第31話 盲目少女と輝く星

 前回のあらすじ:やさしさは時に人を傷つける


「私の仕込み杖じゃないと奴を倒せないのは分かった。それで、どうやって上空まで行くんだ?」


「ここに居るじゃないですか。優秀なカタパルトが」


 カルナがくいっと親指でDDRを差す。DDRは何も言わず、軽く肩を回してみせた。その腕にはすでに、星座武器のタウロスが装備されている。

 なるほど、肩パルトってわけか。


「タウロスのパワーはゴーレムを何十メートルも投げ飛ばすほどだからね。過言だけど、女子中学生程度なら第一次宇宙速度だって突き破ってみせるよ」


「過言なら別に言わなくてもいいんじゃない?」


 だがDDRは、そんなリヴァイアちゃんの過言を否定することなく、可能だと言わんばかりに頷いていた。


「えっ、本当にできるの?」


「鍛えていけばいつかな。装備説明欄には、敵を投げ飛ばしてお星さまにすることができるって書いてあった」


「そのお星さまってギャグ表現であって、人工衛星のことじゃないと思うよ」


 おそらく投げられた瞬間GAMEOVERだろ。

 あらためて上空を見てみる。目標のふわンガは、私たちのちょうど真上で体を膨らませながら漂っている。その体の表面に一か所、光り輝いてる部分があるのが見える。

 リヴァイアちゃんが言うには、弱点の眼球を潰して回った際、最後に残った一つが光り出し、現在の状況に落ち着いたというわけだ。そこをぶっ刺せば倒せるって言ってたけど………なんで倒せるって分かったんだろうか?まあ、いいか。とにかく、その光っているところに向けて私を投げ飛ばすという作戦だ。


「じゃあ、さっさとやっちゃおう」


 私が言うと、DDRは二、三度足元の芝を軽く踏み、敵との距離を目測で測る。


「ちょっと位置が悪いから移動しよう。垂直には投げにくい」


 DDRの提案に従い場所を変えることに。


 移動した先は、コンクリートで舗装された十字路の上。近くにあった案内地図看板を見れば、ここが丘の中心付近だということが分かる。

 さっき居た場所にはあった街灯が、この辺りでは見当たらない。星見台の丘というぐらいだから、邪魔になる光は排してるのだろうか。

 目標地点光る場所はちょうど道のライン上にある。ここからならDDRも狙いを定めやすいだろう。

 DDRは軽く肩のストレッチをしている。準備はできているだろうか。


「じゃあ、さっさとやっちゃおう」


「ちょっと待ってくれ、まだやることがある」


「まだなにかあるのか?」


 投げ飛ばすだけのことにそんな準備もいらなそうだけど…。自分のときはしてなかったし。


「精神統一がしたい。今回は目標に当てるコントロールが必要だからな。」


「ゴーレムのときも、明後日の方向に投げ飛ばしてたからね」


 と、リヴァイアちゃんが補足する。

 精神統一したくらいでコントロールが変わるのだろうか?そういった単純な疑問を二人に投げかけると、DDRが懇切丁寧に説明してくれた。


「VRゲームは脳波で操作するから、余計な考え事をしていると操作精度が悪くなってしまう。友達と協力しているときによこしまな考えが浮かんでガルドしてしまったなんて話、よく聞くだろ?」


「お前らは別の意味でガルドしただろ」


 反省してないなこいつ…


「して、精神統一ってなにをやるんだ?」


「まあ見てろって」


 質問攻めの私を制するように、人差し指で口元を抑えられた。

 そのままDDRは我が物顔で十字路の真ん中に立ち、足を肩幅に広げ、脱力するように腕をだらんと下げた。そしてその腕を少し上げ、掌を天に向ける。何かのかまえなのだろうか?

 一体何が始まるのか考えあぐねていると、Dリヴァイアちゃんが解説を挟んでくれた。


「今から始まるのは一種の儀式だ。古来より人類は、集中するために、それぞれの体系で発展した儀式を用いてきた。座禅なんかがそうだね。」


「なんか無駄にこむずかしく言ってるけど、要するにルーティーンってやつでしょ?スポーツ選手とかがよくやってる…」


「ま、そうだね。彼は精神統一って言ったけど、彼の場合はどっちかというと気分高揚、テンション上げって感じなんだ」


「回りくどいな。結局DDRは何をするのかを教えてくれよ」


 リヴァイアちゃんは私の方を見て、ニッと口角を上げて答える。


「ダンスだよ」


「………じゃあやっぱダンスDダンスDレボリューションRじゃねーか」


 私がそう指摘すると、DDRはリラックスの状態を解いて噛み付いてきた。


「ダンレボじゃあない!」 


「じゃあ何なの?」


「………ドンモグーラDドルマゲスDラプソーンRだ…」


「前と言ってること違うじゃん」


 …ダンレボ以外なら何でもいいのか?逆になんで頑なにダンレボを認めないんだ?


「ここからは神聖な時間なんだ、邪魔しないでくれ」


 神聖だなんて大袈裟なと思いつつ、いちいちツッコミを入れているといつまでも進まないので静観することに。どんなダンスをするのか正直気になるしな。儀式っていうぐらいだから、舞とかそんなんだろうか?それともアイドルがやってるような無難なものだろうか?

 DDRは膝を一定間隔で曲げリズムを取っている。そして右腕を上げ、パチンと指を鳴らした。


「ミュージックスタート!」


 もちろん彼が勝手に言ってるだけで、音楽なんて掛からない。無音だとさすがに味気ないと分かっているのか、DDR自身が鼻歌を歌うことでBGMの代わりとしている。

 フンフンと歌いながら身体と腕を揺らし、軽快にサイドステップを踏む。踊っているその顔は、まるでここが世界の中心と言わんばかりに自身に満ち溢れている。

 うーん、なんだか可愛く見えてきたぞ。さてはDDR、ダンス映えするようにキャラメイク相当作り込んだな。まあ、おっさん声が全部台無しにしてるんだけど。

 ………それにしても、この曲どっかで聴いたことあるなあ。メロディーからしてJポップか?イントロだけだと、何の曲か分かりそうで分からないなあ。この喉元でせき止められてる感じ、すっごい気持ち悪い。


「なんかこの曲聴いたことない?」


 邪魔をしないようにコソコソと、それとなくカルナとリヴァイアちゃんに聞いてみる。


「うーん、ちょっと分かんないですね。というか既存の曲なんですか?」


「僕は前にも聞いたことあるけど、いまいちピンと来てないなあ。そもそも彼の歌唱力が………ね」


 まあ確かに、お世辞にも上手いとは言えないな。鼻歌の段階で下手だとわかる。そもそもダンスも左右にステップ踏んでるだけで、全然上手くないぞ。なにがしたいんだコイツ?はたから見てると軽い大事故が起きてるぞ。ロリコン特有の強メンタルか?

 結局、何の曲かは分からずじまい。リヴァイアちゃんすら知らないってことは、DDRが適当に鼻歌歌ってるだけの可能性の方が高いだろう。まあ、これが終わったあとで本人に直接聞けばいいか。これがいつ終わるのかわかんないけど

 少し興味が薄れかけていたところに、不意にDDRが息を大きく吸い込んだ。え、マジ!?歌うの!?大怪我するぞ?何を歌うんだろうか…。



「ただかぜーに揺られてー♪何もかんがーえーずにー♪ただくもーを眺めてー♪過ごすのもいいよねー♪」


「「「シャイニングスター!?」」」


 なんでシャイニングスター!?なんでフリー楽曲!?何に配慮しての選曲だよ!くそっ、ボケかボケじゃないか微妙に分かりづらい…!


「ナナオくん!はやく彼の元へ!」


「いきなりどうした、リヴァイアちゃん?………ってまさか───」


 DDRに目をやると、ちょいちょいと手招きをしている。え、まさかこの流れで投げるつもり?行きにくいよ!いま変な空気になっているの存じてない?


「さーざーなーみのー(チラッ)♪おとーにーいーやさーれてーくー(チラッ)♪」


「そんなチラチラ見られても…。やりにくいから一旦落ち着こうよ」


「ナナオさん!早くしないとサビが始まっちゃいますよ!」


「そういう問題!?」


 ああもう、分かったよ!やってやるよ!

 二人とも、自分に関係ないからって悪ノリしやがって…。なんかいつも私が損な役回りさせられてるような………あまり考えないようにしよう。

 もう腹はくくった。素早くガントレットに包まれたDDRの右掌に飛び乗り、肩をつかんでバランスを取る。片足だけでつま先立ちしているというのに、恐ろしいほどの安定感だ。これはタウロスの効果なのだろうか。


「ナナオおねーちゃん、がんばって!」


 アイだけが唯一、純粋な気持ちで応援してくれている。ありがたい。


「ああ、行ってくるよ」


 エネルギーが集まってくるのが足元から伝わってくる。私はただ一心、敵を斬ることだけを考えよう。ただ目の前の敵を叩き斬る

 ひときわ大きな呼吸音が。サビが、くる。


「シャイニングスターつーづーればああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 サビとともに投げ飛ばされ、音を置き去りにしながら空を切り裂いていく。

 速い!これが弾丸目線か。

 目標は既に目の前だ。速すぎて思考が追い付かない!だが、こういうときのためにあらかじめ思考をセットしていたんだ!


「抜刀」


 杖から引き抜かれた剣が、ふわンガの急所、残された最後の目を突き刺す。私はただ構えただけなれど、これは音速を超える突きだ。


「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」


 空まで響き渡る絶叫。その直後、ふわンガの身体が限界まで膨らんでいく。


「ごめんな、倒すのにこんなに時間掛かっちゃって。最初はただのクソモンスターかと思ったけど、私が弱すぎたのがいけなっかたな。これからは、ちゃんと強くなるよう頑張るからさ。だから、とっとと割れてくれ」


 バァン!と轟音を鳴らし、ふわンガの身体は破裂四散した。散らばった残骸の皮は光となって消えていった。


『ふわンガ をたおした』


 直後、眼前に映し出されたのは満天の星空だ。数時間ぶりの光景、いや、今は街灯にも阻害されないので、より鮮明に星空が見える。現実では見たこともないような天の川だ。ふわンガを倒したプレイヤーだけが見れる、このクエストのサブ報酬みたいなものだな。これはさすがの私でも感動せずにはいられない。

 下を見てみると、四人は米粒にも満たない小ささだった。ハハ、どんだけ高くまで投げたんだよ。星奈市すら小さく見えるじゃないか。

 ここまで上がってくると、星奈市以外の街の明かりも見えてくる。まああの光はただのテクスチャで、フィールドとしては存在してないんだろうけど。

 真っすぐ顔を向けると、丸みを帯びた地平線があった。………この光景を見てると何かが引っ掛かるんだよなあ。なんだろう?地平線………地球………



 ───欲しいもの(星)に手を伸ばしなさい───


 あ、そっか。地球も星か。欲望の魔女が言ってた欲しいものって地球のことか。あー、なんでこんな単純なことに気付かなかったんだろう。子供向けと侮りすぎたな。

 でもこれで謎は解けた。クエストのついでに解けたのはまさに棚ぼた。あとは簡単、今目の前に小さく見えてる地球に手を伸ばすだけだ!








 ………ここ宇宙じゃね?


 DDRの奴、どこまで投げ飛ばしてんだよー。ちょっとお約束がすぎるよー。このままじゃ輝く星になっちゃうじゃーん。純粋な流れ星になっちゃうじゃーん。シャイニングスターでピュアミーティアじゃーん。


 伏線回収&タイトル回収じゃーん。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る