第1話 ミレーネ姫の誕生日 #3

第1話 続き #3


■ー城 薄暗いバルコニー 王妃殺害まで間もなく


〈バルコニーには所々に燭台があり、蝋燭が灯されている。バルコニーの椅子に腰掛ける二人。〉


ミレーネ「はあ。〈声に出してため息をつく〉」


お妃様「姫。〈優しく睨む〉」


〈笑顔を返す姫。城下町にたくさんの提灯ちょうちんや灯りが燈され、闇の中、街が輝いて見える。ミレーネ姫は思わず立ち上がり、バルコニーの手摺りに近寄る。〉


ミレーネ「見て、お母様、あの明かりを!」


お妃様「皆が貴女のことを祝ってくれているのですよ。こうして王家を民が慕ってくれているのは、暮らしが落ち着いている有り難い証。私達の、この緑の国は自然と気候に恵まれ、比較的豊かな生活が送れていますからね。でも、少し離れた青の国、白の国、灰の国では全く事情が異なっていることを知っておかなくてはいけませんよ」


ミレーネ「はい、お母様」


〈その二人の顔にいきなり花火の光が眩しく映える。急いで、手すりから乗り出して見るミレーネ姫。城下町の方角で次々花火が打ち上げられる。〉


ミレーネ「わあ!!」



■ー城 城下町


〈花火を見上げる人々。大人も子どもも口々に「姫様、万歳!姫様、万歳!」と言う。その声がこだまのように街中に広がっていく。〉



■ー城のバルコニー


〈民の歓声が姫の耳にも届く。妃も横へ来て、笑顔で頷く。天からの祝福を受けるかのように、花火の打ち上がる夜空に両手を大きく広げるミレーネ姫。〉



■ー城 祝宴会場 王妃殺害数分前


〈ずっと食べまくっているポリー。〉


ジュリアス「〈小声で〉食べ過ぎるなよ。恥ずかしいぞ」


ポリー「だって、どれもこれも本当に美味しい〜〜」



■ー城 バルコニー 王妃殺害直前


〈妃と姫から離れ、少し後ろに立っているタティアナ。そこへ女官アイラが来る。〉


女官アイラ「お妃様とお姫様に、王様から冷たいお飲み物でございます」


〈女官タティアナがアイラから受け取り、妃と姫に近付く。〉


女官タティアナ「冷たいお飲み物はいかがですか」


お妃様「有難う、頂くわ」


ミレーネ「有難う、タティアナ」


〈妃と姫は渡されたグラスに入った飲み物を飲む。その途端、急に苦しみ、倒れる妃と姫。手にしていたグラスが落ち、割れる。〉


女官タティアナ「お妃様!姫様!」


〈従者ボリスが駆け寄る。悲鳴を上げる女官アイラ。〉



■ー城 祝宴会場


〈凍りつく人々。客人と話していた民政大臣、振り向く。側にいたジュリアスとポリーを思わず引き寄せるナタリー。〉


王様「何事か!〈椅子から立ち上がる〉」


〈バルコニーに駆け寄る従者や近衛達。足下が薄暗い中で、落ちたグラスが踏み付けられる音。妃と姫を急ぎ、運び出そうとする。〉


女官タティアナ「アイラ、何を持ってきたのですか!」


女官アイラ「〈震えながら〉王様からの差し入れと渡されて――」


従者ボリス「すぐ医務室へお運びして医官を!」


〈タティアナは妃と姫に付き添っていく。祝宴会場から廊下へ駆け出し、目を走らせるボリス。遠くの入り口から黒い人影が外に出る。〉


従者ボリス「あそこに何者かが!」


〈城内でざわめく人々。危機を知らせるラッパを吹く近衛隊。お城のただならぬ様子が、城下町にも伝わり、おびえた表情で城の方を見るたみたち。〉


近衛隊長「門を閉めろ!何人たりとも外へ逃すな!」


〈逃げられぬよう、急ぎ、城の周りを守り固める近衛隊。〉



■ー城内 祝宴会場 王の席近く


〈立ち上がったままの王。王を守るために、周りを取り囲んでいる従者と近衛。民政大臣がやって来る。〉


民政大臣「お妃様とお姫様がお倒れになられました。何者かが毒を盛ったようです。今、近衛隊が全力で不審者を捜索しております」


王様「よいか、絶対、逃がすでないぞ!」


〈ざわめく客人達。「毒ですって!」「なんて怖い……」「いったい誰が?」と、顔を見合わせて、心配そうに言い合う。その中に、さらに心配顔のナタリーの姿。〉



■ー城 バルコニーのそば


〈壁際に立ちすくみ、震えている女官アイラ。文法ぶんぽう大臣が足早に来る。〉


文法大臣「何があった?」


女官アイラ「……〈震えてすぐに話せない〉」


文法大臣「女官アイラ!!」



■ー【女官アイラの回想 王妃殺害数分前】


【回想:〔華やかに着飾った人々がくつろぐ祝宴会場。ワインを給仕しているアイラ。一人の貴婦人のグラスに少し注ぐ。〕


貴婦人『〔香りを確かめて〕とても良いわ、これを』


〔アイラ、さらにグラスに注ぐ。その時、テーブルの上に横からトレイが置かれ、背後から静かな声がする。〕


何者か(声のみ)『王様からバルコニーへと』


女官アイラ(声のみ)『低い声でした。若い男の人のように思いましたが、振り向いた時には、もう誰もいなかったのです』


〔トレイの上には空のグラスが二つ。その隣に一本の瓶。バルコニーに目をやるアイラ。妃達の姿が見える。〕


女官アイラ(声のみ)『お二人にと思いました』


〔瓶の中の飲み物の匂いを嗅ぐアイラ。〕


女官アイラ(声のみ)『とても甘い香りでした。王様からなので大丈夫と思いましたが、念のため、お毒味をしなければと――』


〔テーブルの上のコップを一つ取り、瓶から少し注ぎ飲むアイラの姿。そして、グラスに注ぐ。〕】



■ー城内 バルコニーのそば


〈アイラが泣きながら文法大臣に説明している。〉


文法大臣「飲んだのか?」


女官アイラ「はい、木苺のジュースのような、とても美味しい飲み物でした」


文法大臣「なぜ、お前は平気だ?」


女官アイラ「〈悲鳴のように〉分かりません!まさか、こんなことに――ああ、どうしたら――〈座り込む〉」


文法大臣「どの瓶だ?」


女官アイラ「〈泣きながら、少し顔を上げ、指差し〉あれです……」


〈文法大臣、離れたテーブルの上にある、何の変哲もない瓶を見る。〉


文法大臣「確かか?」


〈頷くアイラ。〉


文法大臣「別室でもう少し詳しく話を聞こう。〈近くの従者に〉あの瓶を厳重に保管するように」


〈別の従者に抱えられるように連れていかれる女官アイラ。〉



第1話 ミレーネ姫の誕生日 終わり

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