第6話


時間的にも早かったのでレイと街中を散策する事にした。

馬車で屋敷に帰る途中で見かけた行列の出来ている店を見掛けたのだ。一緒に乗っているレイは“ほわぁ”とかため息をついているがレイだって一応は黒爵の令嬢なのだから馬車くらい馴れて欲しい。


御者のゾットがある店の前で馬車を停める。ゾットの手伝いであたしとレイは馬車から降りると1時間後に迎えに来ると言ってゾットは去っていった。近場の馬車停めに移動したのだ。



店はオープンカフェのような作りになっていて数人の人が並んでいた。

「ここね」

あたしが言うとレイが驚く。


「此処って最近有名なお菓子を出す人気店ですぅ!」

店の前には『バラライカ』と看板があった。


早速並ぶ。店で食べていく人もいれば持って帰るだけの人もいて、さほど待たずに席に案内された。お菓子目当ての女子が沢山いるが、それをエスコートする貴族らしき人もいる。もちろん、あたしとレイのような女子同士も結構いる。


席でメニューを見ると目移りしそうだ。ケーキと並んでプリンがあった。プリンは卵を使うのと冷蔵保存が必要なのでお金のある貴族位しかあまり食べられない筈なのだが。レイが叫ぶ。


「プリンがある!うわぁ、食べたいけど・・・高っかぁい!」

「このチーズケーキも捨てがたいけどミルフィーユも美味しそう!」


余りにも喜びながら声を上げるのでウェイトレスが近付いて来た。たぶん苦情を言われるのだろう。

「ちょっと、レイ。嬉しいのは分かるけど声が大きいわよ」と注意するとはっとなる。ウェイトレスは去った。


「私が誘ったのだからお金を気にしないで良いわ、奢ってあげる。」

私の言葉に目を点にして遠慮しようとするが念押しをすると目をまんまるにして頷く。


片手を上げるとウェイトレスが注文を取りに来たのであたしは野菜ジュースとシナモンケーキを頼む。

レイが迷っているのを見てウェイトレスがハーフやダブルが出来ることを教えるとオレンジジュースとミルフィーユのハーフとプリンのハーフを頼んだ。めちゃくちゃ楽しみにしているのを見てあたしまで楽しくなってきた。


ケーキなどの甘味には紅茶が合うのだろうが、この店にはジュースが揃っていたのだ。街中で簡単に手に入る柑橘類を初め、色んな種類があった。だから安い。

それに比べ紅茶は高い。種類もあまり無い。そして、紅茶は貴族の飲み物なのだ。

更に言えば砂糖が高い。紅茶の為に砂糖を出すことは無い。


甘味は女の子なら誰でも好きだろうがレイは得に好きなようだ。父親のハクコウ黒爵と小さい時に各地を放浪していたので甘い物を手に入れる機会が余り無かったらしい。農村や紛争地帯では確かに無理だろうし、貴族になったのも最近だろう。黒爵と言っても貴族の位を持つ平民と変わらないから金銭的にも厳しいのかも知れない。


そんな事をあたしが考えているのも知らずにレイは盛んにお菓子への期待を話してくる。お菓子への期待で目の輝きが違うなんてレイらしくて微笑ましくなってしまう。暫くして、注文の品をウェイトレスが運んで来た。


あたしの前には野菜ジュースとシナモンケーキ、レイの前にはオレンジジュースとミルフィーユのハーフとプリンのハーフだ。シナモンケーキの香りも野菜ジュースの優しい味と合って美味しい。少し香りの高い紅茶でも合いそうだ。

レイは小さなスプーンでプリンを掬い、一口食べては頬を両手で覆い、体をくねらせている。嬉しいのは分かるけど大袈裟でない?


プリンなんてあたしは黄爵家の財力にものを言わせて5歳位から食べ慣れているけどねぇ。最近は"カスタード"やら"かぼちゃ"なんかも変わり種として料理長が奮戦して出してくれる。一応、元ネタはあたしだけど。


クレープ生地のミルフィーユケーキもホイップクリームを作るのが手間だからパーティーでしか出してくれなくなったのが残念よね。まぁ特別感が有ってお客様受けするよのね。レイをお茶会に呼んだ時にでも嫌というほど食べさせてあげようかしら。ミルフィーユは昔から知られていたけどクレープ生地のケーキは無かったのよねぇ。


プリンとミルフィーユを食べきって、目の前から無くなったのを愕然としたレイも面白かったけどケーキとジュースをあたし達は堪能してお会計をしていたら意外な面々に合ったわ。


「あら、ソンナ様。ごきげんよう」

ラブだった。


ラブの横にはマリエ·ノブナガとロッテリア·バーガーが居た。これから店に入ろうとしていた様だ。たぶんロッテリアに付き合って遅くなったのだろう。


「ごきげんよう、ラブ様」

「ごきげんよう、ラブ様、マリエ様、ロッテリア様」とレイがあたしの後ろに隠れながら挨拶をする。


「これからお楽しみかしら」

とあたしがラブに言うとにっこり微笑んで答える。


「ロッテの慰労会よ。ロッテったらなかなか上手に実技が出来なくて」

「では、種火の魔法は出来るようになったのかしら?」

とあたしが水を向ける。


「ええ、もちろんよ。ねぇロッテ」

とラブがロッテリアを振り返って言うと顔を赤くしたロッテリアが答えた。


「何とか、アマリ先生に合格点を頂けましたわ、ソンナンカ様」

「あら、ソンナで良いのよ、ロッテリア様」

少し口撃してあげるとロッテリアの赤かった顔が少し青くなる。あたしの機嫌を損ねたと思ったのだろう。


「ソンナ様、余りロッテを虐めないで下さいまし」とラブが救いの手を伸べる。


「なら、ラブ同様ロッテ様とお呼びしますわ」

とあたしが言うとラブが薄く笑う。あたしのからかいが分かっているのだ。


「では、またあした。ごきげんよう」

と挨拶してラブ達と別れ、店を出る。


澄ました顔をしているとレイがボソボソと何か言った。

「・さ・が・・あく・令嬢・わ・・・」

良く聞こえなかった。


でも、ラブの事を何か言ったようだ。

店の前にはゾットが待っていてあたし達の姿を見つけて、頷き、凄い勢いで駆けていった。直ぐに馬車を回してくるだろう。


するとレイがここで歩いて寮まで戻ると言う。いやいや、結構な距離があるから送らないといけない。


「駄目よ、レイ。あなたを一人では帰せないわ。日も暮れ始めているし、寮まで送るわよ」

一人で考えたい事があると言うレイを無理やり送る事にする。さっきの独り言が気になって仕方ないのだ。


そんな風に揉めているとゾットが馬車を回してきた。無理やりレイを押し込む。馬車に入るとレイは諦めたようだ。



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