第4話 ひとすじの光 #2

第4話 続き #2


■ー城 王の会議室 再び


王様「痛めつけたのか?まだ、有罪かどうかも分からぬというのに!」


〈頭を下げてうなだれる外事大臣。外事大臣を凝視ぎょうしする近衛ウォーレス。〉


王様「以後、タティアナとアイラの取り調べは文法大臣に任す」


文法大臣「かしこまりました」


王様「それから、昨晩より、民政大臣の息子ジュリアスと娘ポリーが城に上がっている。皆も知っての通り、二人はミレーネ姫とミリアム王子の従兄妹にあたる。当分、ここで暮らすことになるので、宜しく頼むぞ」


民政大臣「子ども達を宜しくお願いします」


〈ざわつく重臣、家来たち。異議は誰も唱えないが、一人、嫌な顔をしている外事大臣。〉



■ー城 外事大臣の執務室


〈怒って部屋の中を歩き回っている外事大臣。〉


外事大臣「王が私のやり方に横槍を入れてくるとは!」


〈そこへ武官見習いで、息子のアリが入って来る。〉


武官見習いアリ「父上。ジュリアスがお城に上がっているのですか?」


外事大臣「誰に聞いた?」


武官見習いアリ「城下町の知り合いです」


外事大臣「噂は早いな。〈つぶやく〉」


武官見習いアリ「従兄妹でも今まではまるで城に寄りつかなかったし、あいつは昔から本の虫で城のことなんて全く気にもかけなかったのに!何でいまさら首を突っ込んできたのだろう?」


外事大臣「そんな奴がいきなり、お前より姫様に近い立場にいるとは、悔しいか? 嫌ならサッサと城から追い出すのだな」


武官見習いアリ「王様が決めたことを簡単に変えられないでしょう!」


外事大臣「変えられぬことを変えるのが政事まつりごとだ。いつか近衛隊を背負って立とうという者が、まだそんな情けない気構えとは!この能なし!さあ、出て行け、お前と話している時間などない!」


〈アリが黙って部屋を出て行く。〉


外事大臣「ジュリアスとポリーか。あの深紅の薔薇の子ども達……」



■ー外事大臣の執務室の前 廊下


武官見習いアリ「今朝は特に機嫌が悪いな」


〈歩き出したアリ。上着のポケットの紙に気づく。マリオが描いた尋ね人の絵。〉


武官見習いアリ「マリオも俺にジュリアスへの伝言を頼むなんて、馬鹿な奴だ!」


〈尋ね人の似顔絵の紙をクシャクシャにして、近くにあったゴミ箱に捨てる。〉




■ー城 客用の食堂 朝


〈ジュリアスとポリーが豪華な食事を食べている。〉


ジュリアス「〈パクパク食べるポリーを見て〉お城に来てもポリーの食欲は変わらないんだな」


〈民政大臣が入って来る。〉


ジュリアスとポリー「「父様」」


民政大臣「姫様と仲良くなれたようだな?ポリー」


〈えっという顔をするジュリアス。その横で、すました顔のポリー。〉


民政大臣「王様が大変お喜びだ」


〈ポリーはにこっと笑う。〉


民政大臣「それから、ジュリアス、姫様がお前に勉強を教えて欲しいそうだ」


ジュリアス「勉強ですか。ミレーネ姫は利発な方と聞いていますが、目が不自由になってしまわれて、僕が上手く教えることが出来るでしょうか?」


ポリー「〈横から〉姫様の記憶力は最高よ。きっと大丈夫」


ジュリアス「他人事ひとごとと思ってポリーは楽観的すぎるぞ」


民政大臣「ジュリアスも一度ゆっくり姫様と話してみるがいい。王様が昼食会に私達三人をご招待して下さった」


ポリー「やった!王様のランチ。なんて美味しそう!」





[12]ー城 ジュリアスとポリーの部屋の前 廊下


民政大臣「くれぐれも遅れるでないぞ」


ジュリアスとポリー「はい、父様」


〈民政大臣は仕事に戻る。廊下に待機している従者ボリスにジュリアスが声を掛ける。〉


ジュリアス「すみません、王様との昼食会まで少し部屋で休みたいのですが。実は昨晩あまり眠れなくて」


従者ボリス「確かに顔色が少し悪いようですね。承知いたしました。しばらくお休み下さい」


ポリー「ええ――、ジュリアス、部屋に帰っちゃうの?」


〈背中を向けたまま手を振って部屋に入るジュリアス。廊下に残されたポリーと従者ボリス。ボリスをじっと見上げるポリー。〉



■ー城の中


〈駆け回っていくポリー。色々な部屋をのぞいたり、階段を昇ったり降りたりする。数々の調度品に目を輝かす。〉


従者ボリス「ポリー様、お待ち下さい。確かに案内しますと申しましたが!」


〈おでこに手をあてたり、ハラハラした様子でポリーを追いかけるボリス。ポリーは嬉々として走り回っている。〉




■ー城の中 また別の場所


〈走って来たポリーが足を止める。無言で丁寧に掃除や窓拭きをしている人達。白いレースの縁取りのエプロン、白い三角巾、白い手袋という姿。〉


ポリー「あの人達もお城の侍女ですか?」


従者ボリス「侍女の中には美化班に所属し、掃除や整頓、美術品の管理を担当する者もおりますが、あの人達は城下町から通って来て、奉仕活動として、自らお城の下働きをして下さっているのです。とても敬虔けいけんな信者の方たちで、ご奉仕を通して神様と対話されていると聞いております」


ポリー「あっ、前に母様から似た話を聞いたことがある。誰かのために手を動かすことが祈りの形だって」



■ー【ポリーの回想 数年前】


【回想:〔数年前。ポリーの家。小さいポリーは母ナタリーが家事をするのを見ている。〕


ポリー『母様は毎日、お家のことが大変』


ナタリー『いいえ、あなた達が気持ち良く過ごせるように出来ることが嬉しいの。だから、大変と思わないのよ。それに……』


ポリー『それに?』


ナタリー『こうして丁寧に家事をすることが神様への祈りに繋がるわ。一生懸命すればするほど、きっと願いが届くはず』 】



■ー緑の国 城の中


〈掃除をしている信者達の働きぶりをじっと見るポリー。〉


ポリー(心の声) 「母様は毎日、祈り続けていた。城下町で、もう世継ぎは生まれないだろうって、皆が噂しても。ずっと一人でロザリー伯母様のために祈っていた。王子様が生まれた時、本当のことは誰にも分からないけれど、きっと母様の祈りが通じたって、私は信じてる――」


#3へ続く

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