第9話 満月の涙 #4

第9話 続き #4


■ー城 ポリーの部屋


〈入ってくるジュリアス。〉


ポリー「〈泣きはらした顔を上げ〉父様とは話せた?」


ジュリアス「〈頷き〉は忘れろって。王命は変えられない。今後、変なことを口にしたら、大臣である父様にまで迷惑が掛かる。僕達は黙っているしかないのだ」


ポリー「うん……」


ジュリアス「ミレーネの様子は?」


ポリー「一人になりたいって、お部屋にいるの。でも、部屋の前で別れる時、私にだけ話してくれた。『タティアナさんとアイラさんのことは今でも信じてる』って。助けようと、あんなに頑張ったのに。さっきまで、隣からずっと泣き声が聞こえて、私もここで一緒に涙が止まらなくなっちゃった」


〈ポリーの頭を撫で、心配そうに隣の部屋とつながっている扉を見るジュリアス。〉



■ー〈情景 深夜〉


〈夜の城。満月が浮かぶが、不気味な風の吹く様子。遠い森からはコットンキャンディーの悲鳴のような鳴き声がかすかに聞こえる。牢の方角では、すすり泣く人の声。そして、ゴロゴロと台車を転がす、にぶい音が城の外の道に響く。〉



■ー城 ポリーの部屋


〈はっと目覚めるポリー。隣の部屋で姫が動き、窓を開ける気配。お手洗いでも行ったのか、隣のベッドに女官ジェインの姿はない。窓から差し込む月明かりの中、そっと隣の部屋に続く扉の所に行き、開ける。〉


ポリー「ミレーネ?」


〈窓ぎわにいたミレーネ姫が振り返る。〉


ミレーネ「ポリー?起きたの?そばに来て」



■ー城 ミレーネ姫の部屋


〈月明かりに照らされて窓際に立つミレーネ姫。〉


ポリー「〈そっとミレーネ姫に触れながら〉大丈夫?眠れない?こんな夜中に窓を開けたりしたら体が冷えてしまうよ」


ミレーネ「〈窓の外を向いたまま〉今、タティアナ達が連れて行かれたわ」


ポリー「えっ!〈口をおおう〉」


ミレーネ「何も見えないけれど、せめてここに来てわたくしだけでも送りたかったの。他の者達は謀反の罪人に別れを告げるなんて出来なかったはずよ」


ポリー「……うん。〈姫の腕をさすり〉ミレーネ、もう窓を閉めるね。今夜はすごく風が強いから。〈窓を閉めようと手を伸ばす〉」


〈その時、風の音にまぎれて、幼児おさなごの泣き声がする。〉


ミレーネ「あっ、ミリアムの声だわ」


ポリー「本当だ。遠くで泣いている声がする」


ミレーネ「こんな夜だから不安になったのよ。小さいからこそ、何か不吉なものを敏感に感じとったのね」


ポリー「そうよ、きっと怖がって泣き止まないのよ。」


ミレーネ「ポリー、ミリアム王子の所へ行きましょう。目の見えない私は昼も夜も同じよ。暗闇でも歩けるはずだわ。ポリーは、そこの灯りを持って私について来て頂戴」



■ー城の外 道


〈上の部分は紐で頑丈にくくられている大きな麻袋にそれぞれ入れらている罪人のタティアナとアイラ。頭巾で顔を隠した二人の死刑執行人が、麻袋を乗せた台車を引いて行く。目立たぬよう、陰から見送る一人の人影。〉


人影の声「〈誰にも聞こえぬように〉アイラ……」



■ー城の廊下


〈暗い中を手をつなぎ、こっそり歩いて行くミレーネ姫とポリー。〉



■ー城 ミリアム王子の部屋


ミリアム王子の乳母「まあまあ、姫様たち、こんな真夜中にどうされたのですか?〈泣いている王子を抱いてあやしながら〉お二人だけでいらっしゃったのですか?」


〈ミレーネ姫とポリーが部屋の中に入る。部屋には煌々こうこうと明かりが灯され、急なまぶしさに目をぱちぱちさせるポリー。〉


ミレーネ「ミリアム王子の泣き声が聞こえて、心配になって来てしまったの。抱いてあげてもいいかしら?」


〈姫に王子を抱かせる乳母。もうすぐ一歳を迎える王子。姫に抱かれて、胸元に首飾りの石を見つけ、小さな手で触り遊び始める。笑顔を見せ、次第に落ち着くミリアム王子。〉


ポリー「〈姫の腕の中を覗いて〉アンを思い出すな〜」


〈そこへお盆にのせたスープを持って入って来る厨房班エレナ。〉


厨房班エレナ「姫様たちが、こんな時間に、どうしてここに?」


ポリー「エレナさん!」


ミレーネ「エレナこそ、どうしたの?」


厨房班エレナ「今夜は珍しく王子様がぐずって眠らないと連絡があったものですから、少しお腹を満たす温かいスープをお持ちしたのですよ」


〈近くのテーブルにお盆を置くエレナ。ミレーネ姫とポリーの手を触る。〉


厨房班エレナ「お二人とも、こんなに手が冷たくなってしまわれて――。今夜はやはり落ち着かなくて眠れないのですね。王子様のスープを一緒にお飲みになられますか?毒見は済んでおりますし、多めにお持ちしておりますので、お二人の分もご用意出来ますよ。ここで召し上がっても、王様のおとがめはございませんでしょう」


〈頷くミリアム王子の乳母。喜ぶミレーネ姫とポリー。〉


厨房班エレナ「飲み終わられましたら、付き添わせて頂きますので、一緒にお部屋に戻りましょうね」


〈乳母がミリアム王子にスープを飲ませる横で、ミレーネ姫とポリーもスープを飲む。〉


ミレーネとポリー「美味しい……」


〈最初は無言で飲んでいたが、耐えられずミレーネ姫が泣き出し始め、ポリーもつられて泣き出す。〉


ミレーネ「最後にタティアナとアイラにも飲ませてあげたかった――〈泣く〉」


〈ポリーのしゃくりあげる声が大きくなる。〉


ミリアム付きの乳母「〈優しく〉し――。王子様が驚かれてしまいますよ」


〈声を押し殺してエレナにしがみついて泣くミレーネとポリー。二人の背中を撫でて、黙って慰めるエレナ。〉



■ー城から遠く離れた、誰もいない場所


〈地面に転がされている、二つの麻袋。頭巾をかぶった死刑執行人が剣を振り上げる。〉


死刑執行人「やあああ!」


〈振り下ろされる剣。〉



第9話 満月の涙 終わり

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