第9話 満月の涙 #2

第9話 続き #2


■ー城 厨房近く 食器庫


〈厨房班エレナがお皿を幾つか選び、お盆にのせて出て来る。一緒にポリーもついて来ている。〉


厨房班エレナ「〈お盆の上のお皿を確認して〉あら、もう一枚必要だったわ。ポリー様、ちょっと、ここでお待ち下さいね。」


ポリー「はい。私が持っています〈お盆を受け取る〉」


〈エレナは食器庫の中へ戻る。扉のところで待っているポリー。〉


ポリー「〈木々の間から空を見上げて〉ああ、寒いけど、晴れているから気持ちいい!もうすぐ、美味しい焼き菓子もいっぱい食べられるし。気分は最高!」


〈そこへ女官達が向こうから歩いて来る。扉の横の壁ぎわに立ち、木々の陰になっているポリーには気づかず、ヒソヒソ話しながら通り過ぎていく。〉


女官 その1「〈小声で〉まさか本当に謀反を企てたなんて――」


女官 その2「〈小声で〉亡きお妃様に一番目をかけてもらったはずなのに、よくまあ、そんな恐ろしいことを――」


ポリー(心の声)「タティアナさんやアイラさんのことだ……」


女官 その1「〈小声で〉ずっと否定していたけれど、今になってするとは、ついに罪の重さに耐えられなくなったのよ」


女官 その2「〈小声で〉もう裁きが終わる時間よね。は確実だって、みんな噂しているわ」


〈遠ざかっていく足音。愕然がくぜんとしているポリー。〉


ポリー「…………って、どういうこと?」


〈わなわなと、お盆を持つ手が震えている。そこへ、厨房班エレナが手ぶらで出て来る。〉


厨房班エレナ「お待たせしてすみません。私の勘違いで、探していたお皿は、もう厨房の方にありました――〈と言いながらお盆を受け取り、ポリーの震えている様子に気付き〉ポリー様、どうされたのですか?大丈夫ですか?」


ポリー「エレナさん、今、タティアナさんとアイラさんの裁きが行われているって本当ですか?」


厨房班エレナ「〈困った顔で〉どうして、それを?――裁きが終わるまで、ポリー様達には知らせぬようにとのお達しがあったのです」


ポリー「エレナさん、私、戻らなくちゃ!〈走り出す〉」


厨房班エレナ「ポリー様、お待ち下さい!」


〈大切なお皿を何枚も載せたお盆を持っているエレナは走ってポリーを追い掛けることが出来ない。〉



■ー城の庭 厨房の方角から城の中へ戻る道


〈がむしゃらに走っていたポリーは曲がり角で、見知らぬ従者とぶつかる。転んで地面に座り込むポリー。〉


ポリー「あっ!」


〈目の前に転がった鳥籠の中に、コットンキャンディーの身代わりの鳥が死んでいる。〉


ポリー「きゃああああ!」


見知らぬ従者「失礼致しました。〈急いで白い布を拾い、鳥籠に被せ〉お怪我はありませんか?」


〈ブンブンと首を横に振るポリー。助け起こそうと差し伸べる手を、恐ろしいものでも見るように避け、一人で立ち上がり、また全速力で走り始めるポリー。〉



■ー城 武法所 裁きの場


〈王や大臣達が出て行く。近衛隊も出て行く。後ろ髪を引かれる思いで、罪人となったアイラを遠くから見つめ出て行く近衛ウォーレス。タティアナとアイラも牢に戻るため近衛に引っ立てられて行く。少し距離が近づいた二人。〉


女官アイラ「〈小声で〉タティアナ様、なぜ、あのような嘘を――」


女官タティアナ「〈小声で〉あなただけでも助けたかったの。でも、それすらも出来ませんでした。あなたこそ、昨日の夜――」


〈静かに首を振るアイラ。〉


警護の近衛「罪人同士が話すことは禁じられている。黙って歩け!」


〈涙目でお互い見つめ合うタティアナとアイラ。〉



■ー城 書架室


〈テーブルに本が積まれている。ミレーネ姫とジュリアスは、何も知らずに本探しをずっと続けている。そこへ扉が開き、ポリーが飛び込んで来る。〉


ポリー「ミレーネ、ジュリアス、大変!」



■ー城下町


〈回収した尋ね人の張り紙を持って帰ろうとするマリオ。城下町の掲示板の辺りに人だかりがしていることに気付き、近付いて行く。〉


民 その1「〈張り紙を指差し〉謀反だ!謀反だ!お妃様殺害は女官二人による謀反だった!たった今、死刑が宣告されたぞ!」


民 その2「これでやっと事件解決だ」


民 その3 「犯人が捕まるまで、夜もおちおち眠れなかったよ」


民 その4「信頼していた女官に殺されるなんて、ああ、お可哀想なお妃様……。〈泣く〉」


〈その様子を呆然と見るマリオ。手に持っている張り紙をぎゅっと握り潰す。〉


マリオ(心の声)「真犯人は違うかもしれないのに!」



■ー城 書架室


ミレーネ「何ですって!そんな話、信じられないわ。何かの間違いよ。ジュリアスもそう思うでしょ?」


ジュリアス「いったい、なぜ、そんなことになってしまったのか?あの手紙を書いたタティアナさんに限って、そんな馬鹿な――」


ジュリアス(心の声)「それにミレーネには言えないが、あの怪しい女の子はどうなったのだ?」


〈ポリーと顔を見合わせて、苦悩の表情を浮かべるジュリアス。〉


ポリー「〈たまらなくなり泣きだし〉それに、コットンキャンディーの身代わりの小鳥が殺されていたのも見たの!〈声を上げて泣く〉」


ミレーネ「そんな……」


ジュリアス「罪のない小鳥までのか!」


ポリー「〈泣きながら〉ねえ、本物のコットンキャンディーはどうなるの?生きていることが、バレたら?」


ミレーネ「危ないわ。タティアナの大切なコットンキャンディーだけでも何とかして助けなくては!今、あの子はジュリアスの部屋ですわね?」


ジュリアス「大丈夫だ。小箱の中に隠してある」


ミレーネ「急ぎましょう!」



■ー城 民政大臣の執務室


〈机に座って考え込んでいる民政大臣。〉



■ー【民政大臣の回想: 朝 王の控えの間】


【回想:〔王が裁きの前の瞑想に入っているため待っている間、民政大臣が王様付きの侍従と話し始める。〕


民政大臣『王様は裁きのことで、かなりお悩みのご様子でしたか?』


王様付きの侍従『はい。犯人が城の内部の者であったこと、それもお妃様や姫様のすぐお側に仕えていた者の謀反であったことには随分お心を痛めていらっしゃるご様子でした』


〔頷く民政大臣。〕


王様付きの侍従『ただ、その反面、事件が解決したことには心から安堵あんどされていらっしゃいました。城下町では噂が蔓延し、犯人を捕まえられぬ近衛隊に不信感すら出始めております。もし、この状況下で、民を巻き込んだ事件でも起きれば、王家の信頼は失墜しっついしてしまうこととなるでしょう。そのことを誰よりも王様は案じておられましたので』


民政大臣『そうですか……。〔しばし考え〕王様へのお目通りは、また改めてさせて頂きます』


〔控えの間から出る民政大臣。〕】



■ー城の庭 森へ向かう道


〈走るミレーネ姫。ポリーは姫が転ばないように、念のため手をつないでいる。コットンキャンディーが入った小箱を抱えたジュリアスが続く。〉


ポリー「ミレーネ、そんなに走って大丈夫?」


ミレーネ「ええ、とにかく急いで!私について来て。〈走りながら〉誰もまだ追って来ていないわね?」


ジュリアス「〈振り返り〉今のところ、大丈夫だ」


ミレーネ「気づかれないうちに、早く!」




#3へ続く


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