エピローグ 初雪の降る日に

プレシーズン・エピローグ 初雪の降る日に


■ー城 ミレーネ姫の部屋 朝


〈鏡の前で女官ジェインに手伝ってもらい身支度を整えているミレーネ姫。喪服のドレスに、黒いベールのついた帽子をかぶり、顔を隠す。〉


女官ジェイン「ご準備が整いました」


ミレーネ「有難う、ジェイン」



■ー城下町のはずれ 墓地


〈花束を抱えて女官ジェインに手を引かれ、亡きお妃のお墓へ歩いて来るミレーネ姫。お忍びのため、護衛を一人だけ連れている。お墓の前に誰かいる。〉


女官ジェイン「どなたか、同じように花束を抱えていらっしゃっています。後ろ姿はまるで亡きお妃様のようでございます」


ミレーネ「もしかすると、ナタリー伯母様ではないかしら?」


〈お墓に近づいて行く姫。振り返るナタリー。その隣に末っ子のアン。姫と話す前に、まず女官ジェインだけが近付き、ナタリーに声を掛ける。〉


女官ジェイン「失礼ですが、民政大臣の奥様でいらっしゃいますか?」


ナタリー「はい。お城の方ですわね」


女官ジェイン「〈後ろを向きながら小声で〉姫様でございます。お忍びでお参りにいらっしゃいました」


ナタリー「まあ、姫様」


アン「ひめちゃま!」


〈女官ジェインに手を取られながら、そばに来る姫。〉


ミレーネ「〈声の方に手を差し伸べ〉ナタリー伯母様と、それにアンも一緒なのですね。今日は人目を避けて、こんな姿で参りました。まさか、ここでお会い出来るなんて」



■ー城下町のはずれ 墓地のそばの公園

 

〈ベンチに並んで座り、手を取り合っているミレーネ姫と伯母ナタリー。少し離れた所で、アンが女官ジェインと遊び、護衛も見守っている。〉


ナタリー「昨日、裁きが終わり事件が解決したと聞いて、墓前に報告に来たのですよ。姫様もそれでいらっしゃったのですね」


ミレーネ(心の声)「私はタティアナ達を守れなかったお詫びもあります」


ミレーネ「ナタリー伯母様、今だけでもミレーネと呼んで下さい。お会いして、お話しがしたかったのです」


ナタリー「私もですよ。誕生日にお目にかかってから、あまりにも色々なことが起こってしまって――。ミレーネは少し痩せてしまったわね?ジュリアスとポリーはちゃんとお務めを果たしているかしら?」


ミレーネ「ええ。よく支えてもらっています。私の方こそ、伯母様から二人を引き離してしまい、御免なさい」


ナタリー「いいのですよ。亡きロザリーのために私が出来ることと言えば、それぐらいなのですから。本当は生きているうちに、もっともっと何かしてあげたかったの。〈涙ぐむ〉」


ミレーネ「〈涙声で〉伯母様……」


〈その時、風が優しく吹き、姫の首飾りの石が静かな音色を奏でる。〉


ナタリー「〈はっと見て〉ロザリーの首飾り――」


ミレーネ「伯母様、この首飾りの秘密を何かご存知ですか?誰にも話してはいけないと言われていたので、他の人には尋ねることが出来なかったのです。伯母様になら内緒でお聞きしても、いいですわよね?」


ナタリー(心の声)「〈心配そうに首飾りを見つめたまま〉新しい持ち主となったミレーネ姫の命を守り、代わりにロザリーの命を奪ったのだろうか。名もなき我が家に置かれていた時は、伝説の飾り物のような存在だったけれど、王家と交わったことで、首飾りに底知れぬ力が目覚めているのかしら……」


ミレーネ「伯母様?」


ナタリー「〈はっとして〉御免なさい、亡き父母からは私も詳しい話は何も聞いていないの。ただ、持ち主を守る不思議な力があると言い伝えられていたので、王子様を産む時に体の弱いロザリーを助けてくれたのは、この首飾りの御蔭ではないかと感じたぐらいよ」


ミレーネ「やっぱり。私もそれぐらいのことしか知らなくて」


ナタリー「この首飾りが、王家代々に伝わるものでしたら、その力の秘密を書き記した書物でもあるでしょうに。あっ、でも、私が子供の頃、大人達が集まって酔って盛り上がっていた時に一度だけ首飾りのことを話しているのを聞いたわ。確か、この首飾りの石は、前人未踏の崖がそびえ立つ山奥で荒修行をしていた者が見つけ持ち帰り、その後なぜか我が家の先祖の手に渡ったとか。まあ、どこまで事実なのかも分からない話ですけれど」


ミレーネ「そんな由来があるかもしれないのですね」


ナタリー「全然お役に立てなくて御免なさい」


ミレーネ「〈首を振りながら〉いいえ」


〈その時、手の甲に冷たいものを感じるミレーネ姫。ナタリーも、ほぼ同時に気づき、空を見上げる。〉


アン「かあちゃま、ゆき!〈走ってくる〉」


ナタリー「珍しいわね。まだ初雪には早いし、空もそんなに曇っていないのに」


〈花びらのように、フワフワと降りてくる雪。護衛と女官ジェインも急いで来る。皆が不思議そうに空を見上げる。風と共に優しく音を立てる、首飾りのヘッドの石。〉


ミレーネ「お母様……。〈空を見上げる〉」



******


■―〈その後、六年間の情景〉


〈冬、春、夏、秋……と巡るように歳月が流れる。〉


① 外は木枯らし。暖かい部屋で勉強するミレーネ姫とジュリアス。


② 厨房班エレナにお菓子作りを習うポリー。


③ 森にある神秘の木に隠れているコットンキャンディーに会いに行くミレーネ姫、ジュリアス、ポリー。


④ 失明する前の記憶を頼りに、乗馬に再挑戦するミレーネ姫。心配そうなジュリアスとポリー。首飾りの力と練習の甲斐があって乗れるようになり、桜散る中を遠乗りする三人の姿。


⑤ 森の湖で泳ぐミレーネ姫、ジュリアス、ポリー。


⑥ ミリアム王子と遊ぶミレーネ姫とポリー。


⑦ 武道の稽古に励むジュリアスとポリー。


⑧ 書架室で勉強するミレーネ姫とジュリアス。そこへお茶とお菓子を運んでくるポリー。


⑨ 湖で、少し大きくなったミリアム王子がポリーと水遊びをしている。


⑩ 森にある神秘の木の近くで、金色の落ち葉が地面を埋め尽くす中、笑顔でコットンキャンディーと遊ぶミレーネ姫。そばで見守りくつろぐジュリアスとポリー。



〈こうして六年の月日が過ぎていった。〉




プレシーズン・エピローグ 終わり



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