第24話 盲目少女と新魔法
前回のあらすじ:夜はロリが寝てるのでロリコンも寝てます
NPCクエスト、それは文字通り街に住むNPCから受けるクエスト。
ピュアミーには老若男女様々なNPCが存在し、それらNPC一人ひとりには名前があり、目的があり、人生があり、そして物語がある。人が目的に向かって動くことによって世界も動き、世界が動くことで物語は終わりへと向かう。
人々は皆、自分の物語をハッピーエンドにするために頑張って生きているが、中には弱さ故に物語を不幸なまま終えてしまう人達もいる。そんなか弱き人々の願いを聞き、流星から授かった魔力で物語をハッピーエンドに導くのがNPCクエストであり、そして私達魔法少女ピュアミーティアの使命なのダーだのなんだのよく分からないことをカルナが講釈垂れていた。
まあ要するに、シンプルクエストと比べてちゃんとストーリーがあって面白くて、尚且プレイヤーの行動次第で結果が変わるってことだろう。
クエスト:星のみえる丘。盲目の少女、大空アイを星見台の丘と呼ばれる場所に連れて行く、それが一応このクエストのクリア条件なんだけど………流石にそれだけでクリアとはならないだろうな。
カルナが身体をかがめながら質問する。
「えっと、アイちゃんはどうして星見台の丘に行きたいのかな?」
「星を見たいの」
そりゃそうだろうな。
これじゃあ「どうして野球場に行きたいの?」という質問に「野球を見たいから」と返されたようなものだ。
あっ、でもアイは目が見えないのか…。それなら「どうして野球場に行きたいの?」「阪神が勝つところを見たいから」という感じか?
目が視えていないのなら星も視えないのでは?と聞くのは不粋だ、というかモラルが無いな。
「ここからも星は見えるけど…それじゃダメなの?」
「星見台が1番近いから…。でもお父さんが夜は危ないから行っちゃダメだって…」
「そっか…」
近いってのがよく分からないけど…。子どもだからか、あまり情報は引き出せないな。
とりあえず星見台の丘とやらに向かうか。
「丘は東へずっと進んだ先にありますね」
「わかった。行こうか」
さて、問題なのはアイをどうするかだ。これはいわゆる護衛クエスト、対象を死なせることなく目的地に辿り着かなければならない。大体こういったクエストは、護衛対象が集中砲火を浴びたり勝手に敵陣のど真ん中に突っ込んでいったりと、糞要素………やりがいある要素が多いんだけど…、流石にこのゲームはそんな面倒くさいことにはならないだろう。
あー、でも護衛系あるある「護衛対象の足がクソ遅い」ってのは今回も当てはまるな。目が見えないのに急かすわけにもいかないし…。よし、抱えて走るか。
アイは私が背負おう。いざ戦闘となった時にカルナの両手が塞がっているのは痛い。
「アイ、私が背負ってあげよう。さあ乗って」
ゴッ(しゃがんだ私の背中にカルナが蹴りを入れた音)
ズサッ(前のめりに倒れて顔面を地面で擦る音)
「手つきがキモい。私が背負います」
「ヒドくない!?」
だから二次元には欲情しないって!
住宅街エリアを出ると、街灯の数が一気に少なくなり辺りが暗くなる。ゲーム的配慮で夜でもはっきりと見えるし星明りもあるのだけれど、それでも人工的な光がないと寂しくなるものだ。
光を放つ魔法とか無いんだろうか?でもそれなら炎魔法で代用できるか…。
魔法についてあれこれ考えていると、一つ疑問が思い浮かんだ。
「アイの目って魔法で治せないの?」
「そんな回復魔法一つで簡単に治るわけないでしょう。状態異常じゃないんですから」
「ああ違う違う。ゲーム的な意味じゃなくてストーリーの設定的な意味での話」
人の願いを叶えるのがピュアミーティアの目的って言うのなら、魔法で眼を治してしまえば根本的解決になるんじゃないか?それじゃゲームにならないって言われたらそこまでなんだけどね。
「…魔法というのはそんな都合の良いものじゃないんですよ」
カルナが沈痛な面持ちで喋りだしてるけど、感情移入しすぎじゃない?
「私たちは全ての人々が幸せになるよう流れ星に願いました。しかし、流れ星はその願いを叶えてはくれず、代わりに力をくれました、闘うための力を。流れ星にできなかったことは魔法でもできません。人の願いを叶えるのに魔法は必要ですが、魔法だけでは叶えられないのです」
「その流れ星大丈夫?最終回付近で魔法少女はイケニエだとか言い出さない?」
力をくれるとか信用ならないんだけど。
「10年代アニメじゃないんですから。─止まって」
カルナに言われ、私も足を止める。
──敵だ。
全身がゲル状でできた緑色のモンスター、いわゆるスライムというやつだ。RPGではお馴染みのモンスター、ここで現れたか。
『ライムスライム』と表示されたそのモンスターは、その場で身体をうねらせるだけで攻撃してくる気配はない。こちらの動きに反応して反撃してくるタイプか?
「カルナはアイを守っていて。アイツは私が倒す」
スライムと言えばみんな大好き序盤のザコモンスターだ。いや、緑色のはちょっと強かったか?まあこいつなら私一人でも十分だ。
丁度いい、試したいことがある。
「新しい力のお披露目と行こうか!」
今朝の欲望の魔女との戦い、あの戦いで私は莫大な経験値を得た。その結果、なんと私は新魔法を3つも憶えたのだ!それらを順に紹介していこう!
一つ目、『シンギンザレイン』
なんと自分の声を変えられる魔法だ!もちろんバ美肉だってできるぞ!
え?これならロリを騙せるじゃん!駄目だ、よく見たら効果時間30秒しかねえ!寡黙少女になるか…
二つ目、『ハイド』
一瞬姿を消せる魔法だ!もちろんその状態でもしっかりと攻撃は喰らうぞ。
対人なら強いんじゃないか?でもこのゲーム対人要素あったっけ?
三つ目、『シャドースラッシュ』
影のような黒い斬撃を飛ばす魔法だ!強いぞ!
真面目にこの魔法は文句なしに使えると思う。
うーん、使える魔法率33%かあ…。まあ1つ有能魔法あっただけでも御の字かな。MPの概念が無い関係上、いくら魔法を多く持ってたとしても使うのは数種類だけという自体になるだろうし、これで十分だと思うようにしよう。
それにしても…なんていうか、こう…搦め手みたいな呪文ばっかだな…。仕込み杖使っていたからか?
仕込み杖を構えた途端、スライムが大きくうねりだした。やはりこちらの動きに反応するタイプだったか。
でも今の私には遠距離攻撃手段がある。早速新魔法をお見舞いしてやろう。
「喰らえ、シャドース─────危なっ!」
こちらが詠唱をするやいなや、スライムは体の一部を触手状に変形させ突き刺すように襲い掛かってきた。幸いにもそれほどスピードは速くなかったので回避することができたが、少し脇腹をかすってしまった。
射程が思っていた以上に長かった、懐に潜り込む方が得策か?
ああ面倒くせえ、こんなあれこれ策を弄して戦うような敵じゃないだろう。
スライムなんかに時間かけてるようじゃ先が思いやられる。新魔法全部使って速攻で倒そう!
「ナイトをしょってから出直してこい!ハイド!」
魔法が発動した瞬間、ナナオというプレイヤーがこの世界から姿を消す。嘘だ、普通に攻撃された。目で視認しないタイプのモンスターには意味がないか。
攻撃が来ると分かっていれば避けるのは簡単だ。今度は掠ることもなく余裕を持って回避する。
隙ができた!すかさずシンギンザレインを発動。そして、
「シャドースラッシュ!」(甲高ビブラート)
黒い斬撃が地を走り、スライムの身体を真っ二つに切り裂く。
やったか?そう思ったのも束の間、切り離された二つの身体がドロドロと互いに絡み合い、再び一つの傷一つないゲル状体へと戻った。ぱっかり斬られたなんて微塵も思わせない風体で、ぷよぷよと身体を震わせている。
ええ…。もしかして、斬撃無効?
「シャドースラッシュ」
今度は斬撃の向きを変え横一閃に放ってみるが、結果はさっきの通り。二つに分かれてまた引っ付いての映像の再放送だ。
他にも色々試してみるが、駄目。壊れたビデオの様に同じ光景の繰り返しだ。
はい詰みー。このゲーム罪ー。
しゃーない、カルナさんに託そう。
「カルナー!ごめん、任せてもいい?」
「ナナオさん!上ー!!」
カルナの方を向くと、彼女は空を指差しながら必死に私に呼びかけていた。
上?上に何が?そう思い上を見ようとした瞬間、辺りが一気に暗くなる。これは…影か!?
私の周り一帯にだけ突如出現した影、これが意味するのは私の頭上を何か大きな物体が覆っているということだ!
急いで見上げると、まさに家一つ分ほどの大きな岩が私の真上に降ってくるところだった。
あぶねえ!?
「ぐぇあ!!」
「ブチュチュンパ!」
間一髪横っ飛びで避け、全身をコンクリにすりおろされる。
痛え、そう言いながら顔を上げる。
べちゃ。不快な音とともに気色の悪いゲルが顔面に叩き込まれる。なんだよこれは。ああ、スライムの残骸か。どうやら岩が落ちたときになったあの小気味のよい音は、スライムが潰れた音らしい。
思わぬ形で任務完了。ほぼ詰み状態だったからありがたいけどな。
ところであの岩は何だったのか。よく見ると顔っぽいのがついてるし、腕や脚っぽいパーツもある。人型の岩というと、もしかしてゴーレムか?
観察を続けると、頂上に人影が。
「あれ?もしかしてナナオ君?今日はよく会うね」
あ、20分ぶりですね。
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