第6話 秘密の企て #3

第6話 続き #3


■ー城 西門近く 厨房付近


〈走って城の中へ戻ろうとしているポリー。〉


近衛「そこ!こんな時間にここで何をしている?」


ポリー(心の声)「見つかった――」



■ー城 書架室 


ジュリアス「順調ならばポリーがそろそろ戻る頃なのだが」


ミレーネ「見つかっていなければ良いのですけれど」


ジュリアス「とりあえず次の準備を始めていよう。これがミレーネに頼まれたオリーブの枝。言われた通り、中をくり抜き、極々細い書炭棒しょたんぼうを埋め込んでおいたよ。それから、枝に巻く薄く小さい紙はここに。」


ミレーネ「その紙にもう一工夫よ。〈香水の瓶を取り出し、もう一度香りを確かめ頷き、紙にそっとふりかける。〉これで準備は出来たわ。後はポリーとコットンキャンディーを待つばかりね」


〈その時、扉をノックする音がして、女官ジェインの声が聞こえる。〉


女官ジェイン「お勉強中のお邪魔をして申し訳ございません」


〈ジュリアスが慌ててテーブルの上の小道具を隠し本を広げ、扉を開けに行く。〉


ミレーネ「〈座ったまま、扉の方向に顔向け〉どうしたのですか?」


女官ジェイン「皆様の勉学にいそしむご様子を王様が大変お喜びで、ご昼食後、民政大臣と共に書架室へお立ち寄りになられるご予定でございます。取り急ぎ、そのむね、お知らせをと思いまして」


ミレーネ「まあ、お父様が?」


〈ジュリアスも一瞬たじろぐが、平静を装う。〉


ジュリアス「分かりました。では、また勉強の続きを始めます」


〈扉を閉めようとするジュリアスの横から、中を覗き込む女官ジェイン。〉


女官ジェイン「ところでポリー様は?」


ジュリアス「ポリーは今お手洗いに行っていて、すぐ戻ってきます。では、ひとまず、失礼を」


〈急いで扉を閉め、息を吐くジュリアス。ミレーネ姫の側へ行く。〉


ミレーネ「どうしましょう、一昨日から勉強を始めたことになっているから、絶対にお父様や民政大臣から色々質問されるわ。」


ジュリアス「こういう事態も予測しておくべきだったな。そうなると、僕が午後にコットンキャンディーを連れ出すことも難しくなる 。予定を繰り上げて昼前までに終わらせないと!ああ、ポリー、早く帰って来てくれ」




■ー城の西門近く 厨房付近


〈ポリーと、ポリーに声を掛けた見回りの近衛が向き合っている。〉


ポリー「〈作り笑顔で〉こんにちは」


見回りの近衛「見慣れない顔だな。その格好は?厨房班でも美化班でもないな。奉仕活動で、お城に来ている者か?」


ポリー「あっ、はい」


見回りの近衛「こんな所になぜ一人でいる?」


ポリー「あの、まだお城に慣れなくて、迷ってしまいました。あっ、でも、もう道が分かりましたから、ここからは大丈夫です。失礼します」


〈一人でこの場から去ろうとするが、グイッと捕まえられる。〉


ポリー「あの、何か――」


見回りの近衛「〈笑顔で〉放っておくと、また迷子になりそうだ。送ってやろう」


ポリー「〈必死で〉いえいえ、本当にお構いなく。大丈夫ですから!」


〈そこへ近衛ウォーレスがやって来る。ポリーを不思議そうに見る。〉


近衛ウォーレス「何かありましたか?」


ポリー(心の声)「絶体絶命……」


見回りの近衛「いえ、この子が道に迷ってウロウロしていたもので。ちょっと送ってきます。〈ポリーに〉ほら、どこへ行く?」



■ー【ポリーの回想: 書架室】


【回想:ミレーネ『途中でどうしても困ったことになったら、厨房にいるエレナを頼るのよ。お城の中でタティアナと同じくらい信用出来る人なの。さあ、これも持っていって。〔ポリーにエレナが焼いて届けてくれていた菓子を渡す〕』】



■ー城の西門近く 厨房付近 再び


ポリー「〈顔を上げ〉厨房です」


見回りの近衛「よし、厨房か。すぐそこだ。〈先に立って歩き出す〉」


〈ポリーも後ろからついていく。手提げ袋の中にいるコットンキャンディーに話しかける。〉


ポリー「心配しないで。じっとしていてね。〈ささやく〉」


見回りの近衛「〈振り向き〉何か言ったか?」


ポリー「いえ、何も。〈にっと笑う〉」


〈じっと二人を見送る近衛ウォーレス。〉



■ー城 書架室


〈書架室の中をグルグル動き回っているジュリアス。〉


ミレーネ「じっと待っているだけでは、いけないわ。〈つぶやき、首飾りに手を置き考える。はっと顔を上げ〉ジュリアスが持って来てくれた書物の中に隣国について書かれたものはあるかしら?」


ジュリアス「えっと、一冊ここに」


ミレーネ「最初から急いで読み上げて頂戴!」



■ー城 厨房


厨房班の女「エレナ、近衛の方が外で呼んでいるわ」


エレナ「私を?何かしら?」


〈手を拭き出てくる厨房班のエレナ。そこに近衛とポリーがいる。〉


近衛「エレナさん、この子に用事を頼んだのか?迷子になっていたぞ」


〈一瞬、不審げな顔のエレナに、ポリーが急いで手提げ袋から焼き菓子を出して渡す。受け取り、焼き菓子を見るエレナ。〉


ポリー「遅くなって、御免なさい」


エレナ(心の声)「これは姫様に誕生日に私が作って届けた焼き菓子。この子は……。そうだ、確か……二日前に開かれた、王様のご昼食会で姫様の隣りに座っていた従姉妹様――」


〈もう一度ポリーを見るエレナ。目で訴えるように、じっと見つめ返すポリー。〉


エレナ「……ああ。遅かったから心配していたのよ。〈近衛に〉お世話をお掛けしてすみませんでした」


近衛「ちびっ子、気を付けるんだぞ」


〈頭を下げるポリー。近衛がその場を去る。姿が見えなくなるのを待ってから、エレナに向き合うポリー。〉


ポリー「〈一度、頭を下げて〉有難うございました。私はミレーネ姫のいとこのポリーと言います。姫様から、困ったらエレナさんの所に行くようにと、この焼き菓子をもらっていたのです。エレナさんならきっと助けてくれるからって。〈笑顔を見せる〉」



■ー城 書架室 再び


〈隣国についての書物を声に出して読むジュリアス。首飾りのヘッドを握り、じっと聞くミレーネ姫。そこへポリーが駆け込んで来る。急いで廊下を覗いて確認するジュリアス。幸いにも書架室近辺担当の護衛は少し離れた所を巡回中でポリーには気付かなかった様子。〉


ポリー「ミレーネ!〈駆け寄り、手を握る〉」


ミレーネ「ポリー、無事に戻れたのね」


ジュリアス「誰にも見咎とがめられなかったか?」


ポリー「タティアナさんの家の近くで、近衛のおじさんに見つかっちゃった!でも、エレナさんが助けてくれたんだ」


ミレーネ「そう、エレナが。ああ、良かったわ」


ジュリアス「詳しくはまた、後で教えてくれ。とにかく今は時間がない。コットンキャンディーは?」


〈ポリーは手提げ袋に入れて、包んでいたハンカチの中から、コットンキャンディーを取り出し、姫の手に乗せる。ピピッと鳴くコットンキャンディー。〉


ミレーネ「コットンキャンディー!元気だった?」


ポリー「タティアナさんがいつも餌は多めに入れていたみたい。まだ、鳥籠の中に少し餌が残っていたから大丈夫だよ」


ミレーネ「そう、良かった……」


〈コットンキャンディーに頬ずりするミレーネ姫。嬉しそうにピピッと鳴くコットンキャンディー。〉


ジュリアス「これでポリーはまず使命を果たせた訳だ。さあ、急いで次の作戦に移ろう!」



第6話 秘密の企て 終わり


※作者注:書炭棒しょたんぼうとは緑の国で使われている庶民の筆記具で、小さめの細い炭を加工したものに紙が巻かれているものである。


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