第8話 叶わぬ願い #1
プレシーズン 第8話 叶わぬ願い #1
■ー城 王の部屋
〈外事大臣から、事のあらましを聞き、沈痛な面持ちの王。〉
外事大臣「では早速、文法大臣から重臣達に召集をかけてもらい、明日、裁きにかけたいと思いますが、このまま進めて宜しいでしょうか」
王様「裁くのは女官アイラだけか」
外事大臣「まず罪を認めた者だけを裁きます。女官タティアナはアイラの答弁次第で、追って処遇が決まることになるでしょう。王様のお許しなく文法大臣より前に、私がアイラの話を聞いたことはお許し下さい。自白とならなければ、それなりの責任は取らせて頂くつもりでおりました」
王様「うむ」
王様(心の声)「姫、仕方なきことと受け止めておくれ」
■ー城 牢屋
〈アイラはタティアナと別の牢に入れられている。泣き続ける女官アイラの声が聞こえ、不安げな女官タティアナ。〉
女官タティアナ「いったい何があったの、アイラ?まさか罪を認めてしまったの?せっかく姫様が信じて下さっていることが分かりましたのに!」
■ー城 書架室
〈テーブルを囲み座っているミレーネ姫、ジュリアス、ポリー。テーブルの上ではコットンキャンディーが小箱から出してもらい、遊んでいる。〉
ポリー「ねえ、もう一度、タティアナさんの手紙を読んでみて」
ジュリアス「いいかい?『蘭の花のすぐそばに、ハチの石を隠し置き、クローバーと一緒に、北東の部屋の出窓で育てなさい。気をつけて。足らねば与えられる。やり過ぎては枯れる。ネツケバ繁る。無償の愛と祈りで満ちる。城外の名もなき花々を忘れずに』」
ミレーネ(心の声)「『蘭の花』は私。花好きだったタティアナは人を花に
〈手紙の言葉を聞き、考え込むミレーネ姫。〉
ポリー「ねえ、タティアナさんは本当に花が好きだったんだね。『足らねば与えられる。やり過ぎては枯れる。』って、上手に水やりしなさいってことじゃないの?」
ジュリアス「ポリー、単純過ぎるぞ。それなら、ほとんど読んだままじゃないか。この手紙は万が一、ミレーネ以外の人の目に触れたとしても困らないように工夫してあると、さっきも説明しただろう。ちょっと、お前は黙ってろ」
ポリー「〈ジュリアスに不満げな顔をしてみせ〉何よ、今日は私だって頑張ったんだから。そんなに怒らなくてもいいじゃない!」
ジュリアス「〈しーっと制して〉ミレーネは、この言葉から何か分かりましたか?事件の犯人を示すようなことは?」
ミレーネ「〈首を振り〉タティアナもおそらく犯人が誰かは知らないのでしょう」
〈その時、扉をノックする音がする。〉
厨房班エレナ(声のみ) 「お茶とお菓子をお持ちいたしました」
ミレーネ「エレナの声よ」
ポリー「エレナさん、ちょっとお待ち下さい」
〈ポリーが扉を開けに行く。ジュリアス急いでコットンキャンディーを小箱に隠す。〉
ポリー「〈扉を開け〉エレナさん、さっきは本当に有難うございました」
〈ワゴンを押して入って来るエレナ。ジュリアスも立ち上がってお辞儀をする。〉
ジュリアス「妹が大変お世話になりました。お陰で
厨房班エレナ「ええ。私はいつでも姫様の味方でございますから。姫様――」
ミレーネ「〈立ち上がり手を伸ばし〉エレナ、エレナ!」
〈エレナが姫に駆け寄り抱き合う二人。〉
厨房班エレナ「〈涙ぐみながら〉どんなに、お辛かったことでしょうね。〈ジュリアスとポリーを見て〉姫様のお側に来て下さって本当に有難うございます。さあ、お茶のご用意をさせて頂きました。姫様達にお茶をお持ちしたいと王様に思い切って申し出させて頂いたところ、快くご承諾頂いたのです。ポリー様から姫様のお話を伺ったら、私も直接お会いしたくて、居ても立ってもいられなくなりました!出過ぎた真似をしましたこと、お許し下さい」
ミレーネ「許すだなんて、エレナ。私もとても会いたかったのよ。〈もう一度エレナを抱きしめる〉」
厨房班エレナ「もったいないお言葉です。〈お辞儀して〉姫様、今日のお茶はローズマリーとさせて頂きました。花言葉は“忘却”です。姫様に少しでも辛いことを早く忘れて頂きたくて。焼き菓子は――」
ミレーネ「シナモンとハチミツの香り」
厨房班エレナ「はい、その通りです。元気をもたらすシナモンと、癒しの効果があるハチミツを加えて作って参りました」
〈エレナが姫の手に皿を渡す。ミレーネ姫が一口、焼き菓子を食べる。〉
ミレーネ「このハチミツはアカシアね」
厨房班エレナ「姫様、よくお分かりでございますね」
ミレーネ「ええ。視力を失ってから、嗅覚や味覚が以前より鋭くなったようですの」
■ー城 文法大臣の執務室
民政大臣「聞きましたよ。本当に女官アイラが自白したのですか?外事大臣は拷問していないようですか?」
文法大臣「それは無かったと思われます」
民政大臣「状況は何も変わっていないのに、無実の主張を変えさせたということですか?」
文法大臣「〈頷き〉どんな手を使ったか分かりませんが、とにかく容疑者が罪を認め謝罪し償いを乞う、これが揃えば、もう紛れもなく裁きの対象となりますから」
民政大臣「謀反の罪となれば、関わり方はどうあれ、女官アイラは死罪ですか?」
文法大臣「本人が罪を認めてしまった以上、我々はどうすることも出来ません」
■ー城 武法所 夕方
〈今日の任務を終えた近衛達が集められている。そこに近衛ウォーレスの姿はない。〉
近衛 その1「あれっ、ウォーレスは?」
近衛 その2「親戚が亡くなったとかで、急に非番をとって、さっき出掛けたぞ」
■ー城下町 ジュリアスの友人マリオの学校
〈すでに辺りは暗くなっている。マリオと級友達が門から出て来る。〉
マリオの級友 その1「最後の試験は長かったな」
マリオの級友 その2「マリオ、出来はどうだった?」
マリオ「落第しなければ、それでいいさ」
マリオの級友 その1 「とにかく、終わったー!」
〈辻の所で皆と別れ、マリオは一人で歩いて行く。〉
■ーどこか知られぬ場所 洞窟
影の人「そろそろネズミを始末する頃か」
別の影の人「暗闇に紛れて消す
■ー城下町 ジュリアスの友人マリオの帰路 夕刻
〈すでに暗く空には月。マリオが歩いていると後ろからヒタヒタ足音が聞こえる。振り返ると、サッと何かが闇に隠れたと感じたマリオ。〉
マリオ「何なんだ?」
〈怖くなって走り出す。相手も追いかけてくる。走りながら振り返ると、刺客が持つ剣が月の光に照らされ、一瞬目に入る。〉
マリオ「わ――、誰か助けて!」
〈刺客の剣先がすぐ後ろに迫ってくる。転ぶマリオ。振りかざされる剣。〉
マリオ「やめてくれ――!〈目をつぶる〉」
〈その時、自分を背後から狙う者がいることに気付いた刺客。マリオを斬りつけず、いったん横へ飛び退く。背後で剣を構えていたのは覆面の近衛ウォーレス。〉
影の刺客「誰だ、貴様は……」
〈無言のまま、刺客に向かっていく近衛ウォーレス。影の刺客と壮絶な戦いとなる。二人は互角で戦っているが、近衛ウォーレスが一瞬の隙を巧みにつき、影の刺客は危うくやられそうになる。慌てて踵を返し逃げていく影の刺客。刺客が去ったことを確認し、マリオに近づく近衛ウォーレス。覆面はそのまま被っている。〉
近衛ウォーレス「大丈夫か?」
マリオ「〈震えながら〉あ、あ、有難うございます」
近衛ウォーレス「間に合って良かったよ。狙われたのは、今回が初めてかい?」
マリオ「は、はい。でも、どうして、僕が――?」
近衛ウォーレス「多分、これのせいだ。〈尋ね人の紙を取り出し、見せ〉描いたのは君だよね?」
〈驚いた顔で頷くマリオ。〉
近衛ウォーレス「まず、なぜ君がこの似顔絵を描いたか、話を聞かせて欲しい」
#2へ続く
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