第35話 ジャンキー雀鬼

前回のあらすじ:まーいいじゃん


「ほう、お前さんが相手をしてくれるのか。ナナオとやら」


 1人が立ち上がり私たちの方へ向かってきた。PN:霧ヶ島。銀髪で、少年のようなギザギザ頭をしている。


「言ってない言ってない!おいフェルミン、なに私に押し付けてるんだよ!」


「すまん。俺、麻雀できねえんだ……」


「じゃあそもそも引き受けんな!」


 なにが燃える真剣勝負だよ、闘う気がいっさい無いじゃないか。どういう気持ちで勝負を受けて立ったんだ?

 しかしフェルミンは反省の姿勢を見せることなく反論する。


「つい売り言葉に買い言葉でよ」


 ……言うほど売ってたか?

 普通に麻雀誘ってただけだと思うぞ。


「俺は別に挑発したつもりは無いぞ」


 ほら、霧ヶ島も困惑してるじゃん。100パーセントフェルミンが悪いよ。

 うーん、やっぱり私の周りって敵になりうる人ばっかだよなあ。


「というわけだ、霧ヶ島さん。フェルミンが早まっただけで私は麻雀するつもりないから、別の人を探してくれ」


 そう言いながらそそくさと部室を出ようとする私の目の前に、華奢な脚が行く手を阻むようにバンと突き出された。


「あのー霧ヶ島さん?この脚は何かな?」


「挑発したつもりは無いと言ったが、拒否権を与えたつもりもない」


 脚の持ち主である霧ヶ島はニヤニヤと腕を組みながら言った。その手にはこちらを脅すように短剣が握られている。

 気付けば霧ヶ島以外の2人も私の背後に立っていた。名前はそれぞれ峰と豊臣、二人ともすでに武装状態だ。くそ、囲まれたか……。

 三人の装備はなんの装飾も施されていない簡素な初期装備だ。これぐらいの敵ならフェルミンと共闘すれば無理やり突破することは難しくなさそうだけど・・・・・、それをすると後々因縁をつけられそうで怖いんだよなあ。


「一回ぐらいやってもいいんじゃないか?」


 まあ、フェルミンがそういうなら……


「わかったよ。一回だけだぞ」


 観念して私が了承すると、霧ヶ島は狙い通りといった表情で元の窓側の席に戻り、


「ルールは分かるか?経験は?」


 私も逃げた男が座っていた席に着きながら返事する。


「ネットでしかやったことないけど、一応は」


 ネットでも数回したていど。ルールもうろ覚えだ。だから勝ち負け気にせず適当にやろうと思うけど、気になるのは賭麻雀ってところだ。


「賭けって言ってたけど、何を賭けるんだ?」


 何か情報をよこせだとか武器やアイテムを置いてけだとか言われると嫌だな。最悪の場合、踏み倒そうか……。


「何って、金だよ金。日本円。リアルマネー」


「なんだ金か。それなもんいくらでも賭けてやるよ」


「いうじゃねえか」


 フッフッフ、随分驚いた顔してるじゃねえか霧ヶ島さんよ。私が賭マに乗り気なのがそんなに意外だったか?なに、もし負けたとしたら全額フェルミンに払わさせるから問題はない。私は痛くも痒くもないんだよ。


「おいナナオ。お前そんな大物ぶったこと言って大丈夫なのかよ」


 それはこっちのセリフなんだが?勝負を受けると言ったのはお前だぞ?


「レートは千点千円だ。東風戦の一局勝負。文句は無いな?」


「ああいいよ」


 正直何言ってるか分からないがどうせ払うのはフェルミンだ。


「それじゃあ早速始めよう」


 霧ヶ島の言葉を皮切りに、四人が机の上で並べられている牌を崩しジャラジャラとかき混ぜ始める。

 そういえば、この麻雀牌はどこにあったんだろうか?そもそもピュアミーに麻雀という概念があったことに驚きだ。

 それとなく霧ヶ島に聞いてみると、意外な返答をされた。


「自作だよ。俺が作った」


「お前が?」


「マジックペイントっていう自由に絵を描けるペイント魔法があってな。それを使って牌を描いた。全部で136個」


「全部描いたのかよ!?すげえ!」


 何気なく手に取ったイーピンをまじまじと観察してみると、その絵は本物と寸分違わないように思えた。少なくとも私には見分けがつかないほどに精巧だ。このレベルのを136個は素直にすごい。


「これだけ頑張ったんだ、存分に楽しんでくれよ」


 才能ある人は意外なところに居るもんなんだな


「一つ聞いていいか?お前はロリとか魔法少女とか興味無さそうに見えるけど、なんでこのピュアミーをしてるんだ?」


「俺は麻雀ができるのならどんなゲームもやる。まあ、布教も兼ねて行脚している」


「酔狂だな」


 思いもしない目的のプレイヤーがいるなあ。まあでも、横にいる豊臣は絶対ロリコンだと思う。だって顔のにやつきが嗜虐心に溢れているもん。

 さて、牌を並べて山を作ったところで麻雀の簡単なルールを説明しておこうか。


 ☆麻雀のルール☆

 麻雀は、簡単に言えば牌の図柄を揃えて誰よりも速く完成を目指すゲームだ。

 山場から順番に牌を取り、手元に13枚揃えたところからゲームスタート。同じように一人ずつ山場から牌を取り、いらない牌を場に捨て図柄を揃えていく。

 牌は大まかに数牌と字牌の2つに分かれている。数牌は、漢数字が描かれた萬子マンズ、竹の索子ソーズ、丸で描かれた筒子ピンズの3種類がそれぞれ1~9まである。字牌は、トンナン西シャーペイハツチュン、そして何も描かれていない真っ白のハク。これら34種類の牌がそれぞれ4枚ずつ存在しており、合計で136枚の牌が使われる。

 他にも鳴きとか細かいルールがあるんだけど、ややこしいからそこら辺は各々調べてくれ。


 諸々が整ったところで霧ヶ島がサイコロを握りしめた手を掲げて叫んだ。


「親は俺からだ!互いに悔いのない勝負を!」


 瞬間、霧ヶ島の獲物を狙う獣のような眼光が私を捉えた。


「ッ!!」


 何だこの鋭い槍で刺されたような圧は!?コイツただものじゃないぞ!

 ダメだ、喰われる!


「おいおい、霧ヶ島の実力に今更気付いたのかよ」


 気圧されている私に話し出したのは右隣に座る峰だ。


「コイツはなあ、14歳ながらに各地の雀荘を練り歩き、行く先々で賭けで大金を稼ぎ出禁をくらい続けてきた男だ」


 14歳だと!?私より年下じゃないか!


「歳は若いが打つ麻雀のスケールはデカい。そのあまりのスケールのデカさから付いた通り名は大麻雀!」


 大麻雀だと!?ただの大麻やってる雀じゃないか!

 くそ、こんな奴と戦わなければならないのか……!


「ナナオ、落ち着け」


「フェ、フェルミン……」


 そ、そうだ……。これはただの麻雀だ、命が掛かってるわけじゃない。麻雀なんて所詮は運ゲーだ!たとえ負けたとしても心優しいフェルミンが肩代わりしてくれるってんだ、気楽にやらないと。

 親の霧ヶ島から順番に手牌を積み上げていく。この最初に配られる手牌でなるべくアドバンテージを稼ぎたい。


「ドラは發だ」


 全員積み上がったのを確認した霧ヶ島が戦いのゴングを鳴らす。もう逃げられない。

 ここが分水嶺だ、まずは自分の手牌を確認!



【五萬九萬九萬二索六索七索二筒西白白白白白】





 …………………………白多くね?


「なあ、なんか私の手牌白が五個もあるんだけど……」


 同じ牌は四個しかないはずだ。


「フッ、お前忘れたのか?この麻雀牌は俺が描いたって言っただろ?」


「言ってたけど……、それがどうした?」


「全部描くのはしんどくて途中で諦めた。だから牌の半分以上は何も描いてない白だ」


「ざけんなよ」


「さすがに136個は多すぎた……」


「そりゃそうだろ」


「筒子で心折れた……」


「何がしたいんだよ……」


 え?この人たちこんな未完成のゲームであんなにイキってたの?こんなんじゃ賭けなんて成立しねーだろ。

 ちょっとやりきった感を出してるのがムカつくなあ。


「その様子じゃお前はまだこの麻雀の奥深さに気づいてないようだな」


「なにが奥深さだよ。ドンジャラの方が100倍奥深いわ」


「フン。油断していると足元を掬われるぞ」


 言いながら霧ヶ島は一手目、白を捨てる。


「リーチ!」


「ロン」


 あ、豊臣がロンした。


「ぐあっ!」


「ホンイツ東白白、跳満だ。ほら点棒寄越せ」


 すげーな白白なんて役初めて聞いたぞ。


「くっ……、やはり白は危険だったか!」


「当たり前だろ何個あると思ってんだ」


 うーん、さすがにこれ以上は付き合いきれないなあ。よし、帰ろう!


「どこ行くんだ?まだ勝負は終わってないぞ」


 私が帰ろうと席を離れると、霧ヶ島はユラリと立ち上がり呼び止めてきた。いまだに突き刺すような眼光は健在だが、今となってはもう怖さはゼロだ。


「このまま帰るなら無条件で負けだぞ」


「えー」


「えーじゃない!ほら、次はお前が親だ」


 続けるのは面倒くさいが負けになるのも癪だしなあ。仕方ない、席に戻ろう。

 また全員で牌を混ぜ、山を積み上げていく。こうしてみると本当に白ばっかだな。なんで一回目のときは気付かなかったんだ?

 正直やる気は失せてしまったが、早く終わらせるためにも頑張ろうか。さあ、今回の私の手牌はどうだ?


【白白白白白白白白白白白白白白】


天和テンホーー---!!!!!!」


「「「ぐああああああああああああ!!!」」」


 いや、そんだけ白あるんだったらそりゃ天和にもなるだろ。


「な、なかなかやるな……だが、勝負はここからだ」


「てか霧ヶ島、今ので飛んだんじゃね。」


「あ、本当だ」


 豊臣の跳満で一万二千点、私の役満と合計して二万八千点の支払いだ。元の持ち点が二万五千点だから、-三千点で余裕のドボンだ。霧ヶ島が飛んだ時点でゲームは終了、よって今一番点数が高い私が勝利となる。言っておくが私は賭けたものを有耶無耶にするタイプじゃないぞ。


「ほら、負けた分の金出せよ」


「くっ、仕方ない。ここに口座を書いてくれ、あとで振り込んでおこう」


 霧ヶ島が手に持ったメモ用の紙を受け取ろうとしていたところに、フェルミンの腕が伸びてきて用紙を搔っ攫っていった。


「俺の口座だ。ここに振りこんといてくれ」


「あ、何してんだよフェルミン!」


「お前のことだから、負けたときは俺に払わせるつもりだったんだろ?なら勝った分も俺が貰っても文句ねえよな」


「ぐっ……………!!」


 フェルミンめ。なかなか私のことを理解してるじゃないか!嫌な信頼感ができてきたな。


「振り込まれたらちゃんとナナオにも分けるから心配すんな」


「まあ、それなら何にも言わないよ」


 さて、リヴァイアちゃんも待ってるだろうし、こんな違法賭博場からはとっとと退散しよう。


「待てお前ら」


 背中から声を掛けてきたのは峯だ。まだなにかあるのだろうか。


「これを持ってけ」


 峰が投げてきたヒモ状の物体を受け取る。これは……武器か?なんか蛇っぽい縄だけど。


無料ただで貰ってもいいのか?」


「見た感じお前らガチでこのゲームやってんだろ?俺らは別に興味無いから、やるよ」


「おお!ありがとう!」


 どう使えばいいかよくわからん武器だけど、貰えるに越したことは無い。弱かったら適当に売ればいいし。一応効果だけでも見ておくか。

 ええと、なになに?


 アイテムカテゴリ:星座武器

 アイテム名:『オフィウーホス=へびつかい座』


 なるほどなるほど…………………いやめっちゃ凄い武器じゃん!?

 え?なんでこんな強い武器を峰なんかが持ってるの!?


「峰、お前この武器どこで手に入れたんだ?」


 星座武器の希少性を微塵も理解してない峰は、きょとんとした顔で答える。


「どこって、そこのロッカーに刺さってたぞ」


 やっぱ重要施設じゃん天文部!

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