第8話 魔法少女と使い魔

 前回のあらすじ:運営さんごめんなさい


「ヘカトンケイル隊をゲーム引退に追い込める…だと?一体どういった魔法なんだ?」


 ピュアミーにそんな魔法があるのか!?考えられるのは、相手の装備を破壊ないし強奪するなりして萎えさせるといったものか、呪いの様な永続的なデバフを掛けてまともに遊べなくするといった感じの魔法なのだろうか?いずれにしても、他のゲームですら余り見かけないのに小さい子向けのピュアミーでそんな魔法が存在するとは思えないな…

 まあ、私達にキレた運営が実装した可能性もなきにしもあらずだけど…


「中距離射程の攻撃系魔法、とだけ言っておきましょうか。効果については…秘密ということで」


 そう言って悪戯っぽく笑うカルナ。うーん、手厳しい。

 魔法の効果や入手方法など聞きたいことは山程あるけど、まだ仲間になったわけではないので教えてくれないのも仕方ないか。

 今度はフェルミンがカルナに問いかける。


「目的はなんだ?力を貸してくれるのはありがたいが、お前が奴らと敵対する理由があるのか?見たところ奴らの被害者って訳でも無さそうだが」


 フェルミンはカルナのことを随分と疑っているようだ。

 しかし、カルナは意に介さないで笑みのまま答える。


「強いて言うなら、彼等に邪魔されずに保健室の外に出ることが目的ですね。私も辱めなんて受けたくないですから。私が来たときは学校もまだ平和でしたけど、まさかあのような人達が来るとは思いませんでした」


 まあそうだよな、あんな奴らが居たら怖くて出られないもんな。直接陵辱された訳では無いにしろカルナもまた被害者の一人なのかもしれない。

 目的は違えど標的は同じ。彼女と手を組めば上手くいくかもしれない。

 だけど……


「信用なんねーな。それならお前の魔法で奴らを追い払えばよかったじゃねえか。なんでわざわざ俺らに強力しようとするんだ?」


 なーにをそんなに疑ってるんですかねこの男は。確かにカルナは説明不足ではあるけど、一応納得できる説明はしてるじゃないか。

 フェルミンの肩を叩きカルナに聞こえない声量でわけを聞く


「なんでそんなに疑ってるんだ?折角力を貸してくれるって言ってるんだからちょっとは信用してもいいんじゃない?」




「奴からはロリコンの匂いがしない。ロリコンじゃない人間を信用できるか?」


「いや、正直ロリコンの方が信用なんないんだけど」


 碌でもない人間だという確信はある。


「それに奴の言ってることには矛盾がある」


「矛盾?」


「ああ。陵辱部隊が結成されたのはサービス開始してすぐのことだ。それより前に学校に着いたということは、魔法を覚える時間は無いはずだ。保健室でイベントが起こった気配も無い。じゃああいつはどこでそんな魔法を手に入れたんだという話だ」


 そう聞くと、たしかにフェルミンの言う通り怪しさ全開だな…


「今は協力できたとしてもいつ敵になるかわからんぞ」 


 フェルミンですら知り得ない情報を持つプレイヤか…

 うーん、やはり信用できないか…


「別に私は-」


 と、声を出すカルナ。


「別に私は、信用されなくても、警戒されていても、構わない。心ゆくまで利用し合いましょうよ」


 カルナのその言葉は私には、貴方達のことを私も信用していない、警戒している、その上で手を組もうといった風に聞こえた。深い憎悪を感じる。カルナが味方なのかどうかは信用できないが、陵辱部隊を倒すという点では信用できるんじゃないか。

 横を見ると、フェルミンも一応は納得したといった表情をしている。よし、それじゃあ改めて協力を…


「マジカル☆カルナ、ボクはこいつらを仲間にするのは反対だな。君もあんなに人と会うのを嫌がってたのに」


 …折角話が纏まりかけていたのに今誰が反対意見言い出したんだ。………………………え、今のセリフ本当に誰が言ったの?

 この3人の誰のでもない声が聴こえた。一体誰のだ?カルナの方から聴こえた気がしたけど…

 そう思ってカルナの方へ目をやる。


「こーら、わがまま言わないでください。私だってそろそろここを出たいんですから」


 そう言ってカルナは自分のサイドテールを留めているシュシュを撫でる。

 ん?シュシュの割には生き物っぽいな、てか生き物だなあれ。生き物というかドラゴンだな。なんて言ったっけ?あの尻尾咥えてドーナツ状になってるやつ………


「「ウロボロス!?」」


 私とフェルミンが同時に驚嘆の声を上げる。

 間違いない、シュシュの正体はウロボロスだ!完全・永遠・不滅の象徴とされているドラゴン!ピュアミーでの扱いはわからないが、恐らく上位の存在であるはずだ。保健室から出ていないはずのカルナがなぜそんな生物を從えているんだ?


「クックッ、何が保健室から出られないだ嘘つきやがって。カルナてめーは一体どこまで先に進んでる…!!」


 フェルミンも驚きを隠せない様子だ。最前線近くまで攻略を進めているフェルミンですら知らないというのか…。

 当のカルナ本人のを見ると、こちらの驚きを気に留める風でもなく涼し気な表情をしている。

 まるで、ウロボロスの存在が当たり前だとでも言うように。


「協力関係になるんだ、深く詮索するつもりはねぇ…。ただ1つ!1つだけ聞かせろ。そのドラゴン、どこで手に入れた!!」


 フェルミンが勢いよくカルナに啖呵を切る。恐らくカルナ以外誰も知らないドラゴンの入手方法、それを知ることができると我々は一気に攻略の最前線に立てるだろう。

 フェルミンもそこまで器が広いわけではない、ここで黙秘を選ぼうものなら我々と敵対することになる。さあどう答える、カルナ。

 しかし、ここまで詰められてもカルナの表情は涼し気なままだ。そして涼し気なままに答える。


「え?」


「え?」


 え?カルナ今「え?」って言った?何が「え?」なの?


「え?『え?』ってどういうこと」


「え?何がですか?」


「え?何がですかって何が?」 


 え?どういうこと?わかんなくなってきた…

 あっ、横見たらフェルミンも「え?」って顔してる。


「え?」


 あっ、フェルミンも「え?」って言った。


「え?」

「え?」

「え?」


 駄目だ、一回整理しよう。


「ええと、ゴメンだけどカルナは私の質問にだけ答えてね。そのドラゴンはどこで手に入れたの?」


「え?ウロちゃんのことですか?」


「その『え?』っていうのやめて。そう、そのウロちゃんののこと」


 本当にやめてほしい。


「どこでと言われれば学校ですかね。エリア内に入った途端『魔力が戻った』と言って変身しました。」


 よしいいぞ、理解できている。


「何から進化したの?」


「え?「え?禁止!!」ああごめんなさい。何から進化したって…スマホさんからですよ」


 何を当たり前のことを聞いてんだという顔でカルナは答える。

 いやその当たり前のことがわからないから聞いてるんだけど…


 …………………………………………スマホ?


 あれ?そういやスマホってなんかあったような………


「「おいフェルミン(ナナオ)!スマホを出せ!!!」」


 二人同時に叫びそれぞれ自分のスマホを見る。駄目だ、うんともすんとも言いやがらねぇ…!ただのスマホに戻ってる!


「カルナ!どうやったらこいつから進化するんだ!なにか裏ワザがあるんだろ!?」


 カルナに詰め寄るが、オロオロして答えてくれない。カルナも偶然進化させることができただけなのか?


「ふむ、おかしいな。ボクたちは学校で魔力を補給するとスマホから元の姿に変身できるはずなんだが」  


 困っているカルナに変わってウロちゃんが答えてくれる。


「ああ。たぶん何かの原因で私達のスマホは変身しないんだ。なぜだかわかるか?」


「いや、そんなはずはない。君がボク達使い魔からよっぽど君と共に戦うために変身するはずだ」


 あちゃー。嫌われてない限りかー。その限りなんだよなー。

 えーでもあれくらいでそんなに嫌うー?


「ちなみにフェルミンはスマホに何をやったの?」


「誤タップにキレて地面に叩きつけた」


「使い魔どうこう関係なしに叩きつけるなよ」


 よくよく考えたら今まで出会ってきた人たちロリコンはもちろん、すれ違った人も誰も使い魔を従えてなかったな…さすがロリコン!最低のコミュニケーション能力だ!


「あのぅ、色々とすいませんでした、知っている前提で話してしまって。てっきり私が知っていることはプレイヤーの皆さん全員が知っているものと…」


「いやいや!謝らなくていいよ!」


 心の底から申し訳無さそうな顔をしている…!

 カルナのことを慇懃無礼なやつだと思ってたけどもしかして…


「なあフェルミン。お前カルナのことを疑ってただろ?」


「まあ、怪しかったからな」


「あれ怪しく見えたの、私達がモノを知らなすぎただけじゃね?」


「………言うな」


 おっけ。スマホに関しちゃ私もやらかしてるしもう言わない。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る