第8話 叶わぬ願い #3

第8話 続き #3


■ー城下町 道


〈一緒に話しながら歩いているマリオと覆面の近衛ウォーレス。〉


近衛ウォーレス「なぜ、君がこの子を探しているかは分かったよ。しかし、検問をそんなに簡単に通ってしまったのは、どういうことか?」


マリオ「それが知り合いと一緒にいたので。それほど疑いもせず通してしまったのです」


近衛ウォーレス「えっ!この子の知り合いを知っているのか?」


マリオ「そ、それが、実は……ちょっと前からお城に上がっている友達の妹なのです」


近衛ウォーレス「まさか、ポリー様?」


マリオ「ご存知ですか!」



■ー城 書架室


〈ジュリアスは中に座って本を見ている。ミレーネ姫が入って来る。〉


ミレーネ「ジュリアス、まだ、ここにいたのね」


ジュリアス「少し調べたいことがあったから。〈声を潜めて〉手紙のことで何か話したいことでも?」


ミレーネ「ええ。ポリーはエレナと厨房に行って、まだ戻らないのですって?

ジェインに呼びに行かせたのよ」


ジュリアス「ポリーは美味しいものを逃さないたちなんだ。〈笑って〉エレナさんにすっかりなついてしまったね」


ミレーネ「〈笑って〉じゃあ、ポリーが来るまで、まずジュリアスにだけ、聞いて頂くわ」



■ー城の近く 道


近衛ウォーレス「いいかい、ここからは一人で行くんだ」


マリオ「あの、お城の方なんですよね。一緒に行けないのですか?」


近衛ウォーレス「私は事件解決のために、誰にも知られぬよう動いている。実は今度の事件は城に内通者がいる可能性が高い。ひそかに調べていることが公になっては、まずいのだ」


マリオ「分かりました。話を聞いたら、急いで、またここに戻ってきます」


〈城の門を目指して走っていくマリオ。〉



■ー城 書架室


〈ミレーネ姫とジュリアスが話している。〉


ジュリアス「なるほど。手紙の前半はそういう意味があったということですか。蘭は“ミレーネ”を表し、クローバーが“ミリアム王子”のおしるしで、つまりミリアム王子を指している。そして、“石”はその、首飾りのヘッドとして緻密な模様の細工がほどこされた石なのですね」


ミレーネ「ええ。手紙の後半は私もまだ分からないのですけれど」


〈思案する様子のジュリアス。〉


ジュリアス「ミレーネ、首飾りのことは今後、誰にも言わない方がいいと思う。もちろん、ポリーにも暫くは内緒にして。ポリーはまだ子どもだから。今はとにかくタティアナさんの『秘密に』という言葉に従っていきましょう」


ミレーネ「有難う、ジュリアス」


ジュリアス「本当は、僕が知って良かったのかどうかも迷うところだが、この謎を解くために、少しは何か手助けが出来るかも知れないからね。ミレーネ、話してくれて有難う。絶対、口外はしないと信じて欲しい」


〈ミレーネ姫の首にかかっている首飾りのヘッドに目をるジュリアス。目の見えないミレーネ姫は気付かず、自然にまた首飾りを触る。〉


ジュリアス「ああ、それで、今までもよく首飾りのヘッドの石を触っていたのですね。まさか、そんな理由があったとは。ミレーネの癖か、触ると落ち着くのかなと思って見ていましたよ」


ミレーネ「まあ、そうでしたの。私、どう見られているか気付かなくて。これから、もう少し気を付けますわ」


〈そこへ扉をノックする音がする。〉


ミレーネ「ジェインがポリーを連れて来てくれたのかしら?」


〈扉を開けようとしたジュリアスの耳に従者ボリスの声が聞こえる。〉


従者ボリス(声のみ)「ジュリアス様はこちらにいらっしゃいますか?」


ジュリアス「〈えっとした顔で〉はい、おりますが」


〈扉を開けると、従者ボリスと共に立っている友人マリオの姿。〉


ジュリアス「マリオ、どうしてここに?」


マリオ「ジュリアス、やっと会えた……」



■ー城 ジュリアスの部屋


〈マリオの話を聞き、じっと似顔絵を見るジュリアス。〉


【ジュリアスの回想: 事件の翌日 民政大臣の家の居間


もめていたジュリアスとポリー。帰りが遅かったことをジュリアスが怒ると、ポリーは目の不自由な女の子に会って村のはずれまで送ったと言っていた。】


ジュリアス(心の声) 「まさか、ポリーが会った、そんな若い女の子が関わっていたのか!」


〈不安気にジュリアスを見つめるマリオ。〉


ジュリアス「ずっと一人で事件を調べようとしてくれていたのだね。マリオ、有難う。お城の関係者として礼を言うよ」


マリオ「いや、いいんだ。王家の事件が解決されるのは民の願いだよ。〈手が震えている〉」


ジュリアス(心の声)「マリオ、殺し屋に狙われて、どれほど怖い思いをしたことか――」


〈扉がノックされる音。〉


女官ジェイン(声のみ)「姫様からポリー様をこちらにお連れするようにと仰せつかりました」


〈部屋の中にポリーが焼き菓子を籠に抱えて入って来る。女官ジェインは戻っていく。〉


ポリー「お友達ってやっぱりマリオさんだったのね。いい時に来てくれました!美味しい焼き菓子がいっぱいあるの。ん?……何かあった?」



■ー城の門の近く 道


〈走って来るマリオ。影から出て来た覆面の近衛ウォーレスと合流する。門で見送っていたジュリアスは、遠くから、その人影だけを見る。〉


マリオ「ポリーさんは、この女の子と道で出会い、途中まで送ったのですが、やはり、どこの誰かは知らないそうです」


近衛ウォーレス「そうか。城下町の者ではないな。誰も知らない娘が、あの夜、祝宴会場にいて、次の日、目の不自由な者のふりをして町から脱出した。こんな美しい若い子が大それた事件を起こすとは思えないが、それこそが相手の思うツボで、真犯人である可能性が高い。君が狙われる理由はそれしかないだろう。とにかく当分は気を付けて。今夜は私が家まで送ろう」


マリオ「有難うございます」


〈二人、歩き始める。〉


近衛ウォーレス「夜、出歩く時は一人で行動しないように。確か、自宅は鍛錬修行所だったな」


マリオ「はい。父が営んでおります」


近衛ウォーレス「それなら安心だ。それから、これ以上目をつけられないよう、明日すぐに、街中の尋ね人の張り紙をはがして回収するのだ。もう忘れたフリをした方がいい」


〈頷くマリオ。〉



#4へ続く

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