第5話 コットンキャンディー #3

第5話 続き #3



■ー城 牢屋


女官アイラ「お身体の具合は大丈夫ですか?」


女官タティアナ「あなたこそ、冷えは大敵ですよ。体にこたえていないか心配なのです」


女官アイラ「もともと私の体は丈夫ですから平気です。〈お腹を触って〉元気に育ってくれています。タティアナ様に助けて頂いた子。タティアナ様、この子の家族になって頂けますか?」


女官タティアナ「ええ、もちろん。二人で、この小さな命を守っていきましょう。ずっと気になっていたけれど――父親は分かっているのね?」


女官アイラ「〈頷き〉本当は、もうすぐ結婚する予定だったのです」


女官タティアナ「では、相手の方は貴女が捕まってしまい、どんなに心を痛めていることでしょうね」


女官アイラ「でも、彼も、この私を犯人か、それとも城内に手引きした者ではないかと疑っているのではないかと思えてしまって。それだけが一番心配で、怖いのです」


女官タティアナ「何を言っているの?愛し合って子どもが授かった二人なのでしょう?その人を信じていかなくては!」


女官アイラ「実は、私がここにいることを知っているのに、一度も顔を見に来ることさえしないのですもの。牢にいる女なんて、もう嫌われてしまったのかも……」


女官タティアナ「まあ、相手はお城の内部の人なのですね。何か来られない事情が、きっとあるのでしょう。アイラ、どこにいようと罪を犯していない限り、自分を卑下ひげしてはなりませんよ」





■ー〈情景〉


〈月夜に浮かび上がる城と森。城の三階にある書架室の窓に、姫、ジュリアス、ポリーの姿が見える。〉





■ー城 書架室 


ポリー「〈城の見取り図を持ち上げて〉出来たわ!」


ジュリアス「完璧だよ」


ポリー「言ったでしょ?ミレーネの記憶力は最高って!」


ミレーネ「役立つかしら?」


ジュリアス「もちろん。計画にとって必需品だ。これは僕が預かっておこう」


〈ジュリアスは城の見取り図を畳んで大切にしまう。〉


ミレーネ「明日から準備開始ね。一つ心配なのは、お城の中に手引きをした犯人が本当にいるかも知れません。くれぐれも慎重に動かなくてはいけませんわ」


ジュリアス「女官のタティアナさんとアイラさんが無実ならば、他の誰かが関わっていたと十分に考えられるからな」


ポリー「ねえ、その人は今も普通にお城で働いているってこと?」


ジュリアス「そういうことになる」


ポリー「ええっ!」


ミレーネ「ポリー、お城に住むのが怖くなった?」


ポリー「……ううん、私は腕に覚えがあるから大丈夫。ジュリアスより断然、強いし。二人とも守ってあげる」


ミレーネ「まあ、頼もしい」


【ミレーネの回想:  子ども時代 城下町の道でポリーがいじめっ子達をやっつけているのを、少し離れたところに停めた馬車の窓から見ていた母ロザリーとミレーネ姫。】


ミレーネ「〈ふっと笑って〉そうね。ポリーだったら、出来るかも知れないわ」


〈笑顔のミレーネ姫の言葉に、ジュリアスとポリーは、えっ?という顔をするが、姫には見えていない。〉


ミレーネ「さあ、今日はここまでにしましょう」


ジュリアス「ミレーネ、もう一つだけ聞いてもいいかな?従兄妹といっても、まだ、ほとんど会って間もないのに、どうして、ここまで僕たちを信用してくれるのかい?僕たちは嬉しいけれど」


ミレーネ「ジュリアス、ポリー、私はあなた達が思っている以上に、二人のことを、よく知っていますのよ。〈微笑む〉」




■ー城 姫の部屋


〈薄暗い中、ベッドに腰掛けている姫。〉


ミレーネ(心の声) 「お母様の御心を感じながら、今日やっと一歩を踏み出すことが出来ました。どうか、これからもお力添えをお願いします。〈祈る〉ねえ、お母様、ポリーの家族をずっと見守ってきたこと、今もまだ内緒にすべきですか?」





■ー【ミレーネ姫の回想 (子ども時代)】


【回想:〔五年ほど前。雨の日。城下町〕


道で困っているおばあさん。荷物を三つも持っている。声を掛け、おばあさんの荷物二つを持ち、自分の傘を貸してあげるポリー。雨に濡れて歩いている所へ、ジュリアスが傘を持って走ってくる。ポリーを傘に入れ、荷物も一つ持ち助けるジュリアス。送ってもらったおばあさんは、二人に礼を言い、頭を下げている。


それぞれ傘をさして、歩き出した二人。雨の中、箱に捨てられて哭いていた子犬を見つけ、ポリーが抱き上げる。子犬を抱いたポリーとジュリアスが、一緒に一つの傘で帰っていく。


家の前でナタリーが待っていて、ジュリアスとポリーの濡れた頭を手ぬぐいで拭いてくれる。その様子をずっと馬車で追いながら、窓からそっと見ていた母ロザリーとミレーネ姫。〕


ミレーネ(子ども時代) 『お兄様がいるっていいな。ねえ、あの人がお母様のお姉様?』


お妃様『そうよ』


ミレーネ『行ってお話したら良いのに』


お妃様『いいのよ。皆が元気で幸せに暮らしていることが分かれば、それでいいの』 】





■ー城 民政大臣の執務室 次の日の朝


ジュリアス「お早うございます」


民政大臣「お早う」


ジュリアス「今日、一度、家に戻っても良いですか?ミレーネ姫の勉強用に何冊か準備したい本があるのです」


民政大臣「そうか、ナタリーも喜ぶだろう。行き帰りの馬車を手配するから、ポリーも一緒に連れていってやりなさい」


ジュリアス「はい、父様」





■ー〈情景〉


〈朝の城下町の様子。昇級試験に向かう、ジュリアスの友人マリオの姿。〉





■ー城下町 民政大臣の家


ジュリアスとポリー「「母様、アン、ただいま」」


ナタリー「まあまあ、急にどうしたの」


ジュリアス「ミレーネ姫の勉強に使う本を取りに来たんだ」


ポリー「アン!〈飛びついてきたアンを抱き上げる〉」


ジュリアス「〈居間に入って〉母様、今、家にオリーブの実ってあるかな。薄味の塩漬けがいいんだけど」


ナタリー「ええ、あるわよ。どうして?」


ジュリアス「良かった!お城でこれからお世話になる方の好物らしい」


ナタリー「まあ、そうなの。好きなだけ、持っていきなさい。そう言えば、この間、マリオさんが家に来たわよ。ちょうど、あなた達がお城に上がった日だったかしら?その後、城下町で会ったら、アリさんに伝言を頼んだって言っていたけれど。アリさんから何か、聞いた?」


ジュリアス「えっ、アリ!まだ、何も聞いていないよ」


〈顔を見合わせるジュリアスとポリー。〉





■ー城下町 商店が多いところ


〈歩いているジュリアス。まず、薬草の店に入り、紙包を持って出て来る。次に、植物を売っている店に寄る。最後に、小鳥を売っている店に入り、小箱を持って出て来る。小箱の中から、ピッピピという小鳥の鳴き声。〉





■ー城下町 マリオの家 離れの部屋


ジュリアス「こんにちは。マリオ?」


〈母屋の方から足音がする。〉


マリオの妹セナ「〈嬉しそうに〉あら、お久しぶりです、ジュリアス様。どうされたのですか?」


ジュリアス「セナさん、“様”はやめておくれよ。今日、マリオは留守かな?」


マリオの妹セナ「あいにく昇級試験で朝から学校に行っています。いつもは家にこもって絵ばかり描いているのに」


ジュリアス「そうですか。何か僕に用事があるみたいで、気になったものだから買い物ついでに寄っただけです。有難う。では、また」




第5話 コットンキャンディー 終わり



※作者注:お城の中は複雑です。皆様のお城のイメージが鮮明に浮かぶよう、緑の国の城の見取り図を描きました。作者の近況ノート:2021年8月31日に全体像(一階)、2021年10月1日に2階・3階部分の見取り図がアップされていますので、どうぞご参考になさって下さい。

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