第11話 保健室前廊下の勝敗

 前回のあらすじ:なんで見てるんですか?


 とりあえず現状の確認をしよう。まず私だが、先程両肩に致命傷を受けて体力は残り僅か、あと一発耐えられるかどうかだ。HP表示が無いのがもどかしい。敵である会長はほぼ無傷と言ってもいいだろう。そして私の合図を待っているカルナ、ちらっと見た感じ準備は整っているようだ。最後に何故か仲良く突っ立ってるフェルミン、リヴァイアちゃん、DDR、みっちゃんだけど、本当に何なんだろうねこいつらは。

 私と会長は互いに膠着状態、どちらが先に動くかの駆け引きだ。そんな睨み合いの中、会長が口を開いた。


「もうそろそろいいかな。本気で戦っても」


 ため息を吐きながら双剣を下ろす会長。


「おいおい、今までは手を抜いていたとでも言うのか?」


「言い方が悪かった。全力を出していたんだけど、キルしてしまわないように戦っていたんだ。ちょっとお前のことを試そうとしていてね」


「試そうとしていただと?何をだよ?」


「お前の本心をだよ。復讐しに来る奴なんて初めてだったから、いったいどういうプレイヤーなのか気になった。それで試そうとしていたんだけど、もう大体わかった。」


「勝手に試していただのなんだの失礼なやつだな。私の本心が知りたいとか意味わかんねえよ、お前をぶっ飛ばしたいってのが本心だよ」


 双剣を握る会長の手に力が入った。攻撃がくる。でも大丈夫だ、今の私なら完璧にガードを合わせられる!

 こちらに突進してきた会長に向けてジャストなタイミングでステッキを振った。ステッキが会長の頭を捉える!と、思った瞬間、会長の姿が消えその数歩後ろに出現した。


「瞬間移動でディレイ攻撃だと!?」


「フフ、たった今思いついた。読めなかっただろ?」


 全く反応ができなかった。私のガードは空振りに終わりおまけに体勢までくずされてしまった。その隙きを会長が逃すはずもなく、剣で私の左腕を斬り上げた。


「クソッやられた…。だけどまだ負けていない…!」


 まだ体は動く。恐らく被ダメージ判定が腕だったことでシステム上致命傷にならなかったのだろうか。なんにせよ運が良かったんだろう。すぐさま反撃の準備を…


「いいやお前の負けだよ。『パララスパーク』」


「ぐあっ!?!?」


 一瞬、何が起こったか理解できなかった。耳元で囁かれた会長の声とともに身体が痺れ硬直し思考も固まってしまった。この魔法は相手を麻痺させるやつだ。だけど麻痺耐性の指輪を着けているから効かないはずだ、一体なぜ…?


「何故魔法を喰らったかわからない、といった顔をしているね。自分の左手を見てみなよ」


 言われた通りに左手の指に目をやると、そこにはあるはずの指輪の姿が無かった。

 どういうことだ⁉指輪を外した覚えはないし、攻撃を受けて破損した形跡もないぞ!どこに行った?

 麻痺状態でもメニュー操作は行えるらしく、痺れる指でメニュー内を探してみると、装備から外された状態で指輪それはインベントリに入っていた。おいおい勝手に外してんじゃないよ、バグか?


「そう何でもかんでもバグ扱いするもんじゃないよ。検証しきったわけじゃないけど、どうやらピュアミーでは四肢に斬撃系の攻撃を喰らうとその部位が『欠損』状態になるらしい。見かけ上は欠損している風には見えないし動かしたり武器を持つことだってできるんだけど、欠損した部位に着けられていた装備は外されて戦闘終了まで再度装着することができなくなるという仕様なんだ。で、さっき俺がお前の左腕を切り落としたからその厄介な指輪が使えなくなったってわけ」


 そんな仕様があったとは…!VRが進化してからゲームにもなにかとリアリティが求められる時代になった、腕や脚を斬ったらちゃんと欠損するのがリアリティのある良ゲーだ。しかしながらピュアミーは全年齢対象のゲーム、欠損描写なんて倫理的にも難易度的にも許されるはずがない。あくまで予想だけど、そういったリアリティと倫理観の妥協によって、この攻撃を受けた部位の装備が外れるという仕様が実装されたんだろう。

 くそっ、今の私は麻痺状態の解除手段を持っていない。あー、多分これは詰んだかな?


「見逃してくれないか?」


「罠にかけたのはお前の方なんだから見逃すのもお前の方では?」


「ごもっともで」


 待機してもらっていたカルナには申し訳ないが、完璧に私の負けだ。悔しいが全てにおいて敵が上手だった。


「仕方ねえ、今回は潔く負けを認めるよ。さっさと殺してくれ」


「いや、殺さないよ。君が死んだ瞬間向こうのお仲間が攻撃してくるかもしれないからね。このままお前を人質にしてゆっくり逃げさせてもらう」


 会長は冷静に答えて逃げようと窓の方へ歩き出した。そして、窓を開けようと手を掛けたところで何かを思い出したように私の方へ振り返った。


「忘れるとこだった、そういやナナオに尋ねたいことがあったんだ」


 初めて名前で呼ばれた気がする。重大な話か?


「さっき試しながら戦っていたと言ったけど、そのときに思ったことだ。答えてくれるかな?」


「どうせ今私は口ぐらいしか動かないんだ、何でも答えてやるよ」


「じゃあお言葉に甘えて」


 会長の口がゆっくりと動く。






「ナナオって本当にロリコンなの?」





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