第29話 盲目少女と正しい資質
前回のあらすじ:懐かしいよね
リヴァイアちゃんとDDRの二人が飛び立ったのは数分前のことだ。ここからじゃよく見えなかったが、ふわンガが発する放電がより一層激しくなったことから、二人が熾烈を極める戦いを繰り広げているのがうかがえた。
今は放電の勢いも弱まり軽く帯電しているぐらいだけど、現地はどうなっているのだろうか。膠着しているのか、それとも戦いが始まっているのか。
私の予想なんだけど、こういった大型モンスターとの戦い方ってのは大体パターンが決まっている。特定の行動にカウンターアクションを取るか、弱点部位を攻撃するか、いきなりジャンルがシューティングゲームに変わるかの、3つといったところだ。おそらくこのモンスターは弱点を攻めていくタイプ。触手を切り落としていくか、目を潰していくとかすればいいんじゃないかな。
と、色々と予想してみたけど、攻略方法が分かったからといって簡単にクリアと行かないところが、ゲームの難しいところであり面白いところでもある。仮に私の予想が当たっていたとして、あの量の触手や目を二人で潰していくのは骨が折れそうだ。
今ふわンガに対処できるのはお前たちしかいないんだ。頑張れ、二人とも!
さあ、そんな頑張っているリヴァイアちゃんとDDRに対して、地上組の私たちはどうしてるのかというと、
「やることねぇなあ」
「やることないですね」
「やることないね!」
思いっくそ暇していた。
だってしょうがないじゃん、敵に攻撃できないし敵からの攻撃も来ないんだからさ。そりゃ手持ち無沙汰にもなるよ。
アイも最初の方は健気に二人を応援していたけど(さらりと状況は説明した)、やはり子供といったところか、一瞬で飽きてしまっていた。
「アイちゃんは得意なこととかあるの?」
「ピアノが弾けるよ」
「へぇ、アイちゃんのピアノ、聞いてみたいなあ」
談笑が始まっちゃったよ。暇の極みじゃないか。空にいる二人は今必死に戦っているかもしれないってのに…。………まあ、あいつらなら別にいいか。
二人に悪いと思いながらも、私も会話に加わることに。
「どんな曲を弾くんだ?」
「えーとね、月光とか、エリーゼのためにとか」
「それはすごい!」
「ベートーベンかよ。ハイスペックロリだな」
まさかクラシックを弾くとは思わなかった。てっきり猫ふんじゃったレベルかと思っていたよ。
運営さん、ちょっと設定盛りすぎじゃない?私はロリにそこまでのスペック求めてないよ?
「他には?」
「他にはね、魔王魂さんの曲とか…」
「…なんでフリー音楽?」
運営さん、クラシックもそうだけど、もしかして著作権とか気にしてらっしゃる?理由はわかるけど、わざわざフリー音楽しか弾けない設定にしてやるなよ…。
いや、曲自体は好きだけどね!
「あとは、
「………誰?」
いきなり聞き慣れない名前が出たぞ。カルナなら知っているか?
「松嶋恭弥はこのゲームの楽曲担当の方ですね」
「身内の名前出しちゃったよ」
ゲームの世界観壊れちゃう!
「特にね、松嶋恭弥さんの作品の、『魔法少女ピュアミーティア・オンライン オリジナルサウンドトラック PPremiumVersion(¥8980)』が大好きで、いつも弾いてるの!みんなもよかったら聴いてみて!」
「ついに宣伝入れやがったよこの娘…。さっきまでは普通の女の子だったのに…」
ようやくNPCでなく一個人としての温もりを感じ始めてきたところなのに、秒で人の血が抜けていった。
「ああ…、アイちゃんがローマ字堕ちしちゃった…」
「ローマ字堕ちて」
アイからAIに堕ちたってことか。
なんとなく暇つぶしのつもりで加わった雑談だったけど、ボケとツッコミがしっかりしていたおかげで図らずも楽しむことができた。楽しんでいたせいで、私はすっかり油断してしまっていた。
「ゴオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォ!!!!」
空に浮かんでいたふわンガが、いきなり超重低音の雄叫びを上げたのだ。
「うひゃうっ!え?なに?なに!?」
油断しきっていた私は、恥ずかしくも素っ頓狂な声を上げてしまった。
後からカルナに聞いた話だけど、雄叫びの直前にDDRが殴ったであろう衝撃音が聞こえていたらしい。それ以前にも、魔法の音やら殴る音やらがちょくちょく鳴っていたとか。全然気が付かなかった…。
ふわンガの身体がわなわなと激しく震えだす。恐らくダメージを与えることに成功したんだろう。
「何が起こったかわからないけど、ナイスだ二人とも!」
頑張ってくれている二人にささやかなエール。
もう倒すの全部二人に任せちゃって私達はここで楽しておこう、そんな邪な考えが一瞬頭をよぎったけど、現実はそう上手くいかない。
「くそっ、また電撃か!」
触手の内の一本がまたもや充電を始めた。触手の向きからして、狙いはあからさまに私たち3人!
まあでも慌てることはない。この電撃は少し移動するだけで簡単に避けることができる。問題なのは、アイを守りきれるかということだけだ。
触手がキュウキュウと不快な音を鳴らしていた充電を終え、ピカッと光った次の瞬間、鋭い雷光が放たれた。向かう先は………アイの方向!
「ヤバい!カルナ!」
「ゴールドシールド!」
アイの側にいたカルナが素早く魔法を唱えた。
二人に当たるはずだった電撃は、鉄壁の金色盾に吸収されていった。
「ナイス!…って2発目も来やがった!」
「わかってますよ!」
2発、3発と、無数の稲妻が二人に目掛けて撃ち込まれるが、そんなものではカルナのゴールドシールドは破れない。彼女を打ち砕けるのは魔女だけだ。
「ほらほら、電撃でもなんでもどんとこいですよ!」
「おお、頼もしい!」
よし!アイのことはカルナに任せておいて問題なさそうだ。
さてさて、私も電撃を避けるのに集中しようか。カルナが頑張ってくれているのにここで私が死んだら笑い話にもならないからな─────
─────攻撃来ねえな…。
2、3分経ったけど、触手が私に向かって電撃を撃ってくることは一度もなかった。どうやら敵はターゲットをカルナとアイに絞ったらしい。二人に幾千の稲妻を絶え間なく浴びせ続けているが、カルナのゴールドシールドはそんなものではびくともしない。延々と金盾が攻撃を吸い続ける限り、私にはヘイトが向かないって訳だ。
攻撃が来ないってんなら楽なもんだ。油断はしないように気を付けて、ここでぼーっと突っ立っておこう。
「カルナお姉ちゃん、怖いよう…」
「大丈夫!あなたは私が守るから、安心して!」
二人の必死なやり取りが聞こえてくる。
カルナはしっかりとロールプレイにのめり込むタイプだ。あの程度の電撃をいなすのは簡単だろうけど、その表情は真剣そのものだ。
「………………………」
…私も手伝おうかな?
うん、そうだ、そうしよう。なんかただ突っ立ってるでけなのが申し訳なく思えてきた。カルナがあんなに頑張っているんだ、私も何かしないと。それに、これはゲームだ。折角なんだから楽しまないと!
…と言っても、特にやることが見つからないなあ。とりあえず、カルナに手伝えることが無いか聞いてみよう!
「おーい、カルナ!なにか手伝えることないかな?」
「特に無いですよー!」
「あ、あっそう…。でも、私やることなくて…」
「あー、それじゃあ…とりあえず私から離れてください!近くにいるとターゲットが分散されて、逆にやりづらいので」
「う、うん、わかった!…ごめん、邪魔したね。じゃあ、頑張って!」
「はい。ナナオさんも頑張って!」
…なにを頑張れと?
結局カルナの邪魔をしただけになっちゃったなあ。ちゃんと気を付けないと。
とりあえず、今は本当に何もすることが無い。これは手伝えるのに何もしていないってわけじゃない。私は手伝おうとする意志があるのに、何もすることが無いってだけだ。だから、今私がここでぼーっとしてても何も悪いことは無い。だって役割が無いのは仕方ないんだから。そりゃ、もしカルナが居ないのなら、私がアイを全力で守ったさ。
うーん、なんだか居心地が悪いなあ。僕は何も悪いことしてないのになあ。
いやいや、人に頼っていたら駄目だ、自分のやるべきことは自分で見つけないと!あ、そうだ!もしかしたら、リヴァイアちゃん達空の二人が助けを求めているかもしれないぞ。
上空を眺めてみると、ちょうどリヴァイアちゃんが近くまで降りてきていた。ナイスタイミング!
「おーい、リヴァイアちゃん!」
「お、ナナオ君じゃん。そっちの様子はどうだい?」
「こっちは問題ない。それよりリヴァイアちゃんの方は?」
「攻略方法は分かったよ。あの大量の目を順番に潰していくだけだ」
「そ、そうか…」
「でも、目を護る寄生虫のようなモンスターが大量に湧き出てしまってね。ちょっと今手を焼いているんだ」
「そ、そうか!」
「なんで手を焼いてるって言ったときの方がちょっと嬉しそうなの?」
本音が漏れた。
「それなら、私も手伝った方がいいんじゃないか?何かやれることはない?」
「いや、寄生虫も所詮ザコだし僕とDDRだけで対処できるよ。それに、君は飛べないだろ?」
「でも、DDRも飛べないんじゃ…」
「それが彼、武器を器用に投げて疑似的に飛べるようになったんだ。笑っちゃうよね」
ぷくくと笑いをこらえ切れていないリヴァイアちゃん。もちろん私は笑えなかった。いや、よく考えてみたら、私はずっと苦笑いをしていた。たぶんカルナのくだり辺りから、笑うことで自分の現状をごまかそうとしてたんだ。
「じゃあ僕はそろそろ行くね。ナナオ君も頑張って!」
…なにを頑張れと?
やばい、本格的にやることないぞ。なにかやらないと、なにか手伝わないと。このままじゃ私だけ無能の役立たずだぞ。
気付いたら、なぜか直径1メートルくらいの円を描くようにグルグルとその場を歩き回っていた。なにをやっているんだ私は?
えー?私ってこんなに指示待ち人間だったけ?このままじゃ駄目だ、居心地が悪すぎる。
気付いたら、なぜか3歩前に進んでは3歩後ろに下がってその場を行ったり来たりしていた。なにをやっているんだ私は?
このままじゃ私の存在ごとこの場にいらないと言われているような…
あ、なんか
───文化祭の準備のときの話だ。
私は文化祭をちゃんと楽しもうとする普通の学生だ。クラスの出し物は、文化祭定番の喫茶店だった。買い出し班や調理班はやる気のある人たちが担当した。もちろん私もやる気はあったけど、メンバーに仲の良い人がいなかったのでやめておいた。装飾班を手伝おうとしたら、ここはいっぱいだと断られた。なにか手伝えることは無いかとウロウロしていたら、同級生から邪魔だと言われた。仕方がないから、私はトイレの個室で一人で泣「人の英知が生み出したものなら、人を救ってみせろー----ーーー!!!!」
ふぅ、やれやれ。あと一歩で封印していた黒歴史があふれ出すところだったぜ。心の中で私のローラがユニバースしていなかったらどうなっていたことか…。
なんとか一命は取り留めたけど、事態は何一つ良くなってない。このままだと、私のメンタルがどうにかなっちゃいそう。…かくなる上は!
私はシンギンザレイン(変声魔法)を唱え、声を遠くまで響き渡る高音に変えた。そして、みんなに聞こえるように思いっきり叫んだ。
「みんなー!一旦集合ー--!!!」
十秒も待たないうちに、四人は駆けつけてくれた。四人とも。私になにかあったのかと心配しているのが表情から読みとれる。
「何があったんですか!?」
すごい剣幕でカルナが聞いてくる。
「慌てなくても大丈夫。一つだけお願いがあるんだ」
「お願い、ですか?」
四人ともいまいち状況が理解できていない様子だ。
私はその場に跪いき、手を地面に置いて、頭をコンクリに擦りつける。これは、みんなへの誠意だ。
そして、土下座の体勢から一言。
「私は、飛ぶこともシールドを出すことも出来ません。なんの能力も無いです。でも、やる気だけはあります。私に、どうか、仕事を恵んでいただけないでしょうか…?何でもします…お願いします…」
「…世界恐慌かな?」
リヴァイアちゃん一言ツッコむと、四人とも早々と自分たちの持ち場に戻っていった。
くそぉ、誰も私に仕事をくれないのかよ。誰か、仕事をくれる人はいないのか?生きてる人でも死んでる人でも構わない!誰か!
よみがえれ、ルーズベルト!
\ボコボコ/
「ドーモ、フランクリン・ルーズベルトデース。ニューディール政策として、今からユーには、テネシー川でダムを造ってもらいマース」
『よみがえり
「ホントによみがえっちゃったよ!」
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