第5話
訓練棟には殆どの生徒が集まっていた。
居ないのはダダノ·セイエンだけだった。
いつも一人で居て、誰とも話さないし、つるまない。だから誰もタダノの事を知らなかった。
アマリがやって来るとタダノが居ないのに気にもされず授業が始まった。
「魔法を使うには魔力を自分の意志に従わせて使う。魔導具にただ魔力を流すのと違って意思を乗せるんだ。
魔力にどんな事をさせたいのか、どう魔力を魔法として発現させたいのかを考えろ。
生活魔法として最も使うのは種火だ。先ずは各々少し離れてやってみろ。」
口での説明だけでは分からない者も多い中、幾人かは最初から成功する。ソンナンカとレイである。
流石、主席と次席と言われるが恐らくイメージ能力の差であろうと思う。
あたしは人差し指の先から、レイは掌の上に種火は生まれた。レイの種火はアマリと同じ位の規模だったがあたしは火焔放射器レベルだった。
周りの驚きにテヘペロしたのは無論である。
その頃になって遅れてダダノ·セイエンが現れた。
アマリはため息を付き、まだ魔法の発動に至っていない者たちを指導する為、あたしとレイにダダノの指導をするように指示した。
あたしとレイはお互いに目を見合わせて肩を竦めた。良く分かっていなさそうなダダノに声を掛ける。
「ダダノ様、今日は魔法発動の練習の為先ずは種火を起こしてみると言う実習ですわ」
レイは同調するように頷く。
ダダノは周りを見渡し、あたし達を見て返事をした。
「判った」
「アマリ先生は"魔法を使うには魔力を自分の意志に従わせて使う。魔導具にただ魔力を流すのと違って意思を乗せるんだ。魔力にどんな事をさせたいのか、どう魔力を魔法として発現させたいのかを考えろ"って仰ってましたわ。」
「判った」
とダダノは答える。
感情の籠らない応答に少し違和感を覚えたがそのまま様子を伺う。
他人の魔力が見える訳では無いが何となくダダノは魔力を抑えている様に見えた。
ダダノが掌から小さな種火を発生させた。あたしの説明だけで魔法を行使できるなんて只者では無い。
「凄いですわ」
とレイが感嘆を上げた。
出来たのを確認したのでロッテリアを指導しているアマリの所へ報告に行く。ロッテリアは系統が異なるからか苦心している様だ。
「アマリ先生、ダダノ様は出来ましたわ」
と言うとアマリはみんなを見渡して大きな種火を発生させる。
「この程度迄の種火を出せるまで各自練習だ。終わった者から解散!」
と言った。
そして、ついでの様に言う。
「ソンナンカは帰って良し!」
何だか一人で帰れと言われている様であたしは口を尖らせた。レイに宥められる。
アマリはそのままロッテリアが種火を出せるまで指導するようだ。
あたしはレイに付き合う事にした。
30分程でレイもコツを掴んだようであたしと同じ様に人差し指から大きな種火を発生させる事が出来る様になった。
もう、レイも帰って良いわよね?
◆◆アマリ視点◆◆
主席と次席の二人は飲み込みが早い。
流石に頭が良いと思う。
例年、この授業で直ぐに結果を出せる者は魔法の伸びが良い。二人とも魔力が高いし、かなりのレベルになると思えた。
でも、後からやってきたタダノがソンナンカの説明だけで直ぐに種火を出せるのには違和感があった。
魔力量は平均だから少し試行錯誤があるものなのだ。
現に、他の者たちは苦労している。
ソンナンカの説明が良かったか、魔法の適性が高かったのかと考える。
上手く行かない生徒たちを見て回りながらタダノを探すと既に居なくなっていた。
ふむ、少し不真面目だな。減点!
◆◆ロッテリア視点◆◆
ああもう!
ロッテは焦っていた。
一緒にやっていたラブ様やマリエは少しの時間で出来たのにあたしだけ出来ない!
ラブ様は頑張って!と応援してくれるけどマリエは冷たい目で見てる。同じ黒爵なのにあたしだけ•••
落ち込みたくなるけどアマリ先生も色々教えてくれている。
頑張らなければと焦れば焦る程上手く行かない。
昔からなのよね、あたし。みんなからトロイとか頭悪いって言われること多いのよね。
でも、せっかく同じ爵位のマリエと二人でラブ様に誘って頂いたのだから脱落したくないわ。
「ゆっくりで良いから」
と言ってあたしの手を握って下さったわ。嬉しい。そして、ラブ様の手って暖かくて柔らかい!
すると何故か反対の掌から炎が上がったわ!
「やった!やったわよ、ロッテ!」
ラブ様が我が事の様に喜んで下さったわ。
一緒にぴょんぴょん跳ねてしまったわ。
周りを見渡すともうあたし達の他にはアマリ先生しかいなかった。
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