第11話


黒い影に覆われたとしか判らなかった。あたしもレイも気配なんて分からないのだから。


気がつけば目の前に巨大な竜が居た。

レイから広域破壊級の魔物が現れると聞いてはいたがそのまんま竜なんて!もちろん竜の種類なんて知らないけど。


竜が襲ったのはあたし達ではなかった。赤い実を食べていた名前も知らない魔物だったようだ。だが、脚で魔物を掴むので顔はあたし達の目の前だった。

着地の姿勢で頭が下がってしまったようだ。ブワッと風が吹き付ける。

地べたに寝そべっているあたし達の目の前に驚いた竜の顔、驚きの余り動けないあたし達。

お互いに叫んでしまった。


ギギャォー!

わ、わ、わ、うわあ!!竜?


なんて言う種類の竜なのか判らなかったが顔の大きさはあたし達2人分くらい、身体は凄く大きいとしか判らなかった。


気が動転してしまって魔法を使ったり逃げ出したりする事ができないで、レイと抱き合い震えるしかなかった。予めイベントが起こると判っていてさえこうだった。


そこへ颯爽と現れたのはヤリスギ王子と仲間たちであった。

「大丈夫か、レイチェル!」

ヤリスギ王子の声が聞こえた時に

「そこは、あたしの名前を呼ぶところじゃない?!」

と思ったのだった。他にも何人かの心配する声がしたがモブか?

呼び捨てなんてヤリスギ王子ってばレイと仲が良いのねと思う。いつの間に仲良くなったのだろう。

少し離れた位置から風やら水やらの魔法が竜らしき魔物に飛んでいく。

ついでのようにそこから動くなと言う声も聞こえた。


竜には魔法の攻撃も余り効いてはいなかった様だがとても迷惑そうな顔をしていたのが見えて何だが気の毒に思えた。抱き合っていたレイも怖さに震えていたが視線は同じように竜に向いていた。

竜の顔には古そうな傷があり、メの字に見えた。それなりに強者?

みんなの頑張りで嫌がったのか竜は足元の魔物を数匹捕まえたまま飛び立った。


レイの周りにはヤリスギ王子を始め、彼の取り巻きが居て、レイに優しい言葉を掛けている。同じ目に合ったのにあたしには義理のように一度声を掛けただけだった。良いもん、男なんて星の数ほどいるんだから!

どうやら演習中に飛竜(ワイバーン)が飛んで来ているのに気づいて、飛竜を追いかけて来て私達に気づいたらしい。

助かったには助かったがなんか納得がいかない。


あたしとレイはヤリスギ王子達に守られながら山を降りて馬車迄戻った。あたしの手には竜が掴み殺したが取りこぼした魔物がいた。ついでだったので残り物を持ってきたのだ。当然評価点になった。


山の中でそれぞれが野営をする予定だったが飛竜の出現で安全を期す為に馬車周りで集まって野営となった。安全を考えるなら中止にすれば良いのにと思うが授業の一環ということでそうもいかないらしい。


集まったついでに大きな焚き火を囲んで食事をし、みんなでワイワイお喋りする事になった。お酒と言うより低アルコールのぶどう酒で乾杯である。

大きな焚き火はさしずめ異世界でのキャンプファイヤーであろう。もちろんダンスもあった。ダンスは貴族の嗜みだし、ギターの様な楽器もあり、十分盛り上がった。ちなみにギターを掻き鳴らしたのはアマリ先生である。さすが多彩な魅力を持つ攻略対象だと感心する。

レイはヤリスギ王子達に囲まれご機嫌である。当然ながらレイの隣に私が居るが誰にも異論は言わせない。


宿泊場所は馬車の中とはいかなかったが各々が持ち寄った簡易テントでの就寝である。折り畳みであってもテントの中では一番の広さと豪華さがあった。なんと言ってもあたしの手作りである。ワイヤーと防滴布を使った異世界仕込のテントなだけで無く、魔法の工夫もされていているから寝る場所はエアークッション製である。

いやー快適、快適。

しかも内緒のインベントリから寒さよけの毛布も完備されている。


いやー温い、温い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る