第19話 貴方の名前はなんですか?
前回のあらすじ:アーアー(聖歌っぽいBGM)
はい、えー、現場のナナオです。ただ今私とカルナで暫定ラスボス(エネミー)と戦っているところですが、まさかのもう一体のラスボス(プレイヤー)に乱入されました。いやー、折角3対1になったと思いきや2対1対1だったとは、想像だにしませんでした。取り敢えずねっ、なんかラスボス同士がやりあってくれてるんでね、今のうちにカルナと相談しておこうと思います。さあ、この状況どう思いますか、カルナさん?
「1対1対1の間違いでは?ゴミ屑バトルロイヤルに私を巻き込まないでください」
「うん、今ボケるのはやめてね。ややこしくなるから」
「?」
あっ、本気で言ってたんだ。何かおかしなことでも言ったか?という表情だ。
あんな堂々と盗撮宣言するような奴と同類扱いされるのは心外だ。少なくとも私は法を違えたことはないし罪を犯したこともない。
私だってあんなちゃんムカつく犯罪者は、同じロリコンとして許してはおけない。というかロリコン関係なく着替え盗撮はアウトだしな。
しかも何がムカつくかって、装備の見た目が、頭上には光り輝く輪っか、背中には大きな翼と、ゲームでよく見るような大天使の格好まんまなのがムカつくんだよなあ。お前は裁かれる側だろう。
「あんさんがたは戦いに加わるのは難しそうかー?このままやとワイ一人で勝ってまうでー!」
「あっ、お気になさらずー!」
私達のことを気にかけてくれているのか、大天使は戦闘中にも関わらず声を掛けてくる。恐らくラスボスクラスの欲望の魔女と真っ向から戦えてるのは凄いが、本当に善行するつもりか?もうなにやってもお前の悪行ポイントは天元突破してるぞ?
さてどうするか…。
「通報する?」
「ですね」
よっしゃ即決。カルナも乗り気だ。
こういう場合って通報するのは警察でいいのだろうか?あまりまともに扱ってくれなさそうなんだけど…。
そんなことを考えてるとまた大声が聞こえてくる。
「くっ、中々やるやないか魔女さんよ!やけどあんたの悪意なんかワイの善意で叩き斬ってやるわ!」
「なあカルナ、ウザいから通報前に一発おしおき砲いっとかない?」
「既に私刑を受けたとかなんとか言われて減刑されても嫌ですし、やめときましょう」
おおぅ、豚箱送りは確定か…。ナイス判断!
「ピュアミー運営に通報した方が確実に対処してくれますよ。運営なら警察とも協力体制をとれるでしょうし。なんなら私が直接連絡しときますし」
「なるほど、じゃあ頼むわ」
確かに運営なら確実だ。ただでさえ女の子向けのゲームにロリコンが蔓延ってるのにガチ犯罪者まで居るとなると、運営も怒り心頭だろう。
あと地味に今の発言でカルナが運営と繋がっていることが確定したな…。
「通報するためには相手のプレイヤーネームを知る必要があるんですけど………………見えないですね」
「ちょっと遠いな。危ないけど近づくか」
そして当の犯罪者はというと、絶賛戦闘中、魔女の攻撃を避けて弾いての大立ち回りだ。数十メートル離れていて尚且動き回ってるもんだから、勿論PNの判別なんてできない。
仕方ない、危ないけど近づくか…。
時折飛んでくる流れ弾を避けたり魔法で防御しながら、犯罪者に察せられないように慎重に二人で進んでいく。
あっぶな!今火球が鼻先掠めたぞ。……何故私はあんな大天使ロリエル何ぞのためにこんなスニーキングイライラ棒をさせられてるんだ?ゲーム間違えたか?
さあだいぶ近づいた。流石にこの距離ならPNが分かるだろう。激しく動いているせいで読みにくいだろうけど、目を凝らせばなんとか………あれ?見にくいな…。もうちょっと寄って…んん?見えないぞ?PNはどこにあるんだ?表示されてないなんてはずは無い。だけど、PNがあるはずの位置を見ても、何も……………………………
「ナナオさん大変です!頭上の輪っかが邪魔でPNが判別できません!」
「なぬぅ!?んなアホな!?」
クソっ!表示されているPNを囲うような位置に光輪があるせいで、周りからは何も見えねえじゃねえか!そんな装備ありかよ!
しかもご丁寧に、輪っかがPNと水平に固定されているせいで、どれだけ頭を振っても隠れるようになってやがる。
「なるほど、特定対策は完璧と言うことですか。小賢しい!」
「いや、流石にたまたまだと思うけど…」
だがどうする?このままじゃPNを確認できない。装備等の曖昧な情報だけでも運営は動いてくれるだろうか?むずかしそうだな…。
そうこうしているうちにも、魔女と彼の戦闘はヒートアップしていく。魔女の魔法攻撃の猛攻を彼が全力でいなしている形だ。時折反撃を加えてはいるが、魔女はものともしていない。
このまま彼が押し切られるか、逆に勝利条件を達成してしまうかすればタイムアップだ。それまでにどうにか通報するための材料を見つけなければ。
そうやって私が逡巡していると、なにかに気づいたのか、彼がいきなりこちらに振り返ってきた。
まずい、私達の思惑がバレたか?一瞬そう頭をよぎったが、彼は何も気にした素振りはせず
「おう!そうな近うおったら危ないで!それとも手伝ってくれるんか?ほんならめっちゃ助かるわ!」
うーん、やはりフレンドリー。自分が通報されるとは微塵も思ってないのだろう、それほどまでに自負に満ちた顔だ。今この瞬間だけは、彼の行動理念は善意でしかない。
恐らく天使の輪っかのせいでPNが隠れてるのもたまたまなんじゃないか。
ん?こんなにフレンドリーなんだったら、直接名前を聞けばいいんじゃないか?
うん、そうしよう。それなら一発じゃないか。
戦闘の方も、魔女の猛攻が止み丁度一段落着いたところだ。一息ついている彼に話しかけよう。
「あのー、1つ聞いてもいいですか?」
「なんや?スリーサイズ以外やったらなんでも答えたるで」
「あなたの名前を教えてくれませんか?)
「名前?あ!まだ名乗ってなかったか!あちゃー、ワイとしたことが」
額に手を当て大げさなリアクションをとる彼。
「そうやな、聞いてくれたんは有り難いけど、生憎ワイは名乗るほどの名前を持ち合わせてへんねん。ただの流離いの天使や!ってカッコつけすぎやな、がははー」
「そういうのいいんで。普通に教えて下さい」
うぜぇ。犯罪者補正が乗って倍でうぜぇ。そして面白くねぇ。
「せやなあ、ここは敢えて、エンジェルアーク・フォトンナイツとでも名乗っておこうか」
「いや教えろよ」
わざとか?わざとやってるのか?
そのナイスツッコミ!て顔やめろ。
「なんでそんなに名前が気になるんや?てか名前なら普通に表示されてるやろ?」
「あなたの場合輪っかの装備のせいで見えないんですよ。なので輪っかを外すか名乗るかしてほしいんですけど」
「この輪っかはワイが善行を行うときの象徴みたいなもんや。これがなければ善行の効果も薄れてしまう。やからすまんな、これは外されへん」
そう言って彼は再び戦闘に戻っていった。
いや名乗れよ。
会話を交わした感じ、あいつは確信犯なのか?それとも確信犯(誤訳)なのか?恐らく後者なんだろうな。
もう私達の目的もバレただろうし、これで自力で名前を知らなければならなくなった。さて、どうしたものか。
「私にいい考えがありますよ」
おお、カルナ!会話に入ってこないと思っていたらちゃんと案を考えてくれていたか!
「上空斜め上からなら輪っかに邪魔されずに見ることができます」
「なるほど。でもどうやって斜め上に位置取るの?」
「そこはナナオさんがどうにか頑張ってくれれば」
うん、まあそうなるよね。
確かに一番可能性が高い案なので、試すだけ試そうか。彼も私にPNを見せないように気を張っているだろうし、戦闘もますます激しさをましている。一筋縄では行かなそうだ。しっかりとタイミングを見図らないと…。
様子を見ていた私達に絶好のタイミングが訪れた。欲望の魔女がなにやら壮大な詠唱を唱え魔法をタメ始めたのだ。彼は魔女が何をしてきても対応できるように全力で構えている。これなら私が除きに行っても対処する余裕は無いはずだ!
私は迷わず駆け出した。この機会を逃せば次はない!
至近距離まで近づいたが気づかれている様子は無い。よし、いける!高さを確保するために横の塀に登り大きく跳ぶ。
「くっ、見えた!って名前長え!」
そのまま着地し魔女が魔法を撃つ前に急いでカルナの下へ戻る。
作戦自体は成功したけど、斜め上からのせいで見づらく、全てを読むことができなかった。なんであんな無駄に長い名前をしてんだよ。
「どうでしたか?」
カルナが駆け寄ってくる。
「ごめん、最初の5文字ぐらいしか読めなかった」
「それだけ分かれば絞れるんで充分です、ナイスですよ。私全プレイヤーの名前が乗ってる検索ツール持ってるんで、今検索掛けちゃいましょうか」
「それは良かった。じゃあ頼む」
なんでそんなツール持ってるのかとは聞かないであげよう。
「それで、どういう文字でしたか?」
「ええと、確か最初の5文字が『ロリ♡ラブ』だった」
「クソみたいな名前ですね」
私もそう思う。
「たぶん絞るまでもなく検索掛けたら一発でフルネームが分かりますよ」
「だな」
恐らくそんな名前のプレイヤーは多くても10人もいないだろう。後は運営に通報して私達のやることは終わり、警察が動いてくれるかどうかは運営の対応しだいだろう。会話ログとか残っていたら逮捕しやすそうだなあ。
カルナは通報ついでにPNを検索に掛けてくれているみたいだ。
「検索結果出ました」
「おおっ、フルネームは何だった?」
私が聞くと、カルナは答えづらそうに、
「……名前の頭がロリ♡ラブで検索したら、5632人ヒットしました」
「……そうか」
佐藤姓かな?
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