第5話 コットンキャンディー #1

プレシーズン 第5話 コットンキャンディー #1



■ー城 王家の食堂


〈従者ボリスに連れられてポリーが入って来る。〉


ポリー「こんにちは、王様、姫様。お招き有難うございます。遅くなって御免なさい」


〈姫の隣りの席へ案内され、座る。〉


従者ボリス「ポリー様が迷っていたところを保護された時、ちょうど近くに文法大臣がいらっしゃったことが幸いでした」


〈ボリスは下がり、控えて待つ。〉


従者ボリス(心の声) 「一つ間違えば、拘留されるところでしたよ」


王様「城は広いから、また迷子にならぬよう、気を付けるのじゃぞ」


ポリー「はい、王様」


ミレーネ「〈隣りからポリーに手を差し伸べて〉昨日はあれから、よく眠れて?」


ポリー「〈姫に手を握りながら〉はい、とっても。姫様は?」


ミレーネ「私もよ」


〈笑い合うミレーネ姫とポリー。その様子を嬉しそうに見る王。〉




***数分後




〈皆、食べ始めている。少し離れた所で給仕している厨房班の中にエレナの姿。厨房班でデザート担当のエレナとミレーネ姫は親交が深い。姫は光を失っているので気付いていないが、エレナは遠くから姫を案じている様子。姫の前にスープが運ばれて来る。〉


ミレーネ「〈斜め後ろに控えている女官ジェインに小声で〉お皿もスプーンもいつも通りですわね?」


女官ジェイン「ええ、いつも通りでございます。熱いですから、お気をつけて下さいませ」


〈左手で首飾りのヘッドを触りながら、右手を皿に触れ位置と形状を確認し、次にスプーンも右手でそっと触れ記憶を確かめる。〉


ミレーネ(心の声) 「このスプーンの7分目ぐらいが良い加減の量のはず」


〈側で見守るジェイン。皆も姫の一挙一動に注目する。上手にすくって飲み出すミレーネ姫。〉


皆「「「おお」」」


ミレーネ「美味しいですわ。〈微笑む〉」


ポリー「わあ、ジェインさんのお手伝いなしで、一人で出来るんですね!」


女官ジェイン「〈誇らしげに〉朝もご自分で召し上がられたのですよ」




***数十分後




〈食事を終え、談笑している五人。〉


ミレーネ「お父様、今から、ジュリアス、ポリーと一緒に、散歩に行ってきてもいいかしら?」


王様「よい、よい。行っておいで。ジェイン、姫達に付き添ってやってくれ」


ミレーネ「お城の中は私達三人だけで大丈夫ですわ。ポリー、手を引いてくれるわね?」


ポリー「はい」


王様「しかし、姫、まだ、こういう状況になって間もない。もう少し慣れるまでは御付きの者を連れていた方が良かろう」


ミレーネ「お父様、私が二人を案内したいの。たとえ目が不自由でも、まず、自分だけの力でやってみようと思っています。いいでしょ?」


民政大臣「王様、恐れながら、姫様が自分から積極的に行動することを望まれていらっしゃるのは大変喜ばしいことと存じます。今回は愚息ジュリアスもついておりますし――。いかがでしょうか」


王様「〈頷きながら〉では、ジュリアス、頼んだぞ」


ジュリアス「かしこまりました」




■ー城の庭 森への道


〈歩き出すミレーネ姫、ジュリアス、ポリー。ポリーとミレーネが手を繋ぎ、ジュリアスが後ろからついて行く。〉




■ー城の入り口付近


〈森へ歩き出す三人の姿が遠くに見える。〉


従者ボリス「王様から、三人に気付かれぬよう、少し離れたところで警護せよとのご命令です」


近衛ウォーレス「了解しました」





■ー城の庭の奥 森の中の道


〈木漏れ陽が射す森。草を踏む足音が聞こえる。顔に当たる風は少し冷たいが心地良い。それらを愛おしむかのように、ゆっくり進む姫、ジュリアス、ポリー。〉


ミレーネ「右へ行く小道の先に湖が見えるでしょう?」


ポリー「わあ、色がとっても綺麗」


ジュリアス「珍しいですね。鮮やかな緑色ですか」


〈その時、森に風が少し強く吹き、姫の首飾りのヘッドから、鈴のような清らかな音が聞こえる。その音に気付き、耳を澄ます三人。〉


ポリー「優しい音色……」


〈微笑む姫。〉


ジュリアス「まるで森と風と首飾りが共鳴しているようですね」





■ー森 湖のほとり


〈ベンチがあり、姫とポリーはそこに座る。ジュリアスは、ベンチのそばの、少し大きめの石に腰掛ける。〉


ジュリアス「なるほど。ここは、ちょうど木々が風をさえぎってくれる場所ですか」


ミレーネ「ええ」


ポリー「寒くなくて気持ちいいですね」


ミレーネ「ジュリアス、ポリー。お二人に改めてお礼を言うわ。本当に有難う。こうしてお城に来て下さって」


ジュリアス「従兄妹として当然のことですよ」


ポリー「姫様。〈手をぎゅっと握る〉」


ミレーネ「〈笑って〉ねえ、これから三人でいる時はミレーネ、ジュリアス、ポリーと呼び合って、言葉遣いも自由にしましょう。私は慣れてしまっていますけれど、ずっと、この調子では二人は窮屈でしょ。他の者達がいる時は、叱られるといけませんので、これまで通り丁寧な言葉遣いでね」


ポリー「〈ミレーネ姫に抱きついて〉本当にいいの?良かった〜。敬語ってすごく苦手で。あ〜〜、ホッとする!」


ジュリアス「気遣ってくれて有難う、姫――ゴホン〈軽く咳払いをして〉、ミレーネ」




■ー城 王家の食堂


民政大臣「では、王様、私はこれで失礼致します。大変美味しい昼食のおもてなしを有難うございました」


王様「こんな親戚付き合いも、たまには良かろう。今度はナタリー殿も一緒に」


民政大臣「御心遣い、感謝いたします」





■ー城の森 湖のほとり


ミレーネ「〈少し真顔になって〉実はこうして、ここに三人で来たことには理由がありますの。他の人には内緒の相談がしたくて」


〈ジュリアスとポリーは顔を見合わせる。〉


ミレーネ「特にジュリアス。貴方は十七歳にして、頭脳明晰、その上博識があると聞いていますわ。私のために、いえ、私と私の亡き母のために、誰にも気付かれずに助けて頂きたいの。本当は、二人を巻き込みたくなかったけれど、目の見えない私一人では、どうしようもなくて。もちろん、王様や大臣達にも秘密ですわよ」


ジュリアス「僕らだけですか?」


ミレーネ「そう、私達だけで」


〈姫は期待を浮かべた表情。ジュリアスとポリーは少し当惑した顔で、お互いを見る。〉


ミレーネ「まず、私の誕生日の夜から、一体、何がお城で起こったか、私が知っている限りを話しますわね」



#2へ続く

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