第20話 ジェラ・メテオール

 前回のあらすじ:フーアーユー?アイムファイン!


 魔女の猛撃を躱し、天使の警戒をすり抜け、やっとのことで犯罪者の情報の断片である『ロリ♡ラブ』の5文字を入手することに成功した。

 この情報を運営にメールで送り、私達の仕事は終了。このイベントの後に出来たら事情聴取をして、その後はもう運営に任せよう。

 ゲームの中の発言とはいえ、盗撮の自白に加えてこれからも罪を犯し続けるという宣言もしているんだ。運営も警察もしっかり働いてくれると信じて待っておこう。

 私達が折角容疑者を(5千人までに)絞ったんだ、せいぜい有効活用してくれよ。

 これで終わった。そう思い気を緩めると、戦いの疲れがドッと押し寄せてきた。盗撮魔『ロリ♡ラブ』、今まで出会ってきた中で間違いなく最凶の敵だった。凶悪さで言うとラスボスクラスだったんじゃないか?



「まっ、何にせよこれで一件落着だな」


「落ち着いたのは二件目です。一件目はまだ解決してませんよ」


 と、未だ気を張り詰めたままのカルナ。

 もうボスは片付けただろうに何言ってんだこいつ?そう思いながらも、その真剣な視線の先を見てみる。

 その先には、盾をずっしり構えて防御の姿勢をとってる大天使ことロリ♡ラブ某の姿と、今まさに即死級の攻撃を放たんと、荘厳な文言を唱えながら、掌に星屑の様なエネルギーの渦を溜め続けている欲望の魔女の姿があった。


 うん、完璧に忘れてた。そういや元々私達が戦うべきなのはあの魔女の方だった。

 魔女が左の掌に溜めているあの魔法、見た感じ相当ヤバイぞ。当たればひとたまりもないだろう。果たしてカルナのゴールドシールドで防ぎきれるかどうか…。いけるか?そう確認するようにカルナに目をやる。


「…………折角の、折角のレアイベント、レアイベントを……あんな奴のために、あんな奴のためにぃぃ………殺す、死ね、殺す…」


 肩をワナワナ震わせながらブツブツと呟くカルナ。…よし!なんだか怖いけど、意気込みは大丈夫そうだな!うん!

 魔女は詠唱を終え、貯めていたエネルギーの塊を圧縮させた。そして私たちを舐めるように見回して喋りだす。


「あら?逃げも隠れもしないのね、あなた達。せっかくたっぷりと時間をかけてあげたのに。勇敢なのね。それともただの無謀?無知?実力差を理解できていないだけなのかしら」


 そう言い首をかしげる欲望の魔女。

 なるほど、あの壮大なタメ時間はどうやらプレイヤーが逃げるために用意されたモノだったらしい。それを私たちは、犯罪者の名前が何だのというしょうもないことに使ってしまった。

 はあ、やっちまったなあ。イベント攻略のチャンスをものの見事に逃してしまった。カルナも呟いていたがこれはレアイベントだ。そこまでピュアミーの内容自体には興味がない私だけど、一応は真面目にやっていた所をあんな輩に邪魔されるのは心外だ。まあ、あいつがこなかったらそのまま負けていた可能性も無きにしも非ずだけど。

 そんな私の嘆きに気付くはずもなく、魔女の台詞は続く。


「まあでも、勇敢な娘は好きよ。臆病なのよりはずっとね。いいワ、その勇気を賞して何かご褒美でもあげようかしら。もちろん、この『ジェラ・メテオール』を耐えたらの話だけど」


 ん?ご褒美をくれるって?今そう言ったよな?

 おお!これは思いがけずも正解ルートを引いたっぽいぞ!

 一定ダメージを与えればいいのか、時間経過まで耐えればいいのか、それとも端から負けイベなのか、今まで何をすればいいのか分からないイベントだったけど、これで『ジェラ・メテオール』なる何やら凄そうな魔法を耐えるという明確な勝利条件が提示された。

 そもそも耐えることができるのかってのが問題だけど

 隣のカルナに声を掛ける


「カルナ!アレに耐えられそう?」


「やれるだけやってみます。ナナオさんは何か手段はありますか?」


「ない」


「何か案は?」


「ない」


「モチベーションは?」


「正直ない」


「…クソが」


 …しゃーない、カルナに頑張ってもらうしかない。

 魔女が仰々しく暗く青い光が渦巻いている左手を私たちの方へ差し出す。

 来る!


「さあピュアミーティア、あなた達の輝きを見せてちょうだい。『ジェラ・メテオール』!」


 そう言い放つとともに、左手から光線が流星の如く発射される。その様は、まさしく宇宙。無重力空間を逆行するアステロイドの様に、青黒い闇の光と無数の岩弾が襲い掛かる。


「ゴールドシールド!」


 私が語りかけるよりも速くカルナは防御魔法を展開していた。

 光線がシールドにぶち当たり、ダンッと重い衝撃が安全圏である中にまで響いてくる。


「カルナ!大丈夫か!」


 そう心配の声を上げた時にはもう遅かった。

 幾千もの小惑星の弾丸が黄金の壁に降り注ぐ。いくら万能の防御魔法と言えど、欲望の魔女が溜めに溜めたフル詠唱の強力な魔法に対抗できるはずもなく、カッシャーンとけたたましい音とともにシールドが崩れ落ちていく。


 え?無理じゃね?それがシールドが割られた時の私の率直な感想だ。装備も魔法もろくに揃っていないこんな序盤に、そんな強力な攻撃に耐えられる人なんて居るわけないじゃないか。は?無理ゲーか?

 私がそう思った矢先だった。

 死を悟り呆然とした表情のカルナの胸元から黒い影が飛び出した。


「大丈夫だよ、マジカル☆カルナ。君はボクが守る!」


 カルナの前に出てきたのは、自身の尻尾を加えた黒い小さなドラゴン。その姿は確か………!


「ウロボロス!」

「ウロちゃん!」


 そうだ、カルナの使い魔のウロボロスだ!今まですっかり存在を忘れていた。保健室で見た以来一切音沙汰がなかったもんだから、てっきりあのままフェードアウトしてもう二度と出てこないんだろうなと思ってた……。

 まさかここで出番を用意するとは…、やってくれるな。使い魔の助けによってイベントクリアとなるわけか。

 ウロちゃんが両手をかざし、ウロちゃんとカルナのの前に白銀の魔法陣が展開される。

 ………………私の分は?


「あのー、ウロさん?私の前だけ魔法陣が無いんですが…」


「大丈夫だよ、マジカル☆カルナ。君はボクが守る!」


 あっ、そういう………

 自分の主人しか守ってくれない感じ?

 いや、私は仲間なんだしついでに守ってほしいんだけど。


「カルナからも言ってやってくれない?私も守るようにって」


「自分の使い魔に言ってください」


「いや、居ないの分かってて言ってるよね?」


 え?本当に守ってくれないの?嫌だよ、私だけ死んで一人だけイベント報酬貰えないなんて。

 私の使い魔、通称ス魔ホは、初手のコミュニケーションを失敗したせいで、未だスマホの状態から反応が無い。私の命が懸ってるこの状況ならもしかしたら覚醒してくれるのではないか、そう思いダメ元で攻撃にかざしてみたり叩いたり呼びかけてみたりするが………クソッ、うんともすんとも言わねぇ。

 駄目だ、もう間に合わない。魔法少女に敗北を齎す青い閃光は鼻先まで来ている。

 私の敗北が決するまであとコンマ何秒。その刹那とも呼べる間、身体こそ動かないが私の思考は何故か冴え渡っていた。


 なあス魔ホ、初めて会ったときに真面目に会話しなくて悪かった。謝るよ。あの頃の私は何も分かっていない馬鹿だった。舐めていたんだよ、ロリのこと、ロリコンのこと、そしてこのピュアミーというゲームのことを。

 ロリなんてすぐに見つけて仲良くなれると思っていた。他のロリコンも私と似たような人達だと思っていた。ピュアミーなんて女児向けなんだから適当にやってクリアできると思っていた。ハハッ、こうして反省してみるととんだマヌケ野郎だな。実際は、ロリは賢いからこんなおっさんだらけのゲームなんかやらないし、ロリコンは私なんかよりずっと凄い人ばっかだったし、ピュアミーはきちんと『魔法少女』にならなければクリアできないゲームだった。

 結局、当時の私はロリコンなんかじゃなかったんだ。自分達の信念を貫き通すロリコンのその姿に憧れていただけだ。同年代の女の子をどうしても好きになれず、小さい女の子がタイプってだけで、そこには愛もへったくれも無い。コンプレックス以外何も無く、ロリコンという言葉でカテゴライズしないと溺れて息もできなくなるような、弱い人間だ。

 だけど、そんな俺にも肯定も否定もしてくれる仲間ができた。真正面からぶつかってくれる敵もできた。そして凌辱部隊と闘っているときに誓ったんだ、私も人に胸を張れるようなロリコンになると!

 このイベントをクリアすると、恐らく他のロリコンどもより数歩先に進めるだろう。私みたいな馬鹿を仲間と呼んでくれるフェルミンとリヴァイアちゃんのために!そして何より、ロリのために!私は絶対に負けられないんだ!

 だからス魔ホよ、応えてくれ!私はお前のために、いや、ピュアミーティア・オンラインをクリアするために、完璧なロリコン魔法少女になる!そのために、このジェラ・メテオールに耐えるだけの力を貸してくれ!

 さあ、今こそ覚醒せよ!私の敬虔なる使い魔よ!


 それは、魔女のジェラ・メテオールが直撃する瞬間だった。

 心の叫びに応えてくれたのか、光り輝くが勢いよく私の前に身を挺して飛び出した。

 ありがとう、ス魔ホ。ありがとう、私の使い魔。君のおかげで助かったよ。ス魔ホじゃ味気ないし、後でちゃんとかっこいい名前を付けてあげないとな。

 そして光り輝くそれは、私を庇ったまま口を開き、







「大丈夫やで、ナナオはん!あんたはワイが守ったるでー!」


「いやお前かい!」




 ちなみに普通に耐えた。

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