第7話 届けられた手紙 #1

プレシーズン 第7話 届けられた手紙 #1


■ー城 書架室の前の廊下


〈ミレーネ姫、ジュリアス、ポリーが廊下へ出て来る。ちょっと気になって辺りをウロウロしていた女官ジェインが気づいて飛んでくる。〉


ジュリアス「〈小声で姫に〉ジェインさんだ」


ミレーネ「ジェイン、私達、かなりこんを詰めて勉強したから少し気分転換よ。今度は散歩に出掛けるわ」


女官ジェイン「私もお供を」


ミレーネ「皆が一緒よ。心配ないわ」


女官ジェイン「分かりました。こちらで待機しております。ご昼食までにはお戻り下さいませ」


〈ミレーネ姫、ジュリアス、ポリーが階段を降り、庭へ向かう。ジュリアスは小箱と本を抱えている。近衛ウォーレスが三人を見かけ、特にポリーに注目する。〉


【近衛ウォーレスの回想: 半時前 城の西門近く厨房付近 別の近衛と一緒にいたポリーの姿。】


近衛ウォーレス(心の声)「やっぱり、あの少女だ」


〈外へ行った三人を見送り、階段を上がると近衛ウォーレスは女官ジェインに会う。〉


女官ジェイン「あ、ちょうど良いところにいて下さいました。今、姫様達が散歩に出られたので、護衛をお願い出来ますか?姫様が手を貸されることに少々敏感になっていらっしゃるものですから、くれぐれも距離をとって見守って下さい」


近衛ウォーレス「分かりました。あの、ミレーネ姫とご一緒されているのは従兄妹の方達ですよね?」


女官ジェイン「ええ、そうです。ジュリアス様とポリー様です。とても仲良くなられて、今朝も先ほどまでずっと一緒にお勉強なさっていたのですよ。次はお散歩と、はりきってお出掛けになられました。微笑ましいことです」


近衛ウォーレス「ずっと一緒に?〈口の中でつぶやく〉」


女官ジェイン「〈つぶやきには気付かぬままで〉では、宜しくお願いしますね」



■ー城の庭


〈ミレーネ姫、ジュリアス、ポリーが歩いている。少し後ろを追いかけていく近衛ウォーレス。その様子を、庭を巡回中の武官見習いのアリが遠くから見かける。〉


武官見習いアリ「散歩か。このところ、いつも一緒だな」


〈森に近づくミレーネ姫達三人。後ろをさりげなく振り返り、近衛ウォーレスがついて来ているのを確認するジュリアス。〉


ジュリアス「〈ミレーネ姫とポリーに小声で〉やっぱり護衛が距離をとって、ついて来ている」


ミレーネ「思った通りね」


ジュリアス「ポリー、僕がいない間、ミレーネを頼むよ」


ポリー「分かった」


ミレーネ「大丈夫ですわ。こちらのことは心配しないで」


〈ジュリアスは小箱と本を持ったまま、一人、来た道を引き返す。近衛ウォーレスが、遠くから見て、ん?といぶかしむ。その時、風が強く吹いてきて、近くの大木のてっぺんに引っかかっていた、マリオの描いた似顔絵が落ちてくる。思わず拾う近衛ウォーレス。〉


近衛ウォーレス「これは、尋ね人の張り紙。“白杖の女の子”か。なぜ、これが城内に?〈まじまじと見て〉この若い娘、どこかで見たことが……」



■ー【近衛ウォーレスの回想: 姫の誕生日 祝宴会場】


【回想:〔会場の隅で女官アイラとすれ違う近衛ウォーレス。〕


女官アイラ『〔まわりに気付かれないように小声で〕うたげの後で話があるの。〔嬉しそうな様子〕』


近衛ウォーレス『〔小声で〕俺もだ。後で。〔ウィンクする〕』


〔その後、祝宴会場を巡回して見回っている近衛ウォーレス。遠くのテーブルに、給仕しているアイラの姿を見つける。その斜め後ろに隠れるように立っていた、美しい女の子の控えめな様子。〕】



■ー城の庭 再び


近衛ウォーレス「似ている。あの時の女の子に。しかし、あの日の客や、夜まで残っていた手伝いの者は全員取り調べ、目の不自由な人など誰もいなかった。近衛や武官の誰からも不審人物については聞いていない。この子は、あの時、俺がアイラに注意を向けなかったら、誰の記憶にも全く残っていなかったはず」


〈もう一度、尋ね人の紙を凝視する。〉


近衛ウォーレス「誰なんだ、一体……。ずっと初めから祝宴にいたのだろうか?分からない。だが、あの後、すぐ事件が起こったことは確かだ。〈尋ね人の添え書きを見て〉“お心当たりの方は城下町川沿い地区・鍛錬修行所内マリオまで”。マリオという者はなぜ、この女の子を探しているのだろうか?」


ジュリアス「あの――」


〈急に目の前に立っていたジュリアスに驚く近衛ウォーレス。〉


近衛ウォーレス「〈はっと我に帰り〉あつ、どうされました?」


ジュリアス「姫様に森の植物について、散歩がてら話そうと思っていたのですが、説明に使う本を間違えて持ってきてしまいました。〈さりげなく、ちらっと手に抱えている本を見せながら〉書架室に取りに帰りますので、その間、森にいる姫様とポリーのことを宜しくお願いします」


近衛ウォーレス「お任せ下さい」


〈急ぎ、森へ向かいながら、手にした尋ね人の紙に気を取られ、後方のジュリアスには全く注意を払っていない近衛ウォーレス。ジュリアスは、ウォーレスが振り向かないか気にしながら、城へは戻らず、牢近くの礼拝堂の裏に続く木立に向かい、急いで身を潜める。その様子を、さらに遠くから眺めている武官見習いのアリ。〉


武官見習いアリ「何やってんだ、あいつ――」


〈そこへ、武官見習いの仲間が走って来る。〉


武官見習いの仲間「アリ、武法所ぶほうじょに集合がかかっているぞ」



■ー城 礼拝堂の裏手 牢のそば 木立の中


〈木立の中にしゃがみ込むジュリアス。小箱からコットンキャンディーを出し、少し遠くに見える牢の窓を指差して話しかける。〉


ジュリアス「ほら、あそこに鉄格子の窓が見えるだろう。あの、どれか一つにタティアナさんがいる。この枝を〈くわえさせながら〉届けるんだ。返事をもらったら、ここへすぐ帰って来るんだぞ。いいかい?」


〈ジュリアスをじっと見て、ピピッと鳴くコットンキャンディー。〉


ジュリアス「し――。牢屋では見つからないように鳴いてはいけないよ」


〈辺りを見回し、誰も見ていないことを確かめ、立ち上がる。そして、コットンキャンディーを乗せた手を空に向ける。〉


ジュリアス「さあ、行っておいで」


〈鉄格子の窓に向かって羽ばたくコットンキャンディー。〉



■ー城の庭 武法所に向かう道


〈走り出した時に、かなり遠くからではあるが、緑色の小さな物体が牢の方角へ飛んでいくのを見るアリ。〉


武官見習いアリ(心の声)「何だ、あれは?」


〈今度は東門が騒がしくなり、外事大臣と近衛副隊長が武法所方面に駆けていく姿を見るアリ。同じく、武官見習いの仲間も外事大臣達一行に気付く。〉


武官見習いの仲間「やばい、アリ!遅れるぞ。急ごう!」



■ー城 礼拝堂の裏手 牢のそば 木立の中


〈コットンキャンディーを待ち、木の影に潜んでいるジュリアス。その耳に激しい足音がまず聞こえ、そして話し声が届く。〉


外事大臣(声のみ)「〈走りながら〉アイラをすぐ武法所の取り調べ室に呼べ」


近衛副隊長(声のみ)「はっ」


〈その言葉にビクッとなるジュリアス。〉



#2へ続く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る