第2話 悲劇の幕開け #3

第2話 続き #3


■ー城 王の会議室


〈三人の大臣、数名の重臣、近衛隊長、副隊長、近衛ウォーレス、従者ボリスなどが集まっている。〉


王様「〈沈痛な面持ちで〉何か分かったか」


近衛隊長「城の外まで、しらみつぶしに調べましたが、犯人の手掛かりも行方も分からず申し訳ございません」


外事大臣「昨夜、事件が起こった時、城にいた客、楽団員、使用人すべて怪しい者はいないか、朝までに確認しましたが、それらしき者は誰も見当たりませんでした」


王様「誰か、必ず、城の中に手引きした者がおるはずじゃ!」


〈皆が不安げに顔を見合わせる。〉


外事大臣「確認した者達は、すべて居所を把握しておりますので、再度、入念に

調べを続けて参ります」


王様「飲み物を運んだ女官と、飲み物を渡した女官は身柄を拘束しているのか?」


文法大臣「はい、牢に入れて取り調べておりますが、二人とも全く何も知らぬまま、事件に巻き込まれたかと思われます」


王様「何も知らなかったでは済まされぬ!妃は命を落とし、姫は光を失ったのだ。〈全員の顔を睨みつけながら〉警護に不行き届きがなかったと、皆、言い切れるのか!」



■ー城下町 民政大臣の家 居間


〈ソファーに座るナタリー、ジュリアス、ポリー。〉


ナタリー「〈苛々いらいらした調子で〉お城から、まだ連絡は来ないの?」


〈首を振るジュリアス。〉


ポリー「お妃様もミレーネ姫もきっと大丈夫。神様が見放すはずがないから!」


〈母ナタリーの手を握るポリー。そこへ城からの使いがやって来る。〉


使いの者「民政大臣からの伝言です。お妃様がお亡くなりになられました。明日の葬儀に出席する準備をしておくようにとのことです」


ナタリー「ああ、まさか、そんな……」


【ナタリーの昨日の夢: 嵐の中で見失ったロザリー。最期に聞いた『姉様……』の声。】


ジュリアス「〈使いの者に〉ミレーネ姫はご無事なのですか?」


使いの者「一命はとりとめられたのでございますが、残念なことに失明してしまわれました」


ポリー「えっ、失明?」


〈気を失うナタリー。〉


ジュリアスとポリー「母様!」



■ー城 姫の部屋


茫然自失ぼうぜんじしつで座っている姫。女官ジェインが食事のトレイを下げている所に、王と民政大臣が入って来る。〉


女官ジェイン「王様。〈頭を下げる〉」


〈食事がほとんど残っているトレイを見る王。〉


王様「口にせぬのか?」


女官ジェイン「はい」


ミレーネ「〈声を聞き〉お父様なの?」


〈王は姫の側に行き、その手を握る。〉


王様「姫、よく目覚めてくれた」


ミレーネ「お母様は?タティアナは?どうして、二人とも私のところに来てくれないの?」


〈王は、黙ってミレーネ姫の肩を抱き寄せ、背中をさする。そして、思わず、少し嗚咽おえつしてしまう。〉


ミレーネ「お父様?〈体を離し、見えない目で王の方を向きながら〉お母様はお亡くなりになったのね?皆、黙っているけれど、そうなのでしょ?ああ、お母様!〈泣き崩れる。悶えながら、手が首飾りに触れる。〉この首飾りのせいだわ、私の代わりにお母様が!」


〈首飾りを引きちぎろうとする姫を止める王。〉


王様「ミレーネ姫よ、母の思いを無駄にしてはならぬ」


女官ジェイン「〈側から〉姫様、どうか落ち着いて下さいませ」


ミレーネ「ああ、お母様。じゃあ、タティアナはどこ?タティアナに会わせて――。タティアナに――〈泣く〉」


王様「姫や、タティアナは当分ここに来られないのじゃ」


ミレーネ「……まさか、牢に入れられているの?」



■ー城 文法大臣の執務室


〈民政大臣が入って来る。〉


民政大臣「今、宜しいか?」


文法大臣「ああ、民政大臣、どうぞ。祝宴から一転、まさか、こんなことになるとは――。姫の心の痛手を考えると悩ましいものですな」


民政大臣「実はそのことで相談があり、参りました」


■ー城下町 道


〈ポリーが買い物用の袋を持って歩いてくる。〉


ポリー「母様に少しでも何か食べさせて元気になってもらわなくちゃ!」



■ー城下町 八百屋


ポリー「あの、これとこれ、下さい。〈お金を渡す〉」


店主「はい、どうも。お釣りね、ちょっと待って」


〈勘定し、ポリーの袋に品物を入れ、お釣りを渡す間、別の客と、城の事件の噂話に夢中の店主。ポリーも思わず皆の噂話に耳を傾けるが、みるみる、その顔が怒った表情になる。〉



■ー城下町 道


〈声に出して怒りながら歩いているポリー。〉


ポリー「何なの、あの支離滅裂な噂は!まだ、真相が何も分かっていないのに、勝手な話をでっち上げて!」


〈その時、ふと前を見ると、白杖をついた若い女の子が、足元がおぼつかない様子で、フラフラ歩いていることに気づく。そこへ馬車が勢いよくやって来る。〉


ポリー「〈はっとして〉危ない!」


〈白杖の女の子は器用によけ、立ち止まり、馬車が通り過ぎる音をじっと聞き、ポリーの声の方向に向き直る。可愛いというより、大人びた美しい顔立ち。〉


白杖の女の子「その声は若い方ですね。有難うございます」


ポリー「大丈夫でしたか?」


白杖の女の子「ええ。これから、隣村の親戚を訪ねて行くのですが、村へ向かう橋は、この先でしょうか」


ポリー「はい。でも、誰か一緒に行ってくれる人は?」


白杖の女の子「いつもは父と行くのですが、あいにく熱を出し、私一人で参ります」


ポリー「えっ、それは大変!私も途中まで同じ方向なんだけど……。いいわ、橋を渡って、村の別れ道まで送ります。そこから、隣村へは一本道まっすぐだから」


白杖の女の子「ご親切に、有難うございます」


〈ポリーは白杖の女の子に近づき、杖を持っていない方の手を取り、自分の腕につかまらせる。寄り添って歩き出す二人。〉



第2話 悲劇の幕開け 終わり



作者注: ミレーネ姫とポリーと白杖の少女のイラストが近況ノートにあります。

2021年9月26日 ミレーネ姫、9月29日 ポリー、10月20日 白杖の少女です。

宜しかったらイラストでよりイメージを鮮明にして頂ければと思います♬。


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