第4話


朝はメイドのレアンに起こされた。

レアンはあたしが小さい時から専用メイドとして付いている人だ。歳は28歳、旦那持ちである。旦那はゾットと言いあたしの馬車の御者をしている。詰まり夫婦であたしの世話をしてくれているのだ。

あたしに優しいがあたしの父親に雇われているので父親の命令は絶対としてあたしの我侭を聞いてくれない時もある。


洗面、トイレ、着替を済ませた後にレアンに手伝って貰って軽く化粧と髪を結って貰う。

今日は片側に纏めて編み込み胸の方に垂らす髪型だ。少し大人っぽいかな?

用意されていたカバンを手に持ち家を出ると玄関先には馬車が待っていた。中にはもうマタモヤが既に居た。


「遅いです、お姉様」

と言われ素直に謝る。マタモヤがあたしより遅かった試しは無い。何時もの事でもある。


マナンカ魔導学園に着き、同じ教室棟だが教室が違うので別れて教室に入る。

教室の窓側の奥にレイが座って小さく手を振っていた。軽く頷いてレイにおはようと挨拶をして隣に座る。

前から2列めなのでそこそこ教壇に近い。レイは目立つのを嫌って此処にしたのだろう。


アマリ·サエナイ先生がやって来て教壇に立つ。持ってきた木箱を教壇に乗せて話始めた。

どうやら出欠席のたぐいは行わない様だ。

「今日は各自の魔法適正確認を行う。その後魔法の基礎の説明をする。昼食後実技棟にて簡単な指導をする予定だ。実技指導は俺以外の2人の補助員が就く。いいか?分かったら昨日の呼ばれた順に教壇前に来るように。」


わくわくする。

マナンカ魔導学園に通うのはこれが目的の様なものだ。知識などは家庭教師に学べば良いが魔導に関しては魔導学園で無ければいけないと言う規則があるのだ。

魔法を操る魔導師は国が定めた国家機関にて管理し統率すると決められ、国家の危機にはその能力に応じて召集されるのだ。魔導の能力の高いものは国の重要な機関に所属させられ、必要とあれば戦争にも駆り出されるのだ。


「まず、ソンナンカ·アリエナイからだ。」

名前を呼ばれる前から教壇に近付いていた。

アマリが木箱に手を起き魔力を流すと木箱がカタカタ言って展開して中身が顕になる。そこには金属製の台に乗った丸く透明な水晶があった。


「では、この水晶に手を乗せて魔力を流してみろ」

アマリの指示通りあたしは手を乗せて魔力を流す。


誰でも生まれた時からある程度の魔力を持ち、魔導具を起動させるのに魔力を使う。

ただ、魔導を行う術を持たないので魔法を発現させる事が出来ないのだ。

隠れて魔導を受ける事で魔法を使える様になる事は出来るが違法である。見つかれば重罪犯罪人として死刑になる事もあるのだ。

魔導がまだ国家管理になる前の伝説の賢者クワイラズの時代はそうだった。強力な魔法使いが乱立し争い、国が滅んだり、生まれたりしたのだ。その為に国家が管理して危険を回避する様になった。その為のマンナンカ魔導学園である。

勿論、他の国にも国家が管理する魔導学園は幾多もある。


水晶は銀色に強く輝き始めた。目の前が見えなくなる様な強い光だった。驚いたのはあたしだけでなくアマリ先生もだった。

「もう良いぞ!」

鋭い声に魔力を流すのをやめて水晶から手を退ける。


「いきなり凄い魔力だ。宮廷魔導師並だな!系統は強化系で魔力数値は15800だ!!」

どうやら金属の土台に数値が現れるらしい。それにしても強化系なのか。むむむっ!


「流石は主席ソンナンカだな。次はレイチェル·ハクコウ」

後ろに居たレイと場所を交代して席に戻る。あたしと同じ様にレイが水晶に手を乗せる。金色にが輝き始めたが光具合はあたし程では無い。

「凄いな!全系統で数値は5000だ。どんどん確認するぞ!」


「スズリ·ローレライ これも強化系だ。2500」

ローレライ白爵の長女


「ムスカ·マルブン 物質系、1500」

マルブン緑爵の次男


「マリエ·ノブナガ 干渉系2000」

ノブナガ黒爵の三女


「ダダノ·セイエン 全系統2100」

知らない貴族、男子。


「リンク·レンダーシア 操作系5000」

レンダーシア帝国皇帝の7男。


「グノーシス·バロン 干渉系1000」

広域商人バロン商会の3男


「ロッテリア·バーガー 治癒系1900」

バーガー黒爵の次女


「ラブ·エクステリア 交換系3000」

エクステリア紅爵の次女


全員の魔法適正が調べ終わった。アマリは羊皮紙にそれぞれの結果を書き残した様だ。

「流石にエリートのクラスだ。全系統が2人もいるなんてな。それにしてもソンナンカの数値は高い。他のみんなも数値が低くてもそんなに落ち込まなくても良いぞ。 最初から1000を越えている時点で魔力量は高いと言える。魔導具の起動の必要な量は100もないし、魔法を覚えれば即戦力と言っても良い。因みに俺は」

と言ってアマリが水晶に手を乗せた。

水晶は虹色に強く輝く。


「特質系で26000だ。」

見かけはあまり冴えないが魔導に関しては流石に教師と言えた。動揺が教室に広がる。


「まぁソンナンカや俺と比べるな。これから鍛えていけばもっと上がる。」

みんなを教壇から見渡してアマリが強調する。ホッとした雰囲気が広がった。


「ひと通り系統が分かったと思うがこれは得意分野が分かったに過ぎないからな。他の系統が出来ない訳じゃあ無い。学んで行くに連れてまた変わる事もあるんだ。」


アマリが黒板に系統に付いて書いてゆく。


強化系=肉体や武器の強化

物質系=物質の相を操る

干渉系=魔法の強化や弱化

操作系=物体を操る

治癒系=肉体の治癒、魔力の回復

交換系=発熱、冷気を生み出す

特質系=物体移動や転移


「大体こんな感じだな。何か質問はあるか?」

マルブン緑爵の次男ムスカが手を上げて質問する。


「僕は物質系と言われましたが物質の相って何ですか?」

「詳しくは授業で習う物理学で説明するが水のように固体の氷、液体の水、気体の蒸気の事を相と言う。まぁ状態を表す言葉だな。だから物質系の魔法では水を凍らせたり、水蒸気を発生させて霧を作ったりできるな。錬金で言えば鉱石を溶かして鍛造したりする者もいるな。」

ムスカは分かったような顔をしたが納得は行かない様だ。


次にロッテリア·バーガーが手を上げた。

「アマリ先生、治癒系の魔法を使える人はどれ位居るんですか?」

確かに世間的には少ないと聞いているが具体的には知らない。アマリは考えながら答えた。


「治癒魔法だけの特化した者は少ないな。聖者や聖女と呼ばれる程の力を持つものは万に一人、神官レベルで千に一人、擦り傷程度ならほぼ誰でも可能だ。まぁ稀に使えない者も居るがな。」

その答えにロッテリアは落胆したようだ。希少な魔法が使えると考えたのだろう。


「さっきも言ったが魔力を持っていればどの系統であれ多少は使える。不得意を伸ばすのも良いが得意な系統を伸ばすのが魔法を使いこなすコツだ。」

「さて、時間も良さそうだからここで解散だ。食事を取ったら訓練棟に集まれ。」

そう言うとアマリは教室からさっさと出ていった。


アマリが居なくなると各々が話を始めた。話題はそれぞれの系統を使った魔法の事だ。話相手の居ない者はさっさと教室を出ていく。


「あのぅ」

とレイが話し掛けていたが食事を取りながら話しましょうと言って立ち上がる。

レイは直ぐに察した様で頷いて付いてきた。


食堂棟に来ると昨日のような場所にトレイを持って座った。今日はスープパスタに白パンだ。ゆっくりとスープパスタを啜っているとレイが遠慮がちに話し掛けてきた。


「ソンナ様は強化系でしたよね。」

「そう言うレイは全系統よね。凄いじゃない。」ズズズ

あたしが褒めると申し訳無さそうに口をすぼめる。


「私なんかきっと器用貧乏なだけです。魔力量も少ないですし。」

「アマリ先生も言ってた様にきっとこれから増えるわよ。」パクパク もぐもぐ。


「そうでしょうか?黑爵家なのに・・・お父様の役に立たない・・・・」

目を泳がせるレイにあたしは言う。

「悲観しちゃ駄目よ。見方を変えれば万能って事なんだから。」

もぐもぐ


「私の方だって魔法をばんばん使いたかったわ。強化系をどう活用するか良く考えないとね。」

パクパク


前向きな私の言葉に曇っていたレイの表情が少し明るくなる。

「そうですよね。これからの筈ですよね。」

見るとレイの食事は殆ど減っていないのに私はもう終わる所だった。


レイの食事を果実水を飲みながら待って、ゆっくりと二人で訓練棟に向かった。

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