第7話 届けられた手紙 #2

第7話 続き #2



■ー城 牢屋の鉄格子の窓


〈一つ目の窓枠に留まり、中を覗き、首を振るコットンキャンディー。次に二つ目の窓を覗き、鉄格子の間から中へ飛んで入る。〉



■ー城 牢屋


〈お腹をさすりながら小さな声で子守唄を歌っている女官アイラ。その側で壁にもたれて目を閉じ聞いている女官タティアナ。その二人の耳にかすかに小さな羽ばたきの音が聞こえる。顔を上げる二人。そこへコットンキャンディーが舞い降りる。〉


女官タティアナとアイラ「「コットンキャンディー!〈慌てて口を押さえ声を押し殺す〉」」


女官タティアナ「よく、まあ、ここまで。ああ、コットンキャンディー」


〈手に乗せ、包み込むようにして胸のそばに持っていき抱きしめるタティアナ。〉


女官アイラ「見つかったら大変なことになりますわ。さあ、こちらへ」


〈タティアナを牢の奥に移動させ、壁を向き、牢の入り口を背にして座らせる。アイラ自身も、その後ろに座り、タティアナの様子が牢の外からあまり見えないように気を配る。〉


女官タティアナ「元気だったの?ああ、本当に良かった。でも、一体どうやって、ここへ?誰かが手伝ってくれたの?」


〈その問いかけに答えるように、くわえていた小枝をタティアナの掌に落とすコットンキャンディー。小枝に巻いてある紙をツンツンと突っつく。震える手で小枝からはずし細く小さな紙を広げて見る女官タティアナ。〉


女官アイラ「何か書いてあるのですか?」


〈女官タティアナは、首を振る。じっと見つめていたが、その紙を鼻に近付け、そっと匂いを嗅ぐ。〉


女官タティアナ「ああ、やっぱり……〈うるうる泣き出す〉」



■ー【女官タティアナの回想:数ヶ月前 生前のお妃様の誕生日前夜】


【回想:〔香水を調合している女官タティアナ。隣りで香りを嗅ぐミレーネ姫。〕


ミレーネ『タティアナは上手ね。きっとお母様も気にいるわ』


女官タティアナ『姫様からの贈り物ですよ。どんなにお喜びになられることでしょう。姫様もお試しなさいますか?〔姫の手首の内側にシュッと香水をかける〕』


ミレーネ「すごく素敵な香り!世界に一つね。リボンを瓶に結びたいわ。〔楽しそうに〕どれにしようかしら?』】



■ー城 牢屋 再び


女官タティアナ「〈押し殺した声で〉アイラ、コットンキャンディーは姫様が遣わして下さったのですよ。姫様は私達のことを信じておいでです。何も書いていない紙は途中で万が一、コットンキャンディーが見つかっても誰の仕業か分からぬようにと。そして、もし、このように、無事ここへ届けることが出来たら、私が何か少しでも書き付けることが出来ますわ。そう、ご配慮して下さったのだと思います。〈話しながら小枝に仕掛けられた書炭棒のありかを確かめる〉」


女官アイラ「まあ、姫様がそこまで……〈泣き出す〉。ここまで耐えてきたことが報われます」


〈その時、急に牢の外が騒がしくなり、何か、話しながら歩いて来る人の声がする。〉


女官タティアナ「〈急いで毛布の下に隠しながらコットンキャンディーに〉静かに。じっとしているのよ」


〈牢の前に牢の番人と近衛副隊長が立つ。牢の鍵を開ける番人。〉


近衛副隊長「女官アイラは取り調べ室に来るように」


女官アイラ「私だけですか?」


近衛副隊長「そうだ。早く出ろ」


女官タティアナ「なぜ、また?もう、取り調べは済んでおります。真犯人を捕まえて下さい。私達が申し上げることが出来るのは、それだけでございます!」


女官アイラ「〈タティアナだけに分かるように目配せして〉今は言う通りにしておきましょう」


女官タティアナ「でも、また、痛めつけられでもしたら!」


女官アイラ「大丈夫ですわ。きっと、それは無いはずですから」


近衛副隊長「何をごちゃごちゃ言っておる。早くしないか」


女官アイラ「〈立ち上がって〉参ります」


〈女官アイラは牢の外へ出て行く。〉



■ー城 武法所近く


〈走ってくる近衛隊長と文法大臣。〉


近衛隊長「文法大臣!外事大臣に女官の取り調べをお許しになったのですか?外事大臣は担当を外されたはずでは?」


文法大臣「私も武官より急ぎの伝達を聞き、驚いて今、駆けつけるところです。まさか王命に逆らうとは思いもしませんでした!」



■ー城 牢屋


〈壁に向かって座り、コットンキャンディーと紙を隠すように置き、考えている女官タティアナ。〉


女官タティアナ(心の声)「姫様はもう、きっと首飾りの秘めた力にお気付きになったはず。あの時の私の声が届いたと信じましょう。ただ、首飾りの力は強すぎて、一つ間違えると大変なことになってしまう。このことは亡きお妃様と私しか知らぬこと。何とかして姫様にお伝えしなくては――」


〈辺りを警戒しながら紙に何か書き始める。〉



■ー城 武法所


〈机の前に座らせられた女官アイラ。向かい側には外事大臣と近衛副隊長が座っている。渡された手紙を読むアイラ。〉


アイラの父(声のみ) 『我が娘アイラよ。王様にお仕えする身でありながら、お妃様やお姫様に毒の入った飲み物を渡し、それでもなお、自分に非がないと主張するのは、あまりにも恥ずべき行為と思わぬか。私達家族は、お前のせいで王家にも世間にも顔向け出来ず、つらく肩身の狭い思いの毎日だ。生き地獄とはまさに、このことだ』


〈アイラは手紙から信じられない表情で顔を上げる。目には涙が浮かんでいる。もう一度目を落とし慌てて続きを読む。〉


アイラの父(声のみ)『どうか過ちは過ちと認めて心から反省する姿を見せておくれ。王家からの並々ならぬ恩をあだで返してはならぬ。自ら謝罪し償いを乞うのだ。それが今のお前に出来る唯一のことであり、父と母の最後の願いだ』


女官アイラ「〈震える声で〉これは本当に父が書いたものですか?母も隣りで同じ気持ちだと言ったのですか?」


近衛副隊長「父親の筆跡はよく知っているだろう。親をこんなに苦しませておいて、それでもまだ、お前はシラを切る気か。〈ドンと机を叩く〉」


女官アイラ「〈消え入るように〉この――最後の願いとは、どういうことですか」


外事大臣「ご両親はお前の罪をご自分達で償うつもりでおられる。娘が罪を認めぬ限り、そうするしかないと。最後とは、そういう意味だ」


女官アイラ「まさか――そんな……」



■ー城 牢屋


〈女官タティアナが紙を枝に巻き、コットンキャンディーにくわえさせる。〉


女官タティアナ「〈小声で〉さあ、戻りなさい」


〈うるんだ瞳でじっとタティアナを見つめるコットンキャンディー。〉


女官タティアナ「また会える日を信じていますよ。元気でいておくれ。どうか姫様を守って頂戴」


〈タティアナはコットンキャンディーの頭をそっと撫でる。コットンキャンディーは飛び立ち、鉄格子の間から去って行く。〉



■ー城 礼拝堂の裏手 牢のそば 木立の中


〈ソワソワしているジュリアスの元にコットンキャンディーが戻る。〉


ジュリアス「お帰り、よくやったぞ。牢が騒がしいようだったが、無事で良かった。〈くわえていた枝を受け取り、コットンキャンディーを小箱に入れる。〉すまないが、もう少し、ここで辛抱していて欲しい」



#3へ続く




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