第17話 欲望の魔女

 前回のあらすじ:着せ替え要素が充実してるならアバターは女性一択


 新しい魔法が欲しい。

 ピュアミーは魔法がメインウェポンのゲームだ。いくら武器が強かったとしても、肝心の魔法が弱いと話にならない。そして今私が持っている魔法は癒しの光という回復魔法のみ。これは早急に攻撃魔法を手に入れる必要がある。

 というわけで新たに魔法を覚えるためにクエストをこなそう。折角だしフェルミンとリヴァイアちゃんの二人も呼んで……だめだ、二人ともログアウトしてる。仕方ない、カルナと二人で行くか。


「カルナ、一緒にクエストやろうか」


「いいですね、それなら掲示板行きましょう」


 というわけで校内にある掲示板の前に。ここではシンプルクエストと呼ばれる種別のクエストを受けることができるらしい。シンプルクエストは、街にいるNPCから受注するNPCクエストに比べて報酬などのうま味が少ないが、イベントを起こす必要もなく誰でもすぐに受けられるという利点がある。取り敢えず魔法が欲しいだけの私に打って付けだ。

 さて、どのクエストを受けるかだ。できるだけ早く終わらせたい、要領のいいクエストを受けよう。…『巨大植物きょだいしょくぶつカオスフラワーをたおせ』強モンスター系は今の私じゃ時間がかかるだろうからスルー。『おとしものを見つけて』捜索系は下手したら延々と探し続ける羽目になるからな…やめておこう。できれば雑魚モンスターを〇匹討伐とかそんなんがいいんだけど…。『はいビルエリアでダークキャットを5体たおせ』お、これいいじゃん!…ダメだ、目的地が遠すぎる。あれも駄目これも駄目………………………………よし、この『どくネズミを3体たおせ』にするか。うん、場所と難易度どれをとってもこれが一番要領よく終われるだろう。


「決まったよ」


「要領クソ悪くないですか?一つクエスト選ぶのに何分掛かってんですか」


 …都合の悪い言葉を聞いてる暇なんかない、さっさとクエストをやってしまおう……あれ、シンプルクエストって同時に10個まで受けることができるんだ。それなら目的地が近い「あ、これは余計なことに気付きやがりましたね」クエストを一気に消化した方が、要領がいい「要領悪いですよ」んじゃないか?よし、私の今まで培ってきたチャート作成技術を思う存分発揮してやろうじゃないか。


 ━━30分後━━


「お待たせ、じゃあとっとと終わらせようか」


「今の時間でクエスト5個は消化できましたよ」


 都合の悪い話を聞いてる暇は無いんだ、さっさと行こう。



 やってきたのは住宅街エリア。ゲーム開始初期位置の近くの場所だ。たった数時間ぶりの光景だけど、色々なことがありすぎたせいでもう既に懐かしい。あの時はピュアミーというユートピアにあふれんばかりの希望を抱いていたなあ。実際はディストピアだったわけだけど。


「敵来てますよ」


「うおぉいっ、変身!」


 完全にノスタルジアにふけっていたところをカルナに正され向き直す。敵は三体、どくネズミ。紫がかったモルモットサイズのネズミだ。名前からして毒を扱うんだろうけど、所詮は女児向けゲーム、対策が必要なほど厄介な状態異常にはならないだろう。


「ここは私に任せろ」


 さあ、仕込み杖くんのお披露目の時間だ。

 手前のどくネズミに向かって走り出し、すれ違いざまに抜刀。グリップを握りしめ、シャフトから刀身を引き抜き、そのままの勢いで横一閃に斬る。チッ、さすがに一発じゃ死なないか。振り返って仕込み杖を振り下ろして、はい、一匹撃破と。

 …フハハハハハ、強い、強いぞ仕込み杖!ちゃんとした剣と比べても火力に遜色ないんじゃないか?使えるぞこれは!

 仕込み杖を褒めるのに夢中になっていると、後ろから残りの2匹に背中をかじられた。いったーい、攻撃喰らっちゃったよー(棒)。あーこんな時に回復特化の武器があればなー(棒)。ん?この仕込み杖を納刀すると?おお!なんと回復特化の杖になったではないか!なんて素晴らしい武器なんだ!


「ファイヤーランチャー!」


 気持ちよくなっていたところをカルナにねずみごと焼き払われた。水を差すなよ、いや差さされたのは火か。


 これでネズミ退治のクエストは終了。さて報酬を貰わないと…あれ?クエストクリア表記になていないぞ。なんでだ?


「カルナ、クエストが…どうしたの?」


 カルナが信じられないぐらい顔面を青白くして全身を震わせていた。まるで、何か怖いものでも見たかのように。


「ナッ、ナナオさ、ん」


 何があったのだ……………



 ゾクッ



 瞬間、背筋が凍った。吹雪のような冷たさが全身を突き刺し、不自然な静けさが辺りを覆う。ゲーム内時間はまだ昼間のはずなのに(現実はド深夜3時)日が沈んだように暗くなっていく。

 何かのイベントか?



「あらあら、かわいい子猫ちゃん達ね。いえ、かわいそうな子猫ちゃんかしら。でもわたしの通り道にいたあなた達が悪いのよ?」



 どこからともなく甘い声が。

 そしてそれは影から現れた。妖艶とも言えるような眉目秀麗な顔立ち。私の性癖に真っ向から喧嘩を売るような、豊満な肉体。闇より黒く闇より暗いローブを身に纏い、とんがり帽子を被ったその姿は、まさしく魔女。


「せっかくだから、すこ~し遊んであげようかしら」


 魔女が舌なめずりをした瞬間、またしても悪寒が。いい年した私がこんなものに怖がるわけはない、ということはゲーム側の演出で恐怖感を味わうようになっているのだろう。

 恐らくこのまま戦闘になる。負けイベントだろうけど、どうせなら勝ってみたい。


「カルナ、頑張って勝とうぜ」


「たぶん無理ですね。あいつはラスボス、『欲望の魔女』です」


「欲望の魔女…」


 カルナが淡々と欲望の魔女について解説してくれる。


「この世界には流星の力というものがあり、それは願いを叶える魔力を生み出します。私たちピュアミーティアはその力を人々のために使いますが、欲望の魔女は魔力を自分の私利私欲のためだけに使います。それだけでなく、他の人の流星の魔力を自分のものにするために人々を襲っているのです。モンスターたちを生み出したのも欲望の魔女。全ての元凶です。一見美しい容姿に見えるでしょうが、あれも魔法で作り上げたもの、実際は醜い顔をしているようです。とんでもない悪ですよ」


「なるほど。このゲームから一刻も早く消し去らないけない奴だな」


 欲望の魔女、ラスボスにふさわしい風格だ。

 もう一回カルナの解説をまとめようか。


 ピュアミーティア(ピュアミー開発者)は人々の願いを叶えようとするけど(女児のためにピュアミーを造った)、欲望の魔女|(ロリコン)はそれを私利私欲(女児と出会うため)に使う。それだけでなく人々を襲う(女児がピュアミーで遊べなくなった)。そして一見美しい(ピュアミーのアバター)けど実際の顔は醜い(VRゴーグルを外した現実の素顔)。

 

 なるほど、悪い奴だ、欲望の魔女め。















 …………………………欲望の魔女め!

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