第9話
それからのレイは落ち着いて生活していた。もちろん、学園での生活は楽しいものだ。
魔法の実習が一番楽しい。座学もレベルが低いので難なくこなせる。レイも能力的には問題ないが転生前の影響があるのか対人能力が不足していて、多少コミュ症ではある。
クラスの者たちは既にグループを作っていて楽しそうではあるが未だに一人でいる者もいる。
ダダノ·セイエンだ。全系統2100魔力の男子。
授業中は音も立てずにそこに居ながら授業が終わると直ぐに姿を消していつの間にか戻って授業に出る。態度は真面目で成績も普通、と言うか敢えてそうしている素振りも見える。誰にも注目されないように振る舞っているのかも知れないと思えた。
あたしが注目する理由も無いし邪魔もされる事は無い。でも、あたしには気になったのでレイに『二人の悪役令嬢、世界は選択の愛のために』の登場人物か聞いたがレイも知らないモブではないかと言うのだ。
学園生活も2ヶ月が過ぎ初夏の頃、一人で学園内を歩き、図書館に向かう途中でタダノ·セイエンが物陰から誰かを伺って居るのを見付けた。何をしているのかと声を掛けようとしてその姿が異常に緊張して居るのが見えて戸惑ったのだ。
視線の先には校舎の影になっていて良く見えていなかったが複数人の誰かが居て、何かしている様だった。怒鳴るような声も聞こえるので何か揉めているのでは無いかと思えた。
タダノは声を掛けないならあたしが声を掛けよう。
そう思って校舎の影の方へ歩いていくとやはり人が居た。
しかも壁側に追い詰められているのはレイで3人の女性、ラブ達か?と思ったが見たことの無い顔だった。
リボンの色は翠、詰まり上級生だ。3年生である。
「レイ、居ないと思ったらこんなところで何をやってるの?」
あたしの顔を見てレイの顔が輝いた。
上級生3人がこちらを向いた。あたしの顔を見て驚いている。
「ソンナ様!」
上級生3人の顔に見覚えは無いがあちらはあたしの事を知っている様だった。
「ごきげんよう、私を知っている様だけど何をしていたのか教えて頂けるかしら」
と問う。
するとそれぞれが答えた。
「ナメア・ラザイアですわ。ソンナ様には無関係な事ですから・・・」
「スルト・ナナイカですの。レイチェル様がソンナ様に慣れ慣れすぎるからご注意申し上げていただけですわ」
「ヤメタ・モチートです。レイチェル様にちょっと聞きたいことがあってお聞きしていただけですわ」
みんな言う事が違う。
虐めてはなかったのか?
「それと、奥にいる方はどなたかしら」
と建物の奥に目をやる。でも誰も居なかった。
確かにレイ達の他に一人居たのだ。突き当りは壁なので逃げる場所は無かった筈である。
3人ともあたしの指摘にそちらを向いて小さく声を上げる。やはり見間違いでは無かった様だった。
「フォ・アキサメ様にこちらの3人様が乱暴を働いていたので止めさせたのですよ、ソンナ様!」
フォ・アキサメなんて聞いたことが無い。誰だろう、レイの知り合いだろうか?
それをレイに聞くととても言いにくそうに3人を見る。何か事情があるようだ。訳アリのようにタダノ•セイエンが見張っていたのだ。ここでは話さないほうが良いと思った。
「まぁ良いわ、レイ行くわよ!」
そう言ってあたしは踵を返す。上級生3人は何も言わない。レイは大人しくあたしに付いてきた。
歩きながらレイにフォ・アキサメの事を聞くとレイは今度は答えた。
「フォ様はアキサメ黒爵家の方です。同じ黒爵家としてお付き合いがある方でお父様共々お世話になったんです。2つ年は上ですけどとても気さくでお優しく大人しい性格です。とても良くして下さったんです。」
レイはあたしだからか敬語を止めて話す。
「何を問い詰めて居たのか分からなかったんですけど、手を出していましたから咄嗟に止めてしまいました。」
「なるほどね」
何がなるほどなのか分からなかったが取り敢えずあたしはレイの言うことを信用した。
歩きながらタダノが居た茂みを見ると既に誰も居なかった。
あの3人は何を問い詰めようとしていたのだろうか?
そしてフォ・アキサメとは何者なのだろう。
そしてタダノ・セイエンは何をしていたのだろう。
疑問は何も解決していない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます