第25話 盲目少女と石造りの怪人
前回のあらすじ:シンギンザレインに対して残りの魔法二つネーミング適当すぎじゃない?
「ナナオ君、大丈夫?顔にスライムみたいなの付いてるよ」
「みたいな、じゃなくてスライムそのものだよ」
べちゃべちゃに汚れた顔を腕で拭う。スライムの残骸から発しているライムのフレッシュな香りが逆にムカつくなあ。他に汚れていっる所は…よし、服には汚れが付かなかったみたいだ。
突如空から降ってきた一軒家サイズの巨大な岩。そこから現れたのは、私の仲間のリヴァイアちゃんだった。
リヴァイアちゃんは私とカルナの存在を改めて確認し、岩に圧し潰されたスライムを見て一言。
「あー、もしかして邪魔しちゃった?」
どのゲームに於いても、獲物の横取りやハイエナ行為は嫌われるものだ。図らずも同じようなことをしてしまったが故の発言だろう。
「いや、手こずっていたし正直助かったよ」
私はね。気付いているかもしれないけど、後ろの方でカルナが鬼の形相であなたを睨んでますよ。今や過保護ママと化してるカルナのことだ、アイになるべくこの世のゴミと絡ませたくないのだろう。
「それならよかった。まあでも、これから邪魔しちゃうんだけどね!」
そう言った矢先、彼の足元の岩が地響きを起こすようにガガガと揺れ動きだす。折りたたむように丸めていた腕と脚をゆっくりと開き、石造りの顔を上げ、本来のゴーレムとしての姿に戻る。まさに塵も積もれば山となる、石と石の集合体が一つの巨大なモンスターを作り上げている。
「グギギガガガ」
声とも呼べないような、石と石が軋むような雄叫びが上がる。
リヴァイアちゃんは不安定な足場にふらつきながらも跳び出し、私の近くへと降り立った。
「いやー悪いね。なんか巻き込んじゃって」
絶対悪いと思ってないだろ。
後で聞いた話によると、このモンスターの名前は見た目の通り「シルバーゴーレム」、彼が今行っているクエストのボス的存在なのだと。なんでも、とある小学生が川で石積をしていたところ、偶然その石に魔力が取り込まれてしまいモンスターと化し、街で暴れ回っていたらしい。なんだか地獄みたいな話だな。鬼が崩すのも頷ける。
ちなみにこのシルバーゴーレムも斬撃耐性を持っており、剣や刀は関節や岩と岩の隙間を攻撃しないとダメージが入りにそうだ。くそが。
さっきからスライムといいちょっと斬撃系の武器不遇すぎないですか?剣とか刀とか男の子はみんな好きなんだからもうちょっと強くてもいいと思うんだけどなあ。…あ、これ女の子向けゲームか。
このゲーム、難易度自体は易しいけど、ソロだと確実に詰むよな…。
「で、なんで上から降ってきたの?」
「あんまりにも硬いもんだからコンクリに叩きつけて割ろうと上に投げたんだけど、思ったよりベクトルが低くなっちゃってね。それでここまで飛んできたってわけ」
なるほど、よく見ればシルバーゴーレムの腹部が大きくひび割れている。リヴァイアちゃんの言った通り、落下の衝撃で傷ついたのだろう。これなら私の仕込み杖でも攻撃が通りそうだな。
「よし。私も加勢するわ。」
「いいや、ここまでくれば僕達だけで十分倒せるから、君たちの手は煩わせないよ。カルナさんも!僕達だけやるから、迷惑かけないから!だからそうカッカしないで!ね!」
「いやいや、こっちだって急いでるし、共闘した方が速いでしょ」
「ああ、ごめんね。別に君に遠慮して言った訳じゃあないんだ。……一撃で方が付く。」
その瞬間、昼間になったかと思い違えるほどの眩い光が辺りを照らす。ゴーレムが何かしたか?いや違う、後ろからの光だ。それにこの光には見覚えがある。確か会長が使っていた双剣も同じような光を発していた。ということは、この光は…………
「DDR!」
「待たせたな」
光源の主はDDR、私たちの後方から悠々と歩いてきた。その両手に携えられているのは黄金のガントレット。彼の長身痩躯な体型も相まって、それはより一層重厚さを際立たせている。彼の細腕には不格好なごついガントレットだが、彼はそんなことは意に介した様子も見せず、ストレッチをするかのように腕を上げ肩を伸ばす。
どうでもいいけど、腕をその位置に挙げると、武器の後光で顔が全く見えないぞ。
「どうやら作戦通りヒビが入ったみたいだな」
「DDR、そのガントレットは?」
こちらは武器の知識がほぼ無いと言っても過言でもない。少しの情報でもいい、何か聞けるなら聞いておこう。
「これは天に光り輝く12の座標の一つ、牡牛座より寵愛を受けし黄道を征く器『タウロス』だ。派手な見た目とは裏腹に能力は単純だ。装備者の腕力、膂力、肩力を大幅に増幅させる。は隕石跡地で見つけたけど、他の星座武器もそこにあるかはわからん」
そう言いならがらDDRは肩を鳴らし、ゴーレムの方だけを見てゆっくりと歩いていく。
「一撃だから見逃さないようにね」
リヴァイアちゃんがそう言うと同時に、DDRが大きく振りかぶり、それに伴い全身で発していたガントレットの輝きが右の拳の先ただ一点に集中していく。
危険を察知したのか、シルバーゴーレムは両腕を体の前で固め慌てて防御の構えを取る。それは、本来ならば絶対の防御だったのだろう。だかしかし、落下の衝撃でできたヒビはしっかりとその腕にも刻まれていた。
防御なんてものは関係ない。DDRはそう言わんばかりに振りかぶった右腕で殴りかかった。
ドゴォ!
普段は可愛らしいSEしか鳴らないこのピュアミーで、聞いたこともないような鈍い音が響き渡る。これがタウロスの威力か!
その衝撃で辺りに砂埃が舞い上がる。
「やったか!?」
「やったよちゃんと」
視界が晴れるとそこには、バラバラに砕かれ石ころ一つ一つとなったゴーレムの残骸の姿が。そういや元々は河原の石が積みあがってできたんだったな。元の姿に戻ったんだ、これで一件落着ということか。
「すげぇ、ホントに一撃だ」
星座武器の力がここまでだとは思っていなかった。
「ふー、疲れた」
しかし、そんな凄いものを見せつけた張本人は、何事もなかったかのような涼しい顔をしている。
事態が収束したのを見計らったのか、カルナも近寄ってき、改めて5人で顔を合わせる形になった。
「カルナさんにもちゃんと謝っておくよ。邪魔しちゃってごめんね。」
「オンゲーをやってたらよくあることですし、全然気にしてないですよ。あなた達のことを排泄物だと思っていますが、悪人だとは思っていません」
「それは良かった」
良いか?最上級の罵倒だと思うけど?
「で、ここからが本題だ。後ろに背負ってる女の子、君たちも何かクエスト中だよね。よかったら手伝わせてくれないかい?」
リヴァイアちゃんのいきなりの提案。まあカルナは却下するだろうな。あんなに警戒していたし、この二人がアイに近づくのも嫌だろう。
「いいですよ」
「ええ!?いいの!?」
「なんでナナオが驚くんだよ」
DDRの冷静なツッコミ。そりゃまさか承諾するとは思っていなかったし。
「私たち、正直言って戦力不足でしたからね」
「あ。そっすね…」
闘っていたのは私だし、暗に私が役立たずと言われているような…。まあスライム相手にあの体たらくなら仕方ないか…。
恐らくだけど、このクエストの最後の方に強大な敵と戦わさせられることになりそうだし、戦力は多いに越したことは無い。
「良かった。喜んで手伝わせてもらうよ。それでその女の子は?」
「この子は青空アイちゃんです。この子、実は━━━━」
カルナが二人に説明する。アイの境遇やクエストの概要、そしてアイに対しては自重しろといった警告など諸々とだ。
「━━━━というわけですね。」
「なるほど、このこも大変だったんだな。DDRだ、よろしく」
「は、はい!よろしくお願いします」
優しく挨拶をしたDDRに対し、アイは緊張しながらも元気よく挨拶を返す。
「カルナさん、安心して。僕もDDRも二次元の女の子には興味ないから。アイちゃんには手を出さないよ」
「おいおい!私も興味ないよ」
勝手なことを言わないでもらいたい。
「…コミックL〇」ボソッ
「…買ってるけども」
DDRよ、それは見逃してくんない?
「まあ俺も買ってるしな」
「僕も買ってる」
じゃあ全員二次元にも興味ありありじゃん…
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