第10話


授業は進み、魔法実技は更に多くなった秋の終わり頃野外演習の話があった。これは学園の全員で所定の野外に行き、所定の魔物を狩ると言う演習であった。学んだ魔法知識と実技を試し、実際の効果を体験させようと言う狙いがあるらしい。

勿論、学年別に集まる場所は多少違うらしい。

レイがソワソワしている。問い詰めてみると『二人の悪役令嬢、世界は選択の愛のために』のストーリーでのイベントがあるらしい。


何でも初級レベルの魔物しかいない筈なのに広域破壊級の魔物が現れ、ヒロイン(この場合レイの事)がピンチの時に王太子であるヤリスギ王子達が現れ救われると言う流れらしい。まぁ乙女にとってイケメンに救われてお姫様だっこされるのは夢だとわかるけど・・・多分レイあんた、ヤリスギ王子より強いよ(残念)。


あたしとレイは調子に乗って魔法開発をカンガンやってるから全属性のレイの魔法は中級レベルだし、あたしの魔法は初級レベルでしかないけど強化系の属性を利用した魔法は中級を越えてしまっているからね。現実を見ようよ、レイ。


そんなこんなでやって参りました当日。

マナンカ魔導学園の所有地である南東の山に馬車で移動してやって来た。日が昇り始めた頃に学園に集まり、学園が用意した馬車で移動したのだ。時間にして2時間ほどでまだ昼前だ。朝が早かったので先ずは皆で食事である。馬車でに乗っていた者たちで集まって食べる。


あたしは勿論レイと一緒だが、他にラブ達が一緒の馬車だった。馬車の中での会話は今日の野外演習の内容だけで無く美味しい店の情報交換も行われた。アリエナイ黄爵であるあたしとエクステリア紅爵であるラブの反目だけで世の中は進まない。あたしとラブの言葉によるマウントの取り合いの合間にロッテリアとレイチェルのお菓子談義が挟まるのだ。

ノブナガ黒爵の三女マリエは最初あたしとラブの口吻について行けなくてあわあわしていたが最近は合いの手を入れるようになった。マリエが話に合いの手を入れることで止まりそうになる話が続く。さすが干渉系の女である。

それなりに楽しい。


食事が終わるとアマリ先生がみんなに今日の趣旨と注意事項を伝える。

「·····と言う事だからな!気をつけて演習を行って欲しい。」

言うだけ言うと自分の馬車に引っ込んでしまった。


あたしとレイは背中のリュックをゆすりながら山道を登り始めた。レイ達も後に続く。喋り疲れたのかラブ達も無言だ。暫く行くと分かれ道に出た。

アマリ先生からの注意事項にあった分かれ道だ。体力に自信があるなら右の道へ、でなければ左の道にとの事であった。


あたしとレイは右の道へ、ラブ達は迷ったようだが左の道へ進んで行く。別れ際ラブが皮肉を言うのを忘れない。

右の道を進むと傾斜がきつくなるが早く着くのだ。そして魔物も出やすい。

この演習では一人一匹の魔物を狩れば良いと言う事になっている。でも多ければ多いほど評価は高くなるのが道理である。

山の中は予め学園側から冒険者を通じて弱い魔物を残して調整されている。習った初級魔法を使えば討伐の演習が出来るようにされているのだ。


道を外れた斜面の陰に魔物が居た。ホーンラビットが数匹群れていた。あたしとレイはお互いに頷いて、少し離れながらそちらに向かった。残り5メートル位まで近づいた所でレイが仕掛けた。

無詠唱の小さな土の塊が飛んでいく。木々を避けながら飛ぶ様は中々器用である。


ドシャ

いきなり土の塊を掛けられたホーンラビットがバラバラに逃げ出した。木々の影で見えにくかったホーンラビットの一体が目の前を駆けていく。そこにあたしは無詠唱で氷の矢を飛ばした。

風を切る鋭い音がしてホーンラビットの目の前の地面に突き刺さった。

ホーンラビットが氷の矢にぶち当たり動きが止まった。それを見ていたレイが地面に手を付いてまたも無詠唱で魔法を掛ける。止まったホーンラビットの周りから草が急速に生え、ホーンラビットを拘束した。ホーンラビットがキュンキュンと鳴き声を上げる。


可愛らしいが魔物だ。だが、頭から生えた角が油断が出来ない。その角が赤く光りだした。魔力で熱を発生させているのだ。

慌てて這うようにホーンラビットに駆けつけ、あたしは動けずにいるホーンラビットに手を付いて短詠唱で魔法を掛ける。

「急速冷凍!!」


あたしからの魔力がホーンラビットの身体から熱を奪っていく。角の熱が急速に消えていき、ホーンラビットの身体が凍りついた。ついでに拘束していた草も凍る。

結構大きいホーンラビットの身体を抑えながらレイの方を見ながら叫んだ!

「獲ったどうぅー!!」


土で汚した手をパンパンと払いながらレイが笑顔をみせて

「やりましたね!」と言った。

少し離れたところから散らばって行った他のホーンラビットが振り返ってあたし達を見ていた。冷や汗掻いてる?


手頃な木の棒に捕獲したホーンラビットを紐で括り付けあたしとレイは二人がかりで担ぎ上げた。ホーンラビットの大きさは大型犬くらいありそこそこ重い。えっさほいさと二人で来た道を戻ってアマリ先生の馬車まで戻った。


「先生ー」

と声を掛けると中からアマリ先生が顔を出した。そしてあたし達を見て、ホーンラビットを見た。


「おお!大物を狩ったな!」

アマリ先生に褒められた。

アマリ先生が近づいて来た冒険者に声を掛けて解体を依頼する。


「二人は後一匹頑張れよ!」とアマリ先生に言われる。

ホーンラビットが持っていかれるのを見ながらあたし達は頷いて山に戻って行った。

登りながら他の生徒達が獲物を引きずったり、転がしたりして降りてくるのに出逢った。だが、ラブたちでは無い。


分かれ道で今度は左の道を登って行った。すると林の中でラブ達が同じ様にホーンラビットと戦っていた。

ラブは交換系、マリエは干渉系、ロッテは治癒系だから直接攻撃をラブがしていた。

持ってきた短刀に熱を加え、ホーンラビットに振るう。熱を帯びたホーンでそれを弾くラビット。何とかホーンラビットの魔法を消そうと魔法を放つマリエ、その周りをウロウロするロッテ。

中々面白い見ものだったが時間が勿体ない。レイと笑い合いながら更に山を登って行く。


ホーンラビットとはあれから出合えない。ラブ達が騒ぐから離れて行ったのだろうか。登って行くと少し広い木々の切れた草原に出た。良く見ると草原の真ん中に朱い実をつけた低木がある。そこには数匹の魔物の影が見えた。

ホーンラビットでは無いようだった。

「何かしら」

レイに声を掛けるとレイも答える。

「分かりません」



その魔物は細長い胴体に小さな手足、長い体毛を持っていた。ねずみ系統ではなくイタチ系統の名前は分からない魔物だろう。朱い実を器用に手でもいで食べている様だ。

食べながらも周りを気にしているようで時たまあちらこちらを見回している。警戒心が強いのかも知れない。

小声でレイに話しかける。


「逃げ足が早そうだから一気に捕まえないと駄目そうよ」

「そうですね、土魔法で包んでから冷凍します?」とレイが言う。

通常の土魔法であの高さの木を包むとすると結構な時間が掛かるがあたしがレイの魔法を強化してやれば一秒も掛からずにできるだろう。まぁそれにはかなり近づかないといけない。

今は10メートル程離れているが半分の5メートル位まで行けば大丈夫だろう。ただそこまで気が付かれないように近づければだ。


レイとあたしは身体が汚れるのも構わず腹ばいになってゆっくりと近づいて行った。並んでいるのでレイに触れて強化魔法を掛けるのも容易い。


空の遠くで鳥が飛んで鳴き声を上げている。

何もと長閑だ。

ずりずり、後少しで予定の場所だ。ゆっくりレイがあたしを見て、目配せをする。


軽く頷いて更に近づこうとしたその時、巨大な影があたし達の上に落ちた。


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