第13話 引退魔法
前回のあらすじ:クサいセリフ言ってしまってたからあんまり振り返りたくないなあ…
動かせないと偽装していた左腕で会長の肩をがっちりホールドする。無抵抗のまま私に捕えられている会長だけど、抵抗したとしても逃がすつもりはない。このままここにとどめて私もろともカルナの引退魔法を喰らわせてやろう!本来ならこいつだけにぶち当てるつもりだったんだが…まあいい、こいつを殺すためだ、一緒に死んでやろう。
ようやくここまで来た。カルナには随分待たせることになってしまって申し訳ないな。そういやちゃんと準備できているのかあいつ?…よし、横目で見た感じ大丈夫そうだ。
………よくよく考えたらさっきの会長とのやり取りカルナと
「カルナ!私ごと撃てぇ!」
「えっ、撃ったらあなたも巻き込んでしまいますよ!本当にいいんですか!」
ありがたいことにこんな私を心配してくれているらしい。だけどもともとこんな状況になったのは私が負けたせいだ。もう覚悟は決めている。
「大丈夫だ、どうなっても文句は言わない!遠慮せずぶちかませ!」
「イ
うーん、どうやら心配していた訳ではなく単に言質を取っただけのようだ。すっごい邪悪な顔で笑ってやがる…嬉しそうでなりよりだ。
「我、天啓を受けし敬虔なる反逆の徒なり。宙上の導きにより、今、極極の枷を解き放たん!」
何やら仰々しい詠唱とともにカルナは両手杖を頭上に掲げ、それとともに辺りの禍々しい黒ずんだ大気が渦巻き両手杖の先端へと集約されていく。遠くから見ただけでわかる、この魔法は
「なるほど、これがお前たちの切り札か」
腕の中の会長がポツリと呟く。
「随分と余裕そうだな」
「いやいや、内心背筋が凍る思いだよ。ただ俺はこの状況に追い込まれた時点でナナオとの勝負にまけたんだ。敗者らしくこの先に待ち受ける運命を潔く受け入れよう」
「そうか」
せっかく追い詰めているのにこうも余裕綽々としていられると気が抜けるなあ。欲を言えば必死に命乞いする姿がみたかった。
「で、取り敢えず聞いてみるけど、あの魔法に当たったらどうなるのかな?」
「効果はほとんど知らされていないが、相手を引退に追い込むことができるそうだ。話を聞いた感じだと、最悪の場合セーブデータを破壊される可能性もある」
「…セーブデータが消えるのはキツイな」
おおっ、初めて会長が動揺した。
「おいおい、ピュアミーが発売されてまだたかだか二日だろ?私が言うのもなんだけど、随分弱弱しい発言だな」
「いやー、これレアドロップ品なんだよね。たぶん二度と手に入らないと思う」
そう言いながら、会長は両手に持った黄金の双剣を顎で指した。
「星座武器、それも黄道十二星座に由来する『イクテュエス』。これを失うのは惜しいな」
まじまじと儚む目で双剣を見つめている。本当にその武器が好きだったんだな、かわいそうに…だが、
「フハハハハ、残念だったなあ。その武器はもう見納めだ。また一からコモン武器でも愛でてくれ」
私の恨みのこもった煽りに対し、会長が邪な目で返答する」
「そういう君も道ずれになるわけだけど、つらくないのかい?」
「私はまだプレイ時間は数時間程度だ。痛くも痒くもない」
正直ちょっと痒い。まあでもそれは仕方ない、もう覚悟は決めた。
「この魔法喰らったら二度と戻ってくるなよ」
「いいや戻ってくるさ。次会うときは、フレンドとして」
「誰がなるかよ」
魔法の光がどんどんと大きくなり、そして今、カルナの杖から放たれた。
「また会おう」
「二度と会うか」
気持ちのいい幕引きとはいかなかったな。結局私は勝ったのか負けたのか分からなくなってしまったし、会長も悔しがっている様子はない。そんなどっちつかずの終わり方になってしまったが、なぜだろうか?心は晴れやかだ。色々あったが、まあ、悪くはなかったんじゃないかな。楽しかったよ。
黒い光が二人を飲み込んで……
☆
ところ変わってナナオが会長を拘束し、カルナに向けて合図を放った時点である。
「我、天啓を受けし敬虔なる反逆の徒なり。宙上の導きにより、今、極極の枷を解き放たん!」
カルナはピュアミーにログインしてからの二日間ずっと思い続けていた、この引退魔法とみんなが呼んでいる『おしおき砲』を撃ちたいと。だけどそれは叶わなかった。通りすがりのプレイヤーに不意打ちで当てることはできても、その後報復されるのは目に見えている。カルナはピュアミーを遊んでいる
その後、カルナは協力できそうな三人組を見つけ仲間に入ることができた。そして今、目の前で仲間の一人のナナオが害悪プレイヤーの会長を拘束し、ナナオごと撃てと指示を飛ばしている。もともと会長一人だけに魔法を撃つつもりだったが、ナナオ本人がいいと言うなら仕方ない。ナナオにも撃ちたくはあったけども、決して撃つつもりはなかった。決して……
カルナは魔法発動に必要な詠唱を唱えながら、この魔法を貰った時の運営とのやり取りを思い出していた。そう、何を隠そうカルナの引退魔法は、メールでの連絡を介してピュアミーの運営から直接貰った特別なものなのである。回想はピュアミー発売の三日前に遡る。
『ピュアミーティア・オンライン運営様。この度はピュアミーという素晴らしいゲームを作って頂きありがとうございます。私は小さい頃から魔法戦姫シリーズの大ファンでして、その系譜を受け継ぐピュアミーをプレイするのを心から楽しみにしています。しかし、プレイするにあたって一つ懸念があります。ピュアミーの他プレイヤーのほとんどがロリコンの男性だそうですが、その中で女の私が楽しく遊べる自信がありません。どうしたらいいですか?」
『夏月様、ご連絡ありがとうございます。夏月様のようなファンがおられることを大変喜ばしく思います。そして男性プレイヤーの件ですが、こちらの不手際で夏月様のような純粋なファンの方々に不都合を被らせてしまい、申し訳なく思っています。そこで、夏月様に快適なピュアミーライフを送っていただくために、ゲーム内で使えるある特別な魔法を送ります。その魔法を使えばプレイヤーをゲームから追い出すことができるので、悪質なプレイヤーがいたらその魔法をバンバン使っちゃってください!その魔法の効果についてですが━━━』
十分な威力になるまでおしおき砲が溜まったのを確認し、カルナはナナオと会長にしっかりと狙いを定める。二人がどんな反応をするのか他のしみだと言わんばかりの笑みだ。そして叫ぶ。
「おしおき砲!」
間抜けなネーミングとは裏腹に黒々とした光の波動が真っすぐと二人に向かっていく。それを見ながらカルナは運営からのメールの続きを思い返す。肝心のおしおき砲の効果を。
『魔法の効果についてですが━━━この魔法に当たると痛みが現実の身体にフィードバックされます!要するにこの魔法に当たると、魔法の威力の分の痛みが信号としてプレイヤーの脳に送り込まれ、実際に魔法で焼かれたような痛みを感じることになるのです!』
☆
色々あったが、まあ、悪くはなかったんじゃないかな。楽しかったよ。
黒い光が二人を飲み込んで……
「「ぎぃやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」」
「あれ?二人とも消えちゃいましたね…」
「お、おいカルナ。お前何やったんだ?俺には二人があまりの苦しさから強制ログアウトしたように見えたんだが…」
「なんか、痛みをフィードバック?する魔法らしいです」
「え、えげつねえ…」
☆
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
熱い!熱い!熱い熱い熱いいいぃぃ!か、からっ、身体!が!やけっ!焼けて!!!あ!ああ!死ぬし!あ!ぅぁあ!なに!?え!?なにが!?あれ?どこ?ここ?私の部屋!?あれ?私の部屋っ、だ…俺の部屋だ…。え、なんで?あれ、痛み収まってる…。何の痛みだったんだろう…?
あれー?さっきまでピュアミーしてたはずなのになぜだ?ログアウトした覚えはないぞ?もしかしてゲームハードの不調か?何ともなければいいんだけど…
というか確か会長との決着がつく瞬間だったはずだ。いきなりログアウトして迷惑かけてしまったなあ。速く戻って続きをやらなければ!
………何か壮絶な出来事があったような気がするんだけど……ダメだ、思い出せない…
☆
「会長悪かった!どうやらハードの不調で強制ログアウトしてしまったらしい」
「謝らなくていいよ。実は俺もなぜかログアウトしてしまっていたんだ」
「え!?会長も!?偶然とは思えないな。何かあったんだろうか…」
「ああ!二人とも帰ってきちゃってるじゃないですか!魔法の威力が弱かったのでしょうか…それならもう一度!おしおき砲!」
「「「「ぎぃやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」」
☆
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
あれー?さっきまでピュアミーしてたはずなのになぜだ?ログアウトした覚えはないぞ?もしかしてゲームハードの不調か?何ともなければいいんだけど…
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