第4話 ひとすじの光 #1

プレシーズン 第4話 ひとすじの光 #1


■ー城 ミレーネ姫の部屋 続き


〈姫とポリーがベッドに座っている。ポリーが姫の手を取り、自分の耳のピアスを触らせる。姫の、もう一つの手は首飾りのヘッドに触れている。〉


【ミレーネの回想: 誕生日の夜 祝宴で会ったポリーの姿。】


ミレーネ「ピアスの石の色は白でしたわね」


ポリー「わあ、姫様は記憶力がいいですね。このピアスが、なぜ不思議かというと――〈ポリーの声はフェイドアウトしていく〉」


ミレーネ(心の声) 「何かしら、この……手にとるように記憶がよみがえる感じは?昔から物覚えは良かったけれど、ここまでではなかったはず。まさか、これも首飾りの力なの?」


【ミレーネの回想: 誕生日の夜 医務室で意識が朦朧もうろうとしたまま、苦しんでいた姫の耳元にささやきかけたタティアナ。

『姫様、誰にも首飾りの秘密を話してはなりません』 】


ミレーネ「〈はっとして〉タティアナ!」


ポリー「姫様?」


ミレーネ「ああ、御免なさい。ちょっと考えごとをしてしまったわ。それで、あなたの石はどんな風に不思議なの?」


ポリー「えっと、もともと母様が持っていた首飾りに六つの石がついていたのを、家族で分け合って身に着けています。それで、それぞれが持っている石を、他の石にくっつけると、青く光り輝いて、すっごく綺麗なんです」


ミレーネ「ああ、私もお母様から聞いたことがあるわ、ナタリー伯母様の首飾りのこと」


ポリー「えっ、お妃様から?」


ミレーネ「ええ。離れていた石が出会って、また輝きを放つ……。とても素敵ねと、お母様と語りあったことを思い出しましたわ。でも、今、石は六つと言ったかしら?確か、私の記憶では、石は八つよ」


ポリー「母が一つ、ジュリアスが一つ、私とアンはピアスなので二つずつだから、全部で六つですけど?」


〈そこへ灯りを持ったジェインが入ってくる。〉


女官ジェイン「あらあら、ポリー様?」


ミレーネ「ジェイン」


ポリー「ジェインさん」


女官ジェイン「お手洗いに行きましたら、この風で窓が開き、棚の花瓶が落ちて割れてしまっていたのです。すっかり手間取って、戻るのが遅くなりました。さあ、ポリー様はお部屋に帰りましょう。しばらく扉を開けておきますね。どちらの部屋も私が見張っていますから、お二人とも安心してお休みください」


ポリー「おやすみなさい」


ミレーネ「おやすみなさい、ポリー。また、明日ね」



■ー城 ミレーネ姫の部屋 薄暗い中


〈ベッドに横たわっているミレーネ姫。〉


ミレーネ「〈首飾りを触りながら〉牢に連れて行かれる前に確かにタティアナが伝えてくれた言葉。あれは夢じゃないわ。この首飾りに持ち主を守る力があるという言い伝えは皆、知っている。でも、それ以外にも、この首飾りには秘密があって、タティアナはとても気にかけているのね。そんな気がするわ」



■ー城 ジュリアスの部屋


ジュリアス「〈寝返りを打ちながら〉ああ、風の音が気になって、ちっとも眠れない――」



■ー城 牢屋


〈風の音で目を覚ますタティアナ。隣りで、さきほどまで同じように拷問を受けた痛みに耐えながら、横になっていたアイラがいない。〉


女官タティアナ「アイラ?〈少し体を動かすだけで〉うっ、痛い」


〈それでも、そっと体を動かし、向きを変え、暗い中、目を凝らすと、紐をかけて首を吊ろうとしているアイラの後ろ姿を見つける。〉


女官タティアナ「アイラ、いけません!〈叫ぶ〉」


女官アイラ「〈はっとして振り向き〉タティアナ様――」


〈タティアナは、這ってアイラの元に行き、その足にすがりつく。泣きながら、座り込むアイラ。タティアナがアイラを抱きしめる。〉


女官アイラ「苦しみも哀しみも痛みも、ただ消えて欲しくて。もう限界なのです」


〈頷くタティアナ。〉


女官タティアナ「この辛さは私にも耐え難いものになってきています。老いた身には、特にこたえますよ。それでも命果てるまで耐え忍ぶつもりです。私達は無実なのですから」


女官アイラ「無実だからこそ、余計に悔しくて、どうにかなりそうです!」


女官タティアナ「私は無実である限り、いつか必ずゆるされる時が来ると信じています。汚名を晴らして姫様と再びお会いする、その日まで何があっても生き延びなくては。私には、姫様に直接お伝えしなければならないことがあるのです」


女官アイラ「タティアナ様」


女官タティアナ「アイラ、あなたにも生き抜く大切な責任があるはず。もう一つ、守るべき大事な命があるのでしょう?」


女官アイラ「気付いていらしたのですか?」


〈タティアナは頷き、すすり泣くアイラの背中を優しくさする。〉


女官タティアナ「さあ、横になって。あなたが落ち着いて、眠りにつくまで、こうしていますよ」



■ー城 ミレーネ姫の部屋 朝


〈廊下の方から壁時計の七時を告げる音が聞こえてくる。窓の外は強風が止み、穏やかな青空が広がる朝の様子。鳥のさえずりも聞こえてくる。ベッドの中で聞いている姫。〉


ミレーネ「昨日までは、ただ混乱していたけれど、こうして落ち着いてみると、感覚が、ええ、そう、音や気配、皮膚に触れる質感や温度、匂い、そういったものに前より私自身、敏感になっている気がするわ。〈つぶやき、顔を上げて〉今朝は一段と冷え込みが増してきているわね」


〈ベッドからそっと降り、近くの窓のところまで、恐る恐るゆっくりと歩み寄る。手探りで、カーテンを開ける。首飾りのヘッドを握りしめ、集中するかのように下を向く。〉


ミレーネ「もう、私には朝のさわやかな景色や美しい青空、朝日の昇る様子も見ることは出来ない。でも――〈顔を上げる〉」


【ミレーネ姫の記憶: 窓の外の美しい朝。】


ミレーネ「私は鮮明に思い出すことが出来るわ。この首飾りの、不思議な力で。ええ、この首飾りの秘密を解き明かし、事件の真相に近づくことが、これから私がすべき大切なことなのですね、お母様、タティアナ……」


〈朝日を浴びて凛と立つ姫の姿。しばらく、日差しを感じた後、そろそろとベッドに戻り、サイドテーブルの呼び鈴を高らかに鳴らす。呼び鈴の音に気付き、部屋に入って来るジェイン。〉


女官ジェイン「姫様、お目覚めですか?お早うございます。ご気分が少し良くなられたようですね。安堵いたしました」


ミレーネ「ええ、ジェイン、もう大丈夫よ。朝食に何か頂くわ。その後、王様にお目通りをしたいの。支度を手伝って頂戴」



■ー城 王の部屋


〈王の部屋に姫が女官ジェインに手を取られ入って来る。ジェインは下がって待つ。〉


ミレーネ「お父様、お早うございます」


王様「姫、気分はどうじゃ?」


ミレーネ「はい、食事も出来ましたし、もう大丈夫です。お父様にはすっかりご心配をかけてしまって本当に御免なさい」


王様(心の声) 「目が見えなくなっても、けなげに振る舞っている我が娘よ、ああ……」


王様「妃と姫をこんな目に合わせた者を必ず捕まえる。待っていておくれ」


ミレーネ「そのことでお父様に一つお願いがございます」




■ー城 王の会議室


〈大臣、重臣、近衛隊長、近衛副隊長、近衛ウォーレスなどが集まっている。〉


王様「その後、進展は?」


近衛隊長「範囲を広げまして手掛かりを探しているのですが、まだ何も……。申し訳ございません」


王様「外事大臣、城の内部の調べはどうなっている?」


外事大臣「城内で怪しい動きをする者がいないか、目を光らせておりますが、今のところ、不審なことは全くございません」


王様「待っているだけでは事は解決せぬぞ!」


外事大臣「牢にいる女官二人を何とか吐かせようとしているのですが、ただ無実を訴えるばかりで」


〈王の目がぎろっとなる。〉



■ー【王の回想: 王の部屋 今朝 】


【回想:〔王とミレーネが話している。〕


王様『何?タティアナとアイラが拷問されているのではと?』


ミレーネ『はい。二人は重要参考人、取り調べは大切と分かっております。ただ、拷問されていないかどうかだけ、確かめて頂きたいのです』


王様『犯人である可能性が高いのだぞ。憎くはないのか?』


ミレーネ『二人が本当に犯人と明らかになったら、その時はすべてをお任せします。〈毅然きぜんとした態度で言い続けて〉どんな刑になろうとも。でも、まだ、何も真相が分からない今は、痛めつけることだけは、どうかお父様のお力で止めて下さい。タティアナ達はお母様の次に親身になって私を育ててくれた大切な人達なのです』】



#2へ続く

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