第3話 闇の訪れ #4

第3話 続き #4


■ー城 姫の部屋


〈じっとしたまま、ドアを開けてしまったポリーの騒ぎを聞き、うっすらと見えない目を開ける姫。〉



■ー城 武法所 取り調べ室


〈タティアナとアイラがそれぞれ痛めつけられている。〉



■ー城 牢屋


〈痛めつけられたタティアナとアイラが抱えられるようにして連れてこられる。牢に倒れ込むように入り、そのまま動けない二人。〉



■ー〈情景〉


〈月もなく暗い森。そこへ嵐のような風が吹き、森がザ―――、ゴ――と悲鳴を上げる。〉



■ー【姫の悪夢】


【悪夢:〔横たわっているタティアナとアイラ。そこに誰かの手が伸び、グラスに入った飲み物を置く。『王様からの差し入れです』という、若い男の低い声。タティアナとアイラはよろよろと手を伸ばす。〕】



■ー城 ミレーネ姫の部屋


〈うなされながら眠っている姫。〉


ミレーネ「〈声にならない声で苦しそうに〉毒よ、飲んじゃダメ!〈声を振り絞って〉タティアナ!アイラ!」


〈自分の声ではっと目が覚め、ベッドにガバッと起き上がる姫。〉


ミレーネ「ジェイン!ジェイン!」


〈姫の鼓動が早くなっている。隣りの部屋からジェインの返事がない。代わりにすすり泣く声が聞こえる。〉


ミレーネ「〈つぶやくように〉誰か、泣いている?」


〈ミレーネ姫は手探りでベッドを降り、壁伝いに、隣りの部屋に通じるドアの所まで行き、そっと開ける。少し大きく聞こえるようになる、ポリーのすすり泣き。〉


ミレーネ「ジェインはいないの?」


〈真っ暗な部屋で泣いていたポリーは、泣くのを止め、顔を上げる。隣りの部屋から明かりが漏れていて、姫がドアの所にいることに気付く。〉


ポリー「姫様」


ミレーネ「あなたはポリーね」


ポリー「起こしてしまって御免なさい。灯りを枕元に置いて、ジェインさんと一緒に寝たのに。風の音で目が覚めたら、ジェインさんはいないし、灯りも消えてしまって真っ暗闇だったのです」


ミレーネ「そう、あなたの部屋は真っ暗なの。私の部屋は明るいのかしら?私には分からないけれど」


ポリー「はい、ここより少し明るいです」


ミレーネ「じゃあ、こちらにいらっしゃい。私がベッドに戻るのを手伝ってくれる?」


ポリー「はい、姫様」


〈ポリーは、そろそろと姫の所に行き、姫をベッドに連れて行く。姫をベッドに座らせ、姫の手を握ったまま、自分も姫の隣りに座る。〉



■ー【ポリーの回想 昨日の夜】


【回想:〔昨日の夜 城下町 民政大臣の家 ポリーの部屋 ナタリーとポリーがベッドに腰掛けている。〕


ナタリー『ポリー、目をつむってごらんなさい』


〔目をつむるポリー。〕


ナタリー『ミレーネ姫は、突然この闇の世界に放り込まれ、今もずっとこの真っ暗な中にいるの』


ポリー『私、何だか息苦しくなってきちゃった。ただ、じっと目をつむっているだけなのに』


ナタリー『そうなのよ、目だけじゃない、喉も心も一度に閉ざされた感じがするでしょう?だから、〔ポリーの手を取って〕ポリーが側にいて、ミレーネ姫の手を握ってあげて欲しいの。一緒にここにいるから、怖くないのよって』】



■ー城 姫の部屋 再び


〈薄明かりの中で姫を見るポリー。〉


ポリー(心の声) 「母様、私がしっかりしなくちゃいけないのに、姫様が怖くないよって手を握ってくれている。反対になっちゃった」


〈その時、外で、また風がごおーっと吹き荒れ、思わずポリーはびくっとする。姫がそのことに気付く。〉


ミレーネ「お城に来たこと、後悔してる?」


ポリー「〈慌てて〉いいえ、ちっとも。今まで中々会えなかったけれど、従姉妹だから、こうして姫様に会いたかったのです。これから一緒に話したり遊んだりしたいです」


ミレーネ「ええ、そうね。実は二人が来てくれて心強いのよ。こんなことになって、周りの大人は皆、信じられなくなりそうだったの。頼んでも会いたい人にも会わせてくれなくて――〈思わず泣きそうになる〉」


ポリー「会いたい人って――〈と言い掛けて〉あっ、姫様、ここで何か光ってる!」


ミレーネ「えっ、どこかしら?」


ポリー「姫様の首飾り、ほら、ここです」


〈つないでいた手をそのまま、姫の首飾りの石の所に持っていき、手をその上に乗せる。その途端、ミレーネの脳裏に、亡くなったお妃の優しい笑顔が生き生きと蘇る、とてもカラフルなイメージ。そして、はっきりと声が聞こえる。〉


妃の声のみ「ミリアム王子をお願いね」


ミレーネ「〈思わず〉お母様!」


ポリー「えっ?」


〈驚いているポリーをそのままに、姫はポリーと繋いでいる手を、一度、首飾りから下ろし、ポリーの手も離す。もう一度、今度は、自分の手だけで、首飾りのヘッドである石を触ってみる。その途端、また、妃の鮮明なイメージが脳裏に蘇る。愛おしそうに姫に笑いかけてくる妃。そして、また、はっきりと聞こえる声。〉


妃の声のみ「首飾りが貴女を守り続けるわ。タティアナとアイラを信じてあげて頂戴」


ミレーネ「〈泣きながら、つぶやくように〉ええ、そうよ、そうよね、お母様」


ポリー「〈姫の様子に驚いて〉大丈夫ですか?」


ミレーネ「〈泣き顔の笑顔で〉ポリー、有難う。あなたのお陰よ。もう一度、お母様に会うことが出来たの」


ポリー「えっ、〈キョロキョロして〉まさか、幽霊?」


ミレーネ「〈首を振り〉幽霊じゃないわ。言葉で説明するのは難しいけれど。とにかく有難う、ポリー」


〈もう一度ポリーを抱きしめるミレーネ姫。〉


ポリー「うーん、私にはよく分からないけれど、でも、とにかく!姫様が喜んでいるから良かったです」


ミレーネ(心の声)「今までは、この首飾りを恨んで、こうして触れてみることもしなかったわ。ああ、お母様は側にいて下さるのね」


ポリー「〈その姫の様子を横から不思議そうに見て、また首飾りに目をやり〉本当に綺麗な模様の石!あっ、でも、私も不思議な石のピアス※を持っています。〈姫の手を取り、耳を触らせ〉ほら、ここに」



第3話 終わり


※作者注:ポリーのピアスの石は、ナタリーの首飾りについていた石の中の二個を、ピアスように加工したものです。


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