第9話 満月の涙 #1
プレシーズン 第9話 満月の涙 #1
■ー城 女官アイラの牢
〈鉄格子の扉の間から手を伸ばし、覆面の近衛ウォーレスを制している女官アイラ。〉
近衛ウォーレス「俺たちの子どもがいるのに死のうとしたのか?だめだ、アイラ。何があっても生き延びると約束してくれ。明日には刑が決まってしまう。逃げるなら今しかない」
〈足音と、見回りの近衛二人がやって来る声が遠くの方で聞こえる。〉
女官アイラ「誰か来たわ。お願い、あなたは逃げて」
〈ウォーレスの手から鍵を奪い取って、鉄格子の間から遠くへ投げ捨てる女官アイラ。鍵が地面にあたってカーンという音が響く。〉
近衛 その1(声のみ)「何だ、今の音は!」
女官アイラ「有難う。来てくれたこと、忘れない!早く逃げて!」
近衛ウォーレス「アイラ……」
近衛 その1(声のみ)「おい、番人が倒れている。〈後ろに向かって〉近衛副隊長、来て下さい!」
近衛 その2(声のみ)「あそこに誰かいるぞ!」
〈近衛二人がアイラの牢の方に走って来る。逃げる覆面の近衛ウォーレス。近衛二人がそのまま追いかける。〉
■ー城 牢屋
〈失神している番人を助け起こす近衛副隊長。〉
近衛副隊長「大丈夫か?」
牢の番人「〈気が付いて〉ああ、何者かが――。〈急いで自分のポケットを探って〉鍵がない!」
〈近衛副隊長がアイラの牢に駆け寄り、錠を確認する。鍵はかかっている。寝たふりをして壁を向き横になっている女官アイラに怒鳴る。〉
近衛副隊長「おい、今ここに誰かいただろう!」
女官アイラ「〈ゆっくり起きて振り向き〉眠っていて気が付きませんでした。何かあったのですか?」
〈追いかけていた近衛二人が戻って来る。〉
近衛 その1「すみません、逃げられました」
近衛副隊長「顔は見たのか?」
近衛 その2「覆面をしていて分かりませんでした」
近衛副隊長「そいつが番人の鍵を奪ったらしい。アイラの牢は鍵がかかったままで大丈夫だ。タティアナの方を確認しろ」
〈近衛その2が女官タティアナの牢まで走って行く。〉
近衛 その2「〈タティアナの牢の鍵を確かめ〉こちらも今のところ異常ありません」
〈近衛その2が、女官タティアナの牢をのぞく。背中を向けて横たわり、じっとしているタティアナ。近衛がアイラの牢の前に戻る時、地面に落ちている鍵を見つける。〉
近衛 その2「〈鍵を拾い上げ〉近衛副隊長、ここに鍵が!」
近衛副隊長「〈牢の鍵を受け取り〉今夜はそれぞれの牢を二人体制で朝まで見張った方がいい。また、怪しい奴が戻って来るかも知れん」
近衛 その1「はっ」
近衛副隊長「隊長にこの件を報告して来る。助っ人も呼んで来よう」
近衛 その2「お願いします」
〈また、こっそり戻って来ていた近衛ウォーレス。柱の陰で会話を聞き、諦めてそっと立ち去る。〉
■ー〈情景〉
〈明日は満月。今夜は満月より一晩手前の待宵の月。その光が明るい夜空。しかし、待宵月に薄墨を流したような雲がおおいかかって暗くなり、不穏な空気が満ちてくる。〉
■ー城から少し離れた山の中 朝 夜明け
〈
近衛ウォーレス「夜が明けてしまった……。俺はアイラと子どものために何も出来なかった!」
〈覆面を両手でぐしゃっと握りしめ、
■ー城 王の部屋 朝
〈民政大臣がやって来る。扉の前に王様付きの侍従がいる。〉
民政大臣「お早うございます。お忙しい時間に申し訳ございません」
王様付きの侍従「民政大臣殿、お早うございます」
民政大臣「王様にお話があるのですが。今、少しお時間を頂けますでしょうか」
王様付きの侍従「王様は裁きの前の瞑想に入られておりまして、しばらくは誰も入れるなとの仰せでございます」
民政大臣「そうですか」
王様付きの侍従「とりあえず控えの間へどうぞ」
■ー城 書架室 朝
ミレーネ「まあ、焼き菓子作りを習うのですか?それでポリーは朝から厨房へ?」
ジュリアス「すっかりエレナさんの弟子のようですよ」
ミレーネ「〈笑顔で〉ところで、昨日のお友達とはゆっくりお話が出来て?」
ジュリアス「そのためにタティアナさんの手紙のことが途中になってしまいましたね」
ミレーネ「気にしないで。実は、手紙の前半について、もう一つ聞いてもらいたいことがありますの。『蘭の花を北東の出窓で育てなさい』とあったでしょう?それは、この書架室を指しているはずです。お城の中で北東の出窓がある部屋は、ここだけですもの」
ジュリアス「そうですか。タティアナさんはミレーネにここで多くのことを学んで欲しいという訳ですね。〈書棚をぐるっと見回して〉それにしても、この膨大な量。どれから始めれば良いのだろう?」
ミレーネ「もしかすると首飾りの石が必要な本を教えてくれるかも知れません。書棚の前に連れて行って下さる?」
〈ジュリアスが手を取りミレーネ姫を一つの棚の前に連れていく。首飾りを外し左手に持ち、右手で本の位置を確かめながら、一冊一冊触っていく。首飾りの声を聞くように、ゆっくり丁寧に進めていく姫。〉
ミレーネ「〈一冊の本を指し〉ジュリアス、この本を取り出してテーブルに置いて頂戴」
〈取り出し、テーブルに置くジュリアス。その後も同じように続けていく姫。〉
ジュリアス「何か感じるのですか?」
ミレーネ「ええ。首飾りの石の温度が変わるように思えますの。必要な本に触れた時は、石の中から不思議な温かさが手に伝わると言ったらいいのかしら。こうして選んでいく中で、謎を解く鍵に関する書物も見つけられれば良いのですけれど」
■―城下町 朝
〈こそこそ尋ね人の張り紙を剥がして回るマリオ。そこに朝から酔っ払っている男が酒瓶を手に近寄って来る。〉
酔っ払い「〈マリオが手にしている似顔絵を見て〉べっぴんさんだ、べっぴんさーん。ふう――」
〈酒気を帯びた息にマリオは逃げる。〉
マリオ「〈振り返って〉何だい、朝から飲んだくれて!〈走り去る〉」
〈残った酔っ払いは酒瓶を抱き抱え、ニヤニヤしてブツブツつぶやく。〉
酔っ払い「うん、あのべっぴんさんだ。姫さんのお祭りの日※に、たんまり
〈また、男は瓶から酒を飲み、ブツブツ何か言いながらフラフラと歩き出す。〉
■ー城 武法所 裁きの場
〈大臣、重臣、近衛隊、城の関係者などが見守る中、中央に女官タティアナとアイラが縛られ座っている。お互い話が出来ないように、少し距離を取り、警護の近衛がそれぞれついている。間もなく王が来るのを待っている様子。そこへ近衛ウォーレスが来て隊に加わる。〉
近衛「〈小声で〉親戚の葬儀は終わったのか?」
近衛ウォーレス「ああ」
近衛「お前がいない間、城では次から次へと大変だったんだぞ。俺もほとんど寝ていない。まあ、これで全て解決するだろう」
近衛ウォーレス「しっ」
〈王が入って来て、大臣や重臣と挨拶を交わし席につく。王と民政大臣の姿をじっと見る近衛ウォーレス。〉
近衛ウォーレス(心の声)「民政大臣、真犯人のことを王様に伝えてくれているのでしょうね?もう、アイラ達を救える道はそれしかありません!」
#2へ続く
※作者注:第8話#2で、城下町の北部・山寄り地区に住む貧しい女が、ミレーネ姫の誕生日に門のあたりで、門番にからんでいた酔っ払い達を見かけました。この男は、その一人となります。貧しい女も、酔っ払いも、影の者たちによる、恐ろしい王妃殺しの企みに、それとは知らず協力した形になってしまった訳です。
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