第30話 盲目少女とみんなのやさしさ

 前回のあらすじ:蘇ると甦る。死者に対して使う場合は蘇るの方がニュアンス的には良いらしいですね。


 ルーズベルトは速攻で土に還した。私は特に悪感情があるわけじゃないけど、あまりよく思わない人もいるだろうからね。

 さて、私の現状だけど、特に何もやることが無い。でも、特に何かしようとは思わない。

 何もやることが無い、という現状を受け入れてしまおう。みんなの手助けをしたいと心の底から思っているけど、結果みんなの邪魔になっていたのなら世話がない。それはただの自己満だ。

 それに、無能な働き者という言葉もあるじゃないか。せめて私は無能な怠け者でいよう。っし、自己弁護終わりっと。


 立ったままいるのもアレなんで腰を掛けられる場所を探していると、芝生の真ん中に少し寂れた木のベンチがぽつんと置かれているのを見つけた。これならいい感じに孤独に浸れそうだと思い、腰を下ろす。


 せっかくだから、先ほど取得した魔法について色々検証することに。


【よみがえり魔法:ネクロマンス】

 んだひとをこのによみがえらせることができる。


 ルーズベルトの例を考えると、歴史上の人物を呼び出すことが可能なのだろうか?

 それなら信長とか召喚しようぜ。雑に異世界転生させてやろうぜ。あれだけ色んな作品で辱められてるんだから、今更魔法少女になったところで文句は言わないだろう。


「とりあえずやってみるか。ネクロマンス!」 


 ベンチに座ったまま、両手を突き出して魔法を唱える。


 \ボコボコ/


「クケケケケケケ」


 地面から這い出てきたのは、私の腰ぐらいの背丈の小さなスケルトン。


「あれ!?思ってたのと違う!」


 信長はどうした信長は?せっかく魔改造してやろうとおもったのに…。

 召喚されたスケルトン君は、短い骨を武器のように見立てて掲げながら、キーキーとか細い鳴き声を出している。うーん、弱そうだな…。

 あと、スケルトン君の肋骨一本足りてないようにみえるけど、もしかしてその武器にしてる骨って自分のやつ?左右のバランスがたがただけど大丈夫なの?ご自愛しよう?


 何回か試してみたけど、結果は変わらず、かわいらしいスケルトンが出てくるだけだ。どうやらこのネクロマンスは、プレイヤーの簡単な命令を聞くスケルトンを召喚するだけの魔法らしい。それならさっきのルーズベルトはなんだったのか?

 試してみて分かったことがいくつかある。まずこのスケルトンだけど、召喚数に上限は一応無いらしい。ただ、同時に呼び出した数が増えるにつれて、召喚されるスケルトンの完成度が低くなってしまう。例を挙げると、二体目のスケルトンは左腕が欠けているし、三体目は右足が無い。十体目なんてほぼ残骸だ。無理やり使うとしても、せいぜい四体までだな。

 召喚した全十体をとりあえず横一列に並ばせてみたけど、こうやって眺めると愛着が湧いてくるなあ。身体からギシギシと音が鳴っている子やまともに立てないのに頑張って踏ん張っている子がすごく可愛く見えてくる。なんだろうこの気持ちは。庇護欲?それとも加虐心?

 これ限界まで召喚したらどうなるんだろうか?


「ネクロマンス!」


 地面から出て来たのは、小さな白いかたまりが一つ。ついに骨一つしか出なくなってしまった。腕がないのにどうやって這い出てきたのかとツッコみたくなったが、やめておこう。

 しかしこの白い塊はどこの骨なのだろうか?このスケルトンたちはどう見ても我々人間と骨格が違ってるし、もしかしたら人間には存在しない骨かもしれない。一体目の完全体スケルトンと見比べてみようかな。(あとで調べてみたら恥骨だった。)


 さてさて、ネクロマンスについて試しているうちに分かったことがもう一つ。まだ激闘を繰り広げている仲間のことを忘れて実験に没頭してしまうくらい、どうやら私は図太かったらしい。

 ………みんな、違うんだ!決してすっかり忘れていたわけじゃないんだ。ただちょっと気が抜けていただけで…。


 と、言い訳を一応してみたけど、よくもまあふわンガのことが頭から抜けていたなと自分でも思う。DDRの攻撃は派手だし、ふわンガは放電してくるしで辺りには轟音が鳴り響いていたはずだ。よくそれを気にせず骸骨メイキングに没頭できていたな───


 ───てかさっきから全然戦闘鳴ってなくない?もしかして、もう戦い終わっちゃってる!?

 そうだよ、戦闘音が聞こえて来ないってことはもう戦ってないってことだろうが。なんでそれすら気付かなかったんだ私は。

 思わずベンチから立ち上がってしまった。改めて辺りを見回しても誰かが戦っている様子はない。あー、私はどうしたらいいんだ?とりあえずみんなに合流した方が良いよな…。

 そうやって私が頭を抱えていると、


「なーに一人で楽しそうなことしてるんですか」


 後ろから聞き覚えのある女の人の声が聞こえてきた。カルナだ。

 振り返ると、カルナが残りの三人を引き連れて近くまで来ていた。

 カルナは私の少し後ろの方を白い目で見つめている。私の後ろになにかあるのか………やっべ、スケルトン君達を戻すの忘れてた。


「ち、違うんだ!これはただのスケルトンくんであって、決してやましいものでは…」


 急いでスケルトン君たちをかき集めてまとめて地面に埋めていく。キーキーという断末魔、心が痛い。


「児ポみたいな隠し方だね」


「リヴァイアちゃんさん、どういう例えですか。…別に骸骨は出したままでもよかったんですが」


 だってそんな目で見てくるから…。


「あのー、もしかしてだけど…、もう敵は倒しちゃった感じ?」


 気になっていたことを恐る恐る聞いてみる。


「見てなかったんですか?どんだけ骸骨に集中してたんですか」


「う、ごめん…」


「安心してください。と言うのも変ですが…、まだ倒してないですよ。空にまだいます」


 カルナに言われたとおりに上を向くと、確かにふわンガはそこにいた。そうか、ふわンガがいるか確認すれば、戦闘が終わったかどうかがすぐに分かったじゃないか。みんなを探すのに頭がいっぱいでふわンガのことが抜け落ちていた…。

 カルナに代わってリヴァイアちゃんが説明を続ける。


「実はあとはとどめを刺すだけってとこまで追い込んだんだ。ほら、奴も破裂寸前でしょ」


 本当だ。よく見ると、ふわンガの身体がはち切れんばかりにパンパンに膨張している。初期携帯の1.5倍はあるんじゃないか?

 確かにあと一発攻撃を加えれば倒せそうだ。そこまで追い込んだならばさっさと倒してしまえばいいのでは?


「それで、なんで私に声を掛けたんだ?どうせ私なんて何にも役に立たないぞ。ラストアタックの瞬間を一緒に見ようって誘いならありがたいけど、役立たずの私がお前たちと一緒にいるのは気が引けるから、断らせてもらうよ」


「ナナオくん、ちょっと卑屈になりすぎてるよ…。いや、とどめに関してちょっと問題が発生してね」


「問題?」


「そうなんだ。実はあのふわンガなんだけど…なんだい?DDR」


 会話の途中、DDRがリヴァイアちゃんの袖をちょいちょいと引っ張り、カルナも加えて三人でこそこそと話し始めた。こちらからは会話内容はほとんど聞こえない。



「……………カルナの方が~…」


「……………確かにナナオくんも喜ぶ~…」


「……………ええ!?………わかりました…」



 三人が会話を終え、今度はカルナが代表して話しかけてきた。

 どうせ私は関係ないんだし、正直さっさと済ませてほしいんだけど…。


「コホンッ。…えー、ふわンガへのラストアタックなんですが、ナナオさんにお願いしてもいいでしょうか?」


 予想外のが来た。いや、本当はちょっと予想していた。


「いやいや、いいよ私は。ラストアタックも皆でやってくれ。そんな無理やり仕事を貰っても嬉しくないよ。私はこのままでいいからさ」


「あっいや、そういう話ではなくてですね」


 あれ?なんだか全身が急にソワソワしてきたぞ?なんだこの展開は?…一応素っ気ない態度はとっておこう。


「実は、ふわンガにとどめを刺そうとしたんですが、膨張した身体が魔法も打撃も跳ね返してしまって…」


「…」


「どうやら倒すには、斬撃属性の武器で攻撃する必要があるみたいです」


「……………」


「そして、斬撃属性の武器を持ってるのはナナオさんだけなんです」


「…………………………」


「というわけで、ナナオさん。最後の一撃、ちょっと頼まれてくれません?」


「………私にしかできないってのなら仕方ないなあ。よし分かった、任せてくれよ」


 別にみんなに任せてもよかったんだけどなー(棒)。私の出る幕じゃないと思ったんだけどなー(棒)。私にしかできないならしょうがないな=(棒)。


「ナナオくん、君は僕達の救世主だ!」


「よっ、大将!男前ぇ!」


 おいおい、照れるからや=めれー。まあ、二人もそう言ってくれるんだったら、いっちょ頑張ってやるか。


「ナナオお姉ちゃん、声がすごく嬉しそうだね」


 アイ、そういうのは口に出さない方が良いんだよ。みんな分かってて茶番をやってるんだから。


 いやでもとどめを任せてくれて正直嬉しいよ。今まで私にしかできないことが無かったからなあ。

 これでもし三人の内の誰かが斬撃属性の武器を持っていて、それで活躍していない私に同情して役割をくれたとかならすごく悲しかったけど。




 カランッ! (DDRが背中に隠し持っていた剣を落とした音)


「あ、やっべ」


 ゴソゴソ  (DDRが急いで剣を拾い上げる音)




 うん、今のは見なかったことにしよう。


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