第7話 届けられた手紙 #4
第7話 続き #4
■ー城の庭 森から戻る道 続き
〈ミレーネ姫とジュリアス、ポリーが近衛ウォーレスに付き添われ、湖畔から城の本館に戻る途中、武官見習いのアリがジュリアスにタティアナの小鳥と関係したのではと嫌疑をかけ問い詰めている。アリが自分を騙した件を持ち出し、急場をしのごうとするポリー。〉
近衛ウォーレス「〈アリに〉何の話ですか?」
武官見習いアリ「いや、それは――」
ポリー「〈その
〈姫の手を引いて走り出すポリー。〉
ポリー「〈後ろに向かって〉昼食の時間なの!急がなくっちゃ!」
ジュリアス「〈二人を慌てて追いかけながら、同じく振り返って〉ジェインさんに時間に遅れないよう、厳しく言われていますので失礼します!」
武官見習いアリ「〈
〈追いかけようとするアリをウォーレスが制する。〉
近衛ウォーレス「遠くからでは見間違えられた可能性もあるでしょう。似た色の野鳥がどこからか城の庭に飛んで来ていた、ただ、それだけのことかも知れません。姫様がおっしゃっていたように、ジュリアス様は王家の親族にあたる方。憶測で事を荒立てるのはあまり賢明でないのではありませんか」
武官見習いアリ「しかし――」
〈もうアリが追いかけて来ないと見てとったジュリアスが立ち止まる。そして、大声で叫ぶ。〉
ジュリアス「アリ、お前の言う緑の小鳥がどこにいるのか、何のことだか全く知らないが、今すぐ行って、その小鳥を確かめてくればいいじゃないか。ついさっきまで、この辺りを飛んでいたと疑うのなら!」
近衛ウォーレス「ジュリアス様がさきほど森から出て行き、また戻ってくるまでにかかった時間を私は分かっています。あの時間では、どんなに急いだとしても、西門の奥のタティアナの宿舎まで行って帰ってはこられません。鳥籠に今、小鳥がいれば、ジュリアス様の関与があったかどうか、確かに
■ー城の中 東入り口近くの廊下
〈ミレーネ姫、ジュリアス、ポリーの三人とも必死で走って来たので息が苦しい様子。〉
ミレーネ「危なかったわ」
ジュリアス「まさかアリに見られていたとは。小箱の中を見せろと言われる前に逃げきれて良かったよ。冷や汗ものだった」
ポリー「邪魔ばかりして、一体何なの、あの人!」
ミレーネ「タティアナの宿舎まで行くかしら?」
ジュリアス「多分ね」
ポリー「バレない?」
ミレーネ「大丈夫よ。愛情を持って世話していた人には判っても、通りすがりの人は違いなど気付きませんわ」
ジュリアス「早くコットンキャンディーを鳥籠に返したいけれど、アリに監視されているうちは危ないな。ほとぼりが冷めるまで待ってから戻そう。身代わりの小鳥を空に放つのも少し先になりそうだ」
〈そこへ女官ジェインがやって来る。〉
女官ジェイン「こちらでしたか。さあ、皆様、急いで、ご昼食に参りますよ。昼食後すぐ、王様と民政大臣が書架室でのお勉強の成果をご覧になるのですから」
〈すっかり忘れていた三人は、あっ!となる。〉
ミレーネ「〈取り繕って〉ええ、そうでしたわね。食べ終えたら、急いで書架室に集合しましょう」
■ー城 西門近く タティアナの宿舎
〈軒先の鳥籠にいる緑色の小鳥。じっと、その前に立つ近衛ウォーレスと近衛見習いアリ。〉
近衛ウォーレス「確かにいましたね」
武官見習いアリ「変だな。何か怪しい気がしたのに」
近衛ウォーレス「見間違いは誰にでもあることです。今回の件は私も口外しませんので、ご安心を」
武官見習いアリ「あーあ。せっかく俺も手柄を立てられると思ったのに」
近衛ウォーレス「俺もとは?誰か手柄を立てたのですか?」
武官見習いアリ「父上ですよ。捕まっているアイラの自白を引き出しました。では、失礼します。お騒がせしました」
〈軽く一礼して去るアリ。残されたウォーレスはアリの言葉に動揺している。〉
近衛ウォーレス(心の声)「なぜだ、アイラ。早まるんじゃない!一度、罪を認めてしまったら、王家に対する謀反人の烙印を押され、死罪ではないか!」
〈そこでハッとなり、もう一度あの尋ね人の紙を取り出し、見つめるウォーレス。〉
■ー城 書架室 昼食後
〈集まっている姫とジュリアス、ポリー。本を音読するジュリアス。首飾りの石を触りながら聞くミレーネ。邪魔にならないように、自分向けの本を難しい顔で眺めているポリー。そこへノックの音がする。〉
従者ボリス(声のみ)「王様がいらっしゃいました」
〈一瞬、緊張感が三人に走る。〉
ジュリアス「やれるだけのことはやりましたからね。落ち着いて」
〈頷く姫。ポリーが扉を開け、お辞儀をする。王様、民政大臣、従者ボリス、女官ジェインが入って来る。護衛は廊下で待つ。姫とジュリアスは椅子から立ち上がって、王様を迎える。〉
ジュリアス「王様。〈お辞儀をする〉」
ミレーネ「お父様、ここまで、いらして下さったのね。〈手を伸ばす〉」
王様「〈姫の手を取り〉良い良い、そのまま三人とも座って続けなさい。どんな進み具合じゃ?」
ジュリアス「はい。姫様は我が国の行く末について関心が高く、
王様「なるほど。我が国に新しい風を運ぶ若い世代が、国外の知識を吸収する姿は、何とも頼もしいではないか」
民政大臣「まことに、おっしゃる通りでございます」
王様「今、学んでおったのは、この本か?」
ジュリアス「はい、王様」
王様「姫や、学んだ知識を少し父にも話してみてはくれぬか?」
ミレーネ「はい。〈首飾りの石を触り〉まず青の国についてお話しします。青の国は南側が大きく海に面しており、北へ向かって細長く伸びる地形。面積は我が国の三分の一。しかし人口は三倍近く、交易や海運を営み繁栄しています。ただ、海に面していることで、津波や洪水、海難事故が多い点が――〈そのまま延々と話し続けている〉」
〈嬉しそうに頷き合う王様と民政大臣。口をポカンと開け目を丸くしているポリー。安堵の表情のジュリアス。姫は一人、回りの様子が分からないまま、淡々と話し続けている。〉
■ー城 王の部屋の前 廊下
〈王と民政大臣が談笑しながら戻ってくる。護衛は後ろについている。部屋の前で待っていた外事大臣と近衛副隊長。〉
外事大臣「王様、ご報告がございます」
王様「中で聞こう。〈民政大臣に〉今日はご苦労だった」
〈お辞儀をする民政大臣。王と外事大臣は部屋の中に入る。廊下で近衛副隊長は待機する。〉
民政大臣「〈近衛副隊長に〉何かあったのか」
近衛副隊長「女官アイラが罪を犯したと認めました」
■ー城 書架室
〈ふうーっと、へたり込んでいる姫、ジュリアス、ポリー。〉
ポリー「本当にミレーネの記憶力には驚きの連続!」
ジュリアス「確かに。一度読んだだけの箇所も全て、完璧に暗記できていましたね。それに、白の国や灰の国の近況について、まだ学んでいなかったことまで説明できたのには舌を巻きましたよ」
ミレーネ「最近、少しずつ、タティアナが教えてくれていましたの。灰の国は、もともと荒地が多いのに、さらに、ここ数年、なぜか全く作物が実らず、困り果てた民は隣国の白の国に大移動したのですわよね。その白の国も、本来、雪と氷で覆われている国。灰の国の民まで引き受け、過酷な条件の下で民を飢えさせないよう、日々並々ならぬ努力で乗り切っていると語ってくれていたのです。それで覚えていた通り、お父様にお話出来たのですわ」
ジュリアス「今回はタティアナさんに助けられたよ」
ポリー「じゃあ、次はいよいよタティアナさんからの手紙ね」
第7話 届けられた手紙 終わり
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