第8話


あたしの前世にも『乙女ゲーム』と言うのはあったと思う。パソコンで調べ物をしたりSNSをアップするのに使っていたものだ。1度可愛いアニメキャラの画像があったのでクリックして見て、説明文を読んだら頭がクラクラしたのを覚えている。それ以来DMが大量に来たので尚更良い思い出が無い。


レイはそれに嵌まった腐女子というものだったらしい。ひたすらゲームをし過ぎていつの間にかこちらの世界に来ていたとレイは話した。


レイの話では『二人の悪役令嬢、世界は選択の愛のために』は悪役令嬢をラブかアリエナイを選ぶと選ばなかった方がお助けキャラとして主人公に絡んで来るのだと言う。主人公はお助け悪役令嬢に助けられながら5人の攻略キャラの誰かと結ばれる話らしい。


レイチェル·ハクコウが自分を日本人アサノナナミと知ったのは父親に連れられて国の北部各地を転々としていた時で乙女ゲームの世界に居るとは自覚していなかった。ただ、父親の未来を何故か知っていたので危険を回避する為のアドバイスをしていただけだったらしい。レイのアドバイスが無ければ父親は魔物との戦いで片腕を無くすが、魔物討伐の功績で騎士団の顧問として技術指導する事になっていたのだ。


しかし、レイのアドバイスのお陰で父親は怪我もなく魔物討伐の功績で騎士団の団長となり、叙爵して黒爵となった。ここからして乙女ゲームの内容と違うのだと言う。

レイが乙女ゲームの中に居ると確信したのは入学式当日のあの事件だ。出会う王太子ヤリスギ·マンナンカに助けられるイベントであたしに助けられた事だと言う。あたしに会うのは教室でラブに言い掛かりを付けられる所を助けられるのがストーリーだったらしい。

そこでラブが悪役令嬢設定のルートに入ったと思ったそうだ。


ただ、乙女ゲームの登場人物は居るのにストーリーが滅茶苦茶で混乱したのだという。

あたし達からしたらそんな事知らんがなと言う所だ。

そんなゲームでなくちゃんと生きて生活をしているのだからストーリー通りになんてならないと思うのだ。ただ、ゲームの中の世界なら強制力というのもが働く可能性が無いとは言えない。


「あたしの頭がおかしいのでしょうか?」

縋るような顔でレイがあたしを見る。


「確かにあなたの記憶のゲームに似てるかも知れないけど別の世界だと思った方が良いわよ」


設定通りの場面が現れたとしてもストーリーに従わなければならないなんて事は無いのだ。主人公でも出演者でも自由に生きる権利は等しくある筈だ。

ゲームのような事実が分かっても既にあたしもレイも転生者と言うとんでも無い事実があるのだ。むしろ、こちらのほうが影響力が大きい方だろう。

あたしは料理人としての知識があり、レイはゲームの知識がある。それ故にレイが知っているような結果には成らなかったのだろうと思う。結局、知識なんて上手く活用すればいいだけでそれに振り回される必要なんてないのだから。


話をして頭の中が整理ついたのかあたしの屋敷を夕方レイが帰る頃には落ち着いていた。

ただ、昼に出された転生前の料理の数々には驚きながら喜んでいた。また、来たいと言うので喜んでと言ってあげた。結構な食いしん坊よね、レイ。


それでレイは攻略対象を攻略する積もりがあるのだろうか?とても気になるわ、うふふ。

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