第5話 コットンキャンディー #2

第5話 続き #2



■ー城下町 ジュリアスの友人マリオの部屋


〈白杖の女の子の似顔絵を何枚も描いた中から一枚だけ、色を塗って仕上げたマリオ。〉


マリオ「もっと描きたいけれど、明日の試験の準備をしないとやばいよな。あれから、ジュリアスは何も言ってこないし。アリはちゃんと伝えたのかな」


〈色を塗って完成させた絵の中の、白杖の女の子のピアスは、鮮やかな青色※で塗られている。〉





■ー森 湖のほとり


ジュリアス「結局、その犯人は見つからず――か」


ポリー「飲み物を持ってきた女官のアイラさんと、飲み物を渡した女官のタティアナさんが牢屋に捕まっている訳ね。あっ、もしかして、昨日言っていた会いたい人って?」


ミレーネ「ええ、そうよ。本当は一分でも早く助け出したいの。でも、王命に背いて、勝手に助け出すなんて出来ない。だから、せめて何か、タティアナやアイラと連絡を取る方法があればと思っていますの」


ポリー「でも、簡単には……。すごく難しそう」


ミレーネ「そうですの。容疑者だからと、会うどころか、伝言すら届けてもらえないし、どこにいるかも教えてくれないの。お城には罪人を拘留こうりゅうする場所が多くありますもの」


ジュリアス「少しは見当がついてる?」


ミレーネ「ええ。牢屋か、地下室、塔の小部屋のいずれかと思うわ。たぶん、二人一緒のはずよ」


ポリー「あっ!」


【ポリーの回想:  昼食前 城の東門近くの丘のそば 高い塀に囲まれた建物の方から聞こえてきた女性二人の話し声。】


ジュリアス「ポリー、どうした?」


ポリー「丘の礼拝堂のそばに階段があって――」


ミレーネ「まあ、一番大きな牢屋のところですわ。なぜポリーは知っていますの?」


ジュリアス「ポリー、さっき、そんな所まで迷い込んでいたのか?」


ポリー「〈頷き〉うん。そこでね……」





■ーどこか知られぬ場所 洞窟


影の隠密「申し上げます。尋ね人の似顔絵を描いたのは画学生のマリオという者でした」


影の人「色々嗅ぎ回られると厄介だな。素人が変に首など突っ込むとは予定外だ」


影の隠密「さっさと消しますか?」


影の人「学生が殺された理由が、尋ね人の張り紙と結びつけられて、今後の計画遂行の妨げになるのはもっとまずい。城下町は非常事態につき、今もなお検問があり、近衛隊も各所で捜索を続行しておる。たかが学生一人のために危険を犯せぬ。面倒にならぬよう、見張りだけは続けよ」


影の隠密「はっ」





■ー城の森 湖のほとり 再び


ミレーネ「そうよ、きっとそこですわ。ああ、でも、医女が出入りしているなんて、体調が悪いということに違いなくてよ。早くどうにかしなくては。接触出来れば、救う手掛かりが何か見つかるかも知れませんのに」


ジュリアス「しかし、場所の見当はついたけれど、こっそり近づくのは至難のわざだな」


ポリー「高い所に鉄格子のついた窓が見えた。入り口には、おっかない番人がいて、牢屋の外と中で話そうとしたら、きっと、すぐ飛び出て来る。本当に私達だけで出来るの?やっぱり大人に味方になってもらおうよ。そうだ、父様がいるじゃない!」


ミレーネ「〈首を振り〉民政大臣は立場上、無理よ。それに、大人は皆、自分から危ない橋は渡りませんわ。今まで何度、頼んでも誰も聞いてくれませんでした。もう、これ以上、待てませんわ」


ジュリアス「じっくり構想を練りたいところだが、ある意味、時間との闘いか。何とか早く手を打たねば、手遅れになってしまいかねない」


〈考え込む姫、ジュリアス、ポリー。その頭上を野鳥が高らかにさえずりながら、木々の間を飛び、森の奥へ消える。〉


ミレーネ「そうよ、ああ、そうだわ。コットンキャンディーがいたわ。どうして今まで気が付かなかったのかしら?タティアナが牢に入れられて、あの子はどうしているの?」


ジュリアスとポリー「ミレーネ、って?」


ミレーネ「ここで、あまり長く話し過ぎていると怪しまれてしまいますわね。続きは夜にしましょう。皆で勉強するため、食事の後、書架室に集まるということにしたら、どうかしら?」





■ー城の庭 森から城へ戻る道 夕方


〈城へ帰っていくミレーネ姫、ポリー、ジュリアス。離れたところから見守って警護している近衛ウォーレス。〉





■ー城 書架室 夜


〈書架室の真ん中にある大きなテーブルにかたまって座っているミレーネ姫、ポリー、ジュリアス。書架室は両側の壁にそって、天井までの書棚があり、ぎっしりと本が並べてある。〉


ジュリアス「〈書架室を見回して〉これは、すごいですね」


ポリー「ジュリアスにとっては、宝の山だ!」


ミレーネ「〈少し小声で〉コットンキャンディーのことを、お話しますね。タティアナが飼っている小鳥よ。〈首飾りのヘッドを触りながら〉鳥に関する記録の本が、窓に向かって右側の書棚、大きく分けて真ん中の列――〈さらにぎゅっと集中して首飾りを握りしめて〉上から二段目、左から五冊目あたりにあるはず」


ポリー「〈椅子から立ち上がり書棚に取りに行って〉あった!」


ジュリアス「お見事!」


ミレーネ「その六ページ目あたりに、まるで綿菓子のようなフワフワした羽の小鳥の絵が載っているでしょ?くちばしは真っ赤なの。コットンキャンディーはその鳥と、元々はそっくりよ」


ポリー「〈テーブルに広げた本を見ながら〉見つけた!本当に綿菓子みたいに、真っ白でフワフワ。でも、元々って?」


ミレーネ「タティアナが買い始めた頃は、真っ白だったの。それが、今はすっかり、オリーブ色ですのよ」


ポリー「えっ~~、オリーブ色!どうして?」


ミレーネ「偶然あげたオリーブの実や葉がとても気に入って食べていたら、コットンキャンディーの色がなぜか変わっていったの。私もタティアナも驚きましたわ。その頃からよ、あの子が私達の話を理解して聞いているようだと、思い始めたのは……」


ジュリアス「オリーブの神秘の力が宿ったのか、本来持っていた力が引き出されたのか。それで、ミレーネはコットンキャンディーをどうしようと考えているのですか?」


ミレーネ「〈さらに小声になって〉ここからが、ジュリアスの腕、いえ、頭脳の見せ所でしょ。ポリー、廊下で誰かに聞かれていないか、見てきて下さるかしら?」


ポリー「分かった!〈ドアを少し開けて確認し〉大丈夫だよ」


〈ジュリアスとポリーに秘密の企てを相談し始めるミレーネ姫。真剣に聞いているジュリアスとポリー。〉

 


***(十数分後)



〈話し合っている姫、ジュリアス、ポリー。〉


ミレーネ「私の考えたことは以上よ。後は、簡単なお城の見取り図ね。また、ポリーが迷子になっては、いけませんもの。ジュリアス、私が今から言う通りに、描いて頂戴」


ジュリアス「分かった。今、準備するよ」


〈ジュリアスはテーブルに紙を広げる。左手で首飾りのヘッド触りながら、右手の指で、場所や形を示し、姫が正確に説明していく。その指示通りに描いていくジュリアス。覗き込むポリー。〉


ジュリアス「〈描きながら〉ポリー、無理は承知だが、出来る限り、頭に叩き込むんだ」




#3へ続く



※作者注:ポリーと寄り添った白杖の少女のピアスが、マリオが見た時、青く光っていたのは偶然なのか、それとも――?どうぞ心の片隅に留めて頂き、先をお読み下さい。



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