第7話 被害者は何を思う

 前回のあらすじ:言いたくねえよ


 気がつくと私はベッドの上にいた。辺りを見渡すと見覚えのない場所だ。カーテン付きのベッドが並び机や身長測定器があるということは、恐らくここは学校の保健室なのだろう。

 …一体私は何故こんな場所にいるんだろうか?学校に到着した以降の記憶がないや。何があったのか…ウッ、頭が…!駄目だ、思い出そうとすると頭痛が。


「おー良かった、気がついたか。ゲーム内で気を失うなんて初めて見たわ。それにしても気持ちいいくらいの陵辱のされっぷりだったな」


「あぁ…折角必死こいて思い出さないようにしてたのにぃ…」


 部屋に入ってきたフェルミンに出会い頭に傷をほじくられる。デリカシーというものがないのかこいつは。ロリコンには何を言っても無駄なのかな。


「リヴァイアちゃんは?」


「アイテム補充してくるってよ」


「そうか」


 段々と犯された記憶が鮮明に蘇ってくる。うわー、今でも全身をまさぐられた感覚が残ってるよ。


「駄目だ、あいつら許しておけないわ。制裁を加える」


「お?お礼参りなら手を貸すぞ?」


「いや、普通に運営に報告する」


 私はフェルミンと違って平和主義なんだよ。運営に報告すれば奴らはアカウントBANになり、ピュアミーにログインすることができなくなるはずだ。


「ええと、『私はこの三人に全身を触られ、無理やりキスされるという性的被害を受けました。未だに心の傷は癒えてません。どうか彼等に対して適切な処分をお願いします』と。こんな感じでいいか。送信」


 ヘカトンケイル隊よ、私と他のピュアミープレイヤーの安寧のために死んでくれ。


「そんな上手くいかねーと思うけどな」


 フェルミンがあまり期待しない様子で口を出してくるが、それは無視だ。

 とか言ってるそばから早速運営からの返信が!え、対応速すぎじゃない?神運営すぎじゃない?ハッハッハ、何が陵辱部隊だモラルがない人間は例えゲームの中であっても消されるんだよ!


『プレイヤー間のトラブルは各自で解決してください   by運営』


「なぬぅーーーーーーー!!!!!」


 え?え?なんで?なんで?どうして対処してくれないの?まさかとは思うけど…


「もしかして、ピュアミープレイヤーロリコンって運営から嫌われてる?」


「そりゃそうだろ」


「あっ……………なるほど」


 理解したわ。確かに私達のせいで本来想定していたユーザーが遊べなくなってしまってるので、そういった面では好ましく思われていないのは致し方ない。全体的に説明不足なのも嫌われてるからなのかな。それでも垢バンくらいはやってもらいんだが…


「まあ気にするな。ここのプレイヤーの半分はあいつらの被害者だ、お前だけじゃない」


 他人事みたいに言いやがってこいつは。


「というか、見てないで助けてくれよ」


 フェルミンは確かDDRって名前の人と戦っていたはず。前にボコったと言っていた割に見事に足止めされていた。


「悪い、敵が思っていたより強かった。と言うより敵の持っていた武器が強かった」


 三人が構えていたあの黄金に光り輝く武器のことだろう。私が戦った会長が使っていたのは双剣だった。私の背後に瞬間移動をするという厄介な代物だったが、他の二人、DDRとみっちゃんの武器も同様に特別なものだったのだろうか。


「詳細はわからねぇが、ありゃ恐らく星座装備ってやつだ」


 フェルミン曰くどうやらこのピュアミーティア・オンラインには、星座装備と呼ばれるそれぞれの星座の名前を冠した装備が存在するのではないかと言われているらしい。星座装備は対応する星座に関する特別な能力が与えられており、とても強力なものになってるそうだ。


「まだ発売して2日とかそこらだから仕方ないが、情報も出回ってないし憶測で考察してる部分が多いしでどこまでが本当なのかもわからんけどな。星座装備も発見報告されていたのは2つだけだったし」


 なるほど、まだまだ謎の多い強力な武器を持っていたということか。それなら勝てなくても仕方ない。


「ちなみにその発見報告があったのははどの星座だ?」


「ハエ座とレチクル座だ」


「………能力は?」


「ハエ座は羽音を出して相手を苛つかせるらしい。レチクル座の方は所持者が『使い方がわからん。てかレチクルってなに?』と言っていた」


 可哀想なくらい弱いな…。多分だけどオリオン座とかヘルクレス座とかはクッソ強いんだろうなあ。星座格差が酷い!


「でもそんな強力な武器を持ってるとなると、ヘカトンケイル隊の奴らますます手がつけられなくなってしまいそうだな。運営に頼れないとなると、やっぱり私達でお礼参りするしかない…いやでもそもそも武器差で勝てないからそれも無理か…」


 これ以上被害者を増やさないため、奴らは叩いておきたい…というのは建前で単純に恨みを晴らしたい。


「いや、いくら武器が強かろうが扱うのはただのゲーマーだ。真っ向勝負で負けても戦略戦術次第でいくらでも勝ちようはある」


 おお、フェルミンが頼もしく見える…!確かにあの瞬間移動は厄介だったけど攻撃自体は私でも対処できそうだった。瞬間移動さえ封じてしまえば勝てるかもしれない。

 まあでも、私たちに負けたからといって、あの三人は凌辱部隊を辞めそうにないんだけど…。


「ちなみにピュアミーってPKプレイヤーキルしたときのメリットデメリットってあるの?」


 お礼参りをしようとなったときからの疑問をフェルミンに投げかける。


「一切無いな。ちなみにキルされた方もリスポーン地点に戻るだけでデメリット無しだ。そもそも対人戦要素なんて元々用意されてなかったのを年齢制限を掛けるときについでに付け加えられたものなんで、未完成な要素だらけだ」


「ええ…それじゃあ倒す意味ないじゃん…」


「意味ならあるぞ、嫌いなやつをぶん殴ると気持ちがいい!」


「いや私そんなバーサーカバーサーカしてないし」


 うーん、殺されてもお咎めなしなら凌辱部隊に制裁を加えたことにはならない…寧ろあいつら殺されたら喜びそうなんだよなあ…。失うものがない変態っってコワイ。

 被害者の身でこんなことを言うのは癪だけど、泣き寝入りするしかないのかも…。

 そういったネガティブな思考を巡らせていると、


「そのお礼参りの話、詳しく聞かせてもらえませんか?もしかしたら力をおかしできるかもしれないです」


 室内の机の方から声を掛けられた。少し驚きながらも顔をむけると、白衣を纏った養護教諭のような格好のサイドテールの少女が椅子に座っている。


「おいおい、いつの間に入ってきたんだよ」


 フェルミンは人が居ることに驚いている様子だったが、わたしが驚愕したのはそこではない。


「最初からいましたよ~。あなた方が気づかなかっただけで」


 少女から発せられる声は、紛れもなく女性の声だった。


「えっ、女!?女のプレイヤーじゃん!?」


 このゲームってロリコンしかいないんじゃないの!?どういうこと!?


「落ち着けナナオ、あれはボイスチェンジャーだ」


 …ボイス…チェンジャー?


「ハロハロ~、本物の女声じゃなくて残念でした」


 たしかによく聞くと少し不快感のある電子音が。


「なんだチートかよ」


 無駄に邪推してしまったじゃないか。驚き損だ。


「チートて、悪意のある言い方だな」


「私としては、こんな少女向けゲームを地声でプレイしいる方がどうかと思いますけど」


 うるせえ、恥じらいがあったらロリコンなんてやってられるか。


「それにナナオ、ピュアミーに女プレイヤーは居るぞ」


「えっ、そうなの!?」


 衝撃の新事実だ。


「居るっつってもほんの一握りだ。それもどんなゲームもプレイするってゲーマーやロリコンを煽りに来る冷やかし目的の奴らだがな。」


 ああ…たしかにそういう人達がいてもおかしくない。なんかロリコンに諭されると腹立つな。


「話がそれたな、ええと…?」


「ああ、名前?『マジカル☆カルナ』です、よろしくね」


 おおぅ…痛いのが来てしまった。ロリと触れ合いたいというよりロリになりきりたいというタイプのロリコンだなこいつは。


「してカルナさん、力を貸してくれると言っていたけど具体的には?」


 私の質問にカルナは二ッと口角を上げて答える。


「私の持つ魔法なら、ヘカトンケイル隊の活動停止はもちろん、上手くいけば彼らを引退にまで追い込めるかもしれません」


 カルナのその発言は私にとって朗報のはずなのだが、その不敵な笑みをみるとなぜか不安に駆られてしまった。

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