第34話 ✕✕CLUB
前回のあらすじ:穴があったら入りたい。狭ければなおのこと入りたい。
「やあ、フェルミン。久しぶりだね」
「よお、ナナオ。ストーリー進めてるんだって?」
相も変わらず、フェルミンはあくどい目つきで笑みを浮かべていた。
実際は一日ぶりほどの再会だけど、その間に色々なことがありすぎてフェルミンと別れたのが遥か昔の事のように思える。
「ああ。それでたぶんボスと戦うことになるから、フェルミンもって」
「なるほど」
「リヴァイアちゃんも呼んでいるからちょっと待っていて」
分かったとフェルミンは首を縦に振る。
ちなみにカルナは現地集合だ。どうやら目的も無く学校に近寄りたくないらしい。
「で、なんで集合場所が
そう言いながらフェルミンはくいっと足元を指差した。フェルミンの言う
なんでここを集合場所に選んだのかと聞かれると、学校で他の用事を済ませていたってだけなんだけどな。
「色々やっていたんだよ。飛行魔法習得したりとか」
「今まで取ってなかったのか」
「こんなに簡単に取れるんだったら早く取っておくべきだったよ」
飛行魔法はこの学校の体育館で憶えることができた。
空を飛ぶ魔法なんだからきっと劇的な習得イベントがあるもんだと期待していたけど、いざ行ってみると、ゴツい教官による堅苦しい注意事項の説明・実技講習・簡単な〇✕テストと、女子小学生向けとは思えないような代物だった。思わず教習所かよとツッコんでしまった。
15分も掛からず習得できたのはありがたかったけど、〇✕テストの「夜は危ないので気をつけて飛ばないといけない」という問題に〇と答えたら不正解になったのは未だに納得いっていない。
折角空を飛べるようになったんだ、早く試してみたいけど……次の敵は地下だからなあ。残念ながら使う機会無さそうだ。
「リヴァイアちゃんが来るまでの間、ちょっと飛んでみようかなあ」
窓から空を眺めてみると、飛行魔法を憶えたばかりであろう魔法少女たちが何人か飛び回っているのが見える。
視線を下の校庭に移すと、制服を身に纏った少女たちがその小さな胸を一心に揺らしながらサッカーに興じている。視覚情報だけに頼れば眼福この上ない光景なんだけど、その口から発せられるのは腐ったヤニまみれの声なもんだから惨憺としか言いようがない。
それにしても、この光景を見ていて一つ疑問が。
「割とプレイヤー居るんだな」
道中でも戦闘エリアでも他のプレイヤーと出会うことはほぼと言っていいほど無かったのに、この星蘭中学校では百人単位で見かける。自分で言うのもなんだけど、ロリもいないのによくも皆このゲームに残ってるんだな。ゲーム自体を楽しんでる様子もないし。
そんな私の疑問にフェルミンが答えてくれた。
「この学校は集会所も兼ねてるからな。それで皆ここに集まっているんだ。三階より上の教室エリアがそうだ」
「へー、ただ装備やアイテムを売ってるだけじゃなかったんだな」
「あいつらはただ駄弁っているだけだろうから警戒する必要はないぞ。おそらくストーリーを攻略する気概も無いだろうよ」
「なるほど。でも、なんで攻略する気もないのにこのゲームに残ってるんだ?ロリが紛れ込むのを期待してるのか?」
疑問をぶつけると、フェルミンは遠い目をしながら答えた。
「俺含め、このゲームのプレイヤーは世間の爪弾き者だからなあ。性癖をさらけ出して付き合える仲間なんて今まで居なかったんだ。そりゃゲームに興味なくても傷の舐め合い場として使い続けていくことになるよ」
「悲しいなあ」
私もフェルミンに誘われてなかったらあっち側に居たんだろうなあ。……いやまあ、あっち側もこっち側も大差ないんだけど。
「よかったら三階の集会エリア行ってみるか?」
「今の話聞いた後で行きたくはならないなあ」
というわけで、すぐ横の階段を上り三階に来た。この学校の壁はガラス張りで、差し込む日差しが眩しい。
聞いていた話とは違って廊下には静けさが漂っている。ざっと見渡してみたが、人の気配はなさそうだ。教室にいるんだろうか?
「ああ、そうか」と、なにか気づいた様子のフェルミン。
「どうした?」
「いや、どうやらクラブ棟に上ってきたらしい」
そういったのもあるのか。横の教室に目をやると、たしかに茶道部と書かれたプレートが貼られていた。
「ここはクラブ活動専用のエリアだ。だからあんまり人はいねえ」
「このゲーム部活動とかあんの?」
「ミニゲームみたいな扱いだけどな。ゲーム本編には絡んでこんよ」
そういえば、さっき校庭でフットサルをしているプレイヤー達を見かけたな。あのコートやボールも部活動として用意されたものなのか。
本来なら、女子小学生たちが一足早く部活動を体験できるという面白い試みのコンテンツだったんだろう。
思えば生まれてこの方部活動なんてやって来なかったな。
「フェルミンは学生時代に部活とかやってたの?」
「演劇」
「みえねえ」
てっきりスポーツでもやってるのかと思っていた。
「そういうお前は帰宅部だろう?」
「おお、なんで分かった?」
「異常性欲者なんざ大抵は、一年中マス掻いてる帰宅部か、それか精力あり余っているゴリゴリのフィジカルスポーツかって相場は決まってるんだ」
「どんな相場だよ」
さらに歩みを進めていると、ある教室が目に留まった。教室のプレートには黒地に白の文字で「天文部」と書かれていた。
天文という学問はピュアミーのストーリーと密接に関わっている。もしかしたらこの天文部で何か重要なイベントが起きたりしないだろうか?
「どうしたナナオ?気になることでもあったか?」
「うん。ここ入ってみない?」
「ああ、いいぜ」
ガララッと引き戸を開け中に入ると、四角い机と、それを囲むように座っている四つの影が見えた。プレイヤーだろうか。
四人は机の上でなにやらガチャガチャと作業をしているようすだ。思えば天文部という部活が普段どういった活動しているかなんて想像したこともなかったな。これはいったい何をしているのだろうか。
とりあえずこの天文部の人たちに声を掛けてみよう。
「あのー」
「ポン!」
「リーチ!」
「はいロン。三暗刻東發ドラ1、満貫っす」
「ぐはっ。やっぱ發待ちだったか……。もう持ち点ほぼねーよ」
……天文部?
プレイヤー達は机の上で東西南北やら漢数字やら丸やらが描かれた牌を手元に並べていた。私知ってるぞ、これ麻雀ってやつだ。
「なあフェルミン。ここって天文部じゃなかったっけ?私にはこいつらが麻雀しているようにしか見えないんだけど……」
「確かにこれじゃ天文部じゃなくて
「上手いこと言わなくていいんだよ」
部屋を間違えたか?そう思いもう一度プレートを確認してみたが、たしかにここは天文部の部室で間違いない。
どうやら天文部は
「リーチ!」
「カン」
「おいおい、リーチされてるのにカンしてんじゃねえよ!荒らしか?」
「大明槓かよ初心者はお呼びじゃねえぞ!帰れ!」
「もういっこカン」
「言ってるそばからかよ、下手糞なら大人しくしとけよ」
「もういっこ、カン!」
「ハア?もうこいつ何がしたいのか分かんねえよ」
しかもめっちゃ民度低っ!
「もういっこ、カン!」
「はあ?」
「もうこいつ何がしたいのか分かんねえよ」
「鴨が来たよ鴨が」
「……ツモ。清一色対々和三暗刻三槓子赤1嶺上開花 32000です」
「「「ぐああああああああああああ」」」
\ボンッ/
あ、逃げた。
負けた3人の内の1人が消えるようにログアウトしていった。おそらく持ち点がなくなったんだろう。
これ以上ここに居ても得られるものは無さそうだ。あまり関わりたくないし、こいつらに絡まれる前に早々と退散しよう。
そう思い扉に手を掛けた瞬間だった。
「おいそこの2人。1人分空きが出ちまった。よかったら一緒に打とうぜ。もちろん賭け勝負で」
げっ、気付かれた。無視だ無視、賭けなんてするわけないだろ。
「いいぜ。こてんぱにしてやるよ」
逃げようとする私を制して答えたのはフェルミンだった。
「え!?フェルミンやるの!?」
あまり関わりたくない人たちだし、それ以上に私達には遊んでいる時間は無い。そもそも待ち合わせ中だし。
しかしそんな私の心配をよそに、フェルミンの眼はやる気でギラついている。
「燃える真剣勝負なんて久しくしてなかったからな。賭けだろうが何だろうが受けて立ってやるよ」
そう言いながら私の肩に手をドンッと置いた。
「このナナオがな!」
「うおぃっ!なんで私が!?」
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