第22話 新たな夜がくる

 前回のあらすじ:ロリコンになる勇気 


『欲しい物に手を伸ばしなさい』

 欲望の魔女が報酬としてくれたヒントのわけだけど、これだけじゃ何も分からないな。欲しい物とは何を指すのか、そもそも何に対してのヒントなのか。うーん、皆目見当もつかないぞ。


「これ、ヒントというより謎解きですね」


 隣にいるカルナもお困りの様子だ。


「そうだよなあ。ストーリーが進んでいない現状じゃ解けないってことなのか?まず欲しい物が何を指すかも分からないし」


「欲しい物は分かってますよ」


 さも当然という顔で言われた。


「えっ、そうなの?」


「はい。ピュアミーティアの設定を知っていればすぐ分かります」


 設定を知っていればかあ。それは分からなくて当然だなあ。


「魔法少女が強くなるためには、あるものが必要なんです。それが何だか分かりますか、ナナオさん?」


「ロリ!」


「そう、星です。流石ですナナオさん。魔法少女は星の力を得ることでパワーアップすることができます。魔女の言う欲しい物は、星のことを指していると見て間違いないと思います。というか、それ以外の候補は見つからないです」


「『欲し』い物は『星』か。…………え、ダジャレ?つまんなくね?」


 ちょっと酷いと思う。界王様でも笑わないだろこんなダジャレ。


「子供向けのギャグにケチつけていると、後で自分が恥かきますよ」


「まあ、そういうもんだよな。ごめん。要するに星が手がかりか…」


 なるほど、ではヒントを訳すと星に手を伸ばせとなるのか。単純に解釈すると、夜空に浮かぶあの星々に向けて手を伸ばせばいいんだろうけど…まあそんな簡単なあれ?渾身のロリコンボケをスルーされたのめっちゃ恥ずかししくなってきたんだけど?そんな簡単なことはないだろう。おそらく星というのももしかして滑ってた?人のギャグに界王様どうこう馬鹿にしてたくせに自分も滑ってた?何かの比喩、もしくは星を表すアイテムがあってよし!思考だ!思考することで滑った恥ずかしさを紛らわすんだ!そのアイテムに手を伸ばすことで道が開けるとか…。まっ、何にせよ手がかりは星だ。とりあえずゲーム内時間が夜になって星が出てくるのを待つか。


「よし、星が手がかりなら取り敢えず星の出てくる夜まで待とうか」


「いいですけど、その提案出すまで随分時間かかりましたね?」


「ちょっと思考が止められなくて」


 また呆れるような目を向けてられたが、それももう慣れてきたな。

 さて、夜まで待つことになっけど、結構時間あるんだよな。

 ピュアミーにおける時間システム、舞台である星奈市にはもちろん朝と夜の概念が存在している。他のVRゲームと比べると珍しく、ピュアミーでは8時間ごとに朝と夜が入れ替わり、現実時間の16時間がピュアミー内の一日となる。毎日同じ時間にプレイしていれば、一日毎に昼間と夜とで遊べるという寸法だ。生活リズムが固定されているロリのためのシステムなんだろう。

 そして今は真っ昼間。日が暮れるまであと6時間以上もある。おまけに現実の方もそろそろ日が昇り始める頃合いだ。

 ………学校に行かなきゃなぁ。


「それじゃあ一旦お開きにしましょう。私も普段は社会生活してますので」


 カルナも同じように思っていたらしく、ここで解散し夜にまた集まることになった。

 言っちゃあれだけど、カルナがちゃんと社会人をしいてるっぽくて良かったよ。ゲームへの入れ込み具合からして廃人だとしてもおかしくないと思っていた。ピュアミーで出会ってきた人の中で、今のところ唯一の常識人枠だからな…………いや、そんなことなかったわ。一番ヤベェ奴だったわ。

 あっ、それともう一つ、これをカルナに言っとかないと。


「ちょっと頼み事なんだけど、魔女に貰ったヒントは他言無用でお願いしたいんだ」


 私達は単にゲームの攻略が目的ではなく、他のプレイヤーを差し置いて攻略するというのが目的だ。だから入手した情報はあまり公開したくので、カルナにもこうした口止めをしなくてはならない。

 私のお願いに、カルナは一瞬考えた後に、


「いいですけど、その代わりこれからも私の攻略に付き合ってくださいよ」


「うん、それはもちろん」


 お互いにサムズアップし、私達はログアウトした。



 ☆


 VRハードを外し、部屋に掛けてある時計を確認すると、すでに針は6時を指していた。どうやら一眠りする時間は無さそうだ。

 一瞬学校をさぼろうかという考えが頭を過ぎったが、もうこれ以上社会的信用度を落としたくないので真面目に登校することにした。ただでさえロリコンということで世間からは白い目で見られるのだ。


 学校生活については特筆することは無し。強いて言うなら、隣の席のギャルにスマホの中身を見られそうになったってことぐらいか。まあ見られても問題にならないものしかスマホには入れてないから大丈夫なんだけど。もちろん送検になるようなものは元から持っていないので安心してほしい。

 あとなんか知らんけど女子小学生に防犯ブザー鳴らされた。なんか知らんけど。



 ☆


 カルナとの約束の時間に間に合うようにログインをし、再び星奈市に降り立つ。ピュアミー内はもうすでに夜、空には街灯一つない田舎のように満天の星が輝いている。

 星奈市に昔落ちた隕石の魔力の影響で、この地域は毎日これほどまでの星空をみることができるらしい。取り敢えずヒントの通りに手を伸ばしてみるが…やはり何も起きないな。

 この景色を見ていると、昔やったVRプラネタリウムというゲームを思い出すなあ。あのゲームは壮大過ぎて、自分の矮小さを嫌というほど感じさせられてキツかった。余談だけど、VRプラネタリウムが発売された時期は鬱病患者が2倍に増えたらしい。

 …駄目だ駄目だ、星空のせいでまたあの時の虚無感が再燃してきた。ああ〜鬱になる〜。どうしよう〜。

 あっそうだ、胸元に2つも抗鬱剤があるじゃん!前に揉んだときは虚しさしか感じなかったけど、中学生の清らかな胸じゃそりゃ気持ちよくならないだろう。正解は揉むではなく弾く、だ!

 よし実践だ。こうやって指で弾くと……おおぅ、あ゛ら゛がう゛~。


「やあ、ナナオくん。なにやってんの?」


 いきなり後ろから見覚えのある二人組に声を掛けられた。一人は私のよく知る人物、


「おお、リヴァイアちゃん!奇遇だな」


「まずその指を止めようか」


「?」


「なにその「え?みんなも普段やってることでしょ?」って顔。みんなやってないからね?」


 リヴァイアちゃんと別れたのはほんの十数時間前なんだけど、その間に色々ありすぎて凄く懐かしい気持ちになる。

 そして、リヴァイアちゃんが連れているもう一人の方も見覚えが。確か和姦部隊のメンバー、名前は…


ダンスDダンスDレボリューションRさんだっけ?」


「誰がダンレボだ。DDRだ」


 ツッコまれた。

 いや、DDRと言ったらダンレボしか思い浮かばないんだけど。てっきりそこから名前を付けたのかと。


「じゃあDDRというのは何の略なの?」


 私の問いかけにDDRは少し逡巡した様子を見せて答える。




「……ダンクDダンクDSLAM DUNKRだ」


「………どういうボケ?」


 それにRじゃなくてLじゃん。

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