第36話 食物繊維を摂取しよう!
前回のあらすじ:まー、仕方ないじゃん。
下水道の歴史は紀元前数千年にまで遡る。メソポタミアだかインダスだかどっかの文明の都市がレンガで造ったのが始まりらしい。そして現代、日本では下水道は血管の如く全国各地に張り巡らされ、その普及率はなんと80%にのぼる。……あんま高くねえな。まあ、そのなんだ、要するに下水道は私たちの生活と切っても切れない関係だってことだな。
「だからといって、入りたくはないよなあ」
星蘭中学校裏の道の、星模様のマンホールを降りた先の奥の奥、とめどなく汚水が運ばれていく下水道を我々は進んでいた。充分な広さの作業用通路があるので汚水が体にかかることはないけれど、それでも柵も手すりも無いんだ。バトルがあった際にはうっかり落っこちてしまうかもしれない。……フリじゃないよ!
ステージ名『アルリシャの水道』。なにやら大層な名前が付いてるけど、普通に星奈市水道局管轄って看板あったから、星奈市の下水道ってことなんだろう。
「ジトジトしてて気分悪いですね。薄暗くて雰囲気も良くないし、早く帰りたいです」
「そうかい?現実じゃあこんなとこ滅多に来れないし、僕はなかなか好きなステージだよ」
横にいるカルナとリヴァイアちゃんも、それぞれ違う感想があるようだ。
「へぇ、リヴァイアちゃんこういうステージが好きなんだ」
「現代日本が舞台のゲームってあまり無いからね。いやはや、内壁やら流れる水やらなかなか作り込まれてるよ。実物知らないけど」
なるほど、そういう意見もあるのか。たしかに珍しさで言ったら今までで初めて味わうようなステージだ。まあでも、珍しさの理由はプレイヤーから嫌われてるからって可能性もあるが……。
「たしかに作り込みは凄いけどもよぉ」
背後からしかめ面で現れたのはフェルミンだ。
「別に臭いまでリアルに作りこむ必要はねーんじゃねえか?臭くて敵わなねぇぜ!」
「臭い?特段変な臭いはしていませんけど」
「いや、めちゃくちゃウンコくせぇぞ」
カルナの言う通り別に臭く感じるようなことはない。たしかにうっすらと硫黄のような香りが漂っているが、あくまでも雰囲気作り程度であって決してかおをしかめるような臭いではない。
「フェルミン、ちょっと大袈裟に言いすぎだぞ」
「あ?お前ら鼻バグってんじゃねーか?下水道まんまの臭いしてるだろうが!」
「そう言われてもなあ」
不具合でもあったのかと考えていると、リヴァイアちゃんが何か思いついたように両手を叩いた。
「フェルミンそれ、
「……」
あ、固まった。
「10秒待っててくれ」
そう言い残してフェルミンは一瞬で消え、宣言通り10秒で戻ってきた。
「トイレ詰まって大逆流してた。あまりにも下水道まんまの臭いだったから気付かなかったぜハハハ」
「大惨事じゃねーか」
呑気に戻ってきてる場合じゃねーだろなに謎が解けてスッキリした顔してんだよ。
「自分で修理できるレベルじゃなかったし現実逃避だ現実逃避」
どうやら開き直った様子だ。
「より臨場感が味わえて良いんじゃないですか?というか下水道の臭いを知ってるんですね」
「ああ、昔ちょくちょく使わさせてもらっててな。逃走経路とかに」
「なにそれすげー気になる。聞いていいやつ?」
返事は無いぱ^ぶん聞いたらダメなやつだな。
フェルミンもリヴァイアちゃんも脛に傷をもってそうだし(偏見)、下手に聞いて関係性が壊れるのも嫌だからやめておこう。
それに、昔語りを聞いてる場合でも無いようだ。
「モンスターですね、気持ち悪い」
まるで重力が反転したかのように天井に足を付けぶら下がったモンスター。コウモリのような見た目をしたそのモンスターは、棍棒を振り上げこちらに威嚇している。その頭上、いや
ご丁寧に敵は4体、ちょうど人数分だ。
「よし!1人1殺といこうか」
「いいや、4人対4体だよ」
勢いよく鼓舞の声を上げたところにリヴァイアちゃんが横槍を入れる。
「……別に意味同じ意味じゃないかそれ?」
「せっかくパーティー組んでるのに1対1×4だとつまらないじゃないか。チームプレーで魅せていこうよ」
「そういう発言は、魅せプできるほどの表現力がないと言えないんだ……よっ!」
アホの意見は無視して仕込み杖片手に敵にに斬りかかる。危機を察知したコウモリ達は急いで逃げるが、遅い。返す刀で速やかに一体撃破。
「楽勝だな」
チラッと周囲を確認すると、カルナとリヴァイアちゃんも逃げたバッドバットバット達と戦っているのが見えた。さすがの2人だ、余裕の表情で相手している。
フェルミンは……なんかずっと鼻つまんでるなアイツ、役に立たねえ。お前の場合は
仕方ないから残る1体は私が相手取ることに。
まあこのモンスターは弱いしさっさと倒そう。さっきと同じように斬りかかって……
「パギャギャギャアアアアアア!!!」
「ッッ!!!」
超音波だと!?くっ、油断した!
大きく開いたバッドバットバットの口から発せられる高音の声の波動。その波動が
こ、こんな奥の手があったとは……!てか、後生大事に抱えてる棍棒ではまったく攻撃しないんだな。
不意を突かれた攻撃に少したじろいでしまったけど、ダメージ自体はそんなにひどいものではない。三半規管を狙われたのか、ほんの少し足元がふらつくぐらいだ。
それに引き換えバッドバットバットの方は、涎を垂らし大きく肩で息をしている。どうやら今の超音波攻撃はそうとう体力を使うものだったらしい。
「隙あり!」
敵の下まで跳躍。
馬鹿の一つ覚え,さっきと同じ斬りかか(re.
「グギャア!」
はい終了っと。
気持ちよく一刀両断。斬られたコウモリは断末魔の声を上げながら消えていき、眼前が開ける。
すると、後ろからカルナの声が。
「ナナオさん、下!」
「下?」
言われた通りに下を見てみる。見ると、下水が流れている。
ああ、跳んだのは良いものの着地のことを考えてなかったなあ。このままじゃ下水に落ちるじゃん。
後悔してもあとの祭り、身体は重力に従って落ちていく。辺りがスローモーションに見えて━━━━
「……あ、そういえば飛行魔法があるじゃウェジャババブン!」
落下の勢いそのままに流れる下水に足からダイブ。思ったより深く、全身が下水に浸かる。
うへえ……、ちょっと下水飲んじゃったよ、気持ち悪い。別に味がするわけじゃないけれど、さすがに糞尿水という設定の液体を口に入れるのは、ゲームとは言え精神ダメージがでかいな……。
うわ、髪もベトベトだ。
「ナナオくんやっちゃったね」
「上がってこないでください。そのまま下水の中にいてください」
「おいおい、糞尿塗れじゃねーか。近づくなよ」
通路に這い上がった私に待っていたのは仲間たちからの罵詈雑言。なんで一番頑張ってたのにみんなそんな酷いこと言うの?あと、フェルミンは人のこと言える立場じゃないだろ。
ええい!こういう時は何事もプラスになるよう考えるんだ。強引でもプラス思考だ。
「……ここは学校のそばの下水道だし、もしかしたら学校の配管からしか下水が流れてないかもしれない。女子中学生の糞尿だとしたら、浴びるのも飲むのも悪くないか……」
「おいおい、お前スカの趣味あったのかよ」
「……いや、無理矢理プラス思考してみたけど、思い直すとさすがににスカは私も無理だったわ。尿なら全然飲みたいんだけど、糞はちょっとキツイ」
「そうだよな。俺も糞はキツイな」
良かった、私もフェルミンも最後の最後でまとも寄りの人間だったみたいだ。
2人でスカ談義をしているところにリヴァイアちゃんも加わってくる。
「2人とも何を言ってるんだ?」
「リヴァイアちゃんどうした?まさかスカ好きだなんて言わないよね?」
「いいかい?女の子はうんこもおしっこもしないんだよ?」
「するよ、うんこもおしっこも。リヴァイアちゃんともあろうお方がそんなテンプレ発言しないでくれよ」
うんこをしてほしくないって発言は、どや面白いこと言ったやろ?って思考が透けててなんか嫌なんだよな。絶対に本心では思ってないだろうし。
そもそもその願望は偶像視している対象にするものであって、ロリはアイドルでもなんでもないからなあ。癖は自由であるべきだとは思うけど、事実を捻じ曲げてはいけない(戒め)。
「リヴァイアちゃんにはもっと深い考えを持ってて欲しいな」
「くっ。そ、それでも女の子はうんこをしないんだ!」
「するよ。なんならちょっと柔らかいうんこをするよ」
「わかった、僕の負けだ!女の子はうんこをする。でもね、その女の子がするうんこの色は、七色だ!」
「……それは譲歩になっているの?」
まあいいや。
先を進みたいけど、この汚れた状態はなんとかしたいよな。……あ、そうだ!カルナなら洗い流せる水魔法とか持ってたりするんじゃないだろうか。
「カルナ、この汚れを落とす魔法とかない?」
「ありますけど、それより一回キルしてリスポーンした方が早いと思います」
「え?ああ、それもそうか。じゃあキルしてくれ」
「わかりました」
そう言ってカルナは杖を構える。
「おしおき砲!」
「ウェジャババブン!」
…………なんで?
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