リリスに礼を告げると魔王に向かってリリスは頭を下げる リリスは、この王城内に入れないのであれば、せめてお世話になった人達に挨拶がしたいと申し出る。そしてその提案を聞いた僕は、その言葉を信じることにしたのだ。その僕の判断を聞いた魔王は、僕の方を向き口を開いた 魔王の言葉を聞いた僕は、リリスに少し待っていてほしいと伝えると 魔王と二人だけで話すことにして 僕と魔王は二人で王城内に入っていくことになったのだった。

***

「リリスが、お前に頭を深く下げてお願いをした時は驚いたのぉ。それにしてもリリスには驚かされるばかりなのじゃ」そう言う魔王に対し。僕はある疑問を口に出してみる

「リリス様は なぜ僕達と共に旅をしているのですかね?」その質問を聞いて「それは、恐らくだがリリスは、お前を信頼して行動を共にすることに決めたのじゃろ。まぁリリスの事じゃ、おそらく自分の力でお前の力になりたいと思っているのだろうがな」と言いながら魔王が微笑み。続けて僕の事を見つめると、さらに言葉を続けた。

「しかし お前には感謝しておるぞ。今までの旅の中で。多くの種族との絆を深めてきたからこそ。今のこの平和が訪れる事が出来たんじゃ。お前がいなきゃわしはこの世界を救えなかったじゃろうからのお。ありがとう。本当にありがとよ」そう言って僕の手を握りしめてくれたのだ。

そして僕は、魔王のその言葉で。この世界で僕が果たした役目を終えた気がしたのである。僕が元の世界に戻ったとしても、僕の記憶は無くなっているかもしれないけど、僕と関わった全ての者達が幸せになれることを願うのだった。

僕達は、魔王の先導で。魔王がこの世界の異変を調査し始めた時に拠点としていた、屋敷に連れてこられたのである。

その道中に、この世界について詳しく聞かされながら歩いてきたのである。

まずは、この世界で起こっている異変についての説明だ まずは魔物が凶暴化して人間を襲うようになっている事。そしてその現象のせいで人間側の戦力が削られてしまっている現状が説明された しかし僕は魔王の話を聞いて気になる点があったのだ。それは魔王は、どうしてそんなにも魔物の事情に詳しいのだろうかと。魔王の話しを聞く限りだと。どうやら魔物の凶暴化が始まった時期は、僕の記憶にあるより後の出来事になっているようだ。だから僕は魔王に対して「魔王 あなたは自分の時代で、どうやってこの異変を突き止めたのですか?」と尋ねてみた 魔王はその質問を受けると。僕の顔を見据える。そして僕の目を見てくる。その視線を感じた瞬間に、僕が抱いていた疑問など吹き飛ぶほどの恐怖を感じてしまった。魔王は、この質問に対しては。僕のことを試すためにあえて嘘をつくのかもしれない だけど僕の勘は告げていた。この人にだけは、真実を語るべきだと言うことを。僕は自分の命を天秤にかけることになるかもしれないと思いつつも。正直に答えることを決めたのであった。

僕は覚悟を決めてから自分の考えを全て話し始めた この世界に来る前から。自分がこの世界にやって来た目的を話さなくてはならなくなるかもしれないと想定していた だからこそ。僕がこの世界に来た時に、真っ先に考えた事は、リリスとミリスの命を第一優先にするということである その僕の答えを聞いたリリスとミリスは 自分達のことよりも、リリィを優先してくれる僕の優しさを噛み締めながら。僕が話してくれた話を最後まで聞いてくれるのであった 僕が、自分の中で思い描いた仮説を魔王に伝えると。魔王はとても嬉しそうな表情をしてから「よく ここまで頑張ってきたのう。まさか、この世界の成り立ちを知っているものがいたとはのぉ」と言う

「しかし まだこの事実を公の場で発表することはできないのぅ」と僕に伝えてから「じゃが、お前の考えで正しいと思うのぉ」と言う それからしばらく、お互いが無言で向かい合う その時間が続く しかしそんな時間に嫌な雰囲気などは一切なく。むしろ居心地の良い空気が流れており そして僕と魔王の間には不思議な繋がりが生まれていた 僕は、魔王と心を通じ合わせることが出来ていると確信したのである そして僕達はお互いに。今話している会話が真実であることを理解し合った 僕達が、互いの意見のすり合わせを行っていると。リリは二人の雰囲気に飲まれていたのか僕の腕にしがみつきながら 僕達が話している内容が気になっていたようで。途中からではあるが、話に割り込んで来たのである 僕は、リリに自分の考えていた内容を伝えた 僕の話を聞いたリリと魔王の二人は とても悲しげな顔をしながらも僕の事を褒めてくれるのだった その話が終わった後に。僕は、リリの父親が、魔王であるという事実を知ると、その驚きによって言葉を詰まらせてしまう。その僕の反応を見て。リリスは何かに気付いたようであり、リリの方を見ると。リリスが「もしかして。あの時の男の子って君のことだったのかな?」と呟きながら、リリの事を優しく抱き寄せる そして僕達は その出来事がきっかけで お互いの距離が一気に近くなる事になった その事を嬉しく感じながらも リリスの温もりを感じていたのだった リリスが、自分の父親と一緒にいる光景を見て。僕は、その親子の関係に心を打たれると同時に。僕と魔王の関係が上手くいかなかった場合、こんな感じに家族になれたらいいのにと思ったのだった そしてその光景を見た僕は、改めて思うことがあった。それは僕にとっての本当の敵は魔王でもリリスでもないという事だ そう、本当の敵に勝つため。僕も前に進み出なければならないのである。その決意をした僕の様子を見ていた魔王が 口を開く

「お前は本当に強い男なんじゃな。ワシではお前を倒せん」と笑いながら魔王が僕に言葉を掛けてくれる 僕は「僕は、魔王に負けたわけではありません。僕はあなたが本気にならなかっただけで。もしあなたの力が全力で発揮されていたら、僕は確実に負けていました」と伝えると 僕の真剣な眼差しに圧倒されたのか。魔王は僕を抱きしめた そして「そうかもしれんな。じゃが ワシはお前に勝ちを譲る。それが お前に一番必要なものだと。信じたからな」と優しい口調で僕の耳元に囁くと。魔王は僕から離れる そしてリリスが「あなたは もう私の夫になるのですよ」と言い。僕に向かって手を伸ばしてきたのである そのリリスの笑顔を見て。僕は、リリスとこれから一緒に暮らして行くことに対して、大きな喜びを感じるとともに。魔王の言葉を思い出しながら 僕に必要になるのは力だけじゃない 本当に大事なものはリリスとの未来なのだという事に気がついた 僕はリリスの伸ばした手を握り。二人で見つめ合う その僕達の様子を確認したリリスは、僕の頬にキスをすると、僕と手を繋いだままリリスの部屋に転移を行うのであった

***

僕が魔王と初めて出会ったのは僕がまだ学生の時。魔王に会った当時の僕の印象は、とても強そうには見えず、どちらかと言えば弱々しい感じがしていた しかしその魔王の瞳には力強い光りがあり。その目に睨まれた相手は一瞬で戦意を失うほど威厳のある存在なのだろうと思っていた だが魔王と会うまでは、僕はそこまで興味を持つことは無かった しかし実際に出会ってみて。魔王が、見た目で人を判断してはならない人物だということを実感したのだ。そしてその実力が本物であることを確信することが出来た しかしそんな僕だったが、僕には一つだけ分からないことがある。魔王に会えたからには、魔王がこの世界に来て何を考えていたかを知りたかったのである 僕はそのことについて、魔王に直接聞くことにしたのだ 魔王はその質問を受けると。「そうじゃのう お前が思っているような。世界征服みたいな事は考えておらんぞ」と僕に向かって言い放ったのだった 僕はそんな言葉を聞いて「そうなんですね。僕は勝手に魔王は世界を支配するつもりなんだと思っていました」と言いながら頭を下げると

「ほっほっほ そんな事はせんぞ。そんな面倒な事」と言って笑うと「しかし この世界にやって来て。色々とこの世界のことを学んだのじゃ。だからこの世界に危機が訪れた時は、ワシの力で何とかしようとは思っておったぞ」と魔王は言うのであった その話を魔王から聞き終わった僕は「魔王は、なぜこの世界を救おうとしたのですか?」と魔王に問いかける 魔王はその質問を受けると しばらくの間考え込む そして、少し悩んだ顔を見せつつ僕に対して、この世界での出来事を教えてくれるのであった 魔王の話を聞き終わると僕は、魔王のその行動が、この世界で起こっていた問題に対して、的確に対応していたことが分かり、さらに魔王の偉大さを痛感することになる 僕がその話を魔王から聞いたあとに魔王は「わしには この世界を守る責務があったから。そのためにこの世界でやれることをやっただけのことよ。


それにこの世界はわしの世界では無い。ならばこの世界の住人の為に動くことが道理であろう」と言うのである。

それから僕は魔王と会話をしながら この世界に来た時から疑問に思っていたことを聞いてみることにしたのである。そして僕と魔王の間に距離が出来る。

その距離は 魔王が今まで経験してきたことを聞くのに適切な距離だと僕は感じると 僕は思いきって魔王のことを全て聞いてみたい衝動に襲われるが。

しかし魔王とリリスの関係を考えると 僕は踏み込んで良いラインではないと判断して魔王の気持ちを尊重する事にした。

しかしそれでも、魔王の話を聞くために僕と魔王は会話をする事になる 僕は魔王の話す内容がとても気になってしまい。つい話の内容に集中しすぎてしまい 魔王とリリが、僕達の傍を離れて どこに向かったかを気に留めることができなかったのであった 僕が話に夢中になりすぎてしまった事で リリは、どこかに行ってしまったのだが。

しかし、僕と魔王が、会話に熱中している間に ある事件が発生していた それは魔王の娘であるリリィちゃんの母親が意識を取り戻したと言う報告をリリィの母親本人から受けたのであった リリの母親はリリと同じような白い肌の色をしていて 長い銀髪が特徴の女性であり。彼女は僕を見るなり「リリィを助けてくれてありがとうございます」と僕にお礼を言ってくるのだった。

僕はリリの母親から 魔王の娘を預かっている立場なので、魔王が助けたという前提で言うなら 魔王のおかげということになるのではないか?とリリの母親の態度に疑問を抱き。

僕は彼女に尋ねてみると 魔王の魔法によりリリィが魔物の凶暴化を止めることができた。

そして、魔王のその魔法によってリリィは命を落とす寸前だったところを助けたのだという事であった そしてその話を聞いたリリスも僕と同じ様に 魔王の行動が適切であったことを感じたのか。リリスが魔王に対して 感謝の言葉を伝えるのだった そんなやり取りを終えた後に。僕はリリの母から、彼女の事情について説明を受けたのである。リリの母は 僕がこの城で寝ていた間に起きた出来事と、僕に対する感謝の言葉を口にして 自分の事を語り始めたのだった 彼女が語る話は僕がリリの父親に助けられたと言う話から始まる そしてリリの父に助けられた後。僕は、しばらくその国に滞在していたらしい リリの母は自分の母親と相談した後で。自分達の住んでいる国に一度帰り。僕の両親を説得して。僕とリリィが結婚できるようにするために動いたのだそうだ。その話が終わると。僕は魔王が娘のために動いてくれたと言う事実を噛み締めていた。それと同時に 自分が今出来ることを考え。今僕が一番しなければならないことは 僕をこの城で看病してくれている メイドさんたちを助ける事だと思い立つ 僕は 魔王に感謝しながら、彼女達に 僕達が、これから魔王城を脱出するということを伝えたのだ そして僕はメイド達から回復薬を受け取った時に。メイド長であるアイシアから これから先の戦いに役立つかもしれないからという理由で「これは私が作らせてもらったものだけど」と言葉を付け加えると、小さな声で呟きながら。彼女は、一つのアイテムを取り出したのだった。

それは指輪である それを僕は、魔王から渡されて。それを受け取ると。

僕の指にはめてくれるように頼まれたので。その頼みを聞いた後で。そのアクセサリーを受け取り 僕は そのリングに、僕の持つ全ての力を込める その作業をしている最中に。僕の目の前には。一人の幼い少女の姿が現れる その幼女の姿を見て 僕はその正体が何なのかを理解したが その瞬間に僕の視界は闇に飲まれてしまうのである その闇の中をただ落ちていく感覚だけを感じていて。

僕はこのまま死んでいくのかと思うと 最後に。僕に何かが聞こえた それは、リリの声が その声は「あなたが私を救ってくれました」と。リリの声は聞こえると。僕の視界は真っ白になっていく そして僕は完全に意識を失ってしまい。その僕の体を魔王が支える。

その魔王は僕の耳元で「本当にお前がこの世界に必要だと思う時まで。このアイテムの力を使わぬよう約束してくれるか?」と その魔王は僕にだけ聞こえる程度の小さい声で語りかけるのである 僕は魔王の言葉を聞き「わかりました。このアイテムを使うときは 必ずあなたに断りを入れて使わせてもらいます」と言いながら魔王に抱きつくと 僕はリリスの体を借りたリリの体に戻ろうと。その行為を行う為に僕は行動を始めるのだった その僕の様子を見ながら魔王は

「ワシは、お前に負けを認めるよ。この世界でワシは色々なことを学んだ。そして。ワシはまだまだ強くなれるということを 教えてもらえたのは嬉しいことだ」と言いながら。僕の頭を掴む 僕はその行動を不思議に思うが。

次の魔王の一言で 僕と魔王との間に、今までのような。上下関係はもう存在しないのだと僕は悟るのであった

「これで終わりだな。この世界から。ワシがいなくなればこの世界の人間たちが再び立ち上がることができるじゃろう。後は、お前たちに全て任せるとする。ワシの願いはこの世界に平和が訪れて欲しいという一点だけだった。そして それが叶うなら これ以上の幸せは望まない。お前たちは、お前たちの好きな道を進むがいい」魔王は僕の事を真っ直ぐに見つめながら。この世界の行く末を託してきたのだ。

その言葉を受けた僕は。魔王がどうしてこんな行動を取ることが出来たかを知りたくなって魔王の事を見つめ返していた 僕はその魔王が、何故そんなにも、強い意思を持って行動することが出来ていたのかが知りたいと思っていたのである そして僕は魔王に「貴方は何を思い。どんな未来を描いていたのですか」と 僕は疑問に思ったことを聞いてみると

「お前は、この世界をどう思っている」

魔王は唐突に質問をしてきたのである 僕は魔王にそんな事聞かれたことが無いので初めてのことで困惑する

「そうですね この世界は。僕は素晴らしい場所だと思いました。この世界を造った魔王様は凄い方なんだと感じました。僕はこの世界に来るまでは正直に言えばあまり好きではなかったんです。しかし魔王様と出会って この世界を好きになることが出来て 僕はこの世界で生きている人たちを守りたいと思うようになって。そしてこの世界に来てから僕は多くの事を知ることができました。この世界がどういう風に作られているのか そして魔王がこの世界を愛していたことも。だからこそ。僕はこの世界の人達を守っていきたいと思います」

僕が魔王に向かってそんな話をすると。

その言葉を静かに聞いていた魔王は僕に対して

「そうか それで お主が守るべき世界は何処にある?」魔王は僕に対して そんな質問をしてくるのであった。

その質問を受けて僕は この世界をどうするか?と 真剣に考えた結果。僕の中にある答えは 魔王が、僕に語って聞かせてくれた世界。この世界で生きていく事 それだけであると 魔王は世界を救うためだけに戦っていた訳では無い それは魔王にとってこの世界は。この世界に住むすべての人々が魔王の子供であり 魔王が愛した世界だからである。

魔王はその世界を守ろうとしていたのだから。

そして僕がこの世界を守ると言うことになれば。魔王の意思を受け継ぐことになるのだと考えると その事が、嬉しくて仕方がないと思い。魔王が残した思いと意思を受け継いだ僕は。その思いを魔王の娘であるリリスに伝えようと僕は決心して 僕は、魔王に自分の考えを伝えてから「魔王様 貴女の意思は、僕が全て受け継いでみせます。どうか安心してください」と言うと 僕の言葉を聞いたリリの父親は、笑みを浮かべていたのである 僕がこの世界にきてからの事を全て話してからしばらくして 魔王城の入口のほうから物音がするので、そちらの方を見るとそこには 僕達の仲間達が立っていたのだった。僕は仲間達が来たことに驚いてしまうが。

そんな驚きの中、僕の傍にやってきた勇者である。ユウトが、僕に対して「お疲れ様です」と言ってきたので。僕は「僕は何もしていない。みんなで勝ち取った勝利だよ」と 僕は素直にユウトの労いに答えるのであった。

その僕の言葉を聞いてからユウトは、僕の肩に手を置いてから「それでも。この勝利を導き出したのは紛れもなく貴方の力です。それは皆が認めています」と言ったのである。そして続けて ユウトは、自分の胸に手を当てると「俺が言いたかったのはこれだけなんです。俺が魔王を倒して、俺達は新しい道を歩む事ができた。そのきっかけを作ってくれたのは紛れもない。リリィちゃん。君だった。だから君は、もっと自信を持ちなさい」と言い切ると ユウトはそのまま立ち去っていくのだった。僕は、その後ろ姿を目で追っていて 魔王との戦いで僕を導いてくれていた、魔王の娘リリの姿を僕は探したが。

しかし。その姿を見つける事はできなかったのである。しかし その事に関して、深く考えることはしない事に決めたのだった。

それからリリスと魔王の娘であるリリィと、リリスの母親である女性と リリスの母親がリリィの母親と話し合いを行い。魔王城を出ていくことにしたのだ 僕はその三人のやり取りを見守りながらも。僕は、この場に残った最後の一人に視線を移すと。その相手も僕と視線を合わせるとお互いに小さく微笑むそんな僕達を見て リリの母と、リリスの母と、そしてリリの三人が僕達の所に近寄ってくると。

僕はその三人に対して。これから先の未来に向けて頑張って下さいとだけ言うことにする なぜならば、僕にできる最大の応援が。その言葉しかないからである ただ これから先の世界が平穏な日常を取り戻す為に。僕はリリに力を貸すことを決意したが。それと同時に 僕が助けたいと思える人達は 魔王城に居た人達だけであることも事実だ その事実を踏まえてから。僕はこれから先。僕は何を目指すべきなのかを考え始める そして僕が目指すべき場所を考えた時に真っ先に浮かんだのは リュオとリリがいる国だった。僕はその国を復興させる手助けをする為にも。僕は僕に出来る事を探す為に この世界を歩き回ることを決めたのである

「それでは魔王。またいつか、会える日があると良いですね」

僕は別れ際に。そんなことを言って 魔王城を後にするのであった。

僕達が旅に出て数日経った頃である 僕達を尾行していた、ある人物が。魔王城を襲ってきたのだ その人物とは 魔王城に攻め込んできた男の名前は、リリの兄のラガブと言い。

魔王軍の幹部の生き残りの一人らしい。彼はこの世界の王になるために。魔王を倒すべく。魔王を暗殺するために魔王の命を狙い 魔王に戦いを挑んで、返り討ちにあい。そのままこの世界で息を引き取ろうとしていた そんな瀕死の状態だった彼の体をリリは見つけ。その体に手をかざすと その体はみるみると再生していったのである 僕はそんな光景を見つめながら。リリの力には、回復だけではなく。他の能力もあるんじゃないかと思って。リリにそのことについて聞いてみると リリ曰く。傷を回復させることと、失った命を作り出すことができるとそして 僕には、二つの能力を扱える力が備わっていると、そう説明してくれる そうして、リリが、僕が魔王を倒した時と同じ様な事をしたのに。魔王は死なずに その場で倒れているだけだったのだが リリアの姿を見たラガスンは、驚愕しながら起き上がるなり「なぜ。私の邪魔をした」そう怒鳴りつけて来る

「別にいいじゃない。私の妹なんだもの あなたこそなんで そんなにも焦っているのかしら」そんな事を言うとラガブンは怒り狂いながら

「黙れ お前たちのような偽物の家族になど誰が従うというのだ」

ラガブが大声を上げながら。妹であるはずのリリに対して攻撃を始める 僕はそんなラガブンの様子を見てから。このままでは戦いになってしまうと考えたので。僕は、二人の間に割って入ろうとするが それをリリイは僕の行動を制すると リリが魔法を唱えると同時に 僕と、魔王は。転移によってその場から移動させられる その場所に移動してから リリの母親は「ここはどこだ。一体何が起こった」と呟く その問いに、リリは、答えようとしたが 僕はそんな母親に「今は、何も話さないほうがいいです。それより まずはこの状況をどうにかしなければいけません。そうしないと。魔王が殺されてしまいます」そう伝えると。

魔王は「そうか ならば急がなければならぬな」そう言った瞬間に 僕と、魔王は、リリの元に急いで駆け寄る そして魔王は「リリよ。今なら 私と、そやつとを同時に殺すことが出来るのではないか」そんな事を聞くと。

「それは、出来ない」リリがそんなことを言ってくるので

「それは 何故じゃ」魔王はそんな事をリリに聞くと。リリが僕に顔を向けてくるので。

僕に意見を求めてきたみたいである その事に気づいた僕は「僕としては 貴方と殺し合いになるなんて嫌です。だからと言って。貴方は、この世界の人たちを守るために 戦おうとしているのですよ」

僕はリリの父親でもある魔王と戦うのだけは。どうしても避ける必要があると思ったのである 僕の意見を聞いた魔王が、「だが。ワシがいなくなれば あの女と、お前が戦ったとして。勝てるかどうか分からぬであろう。そうなれば、結局は同じ結末しか待っておらぬ」魔王がそんな風に言っている間にも 僕達はどんどんと追い詰められていく そうして魔王は「仕方がない 少しの間だけ。お主たちの力を借りるとしよう」そう言うと僕の体を使って リリスと、その父親であり。僕の敵である魔王に向かって攻撃をし始める

「さて。久しぶりに暴れるか」そう言い終わると 僕の体が勝手に動き出して、攻撃を仕掛けていく その姿を見て僕は驚きながらも、僕が戦うよりも遥かに効率が良ければ、問題ないかと納得する事にする しかし魔王の攻撃は魔王の娘であり僕の実の姪である。リュオに当たると僕は思ったのだが。その攻撃は全て。僕の意思とは関係なく。リリスの母親の方に向けられるのである 魔王は僕が戦わない理由を知っているようだが。僕はどうしてリリスが狙われたのかはわからない だが。僕はそのことに対して。リリスに「大丈夫?」と一言尋ねるが リリスは「はい。なんとか。しかし貴方のお父さんと、貴方が戦わなくて本当によかった」

そのことに関しては僕も思うところがあるので「ごめんね。本当は戦わずに終わらせられたらよかったんだけど。でも 僕が戦えば」僕がそう言うと。リリスは、僕に対して笑顔を見せてから「貴方が謝ることではないです。それに これは 私の父である魔王が招いた結果ですから」と答えると。魔王の娘であり、僕の娘であるリリィも。僕の傍にきて「リリィ。パパの事を守れてよかった」と嬉しそうに答えるのだった そしてそんなやり取りをしていた僕らだったが。目の前では、激しい攻防が行われていた その様子を見ながら僕は、どうするべきかを考えると一つの結論に至る

「リリィ。僕が君のパパを守っているから、君はお母さんの所に行って 君のお姉さんと、話をつけてくれないかな。それで今回の一件が解決できると思うんだ」

僕がそういうとリリが僕を心配するような表情になりながらも。僕はリリの目を見て。お願いと言うと。

リリが魔王の元に向かい。僕はリリの母親と対峙していたのであった 僕はリリが僕に近づいてきているのを確認すると僕は「すみません 僕はもうすぐこの世界を離れることになりました。ただ その前に 貴方に伝えなければいけない事があります」僕にそう言われたリリの母親が僕に対して「伝えたい事とは何ですか」

その質問を聞いてから僕は自分の思いを告げると。僕は、この世界から離れるために自分の意思とは関係ない形で戦いを終わらせる事を決意するのである その決意と共に。僕の意識は自分の体に戻ろうとするのだが 自分の体が自由に動かせないことに気づく そして自分の体を乗っ取っているのは、間違いなく魔王だと理解すると。僕は魔王に向けて語り掛けることにする 魔王に、自分が乗っとられている状態であることを説明した上で魔王がなぜこの場にいるのかについて問いかけると。

魔王が言うには。僕は一度死んだことになっていると 確かに僕は一回死んでいるが。僕は生きているということを魔王に言うと。魔王はそんな事は分かっていたと答えた 僕はそんな魔王の言葉に疑問を抱く そんな僕の思考を読み取った魔王が僕にその理由を告げてくれる その魔王の口から語ってくれた内容はとても恐ろしいもので。魔王曰く リュオは勇者と同じような力を秘めているらしく。その力は世界を滅ぼすほど強力な力を宿しているそうだ。魔王は魔王城に乗り込んで来た僕と、魔王の娘の会話を盗み聞きしていて。リュオの事を危険だと判断したらしい そして魔王は。その危険な存在を生かしておいては。いつこの世界の王である魔王を殺されるか分からないので。魔王が死なないように、その力を抑える必要があったらしい。そしてリュオを生かす為の方法を探している間に。僕はリュオとリュアリの力によって、この世界に呼び戻されることになった。そうしなければリュオは、いつか暴走してしまう。そんな理由からだった その話を聞いた僕は リュオの力を抑えるためだけに呼ばれたのかと思って、僕が不機嫌になっていると。魔王から僕に謝罪してきたのである 僕はそんな魔王の行動が気になったので。どういう事なのかを魔王に確認した その返答は。僕には悪い事をしたと思っており。僕を元の世界に戻すように、娘に頼んで。僕がこの世界で生活が出来るような環境を整えてから戻すつもりでいたが。僕の体を乗っとり。そしてリュアと、リュリが話をつけに行ったリリスの両親に。戦いを挑み。そして、返り討ちにあったらしい それを知った僕は、ため息が出てしまうが。魔王の気持ちもよく分かった。

だが魔王の行いのせいで。魔王の娘であるリリとその両親は。僕達によって殺されそうになったのだ 僕にはそんな理不尽なことをした、魔王を許すつもりはない。そんな魔王に対して僕は リリアの体を借りていて魔王と戦うのはまずいと思っていたのに リリに頼まれたら断れなかった。そのことに後悔しながらも。今は魔王との決着をつけることを最優先に考えることにしたのである そうしてリリとリリスの両親の方に目をやると。リリが僕の所にやって来て「リュオちゃん。少しの間。私に、あなたを任せて欲しいの」そう言ってきたので 僕はリリの事を信じることが出来なくなっていたので。その提案に反対をする そんな僕の態度を見た魔王は、僕の事を睨んできたが。僕は気にせずに 僕達が戦っていた場所から離れて、僕がこの世界を離れようとしていた時に居た場所に移動する そんな僕に対してリリィは「私と一緒に来ないんですか?」と悲しそうな表情をしながら聞いてきたのである そんな表情を見ていられなくなり

「一緒に行くことは出来ない。リリは、リリィが望んだ通りに、魔王と戦うんだ」僕がその言葉を口にしてから僕はリリ達から離れることにしたのである リリ達は僕の事を見ていたのだが 僕の姿は魔王によって消されていた。だから 僕はそのまま魔王によって強制的に魔王城に転送される そうして僕は。リリがリリスと魔王の娘リリイと戦いを始めた瞬間 魔王とリリの戦いが始まろうとしていたのである。僕はそんな二人の邪魔にならないように、その戦いを見つめる事にしたのである 魔王の娘のリリィが魔王に攻撃をしようと魔法を唱え始めたのだが その行動は読まれており。魔王の拳が、リリィに向かって放たれたのである その攻撃をどうにか回避できたリリィだったが 僕はその隙を逃すわけもなく。僕の剣を使って。魔王を攻撃する そんな僕の行動が魔王にとっては予想外の出来事だったようで 魔王は、その攻撃を受けてしまい。僕の剣で切り裂かれるのだった しかし僕が放ったその攻撃は リリと魔王の戦いに巻き込まれてしまったせいなのか 魔王に当たる前に消滅してしまっていたのである 僕は、自分の持っている最強の攻撃ですら魔王にダメージを与えられなかった事に対して かなり動揺をしていた そんな状況の中でも魔王とリリィと魔王の娘との戦いは続いていたのである そんな魔王と、リリィとリリィの母親の戦いだが やはり魔王の方が力では圧倒的に勝っているようで。リリィの体力は限界に近づいていたのである そんな時。魔王とリリィの戦いを見ている僕のところに。僕と魔王の娘である。

リリが僕に向かって攻撃を仕掛けてきたのである その攻撃を避けることは、僕にとって容易だったが。魔王の娘であるリリを傷付ける訳にもいかないので 僕は、仕方なく防御する事にするのだが その僕の目の前では 僕の予想通りの展開になっていた そう。

僕の防御も、意味がないくらい あっさりと攻撃を当てられた僕は、その場に倒れこんでしまうことになるのであった。

そうすると僕の体に。魔王の力が流れ込んできたが。僕としては別に問題はなかったのであるが。このままではまずいと思えていたのも事実であった なぜなら魔王の力を取り込むということは 魔王と同じ力を使えるようになるということで リリに魔王と同等の強さを与えるのと同じであるからである そしてリリスと、魔王の娘のリリィの攻撃により僕にとどめを刺そうとしたリリであったが 僕は自分の体の中に取り込んでいる魔王の力を使って リリ達の動きを止めることを試みる しかし僕の意思とは裏腹に 僕の意思とは関係なく 魔王が勝手に動き出し 僕はリリに止めをさそうとするのである そして僕が止める間もなく 魔王はリリィに対して 僕の意思とは無関係に攻撃を仕掛けようとする その事に対して僕は焦るのだが リリスは、そんな僕とは関係なく。

リリを助けようと考えていた だがその前に魔王の力が僕からリリスに流れ込んでいたのである 僕はその事に危機感を覚えて、魔王を止めようとしたのだが。すでに魔王は動き出して 魔王の娘である。魔王の娘であり。魔王の娘であるリリィに向けて。魔王の娘と母親を抹殺しようとした そんな時。僕はリリィに何か違和感を覚える そして魔王はリリに向けてその強大な力で攻撃をするのだが その攻撃は リリに簡単に弾かれてしまうのだった 僕は何が起きたのか分からずに驚いていると 魔王の娘リリに異変が起きる 魔王が、自分の娘に攻撃を仕掛けたので。

魔王の娘リリアの体を借りている僕は慌てて魔王の娘に謝ると。

魔王の娘は 僕に対して怒りをぶつけてきて 魔王の娘であるリリアが、その魔力を解き放つと リリアは 僕の体を無理やり動かし 僕が使う事すら出来ないほどの膨大な力を 自分の体の中で暴走

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

無職の英雄がゲームを作ったら -SSS級ダンジョン『魔王城』攻略のパーティに入り込んでしまった底辺ヒーラーの話- あずま悠紀 @berute00

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ