第10話 保健室前廊下の決戦

 前回のあらすじ:論破ぁ!


 ☆

 女子大生である幹野夏月みきのかるなは魔法少女というものに強い憧れを抱いていた。自分が魔法少女になって悪と戦いたいと本気で願うほどに。

 幸いにVR技術の発展のおかげで魔法少女になりきれるゲームは腐るほど発売されいる。もちろん夏月もそのほとんどをプレイしてきたのだが、どれもこれも子供騙しだったりオタク臭かったり、夏月の求める魔法少女とはかけ離れており決して満足いくものではなかった。

「20歳にもなって本気で魔法少女になりたいと思ってる人なんて他にいない。私もそろそろ卒業するときが来たんじゃないか?」そういった考えが芽生え始めていたとき、夏月はとある情報を目にする。


「へぇ、また魔法少女のゲーム出るんだ。一応チェックだけしておこ…………え、ホープ社が作るの?ちょっと待って、キャラデザの人『魔法戦姫シリーズ』の高田さんじゃん!?しかもディレクターの緑川って人、凄い人なんじゃないの!?私でも知ってるくらいだよ?…間違いない、これはだ。えー。タイトルは…魔法少女ピュアミーティア・オンライン」


 魔法戦姫シリーズ、夏月が小学生だった頃から放送されている大人気アニメであり、夏月は一作目『魔法戦姫ハートスターズ』から全作品欠かさず見続けているほどの大ファンなのだ。そんな彼女の大好きな魔法戦姫シリーズのスタッフが関わっているピュアミーティア・オンライン、実質魔法戦姫のゲーム化ともいえる。憧れの世界観で憧れの魔法少女生活を送れる、ピュアミーティア・オンラインは夏月にとってまさしく待ち望んだ神ゲーなのだった。

 確認すると発売は三か月後だ。ようやく長年の夢が叶う!そう思うと発売が待ち遠しくて仕方がなかった。キャラクター設定もすでに考えている、金髪爽やかリーダー「マジカル☆カルナ」これが三か月後の私の姿だ。


 そして発売三日前


「……え?ピュアミー炎上で年齢規制?なんでなんで?…………ロリコンが原因?」



 そして現在、保健室。


「ふふっ、憧れのこの世界で何をやってんだろう私は」


 そう言って自嘲気味に笑うカルナ。

 窓越しに様子を見ると、ナナオが廊下の奥までうまく敵を誘導できたのが見える。これでカルナが廊下に出ると挟撃の形が取れるということだ。


「さあ、凌辱部隊だかなんだか知らないけど、私の夢を汚す輩にはお仕置きしないとね」



 ☆

 校舎二階・階段前


「みっちゃんさん、今から仲間がセーブデータ破壊的な魔法撃つところをフェルミンと見に行くんだけど、一緒にどう?」


「なにそれめっちゃ見たいんだけど。おい、DDR」


「おけ、俺も行く」



 ☆

 よし!カルナが定位置に着いた。後は私が空き教室に避難すれば勝ちだ!

 会長の剣を弾き飛ばし、その隙に教室のドアへと駆け出す。


「逃がさないよ」


 くそっ、瞬間移動で回り込まれた。


「挟まれたからてっきり2対1で数的有利を取るのだと思ったけど、向こうの人は攻撃する気配がない…。もしかして、逃げなければ巻き込まれるほどの魔法でも撃つのかな?ならやることは一つ、お前と密着してれば安全ということだ」


 なんて洞察力だ、作戦が全てばれた。これは逃げるのに苦労するぞ。

 だけど一つ良いことが分かった。確かに瞬間移動や武器の強さは厄介だが、会長自体の戦闘能力はそんなに高くない、私と同じぐらいだ。

 言ってるそばから会長の姿が目の前から消えた。移動先は恐らく…後ろだ!ビンゴ!互いの武器がぶつかりつばぜり合いの形になる。


「私も一つ気づいちゃったよ。会長、何で瞬間移動でカルナを狙わないんだ?もしかして、瞬間移動は至近距離でしか使えないんじゃないか?」


「ご明察、と言いたいけど少し違うな。一応長距離移動もできるけど難しくてまだ使いこなせていない。まあお前の言う通り、今は至近距離でしか使わない」


 お互い後ろに飛び、距離を取る。いける、戦えている。会長と違ってこちらは空き教室に逃げさえすれば勝ちなのだ。次の瞬間移動先を読んで攻撃、そしてすぐ空き教室に退避しよう。

 二人の間に緊張感が走る。そして…目の前から会長が姿を消す。

 よし!後ろだ!私はステッキを真後ろに突き刺す…ってあれ?いないぞ。横にもいないし逃げた感じでもない。どこに…


「上だ」


 その声とともに会長が双剣を突き立てて降ってきた。反応が遅れ、私の両肩に剣が突き刺さる。もちろん少女向けゲームなので痛みもないしエフェクトも可愛らしい星がでた程度だが、確実に大ダメージが入っただろう。恐らく次また攻撃をくらうと負けだ。


 私に勝てるのか……いいや勝つさ!なにちょっと弱気になりかけてるんだ。勝たなければカルナにも、手伝ってくれているフェルミンとリヴァイアちゃんに申し訳が立たない。

 カルナに目をやると、向こうも私をじっと見つめ返してきた。応援してくれているのだろうか、それともはよやれやと急かしているのだろうか。


 …………ん?よく見れば奥の方にフェルミンとリヴァイアちゃんもいるじゃん。手伝えよ。え、なんでDDRとみっちゃんと四人で仲良く立っているの?え、なんで四人とも私達を見てニヤニヤしてるの?




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