第3話 闇の訪れ #1

プレシーズン 第3話 闇の訪れ #1


■ー城 王の部屋


〈王と民政大臣が向き合っている。〉


王様「〈頭を抱えて困りながら〉姫をどうしたものか……」



■ー【民政大臣の回想 数時間前】


【回想:〔文法大臣の執務室で、文法大臣と民政大臣が話している。〕


文法大臣『――しかし、宜しいのですか?今まで親族でありながら、民政大臣は縁故を嫌って、王家との関わりを極力避けておいでだったでしょう?』


民政大臣『はい。私の家族が、ずっと城との距離を置いてきたのも事実です。ご存知の通り、妻であるナタリーは私との結婚前に少し面倒なことに巻き込まれたことがあったものですから。しかし、私たち家族の個人的な感情よりも、今は王家を支えることが何より大切なことではないかと……』】 



■ー城 王の部屋 再び


民政大臣「王様、私から一つ提案させて頂いても宜しいですか?」


王様「申してみよ」



■ー城下町はずれ 橋のそば


〈橋に近付くポリーと白杖の女の子。〉


ポリー「もうすぐ橋ですよ。〈白杖の女の子にささやく〉」


〈うなずく女の子。町の用心組が橋で通行人の検問をしている。少し騒がしい。〉


白杖の女の子「この辺りが騒がしいようですが、何かあったのですか?」


ポリー「昨日お城で事件があったこと、知らないですか?」


白杖の女の子「〈つぶやくように〉事件……」


〈白杖の女の子は、さりげなく、ポリーが腕を組んできている側の手を、そっと懐に入れる。そして、さらにポリーに寄り添う。〉


ポリー「橋の所で犯人を捜しているみたい。〈耳打ちして〉あそこに、兄の友達がいます」


ジュリアスの友人マリオ「あっ、ジュリアスの妹さん」


ポリー「こんにちは」


マリオ「用心組が検問を手伝うよう、近衛隊から頼まれたのですが、手が足りぬと僕まで借り出されて。〈ポリーの横にいる女の子を見て〉こちらは?」


ポリー「〈小声で〉目が不自由な人。私が道案内しているところよ」


〈そこへ外事大臣の息子で武官見習いのアリがやって来る。マリオとポリーが話しているのを見る。〉


アリ「〈マリオに〉しっかり検問しているか?この非常時に、ニヤニヤして、話している暇などないぞ」


マリオ「そんなんじゃないよ。〈慌てて、ポリーと女の子に〉気を付けて」


ポリー「有難う。〈白杖の女の子に〉さあ、行きましょう」


〈検問の人達の声がする方向に向かって会釈する、白杖の女の子。ポリーと一緒に橋を渡って行く。〉



■ー〈情景〉


ひなびた、隣村に近い辺りを、ポリーと白杖の女の子が腕を組み、歩いて行く。〉



■ー城下町はずれ 橋


〈検問をしている人達に、何だかんだ指示しているアリの姿。〉


用心組の若者「あいつ、大臣の息子だからって、偉そうに指図するばかりだよな」


ジュリアスの友人マリオ「大臣の息子でも、ジュリアスみたいに、いい奴もいるんだが――。〈ちょっと考えて〉それより、この城下町に、目の不自由な女の子がいるか知っているか?」


用心組の若者「さあ、どうだったかな?あっ、また、次の検問に、多勢やってきたぞ。そろそろ、買い物帰りが増えてきたな」


〈次々と来る人々に対応する用心組の人達。〉



■ー隣村への分かれ道


ポリー「隣村は、もう、ちょっとです。ここまでで大丈夫ですか?」


白杖の女の子「はい、お世話になりました。有難うございました」


〈白杖の女の子と別れ、来た道を走って戻っていくポリー。その後ろ姿に頭を下げ、しばらく、じっと立っている白杖の女の子。ゆっくりと顔を上げ、ポリーの走って行った方向を見てから、次に辺りをぐるっと見回して誰もいないことを確認する。実は盲目の振りをしていただけである。〉


女の子「都合のいい人に出会えたこと……〈つぶやく〉」


ふところに手を入れ、短剣を出す。〉


女の子「〈その短剣を手でクルクルと回しながら〉出番はなかったわね」


〈短剣を腰に差す。頭巾を取り出し、頭から被る。手にしていた白杖の柄の部分を掴み、しっかりと持ち直し、疾風のように走り去る。〉



■ー城 ミレーネ姫の部屋


女官ジェイン「姫様、今夜がお妃様とお別れする最後の機会です。私につかまってお立ち下さい。お妃様が安置されていらっしゃる礼拝堂までお連れ致しますから」


ミレーネ「嫌よ。私は、お母様のお顔も見ることが出来ないのに、お別れなんて、どうしたらいいの」


従者ボリス「姫様、本当に行かなくて宜しいのですか?」


ミレーネ「行ってどうするの?冷たいお母様にさわれと言うの?私の身代わりになったお母様に何を伝えればいいの?私の、この気持ちなんて誰にも分からないわ。〈うわあーと声を上げて泣き出す〉」


女官ジェイン「姫様、落ち着いて下さい」


〈泣き叫んでいる姫。〉


女官ジェイン「〈ボリスに向かって〉早く医官を!」



■ー城下町 民政大臣の家 ナタリーの部屋


〈ベッドで横になっているナタリー。目は閉じていない。〉



■ー【ナタリーの回想 約20年前】


【回想:〔約20年前。ナタリーの実家。父、母、ナタリー、ロザリーがいる。〕


父『我が家の家宝と言えば、お前たちの母が大切にしている首飾りのみ。母方の先祖代々受け継がれた、この首飾りは持ち主を守る力があると伝えられている』


母『ロザリーは体が弱いことだけが心配ですわ。この首飾りは、王家に嫁ぐロザリーに授けることにしましょう』


ロザリー『ナタリー姉様が長女ですのに――』


ナタリー『いいのよ、ロザリー。あなたが持つ方がふさわしいと私も思うわ』


〔ロザリーの首に掛けられた首飾り。〕


ロザリー『有難うございます』


母『代わりに、あなたには、これを』


〔ナタリーの首に掛けられた別の首飾り※。〕


ナタリー『これは?』


〔首飾りには八個の白い石がついている。ナタリーの首に掛けられた首飾りに手を伸ばした母が、一度、八個の石の間に、それぞれ隙間が出来るように少し離す。そして、手を離すと、再び八個の石がくっつき、その途端、石が青色に輝く。その、まばゆい青。〕


ナタリー『まあ……』


〔皆が微笑む。〕】 



#2へ続く


※作者注:亡きロザリーからミレーネ姫に贈られた首飾りに前半スポットが多く当たりますが、このナタリーがもらった首飾りの方も、この物語で大きな意味を持ちます。そのため、二つの首飾りを指して、タイトルが「妃家の首飾り The pendants of Queen’s family」と覚えておいて頂ければと思います。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る