第18話 救世主
前回のあらすじ:なにかのメタファーかな?
初期リスポーン地近くの初心者エリアに突如として現れたラスボス・欲望の魔女。相対するのは魔法少女になりたてほやほやのビギナー二人、私たち。
うーん、これは流石に負けイベか?取り敢えずやれるだけやってみるか。
まずは自分たちの持ってる戦力の確認だ。これだけの強敵と戦うとなると、しっかり戦力を確認した上で作戦を立てないと話にならない。私の持ち札は武器:仕込み杖(無強化)魔法:癒やしの光(中回復)だ。うん、そもそも話にならないや。
これは皆の便利屋カルナちゃんに託すしかない。
「カルナ。あいつを倒せる魔法とか武器とか持ってる?」
「なんか不本意な呼ばれ方をされた気がしないでもないですが…。求められたのなら仕方がない、ここで特典魔法を解禁しちゃいましょう!」
子供のような笑顔でそう宣言するカルナ。本当にこの人は楽しそうにプレイしてるなあ。
「特典魔法っていうと、前に言ってた課金で貰えるやつのことか」
「課金じゃないです特典です。ホープ社の悪口はやめてください」
課金が悪口になるのか…。散々言われてきたんだろうな。
「それに、この特典魔法は持っている人のみが特別強くなる魔法ではありません。この魔法は仲間を守るための防御魔法、みんなのための優しい魔法なんです!」
「親御さんの財布には優しくないけどな」
「たった一万円でかわいい我が子の笑顔が見られるんですよ?安いもんじゃないですか。それともなんですか?ナナオさんは小さい女の子のために一万円すら出せないとでも?」
………………………余裕で出せる!!
なんかピュアミーに来てから論破しかされてないような気がするんだけど…。ここにいる人達ってそんなにぶ厚い人生送ってるの?
「というわけで、私は防御とサポートに専念します。攻撃は任せました」
「応!」
気合よく返事をする。
思えばカルナと真面目に共闘するのはこれが初めてなんだよな。会長のときは私はただの囮だったし。そうなると是非とも勝ちたいものだ。
ふふ、なんだかんだ言ってちゃんとピュアミーを楽しんでるな、私。女子中学生ロールプレイしているうちに心まで女子中学生になってしまったか。
さあ余計なことを考えるのは終わりだ、今は目の前の邪悪なオーラを放つ欲望の魔女に注視しよう。
「あらあら、そんなに怯えちゃって。でも安心していいのよぉ。ちゃんと手加減してあげるカラ」
私たちが一向に手を出してこないのを怯えていると捉えたのか、まさかの手加減発言。負けイベじゃなくて、一定ダメージ与えたり攻撃を耐えきったりすることで勝利になるタイプのイベントということか?
うわー、負けイベの方が気楽にやれて良かったんだけどなぁ。仕方ない、これで負けられなくなった。
欲望の魔女との距離はおよそ10メートル。相手の間合いを測ろうと、一歩目を踏み出したその瞬間だった。
殺気。
魔女が腕を水平に薙いだ。すると彼女の周りに無数の魔法陣が出現し、そこから放たれた魔力の飛礫が流星となって私たちに襲いかかる。
「カルナ!」
「ゴールドシールド!」
私が声を掛けるよりも速くカルナは動いてくれていた。カルナが両の手の平を勢いよく地面に叩きつけると同時に、天球状の金色の膜が私たちを覆う。
間一髪、間に合った。
シールドに弾かれた飛礫が空中へと霧散し消えていく。
「ありがとうな。それにしてもすごい魔法だな」
「なんてったって特典ですからね。まあでも物理攻撃にはめっぽう弱いですけど」
カルナのゴールドシールドに救けられたが、これで一安心とはいかない。依然として魔法陣は展開中、飛礫は放たれ続けている。ここからどうにか攻撃を掻い潜って魔女の喉元までたどり着かないといけない。が、恐らく無理だろう。飛礫の一つ一つは見てから回避余裕な弾速なんだけど、如何せん弾幕が厚すぎる。取り敢えず攻撃が止むまで様子を見てみようか…
…と考えてから2分経った。うーん、これは、あれだな、
「詰んだな」
「詰みましたね」
どういう訳か魔女の攻撃が一向に止む気配がない。飛礫を撃ち続ける固定砲台と化してしまった。恐らく二人ともがシールドの中に籠もるという行為がアウトだったんだろう。
クソッ、距離をとって避け続けながら遠距離攻撃、もしくは二手に分かれて攻撃するってのが正解だったか。
さてどうするか、全力で横にダッシュしたらなんとか避けられそうだけど、それをしたらしゃがみこんだままのカルナが逃げ遅れる。どうしようもないか…
「ナナオさんナナオさん」
「はいなんでしょう?」
「時間切れです」
「まじか」
シールドがふっと消え、眼前にまばゆい光の欠片が広がる。
あっ、終わった。そう思った瞬間、その救世主は私達の前に舞い降りた。
背中から生えた大きな翼、頭上には光の輪、純白の騎士服を着たその姿はまさしく天使。
思わず私は見惚れてしまっていた、その凛々しさに。
救世主は地面に降り立つと同時に左手の盾を構え、魔女の飛礫を軽々と押し返した。そして私達の方を振り返って一言。
「あんさん達、怪我はないかあ?ま、ゲームなんやから怪我あるわけないわな。ハッハッハ」
その格好で関西弁!?いやでも強え!なんだこの男は!?
危なかった、もう少しで死ぬところだった。まさしく命の恩人だ。
「あの、救けていただきありがとうございました。なんとお礼したらいいか…」
「気にせんでええ気にせんでええ、困ったときはお互い様や」
なんていい人だ。強い上に人間もできている。かっけえ。
「あの、お礼したいんでちょっとお話を…!」
「話聞いてあげたいんは山々なんやが、どうやら奴さんもワイに話があるみたいやわ」
魔女の方に目をやると、既に第二陣の準備をしていた。それを見るやいなや、男は魔女の方へ駆け出し戦闘が始まった。
すげえ、欲望の魔女とまともにやりあってやがる!
「あの人…一体何者なんでしょうか?」
「さあな、ただ私達の味方、そして私達の恩人ってのは確かだな」
まだこのゲームを始めて10時間ほどの私だが、彼がピュアミー内でトップクラスの強さだということはわかる。そしてトップクラスに優しいということも。
だがそんな彼でも欲望の魔女とソロで戦うのは難しいらしい。徐々に押され始めている。
一度体勢を整えようとしたのか、彼は魔女を弾き飛ばし、私達の元へ戻ってきた。
「ふぃー、一旦休憩や。あいつバカ強いわ」
強くて凛々しい外見から放たれる飄々とした関西弁が、ギャップを感じさせて一層格好良く見える。私はいても立ってもいられなくなって聞いてしまった。
「あの、あなたは何者なんですか?なんで救けてくれるんですか?」
「アホなこと聞くなあ。人を救けるのに理由なんかいらんやろ?」
か、かっけぇ!返しまでかっけぇ!
「て、言えたらカッコいいんやけどな。実は理由はあるんや。あっ、でも個人的な理由であって、別に見返り求めてるとかちゃうから安心してええよ」
ちゃ、茶目っ気もあるなんて…!もう完璧人間やがな!
「その理由というのは?」
「善行ポイントや!」
…ん?善行ポイント?なんかちょっと雲行きが怪しくなってきたぞ?
「世の中には悪行と善行が存在するやろ?人間っちゅう生き物は悪行に偏ったらあかん!だから善行ポイントを集める必要があるんや」
ふむふむなるほど、確かに悪いことはしてはいけないし、善いことをするべきだ。
「ほんでワイは今善行ポイントが不足してもうてるんや」
善行ポイントが不足?具体的にどういうこと?
「ワイな、実は昨日幼女の着替えの盗撮を5回やらかしてしまったんや…。やから今日中に善行ポイントを5ポイント稼がなあかんのや」
「「…………」」
「ゆくゆくはこのピュアミーで善行ポイントを稼ぎまくって、いくらでも盗撮できるようにワイは頑張るでぇ!」
なるほど。全く笑えないタイプの
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