第2話 悲劇の幕開け #1

第2話 悲劇の幕開け


■ー城の外


松明たいまつを持って走り回る近衛達の姿。〉


外事がいじ大臣「曲者はまだ見つからぬのか?」


近衛隊長「この闇夜です。もう森まで逃げて、そこに潜んでいるかも知れません」


近衛ウォーレス「そのまま城下町に紛れ込めば、捕まえることは難しくなってしまいます」


外事大臣「何としてでも見つけるのだ!」



■ー城内 王の部屋


〈明かりを落としている。王と民政大臣が座っている。王の侍従が側に控えている。文法大臣が入ってくる。〉


王様「どうなっている?」


文法大臣「城の内外すべてを、外事大臣が指揮を取り、近衛隊が総出で捜索にあたっております」


王様「妃と姫は?」


文法大臣「お二人とも高熱で意識が朦朧とした状態です」


王様「医官は何と?」


文法大臣「今はただ最善を尽くすのみと申しております」


王様「瓶の飲み物には毒はなかったのだな」


文法大臣「はい。先ほど、別の女官が再度、毒味をいたしましたが、無事でした。後は、飲み物を注いだグラスが怪しいと思われますが――」


王様「何か手掛かりはあったか」


文法大臣「申し訳ございません。お倒れになった時、手から落ちたのでしょう。あの騒ぎの中、駆け付けた者達に踏みつけられ、粉々になっておりました」


〈王はもう分かったと手で合図し、うなだれ焦燥した様子。文法大臣は王に頭を下げ、退出しようとし、民政大臣に近付く。〉


文法大臣「〈小声で民政大臣に〉廊下で、ご家族がお待ちです」



■ー城 王の部屋の前 廊下


〈民政大臣、廊下に出て来る。駆け寄るナタリー、ジュリアス、ポリー。〉


ナタリー「あなた!」


ジュリアスとポリー「「父様!」」


ナタリー「ロザリーは?ミレーネの様子は?どうなの?二人は大丈夫なのでしょうね?」


民政大臣「静かに。ここは王様の部屋の御前おんまえということを心得ぬのか」


ナタリー「私にとって妹と姪なのよ。毒を盛られたなんて――。お願い、一目会わせて!〈泣き叫ぶ〉」


民政大臣「取り乱すでない。お妃様とミレーネ姫は、私どもの親族である前に、王家のお方であることを忘れるな。それは、お前が一番肝に命じていたことではなかったか。〈廊下にいた近衛の一人に〉申し訳ないが、この3人を家まで送ってもらいたい」


近衛「かしこまりました」


民政大臣「〈ジュリアスに〉母と妹を頼んだぞ」


〈頷くジュリアス。近衛に従い、倒れそうな母を抱えて、ポリーと歩き出す。〉


ナタリー「〈振り返りながら〉ロザリー、私の妹!ああ、ミレーネ……」


〈少し歩いたところで、そっと後ろを振り向くポリー。ドアの前に立っている父・民政大臣の姿。そして、また、民政大臣は王の部屋に入っていく。〉



■ー城 医務室


〈妃と姫が、寝かされている。皆、心配そうに見守り、汗を拭いたり、脈をとったりしている。〉


ミレーネ「うーん、うーん〈うなされている〉」


〈ミレーネ姫の首には妃家の首飾り。〉


ミレーネ(夢の声)『苦しいよ、お母様、お母様……』


お妃様(夢の声)『ミレーネ、大丈夫よ、必ず貴女を守ってくれる……』


〈姫の首飾りの石の内側に光が8の字の形で、ぼおっと浮かび上がるのが、施された細工の隙間からかすかに見えている。〉


ミレーネ(夢の声)『お母様……』


お妃様(夢の声)『私の愛しい娘、ミレーネ……〈遠ざかっていく感じで〉』



■ー城下町 民政大臣の家 居間


〈ソファーに崩れるように倒れこんでいるナタリー。その、傍に付き添っているジュリアス。居間を覗くポリー。〉


ポリー「〈小声で〉ジュリアス」


〈母を気遣いながらドアの方へ来るジュリアス。〉


ポリー「母様は?」


ジュリアス「〈首を振る。〉さっきから夢と現実を行ったり来たりしているみたいだ。朝には医術師※の先生に来てもらおう」


〈頷くポリー。ナタリーはソファーで横になったまま、うなされている。〉



■ー【うなされているナタリーの回想  約20年前】


【回想:〔約20年前のナタリーの実家。若い美しい娘ナタリーとロザリー。二人を見つめる父と母。〕


父『私達の二人の娘は、まるで薔薇の花が咲き誇るように美しいと城下町の噂だ』


母『本当に。たとえて言うなら、ナタリーは深紅の薔薇。ロザリーはローズピンクの薔薇かしら』


父『王様が二人に会って一度話がしたいとおっしゃっている。貴族でも大臣でもない我が家には過ぎたお申し出だが、有り難くお受けするとしよう』


〔顔を見合わせて微笑むナタリーとロザリー。〕



***回想の中 数日後


〔同じく約20年前。城に近い石橋の陰。ナタリーと、若い武官(のちの外事大臣)が言い争っている。〕


武官(後の外事大臣)『ナタリー、深紅の薔薇よ、私はお前をどうしても手に入れたい。権力こそが男の証。王のように形式だけの力ではなく、いつか必ず真の力を握る私の元へ来るのだ』


ナタリー『嫌ですわ。無理強いする人など!それに、王様に対して武官ともあろう方が何て失礼な物言いですか!』


武官(後の外事大臣)『後悔は決してさせない。さあ。〔ナタリーの腕を掴む〕』


ナタリー『力づくなんて、卑怯です。ああ、誰か!』


〔若い文官(後の民政大臣)が走って来る。〕


文官(後の民政大臣)『武官殿、何をしておる!』


〔若い武官、手を離す。ナタリー、急いで、若い文官の後ろに隠れる。〕


文官『〔ナタリーに〕大丈夫ですか』


〔頷くナタリー。〕


武官『文官か。腕に覚えのない者が出しゃばるな』


文官『君こそ、王家に仕える武官の身で、女性にこんな真似をするなど、恥ずかしくないのか?』


武官『恋愛に恥も体裁もないさ。そんなことを気にしていたら、欲しいものは何も手に入らぬだろう。その女が望みだ。邪魔しないでくれ』


文官『私もこの女性が望みだと言ったら……』


〔文官の後ろで話を聞いていて、えっ?となるナタリー。そこへ近衛が橋を通りかかり、三人に気付く。〕


近衛『そこで何をしておる。やや、これは大臣付きの武官と文官ではないか。文官の後ろにいるのは!』】



■ー城下町 民政大臣の家 居間 現在


〈ソファーでうなされ続けているナタリー。心配そうに見つめるジュリアス。〉




#2へ続く


※作者注:医術師とは緑の国で一般人を診る医者のことである。



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