第12話


みんなも寝静まった頃、テントに侵入者があった。本当は魔物避けの防犯装置だったのだが侵入者に反応したのだ。テントの入り口に踏み入るとエアークッションが押し潰されてベッド部分のクッションが反動で膨らむ仕掛けである。レトロだが確実!

レイは反動でベットから転げ落ちたが、あたしは侵入者に気づいた。


ベッドからレイが落ちた事で侵入者はぎょっとしたが、レイと気づくとゆっくりレイに近づいて来た。どうやらレイが目的らしい。まぁレイは主人公だものね。悪役令嬢のあたしじゃないよね。イジイジ。


真っ暗なのにレイが分かるなんて夜目の効く侵入者である。あたしは魔力眼を使っているから侵入者の魔力を見ているんだけどね。お陰で侵入者が女性であることが分かった。魔力紋まで判別出来たら誰かも分かったかも知れない。つまりあたしの知らない相手ということでである。

魔力紋とは言うなれば魔力の波長の癖ようなものだ。魔力を扱う工夫をしていて魔力眼を開発したら判るようになった。



テントの反対側のレイに近づく侵入者が何かを振り上げる。侵入者の背中に向かってあたしはベッド横に置いてあった魔導具を投げつけた。2メートルも離れていない侵入者に魔導具が当たりボフンと間抜けた音を立てて消える。魔導具に驚いた侵入者は走ってテントから逃げる。

あたしは無理に追わなかった。魔導具がちゃんと当たったからだ。後は昼間に魔導具の効果を確かめれば良い。

不審な侵入者に狙われたのにレイはベッド横で転げた状態のまま寝ていた。全く大した熟睡っぷりだ事。


その後、あたしは余り眠れなかったが翌日起きた時にはレイは元気いっぱいだった。

あくびを堪えながら起き出したあたしはレイに昨日の出来事を伝える。レイは驚いてそんなイベント無いと言った。きっと『二人の悪役令嬢、世界は選択の愛のために』のストーリーの事だろう。

あれだけゲームじゃないと言ってあっても意識は引き摺られているようだ。


ゲームはともかく、朝食の準備の為にキャンプファイヤーの残り火から熾火を貰い、軽くコーンスープを作る。コーンスープの元はあたしの開発したフリーズドライ品である。レイには用意してあったパンに生野菜を挟んでサンドイッチもどきの用意をして貰う。他の者たちが冷え切った乾パンや干し肉を齧っているときにあたし達は上等な朝食を食べていたからめっちゃ見られた。

たぶん、ラブ達も同じスープを食べている筈である。あたしから供出してあったからだ。ただ、コーンスープとは限らない。コンソメとビーフの種類もあるからだ。


朝食を食べて優雅に紅茶を啜って居るとラブ達がやって来た。

あたし達のテントを見てラブが言う。

「また、新しい発明品?私達より凄そうね。」

「もちろんよ。時代は常に進化するのよ」

とあたしが答えた。ラブ達のテントはあたしの開発した旧製品である。

「それであなた達は課題をクリアしたのかしら?」

「ええ、昨日の騒動のお陰で」

とレイが答える。一応最低ラインのクリアなのでまだ、魔物狩りをする予定である。


「その運の良さを私達も欲しいものですこと」

とラブは悔しがるがマリエとロッテがラブを励ます。取り巻きとの仲がいいわね。

ラブ達が行ってしまうとあたし達もテントを畳み、移動の準備をする。ボタンひとつで空気が抜けてテントはコンパクトに収まるのだ。周りの目は気にしたら負けだ。


だが、昨日の飛竜の襲来は広範囲に影響が出ていた。午前半日歩き回ってもあのイタチのような魔物もホーンラビットも見つからなかった。

それは上級生のエリアでも同じようで手ぶらで馬車に戻りアマリ先生に相談したところ、逃げたと言うより隠れているのだろうという事らしい。

アドバイスは「頑張って探せ」という何とも悲しいものたった。


あたしの気になることは魔物が見つからない事だけでなく昨晩の侵入者の事もあった。投げつけた魔導具はカラーペイントのような目印を付けるので見つかるかもと思っていたがあたし達のエリアではそれらしい人は見つからなかった。となるとやはり上級生だろうか?

レイとたわいの無い話をしながら山歩きをしているとレイが何か見つけた。

エリア外れの上級生エリア近くの崖、脆そうな岩がゴロゴロしている場所だった。


「ここ、絶対に魔物いるわよね?」

「いそうな雰囲気ですー」

あたしの言葉にレイが賛同する。

注意しながら崖を降りて岩の近くに寄る。岩の大きさはあたし達の身長を越えるほど大きく山積みとなっていて、隙間を通る事ができそうだった。

ゴクリと唾を飲む。

レイを見ると眼を輝かせている。ここで止めるという選択肢は無い。


意を決して先に進んだ。

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