第21話 より豊かなピュアミーライフを送るための7つの習慣

 前回のあらすじ:スポーツ漫画特有の早口やり取り



「ウロちゃん!」


「マジカル☆カルナ、ぶ、無事みたいだね。君を守れて…良かったよ……」


 今私の目の前で感動的なやり取りが繰り広げられている。身を挺して主人を庇い、満身創痍の使い魔。そんな使い魔を心配し、駆け寄り介抱する魔法少女。うーん、尊い光景だな。中身が恐らくいい年こいた大人だということに目を瞑ればだけど。


「ナ、ナナオはん、あんたが無事で…よ、良かったわ」


「あっ、ウッス…どうもっす………」


 私を守り、魔女の魔法に焼かれてボロボロの状態になったロリ♡ラブ某。魔法の影響なのか分からないが、全身が燃え尽きたように白くなっている。別にプレイヤー本体にダメージが行くわけでもないのに、そんな掠れた声を出す必要無いだろ。

 こいつに救けられたのは少し不愉快だな。まあこいつのおかげでこのイベントをクリアできたのだけども。

 普段は悪い奴が良いことをすると補正がかかって凄く良い奴に見える、ってのがあるけど、実際にその場面に出くわしてもそんな気持ちには一切ならないものなんだな。まあこいつの場合は、普段は悪い奴がさらに悪いことをするために良いことをする必要があったってだけで、良いことをしている間も悪い奴のままだったわけだから……うん!自分でも何言ってるか分からなくなってきた!どっちでもいいや。

 命の恩人とは言え犯罪者なのは犯罪者。いい機会だし、もっと情報集めようか。


「救けてもらい、あざっした。あの、良かったらフレンドとかなってくれませんか?」


「そう言ってもらえるのはありがたい。やけど、残念ながらワイは皆の救世主なんや。誰か一人とフレンドになることはできへんねん」


 チッ、やっぱり駄目か。徹底本心からの台詞か分からないところがより一層腹立つな。

 そして不愉快そうな顔をしている人がこの場にもう一人。


「使い魔………、忌々しいわね。そのミーティアを守ったってことは、そっち側に付いたってことでいいのよね?」


 顔をしかめながら不快感を隠そうともせずそう話す欲望の魔女。話の内容からして、どうやら私達が魔法に耐えたことを煩わしく思っているのではなく、ウロボロスという使い魔の存在自体を懸念している様子だ。

 思えば使い魔というキャラは、ゲーム開始時点からスマホの姿で私達プレイヤーの傍にいた。ゲームのキャラとしての私達が魔法少女になった過程に使い魔も関わっているはずだ。恐らくゲーム開始より遥か昔にあったのだろう、欲望の魔女と使い魔の間にはただならぬ因縁が。

 魔女に問いかけられたウロちゃんは、傷ついた小さな身体を起こしながら答える。


「なんのことかな。君とは初対面のはずだ。確かにボクはマジカル☆カルナの味方だけど、それが君と何の関係が?」


「アナタが私のことを知らないはずはないわ。おそらく忘れているだけでしょうね。ま、そんな姿になってしまったのだから、それも仕方ないことなのかしら?安心しなさい、そのミーティアと一緒にいる限り嫌でも思い出すことになるでしょうから」


 そんな姿になった?もともも使い魔は別の姿だったということか?

 使い魔というキャラクターはプレイヤー1人1人に付いている。魔女は今ウロちゃんと会話しているけど、魔女の言う使い魔はウロちゃん個人を指すものではなく、使い魔という種全体のことを指しているはずだ。使い魔は魔女のことを知っている。そして魔法少女と共にいることでそれを思い出す。考えるまでもなく、使い魔はピュアミーにおいて最重要キャラだな。

 ………………………ま、私には関係ないけどな!使い魔いないから詰みじゃん。はーーネンマツネンマツ。


「使い魔のおかげとは言え、あなたが私のジェラ・メテオールを耐えたのも事実。約束通りご褒美をあげないといけないわね。それと……」


 魔女がカルナたちから私の方に視線を移す。

 ああ、そうか。これはもともと使い魔が救ける前提のイベントなんだ。使い魔無しで、尚且生き残った私達をどうすればいいのか迷っているのか。

 さあ、魔女に積まれたAIはどう判断するのか?


「あなた達は…………………………………まあいいわ)


 あ、思考放棄。


「ご褒美は何がいいかしら?ただアイテムを渡すってのもつまらないし………そうね、いいことを思いついた。あなたたちにはヒントを教えてあげる」


 パンと両手を叩く魔女。


「ヒント?」


 何のだよ、と思わず声が漏れる。


「あら、わからないの?」


「初日です」


「とにかくヒントよ」


 なんのヒントなのか、それも自分で探せということか。


「その前に」


 そう言って魔女が空に手をかざす。

 すると、ロリ♡ラブの頭上すぐのところにブラックホールのような黒い渦が現れて


「おっ、なんや?なんでや!?なにがあかんかったんやーーー!!」


 ヒュンっとロリ♡ラブが渦に吸い込まれた。

 一瞬のことで声が出なかった。


「あなたは耐えていないでしょう。だからごめんなさいね、ヒントは聞かせてあげられないわ」


「てっ、てめぇ!……………………………グッジョブ!!」


 ロリ♡ラブがなんで殺されてのよくわかんないけど、ナイス判断だよ欲望の魔女!


「グッジョブ?何でそんな反応するのかわかんないけど……まあいいわ」


 魔女が改めて私達に向き直る。さっきまでの獲物を見定めるような表情とはうって変わり、少し口角は上がっているものの真剣な顔をしている。


「欲しい物に手を伸ばしなさい」


「うん」


「じゃあせいぜい頑張りなさい」


「えっ?それだけ?」


 魔女の全身が陽炎のように揺らぎ、フッと宙に消える。なるほど、この魔女は分身か幻影かなにかで、本体は別の場所に居るのだろうか…


 じゃないよ!待て待て待て待て、え?本当にそれだけ?『欲しい物に手を伸ばしなさい』ってだけ?なんのヒントだよ!?

『欲しい物に手を伸ばしなさい』ただの自己啓発本のタイトルじゃないか。本屋でよく見る文章だよ。本屋の一番目立つところに並べられてる文章だよ。そういやヒントを言うときの魔女、なんだか自己啓発本の表紙の顔写真みたいな表情していたぞ!

 なんだ?要するにヒントってのは、ピュアミーを攻略するためのヒントってわけではなく、現実の人生をより豊かにするためのヒントということか?要らないよそんなヒント!そもそも私は人生をより良くするためにこのピュアミーに来ているんだから。


 同じくヒントに対して困り顔をしたカルナが駆け寄ってくる。


「ヒントの内容、分かりましたか?」


「取り敢えず、本屋に行ってみようと思う」


「何で?」

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