第2話 悲劇の幕開け #2

第2話 続き #2


■ー城下町 民政大臣の家 居間 現在


〈ソファーでうなされ続けているナタリー。回想と現実が夢の中で重なり合っていく。〉



■ー【ナタリーの夢と現実の間】


【ナタリーの夢の中:〔約20年前の城内で女官、侍従、近衛、侍女達が噂している声が響く。〕


声 その1『近々、王様が薔薇姉妹を城にお呼びするとの話は?』


声 その2『文官と噂になった姉は当然、論外だね。妹だけが招かれるらしいよ』


声 その3『恋仲の二人を割くことはないと、王様がお許しになったとか。誠に心が広いお方だよ』


〔王とロザリーが仲睦まじく手を取り合う姿。ますます、夢と回想が混じりあい、だんだんと霞んでいってしまう。〕


王の声のみ『〔遠くから聞こえるような感じで〕聞きしに勝る美しさだ。清楚で可憐でけがれを知らぬ――』


〔王と共に歩き出し、霧の中に見えなくなっていく妹ロザリー。その姿に声を掛けるナタリー。〕


ナタリー『ロザリー!』


ロザリー『〔振り向く姿が霧の中にぼんやりと浮かんだまま〕ナタリー姉様……』


〔抱き合おうと、いったん、ロザリーがナタリーの方へ戻りかけ、その姿が霧の中から現れそうになった時、手を伸ばしたナタリーとロザリーの間が、突然、真っ暗になる。そこへ激しい雷が落ち、ロザリーは顔をそむけながら地面にひざまづく。嵐のような雨と風が吹きつけ、びしょ濡れで顔を上げるナタリー。〕


ナタリー『ロザリー?』


〔目をらしても、ロザリーのいた場所は暗く何も見えない。闇の遠くから、微かに聞こえる声。〕


ロザリー『姉様……』】



■ー城下町 民政大臣の家 居間


〈はっとソファーで目を覚ますナタリー。ジュリアスが窓のカーテンを開けて、外の様子を見ている。仄暗い中、ナタリーにも、外の嵐の様子が分かる。また、雷が落ち、閃光と轟音。その閃光の中にくっきりと浮かび上がる城の輪郭りんかく。〉



■ー城 医務室


痙攣けいれんして苦しみ出す妃。〉


医官や女官「「お妃様!」」


〈少し口から血を吐き、息絶えるロザリー。姫に付き添っていた女官タティアナも妃のもとへ走り寄る。〉


女官タティアナ「まさか、そんな――ああ、お妃様!〈泣き崩れる〉」


〈文法大臣が近衛と共に入ってくる。〉


医官「〈文法大臣に〉お妃様がお亡くなりになられました」


文法大臣「なんと……」


医官「手は尽くしましたが残念です〈首を振る〉」


〈文法大臣が憔悴しょうすいしきっているタティアナに近付く。〉


文法大臣「お妃様が亡くなられた今となっては、いくらお妃様や姫様が信頼していた女官といえども、もはや、これ以上のかばい立ては出来ぬ。重要参考人として牢に拘留こうりゅうする」


女官タティアナ「私は本当に何も身に覚えがないので御座います」


〈近衛が腕を取り、部屋の外へ連れて行こうとする。〉


女官タティアナ「お待ち下さい。もう一度だけ、姫様のお加減を」


〈側に行き、眠っている姫の耳元で何か言いながら、姫の様子をもう一度確かめる。近衛の元に戻り、付き添われて、部屋を出る。〉



■ー城 牢屋


近衛「こちらへ」


〈牢に入るタティアナ。先に中に入れられていたアイラが気づく。〉


女官アイラ「タティアナ様まで!なぜ、こんなことに――。一体、誰が、こんな恐ろしいことを!」


〈二人、抱き合い、泣くアイラ。〉


女官タティアナ「真実は必ず明かされると信じましょう。身の潔白が証明されるまでの辛抱ですよ」



■ー城 王の部屋


〈蠟燭の明かりのみで薄暗い中、座っている王。その側に、少し離れて立つ民政大臣と、王様付きの侍従。そこへ文法大臣が入ってくる。〉


文法大臣「王様。残念ながら、お妃様がさきほど、お亡くなりになられました」


王様「〈がっくりして〉まことか。姫は?姫の容態は?」



■ーどこか知られぬ場所 洞窟


〈岩壁に映る影が三つ、揺れている。顔は見えない。影と声のみ。〉


影の隠密「ついに我々の計画が動き始めました」


影の人「痕跡は何も残していないのだな?」


影の隠密「血眼ちまなこになって探しているようですが、この先も何も分からないでしょう」


影の人「このためにどれだけの年月を待ち続けてきたことか。良いか、決して焦って策をしくじってはならぬ。一つずつ手抜かりなく事を進めてゆくのだ」



■ー〈情景〉


〈城に嵐吹く様子。〉



■ー城 牢屋


〈祈るタティアナ。〉


【タティアナの回想: 苦しんでいるミレーネの胸で、ペンダント・ヘッドの石の内側がぼおっと8の字の形に光る。それを見たタティアナ。】


女官タティアナ(心の声)「持ち主を守る力がある首飾り。どうか姫様をお守り下さい。命と引き換えに、お亡くなりになったお妃様のためにも……」


〈その横で不安そうに怯えているアイラ。〉



■ー城の医務室 朝


〈窓の外には嵐の後の青い空。部屋に差し込む光。聞こえる鳥のさえずり。姫の耳に遠くから人々の声が「姫様」「姫様」「熱は下がったようです」など聞こえる。眠っていた姫。少し、ううんと声を出す。〉


医官「姫様」


〈ぱちっと目を開けるミレーネ姫。〉


医務室にいる人々「〈喜び合いながら〉姫様が目を覚まされた!ご無事で良かった!」


〈天井を見つめたまま動かない姫。その様子を不審に思い、声をかける医官。〉


医官「姫様?」


ミレーネ「〈恐る恐る〉タティアナはそこにいるの?」


女官ジェイン「姫様、タティアナはただ今、別の場所におります。〈姫を覗き込みながら〉ご気分はいかがですか?」


ミレーネ「その声は、ジェイン?お母様はどこ?今はまだ夜なの?真っ暗で――何も見えない――」


〈その言葉に凍りつく人々。〉




#3へ続く


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る